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2C-幹果と油脂
2C-01 新たな商材への期待
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外に出ると、空は茜色に染まり、日が沈もうとしていた。私はリンネを伴い、母と共に家路を急いだ。
「もう、呼ばないと帰ってこないのは困るわね。次も迎えに行こうかしら?」
「気をつけます。パラケル爺さんとの議論に夢中になりすぎました」
「すみません、途中でレッドに声をかけておけばよかったです」
「リンネちゃんは気にしなくていいのよ。レッドはせっかく休みをもらったのに、結局ゆっくりしていないじゃない」
「パラケル爺さんと話すのが楽しくて、つい……」
「まあいいわ。これから家族で夕食を囲んで会議だから。楽しみにしていて」
「え? 何かありましたっけ?」
「それも食べながら話しましょう」
母は妙に上機嫌で笑った。
家に戻ると、父サルタンと妹マリンが夕食の準備を整えていた。
「さあ、レッドもリンネも帰ってきた。皆で食べよう」
「そうね。最近は出張続きで疲れたでしょう? こうして皆でゆっくり食べるのも久しぶりね」
食卓には定番のボアのシチューにパン、さらに城郭都市で仕入れたハムとソーセージが並ぶ。商人一家らしい手早さで食事は進むが、母ジーナが早速本題を切り出した。
「そういえばレッド、ずいぶん楽しそうじゃない。今度も面白いものを作るんでしょう? 期待しているわ」
「えっ? 薬のことですか? パラケル爺さんと試作中ですが」
「錬金のことじゃないの。お義父さんに頼んでいた物よ」
「レッド、錬金で楕円の型を作って説明していたのではないか」
「……爺様に貰ったトリニタの豆ですか? 中継貿易の品の」
「サルタンに聞いた限り、レッドが珍しく強請ったそうじゃない」
「試作はまだです。パラケル爺さんに聞いて、面白そうな商材だと思ったので。城郭都市の商人ギルドのサロンでも交易品リストに挙がっていました。アゼル爺が交易ルートを作ったとか」
ここにはマリンもいる。出所はパラケル爺さん由来にしておく。
父は頷き、地図を取り出して説明を始めた。マダガスタ島までの交易路、ベイノイ男爵領や港町ハーベイを経由する道程。セプテン王国での末端価格は金貨一枚に跳ね上がること。庶民には到底手が届かない高級品となる。
「ショコラトルという飲み物に使うそうですね」
「そうだ。黒い実を炒って粉にし、バニラと乳を混ぜて薬として飲むらしい」
薬としての価値は高いが、苦みが強く、用途は限られている。だが、自分の胸には新たな可能性が芽生えていた。
「兄様、何か思いついたのですか?」
マリンの呼び方が、いつの間にか“にーに”から“兄様”に変わっていた。家族の中での自分の立場が少しずつ変わっているのを感じた。
「そうだね。話を聞く限り、この実にはいろいろな可能性があると思うよ」
「母様が言っていたの。兄様ならおいしいものを作れるって」
「ジーナ母さん?」
「私はサルタンに聞いただけよ。レッドが爺様に強請るなんて珍しいから」
父も口を挟む。
「東から北に流すだけでは利鞘しか稼げん。だが加工できれば、利益は跳ね上がる。最終販売者の特権だ」
「……まずはショコラトルの味を再現してみます」
「そうだな。経験を教えておこう。外皮を剥ぎ、白い内皮を取り除くと、中に五十から六十の黒い種子がある。それを炒って香りを出し、殻を割って粉にする。だが苦みが強く、溶けも悪い。薬以上の価値は見いだせなかった」
「ちなみに、魔素を帯びたトリニタもあるのですか?」
「もちろんだ。現地では金貨一枚で取引される。『金のトリニタ』と呼ばれている」
金のトリニタ――。向こうでもカカオは神の食べ物と呼ばれていた。自分はどうしても、その効果に期待してしまうのだった。
「もう、呼ばないと帰ってこないのは困るわね。次も迎えに行こうかしら?」
「気をつけます。パラケル爺さんとの議論に夢中になりすぎました」
「すみません、途中でレッドに声をかけておけばよかったです」
「リンネちゃんは気にしなくていいのよ。レッドはせっかく休みをもらったのに、結局ゆっくりしていないじゃない」
「パラケル爺さんと話すのが楽しくて、つい……」
「まあいいわ。これから家族で夕食を囲んで会議だから。楽しみにしていて」
「え? 何かありましたっけ?」
「それも食べながら話しましょう」
母は妙に上機嫌で笑った。
家に戻ると、父サルタンと妹マリンが夕食の準備を整えていた。
「さあ、レッドもリンネも帰ってきた。皆で食べよう」
「そうね。最近は出張続きで疲れたでしょう? こうして皆でゆっくり食べるのも久しぶりね」
食卓には定番のボアのシチューにパン、さらに城郭都市で仕入れたハムとソーセージが並ぶ。商人一家らしい手早さで食事は進むが、母ジーナが早速本題を切り出した。
「そういえばレッド、ずいぶん楽しそうじゃない。今度も面白いものを作るんでしょう? 期待しているわ」
「えっ? 薬のことですか? パラケル爺さんと試作中ですが」
「錬金のことじゃないの。お義父さんに頼んでいた物よ」
「レッド、錬金で楕円の型を作って説明していたのではないか」
「……爺様に貰ったトリニタの豆ですか? 中継貿易の品の」
「サルタンに聞いた限り、レッドが珍しく強請ったそうじゃない」
「試作はまだです。パラケル爺さんに聞いて、面白そうな商材だと思ったので。城郭都市の商人ギルドのサロンでも交易品リストに挙がっていました。アゼル爺が交易ルートを作ったとか」
ここにはマリンもいる。出所はパラケル爺さん由来にしておく。
父は頷き、地図を取り出して説明を始めた。マダガスタ島までの交易路、ベイノイ男爵領や港町ハーベイを経由する道程。セプテン王国での末端価格は金貨一枚に跳ね上がること。庶民には到底手が届かない高級品となる。
「ショコラトルという飲み物に使うそうですね」
「そうだ。黒い実を炒って粉にし、バニラと乳を混ぜて薬として飲むらしい」
薬としての価値は高いが、苦みが強く、用途は限られている。だが、自分の胸には新たな可能性が芽生えていた。
「兄様、何か思いついたのですか?」
マリンの呼び方が、いつの間にか“にーに”から“兄様”に変わっていた。家族の中での自分の立場が少しずつ変わっているのを感じた。
「そうだね。話を聞く限り、この実にはいろいろな可能性があると思うよ」
「母様が言っていたの。兄様ならおいしいものを作れるって」
「ジーナ母さん?」
「私はサルタンに聞いただけよ。レッドが爺様に強請るなんて珍しいから」
父も口を挟む。
「東から北に流すだけでは利鞘しか稼げん。だが加工できれば、利益は跳ね上がる。最終販売者の特権だ」
「……まずはショコラトルの味を再現してみます」
「そうだな。経験を教えておこう。外皮を剥ぎ、白い内皮を取り除くと、中に五十から六十の黒い種子がある。それを炒って香りを出し、殻を割って粉にする。だが苦みが強く、溶けも悪い。薬以上の価値は見いだせなかった」
「ちなみに、魔素を帯びたトリニタもあるのですか?」
「もちろんだ。現地では金貨一枚で取引される。『金のトリニタ』と呼ばれている」
金のトリニタ――。向こうでもカカオは神の食べ物と呼ばれていた。自分はどうしても、その効果に期待してしまうのだった。
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