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2C-幹果と油脂
2C-03 錬金術の光と闇
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休みの日、二日目。自分はリンネと共にパラケル魔導具店へ向かった。鍵を開け、正面から入ると、甘ったるい芳香が鼻を突く。――バニラの香りだ。だがそれだけではない。魔素と酒精が混じり合い、空間に漂っている。わずかに苦みを帯びた香気に、頭がくらりと揺れた。鎮守の森で体験した精神作用のある魔素に近い。慌てて呼吸を整え、鼻腔から侵入する魔素を弾き飛ばす。
「リンネ! 匂いを嗅ぐな! 風魔法で換気だ!」
「は、はい!」
リンネが風を操り、店内に充満した魔素を追い出す。新鮮な空気が流れ込み、数分で危険な気配はすっかり薄れた。
「よし、もう大丈夫だ」
作業部屋に入ると、パラケル爺さんが作業台に突っ伏していた。
「爺さん! 大丈夫ですか!」
「パラケル様!」とリンネも駆け寄る。
だが、爺さんはムクリと頭を上げた。
「……寝ていただけか」
「びっくりさせないでくださいよ」
ただ眠っていただけらしい。だが、先ほどの魔素は一体何だったのか。
「おお、小僧か。嬢と一緒にデートか? やれやれ、寝てしまったか……」
「何を寝ぼけているんですか。この惨状は何です?」
蒸留装置が三基。素材の容器は放置され、魔素酒の陶器は転がり、完成品らしき瓶が並ぶ。そのうち一瓶は封が開いており、そこから魔素が漏れていたのだ。慌てて封を閉じる。幸い朝の冷気で拡散は最小限に抑えられていた。
「いやあ、楽しかったぞ。根を詰めて徹夜してしまった。最後はオフィキナールが尽きてな」
「やっぱり……嫌な笑顔をしていたから、徹夜すると思ってましたよ」
「レッドが来なかったらどうなっていたかしら」
リンネが呆れ顔をする。
「悪い悪い。追加の試験がいけなかったようだ」
「精神作用のある魔素が漂っていました。催眠効果でしょうか。今は換気しましたが」
「最後は眠気が強くてな。体力の限界を感じたわい」
「若くないのですから、無茶はやめてください」
「リンネ、嬢の方が年上ではないか?」
「エルフに年齢を聞くのは無粋です。だからエリスさんに配慮が足りないって言われるんですよ」
「はっはっは、それは否定できん」
軽口を叩く爺さんに、リンネはぷんぷんと怒る。だが、どうやら大事には至らなかったようだ。
「で、結果はどうでした?」
「成功だ。特級11本、一級5本、普及1本、劣化1本、不成立1本。途中までまとめておいた。確認してくれ」
実験記録を読み進める。希魔素酒を用いた試験は特級。純水では不成立。魔素水では普及。予測と結果を照らし合わせ、考察が残されていた。
「なるほど。結果を予測してから試すのは良いですね。純水では駄目、魔素水では不安定。やはり魔素酒が鍵ですね」
「そうだな。鑑定でも神酒と同じく『エリクシール』と出た。神酒でなくとも霊薬は作れる」
自分はexp-01の瓶を鑑定する。
【*エリクシール。通称:霊薬。特級。魔血を正し精を正常化。補虚効果100】
確かに神酒と同じ結果だ。だが、心の奥に引っかかりが残る。錬金術の根幹に関わる、もっとも基本的な気づきが抜け落ちている気がする……。
思考を巡らせていると、リンネが声を上げた。
「ねえ、レッド。あそこにある二本、物騒じゃない?」
視線を向けると、明確に分けられた瓶が二本。一本は自分が封をしたものだ。
【*モルテーム。通称:偽死薬。特級。過眠効果100。服用不可】
【*モルテーム。通称:偽死薬。劣化。過眠効果100。服用不可】
――これか! 先ほど空間に充満していたものは!
「偽死薬……恐ろしい名前ですね」
「最後に酒精濃度を上げたらどうなるか試したのだ。特級以上ができると思ったのだが、別物になってしまった」
爺さんは笑うが、リンネの目は冷ややかだ。
酒精が強すぎれば、有害な成分まで抽出される。眠りを誘う作用が強調され、治癒効果は消え失せる。服用不可とある以上、霧散させれば即眠を引き起こす危険な代物だ。
「悪用されかねません。記録は残しても、現物は廃棄すべきです」
「そうだな。結局、五~十%の酒精が最適だった。葡萄酒の濃度が至適ということだ」
爺さんは豪快に笑う。だがリンネは小声で呟いた。
「……パラケルを一人にすると危ないわね」
「妖精のルプラが付いている理由が分かった気がする」
そして、リンネの独り言が微かに耳に届いた。
「あなたもね」
……その忠告はあえて聞いていないふりをした。
*****
――パラケル師の手記。(抜粋)――
#霊薬試作##exp-01~19#オフィキナールを19に分割###
#霊薬試作##exp-01####
材料:薬材9種,希魔素酒5%
浸漬時間:1時間
抽出方法:蒸留40℃→70℃
保管:磁器瓶
結果予測:材料は可。溶液は優、割合は良、手法は良、操作は良で特級
鑑定結果:特級
#霊薬試作##exp-02####
材料:薬材9種,純水
浸漬時間:1時間
抽出方法:蒸留70℃→90℃
保管:磁器瓶
結果予測:材料は可。溶液は可、割合は可、手法は可、操作は可で不成立
結果:不成立
#霊薬試作##exp-03####
材料:薬材9種,魔素水
浸漬時間:1時間
抽出方法:蒸留70℃→90℃
保管:磁器瓶
結果予測:材料は可。溶液は良、割合は良、手法は良、操作は良で一級
結果:普級
#######
exp-01
【*エリクシール。通称:霊薬。特級。魔血を正し精を正常化。補虚効果100[古方薬経の方剤の一つ。補魔血効果100。9種の霊材による相乗効果]】
###exp-18###
【*モルテーム。通称:偽死薬。特級。過眠効果100[酒精80%。曼羅華、恋茄根酒精抽出物による中枢抑制。服用不可。9種の霊材による相乗効果]】
###exp-19###
【*モルテーム。通称:偽死薬。劣化。過眠効果100[酒精100%。曼羅華、恋茄根酒精抽出物による中枢抑制。苦味有。服用不可。9種の霊材による相乗効果]】
「リンネ! 匂いを嗅ぐな! 風魔法で換気だ!」
「は、はい!」
リンネが風を操り、店内に充満した魔素を追い出す。新鮮な空気が流れ込み、数分で危険な気配はすっかり薄れた。
「よし、もう大丈夫だ」
作業部屋に入ると、パラケル爺さんが作業台に突っ伏していた。
「爺さん! 大丈夫ですか!」
「パラケル様!」とリンネも駆け寄る。
だが、爺さんはムクリと頭を上げた。
「……寝ていただけか」
「びっくりさせないでくださいよ」
ただ眠っていただけらしい。だが、先ほどの魔素は一体何だったのか。
「おお、小僧か。嬢と一緒にデートか? やれやれ、寝てしまったか……」
「何を寝ぼけているんですか。この惨状は何です?」
蒸留装置が三基。素材の容器は放置され、魔素酒の陶器は転がり、完成品らしき瓶が並ぶ。そのうち一瓶は封が開いており、そこから魔素が漏れていたのだ。慌てて封を閉じる。幸い朝の冷気で拡散は最小限に抑えられていた。
「いやあ、楽しかったぞ。根を詰めて徹夜してしまった。最後はオフィキナールが尽きてな」
「やっぱり……嫌な笑顔をしていたから、徹夜すると思ってましたよ」
「レッドが来なかったらどうなっていたかしら」
リンネが呆れ顔をする。
「悪い悪い。追加の試験がいけなかったようだ」
「精神作用のある魔素が漂っていました。催眠効果でしょうか。今は換気しましたが」
「最後は眠気が強くてな。体力の限界を感じたわい」
「若くないのですから、無茶はやめてください」
「リンネ、嬢の方が年上ではないか?」
「エルフに年齢を聞くのは無粋です。だからエリスさんに配慮が足りないって言われるんですよ」
「はっはっは、それは否定できん」
軽口を叩く爺さんに、リンネはぷんぷんと怒る。だが、どうやら大事には至らなかったようだ。
「で、結果はどうでした?」
「成功だ。特級11本、一級5本、普及1本、劣化1本、不成立1本。途中までまとめておいた。確認してくれ」
実験記録を読み進める。希魔素酒を用いた試験は特級。純水では不成立。魔素水では普及。予測と結果を照らし合わせ、考察が残されていた。
「なるほど。結果を予測してから試すのは良いですね。純水では駄目、魔素水では不安定。やはり魔素酒が鍵ですね」
「そうだな。鑑定でも神酒と同じく『エリクシール』と出た。神酒でなくとも霊薬は作れる」
自分はexp-01の瓶を鑑定する。
【*エリクシール。通称:霊薬。特級。魔血を正し精を正常化。補虚効果100】
確かに神酒と同じ結果だ。だが、心の奥に引っかかりが残る。錬金術の根幹に関わる、もっとも基本的な気づきが抜け落ちている気がする……。
思考を巡らせていると、リンネが声を上げた。
「ねえ、レッド。あそこにある二本、物騒じゃない?」
視線を向けると、明確に分けられた瓶が二本。一本は自分が封をしたものだ。
【*モルテーム。通称:偽死薬。特級。過眠効果100。服用不可】
【*モルテーム。通称:偽死薬。劣化。過眠効果100。服用不可】
――これか! 先ほど空間に充満していたものは!
「偽死薬……恐ろしい名前ですね」
「最後に酒精濃度を上げたらどうなるか試したのだ。特級以上ができると思ったのだが、別物になってしまった」
爺さんは笑うが、リンネの目は冷ややかだ。
酒精が強すぎれば、有害な成分まで抽出される。眠りを誘う作用が強調され、治癒効果は消え失せる。服用不可とある以上、霧散させれば即眠を引き起こす危険な代物だ。
「悪用されかねません。記録は残しても、現物は廃棄すべきです」
「そうだな。結局、五~十%の酒精が最適だった。葡萄酒の濃度が至適ということだ」
爺さんは豪快に笑う。だがリンネは小声で呟いた。
「……パラケルを一人にすると危ないわね」
「妖精のルプラが付いている理由が分かった気がする」
そして、リンネの独り言が微かに耳に届いた。
「あなたもね」
……その忠告はあえて聞いていないふりをした。
*****
――パラケル師の手記。(抜粋)――
#霊薬試作##exp-01~19#オフィキナールを19に分割###
#霊薬試作##exp-01####
材料:薬材9種,希魔素酒5%
浸漬時間:1時間
抽出方法:蒸留40℃→70℃
保管:磁器瓶
結果予測:材料は可。溶液は優、割合は良、手法は良、操作は良で特級
鑑定結果:特級
#霊薬試作##exp-02####
材料:薬材9種,純水
浸漬時間:1時間
抽出方法:蒸留70℃→90℃
保管:磁器瓶
結果予測:材料は可。溶液は可、割合は可、手法は可、操作は可で不成立
結果:不成立
#霊薬試作##exp-03####
材料:薬材9種,魔素水
浸漬時間:1時間
抽出方法:蒸留70℃→90℃
保管:磁器瓶
結果予測:材料は可。溶液は良、割合は良、手法は良、操作は良で一級
結果:普級
#######
exp-01
【*エリクシール。通称:霊薬。特級。魔血を正し精を正常化。補虚効果100[古方薬経の方剤の一つ。補魔血効果100。9種の霊材による相乗効果]】
###exp-18###
【*モルテーム。通称:偽死薬。特級。過眠効果100[酒精80%。曼羅華、恋茄根酒精抽出物による中枢抑制。服用不可。9種の霊材による相乗効果]】
###exp-19###
【*モルテーム。通称:偽死薬。劣化。過眠効果100[酒精100%。曼羅華、恋茄根酒精抽出物による中枢抑制。苦味有。服用不可。9種の霊材による相乗効果]】
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