世界を半分やるから魔王を殺れ

KING

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第9話「一休みと試練」

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黒く鬱陶しげな前髪を垂らしながら隣の男は呑気にいびきをかいていた
その頬まで垂れている前髪を引っ張って頭を揺らし起こしてやる。
「着いたぜ、起きろ レイヴン」
「...ん?ぅおう...クァア・・・」
起きてすぐ大口を開けて大あくび ゼルクもつられてあくびを漏らした。
「道に出るぞ」
酒場近くの駅から電車で15分ゼルクの住む町に着いた
現在夜10時で道には人っ子ひとりいない
しかし、ゼルク曰く昼ごろは子供が公園で遊べるほど平和で賑わっているそうだ。
「お、今日は運がいい1ヶ月に一度通るかどうかのタクシーだ」
ゼルクが右手をあげると駅前を走っている
タクシーがキッと音を立てて2人の前で止まりドアが開かれる
そこに乗り込むとゼルクは行き先を運転手に伝える
ふと横を見るとレイヴンが興味津々といった感じで窓の外を眺めていた。
「そんなに外の景色が珍しいか?」
「ああ、人間界への外出は基本的に禁止だからな...魔族の間では人間界はうち(魔族)より100年遅れてるって馬鹿にされてたけど 言うほどではないみたいだ...」
「ふーん...」
タクシーのライトは夜闇を掻き分けながら道を進んでいく
「そういや急に家に帰るとか言い出した理由聞いてなかったな、なんで?」
窓枠から手を離しその手をゼルクの肩にまわして問いかける
馴れ馴れしいやつだな...
「いろいろ用意しなきゃいけない物があるからな...特に金!お前が一銭も持ってないなんてな...あの酒場の支払いどうする気だったんだよ...?」
肩にまわされた手をはがしながら指をレイヴンの鼻先に突きつけ文句を言いつける。
だがレイヴンはニヤニヤしているだけで何も答えない
「ふん、まったく......おっと!」
ガクンと車全体が揺れた
車が停止したからだ
「着きましたよ、お客さん」
「どうもね」
車を降りるとマンションの前だ。
「ここがお前ん家か」
「いや、これ丸ごと俺の家ってわけじゃないからな?」
「えっ!?だとしたら相当小ちゃくなか?」
「魔王様のセレブ感覚で物を言われてもな・・・」
懐を探りながらゼルクは階段を登っていく
鍵を無くしてないといいのだが...と考えながら
「あったあった」
チャリ...と小さな音を立てながら鈴が付いた鍵をドアノブの鍵穴に差し込みガチャリと
ドアを開け、いつもの習慣で「ただいま...」と誰もいない部屋に帰った事を伝える。
「狭っ!」
レイヴンはと言うと部屋に入るなり第一声がこれであった、失礼極まりない
そう言う割にはズカズカとリビングへ上がり込んでいく。
「ここで住んでんのか?この部屋俺の部屋の風呂より狭いじゃねーか!」
「だから...セレブ感覚で物を言う...」
「うおっ!?何だこれ!」
「聞けよ...」
部屋の中の珍しい物をかたっぱしから手に取る無邪気な王子様を横目にゼルクは焼け焦げた服を脱ぎ捨てた
体には無数に刻まれた傷 今日できた火傷と
同じくらいの大きさの傷まである。
魔族のトップクラスの実力を持った魔王の息子の一人エビルと正面から向き合って
勝利したのは魔力の力のおかげ だけではなく
確実な実力、そしてそれに伴った 我流剣術『飛燕』のおかげだろう。
いったいどれほどの修行をしたのか
そして、何度死神と顔を合わせたのか
計り知れない。
脱いだ服をゴミ箱に捨てると部屋の角に配置してある クローゼットを開けて中から長袖のシャツを出し、身につけた
さらに、クローゼットの
そのまた奥にしまってある大きなリュックを引き出し、背負う
「おい、セントウ行くぞ」
「えっ!?戦闘ゥ!!?」
レイヴンはさっきまでいじっていたガラクタを床に置くと嬉々とした表情で立ち上がった
「どうする?どの辺りから潰して行く?」
シュッ!シュッ!と空中に拳を打ち出しながらゼルクに攻撃対象を尋ねる。
「や、すまん...そっちじゃないセントウはセントウでも風呂の方の銭湯だ」
........................................
................................
......................
................
.........
.....
カッポーーン
「って音あるじゃん?アニメとかドラマとかで温泉入った時の」
「ああ、あるな...」
「あれ、何の音なんだろ~な?」
「風呂桶を置いた音なんじゃないか?」
「ん~~なるほど...」
湯船に肩まで浸かり2人はどうでもいいような会話を繰り広げていた。
「と言うかここ日本だったんだなぁ...銭湯
あるなんて...本とかでしか読んでないし」
「魔族の侵略から逃れるために国境関係なく逃げたからなぁ人類は...実は俺アメリカ人
なんだ...」
「へぇ~...ボンジュール?」
「それはフランス語だ」
「知ってる」
「ふっ・・・ふふふふふ、どういう事だよ」
マジでどうでもいい
他のお客さんは2人の身体が傷だらけだからヤクザと勘違いしていつの間にか出て行ってしまい、現在2人の貸切状態だ。
「荷物は用意した事だし...願掛けで風呂に
入って身も清めたし...これからどうするんだレイヴン」
「そうだな...おっさんの他に生き残った人間は5人と言ったが...実は他の4人は魔力を使いこなしてる状態とは言えない感じらしい...」
そう言ってからレイヴンは湯船から立ち上がる
「むう...」
ゼルクもそれについて行き、更衣室へ場を
移す。
「力に振り回されてるか力尽きたか、力を
恐れて魔力を封印しちまってる...」
「俺のように魔力を使える人間はいないって事か?」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーー」
ぶおおおおお~~
「話の途中で扇風機に顔を近づけるな」
扇風機のスイッチを切り、着替えながら世界を救う話が進んで行く
こんな状況でやっていいような話なのか...?
「いや、それがそうじゃない奴が1人だけいるらしくてな...部下に調べさせたんだが・・・あ、これ飲んでいいやつ?タダ?」
湯立つ指先でフルーツ牛乳などが入っている小さな冷蔵庫を差す
「興味深いな...詳細はわかるのか?・・・牛乳飲みたいなら金がいるぞ、俺もついでにビール買うか...」
レイヴンに隣立ち、ビールの缶を取り出し ロッカーから財布を探す。
「適合者5人のうちの2人が夫婦でな...その子供が能力を受け継いで、しかも使いこなせているそうなんだ」
「そいつは驚いた」
ゼルクが一言話すうちにレイヴンは一気に牛乳を飲み干してしまう
それと合わせてゼルクも一気に缶の中身を開ける
この飲み方は腹を下しそうで心配だ。
「ふぅ、でだ、その子は現在18歳、ピッチピチギャルなんだが...どうにか仲間にできんもんかね...」
「お前の言い方が援交オヤジみたいで気になるが・・・女か...戦いに巻き込むなんて事はなるべくしたくないんだが」
「おっさんって結構フェミニストなんだな まあ、オレもそうだが・・・なりふり構っていられねぇし、そうも言ってられないだろ?」
「それに、仲間を増やすのもいいが上等な武器も必要だ、家にある刀じゃせいぜい倒せるのは中堅までだ 上級兵やお前のような特級達を正面から迎えられる持ち合わせは無い」
「スライムは別に素手でも倒せるだろ、あんたなら」
「そういう話をしてるんじゃない」
ゼルクは飲み干した空き缶を人差し指と親指で軽々と潰し、空き缶入れに放り込む
音を立ててホールインワンだ
「これから相手をしていくのはスライムとか下級魔物でなく、魔界から送り続けてくるであろう上級魔物やそれを統率するお前の兄弟達、そんな違いすぎる軍力差を埋めるためには不確定要素の多い仲間を増やすより強力な武器を手に入れる方が確実だ」
話を続けながら着替えを済ませ、クシで髪をとかしながら次の目的を決める
「そうか、そうだな...ならオレ良いところ
知ってるぜ」
レイヴンもゼルクに借りた服に着替えると
ドクロの装飾が入った腕時計をいじった後
前にかざした。
ドクロの眼球のない目から光が射されると
更衣室の大きな鏡に地図が映り込む
「それ、プロジェクターだったのか?」
「いやいや、他にも便利な機能ついてるぜ 通信機能とか カメラとか」
得意げにレイヴンはゼルクにドクロ時計を
見せびらかす
どんなに高性能でも、やはりデザインの趣味が悪い
「で、その良いところってどこなんだ?」
「ああ、それはだな...」
鏡に映った地図は日本列島で、レイヴンが指し示したのは『静岡県』の場所であった。
「静岡に何があるんだ?」
「ヒント、山に関する物だ」
「そうだな、有名なやつなら富士山とか...」
「そう、そのとうりだ!」
レイヴンはまたドクロをいじると地図がズームされる
拡大され、映るのは ご存知富士山
日本一の山で知らぬ日本人はいないだろう。
「そいつがどうしたんだ?」
「フフフ、『竹取物語』って知ってるか?」
「ああ、じいさんが竹切って生まれた女が成金どもに無理難題をふっかけて挙げ句の果てに月に帰っちまうって話だったかな 確か」
「フゥ~☆毒舌ぅ~♪」
竹取物語とは...大体今ゼルクが言ったことであっているが、みんな忘れがちなのが最後にかぐや姫はおじいさんとおばあさんに不老不死の薬を渡し、月に帰って行ったのだ。
しかし、かぐや姫のいない世界で不老不死を手に入れても仕方がないと思い、侍たちに
依頼して日本で一番高い山 つまり富士山で
その不老不死の薬を焼いた 不老不死の薬は
いつまでも燃え続けずっと煙を上げ続けているそうだ。
「で!オレ達魔族はその話に出てくる不死の薬、そいつは伝説じゃなくマジに存在したってのを発見したのよ そしてその薬による副産物 聖剣『永命剣』の存在もキャッチした」
力強くその名を口にすると、フフンと得意げに鼻をならす
ドヤ顔を決めこむレイヴンを前にゼルクは首を傾げた。
「なんだそりゃ?」
『永命剣』とはッ!
焼いた薬の上に登山隊のリーダーを務めた侍が目印か何かにするためなのか ぶっ刺した剣だ。
不死薬が焼ける煙で炙られてその力が移り
世にも奇妙な絶対に破壊できない不朽の剣となった
汚れたものを拭い去る力を持っており
触れた魔力を打ち消す。
その能力を恐れた魔族は人間に剣が渡らないように富士山を常に100人の兵士で固めていてさらには山を切り崩し、マグマの中に封印してある。
回収は絶望的だろう
「...大体わかった...で、勝算はあるのか?」
「自信はあるぜ?世界を半分賭けてもいい!勝算は戦ってみてのお楽しみってね♪」
「......楽しみにしとくか」
ロッカーから荷物を取り出し2人は銭湯を後にした
とりあえず静岡県に向かう終電が終わっているのでホテルに向かう。
「なんか...長い3時間だったなぁ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ホーク様、クロウ様...エビル様が死亡したと報告が入りました...」
暗い部屋の中、紫色に燃えるロウソクに照らされて豪華な椅子に座る2人の男の顔が浮かび上がった。
「へぇ~多分レイヴンの仕業だよなぁ...ハハッ、やっぱあいつぶっ飛んでるよ!そう思うだろ、クロウ?」
黄金色の髪をした男は知らせを笑う、顔にはもちろん牙、そしてこの男のツノの形は短く3本前に向かって生えている
そしてクロウと呼ばれた男は口を開いた。
「イカれてる」
「だよなぁ~!?」
クロウの目は白目の部分が黒で黒目の部分は赤く沈み、目だけでなく髪から服装まで全身黒い
その特徴的なツノは特に闇で染め上げたかの様に真っ黒で部屋の陰に溶け込んでいる。
「さて、オレらもいくか」
「褒美は...山分け...だから...な?」
ゼルクとレイヴンに鷹と烏の試練が訪れる
苦難の道はまだ始まったばかり...

To Be Continued→
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