最強ギルドの斧使いが呪われた山を攻略します!ティルナノーグサーガ『ブルジァ家の秘密』

路地裏の喫茶店

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第一章・依頼

二人の隠し芸

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登場人物:

グラウリー:大柄な斧戦士ウォーリアー
ラヴィ:女性鍛治師ブラックスミス
バニング:元暗殺者アサシンの剣士
マチス:老練な槍使いフェンサー
トム:小柄な商人マーチャント
ギマル:北の戦闘民族出身の斧戦士ウォーリアー
トッティ:若い鈍器使いメイサー
ボケボケマン:オークマスクの魔導師メイジ
エイジ:蒼の魔導師ブルーメイジ

7



 がらんという音がして扉が開く。一階はだだっ広い酒場になっており、幾多もの丸いテーブルが置かれていてそこに様々な冒険者達が飲んだくれたり、真面目な顔をして何かを相談している。
 大部屋には二階へ上がる階段が二つついており、二階にはドアがいくつも立ち並ぶのであった。酒飲み場が一階、二階が個室の宿屋といった典型的な酒場兼宿屋といったつくりで、それ故に今からバルティモナに入ろうとする者、バルティモナから一旦出てきた冒険者達で盛況の様子であった。


「いらっしゃい。宿の方は満室だよ。酒飲むならあっちのテーブルが空いているぜ」


 入り口の脇の受付の人間に案内されて中央あたりのテーブルを二つ使い、一向は食事と酒を取る事にした。
 ソーセージをふんだんに使ったピザ、山菜のサラダ、元気な鶏をしめて油で揚げたもの、冒険者が戦うに必要なエネルギーを十分に取る事のできる、量が多く栄養価の多い料理が彼等には好まれる。

 ダンジョンの入り口付近。ここが彼等冒険者が陽の光の元に旅する事のできる最後の地点であり、一度ダンジョンに入れば湿った空気と頼りないカンテラや松明の光、夜目の魔導を使っていかなければならず、絶えず緊張感と心細さを強いられる事になるのだ。

 そう言った意味ではこの場所に集う者達はある種の覚悟と言うものを確実に持っていて、例え今この場で酒を飲み料理を食べる事が日の元で食する最期の機会なのだとしても、俺達は未知の謎を解き明かしたくて、または自分の夢ややりたい事の為に冒険に身を委ね、そして殉じたのだと、胸を張り誇りと信念を持ったまま死ぬ事ができたのだ。

 それは冒険という、自由と探求に満ちた言葉を実行する為の代価であったかもしれない。謎と奇跡に彩られたこの世界に生まれたならば、この眼でそれを見てみたい。そのような思いが強く、ずっと持ち続けた者が冒険者になるのであり、どんなにどこぞのダンジョンで志半ばに倒れた冒険者が出たという悲報があっても、次々と新たな冒険者が生まれていくのであった。



「乾杯をしようか」
 グラウリーが火酒を注いだ杯を片手にそう言った。


「――いつ、どんな時であってもギルドの仲間を信じる事」

 低いがどこかに響くような声で彼が他のメンバーに杯を当てていく。街で騒ぎながら飲む時にするような、楽しい浮かれた乾杯ではなかった。杯と杯の触れ合いがあたかも心と心をぶつけあい、その音色を確かめ合うような、互いを信じ合うという、お前達の中の誰にでも自分の背中を預けられるのだという、そんな暗黙の了解。グラウリーの言葉を誰も茶化す者はいなかった。


「……」
 ラヴィはバニングに乾杯すべきかどうか迷っていた。毒塗りの剣を首に突きつけられたのはつい昨晩の事である。しかし鍛冶屋という職業柄憎むべき毒剣を見抜いたとはいえ、人の愛剣に文句をつけたのはラヴィの方でもある。いけすかない奴だとはいえそれを認めないわけにはいかなかった。

 それに加えてバルティモナの大空洞というダンジョンに入る直前、命をかけ戦いあう同行者に対していつまでもすねた女のようにそれを根に持つというのもラヴィのさっぱりとした気性には合わなかった。こういう素直でさっぱりとしたところはラヴィの最も愛すべき長所であった。

(杯だけは差し出してやろう。大人げないもの。だけどそれを奴が無視したりしたら――)
 とにかくラヴィは目線をバニングに合わせないようにしながら、片手で自分の赤毛の三つ編みをいじって、そうしてもう片手ですっと杯をバニングの前に出したのだった。

(……)
(こん畜生――)
 手を出してから数秒してもバニングが杯を当てる気配は無かった。
(やっぱりやめときゃよかったわ!)
 頭に血が上り自分の馬鹿らしさ加減に怒りのあまり涙が出そうになる。もう杯を引っ込めよう。

 そう思った時、カンと音がしてバニングが杯を当てたのだった。
 驚きのあまりバニングの方を見やると、彼はまるで何事も無かったかのように無表情で視線を下に落としながら酒を飲んでいるのだった。
 慌ててラヴィもバニングから眼をそらす。三つ編みをいじる動作は少し速く力がこもっていた。


「え――それでは…」
 トムとマチスがもじもじと、しかし何かよからぬ事を企んでそうな少々下品な笑みを浮かべて切り出した。
「なんやのん?」
 不思議そうに言うラヴィのすぐ横の席で、ボケボケマンと杯を重ねていたエイジが突然弾けたように立ち上がった。

「お――っ出るなっ!トム&マチス!よっ名コンビ!!」
 エイジは心底嬉しそうに手を叩き始めた。ラヴィとトッティを除く他の者は義務っぽくややおざなりな拍手を、どこか諦めのついたような顔でしている。

「何? 何? 何が起こるの?」
 トッティも状況がわからずきょろきょろしている。
「お待たせしました!」
 トムとマチスは椅子を立つと、何とその場で一回転して服や鎧などの装備品を脱ぎ捨て始めたのだった!

「出た――っ!トム&マチスのティルナノーグ黄金コンビが送る裸の舞!ぎゃはははは!」
 エイジは完全につぼにはまった様子でのけぞって笑い転げている。
「なっ、ト、トムさんとマチスさん、そういうキャラだったのかぁぁ――っ!」
 トッティは驚愕した顔で眼を見開いた。

「ぎゃあぁぁぁぁあああ――っ!!」
 ラヴィはあらん限りの悲鳴を上げた!マチスとトムは今まさに下着一枚の姿であった。

「おーれたーちゃーなぁーかぁーまーはぁーだーかーのーつーきーあーいー……♪」
 トムとマチスは今やハモりながら奇妙な歌を歌いだす。

「こいつらダンジョンに行く前はいつも景気付けにこれやるんだよな……」
 ギマルがうんざりとした顔で言う。
「馬鹿っ!これがないと始まらねえだろっ、やっぱ!」
 エイジはもう笑いすぎて涙を流している。

(あ、あかん――)
 ラヴィは醜い裸踊りから眼をそらすと、青ざめた面持ちで赤毛をくしゃくしゃとかきむしった。口元にはひきつった笑いが浮かんでいる。
(こ、こいつら本当に信用してもええんやろか……自信なくなってきた――……)

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