23 / 27
番外編
エイベルの穏やかな日常
しおりを挟む
キャロンと同じ家に帰るという日常がちゃんと日常になりつつあったそんなある日。
俺ことエイベル・ロッカは晩ご飯の当番だったのでせっせとカレーを作っていた。
「エイベル、何か手伝うか?」
当番制だというのにいつも気遣い手伝ってくれようとするキャロンを見て思わず顔が綻ぶ。
“キャロンって俗にいうスパダリってやつだよな⋯!”
いつも俺の背中を押し、公私ともにフォローしてくれる。
しかも有言実行で帝都への転属をしっかり達成し、エリートと言われる騎士団本部勤務。
多少口煩いところも、全て俺の為を想ってのことで。
“キャロンにお説教されるとそれだけ心配してくれてるんだなって愛を感じるし⋯”
そんな自慢の恋人に、俺だってなんでもしたくって。
「大丈夫!これは俺が持ってくから!」
「は?も、持ってく!?待てエイベル、カレーライスというのは鍋ごとルーを机に置くものではないと認識している!」
「美味しく出来たんだ、キャロンにいっぱい食べて貰いたいなぁ~!」
「聞けエイベル!!そして鍋を置け!いや違う机に置くんじゃなくてだなっ、よそってから!ライスによそってから持ってくるんだいや俺が取りに行くから!」
「あ、鍋敷きだけ置いてくれる?」
「どこにだ!?頭か!顔か!?」
「えぇ~?おかしなキャロン!机に決まってるだろ?」
この新生活に浮かれているのだろうか、テンションの高いキャロンに俺まで浮き足だってしまう。
うきうきとした気持ちで俺が一歩進む度にハラハラするのかどこか不安そうな表情を向けるキャロンが可笑しい。
“俺のこと心配しすぎでしょ。過保護だなぁ⋯!”
それもこれも彼からの愛ゆえだと知っているからこその喜びが俺の胸を占めた。
じわりと広がるこの気持ちをきっと“幸せ”と呼ぶのだろう。
「すぐ行くね~!」
「いい!頼む止まれ動くな!絶対ひっくり返すから!!せめて歩け、スキップをするな!!!」
俺にはもったいないくらいのスパダリな恋人。
それがキャロン・クラレンスという男なのである。
「いや、スパダリではないだろ」
「は?」
「ノロケ聞かされるのかなぁとか思ったら、なんか不憫な話じゃねぇ?」
「ふっ、不憫!?」
魔法塔の同じ研究室で研究している先輩である、サンドリ先輩にさらっと告げられた俺は、作業の手だけは止めないように気をつけながら話を続けた。
ちなみに魔法塔は同じ研究室にいても個人個人の研究になる。
割り当てられたスペースが同じというだけで、今俺が研究しているのはここに転属することになったキッカケでもある『強化魔法』を無機物にかけ続ければ何かしらの変化があるのかどうか、という事だ。
“これならうっかり魔法が漏れて近くの人にかけてしまっても強化されるだけだし被害は出ない⋯!”
「だってさぁ、てかエイベルにとってのスパダリって何よ」
「だからキャロンの事だって」
「聞きたいのは固有名詞じゃない」
「気遣いが出来て、フォローも出来て、仕事も出来るし家事だって何でもできる!」
「そのスパダリとお前の彼氏はイコールじゃない」
「イコールじゃない⋯っ!?」
驚愕する俺の横で重力魔法で真空を作り、その中でどれだけごみ袋を伸ばすことが出来るかを実験しているサンドリ先輩はその手を止めずに話を続けた。
「気遣いって説教されてるだけじゃねぇか。フォローはまぁフォローだが、主にエイベルのトラブルの後始末だろ?仕事はお前の方が早く出世したし、家事は⋯聞いてたら鍋敷き頭に被るってなんだよ。その発想になるところがこれまでの事件が垣間見えて涙が出そうだ」
「う⋯っ!」
“そ、そうなのか⋯?”
俺はスパダリキャロンに愛されてなんて幸せなんだと日々感謝していたのに、周りからはちょっと運が悪い恋人に振り回されて不憫なキャロン⋯だと思われていただなんて想定外で。
「⋯おい、エイベル強化魔法漏れてる」
「そんな事って⋯」
「そんな事ある。漏れてる。頼む重力魔法はかなり繊細なんだ俺を強化しないでくれ⋯っ!」
「キャロンも、自分の事を可哀想だとか思ってると思いますか⋯!?」
「アーーッ!⋯俺は強くなった俺が可哀想だと思ってるよ⋯」
「⋯?」
“先輩もスパダリを目指してたのかな⋯?”
気落ちした先輩を横目に見ながら再び自身の研究に向き合うが、その日の午後はあまり集中が出来なかった。
“――もしキャロンもそんな風に感じてたら⋯”
そう思うといてもたってもいられなくて。
“もう不憫だなんて言わせない、俺が足を引っ張らなければキャロンはスパダリなんだから!!”
だから、俺はー⋯
「キャロン!俺は自立する⋯!」
「は?」
心配させたり説教させたり後始末させたり。
そんな事をさせないようにとの決意を込めてそう言ったつもりだったのだが、俺の言葉を聞いたキャロンは明らかに苛立っていて。
“や、やっぱりキャロン、相当ストレス溜めてたのかな⋯っ”
いつものように背中を押してくれると思っていたからこそ、苛立つキャロンに戸惑った。
そんなオロオロしている俺に気付いたのか、大きなため息を吐いたキャロンは。
「⋯自立って、なんだ?」
「あ、⋯え?あぁ!その、今って俺キャロンに助けて貰ってばかりだからさ」
「⋯⋯⋯。」
「だから、1人でなんでも出来るようになりたいんだ」
キャロンの足を引っ張らないように。
せめて彼と堂々と並べるように。
「それは、俺がどれだけそのままでいいと言っても、俺もエイベルに助けられていると言ってもか?」
ぽつりと告げられるキャロン言葉を聞き、少し思案する。
しかし俺の考えは変わらない。
――どんなにキャロンが言ってくれたとしても、俺は誰の前でも胸を張って『俺がキャロンの恋人だ』って言いたいから。
だから俺は、キャロンの言葉に頷いた。
「うん」
俺の返事を聞いたキャロンは、もう一度小さくため息を吐いて、そして小さな笑いを漏らす。
「エイベルは決めたら真っ直ぐだもんな⋯」
いつもそうやって、なんだかんだ最後は俺の意思を優先させてくれるキャロンに俺は甘えているのだろう。
“ごめんねキャロン、でも俺⋯”
「キャロンの自慢の恋人にー⋯」
「だが却下」
「だが却下!!!」
その想定外の答えに俺はぽかんと口を開けた。
「え、え?いやあの、俺⋯」
「どうしても俺を説得したければメリットとデメリットを提示しろ」
「ひょえっ」
トントンと人差し指で机を叩いたキャロンを見て慌てて座る。
“メリットとデメリットの提示⋯?”
「メリットは、その⋯転けたり滑ったりしなくなれば、キャロンが巻き込まれて怪我をすることもないよ!」
「それはつまりエイベルを助ける権利を俺から奪うということだ。デメリットだ却下」
「え、えぇ⋯っ!?」
さっくり言い返されて戸惑う。
「いつも完璧だったら、キャロンだって楽になるはずだし⋯」
「エイベルだけに頑張らせろと?俺と過ごしている時は気楽でいて欲しいというのが俺の望みなのにか?」
「うぅ⋯、で、でも⋯っ!キャロンはスパダリなのに不憫な恋人って思われてるんだよ!?」
「はぁ?」
“だっていつも誰よりも格好いいキャロンが、俺のせいでそんな評価をされてるなんて嫌なんだ⋯!”
それが俺の本音であり本心だった、のだが。
「お前は俺がスパダリじゃなかったらもう好きじゃないのか?」
「はいっ!?そんなことないけどっ!?」
「俺を不憫だと思ってるのはエイベルなのか?」
「思ってないよ!!」
「⋯俺が付き合ってるのは誰だ?」
“キャロンが付き合ってるのは⋯”
「俺、だね⋯?」
「なら今のままの何が問題なんだ。そもそも俺はスパダリじゃない、自分でも不憫だと思っている」
「――ッ!」
“そ、そうなんだ⋯”
言われた言葉が胸にずしっと来る。
その重さが辛く思わず俺は俯いてしまって。
「ー⋯どう考えても不憫だろ?やっとまた一緒にいられるようになったのに最愛の恋人が離れようとしてるんだから」
「あ⋯え?」
「重ねるが俺はスパダリじゃない。俺はただお前が好きなだけの男だろ」
「そんな、こと⋯」
「あるだろう。なぁエイベル、俺は周りにどう思われてるかじゃなく、お前がどう思ってるのかが知りたい。今のままのキャロン・クラレンスではだめなのか?」
「ダメじゃない⋯っ!」
諭すように重ねられる言葉達が、じわりと俺の心に染み込むように馴染み軽くしてくれる。
「俺も同意見だ、今のままのエイベル・ロッカを愛してる」
「キャロン⋯っ!!!」
“ここで『愛』とかさらって言えるところがスパダリぃ~!!”
なんて内心思うが、それを口に出してはいけないと流石に察した俺は、それでもこの沸き上がる気持ちを抑えきれず目の前のキャロンに飛び付こうとし⋯
「う、うわっ!?」
目の前の机に上半身が引っ掛かりべしゃっと張り付くように転けた俺は、その勢いのまま後ろ足で椅子を蹴ってしまって。
ガタンと大きな音を立てた椅子がひっくり返ると、何故かその先に置いてあったホウキにぶつかり、テコの原理を発動。
大きな弧を描くようにホウキが下から弾いたのは、明日の昼ごはんにパンをつけて食べようと思っていた昨日のカレールーが入ったお鍋だった。
空を舞うお鍋は、まるでスローモーションのように三回転半の大技を決め、べしゃりと机に乗っかったままだった俺を起こそうと立ち上がったキャロンに頭から被さる。
「どういう力が発揮したらこうなるんだ⋯」
「ひょえっ!」
ハッとした時には、たらりと滴るルーを纏ったキャロンがそこにいた。
「ルーも滴るいい男⋯って事に⋯」
「ならん!」
次はシャンプーハットみたいな形状の鍋敷きを研究すべきかもしれない、なんて何故か冷静に目の前の光景を眺めてしまった俺に降ってきたのは、呆れたため息ではなくキャロンの小さな笑い声だった。
「火にかける前でラッキーだったな」
“ラッキー⋯”
流石に頭からルーが垂れれば怒ってもいいはずなのに。
まさに今不憫な姿になってるはずなのに。
“世間のスパダリとは違うのかもしれないけど、やっぱり俺にとってはスパダリだよな⋯”
必要なのは自立ではなく、きっとどんな自分も認めて向き合う事なのだとそう教えられた気がして少しくすぐったい気持ちになる。
「とりあえず風呂だな。明日の昼は明日考えるか」
さっと立ち上がりお風呂場に向かおうとするキャロンに並んで一緒に歩く。
「?どうした、エイベルにもカレー飛んだか?」
「ううん、でもキャロンにルーをかけちゃったのは俺の責任だからさ⋯」
きっと大事なのはみんなに堂々と恋人だと言い張れる自分ではなく、大切な人と並び、大切な人と向き合える正直な自分なのだろう。
「責任を取って、俺が洗うねっ!」
俺の言葉を聞いたキャロンは、一瞬きょとんとし、そしてすぐに破顔する。
「⋯洗うだけか?」
「⋯お風呂では」
「なるほど、楽しみだ」
素直になったその後に与えられるのは、愛おしい人と過ごす穏やかな時間なのだから。
俺ことエイベル・ロッカは晩ご飯の当番だったのでせっせとカレーを作っていた。
「エイベル、何か手伝うか?」
当番制だというのにいつも気遣い手伝ってくれようとするキャロンを見て思わず顔が綻ぶ。
“キャロンって俗にいうスパダリってやつだよな⋯!”
いつも俺の背中を押し、公私ともにフォローしてくれる。
しかも有言実行で帝都への転属をしっかり達成し、エリートと言われる騎士団本部勤務。
多少口煩いところも、全て俺の為を想ってのことで。
“キャロンにお説教されるとそれだけ心配してくれてるんだなって愛を感じるし⋯”
そんな自慢の恋人に、俺だってなんでもしたくって。
「大丈夫!これは俺が持ってくから!」
「は?も、持ってく!?待てエイベル、カレーライスというのは鍋ごとルーを机に置くものではないと認識している!」
「美味しく出来たんだ、キャロンにいっぱい食べて貰いたいなぁ~!」
「聞けエイベル!!そして鍋を置け!いや違う机に置くんじゃなくてだなっ、よそってから!ライスによそってから持ってくるんだいや俺が取りに行くから!」
「あ、鍋敷きだけ置いてくれる?」
「どこにだ!?頭か!顔か!?」
「えぇ~?おかしなキャロン!机に決まってるだろ?」
この新生活に浮かれているのだろうか、テンションの高いキャロンに俺まで浮き足だってしまう。
うきうきとした気持ちで俺が一歩進む度にハラハラするのかどこか不安そうな表情を向けるキャロンが可笑しい。
“俺のこと心配しすぎでしょ。過保護だなぁ⋯!”
それもこれも彼からの愛ゆえだと知っているからこその喜びが俺の胸を占めた。
じわりと広がるこの気持ちをきっと“幸せ”と呼ぶのだろう。
「すぐ行くね~!」
「いい!頼む止まれ動くな!絶対ひっくり返すから!!せめて歩け、スキップをするな!!!」
俺にはもったいないくらいのスパダリな恋人。
それがキャロン・クラレンスという男なのである。
「いや、スパダリではないだろ」
「は?」
「ノロケ聞かされるのかなぁとか思ったら、なんか不憫な話じゃねぇ?」
「ふっ、不憫!?」
魔法塔の同じ研究室で研究している先輩である、サンドリ先輩にさらっと告げられた俺は、作業の手だけは止めないように気をつけながら話を続けた。
ちなみに魔法塔は同じ研究室にいても個人個人の研究になる。
割り当てられたスペースが同じというだけで、今俺が研究しているのはここに転属することになったキッカケでもある『強化魔法』を無機物にかけ続ければ何かしらの変化があるのかどうか、という事だ。
“これならうっかり魔法が漏れて近くの人にかけてしまっても強化されるだけだし被害は出ない⋯!”
「だってさぁ、てかエイベルにとってのスパダリって何よ」
「だからキャロンの事だって」
「聞きたいのは固有名詞じゃない」
「気遣いが出来て、フォローも出来て、仕事も出来るし家事だって何でもできる!」
「そのスパダリとお前の彼氏はイコールじゃない」
「イコールじゃない⋯っ!?」
驚愕する俺の横で重力魔法で真空を作り、その中でどれだけごみ袋を伸ばすことが出来るかを実験しているサンドリ先輩はその手を止めずに話を続けた。
「気遣いって説教されてるだけじゃねぇか。フォローはまぁフォローだが、主にエイベルのトラブルの後始末だろ?仕事はお前の方が早く出世したし、家事は⋯聞いてたら鍋敷き頭に被るってなんだよ。その発想になるところがこれまでの事件が垣間見えて涙が出そうだ」
「う⋯っ!」
“そ、そうなのか⋯?”
俺はスパダリキャロンに愛されてなんて幸せなんだと日々感謝していたのに、周りからはちょっと運が悪い恋人に振り回されて不憫なキャロン⋯だと思われていただなんて想定外で。
「⋯おい、エイベル強化魔法漏れてる」
「そんな事って⋯」
「そんな事ある。漏れてる。頼む重力魔法はかなり繊細なんだ俺を強化しないでくれ⋯っ!」
「キャロンも、自分の事を可哀想だとか思ってると思いますか⋯!?」
「アーーッ!⋯俺は強くなった俺が可哀想だと思ってるよ⋯」
「⋯?」
“先輩もスパダリを目指してたのかな⋯?”
気落ちした先輩を横目に見ながら再び自身の研究に向き合うが、その日の午後はあまり集中が出来なかった。
“――もしキャロンもそんな風に感じてたら⋯”
そう思うといてもたってもいられなくて。
“もう不憫だなんて言わせない、俺が足を引っ張らなければキャロンはスパダリなんだから!!”
だから、俺はー⋯
「キャロン!俺は自立する⋯!」
「は?」
心配させたり説教させたり後始末させたり。
そんな事をさせないようにとの決意を込めてそう言ったつもりだったのだが、俺の言葉を聞いたキャロンは明らかに苛立っていて。
“や、やっぱりキャロン、相当ストレス溜めてたのかな⋯っ”
いつものように背中を押してくれると思っていたからこそ、苛立つキャロンに戸惑った。
そんなオロオロしている俺に気付いたのか、大きなため息を吐いたキャロンは。
「⋯自立って、なんだ?」
「あ、⋯え?あぁ!その、今って俺キャロンに助けて貰ってばかりだからさ」
「⋯⋯⋯。」
「だから、1人でなんでも出来るようになりたいんだ」
キャロンの足を引っ張らないように。
せめて彼と堂々と並べるように。
「それは、俺がどれだけそのままでいいと言っても、俺もエイベルに助けられていると言ってもか?」
ぽつりと告げられるキャロン言葉を聞き、少し思案する。
しかし俺の考えは変わらない。
――どんなにキャロンが言ってくれたとしても、俺は誰の前でも胸を張って『俺がキャロンの恋人だ』って言いたいから。
だから俺は、キャロンの言葉に頷いた。
「うん」
俺の返事を聞いたキャロンは、もう一度小さくため息を吐いて、そして小さな笑いを漏らす。
「エイベルは決めたら真っ直ぐだもんな⋯」
いつもそうやって、なんだかんだ最後は俺の意思を優先させてくれるキャロンに俺は甘えているのだろう。
“ごめんねキャロン、でも俺⋯”
「キャロンの自慢の恋人にー⋯」
「だが却下」
「だが却下!!!」
その想定外の答えに俺はぽかんと口を開けた。
「え、え?いやあの、俺⋯」
「どうしても俺を説得したければメリットとデメリットを提示しろ」
「ひょえっ」
トントンと人差し指で机を叩いたキャロンを見て慌てて座る。
“メリットとデメリットの提示⋯?”
「メリットは、その⋯転けたり滑ったりしなくなれば、キャロンが巻き込まれて怪我をすることもないよ!」
「それはつまりエイベルを助ける権利を俺から奪うということだ。デメリットだ却下」
「え、えぇ⋯っ!?」
さっくり言い返されて戸惑う。
「いつも完璧だったら、キャロンだって楽になるはずだし⋯」
「エイベルだけに頑張らせろと?俺と過ごしている時は気楽でいて欲しいというのが俺の望みなのにか?」
「うぅ⋯、で、でも⋯っ!キャロンはスパダリなのに不憫な恋人って思われてるんだよ!?」
「はぁ?」
“だっていつも誰よりも格好いいキャロンが、俺のせいでそんな評価をされてるなんて嫌なんだ⋯!”
それが俺の本音であり本心だった、のだが。
「お前は俺がスパダリじゃなかったらもう好きじゃないのか?」
「はいっ!?そんなことないけどっ!?」
「俺を不憫だと思ってるのはエイベルなのか?」
「思ってないよ!!」
「⋯俺が付き合ってるのは誰だ?」
“キャロンが付き合ってるのは⋯”
「俺、だね⋯?」
「なら今のままの何が問題なんだ。そもそも俺はスパダリじゃない、自分でも不憫だと思っている」
「――ッ!」
“そ、そうなんだ⋯”
言われた言葉が胸にずしっと来る。
その重さが辛く思わず俺は俯いてしまって。
「ー⋯どう考えても不憫だろ?やっとまた一緒にいられるようになったのに最愛の恋人が離れようとしてるんだから」
「あ⋯え?」
「重ねるが俺はスパダリじゃない。俺はただお前が好きなだけの男だろ」
「そんな、こと⋯」
「あるだろう。なぁエイベル、俺は周りにどう思われてるかじゃなく、お前がどう思ってるのかが知りたい。今のままのキャロン・クラレンスではだめなのか?」
「ダメじゃない⋯っ!」
諭すように重ねられる言葉達が、じわりと俺の心に染み込むように馴染み軽くしてくれる。
「俺も同意見だ、今のままのエイベル・ロッカを愛してる」
「キャロン⋯っ!!!」
“ここで『愛』とかさらって言えるところがスパダリぃ~!!”
なんて内心思うが、それを口に出してはいけないと流石に察した俺は、それでもこの沸き上がる気持ちを抑えきれず目の前のキャロンに飛び付こうとし⋯
「う、うわっ!?」
目の前の机に上半身が引っ掛かりべしゃっと張り付くように転けた俺は、その勢いのまま後ろ足で椅子を蹴ってしまって。
ガタンと大きな音を立てた椅子がひっくり返ると、何故かその先に置いてあったホウキにぶつかり、テコの原理を発動。
大きな弧を描くようにホウキが下から弾いたのは、明日の昼ごはんにパンをつけて食べようと思っていた昨日のカレールーが入ったお鍋だった。
空を舞うお鍋は、まるでスローモーションのように三回転半の大技を決め、べしゃりと机に乗っかったままだった俺を起こそうと立ち上がったキャロンに頭から被さる。
「どういう力が発揮したらこうなるんだ⋯」
「ひょえっ!」
ハッとした時には、たらりと滴るルーを纏ったキャロンがそこにいた。
「ルーも滴るいい男⋯って事に⋯」
「ならん!」
次はシャンプーハットみたいな形状の鍋敷きを研究すべきかもしれない、なんて何故か冷静に目の前の光景を眺めてしまった俺に降ってきたのは、呆れたため息ではなくキャロンの小さな笑い声だった。
「火にかける前でラッキーだったな」
“ラッキー⋯”
流石に頭からルーが垂れれば怒ってもいいはずなのに。
まさに今不憫な姿になってるはずなのに。
“世間のスパダリとは違うのかもしれないけど、やっぱり俺にとってはスパダリだよな⋯”
必要なのは自立ではなく、きっとどんな自分も認めて向き合う事なのだとそう教えられた気がして少しくすぐったい気持ちになる。
「とりあえず風呂だな。明日の昼は明日考えるか」
さっと立ち上がりお風呂場に向かおうとするキャロンに並んで一緒に歩く。
「?どうした、エイベルにもカレー飛んだか?」
「ううん、でもキャロンにルーをかけちゃったのは俺の責任だからさ⋯」
きっと大事なのはみんなに堂々と恋人だと言い張れる自分ではなく、大切な人と並び、大切な人と向き合える正直な自分なのだろう。
「責任を取って、俺が洗うねっ!」
俺の言葉を聞いたキャロンは、一瞬きょとんとし、そしてすぐに破顔する。
「⋯洗うだけか?」
「⋯お風呂では」
「なるほど、楽しみだ」
素直になったその後に与えられるのは、愛おしい人と過ごす穏やかな時間なのだから。
2
あなたにおすすめの小説
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる