四煌の顕現者:ゼクス・ファーヴニルの復讐譚

鶴生世乃

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第1章 邂逅

校舎裏にて密会

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 アマツ達に、「お手洗い」と称して教室を抜け出してから数分後。
 俺は、校舎と校舎の間でその人を待っていた。


 ――正直、相手が来るかは微妙なところだ。
 最悪の場合。不審に思った彼が、蒼穹城そらしろ刀眞とうまと一緒にやってきたら、ここでドンパチやらかすしか方法がなくなる。
 そうなれば復讐の計画は、大幅に遅れることになるだろう。


「何故、俺を呼んだ?」

 ――来た。
 俺は、若干の警戒をしながらも歩み寄ってきた、善機寺ぜんきじ家の長男、はやてを見やる。

 髪の色は濃い緑……松葉色によく似ている。瞳の色もそんなもので。
 右眼の上から頬にかけて1本、長い傷跡が走っている。

「寧ろ俺としては、来てくれるなんて思っていなかったけれど」

 あんな雑なハンドサインで、【八顕】が一角の次代候補が「のこのこ」とやってくるとは全く思っていなかった。
 しかし、今は感謝しないといけない。

 絶対に、蒼穹城や刀眞の前では話が出来ないからな。
 俺の表情に気づいたのか、彼は少々警戒を解いたようだ。
 
「――こちらとしては、蒼穹城家にも刀眞家にも。そして火威家にも何ら感情は持っていない」
 
 その話を聞いても、俺は首を傾げることしかできない。
 冷躯さん達は【八顕】の、家ごとの関係について教えてくれなかった。

 ……ただ、火威家と蒼穹城家が対立していることは、アマツの態度から分かる。
 あとは、その蒼穹城家と刀眞家が仲いいくらいだ。

 すくなくとも、俺が「刀眞とうまつぐ」であったころ。
 善機寺家との関わりはないに等しいはず。
 
「先に話しかけてきたのが蒼穹城そらしろしんというだけであり、火威側の使いなら話をしても良いかと考えただけだ」

 善機寺に、俺は火威家の使いじゃないよと返す。
 たしかにアマツは蒼穹城進と仲が悪い。
 それは【八顕】的な関係もあるのだろうが、もう根本的に性格が合わないのだろう。

 そもそも蒼穹城進という男自体が、非常に冷酷な人間である。
 多分、信用しきっている人なんて1人もいないだろうと確信を持って言える。

 強いて言えば、5年前よりももっと昔……。
 8年前、つまり8歳くらいまでは、全然そんなことなかったんだが。
 人は急変するものだ。それから蒼穹城進という男は、最高に嫌な奴になってしまっている。

 ――だからこそ、目の前の男が彼らとつるんでいる意味が分からないのだが。

「要件を聞こう、ゼクス・ファーヴニル。使いでないのなら、それはファーヴニル家の意思か?」
「それも違うな。……俺個人として、君個人と話がしたい」

 この人が俺の名前を知っているのは、――たぶん、昨日のあの事件で東雲が話したんだろうな。
 俺の言葉に、善機寺が頷く。
 
「……分かった」
「単刀直入に。刀眞胤って、覚えてるか?」

 ――息を呑む音が、聞こえた。

 正直、これは言っても問題の無い情報だ。
 誰がそうであるかも言っていないし、相手が覚えていないのならそれで話は終わりだ。

 ――しかし、俺はアマツの話を聞いて、確信に近いモノを感じている。
 覚えていないわけがないのだ、彼が。

 一歩間違えれば、彼だってそうなっていたはずなのだから。

「ああ、覚えている。刀眞の記録からは抹消されてしまったが」
「その人が、名前を変えて。あの日の人々に復讐しようとしている、と言ったら?」

 似たような境遇で、蹴落とされた人と蹴落とされなかった人。
 ……それが、俺と善機寺の違いだ。

 相手の顔に、明らかな迷いが生じているのを感じて、俺は待つことにした。 

「……それは、そっち側への勧誘と言うことか? ファーヴニルが協力者で、ということでいいんだな?」
「詳しいことは言えない」

 今日はそういう話をしに来たわけではない、と。
 俺は話を打ち切る方向に方向転換する。

「本人に会わせてくれないか」
「また今度ね」

 目の前にいます、というのは言わないとしても。
 この話を受けてどんな行動を示すのか、見極める必要がある。

 しかし、サブミッションではあるが――。
 善機寺をあのグループから引き剥がすことが出来れば、ある程度俺も動きやすいというものだ。

 今回の話で、特にアマツ達と敵対しているわけでもないことはわかった。

「何より、君があのグループにいて、被る害のほうが多いって事を教えておきたい。
 蒼穹城や刀眞によって人生を壊された人も、壊されかけている人もいる」

 ――前者は俺、後者は東雲契だ。
 特段、彼女に対して同情も何もないが、彼女も被害者であることは分かる。
 本当に被害者か、と感じることも多々あるが。

 だからといって、俺が復讐を止めようなんて、思わないけれど。

「……まさか」

 善機寺は、俺の言葉を聞いて。
 何かに感づいたようだ。

 言葉を続けようとするが、手を振ってそれを制する。
 校舎に設置されている時計を見上げれば、もう10分は経っている。




 お手洗いには少々、長すぎる。 
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