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「文化祭にて」
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和香がファントムに演技のレッスンをつけてもらうようになってから、和香は演技力がみるみるうちに向上していった。一週間も経つ頃には、もう完璧に役をこなせるようになり、もはや先輩よりも演技が上手くなった。練習の時、先輩はいつも何か言いたそうに和香を見つめるが、演技が上手いので何も言えずじまいだった。
文化祭の前日には主演を完璧にこなせるようになり、部員達からも「お~っ!」と驚かれるほどになった。
「素晴らしい! なんでこんな短期間でこれぐらいできるようになったのか知らないが、とんでもない才能が眠っていたものだ」
「これはもう、主演をやるはずだった先輩よりも上手いんじゃないのかな」
その言葉に、先輩もギギギと歯ぎしりをしていたが、何も言えなかった。
「部長として、君にお願いしたい! 和香君、是非とも今度の文化祭で主演女優をやってもらいたい!」
「俺達からもお願いしたいよ! やってくれ!」
部員達から囲まれ、ちょっと驚く和香。後ろで女先輩だけが不満そうな顔をしていた。
「は、はい……やらせてもらいます……」
多くの部員達に押されながらも、承諾する和香。そして練習が終わった後、帰ろうとする和香に、女先輩が和香を呼び止めた。
「ちょっと、アンタ良い?」
「は、はいなんでしょう……」
「今回の主演女優の件、今回はアンタの方が演技力も上だし、用事があるから仕方なく譲ってあげる。だけどね、アンタ主演女優がどんなに大変かわかる? 大勢の観客の前で、演技をしなきゃいけないのよ?」
「はあ……」
「大勢の人に見られるっていうのはね……とてもじゃないけど練習とは比にならないほどの緊張を感じるのよ……アタシだって最初は緊張しまくったし……」
「そ、そうなんですか!?」
「だから……せめて緊張しないよう頑張りなさいよね。失敗したら……笑いものじゃすまないわよ?」
そう言って去って行った先輩の後ろを見ながら、和香は背筋がゾクッとするような感覚に襲われた。あんなことを言われて、今から緊張が走ってきたのだ。その様子を影から見ていた先輩はというと。
(フフフ……精々緊張して大失敗するがいいわ)
そんなことを思いながら、にやついて小走りで去って行った。一方、緊張が走ってきた和香は、そのまま廃劇場へと向かっていった。
(緊張……してきちゃった……)
緊張が止まらなくなった和香は、なぜかファントムに会いたくなって廃劇場へと足早に向かっていくのであった。
廃劇場は、相変わらず門が半開きになっていて扉が開いていた。廃劇場へと入って、ステージに上がる。
「ファントムさん……どこ?」
すると、奥からピアノの音が聞こえてきた。聞いたことのある音楽で、それはステージの奥から聞こえてきた。ピアノの音が聞こえるということは、恐らくファントムがいると考えた和香は、音のする方向へと向かっていった。いつもはファントムに手を引いてもらって楽屋に行く為、一人で暗闇の中を進むのは気が引けたが、ファントムに会えることを願って、音のする方向へと進んでいった。音が近づくにつれて、引いている音楽がどんな音楽かわかってくる。
(これ……ベートーベンの『月光』……?)
その音楽に引き寄せられるように、和香がたどり着いた先はスタジオ。音楽ははっきりと扉の向こうから聞こえてきた。ドアを開けてスタジオに入ると、そこにはいつも通りシルクハットにマントに燕尾服を着て、ワニのマスクを頭に被ったファントムがいた。
(ファントムさん……ピアノも上手いんだ……)
今まで演技のレッスンしかファントムから受けていなかったため、ピアノを弾く姿が新鮮にも思えた和香。声をかけるのも忘れて、そのピアノ演奏に聞き惚れる。
(まるで、本物のファントム……オペラ座の怪人みたい……)
オペラ座の怪人は、クリスティーヌに音楽の天使として現われ、歌が上手くなるように指導した。和香自身も、ファントムに演技を教わっているのだから、そう思ったのだ。
すると和香はいつしか、演奏が終わるまで聞き惚れてしまっていた。時間がどれだけ経っていたのかはわからなかったが、後ろを振り向いたファントムがビックリした。
「わっ! お、おや和香ちゃんか……いつからそこにいたんだい?」
「ファントムさんがピアノを弾いていた頃から……」
「そうか……」
時間を見てみると、六時三十分を指しており、もうレッスンの時間は残っていなかった。
「レッスンの時間……無くなってしまったね」
「あ、大丈夫です。今日は良いんです。明日、文化祭ですので良ければファントムさんにも来てもらいたいなと思って……それと、明日のことを考えると緊張してしまって……」
「大丈夫だよ、もしまた緊張したのなら私のことと、今まで習ったことを思い出すと良い。それならきっと落ち着くと思うよ」
「は、はい……わかりました。あの……観に来てくれますよね?」
「行くけど……君は私の素顔を知らないから、観に来ていたとしてもわからないかもしれないけどね」
「あ、そうでした……でも、感想、お願いしますね!」
「ああ、わかったよ。今日はもう遅いから帰りたまえ、今までやってきたことを思い出せば、きっと良い演技ができるよ」
「……ありがとうございます」
そして、文化祭当日。和香は自クラスの出し物をしながら、演劇部の公演が迫ってくるのを感じていた。だが、一分一秒、その時が近づいてくると同時に、緊張が高まっていくのも感じていた。
「……」
「和香ちゃんどうしたの? 具合悪いの?」
「な、なんでもない……ただ、演劇部のことが気になって……」
「あ~、代役とはいえ主演女優だもんね。それは緊張するよ。でも大丈夫? 汗凄いよ?」
「……」
和香は昨日、殆ど眠れず今日の文化祭に来た。そして、周りから心配される程の緊張を感じていたようで、実際和香も緊張で具合が悪くなっていた。
(どうしよう……心臓がバクバクいって止まらない……頭が痛い……これで……演技とか、できるのかな……)
不安が更に緊張を煽り、鼓動が更に早鐘を打つ。どうしたらいいのかわからず、それが更に緊張を……の無限ループと化していた。そんな和香の様子を、教室の外から見ている人間がいた、それは白髪の、無精髭を生やした男性で――
「……どうやら、来て良かったみたいだ」
その手には、スーツケースが握られていた。
そして、演劇部の公演がもう一時間前に迫り、衣装に着替えて舞台裏に立ちつくしている和香。演劇部の殆どは、舞台の設定や自分のセリフを覚え直すので精一杯らしく、誰も緊張で具合の悪くなっている和香には目もくれない。
「……」
言葉が出ない。脂汗がじわりと垂れる。水を飲んだり深呼吸をしてもどうにもならない。ただただ時間が過ぎていくのを待つしか無い。誰も居ない舞台裏、一人で直立不動であった。
「……ッ……ッ……」
声を出そうとしても出ない。こんな感じで本当に大丈夫なのだろうか、いくら練習で演技が良くても、このままじゃ……と思い、大声を出そうとしたその瞬間だった。
「!?」
突然、口を手で抑えられ、腕が腰に巻かれてカーテンの後ろに引き込まれた。
「!? ……!?」
「静かに、私だよ」
聞いたことのあるバリトンボイスが、和香の耳元でささやかれた。後ろを見てみると、そこにいたのはワニのマスクを被り、シルクハットにマントに燕尾服を着た、ファントムだった。彼のしていた白い手袋で、口を抑えられているようだった。
「大丈夫、これから私の言うことをよく聞いて……君はあれだけ練習したんだ。私が保証する……私を信じて……」
ファントムが発する甘い声を聞いていると、和香は自然と心が落ち着くような感覚に襲われた。ファントムは、和香の耳元で心を落ち着かせる言葉をささやき、和香を落ち着かせようとする。そして、その言葉が発せられるごとに、和香の心臓は徐々にゆっくりになっていく。
(なんだろう……ファントムさんの声を聞いていると……自然と、落ち着いてくる……)
「君は大丈夫だよ。だからそんなに緊張しなくても良い、練習通りやれば、きっと上手くいく」
「うん……うん……」
「……落ち着いたね? さあ、もうすぐ劇が始まるよ。君の演技を見せてあげなさい」
和香の口から手袋が離れると、すっかり落ち着いた和香がカーテンの裏から出てきた。
「ありがとうございます……ファントムさん」
「何、君の勇姿を観に来たんだ。私がいるのだから、思いっきりやってきなさい」
「はい、わかりました……落ち着きました、見ていてください!」
そして、舞台の幕は上がった。
舞台は終わり、座っている人々は拍手喝采で演劇をたたえた。特に、主演女優であった和香には、誰もが目を見張った。口々に主演女優をたたえる言葉を発した。
そして、演劇部の部員達も皆和香を褒め称えた。
「すげえよ和香! あんなに緊張してたのに、舞台じゃまるで別人だよ!」
「とんでもない主演女優ぶりだったわ! 先輩なんか目じゃないくらい!」
「これからは君が主演女優かも!」
と、口々にみんなにそう言われたものだから、ある意味舞台に立つよりも緊張した。その後の祝賀会も、和香自身の話で持ちきりになっており、その場にいない先輩のことなど誰も話していなかった。
そして、祝賀会を終えて、和香は家に帰ってきた。夕飯でも、和香は両親に演劇のことで褒められた。
「お帰りなさい、今日の文化祭の演劇、凄かったわね! もうみんながあなたに夢中になっちゃって!」
「そ、そんな大げさだよ……私はただ台本通りに演技しただけだし……」
「いいや、凄かったぞ。一緒に見ていた父さんも思わず唸っちゃったよ」
「お父さんまで……」
といった具合に、両親も喜んでいた。だが、母がいきなりこんなことを言いだした。
「あの文化祭に行って良かったわ。何しろ元有名人にも会えたんだもの」
ステージで誰かが呼ばれたのかな? と和香自身は思っていたが、それは違っていた。
「白井隼人さんがこの文化祭に来ていたのを見たんだから! 数年前に引退してから随分ご無沙汰で無精髭も生やしていたんだけれど、一目見て、あの人自身だってわかったわ!」
「でも、あの人スーツケースなんか持っていたけれど、何が入っていたんだろうか?」
「きっと何かの出し物でもあったんじゃない?」
(白井隼人さん……? あのテレビに出ていた、名優の?)
その時、和香の中で何かがつながった。あの時テレビから聞こえた、ファントムと同じ声、そして学校の文化祭で目撃されたこと、最後にいきなり自分の後ろに現われたファントム……考えれば考える程、ぴったりとつながっていった。
(あの劇場にいたファントムの正体って、まさか……)
文化祭の前日には主演を完璧にこなせるようになり、部員達からも「お~っ!」と驚かれるほどになった。
「素晴らしい! なんでこんな短期間でこれぐらいできるようになったのか知らないが、とんでもない才能が眠っていたものだ」
「これはもう、主演をやるはずだった先輩よりも上手いんじゃないのかな」
その言葉に、先輩もギギギと歯ぎしりをしていたが、何も言えなかった。
「部長として、君にお願いしたい! 和香君、是非とも今度の文化祭で主演女優をやってもらいたい!」
「俺達からもお願いしたいよ! やってくれ!」
部員達から囲まれ、ちょっと驚く和香。後ろで女先輩だけが不満そうな顔をしていた。
「は、はい……やらせてもらいます……」
多くの部員達に押されながらも、承諾する和香。そして練習が終わった後、帰ろうとする和香に、女先輩が和香を呼び止めた。
「ちょっと、アンタ良い?」
「は、はいなんでしょう……」
「今回の主演女優の件、今回はアンタの方が演技力も上だし、用事があるから仕方なく譲ってあげる。だけどね、アンタ主演女優がどんなに大変かわかる? 大勢の観客の前で、演技をしなきゃいけないのよ?」
「はあ……」
「大勢の人に見られるっていうのはね……とてもじゃないけど練習とは比にならないほどの緊張を感じるのよ……アタシだって最初は緊張しまくったし……」
「そ、そうなんですか!?」
「だから……せめて緊張しないよう頑張りなさいよね。失敗したら……笑いものじゃすまないわよ?」
そう言って去って行った先輩の後ろを見ながら、和香は背筋がゾクッとするような感覚に襲われた。あんなことを言われて、今から緊張が走ってきたのだ。その様子を影から見ていた先輩はというと。
(フフフ……精々緊張して大失敗するがいいわ)
そんなことを思いながら、にやついて小走りで去って行った。一方、緊張が走ってきた和香は、そのまま廃劇場へと向かっていった。
(緊張……してきちゃった……)
緊張が止まらなくなった和香は、なぜかファントムに会いたくなって廃劇場へと足早に向かっていくのであった。
廃劇場は、相変わらず門が半開きになっていて扉が開いていた。廃劇場へと入って、ステージに上がる。
「ファントムさん……どこ?」
すると、奥からピアノの音が聞こえてきた。聞いたことのある音楽で、それはステージの奥から聞こえてきた。ピアノの音が聞こえるということは、恐らくファントムがいると考えた和香は、音のする方向へと向かっていった。いつもはファントムに手を引いてもらって楽屋に行く為、一人で暗闇の中を進むのは気が引けたが、ファントムに会えることを願って、音のする方向へと進んでいった。音が近づくにつれて、引いている音楽がどんな音楽かわかってくる。
(これ……ベートーベンの『月光』……?)
その音楽に引き寄せられるように、和香がたどり着いた先はスタジオ。音楽ははっきりと扉の向こうから聞こえてきた。ドアを開けてスタジオに入ると、そこにはいつも通りシルクハットにマントに燕尾服を着て、ワニのマスクを頭に被ったファントムがいた。
(ファントムさん……ピアノも上手いんだ……)
今まで演技のレッスンしかファントムから受けていなかったため、ピアノを弾く姿が新鮮にも思えた和香。声をかけるのも忘れて、そのピアノ演奏に聞き惚れる。
(まるで、本物のファントム……オペラ座の怪人みたい……)
オペラ座の怪人は、クリスティーヌに音楽の天使として現われ、歌が上手くなるように指導した。和香自身も、ファントムに演技を教わっているのだから、そう思ったのだ。
すると和香はいつしか、演奏が終わるまで聞き惚れてしまっていた。時間がどれだけ経っていたのかはわからなかったが、後ろを振り向いたファントムがビックリした。
「わっ! お、おや和香ちゃんか……いつからそこにいたんだい?」
「ファントムさんがピアノを弾いていた頃から……」
「そうか……」
時間を見てみると、六時三十分を指しており、もうレッスンの時間は残っていなかった。
「レッスンの時間……無くなってしまったね」
「あ、大丈夫です。今日は良いんです。明日、文化祭ですので良ければファントムさんにも来てもらいたいなと思って……それと、明日のことを考えると緊張してしまって……」
「大丈夫だよ、もしまた緊張したのなら私のことと、今まで習ったことを思い出すと良い。それならきっと落ち着くと思うよ」
「は、はい……わかりました。あの……観に来てくれますよね?」
「行くけど……君は私の素顔を知らないから、観に来ていたとしてもわからないかもしれないけどね」
「あ、そうでした……でも、感想、お願いしますね!」
「ああ、わかったよ。今日はもう遅いから帰りたまえ、今までやってきたことを思い出せば、きっと良い演技ができるよ」
「……ありがとうございます」
そして、文化祭当日。和香は自クラスの出し物をしながら、演劇部の公演が迫ってくるのを感じていた。だが、一分一秒、その時が近づいてくると同時に、緊張が高まっていくのも感じていた。
「……」
「和香ちゃんどうしたの? 具合悪いの?」
「な、なんでもない……ただ、演劇部のことが気になって……」
「あ~、代役とはいえ主演女優だもんね。それは緊張するよ。でも大丈夫? 汗凄いよ?」
「……」
和香は昨日、殆ど眠れず今日の文化祭に来た。そして、周りから心配される程の緊張を感じていたようで、実際和香も緊張で具合が悪くなっていた。
(どうしよう……心臓がバクバクいって止まらない……頭が痛い……これで……演技とか、できるのかな……)
不安が更に緊張を煽り、鼓動が更に早鐘を打つ。どうしたらいいのかわからず、それが更に緊張を……の無限ループと化していた。そんな和香の様子を、教室の外から見ている人間がいた、それは白髪の、無精髭を生やした男性で――
「……どうやら、来て良かったみたいだ」
その手には、スーツケースが握られていた。
そして、演劇部の公演がもう一時間前に迫り、衣装に着替えて舞台裏に立ちつくしている和香。演劇部の殆どは、舞台の設定や自分のセリフを覚え直すので精一杯らしく、誰も緊張で具合の悪くなっている和香には目もくれない。
「……」
言葉が出ない。脂汗がじわりと垂れる。水を飲んだり深呼吸をしてもどうにもならない。ただただ時間が過ぎていくのを待つしか無い。誰も居ない舞台裏、一人で直立不動であった。
「……ッ……ッ……」
声を出そうとしても出ない。こんな感じで本当に大丈夫なのだろうか、いくら練習で演技が良くても、このままじゃ……と思い、大声を出そうとしたその瞬間だった。
「!?」
突然、口を手で抑えられ、腕が腰に巻かれてカーテンの後ろに引き込まれた。
「!? ……!?」
「静かに、私だよ」
聞いたことのあるバリトンボイスが、和香の耳元でささやかれた。後ろを見てみると、そこにいたのはワニのマスクを被り、シルクハットにマントに燕尾服を着た、ファントムだった。彼のしていた白い手袋で、口を抑えられているようだった。
「大丈夫、これから私の言うことをよく聞いて……君はあれだけ練習したんだ。私が保証する……私を信じて……」
ファントムが発する甘い声を聞いていると、和香は自然と心が落ち着くような感覚に襲われた。ファントムは、和香の耳元で心を落ち着かせる言葉をささやき、和香を落ち着かせようとする。そして、その言葉が発せられるごとに、和香の心臓は徐々にゆっくりになっていく。
(なんだろう……ファントムさんの声を聞いていると……自然と、落ち着いてくる……)
「君は大丈夫だよ。だからそんなに緊張しなくても良い、練習通りやれば、きっと上手くいく」
「うん……うん……」
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和香の口から手袋が離れると、すっかり落ち着いた和香がカーテンの裏から出てきた。
「ありがとうございます……ファントムさん」
「何、君の勇姿を観に来たんだ。私がいるのだから、思いっきりやってきなさい」
「はい、わかりました……落ち着きました、見ていてください!」
そして、舞台の幕は上がった。
舞台は終わり、座っている人々は拍手喝采で演劇をたたえた。特に、主演女優であった和香には、誰もが目を見張った。口々に主演女優をたたえる言葉を発した。
そして、演劇部の部員達も皆和香を褒め称えた。
「すげえよ和香! あんなに緊張してたのに、舞台じゃまるで別人だよ!」
「とんでもない主演女優ぶりだったわ! 先輩なんか目じゃないくらい!」
「これからは君が主演女優かも!」
と、口々にみんなにそう言われたものだから、ある意味舞台に立つよりも緊張した。その後の祝賀会も、和香自身の話で持ちきりになっており、その場にいない先輩のことなど誰も話していなかった。
そして、祝賀会を終えて、和香は家に帰ってきた。夕飯でも、和香は両親に演劇のことで褒められた。
「お帰りなさい、今日の文化祭の演劇、凄かったわね! もうみんながあなたに夢中になっちゃって!」
「そ、そんな大げさだよ……私はただ台本通りに演技しただけだし……」
「いいや、凄かったぞ。一緒に見ていた父さんも思わず唸っちゃったよ」
「お父さんまで……」
といった具合に、両親も喜んでいた。だが、母がいきなりこんなことを言いだした。
「あの文化祭に行って良かったわ。何しろ元有名人にも会えたんだもの」
ステージで誰かが呼ばれたのかな? と和香自身は思っていたが、それは違っていた。
「白井隼人さんがこの文化祭に来ていたのを見たんだから! 数年前に引退してから随分ご無沙汰で無精髭も生やしていたんだけれど、一目見て、あの人自身だってわかったわ!」
「でも、あの人スーツケースなんか持っていたけれど、何が入っていたんだろうか?」
「きっと何かの出し物でもあったんじゃない?」
(白井隼人さん……? あのテレビに出ていた、名優の?)
その時、和香の中で何かがつながった。あの時テレビから聞こえた、ファントムと同じ声、そして学校の文化祭で目撃されたこと、最後にいきなり自分の後ろに現われたファントム……考えれば考える程、ぴったりとつながっていった。
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