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だったら私が貰います!婚約破棄からはじめた溺愛婚(その後)

10.解決方法を模索する⋯というレベルを越えてると思うのは私だけ?

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キャサリンを追い返⋯⋯キャサリンが帰った後の扉を見て、思わず脱力しはぁっと息が漏れる。
そのままふらふらとさっきまで座っていた椅子に戻り腰かけるとー⋯


「お体が怠いのであれば横になられる方がよろしいかと」
「セラ⋯」
「必要であればマッサージも致しますので、寝室に戻られますか」
「セラ」
「今晩のお食事は寝室で取られる方がよろしいかもしれませんね。寝室に運ぶよう伝えー⋯」
「セ~ラ~」
「⋯⋯⋯⋯⋯はい」


テキパキと私の身の回りの事を決めていくセラを止めて、私は向かいの席を指差した。


「そうね、色々言いたいことも聞きたいこともあるのだけれど⋯」

渋々座ったセラを見ながらため息混じりに私が口を開くと、流石に少しまずいと思っているのか彼女が軽く俯いていて。


「相手が高貴過ぎるわよぉ~~~っ!!」
「はい、しくじってしまいました」


バタンとテーブルに突っ伏しながらそう叫ぶとさらりと返事され、やはりキャサリンが探しているという令嬢がセラである事を悟る。


“し、しくじりのレベルが段違いだわ”


相手が一国の王太子。
高位貴族でも、まぁぶっちゃけお金でなんとか⋯なんて考えていた私の計画が崩れ落ちる。


“民の見本になるべき王太子が、法律を破るのは出来ないわね⋯”

ベルハルト側もそう考えているから、秘密裏に探しているのだろう。



「⋯女性側ははじめてって初夜で基本わかるけど、男性側ってわからないじゃない?なら黙っていて貰うのはダメなのかしら」

セラは今私の領地にいて、亡命と言っていたという事は国に帰るつもりはないのだろう。
そしてキーファノはもちろんマーテリルアでも、結婚時に必ず処女じゃなくてはならない⋯なんて法律はないので、この国であればセラは結婚だって出来る。

それは全てが丸く収まる結論に思えるの、だが。


「厳しいでしょうね。万が一漏れた場合王家の威信が損なわれます。私が王家側なら、せめて殺しますね」
「物騒!!」

“けど、そうなるわよねぇ⋯”

そんな荒事が身近で、なんて堪らないしベルハルトは平和な国。
それでも、その平和を崩す可能性がある不穏因子ならば消す決断を下すだろう。

それは至極全うな見解で――


「⋯なら、もう嫁ぐしかないのでは」
「お断りします」


話を持ってきたのが他でもないキャサリンだと言うならば今はまだ荒事の段階ではない。
口封じの人数が増えるからだ。

そしてこの段階で探しているなら、ヤっちゃったから結婚しよう、と考えていると推測した私が提案するが、あっさりと拒絶されてしまった。


“あぁ~っ、どうしたらいいのよ⋯!”

うぐうぐと頭を抱えていると。


「折角雇っていただいたのですが、私は仕事を辞め⋯」
「それはダメ」

普段飄々としているセラの弱々しい声色に重ねるように断言すると、彼女のその美しい真っ青な瞳が見開かれる。


「それは、私を逃がさない為⋯ですか?」
「そうねぇ、その側面がないとは言わないけど⋯。でも、それが一番の目的ならさっきキャサリンに報告してるんじゃない?彼女の夫がレイモンド殿下の専属護衛騎士なんだし」

私の言葉に納得したのか、心なしかセラの表情が安堵しているように見えて私もホッとした。


「あの様子じゃここを辞めて逃げてもすぐ見つかるわよ。それに逃げ続けて見つかった場合、最悪のケースだってあり得るんじゃないかしら」

今は恐らく結婚して収めようとしているだろうベルハルト王室。
しかしこのままセラが見つからず時間がたってしまったとして、跡継ぎを必ず求められている『王太子』の結婚はいつまでそのスタンスでいてくれるのだろうか。

――死に別れの場合は、再婚だって出来るのだから。

“流石にすぐそんな事はしないと思うけど⋯”


「ここにいれば、防波堤にはなってあげられるわ。まぁ相手がちょっと思ったより高貴過ぎて、防波堤の強度が心配だけど⋯」
「どうしてそこまでしてくれるのですか」

本当に不可思議だ、と言わんばかりの戸惑ったセラの顔を見てぽかんとする。


“どうしてそこまでって⋯”

「だってセラは、もう私の“内側”だって言ったでしょう?」
「確かに言っていただきましたが、流石に抱えた問題の大きさが違うと申しますか⋯」
「えぇ?内側か外側かの二択に大きさとか関係ないわよ」

私の続けた言葉を聞き、不可思議そうな顔をしていたセラが更に唖然としー⋯

「ふふっ」
「!」

妖精のような、あまりにも可愛らしすぎる笑みが溢れた。

“本当に可愛いわね⋯っ!?”

その笑顔は、世界一可愛いのに夜はちょっと意地悪という最高のバランスで完成されているバルフという名の最愛がいる私ですらドキドキするほどのもので⋯
こんなに可愛い笑顔を向けられたなら、どんな男性でもコロッと落とされてしまうわね、と深く頷く。

“案外王家の威信が、とか法律が、とかじゃなく、レイモンド殿下がセラに一目惚れしたから探してたりしてー⋯、ッ!!?”

そこまで考えた私はハッとした。


「あ、あり得るわね⋯?」

彼女を探す理由は色々あるだろうが、その中でも最もシンプルで最もわかりやすい理由。


「そもそも、他にご兄弟がいらっしゃるのに長子でもないレイモンド殿下が王太子で、かつ他のご兄弟全員がレイモンド殿下の為に既に側近として執務もこなしてるって話は有名なのよ⋯」

一応これでもアレクシス元王太子の婚約者候補筆頭だったのだ、隣国の事情はある程度頭に入っている。

そしてだからこそ彼はやり手で、マーテリルアでも一目を置かれていて――

“そんな彼が、ただ酔っただけで一線を越える?あり得ないわ”


酔った勢いはあるだろうが、少なくとも『同意』だった可能性が高い。
色々規格外のセラだが、一応身体能力は普通の女性なのだから。多分。そうよね?


“ならばこれは、国の威信をかけての殺伐とした事後処理じゃなく、一目惚れした逃げるあの娘を拐っちゃいたい系ラブロマンスって事じゃないの⋯ッ!!”


その可能性に気付いた私の手が微かに震え、そして胸が痛いほどに高鳴った。

“わかるッ!わかるわッ!!私も好きすぎてバルフを拐ったんだもの!!!体だけでもって思っていたんだもの!!!”

わかりみが深すぎる可能性に私のトキメキが止まらない。
そう、これは継母ざまぁ(失敗)というパワーワードに隠されたラブロマンス⋯っ!!


そう理解した私の喉がごくりと鳴る。
これから私に出来ること、それは――




「⋯とりあえずそうね、デートしましょう!」
「はい?」


そう、デートしかない!!!


「申し訳ありませんが、ちょっと理解出来ません」
「あら?デートを知らない?好意を寄せる相手と互いに見つめ合いながら二人だけの世界を築き、時に触れ合い、時に隠れてより仲を深めることよ」
「すみません、私の知っているデートと違うようで更に理解出来なくなりました」
「おかしいわね」

“セラ、デートしたことがないのね⋯”

かくいう私もデートはバルフとしかしたことがない訳で⋯


「そうね、トリプルデートがいいと思うわ!」
「シエラ様、あの、本当に意味がわからないのですが」
「だってセラ、言ってたじゃない。顔で選んだって」
「ッ!」


そう、つまり顔はクリアしているのだ。
1つクリアした先は案外近い。

“私もおっぱいで迫ったし”

ふふん、とバルフがあの失敗してしまった初夜の時に、最初に反応してくれた胸を両手で持ち上げる。


「それにベルハルトの国民として責任を取るつもりだってあったんでしょう?亡命した理由は継母ざまぁにならないから⋯、つまり、ざまぁさえ出来れば結婚相手としてアリよりのアリって事じゃない」
「王太子とかナシからのナシですよ」

あっさり断言するセラだが、でもそれはつまり“王太子”がナシなのであって“レイモンド様”がナシなのではないという事でもあって。


「チャンスをあげて欲しいわ、私も似たような経験があるから⋯」
「シエラ様⋯」
「それに私も隣国デートとかしてみたいし⋯」
「聞いていた以上にバカップル」


はぁ、とやはりわざとらしくため息を吐いたセラは、思い切り天を見上げ――


「⋯ま、どうせいつかは見つかりそうですし、だったら紙でも防波堤はある方がいいですよね」
「紙だって大事な資源よ」
「継母ざまぁのリベンジに繋がるかもしれないので、しゃーなしでお受け致します」


そう苦笑混じりにそう言ってくれたセラに、私は満面の笑顔を向けたのだった。
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