最強ギルドの斧使いが呪われた山を攻略します!ティルナノーグサーガ『ブルジァ家の秘密』

路地裏の喫茶店

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第一章・依頼

奇妙な男

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登場人物:

グラウリー:大柄な斧戦士ウォーリアー
ラヴィ:女性鍛治師ブラックスミス
バニング:元暗殺者アサシンの剣士
マチス:老練な槍使いフェンサー
トム:小柄な商人マーチャント
ギマル:北の戦闘民族出身の斧戦士ウォーリアー
トッティ:若い鈍器使いメイサー
ボケボケマン:オークマスクの魔導師メイジ
エイジ:蒼の魔導師ブルーメイジ

8



 周囲の眼を集めるだけ集めた裸踊りがつつがなく終わると、彼等はようやく情報を集めていく事にした。

「よ、旦那。最近バルティモナはどんな具合だね」
 ギマルが隣のテーブルの四人組のパーティーのうち、自分と似たような、発達した筋肉に皮鎧を着込んだスキンヘッドの戦士に愛想よく話し掛けた。

「おう、あんたらさっきの裸踊りはずいぶん笑わしてもらったぜ」
 男は先程のトムとマチスの裸踊りを見て彼等に親近感を抱いたようだった。

「おうよ、これからバルティモナの大空洞に入るって時だ。ここでくらいは目一杯楽しんでおかなきゃな」
「違ぇねえ。で、バルティモナの話か……俺達も今日ここについたばっかりで聞いた話でしかねえんだが……最近は下層のハーピーが大量発生していて、気をつけてねえとあっという間に囲まれてお陀仏なんだそうだ。そんなわけで怪物退治にとここに脚を運ぶ冒険者も前よりずっと増えたらしくてな、下層に入ってすぐの大空洞では日夜各地から駆けつける冒険者達とハーピー達の大群の戦いが繰り広げられているらしいぜ……どうにかそれを乗り切って中層まで辿りつければ冒険者としての名声もあがるし、中層以上には秘宝が眠るっていうもっぱらの噂なんだがな」
「そうか。ハーピーの大量発生ね……あんがとよ」
「なーに、お互い死なねえようにしようや」
「全くだ」

 ギマルは男に礼をいいテーブルを離れた。仲間の所に戻るとグラウリーが小さな声で話し掛けてくる。


「ギマル……あそこで一人で飲んでいる男…あいつの話を聞いてみよう」
 グラウリーの指差したのは店の隅のテーブルで一人うつむきながら酒を飲んでいる、一人の軽装の男だった。

「あいつが……何か?気になるのか、グラウリー?」
 何故グラウリーがあの男の話を聞いてみたいというのかギマルにはわからなかった。しかしグラウリーは、ああ、少し……と言っただけでそのテーブルの方へ行ってしまう。ギマルもとにかく急いでグラウリーを追いかけた。

「ちょっといいか? 俺達はこれからバルティモナに行くつもりなんだが、最近どんな状況になってるのかもし知ってたら教えてもらえないか?」
 グラウリーは自分のテーブルから持ってきたワインを男の持つ空のグラスに注ぎながら言った。

「バ――バルティモナ……」
 男はその名を聞いた途端、まるで何かを恐れるように眼に見えて動揺した。
「そう。少しばかりハーピーを倒して、羽を持って帰って小金を儲けようと思ってね。ハーピーの羽は丈夫だ。矢の羽にぴったりだからな」
 グラウリーはにやりとしながら椅子に腰掛けた。

「――や、やめておけ……バルティモナは……! 絶対に!」
 男はグラウリーと眼をあわせようとせず、右手に持ったグラスを口に当てた。グラスの口元が揺れているのをグラウリーは見逃さなかった。
「なるほど。最近はハーピーが異常発生しているらしいからな」

「――恐ろしいのは……本当に恐ろしいのはハーピーなんかじゃない……」
 男は聞き取れるかどうかという小さな声でしぼり出すように言った。

「ハーピーなんかじゃ――ない……?」
 グラウリーは初め男に話し掛けた時の陽気で豪胆な顔を捨て、驚くほど冷静な顔になって男の話を聞いていた。その眼は男の話に明らかに強い興味を持っている事を示していた。

「本当に恐ろしいのは――?」
 眼を下に伏せ微かに震える男を促す。既にギマルも男の様子がおかしい事に気付いていた。

「――……!」
 すると男は吐き気を催したように苦しんだ顔をすると、手のグラスをガタリと落とし、眼にうっすらと涙を浮かべた。そしてぶるぶると震える両手を、まるでその存在が嘘であったような怯えた眼で見る。

(この男、絶対変だぞ!)
 ギマルが眼でグラウリーに合図する。しかしグラウリーは手でわかってるといった合図を返しただけだ。がたっと椅子を立った。
「そうか――嫌な事思い出させちまったみたいで悪かったな。この酒……飲んでくれ」
 テーブルから持って来たワインを男のテーブルに置くと、グラウリーとガキマルは自分達のテーブルに戻ろうとした。後ろでは男が「俺のせいじゃない……俺のせいじゃ――……」と呻き声を上げている。


「グラウリー……お前何か知っているのか……?」
 席に戻りながらギマルが聞く。しかしグラウリーは静かな顔をして首を振るだけだ。
「言いたくないなら無理には聞かんがな」
 それきり何となく二人は黙った。テーブルでは仲間達が彼等を見つけて手を振っている。

 全員の集めてきた情報はほぼ一緒であった。最近になってハーピーが異常発生しているらしい事。それで下層の大空洞の広けた場所では、大掛かりな冒険者達との戦いが繰り広げられている事である。

「ここを何とかして超えないと、中層以上なんて行けるはずもない」
 マチスが下層の入り口付近のマップを指差して説明する。このマップは酒場でただで配られているものだ。

「この奥のどこかに中層に通じる道があるはずなんだが……」
 トムも眼鏡をいじりながらくいいるようにマップを見た。
「でもここ数十年間中層に辿り着いた人はおらんのやろ?」
「そうらしいね」
「……も、もしやばかったら引き上げるよね?」
 ラヴィが苦笑いしながら言った。

「期限は一ヶ月あるわけだし……最初は様子をよく見て進んだ方がいいかも……」
「なぁーに天才魔導師の俺様が入れば大丈夫だって!大船に乗った気でいなさい」
「泥舟のような気が……」
「んだとトッティてめー!」
「ぎゃあ!いて、いてて!いてーよ!」
「あーもうそこ!何馬鹿やってんだよ、まったく」
 エイジがトッティのこめかみをぐりぐりするのをうんざりした様子でギマルが制す。
「とにかく実際に見てみないと何とも言えんな」ボケボケマンがワインをあおりながら言う。
「そうだな」
 グラウリーが同意する。

「おっしゃ! じゃ皆バルティモナ制覇、頑張るぞーっ!!」エイジが右手を高々と挙げた。
「お、お――……」
 全く無反応な者、引きつりながら言う者、元気のない者。
 これからバルティモナに入ろうと言うパーティーにしてはいささか団結に欠けていたと言わざるを得ない。ともあれこんな不安定要素を抱えながら彼等は挑む。



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