【R18】その言葉には、もう乗りませんッ!

春瀬湖子

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第二章・護衛令嬢、出稼ぎにいく

17.アンコールという幕開け

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「幕を! 下ろしたんですよね!?」
「あぁ、私財はカジノで稼ぎつつ地下カジノの摘発で褒美も出たからな」
「なら! これでオールクリアじゃないですか!?」

 完全に全てが解決したつもりでいた私は、全然笑っていない笑顔で私の腕をぐいぐい引っ張るフレン様にかなり焦っていた。

“この先にはフレン様のベッドしかないんだけど!”

 力で捩じ伏せるのは正直簡単だ。
 
 けれど、何故連れ込まれそうになっているのかもわからないせいで拒絶することにも躊躇われてしまって。


「オリアナはわかってない」
「は、はぁ?」
「全っ然! オールクリアじゃない!」
「えぇっ」

 キッと睨むように私を見たフレン様は、そのまま私をベッドに座らせフレン様も隣に腰かけた。

 
「……抵抗、なんでしなかったんだ」
「はい?」
「胸! なんで揉ませたのかって聞いているんだ」
「え、えぇっ」

“別に好きで揉ませた訳じゃないんですけどっ”

 何故こんなにグイグイ来るのかわからず戸惑っていると、途端にフレン様が大きくため息を吐いて項垂れてしまって。


「……俺は嫌だった」
「はぁ」
「何のためにオリアナを男装させたと思ってるんだ」
「そう言われましても」

 嫌だと言われても、あの状況で変に抵抗するほうがフレン様へ危険が及ぶ可能性が高い。
 別に胸を触られるくらい、我慢出来ないこともなくて……

「あれ」
「?」

 ため息を吐いたままベッドに背中から倒れ込んだフレン様が、私の様子に気付きこちらへ視線を投げた。

 
“我慢できないこともなけど、気持ち悪かったかも?”

 触れられた時に全身を巡った嫌悪感。
 ぞわりと鳥肌が立ち、心の底から気持ち悪いと感じたけれど。

「……フレン様に触られた時は気持ち悪くはなかったのに」
「えっ」

 突然触るという行為だけを見ればぶっちゃけフレン様も同罪で。

 そして勝手に触ったことに文句を言いながら腕を捻りあげたことも記憶に新しいけれど。

“子爵に触られた時に感じた気持ち悪さ、なんでフレン様には感じなかったんだろう”


 単純に初めてじゃなかったからかとも思ったが、子爵だってあの時二回触れ、そして二回とも気持ち悪いと感じた。

 フレン様とは最後までシてしまったからかとも考えるが、はじめてじゃないという意味ではどちらも同じに感じ――


「それ、本当か?」
「へ?」

 隣で寝転がっていたフレン様が軽く体を起こし、ベッドについていた私の手にそっと自身の手を重ねてきて。

「俺を特別って言ってるように聞こえんだけど」
「え、え?」

“と、特別って言われても”

 私を真っ直ぐ射貫くようにピンクの瞳と視線が絡む。
 それだけなのに、何故だかそわそわとし目を逸らしたくてたまらない。

 
「私はその、ただ子爵が気持ち悪かったって言ってるだけでっ」
「俺は気持ち悪くなかった、とも言ったぞ」
「それはその……!」

“ど、どうしよう”

 いつにも増して落ち着かず、じわりと汗が滲む。

“というか、そもそも主のベッドに座ってることがおかしいのよ!”

 ハッとした私はこれ幸いと慌てて立ち上がろうとしたのだが、握られていた手に力を込められ立ち上がることは許されなくて。


「オリアナ」
「あ、あぅ……」

 ゆっくりとフレン様の顔が近付く。
 顔を逸らしたいのに、まるで硬直したように動けない。

“このままじゃ……!”

 バクバクと早鐘を打つ心音が部屋中に響いているようにすら感じ――

  
「俺は割りと優良物件だと自負している」
「……へ、へぁ……」


 勝手に口付けられると思っていたせいで変な声が出た。

「まず身持ちが固いし」
「エロマンスの王子なのにですか」
「その通称は未許可だ」

“え、な、なに?”

「自分でちゃんと稼げるし」
「勝ったの私だった気がしますが」
「……その分はちゃんと後で渡すつもりだった」
「いえ、元手はフレン様ですしいりませんが」

 何が言いたいのかいまいちわからないが、フレン様があまりにも真剣な顔をしていて。

「確かにちょっと恨まれて暗殺者がしょっちゅう来るんだが」
「それは大問題ですよね」
「けど、オリアナがいる」

 キッパリと断言されると、信頼されているようでくすぐったい。

“この信頼は私の力に対してだってわかってるけど”

 それでも嬉しいと感じてしまう心は本物だった。


「えーっと、それで次はなんですか?」

 いつも何故か自信満々のフレン様が少し言いにくそうにしているように見え、軽く促してみる。

“話したくないなら話さなくてもいいんだけど”

 けれど、なんでか話したいように見えたから。


 あんなに逸らしたいと思ったフレン様の顔を覗き込むと、熱を孕んだようなピンクの瞳が少し揺れていて。


「だからさ、俺と結婚しよう」
「ッ」

 真っ直ぐ紡がれるその言葉にドキリと心臓が跳ねた。
  
「それはその、責任を取ってってやつですか?」
「俺がオリアナを好きだからだよ」
「わ、私のどこが?」

 好かれるようなことをした記憶はなく、どちらかと言えば無礼な部下である自覚すらある。

 社交事情にも疎く、気が利いた言葉だって言えない。

 筋肉と戦闘力は自慢だが、それはフレン様のためにつけた力ですらなくて。

“なのに、なんで……”

 
「欲しいと思ったんだよ」
「欲しい?」
「一生懸命兄上に好かれたくて努力したんだなって思ったし、健気だなって思った」

“貴族令嬢としてアウトな振る舞いしかしなかったのに”

「その気持ちが、俺に向いたらいいなって思ったし、兄上に対して初めて羨ましいって思ったよ」

 正直あの日は辛くて、意味がわからなくて、全てが無駄だったんだって絶望が私を占めていたけれど。

“そんな風に思ってくれてたんだ”

 ポツリポツリと紡がれる言葉が、今はあまり痛まなくなった傷痕にじわりと染み込むようだった。


「遠慮なく何でも話すところも可愛いと思ってる」
「失礼なだけでは?」
「ははっ、そうかもな。でも俺はそれが嬉しい」

 私としては反省するべき点でしかない部分で、どう考えても欠点。
 
 そんなマイナスな部分すら喜んでくれる彼は、もしかしたらそれだけ一人に慣れ、信頼できる人が少なかったのかもしれないとそう思った。

 そしてもし本当にそうならば。


「私は、側にいます」

 本当は寂しい彼の側にいるための力だというならば。

“誰のためにつけた力とか、関係ないのかも……”

 ずっと引っかかっていた、カミジール殿下のためにつけたこの最強という力。

「……だって私、最強ですから」

 暗殺に近い彼の側で『安心』を守れるならば、誰のためにとかはもしかしたら重要でないのかもしれない。

“鍛えるために使った年月は、私の時間だもの”

 積み重ねた鍛練の結果、それがフレン様の支えになるならば。


「あぁ、最強がオリアナで、俺は幸運だ」
「なら、良かったです」

 今だけは、彼のこの笑顔を受け入れるのもいいかもしれないとそう思ったのだった。

 

「なら、これで晴れて婚約者同士だな」
「いえ、それはちょっと」
「は?」

 ふわりと笑ったフレン様の笑顔がピシリと固まる。

“そ、そんなこと言われても!”

 護衛として主を支えるのも、単純に気持ちを向けられるのもやぶさかではないどころか嬉しいけれど。

「だからってその、結婚とかはそのぉ……」
「ほぉお?」
「ま、まだ早いっていいますか……っ!」
「早い、なぁ……?」

 完全に口元だけが弧を描き、目が笑っていないフレン様から今度こそ視線を外す。

“だって、だって~~!!”

 嫌いかと聞かれたら違うと断言できる。
 幸せになって欲しいかと聞かれたら、幸せになって欲しいと心から願えるけれど。


“まだフレン様の問題は何一つ解決だって出来てないし!”

 黒幕どころか暗殺者すら捕まえられていない現状。
 
 子爵の件は、確かにフレン様に対して逆恨みをしていたようだし暗殺者を雇うお金はありそうだったがあんなにへなちょこでは暗殺者を雇う度胸はないだろう。


「だからその、結婚とか……んんっ!」

 せめて解決してからで、という言葉は最後まで言葉になることはなく気付けばフレン様の唇で塞がれてしまって。


「つまりその気にさせろってことだろ?」
「は、はぁっ!?」
「任せろ、俺は学習能力が高いんだ」
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