巻き込まれた薬師の日常

白髭

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2A-調整と報酬

2A-09 使命と魔導師の垣根

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 ウィザーリングさんは、めでたく城郭都市の一員となった。魔導師ギルドの運営も今後はより協力的になるだろう。製品供給も安定するはずだ。加えてパラケル爺さんの指導もあり、今回の面会と情報共有は実に有意義だった。


「ギルド長。商会と工房共々、今後ともよろしくお願いします」
「レッド少年よ。加工も製造も任せてくれ。魔術師たちをうまくまとめて貢献したい。今後も会員として、より良い開発を頼むぞ」

「小僧。明日向こうで落ち合おう。ワシはもう少し職員を鍛えていくからな」
「わかりました。明日またお願いします。リンネ、行こう」
「はい、マスター」

 夕方の空はアルタ山脈に沈む太陽で赤く染まっていた。ここベンベルクからは、東にネル、そして西にアルタの二つの山脈が見える。その間に広がる魔の森は、氾濫が起きれば地形の影響で北か南へ漏れ出す。その封ずる南の地がベンベルク。ポーション生産を担う、魔導師ギルド長の立場は重要だ。

「魔導師ギルドの雰囲気が変わっていて驚いただろう」
「ウィザーリングさんがパール家の傘下に入ったのが大きいようですね」

 彼の意識が急に変わったのは、里から戻った後だった。何かしらの合意があったのだろう。パラケル爺さんが詳しいはずだ。明日、パール家からも話がある気がする。

「魔素量で言えば、ヘレナやエラスムスと同じくらい。魔力操作はそれなりね」
 ローセアが戻ってきて、肩に止まる。

「どこに行ってたの?」
「城郭都市に入ってから、ルプラと組んで捜索してたの。怪しい人物がいたからマジャリスに通報しておいた。エリス様に頼まれてたの。あんたの身辺警護よ。有能でしょう?」

「ありがとう。助かるよ」
「お礼はお酒でいいわ。魔素でもいいけど」

「つけ払いでよろしく」
「リンネ、レッドったらひどくない?一生懸命仕事してるのに」

「レッドさんですから。いつかまとめてくれると思います」

 街中でも警戒は必要だ。以前開発したレーダー魔法を再展開する。森では常時使っていたが、街ではノイズが多くて止めていた。今回は範囲を5mに絞る。魔力回路は強化され、魔力器官も拡大。魔力と物理の感知を併用できるようになった。リンネが常に付き添い、ローセアが隠れて監視してくれる。油断せずにいこう。

 ローセアとリンネに感謝しつつ、商人ギルドへ戻る。
「戻りました。あれ?マリンたちは?」

「ギルドを離れて、ベルナル商店に向かったわ。ギルドは閉めるところ。一緒に行きましょう」

 ギルドを施錠し、隣の商店へ。こちらも閉店作業中だった。
「おう、レッドか。もう閉めるから二階へ行ってくれ。今日は馳走だ」
「それでは、皆の再会を祝して、乾杯しよう」

 家長アゼルの音頭で祝杯が始まる。今いるのは長男と三男、それぞれの嫁、自分たち。次男と長男の子供は城郭都市にいるため、全員揃うのは難しい。

「遠慮なく食べてくれ。ネサンが張り切っていたからな」

 ネサンは商店の賄を担当する温和な女性。昔から働いてくれている。
「レッド坊ちゃまもマリン嬢様も、たくさん食べて大きくなってもらわないと。なかなか来てくれないからね」

 ハム、ソーセージ、茹でたソラーニ。シュニッツェル風の揚げ焼きカツに定番のシチュー。大人はエール、子供はウーヴァ果汁。

「今日は冒険者ギルドと魔導師ギルドに行ってきました。エリスさんの配慮で暫定ランクCからスタートです。リンネはDです」

「良く評価されたな。Cなら王都でも困らない」
「学院に行くまでにCまで上げるのが理想だな。暫定ということは、残っているのは対人討伐と護衛業務だな?」

「その通りです」
「テオフラス商会の設立は完了したぞ。レッドが会長で、パラケルが商会長。アウレオール商会とベルナル商会が出資。預かっていた金貨500枚もすでに出資済みだ。後は貴族の出方次第だ」

 ######
 テオフラス商会
 業務範囲:治癒軟膏の製造と周辺技術
 出資金:金貨1500枚
 商会長:レッド=ベルナル
 所属員:サルタン=ベルナル、パラケル=アウレオール
 出資者(現在):レッド=ベルナル、ベルナル商会、アウレオール商会
 ######


 自分の資産は開発によって大幅に増え、5000枚を超えている。ハイポーション処方の製造権譲渡が大きかった。販売ごとに金貨10枚が入る。備蓄用大甕の作成費、ポーション2000本の報酬で500枚。貴族からの報奨金はまだ未受領。サナーレウンゲン関連はまだ上市していない。

「運転資金として1000枚増額します。底浅瓶の支払いに充ててください」
「子供とはいえ、随分とため込んでいるな。商人見習いとは名ばかりで、商会並みの取引だな」

 商人ギルドの口座には、当面の生活に困らない金額がある。貴族の報酬にはそれほど執着していない。

「そういえば、リンネちゃん。鎮守の森はどうだったの?」
「マリンさま、この場では家人と同等に接するわけにはいきません」

「まあよいではないか。エルフとは良き隣人。レッドも従者として扱っていないのだろう?」
「はい、同行者として接しています。同じ立場で接したいと思っています」
「リンネさん、ゆっくり寛いで。ベルナル一族として扱うつもりだから。次男にも手紙で伝えておく」

「ありがとうございます。鎮守の森は精神魔法の防壁を三重に組み込んでいます。混乱・迷い・不安を誘う魔法です。魔の森の氾濫も、同士討ちで収まることが多く、魔獣を仕留める程度で済んでいます。最初の数年は大変だったようですが、今は脅威ではありません」

「結界と呼ばれる所以だな。そのせいで往来が制限される」
「元々、他部族との付き合いは最小限でした。セプテン王国との確執以降はさらに」

「技術供与の話で揉めたのだったな」
「アカシア王国は権利と制度がしっかりしています。かなり住み良くなりました」

「その分、制度に寄生する輩も多いがな」
「ここは職業意識が強い。特に魔導師関連は代々継がれている。長の采配をしているのも此奴らだ」
アゼル爺と、叔父が現状の不満を口にした。

「最初はパラケルさんが。次はレッドさんが風穴を開けるのを期待しているのですね?」
「そうだ。パラケルは刊行された二冊の書籍で、魔術・魔導師の領域から魔導具を取り上げた。公表されるまでは専門の魔導具師しか扱えなかったものだ。学会での発表と書籍の発行によって、一般の魔術師でも扱えるようになった。垣根を広げたのだよ」

「……それ以上の役割を自分に期待している、ということですね」

 界層主からの使命もある。[界上の賜物]として、思っていた以上に重く見られているようだ。その重さに背筋が思わず震えた。

「できるところからでいい。王都の魔術師たちを大いに刺激してくれ。ここ、城郭都市の魔導師ギルドにしてきたようにな」

「……役割があるなら、兄様が行ってしまうのは寂しいけど、我慢します」

 マリンがぽつりと呟く。その言葉に、胸が少し締めつけられる。

「できるだけ早めに帰ってくるよ」

 そう約束しながら、ウーヴァ水を口に運ぶ。話題は商売とギルドの話へと移っていった。大人たちの談笑は、穏やかに、そして力強く続いていく。

 自分はまだ少年だ。けれど、魔導具の開発、ポーションの処方、商会の設立、そしてギルドとの連携――そのすべてが、確かに自分の手で動き始めている。界上からの使命も、王都の動きも、すべてが繋がっていく。


 この夜の食卓は、ただの再会の場ではなかった。未来への布石が、静かに、そして確かに打たれていた。
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