-私のせいでヒーローが闇落ち!?-悪役令息を救え!

春瀬湖子

文字の大きさ
21 / 51
レフルート

18.選択肢は誰が決めても共通ルート

しおりを挟む
ハッとした時にはもう遅く、気付けばすぐ後ろに立っていたのはレフ様で。

“着飾ってない質素な服で身分差を突きつけるつもりが殿下がアリスを着飾って来てるし、しかも仮にも恋の相談を受けた私の招待で来たお茶会で恋敵と鉢合わせとか⋯”

そのタイミングの悪さに頭を抱えた。



「アリス嬢と殿下はそういう仲なのですか⋯?まさかそれを知っていてセシリス嬢はこのメンバーを⋯」

唖然とした表情でこちらを見るレフ様。
わざとではないとはいえ、アリスと殿下が良い感じなのを知っていたのは事実だった為、私はレフ様の質問に答えられなくて。


「⋯知って、おられたんですね。あーー、そうですか、そうなんですか。なるほどね⋯」
「れ、レフ様?あの」
「楽しかったですか、滑稽でしたか?」
「違ッ、そんなつもりでは⋯っ!」
「ハッ、ではどういうつもりで?」

いつもの知的な雰囲気とは違う、相手を追い詰めるような笑みを見せるレフ様に思わず怯む。

目だけが笑っていないその表情は、まるで黒いもやを出していると錯覚するほど異様な雰囲気で⋯


“私が最初に説明しなかったから、いえ、そもそも断っていれば⋯”


焦点が合わないその瞳は、闇落ちしたかのようにヒロインに対し黒い発言をするレオと似ているようで、それでいてもっと恐ろしく感じた。

痛いほどのその視線から逃れたくて、でもどうすればいいのかわからず視線を足元に落とす私の前を、フッと大きな影が庇うように私とレフ様の間に割り込んできて。


「僕の婚約者に随分と不躾な態度ですね。言いがかりはやめて貰えますか?」
「レオン・ネストル⋯!」

抜く素振りはないがわざとらしく腰の鞘をカチャリと鳴らしたレオは、それ以上何も言わずにただ私をレフ様の視線から守ってくれた。


“レオ⋯”

目の前にレオがいる。
それだけで何故か安心してしまった私は、すがるように服の裾を掴み、そっと彼の背中におでこを寄せる。


「⋯⋯ふむ。レフ様、度を過ぎたら消しますがまたお願いします」
「なんでそうなるのよっ!?」
「二人して私を馬鹿にしているのか⋯!?」
「ちょっ、ほら!もっと怒っちゃったじゃない!」
「焦るセリも可愛いです⋯早く二人きりになりたいなぁ⋯」


ぎゃいぎゃい騒ぎ、そういえばアリスと殿下は!?と慌ててキョロキョロ見渡すと、しれっとテーブルにつき二人でお茶している殿下と目が合った。


「あぁ、暫くかかりそうだから先に楽しませて貰ってるよ」
「セリ様!このクッキーとても美味しいですっ」
「ふふ、俺のもほら、食べて良いよ」

楽しそうな二人にある意味愉しそうな私達。

「ここに天国と地獄の境目があったなんて⋯」
世界観の温度差に私はガクリと項垂れた。




「この件については、後日改めて。」

と強い口調で言い残しレフ様は席に座ることなく帰ってしまった。

「どこから間違えたのかしら⋯、ドレス?そもそも着飾ったのが⋯いえ、私がさっさとワインをかければ良かったの⋯?でもそうすると私が破滅⋯」
「セリ?」

お茶を楽しんでいた殿下達と合流したものの、当然私の気は晴れなくて。

「セリ様、そんなに悩まないでください。きっと大丈夫ですよ!」
「根拠なく言うのやめてくれます?腹立たしい。ですがセリ、僕がいるから大丈夫ですよ、いつでも全てゼロに戻しましょう」
「ゼロへの戻し方は聞かないからね⋯」
「まずはやり直しがてらこの女にワインをかけますか?」
「あはは、レオンってば、今はそれ要らないからね?王宮で頼むよ、俺の部屋があるからさ」

相変わらずな様子のレオと、さらりと聞き逃せない希望を伝える殿下。

ふと黒い雰囲気を出していたレフ様を思い出し、まさか殿下まで闇落ちなのかと不安になった私はそっと殿下の表情を窺うが⋯


「どうかしたのかい?」
「あ、いえ⋯なんでもございませんわ」

にこりと微笑んだ殿下の表情におかしな部分はなかった。


“殿下なりのジョークなのかしら⋯”


私はそんな風に自分を納得させ、深く考えるのをやめる。
アリスも笑っているし、何より今考えないといけないのはレフ様の事で。


はぁ、と思わずため息を吐いた私は、これからどうすればいいのか頭を悩ませるのだった。




そんな悪夢のお茶会が終わり、殿下達を見送ると慌てて私は予言書を開く。

ちなみに3人は同じ王宮の馬車で帰っていった。
アリスのエスコートをする殿下、殿下の護衛をするレオ⋯という事らしいが、その面子に囲まれる御者が少し可哀想になったのは内緒だ。


「表紙に描かれているのだから、どこかにレフ様の事も書いてあるのよね?」

パラパラと予言書を捲ると、「レオンルート」の次のページにやはりというかなんなのか。

「やっぱりあるのね、『レフルート』⋯」


知ってた、と思いながら内容を確認する。


「出会いイベントは、王宮の廊下⋯?レフ様は夜会で一目惚れしたんだから、このイベントは起きてない⋯わね」

予言書が外れたのかと思ったが、そもそもこの世界は今“メインルート”だ。
だったらレフルートのイベントが起きないのは当たり前だとも言えて。

「夜会でも、パーティーに出席したアリスはレオのイベントである“メイドとして”は会ってないし、同時刻のイベントはメインルートのイベントが優先されるのかしら⋯?」


ーーもしくは、選択肢を誰かが選んだら。


“夜会イベントは私がアリスとメインルートのイベントを起こすことを選んだ⋯とも言えるわね?”

もしこの仮説が合っているとしたならば。


ドクン、と心臓が跳ねる。
じっとり嫌な汗が私の背中を流れて。


「レフルートのイベントを、レフ様が起こしたとしたら⋯」

“レオルートからメインルートに変更出来たように、レフルートへの変更もあり得るって事かしら”


私とレオは、私達が嫌がらせをせず破滅しなければそれで構わない。
でも、じゃあアリスは⋯?


「お茶会、殿下と楽しそうだったわよね⋯」

殿下がアリスを見る瞳もとても穏やかで。
そしてそれをアリスも受け入れていて。

キッカケはルートの改変だったが、それでも育み始めた二人には幸せになって貰いたい。

振り回してしまった責任から、というのももちろんあるが、私にとってもアリスは大切な存在になっていてー⋯


「レフルート、阻止するしかないわね⋯」


ふと瞳だけ笑っていないレフ様を思い出しゾクリと身震いする。
しかし、私は私と、そして私の大切な人の為にも頑張る事を決意した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

【完結】ヤンデレ乙女ゲームの転生ヒロインは、囮を差し出して攻略対象を回避する。はずが、隣国の王子様にばれてしまいました(詰み)

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
 ヤンデレだらけの乙女ゲームに転生してしまったヒロイン、アシュリー。周りには、攻略対象のヤンデレ達が勢ぞろい。  しかし、彼女は、実現したい夢のために、何としても攻略対象を回避したいのだ。  そこで彼女は、ヤンデレ攻略対象を回避する妙案を思いつく。  それは、「ヒロイン養成講座」で攻略対象好みの囮(私のコピー)を養成して、ヤンデレたちに差し出すこと。(もちろん希望者)  しかし、そこへ隣国からきた第五王子様にこの活動がばれてしまった!!  王子は、黙っている代償に、アシュリーに恋人契約を要求してきて!?  全14話です+番外編4話

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...