愛しの夫はのっぺらぼう!

春瀬湖子

文字の大きさ
8 / 12
本編

7.危機! 至急対策セヨ!

しおりを挟む
「めぐちゃん、ごめんね、僕はもう……」
「ど、どうしたの、いっくん!?」

 見たことのないくらい顔を青ざめさせている夫を見て、流石の私も焦って彼の元へと駆けつける。

「体調悪い? それとも何かあった?」
「…………た」
「何? 何があったの!?」

 ぼそぼそと何かを言う彼に必死で耳を傾けつつ、その場にしゃがみこんで震えるいっくんの背中を撫でていると、少しだけ落ち着いたいっくんがゆっくりと深呼吸をして口を開いた。


「リモート会議が、決まった」
「は?」

 リモート会議?
 リモートでの、会議?

 一瞬その言葉に安堵しかけた私だったが、一拍遅れてその事の重大さな気付き息を呑んだ。

 何故なら私の夫はのっぺらぼうなのだ!

 

「緊急家族会議を開催します」
「は、はい」

 未だに顔色の悪いいっくんをテーブルにつかせ、私もその向かいに座る。
 右手側には私のメイク道具やらなんやらを準備した。

“リモート会議だから、いつものサングラスとマスクっていう外出スタイルは使えないわ”

 室内でそのスタイルはあり得ないし、マスクだけならともかくリモート会議でサングラスなんて論外だ。

 何か別のアバターを使えば、と思ったものの、今回の会議は仕事相手である担当者さんだけではなく、いつもは直接連絡を取らない得意先の方までいるらしい。
 その状況でのアバター使用は相手の気分を害する可能性もあるだろう。

「目標は、のっぺらぼうだとバレずに会議を終えるということでいい?」

 私の言葉に不安げな面持ちで頷くいっくん。
 そんな彼に私も大きく頷いた。


「ちょっと濃いめに……うん、どうかしら」

 最初に試したのはメイクで顔を文字通り作るというもの。
 ペンシルアイライナーで大まかに位置取りをし、シャドーで彫りを表現する。

 相手とは直接会うわけではないのだ。
 顔の凹凸がなくても“それっぽく”さえ見えれば、横を向かない限りバレないだろう。

 そう考えたのだが――


「……ふふっ、うん。ごめんねちょっと私の技術じゃダメかも」

 イメージは出来ていた。
 ハロウィンのゾンビメイクのように、そこにあるように見せるのだと。

「これ、つけまつげがよくないんじゃ……」
「いや、でもほら、男の人でもまつげフサフサな人っているじゃない? それにつけまつげなら場所の変更もしやすいし肌にも貼り付けられるしいいと思ったんだけどなぁ」

 だが完成した顔はどう見ても壁画。
 もしくは一昔前のショックを受けた少女漫画のヒロインだろう。
 ほら、あの白目向いたようなやつ。

“そもそも顔をゼロから作るって、それこそ専門の技術者がいるくらいだし素人じゃちょっとハードルが高かったかも”

 完成した顔をまじまじと見てそう感じた私は、仕方なくクレンジングでいっくんの顔をつるつるに戻した。

 そして次、手に取ったのはたまにふたりで遊びがてら使う、秘蔵の顔のシートが印刷されたフェイスマスクである。

「ゼロから作るのはハードル高かったけど、これなら基本が出来てるからもっと楽に作れるはずよ」

“全体をこれでカバーして、細部は書き込む……!”

 気合いを入れて、次の相棒に選んだのはウォータープルーフのリキッドアイライナーだ。
 既にあるこの顔ベースをなぞってキッパリとした線にし、足りていない眼球を書き込む。

 シュミレーションは完璧だ。――と、思った瞬間が私にもありました。

  
「うーん、めぐちゃん、もしかしたらこれもちょっと無理があるかも」
「私もそう思ってたとこ……」

 ウォータープルーフで対策はとったつもりではあったのだが、答えは単純。
 フェイスマスクはウォーターではないのだ。

“めっちゃ滲んでる”

 流石にこの滲み具合ではいくら画面越しだとしてもバレてしまう。
 というか壁画が、古代の壁画に進化である。

「これもダメなら……」
「流石にそれは絶対バレるから!」

 チラッと視線を向けたのは数年前の忘年会で被らされた被り物だ。
 これならば既に凹凸もある。

“難点は、明らかに被り物だってわかることなのよねぇ”

 しかもこれらは市販だ。
 下手をすればエセドッペルゲンガーが大量発生してしまう。


「最終手段、しかないかぁ」

 これで手詰まり。そう項垂れた私とは対照に、何かを覚悟したように思い切り椅子にもたれたいっくんが天井を見上げた。

「最終手段?」
「うん。……友達に、頼む」

 そう言ったいっくんの表情は、私の描いた顔のせいで歪んで見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

竜華族の愛に囚われて

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
近代化が進む中、竜華族が竜結界を築き魑魅魍魎から守る世界。 五芒星の中心に朝廷を据え、木竜、火竜、土竜、金竜、水竜という五柱が結界を維持し続けている。 これらの竜を世話する役割を担う一族が竜華族である。 赤沼泉美は、異能を持たない竜華族であるため、赤沼伯爵家で虐げられ、女中以下の生活を送っていた。 新月の夜、異能の暴走で苦しむ姉、百合を助けるため、母、雅代の命令で月光草を求めて竜尾山に入ったが、魔魅に襲われ絶体絶命。しかし、火宮公爵子息の臣哉に救われた。 そんな泉美が気になる臣哉は、彼女の出自について調べ始めるのだが――。 ※某サイトの短編コン用に書いたやつ。

悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ
キャラ文芸
 冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。  琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。  それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。  悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

処理中です...