巻き込まれた薬師の日常

白髭

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幕間

幕間9 *神気のざわめき

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 私はアクティフォーリア様に仕える巫女、ルーナと申します。務めはアクティアの森に鎮座する教団総本山の社。この森は王都アカシアの東に広がる神域であり、主様の御意向次第では王命すら退けられる聖域です。

 幼き頃に教団へ入り、修練を積み、年少の時よりアクティフォーリア様に仕えてまいりました。今では十人の巫女を束ねる主事の職を仰せつかり、託宣に耐えうる三名のうちの一人として、主様の目となり、口となり、その御言葉を伝える役を担っています。

 その日、いつものように傍らに控えていると、主様の御様子がいつもと異なりました。
「ぬ! こ、これは!」
「アクティフォーリア様、どうなされましたか?」

 慌てて駆け寄る私たちに、主様は低く告げられました。
「龍脈の乱れ……神気の増大を感じ取った。新たな神格者が生まれた可能性がある」
「まあ! 神格者ですって……なんてめでたいことでしょう!」

 新たな神格者の誕生。神域に至る資格を持つ者が現れたのです。私は白き袖を高く掲げ、その吉兆を称えました。

「一瞬の神気を感じ取ったが、今は落ち着いている。方角と距離から見て……魔の森の南、ベンベルクという都市が該当するか」
「ベンベルクといえばパール領。トーマス辺境伯の治める城郭都市にございます。つい先日も氾濫があったと聞き及びます」

「うむ。あの一帯を司る主位格は蛇女テトラフィーラ。あ奴の神気にも似ていたが……どこかヘルメス様の御神気にも通じるものがあった」
「創造主ヘルメス様の御神気……なんと尊き日でしょう!」

 しかし主様は眉をひそめられました。
「また魔の森か。三国境に近いのが厄介だ。周辺の主位格は領域侵犯を警戒し、ざわめくだろう」
「それは不穏にございます。アクティフォーリア様のお力をお借りできますでしょうか」

「妾から通知を出そう。お前らの領主にも必要だろう」
 侍女フェデリカに命じ、書き付けを用意させる。

「ウルギネアは遠い、まず騒ぎは起きまい。セプテン、アクミナにはお前たちから知らせよ。北の連中も招集し、意見を交わすとしよう。ヘルメス様にも問いたいことがある」

 私は深く頭を垂れました。
「直接のご招集を賜るとは……ありがとうございます」

 主様はさらに言葉を続けられました。
「……界上の賜物の件か。奴が来て半年ほど。まだ影響を及ぼすには早い。憑依されたのは少年だろう? よほどの指導者がいなければ難しい」

「良き指導者……主位テトラフィーラ様はいかがでしょう」
「奴は神格者。龍脈の安定に追われ、直接の教授は控えるだろう」

 私は決意を固めました。
「フェデリカ、これを携え王都へ……いえ、私が直接報告に参ります。主様の御言葉を賜った者の義務にございます」

「うむ。頼んだぞ」


 こうして私は王都へ向かいました。宰相ランベール様、辺境伯トーマス様、宮廷魔導師シュヴァイツェル様が同席する場で、アクティフォーリア様の託宣を伝えます。

 宰相は即座に理解された。
「新たな神格者の反応だな。周辺の主位格が騒ぐゆえ注意せよ。正位様は騒乱を望まれぬ。我が王も同じ。領主には釘を刺し、二か国への通知は我が国が担う」

 トーマス辺境伯は言った。
「界上の賜物、レッド=ベルナルの仕業かと。以前に主位テトラフィーラ様から便宜を受けたとの報告もある。蛇の杖を持っていたと聞く」

 シュヴァイツェル様は「ヒュギエイアの杯」なる名を口にされたが、学術的な話は後日に回されました。

 結論として、レッド=ベルナルの仕業と見做し、観察を続けることとなりました。国としては静観の構え。私は教団として神気の残滓を調査する許可を得ました。

「ベンベルクでなければ、鎮守の森界隈のホーミィー村を重点的に調査せよ」との助言も受け、便宜を図る手紙を託されたのです。

 社へ戻り、主様に国の方針を伝えました。冬の行事を終え、春を待ち、私は神気の残滓を追う旅へと出立することとなりました。
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