世界を半分やるから魔王を殺れ

KING

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第8話「路地裏の光と闇」

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前回共戦同盟の契りを交わした2人は街のビル群を抜けていた。
想像する魔王がいるような中世期の世界では無い
西暦2018年れっきとした平成時代である。
私たちが住む世界は基本世界と呼ばれ、人間が食物連鎖の頂点に立っている世界線だ
しかし、基本世界があるならば並行世界がある、無限の可能性があるならば その可能性と同じ数だけ無限に世界が産まれる
シュミレーターのような物と思えば理解しやすいだろう。
この世界線では人間ではなく魔族が食物連鎖の頂点に立っている 歴史の教科書にも魔族は載っており、原始人の誕生とともに産まれた戦闘生物と考えられ 魔族は人間が突然変異して産まれた超生物だと論じる科学者もいる
だが、悲しいものだ その研究が正しければ
結局進化しても人間は他のモノを虐げながら生きることしかできないのだ
他の科学者も言った、人間は環境に適応するのではなく自分が適応できる環境を創り出す生き物なのだと
魔族の創り出す環境は他の生命にはハード
すぎる
しかもここ100年間での進化は凄まじく
圧倒的スピードで進められた開拓は地球の半分以上を砂漠化させてしまい何種類もの生物を絶滅させていき、必死の抵抗を見せた人類も元の数の3割程度まで減った。
数で攻めても無駄 文明で対抗しようにも魔族の方が発展している、全くもって崩す隙のない軍団だ。
「おい、レイヴン今更だが追手とかは大丈夫なのか?」
「あー、多分大丈夫!あいつらは手柄を独り占めにしようとしてる連中だからオレを見つけても誰にも言ってないと思うぜ」
「『多分』...大丈夫か...やれやれ...」
魔族には血の繋がりを大切にする文化は無い
なぜなら誰も彼もが長く生き続けるからだ
子供が独り立ちできる年齢になると親は子を捨てる、もともと治安の悪い魔の国は子供だろうが容赦なく痛めつける その厳しい環境に耐え抜いた者だけが生き残り
そして数百年に渡って生き続けその力の限りを魔王に捧げる、そんな奴らが10億人いる
連中に先陣切って立ち向かう2人はなんとも絶望的というか無謀というか...
それでも、ゼルクはついて行く
このことを他人が聞いたら
「気でも違ったか」とか
「洗脳でもされたか」
なんて言われるのだろう。
しかし、ゼルクには『覚悟』がある
覚悟とは己を犠牲にするだけの事を言うのではない 覚悟とは恐怖を認め、我が物とする事

「......なぁ、なぜお前はあの時...俺の仲間を殺したんだ?魔王に反旗を翻すならば
『頂正軍』を見逃しても良かったんじゃないのか?」
2人は路地裏を抜けて繁華街に抜けていこうとしていた。
道は繁華街の光を受けてほのかに明るいが...その光が路地裏の闇をよりいっそう際立てる
言葉に詰まるレイヴンは闇の中に立ち止まりゼルクもつられて繁華街の木漏れ日の中で
立ち止まった。
「...魔族は人間が進化した末の姿だって論文知ってるか?」
口を開いたレイヴンは唐突に先ほど述べた
論文の事を口にした
「まあ...な」
ゼルクも当然その事を知っている
魔族に復讐する時のために片っ端から魔族に関する書物を読み漁っていたからだ。
「オレ達は、自分の魔力を他人に授ける事ができるんだ、それは魔族の者に使えばパワーアップさせる事が出来るが...魔力を持たない人間に使えば高確率で死ぬ...」
「だったらなぜ...」
「まだ、途中だ聞いてくれ...」
重々しい雰囲気になりレイヴンはいつもの笑みを浮かべなくなった。
空気はこの2人を中心に取り囲み、渦巻く
ただならぬ雰囲気を感じてかネズミ1匹近づかない
「悪い...」
「それでだ、人間の中にも魔力に適応する者がいる...それがゼルク...あんたを含めた5人だったってわけだ」
2人の体から稲光のように発される魔力
その源は生命エネルギーだ、長い時間を生きる魔族にだけ許された戦闘方法
当たり前だが生命エネルギーを体外に放出すればするほど寿命が縮んでいく
少なくとも 長くて100年かそこらまでしか生きない人間が使いこなせるはずのない能力なのだ。
『頂正軍』が1500人中5人生き残った事から適合者は300人に1人だがこの数字でさえ奇跡的な程の確率なのだ。
なぜなら『頂正軍』は強者の集まり
その中でも300人に1人なのだから一般人での生存確率はゼロと言っても過言ではない。
「そうか...」
ゼルクは眼を伏せて足元のコンクリートを見つめる
魔族から地球を解放するためには必要な犠牲ではあった
しかし、人間の命は数字では無い その数字には それぞれの道筋があり、人生がある
足し算引き算で説明をつけるにはあまりにも難しい判断だった
善悪の話では無く気持ちの問題だ。
「......オレの勝手な計画の為に幾人もの命を奪ってしまった、本当に...悪い事をしたと思っている...」
レイヴンの声は喋るごとに涙声になっていく暗い路地裏で1人の超生物が涙している
その奇妙な光景を世界でただ1人ゼルクだけが認識する。
「もういい...この話は悪いだとか悪く無いだとかそんな揺らぎ続ける概念では表す事が出来ない事柄なんだからな...」
そう言ってゼルクはレイヴンの美しい黒髪をぐしゃぐしゃになで付ける
「お前がやった事を俺はきっと永遠に許せないそれだけは覚えとけ......だが、光の中で生きたいのならば陰を作る覚悟が必要だ、これまで陰の中で生きてきたお前は目がくらむだろうが...それでもついて来い」
パッと頭から手を離すとパンパンと手を払いながら路地裏を出ていく
ゼルクは指でレイヴンを招く、「早く来いよ置いてくぞ」などと声をかけながら
レイヴンは滲む目でそれを認めると
涙を拭き、待ってくれよと言いながら駆け寄っていく
顔にはいつもの意地悪く牙を見せつけるような笑みが戻っている。
傷と黒の男2人の陰は光の中に消えてゆく...

To Be Continued→
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