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第三章・我が儘お嬢様
闇の暴風
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グラウリー:呪われた山を攻略した一行隊長。斧戦士
ラヴィ:女性鍛治師。悩んでいる
バニング:本暗殺者
マチス:老練な短槍使い
トッティ:若い鈍器使い
ボケボケマン:オークマスクの魔導師
エイジ:蒼の魔導師
トム: 商人
ギマル:部族出身の斧戦士
ベル・ブルジァ:豪商リドルトの姪
*
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彼等は小二十分ほども戦い続けただろうか。
永遠に現われ続けると思われた死霊達は徐々に数を減らしていった。戦士達は荒い息をつきながら汗をぬぐう。
「ハ――ッ、ハ――ッ!ベルはまだ起きないのか?」
グラウリーは斧を真っ直ぐに構えて後ろを見ずに言った。
「……駄目です!どうして起きないんだ――」
「くそっ!」
言いながらグラウリーはふと辺りの様子が再び変化し始めた事に気がついた。
骸骨戦士やゾンビーがその歩みを止め、その得物を胸の前に構えた。その様はグラウリーやギマル達にある光景をフィードバックさせる。リドルト邸強襲の折リドルトの部屋で彼等を襲った死霊達が同じ動作をしていた――あの死の超越者が現われた瞬間――!
「―――!」
ボケボケマンが無言で、しかし力強く森の一角、闇の中を指差した。
瞬間その一角の空間がうねり、歪んだように見え――夜闇の闇より更に暗く、人型をした深い『漆黒』が現われたのだった。それは人型をしているが戦士達のそれよりも二周りも大きく、ゆっくりと、威厳ある――真に力の強い者が持つ絶対的な強者のオーラを漂わせた歩みで近づいてくる。
死霊達はもう動かずただただ彼等の絶対君主を崇め奉っていた。
「ここからが…本番だ……」
グラウリーは幅広の斧を握りなおした。
*
「秘宝を差し出すのだ――」
死の超越者が発した第一声は、かつてグラウリーが聞いたものと同じ。抑揚の無い無機質、だが冷徹で絶対的な命令調の響きを含んだ言葉が耳、いや頭の中に響いてくるような感じがした。
超越者は狂おしく紅い、たぎる血の色のような妖しい双眸をぎらつかせ、両手を差し出す格好で一歩、二歩と近づいてきた。
それは言うなれば『力』の塊、『闇』の、『憎悪』の塊!
超越者が一歩近づくごとに彼等はその烈風にも似た邪気のプレッシャーに耐えなくてはならないのだった。
「そんな…こんな……馬鹿な…」
トッティの脚は知らず震え出していた。自分の脚がいつからそうなっているのか、まるで地に脚がついていないかのような錯覚を覚え、彼は自分の意識をそこにつなぎ止める事が精一杯だった。
「トッティ、しっかり前を見据えるんだ!飲み込まれるな」
バニングがしかし額に汗を流しながら日輪を正眼に構えて言う。そしてエイジがトッティの背中をポンと叩く。
「あ……ああ、うん…!」
「待てっ!」
グラウリーは死の超越者に向かって吼えた。
「…何だ…人間……」
「お前にいくつか聞きたい事がある!何故秘宝を狙う!?」
「何故秘宝を狙うかだと……フハ…フハハハハ!」
「何がおかしい!」
「……フ、フフ…そもそも『それ』をむしろお前達人間が持つ事自体が可笑しい。それは我等魔の眷属が持ってこそ効果を発揮するものよ」
「なんだと――?」
「儂が使ってこそ、その水晶は真の恐るべき内蔵された力を発揮するのだ。儂はその力を取り込み――」
「不老不死にでも、なろうってのか?もうあんたミイラみたいな、限りなく不老不死に近しい存在じゃねえか」
口を挟んだのは、エイジだ。
「ほう――魔導に携わる者がいるようだな……だが不老不死など、それだけのものではないのだよ!この水晶の力は!!」
「……っけ、そちらにせよどーせろくでもねえ魂胆だろーが――俺ァ死の超越者なんてのはな、昔から忌々しくてたまらねえんだよ!干からびた血も通ってないジジィが。お前みたいな奴をのさばらせておいちゃあ地上に生きる生き物に安息は訪れねえんだ……そう、俺の魔導で消し炭にでもしてやんねえとな!」
エイジは朗々と謳い上げた。その言葉に瞬間場が張り詰め、見えない力が充満するのがわかった。
「……口の聞き方を知らぬな…若造が……ならばその力、試してみるか?」
超越者の右手が妖しい唸りを上げてマグマ色にたぎる。エイジはさっと胸ポケットに手を伸ばした。
「まだ聞きたい事はあるっ!」グラウリーがエイジを手で制す。
「ベルの――あのブルジァ家の少女の父親に呪いをかけたのは、何故だ!?」
「……フ…フフ――。そうか、お前達はその水晶をジル・ブルジァの所まで持っていこうとしているのだな?」
「こっちが質問をしている……ッ!」
「馬鹿な奴等よ……だからお前達人間にはその水晶など扱えぬのだと言っている。その水晶球には、儂の呪いを解く鍵などないと言う事を知らぬとみえる」
「―――!」その言葉は彼等をハッとさせた……。彼等が命がけで得た秘宝、リドルトが弟の身を案じて託した秘宝、そしてベルが父の為に持って行こうとしている秘宝……。
その、全てが意味がないと言うのか?
「お前達が秘宝を無事発見できたのは幸運だった……デュロズ――あの醜い何百年も生きた道化が隠し持っていた秘宝は既に誰かに持ち去られた後かと思った……結果的には噂で秘宝の収集をしているあの豚を襲撃すれば秘宝の情報が入ると思っていた所に、お前達が秘宝そのものを運んできてくれたのだからな……」
「――バルティモナ山の死の超越者を殺したのはお前だったのか……!」
「そうだ!あのデュロズには『適正』が足りなかった!だから何百年と生きていようが儂になぶり殺されたのだ!そうして儂は奴をバルティモナの王座から引きずり落とし、バルティモナを支配した!」
「ハーピーの大増殖も、鏡の呪いも……ルゥ達の呪いが解けなかったのも……アンタが原因やったのか!」
「ククク……バルティモナの秘宝の噂を聞きつけた人間どもが彼の地に集ったのは幸いだった。儂は呪われたハーピー供や呪いの鏡を操り彼奴等によって殺された人間供の魂のエネルギーを我が呪いの力の一部とした!」
魔法銀の小刀を振り上げ超越者に向かおうとするラヴィを、バニングが背中で押し留めた。
「 『適正』と言ったな……!何の事だ?それは」
「……所詮お前たちのような俗人共には関係のない話よ…。さあ!ここまでだ――秘宝を差し出せ!もとより星は我が元に!水晶球は我が手に落ちる運命にあった!!」
これ以上の話など必要ないと言う事なのか、超越者がその両手を水平に広げた。解き放たれた魔力はいよいよ強力で、暴風から身を護るかのように戦士達は身をすくめた。
――一斉攻撃を仕掛けるしかない――そう思ったグラウリーは先陣となるべく重く感じられる脚を大きく上げて黒衣の死神に踊りかかろうとした。
「ベ、ベルちゃん――?」
ふと、後ろで声がした。
振り返ると煌々と燃える炎の中に人影が立っていた。いや、それは正しくは炎の揺らめきを背負ってシルエットを象ったベルの姿。元より紅いマント、皮の鎧が火に照らされてより紅く燃え立つようだ。
立ってはいるものの顔をうつむけた彼女の手には、しかしいつの間にかあの水晶球が握り締められている。
――ベルが、顔を上げた。
「――ハッ……!」
ほんの数瞬だが、グラウリーを初めとするティルナノーグの戦士達は息を呑んだ。
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