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第二章・聖女レベル、ぜろ
22.はじまりの音
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あのなんとも言えない水浴びの後、みんなの元に戻ると既に大きなテントが二つ張られていた。
「え!うそごめん!!私何も手伝ってない!」
団体行動で一番まずい自己中な単独行動をしてしまったことに気付いた私が、慌てながらみんなのところに駆け寄ると、騎士たちが何故か私より申し訳なさそうな顔をしていて。
「テントは慣れているのでお気になさらず。それよりも申し訳ありません」
謝るべきは私のはずだが、逆にガバッと頭を下げられ何があったのかと戸惑う。
そんな私に伝えられたのは。
「団長と二人きりのテントにするべきだとはわかっていたのですが、荷物の関係上テントはこの二つしか持ってきておらず……!」
「そのため、申し訳ありませんがお二人には男女別のテントでお休みいただくことに……」
「せめて少しでも二人きりの時間を過ごしていただきたかったのですが……」
「その気遣い全ッッ然いらないから!!」
なんてことを口々に言われ、反射的に私も叫んだ。
“なんでわざわざ遠征でイチャイチャするのよ!”
と考え、そもそも何故私もフランといちゃつく前提で考えたんだと目眩がする。
「と、とにかく、私は女の子テント使わせて貰ったらいいのよね!?」
「はい、今後もし遠征に荷物の余裕があったら……」
「あってもフランと一緒じゃなくていいから!」
更にかけられた追い討ちに返事しつつ、洗った服を近くの木に引っ掻けた私はライザとアベルの腕を掴んで荷物を置きにテントの中へ飛び込んだ。
夕飯はなんと私が今日討伐した兎のような魔物だった。
「魔物って食べられるんだ……」
「あぁ、魔物ってのは魔王の魔力に影響を受けて攻撃性が高くなっているだけで元々は普通の家畜が突然変異したもの、ってのが通説だからな」
「えっ!じゃあトロールも!?トロールは元々人間だったとかいうそんな怖いオチじゃないわよね!?」
しれっとフランから告げられた怖い話にビクッとしてしまう。
「通説ってだけで実際はわからん。姿は確かに人間に近いが、突然変異した魔物が複雑に進化して今の姿になったんだろうしな」
「そ、そうなんだ……」
その魔王の魔力とやらに影響を受けて、明日起きたら隣に寝ていた仲間がトロールに……なんていうB級パニックホラーのような展開にはならなさそうで、私はこっそり胸を撫で下ろす。
まだまだ知らないことが多いこの世界。
知るところから楽しみたい、なんて。
“今日あれだけ自分のダメさに凹んだばかりなのにな”
剣道で鍛えた精神力のお陰か、はたまた生まれ持ったこの楽観思考のお陰なのか。
“きっと、気にかけてくれるみんなと……フランのお陰、かな”
なんてこっそり考え、ふふっと思わず笑みが溢れた。
食事を終えた私たちは、明日も朝から行動する為に早々に別れてテントに入る。
五人並んでも十分な広さがあるテントにライザたちと転がると、それはまるで修学旅行みたいで少しわくわくしてしまって。
“修学旅行っていえばやっぱり下ネタだよね!?”
と、少し偏った定番を思い出した私は迷わずライザに話を振った。
「ねね、トーマとライザってどこまで進んでるの?」
「なっ、突然何を仰るんですかっ!」
「えー?だって気になるんだもん、アベルも気になるよね?」
「わ、私にそんな話振らないでください!というか、なんで男の私がこのテントに交ざってることに一人も文句を言わないんですかぁ~っ!」
誰よりも顔を真っ赤に染めて、ワァッと両腕で顔を隠すアベル。
“なんでって言われても……”
「だってアベルだし」
さらっと告げるとジープもロクサーナも、そしてライザまでもがうんうんと頷いた。
「その認識がおかしいと言ってるんですっ」
「え、そんな可愛い顔で言われても」
「そうそう、むしろこんなに可愛いアベルをむさ苦しい男テントに放り込むのは心配」
「ですからっ!今このレディテントに私という男が混じって……!」
「レディテント!?その言い方が女子力!」
あはは、と笑いが起き和やかな時間が流れる。
――この時はそんな平和な時間がずっと続くのだと、確かに思っていた。
何事もなく朝を迎えた私たちは、更に森の奥を目指し歩みを進める。
各領主から討伐依頼の入る第三までの騎士団とは違い、第六騎士団には召集がかからない。
また経験の少ない新人ばかりの第六騎士団には応援依頼なども入らないため遊撃隊のように立ち回れる。
“だから進みたいだけ進めるんだよね”
私が討伐したいと言い、そして本当の理由は別として国がそれを後押しした以上第六騎士団は進む。
しかしそれは、逆に言えば『戻りたい時に戻れる』ということでもあった。
「……撤退する」
「は?なんでよ」
先頭を歩いていたフランが突然立ち止まり、じっと少し先の地面を見ながらそう言った。
「今回の遠征はもう少し進む予定じゃなかった?」
ゲームでもステータス回復のために何度も宿屋へ戻るように、私たちの今回の目的地は魔王がいるとされる最深部ではなく“5日間でどれだけ進めるのか”という実験を兼ねたものだった。
戻る時間を考慮したとしても、2日目である今日はまだ奥を目指し歩みを進める計画だったため戸惑いながらフランの見つめる先に視線を動かす。
“特に地面には何もない気がするんだけどなぁ”
なんの変哲もない地面。
土が抉れている訳でもなければ、色が変わってる訳でもない。
けれど首を傾げる私を無視し、他の騎士たちにも撤退の指示を出したフランは、私の手を掴み焦ったように引っ張った。
「考えるのは後にしろ、とりあえず今はここを離れる!」
「えぇっ!?そんなに?異常な部分とか見当たらないんだけど」
「異常な部分がないことが異常なんだ!」
“異常じゃないのが異常……?”
小走りよりも速い速度で、しかし私の足がもつれないだろうギリギリを見極めフランが走る。
その速度のお陰か、手を繋いで支えられているからか私も転びそうになることはなくて。
「そもそもトロールは団体行動をしない!」
「え、トロール?」
“でも昨日トロールは五体いたって……”
「それなのに集まっていたのは、“棲みかから追い出されたから”だ」
棲みかを追われた結果、行くところがなく集まってきてしまったのだとしたら、『何』に棲みかを追われたのか。
「あの巨体が追いたてられるように走り、そして俺たちと遭遇したのならおかしいことがある」
「地面が、キレイすぎ?」
魔物という存在は魔王のいる最深部から現れる。
そして最深部から走り出てきたのに地面を蹴った後どころか足跡すらないならば。
「……知能のある魔物が、餌として俺たちを待ち構えている可能性がある」
「!」
“わざわざ地面をならし、『異常がないように見せかけた』魔物がいるってこと?”
だが、そう考えなくてはあの異常ない地面に説明がつかないのは確かで。
「国に報告し、偵察依頼を出す!俺たちではそもそも人数が足りん」
「わ、わかっ……、待って!」
「うぉ!?」
引っ張ってくれていたフランを急停止させるように両足で踏ん張り立ち止まり、グンッと引っ張られながらフランが立ち止まってくれた。
「おい、速やかに離れなくちゃいけないんだぞ」
「ない」
「……は?」
「フランに貰ったネックレスがない!」
寝る前は確かにあった。というか、しっかりしたチェーンだったので寝たまま着けてても問題ないと思い着けて寝た。
“なんで?寝てる時?それとも朝湖に顔を洗いに行った時?”
「また買ってやるから諦めろ」
「え!絶対嫌なんだけど」
「なんでだよ!?」
「だってあれはフランがっ」
フランが、私のために自分で選んでくれたものだから。
「あんなんただの飾りだろ!」
「ッ!」
フランの言い分はもっともで、そしてだからこそ割り切られたことが少し悔しくて。
「魔物があそこで待ち伏せしてたならさっき襲ってこないのはおかしいよ」
「いや、それは……」
「確かに魔物が地面をならしたのかもしれないけど、それってそこにいるって意味じゃないじゃん!」
「だが!」
「ネックレス見つけたらすぐに戻るから!」
「リッカ!!」
フランの腕を振り払うようにして外した私は、そのままUターンして元の場所に戻る。
ネックレスにはキラキラとした石がついていたし銀に輝くコインもあった。
茂みの中で落としたなら見つけるのは苦労するが、見晴らしのいい平らな地面なら光に反射して見つけやすいのではないか?
そう考え、私を呼び止めるフランの声を無視して一人さっきまでいた場所に向かったのだった。
「え!うそごめん!!私何も手伝ってない!」
団体行動で一番まずい自己中な単独行動をしてしまったことに気付いた私が、慌てながらみんなのところに駆け寄ると、騎士たちが何故か私より申し訳なさそうな顔をしていて。
「テントは慣れているのでお気になさらず。それよりも申し訳ありません」
謝るべきは私のはずだが、逆にガバッと頭を下げられ何があったのかと戸惑う。
そんな私に伝えられたのは。
「団長と二人きりのテントにするべきだとはわかっていたのですが、荷物の関係上テントはこの二つしか持ってきておらず……!」
「そのため、申し訳ありませんがお二人には男女別のテントでお休みいただくことに……」
「せめて少しでも二人きりの時間を過ごしていただきたかったのですが……」
「その気遣い全ッッ然いらないから!!」
なんてことを口々に言われ、反射的に私も叫んだ。
“なんでわざわざ遠征でイチャイチャするのよ!”
と考え、そもそも何故私もフランといちゃつく前提で考えたんだと目眩がする。
「と、とにかく、私は女の子テント使わせて貰ったらいいのよね!?」
「はい、今後もし遠征に荷物の余裕があったら……」
「あってもフランと一緒じゃなくていいから!」
更にかけられた追い討ちに返事しつつ、洗った服を近くの木に引っ掻けた私はライザとアベルの腕を掴んで荷物を置きにテントの中へ飛び込んだ。
夕飯はなんと私が今日討伐した兎のような魔物だった。
「魔物って食べられるんだ……」
「あぁ、魔物ってのは魔王の魔力に影響を受けて攻撃性が高くなっているだけで元々は普通の家畜が突然変異したもの、ってのが通説だからな」
「えっ!じゃあトロールも!?トロールは元々人間だったとかいうそんな怖いオチじゃないわよね!?」
しれっとフランから告げられた怖い話にビクッとしてしまう。
「通説ってだけで実際はわからん。姿は確かに人間に近いが、突然変異した魔物が複雑に進化して今の姿になったんだろうしな」
「そ、そうなんだ……」
その魔王の魔力とやらに影響を受けて、明日起きたら隣に寝ていた仲間がトロールに……なんていうB級パニックホラーのような展開にはならなさそうで、私はこっそり胸を撫で下ろす。
まだまだ知らないことが多いこの世界。
知るところから楽しみたい、なんて。
“今日あれだけ自分のダメさに凹んだばかりなのにな”
剣道で鍛えた精神力のお陰か、はたまた生まれ持ったこの楽観思考のお陰なのか。
“きっと、気にかけてくれるみんなと……フランのお陰、かな”
なんてこっそり考え、ふふっと思わず笑みが溢れた。
食事を終えた私たちは、明日も朝から行動する為に早々に別れてテントに入る。
五人並んでも十分な広さがあるテントにライザたちと転がると、それはまるで修学旅行みたいで少しわくわくしてしまって。
“修学旅行っていえばやっぱり下ネタだよね!?”
と、少し偏った定番を思い出した私は迷わずライザに話を振った。
「ねね、トーマとライザってどこまで進んでるの?」
「なっ、突然何を仰るんですかっ!」
「えー?だって気になるんだもん、アベルも気になるよね?」
「わ、私にそんな話振らないでください!というか、なんで男の私がこのテントに交ざってることに一人も文句を言わないんですかぁ~っ!」
誰よりも顔を真っ赤に染めて、ワァッと両腕で顔を隠すアベル。
“なんでって言われても……”
「だってアベルだし」
さらっと告げるとジープもロクサーナも、そしてライザまでもがうんうんと頷いた。
「その認識がおかしいと言ってるんですっ」
「え、そんな可愛い顔で言われても」
「そうそう、むしろこんなに可愛いアベルをむさ苦しい男テントに放り込むのは心配」
「ですからっ!今このレディテントに私という男が混じって……!」
「レディテント!?その言い方が女子力!」
あはは、と笑いが起き和やかな時間が流れる。
――この時はそんな平和な時間がずっと続くのだと、確かに思っていた。
何事もなく朝を迎えた私たちは、更に森の奥を目指し歩みを進める。
各領主から討伐依頼の入る第三までの騎士団とは違い、第六騎士団には召集がかからない。
また経験の少ない新人ばかりの第六騎士団には応援依頼なども入らないため遊撃隊のように立ち回れる。
“だから進みたいだけ進めるんだよね”
私が討伐したいと言い、そして本当の理由は別として国がそれを後押しした以上第六騎士団は進む。
しかしそれは、逆に言えば『戻りたい時に戻れる』ということでもあった。
「……撤退する」
「は?なんでよ」
先頭を歩いていたフランが突然立ち止まり、じっと少し先の地面を見ながらそう言った。
「今回の遠征はもう少し進む予定じゃなかった?」
ゲームでもステータス回復のために何度も宿屋へ戻るように、私たちの今回の目的地は魔王がいるとされる最深部ではなく“5日間でどれだけ進めるのか”という実験を兼ねたものだった。
戻る時間を考慮したとしても、2日目である今日はまだ奥を目指し歩みを進める計画だったため戸惑いながらフランの見つめる先に視線を動かす。
“特に地面には何もない気がするんだけどなぁ”
なんの変哲もない地面。
土が抉れている訳でもなければ、色が変わってる訳でもない。
けれど首を傾げる私を無視し、他の騎士たちにも撤退の指示を出したフランは、私の手を掴み焦ったように引っ張った。
「考えるのは後にしろ、とりあえず今はここを離れる!」
「えぇっ!?そんなに?異常な部分とか見当たらないんだけど」
「異常な部分がないことが異常なんだ!」
“異常じゃないのが異常……?”
小走りよりも速い速度で、しかし私の足がもつれないだろうギリギリを見極めフランが走る。
その速度のお陰か、手を繋いで支えられているからか私も転びそうになることはなくて。
「そもそもトロールは団体行動をしない!」
「え、トロール?」
“でも昨日トロールは五体いたって……”
「それなのに集まっていたのは、“棲みかから追い出されたから”だ」
棲みかを追われた結果、行くところがなく集まってきてしまったのだとしたら、『何』に棲みかを追われたのか。
「あの巨体が追いたてられるように走り、そして俺たちと遭遇したのならおかしいことがある」
「地面が、キレイすぎ?」
魔物という存在は魔王のいる最深部から現れる。
そして最深部から走り出てきたのに地面を蹴った後どころか足跡すらないならば。
「……知能のある魔物が、餌として俺たちを待ち構えている可能性がある」
「!」
“わざわざ地面をならし、『異常がないように見せかけた』魔物がいるってこと?”
だが、そう考えなくてはあの異常ない地面に説明がつかないのは確かで。
「国に報告し、偵察依頼を出す!俺たちではそもそも人数が足りん」
「わ、わかっ……、待って!」
「うぉ!?」
引っ張ってくれていたフランを急停止させるように両足で踏ん張り立ち止まり、グンッと引っ張られながらフランが立ち止まってくれた。
「おい、速やかに離れなくちゃいけないんだぞ」
「ない」
「……は?」
「フランに貰ったネックレスがない!」
寝る前は確かにあった。というか、しっかりしたチェーンだったので寝たまま着けてても問題ないと思い着けて寝た。
“なんで?寝てる時?それとも朝湖に顔を洗いに行った時?”
「また買ってやるから諦めろ」
「え!絶対嫌なんだけど」
「なんでだよ!?」
「だってあれはフランがっ」
フランが、私のために自分で選んでくれたものだから。
「あんなんただの飾りだろ!」
「ッ!」
フランの言い分はもっともで、そしてだからこそ割り切られたことが少し悔しくて。
「魔物があそこで待ち伏せしてたならさっき襲ってこないのはおかしいよ」
「いや、それは……」
「確かに魔物が地面をならしたのかもしれないけど、それってそこにいるって意味じゃないじゃん!」
「だが!」
「ネックレス見つけたらすぐに戻るから!」
「リッカ!!」
フランの腕を振り払うようにして外した私は、そのままUターンして元の場所に戻る。
ネックレスにはキラキラとした石がついていたし銀に輝くコインもあった。
茂みの中で落としたなら見つけるのは苦労するが、見晴らしのいい平らな地面なら光に反射して見つけやすいのではないか?
そう考え、私を呼び止めるフランの声を無視して一人さっきまでいた場所に向かったのだった。
応援ありがとうございます!
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