世界を半分やるから魔王を殺れ

KING

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第7話「魔王の理想ヒトの幻想」

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コツーーン...コツーーン...コツーーン...
(また...聞こえる...)
【オマエノ命ハモウジキ尽キル...】
(どーも死神さん、ところで俺は死にかけてるのか...?)
【ソンナ事ハドウデモイイ...早ク ワタシニ魂ヲ預ケロ サモナクバ魂ハ行キ場ヲ無クシ彷徨イ続ケル事二ナルゾ】
(いや、いいよ あんたと会うのは何度目だろうな?死神と言っても何体もいるのか?お前のお仲間さんも俺が死にかける度にその取引持ちかけてくるよな~...もう手口は分かってる...あっちの世界におかえり願おうか)
【冥界ヲ...永遠ノ孤独ヲ恐レヌト言ウノカ?】
(そう言うわけじゃない ただ、この世に未練がある...それだけだ...)
【仕方ガナイ...今回ハ手ヲ引コウ...ダガ、
一ツ言ッテオコウ コレカラオマエノ人生に
大キナ狂イガ生ジル苦難ノ道ヲ歩ミタクナイノナラバ アノ男ニハ ツイテイカナイ方ガイイ】
(おう、よく分からんが...ご苦労さん)
コツーーン
コツーーーン
コツーーーーン
コツーーーーーン
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おーい、起きろー おっさん?」
全身黒の男が顔を覗き込んでいる
ゼルクの目はぼやけてよく見えない だが、習慣として身体を腕で支えて立ち上がろうとする。
「ううっ...⁉︎」
しかし、動かすことまではできるが身体を起き上がらせるほどの力はなくなっていて少し持ち上がった後背中を地面に落としてしまう
上には吸い込まれそうな夜空が見える つまり今は屋外にいるというわけだ、なぜ俺は屋外で寝てるんだ?とゼルクは思った。
「ほらほら大丈夫か?まだあんたは立ち上がれるほど回復してねえよ~ 休んでな おっさん」
「さっきからおっさんおっさんって...誰だ?てめぇ.........うわぁ!?」
ゼルクは突然のことに自分でも出したことのないような声が腹の底から出た。
「び...っくりしたー...」
レイヴンはそのケガ人の出した声に思わず後ずさる
「お前は!」
とっさにゼルクは居合い斬りのフォームに入る しかし、手元にはなにも無く空気を握っただけになった。
「落ち着けって...あんたの剣はもうねえよ...どさくさに紛れて溶けちまったみてえだ」
両手を前に向けて静止させるジェスチャーを送ると
ゼルクは姿勢を元に戻し「イテテ...」と言いながら首を回し、レイヴンのことを見る。
「まぁ...今はいい...たしかレイヴンだったな...?お前の名は」
ゼルクの声には落ち着きが戻っており
穏やかとはいえないが少なくとも命を張ってでも喉笛を食いちぎってやろうというレベルの殺意は治まっているようだ。
「ン!覚えててくれてたか!」
レイヴンは嬉しげに口角を上げ 喜ぶがゼルクはそれを無視して話を進めていく
「俺を殺さなかった件についてはまあいい...お前は俺を仲間にしたいって言ってたもんな...信じよう だがな、なぜ俺は今生きてる?俺の横っ腹は奴に吹っ飛ばされて傷口から骨が見えるほどの大怪我だったはずだ」
そういってゼルクは自分の腹をさする そこには、あるはずの傷が無く痛みも無い
そのことに気づいて訊ねずにはいられないだろう
ジッとゼルクに見つめられてレイヴンは頭をボリボリかきながら話し始める
「ああ それオレの肉だ」
「え?」
レイヴンはさらっと狂気的なセリフを言ってのけた。
ゼルクは少々戸惑い 視線を動かし、もう一度自分の腹を見る
よく見ると腹には溶接したかのような不自然な痕がうっすらと残っていて、なにかしらの方法で肉と肉を接合したのがうかがえた。
そして、レイヴンの戦いを見ていたゼルクには 接合した方法の見当がすぐにつく。
「お前の魔術『武装』は...他人にも使えるのか...!」
「イエ~~ス」
レイヴンは陽気な返事とともにサムズアップする
接合された部分を触るとブヨブヨした質感がある 無理やり繋いだからまだ馴染んでない
ようだ。
「なら...お前の体の肉はどうしたんだ?あれだけの傷を治しのだ相当な量の肉を消費したんじゃないのか?」
「なぁに、心配ご無用!」
レイヴンはすっくと立ち上がると服をめくり上げ腹を見せる、そこにはゼルクの腹にあるのと同じな『武装』させた痕が浮かんでいる。
「改めて言うがオレの能力は『武装』だ
触れたモノを自分の身体として使いこなせるたとえ液体だろうが気体だろうがな」
レイヴンはゼルクの周りを円を描くように一周しながら能力説明を始めた
命を狙っている相手に対してここまで介護した上に能力の詳細まで開けっぴろげとは信頼を得るために生き急ぎ過ぎなんじゃないだろうか?
「だが、オレにも『武装』できない物も多々ある、その代表的なものが『生物』だ
もし生物を武装したい場合には相手の許可を得なくてはならない」
ゼルクはさっきから黙りこくって聞いている
「だけど許可を得なくても武装が可能になる条件が1つだけある...それは...」
レイヴンは袖をまくりあげると手に魔力を集めた
「相手を殺して10分以内にその肉体を取り込む...ただそれだけだ」
魔力エネルギーは炎に様相を変え、緑に光り輝く それはレイヴンの弟エビルの『硫炎』の炎そのものを手にしている
そうだ、これこそレイヴンの『武装』能力の真骨頂!殺した相手の力をどんどん手に入れて無限に強くなり続ける 
搾取の概念の頂点であり原点の力!
「驚いたな...」
ゼルクは素直に一言感想を述べた
と、言うよりもため息が出るように自然と
出てしまったセリフだ、圧倒的なモノは人間を素直にする。
「ここまでオレの秘密を喋ったんだ...
もう一度返答を聞かせてくれ...
世界を半分やるから魔王を殺りに行ってくれるか?」
レイヴンのそのよどみない願いにゼルクは
少し考え込む
かつて仲間を殺した魔物が自分に対して魔王を倒そうと命をはって頼み込んでいる状況に再度混乱しているのだ
表情はいつもの仏頂面だが心の中は大慌てで情報の整理に取り掛かる
魔王は果てし無く強い、しかし、レイヴンも無限に強くなり続ける
レイヴンは人類の敵だ、しかし、兄弟であるエビルに反抗し、さらには人間を守るような行動をしていた...この不確定要素は信じて良いのか...?
たっぷり...とは言っても約10秒考え込んで
口にする言葉はひどく素直なものだった。
「お前の理想...魔王を倒した後どうしたいか..
その返答次第でどっちか決める事にするよ」
そう聞かれたレイヴンはパチンと手のひらに拳を打ち付けると 不敵に笑い答を返す。
「親父と逆なことをする!」
「気に入ったぜ...!」
夜風が建物の隙間を抜けていく、この季節はもうすぐ夏、暖かい空気が二人の首すじを撫でる。
ゼルクは少なくとも今はレイヴンを認めた
何を思ったか傷ついた身体にムチを入れ
ゼルクは立ち上がろうとする。
その姿をレイヴンは黙って眺めている、その目には心配、ましてや警戒の色は無い その傷ついた身体でゼルクが次に何をしたいのかをわかっている風だ。
「よいしょっ...と」
顔をしかめながら立ち上がると まず服についたホコリなどをはらう そのキレイにした服でゼルクは手をこすり汚れを落とす。
代わりに灰色がかったゼルクの服のすそは少し黒く汚れたが 服が汚れるくらいは気にしないタイプの男だ。
スッ...
そして、ゼルクはキレイにした手を穴だらけの黒い服を着たレイヴンに差し伸べる。
レイヴンは迷う事なくその手を握りしめる
手加減が難しいのか、さすがに魔族の握力は強く正直痛いがゼルクはそのしっかりとした手を握り返した。
「申し遅れたな...俺の名前はゼルク、自分で言うのは変な感じがするが『神の腕』という意味だ...お前の事を今は信じよう...!」
「改めて名乗らせてもらう、オレの名前は
レイヴン、名前の意味は黒...漆黒という意味だ...よろしくな...ゼルク」
固く、それはもう固く結ばれた握手の共戦同盟はこれからどうなるのだろうか?
魔王の理想が叶い 世界は今の逆...つまり
魔の力からの解放か...?それともこれはただゼルクが騙されているだけのヒトの脆く儚い幻想なのか?
その答えはきっと握られた手の中にあるんだろう。
二人とも手を離すとレイヴンは懐を漁り、中から 一本の瓶を取り出した。
「なあ、おっさん 乾杯しようぜ」
「ふん、あの酒場からギッてきたのか?」
「へへへ まあね、でも 全焼する前に火を消してやったんだこれくらい安い!安い!」
レイヴンの口には軽口が戻る、割れかけの
グラスを2つ地面に並べるとそのグラスに
なみなみと酒をついだ その酒は
「見たら分かる高いやつやん!」とどっかのお祭り男が言い放つだろうと思う程見るからに高級感溢れるワインだ きっとどさくさに紛れて店の中で一番高いやつを抜き取ったのだろう。
ワインには高く上がった夜空の月が浮かんでいた。
ワインの色に染められて赤くなっている月
「おっ、今日は満月か...」
一体誰が酒場で酒を飲んでいただけで魔王軍との戦いに巻き込まれると予想するだろうか?
大きく輝くあのお月様だろうと知る由も
無かったはずだ。
「満月にはいい酒が似合う...」
そう呟くとゼルクはグラスを胸の高さまで
持ち上げた。
「それじゃあ...」
レイヴンはグラスを持つとこれまでにないほど穏やかな笑みを浮かべる。
「オレたちの同盟に...」
「ついでに満月にも」
「「乾杯」」

To Be Continued→
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