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第13話「その男グラン」
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富士山火口付近、ここの平均気温は80度を超えていて非常に蒸し暑い、更に足元を這うように進むマグマは1000度
身を穿つようなだるい空気の中、強者はしっかりと地面にふんじばって立っていた。
「ふん.........」
2人が睨みつける中、グランは両手を下にさげるように向け、ふわりと浮かんだ
その横には惑星の周りを回る衛星のように
100kgはあろうかという岩がいくつも付いて回っている。
「レイヴンよ...何故魔王様を裏切った?」
緊迫した空気の中グランの一言がレイヴンの耳に飛び込む
より一層険しくなる表情に空気は重くなる一方だ。
「オレの前で...」
レイヴンの目が妖しく光る
殺意の意思が魔力として瞳に現れているのだ
「あいつの名を出してんじゃねえぜ!」
飛びかかろうと脚に力を入れ、いざ飛び上がろうとした時、脚から力が抜けていった。
「落ち着け、お前と魔王に何があったかは知らんが不用意に近づくには危険だ」
ゼルクがレイヴンの脚から感覚を奪った
「まずは敵の能力が判明してからだわかったか?」
「お、おう...すまねぇ頭に血が上っちまってたようだ」
感情的になっているレイヴンをなだめるような口調になるが顔は緊張感で引き締まっている。
「ふん...まあいい...もうそれもどうでも良いことよ...」
岩がグランを中心にグルグルと高速で回りだし、魔力を纏う。
「これからどうせ殺されるのだからなぁ!」
手の動きで岩の動きを操り、岩の向きを全てレイヴンにロックオンし、狙いを地面より10m上の空中から定めた。
「魔王家に生まれていれば世界を支配していたであろうと言われる我が力...とくと味わうがいい!」
叫びと共にレイヴンを指差す、それと同時に岩は圧倒的質量を持ってしてレイヴンを押しつぶそうと迫る。
「石ころを飛ばすのがお前の能力か?」
立ち上がったレイヴンはゼルクになだめられたおかげで随分冷静になっていた
そして、その必殺の拳で巨岩を粉砕する。
「むうううううん!!!」
今砕いた岩に続いて更に無数の流弾のように魔力弾が飛びかかっていく
ゼルクは、というと流れ弾に当たらぬようレイヴンの背後に隠れる。
「いくら飛ばしても同じだ!!」
叫ぶ声と共に黒い腕が岩を破壊していく
石塊が飛び散り、魔力のぶつかる黒い火花が散る
「ダァアッ!!!」
地面から岩が次々と飛んでくるので手を休める暇もなく撃ち落としていく
その飛び交う岩の陰に人影が...
「レイヴン!岩陰だ!」
ゼルクは飛んでくる岩の中に見えた人影の腕をガシっと掴み上げる
岩を飛ばしながらその中に紛れ、レイヴンにくらわせる作戦だったようだがこの短期間で鋭さの戻ったゼルクの五感をもってすれば見抜く事は簡単だった。
「ククク...おしいおしい...」
攻撃を防がれたにもかかわらずゼルクの目の前で喉に引っかかるような笑い方をするグラン、不気味だが、追い詰められているのは事実これからどうしてくるのか?
「随分と余裕だな...これから解体されるってのに」
ゼルクは慣れた手つきで熟練ガンマンのように右手でナイフを抜き、顔面めがけて先端を突き抜く。
「『加重』」
「ウオォっ!?」
だが...その瞬間、体が激しく重くなる
体がその重さに耐えきれずその場に手をついて動けなくなってしまった。
「解体だって?フハハ、それは誰の話だ?反逆者...お前か?私の方ではないがな...!」
「てめえ!なにしやがった!」
続いてレイヴンの切れ味のある手刀が襲いかかってくるがグランは頭を下げ、躱す
「動きが鈍ったんじゃないか?レイヴンよ」
そのまま身を屈め、振り返りざまにむき出しになった腹を目掛けて重い一発を叩き込む
ザザザ...
と滑るように後退する程のパワーだったが拳を撃ち込まれた所に足元の岩石を武装し、ダメージは最小限に落としている。
「鈍いのはお前のパンチの方じゃねえのか?」
そう言いながら腹部をなでおろす
だが、それを見てもグランはニヤリと口元を歪めている
「何がおかしい...?」
「いや、なに...これで貴様ら2人とも私の術中にはまったと思ってな...」
「なんだと...?おぉっ!?」
ズン!
と体が突然重たくなる
「重い...!」
角から滲み出るような魔力はゼルクとレイヴンの体を呪縛し、動きに制限をつける。
2人の怪力をもってしても立ち上がることも叶わない程に魔力の出力に差があった。
「そうか...これは、お前の能力は...『重力』か...」
口を開いたのはゼルクで
地面に脚をめり込ませながらグランを睨みつける
「そうだが...もう能力を理解しても遅いな」
体重に耐えきれず脚がひび割れ、肉に尖った岩が食い込み血が吹き出した
「ヌアアアアアア!!溶かして溶岩と一緒に流してやるぜッ!」
レイヴンは手のひら全体を地面に擦り、火をつける
そして、魔力を水鉄砲の要領で『血濡れの太陽(ブラッディサン)』を撃ち出す。
「魔力とは、属性の相性などではなく出力での勝負だ、ぶつけ合わせた時に出力の大きい方が押し勝てる!」
グランの手はヴーーン...と揺れて空気が重くなる
「知ってるか?大きすぎるものというのは小さいものよりずっと気づかれにくいということを」
すると、レイヴンの放った『硫酸』は手をかざされるだけで直角に起動が曲がり地面を溶かした。
「なんだと?」
驚きながらもう一度重たい腕を持ち上げて炎を放つ
しかし、やはり手をかざされるだけで炎が落ちる、よく見てみると炎には魔力が巻きついて落としていた。
「これは...!」
「そうだ、これが私の能力、『重力』というものだ あらゆるものに作用し様々なものの基準となっている、私の魔力はすでに空気を媒体としてこの空間、半径20kmを支配している!」
勝ち誇るグランの後ろで更に大量の岩が浮かび上がった
レイヴンの目には久々に感じられる死の恐怖が映る
「さあ!虫けらのように、魔王様を裏切った事を後悔しながら死んでいけ!」
グランが手を振り下ろし、岩を飛ばすその瞬間目の前に人影が飛び込んできた
あまりにも早かったので硬いはずの地面が削れ、風が吹き荒れた。
「ったく...しょうがねえなぁ~!」
レイヴンの目の前にはいつもの口癖を呟きながらグランの腕を受け止めている男の後ろ姿が映る。
くすんだ金髪に鍛えた腕、そして、その肉体を覆っているのは正義の心を表しているような黄金の魔力
まごう事なきゼルクその人であった。
「『感覚夢双』は1日に何度も使う技じゃないんだがなぁ...」
「貴様...人間のくせに魔力を使い、更には私の『重力』を跳ね除けたというのか?」
「あーー...もういい、そのリアクション飽きたぜ」
お決まりの驚愕したリアクションには目もくれずゼルクは三歩分跳びのき、独特の構えで追撃の姿勢を見せる。
「後の予定が詰まってんだ、さっさと殺してやるから大人しくしてろよ」
「ほぉお~?大人しくねえ...」
グランは再度体を浮かし始め、そこからゼルクに手を向けた
「大人しくするのはいったいどっちだと思うね?」
ズズンッッ!
手をかざされただけでゼルクはまたしても黒い重力の触手に捕らえられ、膝を折ることになってしまった。
「テメー!男が正面からやろうっつってんだぞ正々堂々勝負しやがれ!」
2人から少し離れた場所からレイヴンが野次を飛ばす
だが、当然だがグランはすっかり冷たい表情だ。
「黙っていろ、この虫けらを叩き潰したら次は貴様なのだからな 涙流して楽しみにしていろよ」
手を天にかざすとまた岩が触れずして持ち上がり...一瞬の溜めがあった後、手を振り下ろし一斉に、一点集中で岩石を落とす。
ドドドドドドドド!!!!!
岩そのものの重さでさえ100kgを超えているのにそれをグランは『重力』の加重により
2倍3倍と重さと落下パワーを増させていた。
普通ならひとたまりもないが...
「反逆者一名死亡...次は裏切り者だな...」
「グググ...この程度のことで...」
グランは空中でクルリと体の向きを変えると頭を上げることすらできなくなっているレイヴンに手を向けた。
しかし、その後ろから...
「誰が、反逆者だって?誰が死んだって?」
という太々しい声が聞こえてきた。
「貴様ぁ...いつのまに...」
振り返るとマグマの垂れる溶岩の近くに立つ傷の男、ゼルクがいる
完全に仕留めたと勘違いしていたグランは深くプライドが傷つき意図せず牙を剥いてしまう。
「なぁ~に、テメェの攻撃がヌルすぎた...
ただそれだけよ...」
その声が耳に届く頃にはグランの体は魔力の黒く輝く光闇で覆われていて、周辺には魔力が充満していた。
「フフフ...私をここまで怒らせた奴は貴様が初めてだよ...反逆者ァ...!」
「それはそれは...光栄なこった」
それを弾き返すように刺々しい動きをみせるゼルクのエネルギー
『感覚夢双』は肉体から限界以上の力を無理やり引き出し、後の後遺症と引き換えに最強の力をもたらす荒技中の荒技だ。
そのパワーが『重力』を追い越しているおかげでゼルクはこうして立てているのだ。
「いいだろう、貴様にはこのグランが直々に引導を渡してくれる」
地面が揺れ始めた。
「御託はいい...速くかかってこい」
硬い岩盤にさえヒビが入り、その辺の石ころは自分の重さに耐えきれなくなりどんどん粉々になっていく。
そして...
「私こそが世界の中心地だ」
意味深なセリフを言ってグランは飛び上がるゼルクは狩猟者の視線で動きを追う
「つまり、私はいくらでも地球のルールに逆らい 好き放題やれるのさ」
グランは立っていた
しかし、空中に立てっているのではなく浮いている岩の裏側に、つまり こちらから見ると逆立ちの状態になっている。
「むちゃくちゃなのは 俺も同じだぜ!」
ゼルクは地面を蹴る
体に重力が絡みつき、元の『感覚夢双』と比べて遅くなってはいるが、それでも軽々と音速を超えていた。
「『飛燕流...啄連斬』!!」
ナイフを目にも止まらぬスピードで連突するグランはそれを見切ると魔力を込めた両手で全撃を受け止める
魔力を纏った手のひらとぶつかり合う度にナイフがすり減っていき、空中にとどまっていられるのも一瞬だけだ、すぐに体が地面に落ちる。
「ハァー...ハァハァ...」
息を切らせるゼルクを見て逆さまの姿勢のままグランはにやける。
「魔族に立ち向かう人間だからどれほど強いのかと思ったら...大したことはない...ただ、魔力が使えるだけではないか」
浮く岩の側面を歩いて岩の上部分に立つと指揮者のように手を構え、鼻歌交じりにゼルクを指差した。
「全弾発射」
グランの側に浮く岩が束になって襲いかかってくる、一つ一つが即死級の破壊力を持っていて近づくのはヤバイ
「だが、俺は違う...」
ゼルクはまず、跳ぶ
そして、高速で向かってくる岩をさらに早い動きで足場にし、岩の弾幕を抜けてグランの元へと再度たどり着いた。
「さぁて!もう一度手合わせ願おうか?」
ナイフを向け、それ以上に鋭い目つきでグランに襲いかかる
「ほう、面白い...盛り上がってきたなぁ!」
足場にしていた岩から体を浮かし、ゼルクの一撃を避ける
後ろに飛び降りたその先には岩の群集でできた壁がそびえ立ち、浮いていた。
その壁に足をかける、壁は切り立った崖のように垂直だがグランは重力を自在に操る能力、物理法則やらなんやらを無視して壁を横向きに走っていく。
「私の足が付く場所は...全てが足場になる」
「逃すかッ!」
攻撃を外したゼルクは壁に飛び移ると足を杭のように壁に打ち込み壁走りを繰り出した。
体に掛かる重力の縛を力技で捩じ伏せ、グランを追う
通常スピードで走るグランよりも肉体強化をしているゼルクの方が早いようで、どんどん追いついていく。
だが、ゼルクはグランの背中に嫌な予感を感じて攻撃を踏みとどまっていた。
「ハァハァハァ...」
度重なる戦いと負傷で体力の限界も近い速やかにトドメを刺さなくてはゼルクの命の方が危険にさらされてしまう。
「よくここまで追ってくるな...」
そう言ってグランはその場に足を止めた
走っているうち高度が上がっており、今は山頂から80m程離れた
突風が吹き荒れ、体を打つ
「ここまで登ってくれば...ここから落ちれば流石に貴様も助かるまい」
「さあ?どうだろうな...案外いけるかも」
そんな口を叩き、さらに一歩間を詰める
ついに互いの距離は目と鼻の先、下に目をやると赤々と光るマグマが見えた
アレに生身で飛び込むとなると...
ゴクリとツバを飲み込む...
「じゃあ、試してみるか?」
パチン!
グランが指を鳴らすと足場がガラガラと音を立てて崩れ落ち、グランの足元の岩だけがフワフワと浮いている。
「これくらいのことは予想済みだぜ...!」
天から遠ざかっていく視界に歯止めをかけるようにゼルクは姿勢を立て直す
服を荒々しく破り捨てるとそこには腰にベルトと一緒にロープが巻かれていた。
そのロープをナイフの柄の部分にグルグル巻きにするとグランの立つ足場目掛けて放り投げる。
ビュッ!っと風切り音を立て、ナイフは飛んでいく
「そんな分かりやすい小細工を見逃すと思うか?」
グランは声を落下中のゼルクに聞こえるように張り上げるとナイフに手をかざし、重力をかける
当然重くなったナイフは目標地に届く前にカクンと曲がって下に落ちる
「そう...それでいいんだ!」
ナイフとくくりつけた縄に引っ張られてゼルクは真下に落ちていくと思ったがそれは違った
「うおおぉ!?」
十数m上でグランが突然体制を崩した、もちろん偶然ではないゼルクの作戦だ。
敵を策に上手くハメたゼルクはしてやったりと得意げに笑う。
「こっ...これはぁぁ!??」
突然のことに一時混乱する
強い力に引っ張られているのだ
ジリジリと足を引っ張られて落とされそうになるグラン その目下には縄にぶら下がって停止しているゼルクの姿が見えた
「お前にこの縄と繋がせてもらったぞ その釣り糸とな!」
ピッ!っと指差した先に見えるものはグランの足に巻き付いた釣り糸だった。
「いつの間に!」
「そのご自慢の能力でなんとかしてみたらどうだ」
この状況は偶然ではなくゼルクが意図的に作り出した罠だ。
ゼルクはグランの後ろを追いかけている間にポケットの中に入れておいた釣り糸を輪っか状にしてグランの進行方向上に投げる、ここで気付かれそうなもんだが光は紫色をした雲に遮断されてほとんど反射しない、つまり元から見えにくい釣り糸はほぼ無可視の罠となる。
そして、輪っかにした釣り糸と腰のロープとを結んで繋げれば簡易な命綱の完成だ
ゼルクが一定の距離離れると自動的に足元の釣り糸が一直線に戻ろうとしてグランの足に巻きつく、そして縄とつながっているのでナイフに巻きつけた縄に重力をかければかける程グランを引っ張る力が強くなっていくという寸法だ。
「はっ...一瞬驚いたが...たかが一本の糸だ、トリックがバレてしまえばどうということはない」
グランは引きずられながらも糸を手繰り寄せそれに手刀をくらわす
細い糸はその一撃にいともたやすくプチンと音を立て、切れる それを命綱にしていたゼルクも当然落ちていき その光景を嘲笑いながら見つめるグラン...そうなるはずだった。
「ううっ!?」
釣り糸が攻撃したグランの手に食い込み血が吹き出た
だが、痛みがない
「糸の硬度を上げるように魔力を流し込んでおいた、そして...かかったな!!」
グランの脚から感覚が消えていく
「なぁ!?」
踏ん張りが効かなくなり、引っ張られる力そのままに足場から身が飛び出した。
それを見て数十m下のゼルクはニヤリとした笑みを見せ、思いっきり縄を引っ張り、手繰り寄せた。
「『無感覚』!釣り糸に仕込んどいた魔力がお前の下半身から感覚を奪い...そして結果的にお前の命さえも奪う!」
「ウワァァアアアア!!!!」
グランが足を離したことにより、より集めの足場はガラガラと崩れていく
関係ないが、ふと ゼルクは昔見た映画《天空の城ラピュタ》のラストシーンを思い浮かべた。あの城が崩れるシーンにムスカがちゃんと写っているというのは本当なのだろうか?それをこの世界で調べるには開いているのかすら怪しいTSUTAYAを見つけない限りないだろう。
「御命頂戴しようか!」
「生意気なぁ...!」
2人は心もとない空中に放り出され、最後の決着をつけるべく魔力を解放する。
マグマ突入まで後8秒
ゼルクからグランまでの距離10m
「ヌゥゥアアッ!」
突然!グランはその鋭い手刀で釣り糸の絡まった足を膝の少し上部分で切り落とす
先ほどの出血とは比べものにならないほど脚から血が溢れる、ダムが決壊したかのようだ。
感覚がなくなっているので痛みはない、ただ虚無感が脚にある
足に絡まっていた釣り糸と文字どうり関係を絶ったわけだ。
「そしてッ!『無重力』(ゼロ.グラビティ)」
重力がグランを中心として歪み、ここは地球にもかかわらず無重力状態を生み出した。
その中心地にいるグランの落下がピタリ!と空中で静止し、逆にふわりと浮く
これではゼルクが1人だけでマグマに突っ込んでいってしまう。
「貴様は人を驚かす天才だな だが、私を倒すにはあと一歩アイディアが足りない そんなイカサマ師には人生最期に私からのありがたいプレゼントだ、涙を流して喜ぶがいい」
見下した視線をとともに口の端を曲げ、ゼルクを指差した。
すると、空からゴマのような黒い物体が...
「て、てんめぇ...!」
その黒い粒のように見えた物はグングン視界に迫って来てはじめてそれが石だとわかった
大きさは直径30cm位だが、個数はピザに振りかけるブラックペッパーのように無数に降りかかってくる、しかも元の数十倍の重力と速度をもってして。
マグマ突入まで後7秒
ゼルクからグランまでの距離15m
「やれるか・・・いや、やるしかない『飛燕流...啄連斬』!!」
早々とナイフを抜き去り、迫る石の数々にゼルクは必死になって斬撃を繰り返すが、13個目の石を叩き斬ったところでナイフに致命的な亀裂が入り、15個目を斬ったときついにガラスのように砕け散ってしまう。
「く、クソ...が......うわぁぁぁぁ!!!!」
残った石はゼルクの体を貫いていくボコンボコンと穴が開いていき、おびただしい出血の量が宙に舞った。
「やっと終わったか...」
ため息を吐くように呟くと無重力空間の中で血を撒き散らしながら落ちていく戦士の姿をロクに見もせずグランも降下し、地に降り立とうとしたが...その油断が命運を分けた。
「ウッッオオオオオオオオオオオオ!!」
ゼルクは地面に響く程の叫びとともに全能力を持ってして、ロープを振り回した
先端には加重により500kgを超えたナイフがぶら下がっているにもかかわらず...
全身傷だらけで血が吹き出しているにもかかわらず...
魔力が...命が尽きようとしているにもかかわらずにその地獄の谷で綱渡りをしている命を削りながら一手を下す。
「刺されェッ!」
「なんだ!と!?」
弧を描いてナイフはグランの胸を貫いた
ロープの長さギリギリ、決死の一撃は成功したのだ。
グランの体はゼルクと重力の重さに引っ張られナイフに貫かれたまま落ちていく
この一撃、ナイフには『無感覚』を使っておらず胸から溢れる血と痛みの嫌な感覚に顔を歪めた。
「ウ...アァァアア!!貴様ぁ!グフッ...さっさとくたばれ!死に損ないがァァッ!」
口汚く罵倒するグラン、そして半径20kgに広げていた範囲内の魔力を全て体に集中させた
次の一撃はこれまでとは比べものにならないほどの一撃がくる。
「本性を現したな?その凶暴な面こそが魔族としてのお前の正体のようだな、余裕ぶってないで殺しにこい...!」
ゼルクが挑発するが、もう挑発をしてもしなくても攻撃は始まる
「『獰猛重力』(バトル.グラビティ)!!!」
空気がズドン!と重くなり耳鳴りがキーンと鳴った
次に空気中に見えない渦が出現し、ゼルクの体に巻きつき締め上げる。そのパワーは何人もの格闘家に押さえつけられているかのようだ。
マグマ突入まで後3秒
ゼルクからグランまでの距離5m
「『感覚夢双』!限界の更にその先を突き抜けるッ!」
体内から、スポンジを絞った時のように魔力が飛び出した、その圧倒される程のエネルギー量は貧弱な人間の肉体を守る
その周りでは、ゼルクを取り囲んで『獰猛重力(バトル.グラビティ)』が暴れ狂う
命を削る代わりに出現させた魔力の厚い防壁が絶え間ない攻撃からゼルクを守りはするがいつ破壊されるかわからない、魔力は保っても疲労によってゼルクが気絶するかも知れない そうなれば元も子も無いのだ。
「むうう!さっさと死ねと言っているだろうがよお!!『獰猛重力』(バトル.グラビティ)最大出力だ!!!!」
マグマ突入まで後2秒程のところでグランが勝負に出る
最大出力で撃ち出された重力波は開かない扉を無理やりたたき壊そうとする怪力男のように崩そうとぶつかってくるのだ。
魔力で守られていたゼルクの強張った身体に切り傷や打撲された痕など様々な傷が出現し始めた。重力を使えばあらゆる苦痛を与えることが可能で...
その影響により腹の中が混ぜられているような嫌な気分だ、こうなりゃいっそ諦めてしまおうかと思ったが、それはゼルクのプライドが引き留め再度グランに立ち向かう勇気を奮い立たせた。
「残念だが...ここで時間切れだ 俺も、お前もな...」
ついに火口下に入る、まだマグマに触れてはいないが近づいただけで背中に焼ける感覚が文字どうり焼きついた。
「決着はこの地獄でつけようか...!!」
ゼルクはググンッ!とロープを引っ張り、お互いの距離を限りなく近づける。
ゼルクからグランへの距離あと30cm...
そして
脚でグランの胴体を逃さないように掴みこんむ。
「わァァァァァ!!!離せぇッ!」
マグマ突入まで後...0.1...0.08...0.02...0.005
ドッポーーン!!
あまりにも長すぎる8秒を経て2人は掴み絡みつ灼熱の海に墜落してしまう。
2人を中心にして溶流の中に魔力の壁が広がった。
「なぁ、お前は我慢比べは得意か?どっちが長く持つかな?先に魔力の尽きた方が死ぬわけだが...」
熱いだのなんだの言ってられない熱量が問答無用で2人を包み込んだ。
魔力を鎧のように纏えばマグマにやられること無く耐え忍ぶことができるが、いかんせん両者とも体力、魔力ともに消耗が激しい、
後少しの間だけこの地獄で闘うことが許されるであろう。
「ここまで、ここまでやるとはな!いいだろう、特別だ 貴様には特別に奥の手を見せてくれる!覚悟しろ!!『無限の重力』(グラビティ.マスター)!」
グランは自分の胸に拳を打ち込んだ
衝撃で肺から漏れた空気はマグマの中を泡として登っていく。
もう手元にはナイフもロープも無い、魔力に包まれているおかげで燃えていない服だけが無事で、手元の武器と呼べるものは全て溶けてしまった。
「ぐ...オオッ!」
自らに攻撃を食らわしたグランは1人で悶えていた、なぜこのような事を行なったのか?
普通は疑問に思うだろう。
しかし、ゼルクは突然の行動に怯みもせず
足場のないこの場を一直線に突っ切ってグランに拳を向けた。
マグマを掻き分け、水圧を上回る圧力!
灼熱をも上回る熱血の闘志と共に・・・
「は!?」
だが、拳は空振り、溶岩を切っただけに終わる。
それだけではない、目の前からグランが消えていた。そう、移動したという気配はなく、忽然と消えたように見えた。
「これが我が奥の手...!」
「な...に?」
後ろで少し波が立ったように感じ、振り返るが
背に衝撃走る。
「うげぁアァ!!!」
背骨にヒビでも入ったか、激痛と共にゼルクは海老反りの体制になって溶岩中を滑るように吹っ飛んだ。
「おっと、離れすぎじゃないか?」
反った視線の端に捉えたのはこちらに手を広げて向けるグランの姿だった。
途端に体はグランの元に引き寄せられる、まるで吸い込まれるように...
「やはり、真性の魔族と魔族のなりそこないでは基本性能が違うようだな...何もかもが貴様は私の格下だ」
不思議な現象に引っ張られたゼルクはグランのそのデカイ手に頭を掴まれる、ミシミシと頭蓋骨が軋む音が頭に響く。
さっきまでこちらに風が吹いていたはずなのに...コレはマズイと思えてきた。
痛みに口を開けると血と一緒に泡が漏れ出ていき、マグマの水面に消えていく。
「て......め...何ィしやがった!」
頭を掴む腕を折るつもりで、必死に握ると
手の中にあった感触が途端に消える。
「は...!?」
確かにゼルクは触れていた、触れていたはずなのにもかかわらず移動する気配を悟らせないままグランはまた後方に移動していた。
「驚いたか?いや、驚いたろう...貴様には想像つかないだろうが、これこそが私の切り札中の切り札、『無限の重力』(グラビティ.マスター)だ その名の通り 重力を自らの手足、足場、道具として扱える『感覚』を奪うだけの貴様の能力では到底太刀打ちできない領域の能力だ...!」
ゼルクはその力に息を飲んだ
手を伸ばしても届かない種族値としての差
これを埋めるためには相当の努力が必要なのはかつて全滅させられた『頂正軍』出身者であるゼルクが一番よく理解していた。
(そうだ...人間がその差を埋めるために...これまでやってきた事はなんだ...?)
「どれ、もう一発いっとくか?」
「グエッ!」
グランの重力ない拳がゼルクの腹に突き刺さった
重力を究極に軽くするということはそれだけスピードを上げられるということ、つまり無制限に速くなり続ける。
(そうだ...人間がやってきたのは単純な努力だけではない!)
「サヨナラを言ってやる、だから戻ってこいよ!」
吹っ飛び、無抵抗になったゼルクに手を向ける、すると手のひらの中で重力が圧縮されて自らの重さに耐えきれなくなり重力崩壊を起こした。
重力崩壊を起こした物はその残りカスとしてブラックホールを残す、その引力は目標を正確に手中へと誘い 世界のルールとも言える重力の暴力がグシャグシャに握りつぶす、まるでアルミ缶を潰すように。
だが、追い詰められているはずのゼルクは顔に笑みを浮かべていた。
「見つけたぜ逆転の女神を...!」
そう言うと手を背後に回して何かを握った。
「なっ...!?」
ゼルクが右腕を振り払うと
グランの右腕がマグマの宙を舞った
マグマの岩をも溶かす温度に負けて蒸発するように溶け出し、消えていく。
「そう、人間が種族間での力の差を埋める為にやってきたことは修行だけではない」
その手には神々しく光る剣が...しっかりと握られていた。
「武器、それがもっとも人類が力を入れてきた技術!」
その黒の柄に黄金色の刀身を有した美しき剣
妖艶な流線的フォルムを有する刀身は刀だというのに、妙な色気が漂っている。
その剣の名は『永命剣』
ゼルクとレイヴンが反撃の始まりとして欲した地球上無敵の剣である
それが遂にゼルクの手に渡った。
「そ、それは...私たちが命がけで守っていた不死の剣...!」
「あぁ、名を言われなくてもわかる『永命剣』これがこいつの名だ、そしてそれを運んできてくれたのは他でもないテメェ自身なんだぜ」
グランの作った小型ブラックホールは本人も知らぬうちにマグマの中を漂う『永命剣』を引き寄せていた。
そして、ゼルクがそれに手を伸ばし手中に収める...
いや、それは違うのかもしれない 偶然ではなく必然、ゼルクが見つけたのではなくゼルクが『永命剣』に選ばれたのかもしれない
それは確かめようがないがその方がなぜか納得できてしまうのだ。
「だがなぁ!だったら!どうだというのだ!?たかが剣一本!直ぐに貴様を殺して再度封印してくれるわッ!」
グランは焦り切った様子で魔力と冷や汗を吹き出ささせた
重力を曲げてゼルクの背後に瞬間移動し、
加速した拳が背に向かって繰り出される。
「『飛燕流...燕返し』...!」
グランの目の前を閃光走る
「は...早い...!」
そう言ったグランの左目は光を失った、目で追えない速度で眼球を破壊されたのだ。
その傷口からは血ではなく代わりに硝煙のようなものが立ち上っていて、傷の周りに破壊痕は無く、破壊と言うより消し去ったと言った方が正しいような傷跡であった。
「なるほど、穢れを清めるとはこういうことか」
何か理解したような様子でうんうんと頭を縦に降るゼルク
さっきまでの死に損ないとはまるで違った魔力を漂わせていた。
「よくも、よくもよくも!よくもッ!オレの顔に傷をつけたな!!!この、魔族のなりぞこないがァァァ!!!!」
グランの喉は大声を出すという肉体の要求に耐えられず張り裂け、血が口から吹き出した
途端に2人の間には異質な重力が発動する
それに巻き込まれているにもかかわらずゼルクは引かず『永命剣』を敵の眼前に突きつけた。
「いいだろう、最強の技で来い...こちらは
最高の一撃を持ってしてそのプライドと生命を沈めてくれよう!」
重力の振動は山を揺らし、国を揺らし、地球奥深くのマントルまで揺らし出した。
「『ヘヴィ...
「『飛燕流...
グランは手のひらをゼルクに向け
ゼルクはグランに切っ先を向けた
殺意と闘気が刹那に合間見える。
ブラスターー』!!!!」
奥義!零戦燕』!!!!」
グランの拳は重力を取り払い、無限の加速と際限なく強大化するパワーを保ちつつ
マグマを突っ切り標的を襲撃する。
ゼルクの一撃は真っ直ぐに見えて しかし、飛び回る燕のように流動的な動きをして急所を狙い斬る
勝負は一瞬、すれ違いざまに勝負はつく。
「フゥ・・・ッ!」
プチンと音を立てて細胞が破壊された音が静寂の赤熱に響く。
すると一方が口からゴボッと大量のあぶくを吹き出した。
「そ......それが...」
灼熱の中から魔力が引いていく
肺から漏れ出たような、掠れた声がすると
その体は燃え始める。
「それが...貴様の...進む道か...?」
一瞬のせめぎ合いに破れたのは防衛隊リーダーグランであった
グランの生命が抜けていく体はマグマの奥底に沈みながら徐々に崩れ、消えていく。
胸にはゼルクの一太刀がしっかりと刻み込まれていた。
やっと、『永命剣』を巡っての闘いは終わったのだ。
「ああ、そうだ...そしてお前はこれからの戦いへの踏み台だ、光栄に思ってもらいたいね」
突き放すようにそう伝えるとグランは楽しそうに笑う
「ククク...そうか...自ら困難の道を選ぶと言うのだな...」
ポロポロとグランの体は身崩れをおこし、魔力が尽きかけているのが一目瞭然だ
しかし、その顔にさっきまでの怒りや焦燥は見受けられない。
「ふふふ...負けるってのは悔しいなぁ...久しぶりの闘いは鈍っていたなりに楽しめた...」
「やれやれ、鈍っていてこれか...自分で選んだとは言え...やんなっちまうぜ」
ボコンとグランの体は分解され始めた
「ああ...そろそろ私の人生も終わってしまうのか...」
「苦しいのか?」
「いいや、痛みはないさ、貴様の能力のおかげでな...」
「死ぬのは怖いか?」
「そうでもないさ、ただな...もうちょっと生きれたはずと思うと...勿体無く思えてきてしまうだけだよ...」
グランの体から魔力が途絶えた
そうなれば魔族といえども生身、マグマをまともに受けて生きていられるはずがない。
「さ...ら......ば...だ...地獄で...貴様がく...るの......を楽しみに...しといて...や...る...」
そう言い残すとグランは熱にさらされた雪のように跡形もなく溶け去った。
「.........安らかに眠れ」
剣を胸に当て目を瞑り、祈った。
ゼルクの手に残るのは彩色憐憫な光を放つ剣『永命剣』一つだった、マグマに数百年沈められていても溶けない頑丈さ
そして、魔族の肉体を溶かすアンチ能力を持った古代兵器といっても過言ではない。
人間界解放のための布石を一つ手にしたのだった。
「オォーーーイ!!!おっさんよぉ~~!」
少しずつ沈んでいくゼルクに聞きなれた声が届いた、オペラ歌手のようによく通る男の声だ。
「迎えが遅せぇじゃねえかレイヴン」
こちらに向かって泳いでくる男に手を向けるとやっと闘いに勝ったのだと安心できた
地球の血液の中、揺られながら上を目指して泳いで行く
たまには迷うかも知れないが
心に未練と勇気がある限り2人の快進撃は止まることはないだろう
これからどんな試練が待ち受け、どんな絶望が口を開けていようとも
希望ある限り
To Be Continued→
身を穿つようなだるい空気の中、強者はしっかりと地面にふんじばって立っていた。
「ふん.........」
2人が睨みつける中、グランは両手を下にさげるように向け、ふわりと浮かんだ
その横には惑星の周りを回る衛星のように
100kgはあろうかという岩がいくつも付いて回っている。
「レイヴンよ...何故魔王様を裏切った?」
緊迫した空気の中グランの一言がレイヴンの耳に飛び込む
より一層険しくなる表情に空気は重くなる一方だ。
「オレの前で...」
レイヴンの目が妖しく光る
殺意の意思が魔力として瞳に現れているのだ
「あいつの名を出してんじゃねえぜ!」
飛びかかろうと脚に力を入れ、いざ飛び上がろうとした時、脚から力が抜けていった。
「落ち着け、お前と魔王に何があったかは知らんが不用意に近づくには危険だ」
ゼルクがレイヴンの脚から感覚を奪った
「まずは敵の能力が判明してからだわかったか?」
「お、おう...すまねぇ頭に血が上っちまってたようだ」
感情的になっているレイヴンをなだめるような口調になるが顔は緊張感で引き締まっている。
「ふん...まあいい...もうそれもどうでも良いことよ...」
岩がグランを中心にグルグルと高速で回りだし、魔力を纏う。
「これからどうせ殺されるのだからなぁ!」
手の動きで岩の動きを操り、岩の向きを全てレイヴンにロックオンし、狙いを地面より10m上の空中から定めた。
「魔王家に生まれていれば世界を支配していたであろうと言われる我が力...とくと味わうがいい!」
叫びと共にレイヴンを指差す、それと同時に岩は圧倒的質量を持ってしてレイヴンを押しつぶそうと迫る。
「石ころを飛ばすのがお前の能力か?」
立ち上がったレイヴンはゼルクになだめられたおかげで随分冷静になっていた
そして、その必殺の拳で巨岩を粉砕する。
「むうううううん!!!」
今砕いた岩に続いて更に無数の流弾のように魔力弾が飛びかかっていく
ゼルクは、というと流れ弾に当たらぬようレイヴンの背後に隠れる。
「いくら飛ばしても同じだ!!」
叫ぶ声と共に黒い腕が岩を破壊していく
石塊が飛び散り、魔力のぶつかる黒い火花が散る
「ダァアッ!!!」
地面から岩が次々と飛んでくるので手を休める暇もなく撃ち落としていく
その飛び交う岩の陰に人影が...
「レイヴン!岩陰だ!」
ゼルクは飛んでくる岩の中に見えた人影の腕をガシっと掴み上げる
岩を飛ばしながらその中に紛れ、レイヴンにくらわせる作戦だったようだがこの短期間で鋭さの戻ったゼルクの五感をもってすれば見抜く事は簡単だった。
「ククク...おしいおしい...」
攻撃を防がれたにもかかわらずゼルクの目の前で喉に引っかかるような笑い方をするグラン、不気味だが、追い詰められているのは事実これからどうしてくるのか?
「随分と余裕だな...これから解体されるってのに」
ゼルクは慣れた手つきで熟練ガンマンのように右手でナイフを抜き、顔面めがけて先端を突き抜く。
「『加重』」
「ウオォっ!?」
だが...その瞬間、体が激しく重くなる
体がその重さに耐えきれずその場に手をついて動けなくなってしまった。
「解体だって?フハハ、それは誰の話だ?反逆者...お前か?私の方ではないがな...!」
「てめえ!なにしやがった!」
続いてレイヴンの切れ味のある手刀が襲いかかってくるがグランは頭を下げ、躱す
「動きが鈍ったんじゃないか?レイヴンよ」
そのまま身を屈め、振り返りざまにむき出しになった腹を目掛けて重い一発を叩き込む
ザザザ...
と滑るように後退する程のパワーだったが拳を撃ち込まれた所に足元の岩石を武装し、ダメージは最小限に落としている。
「鈍いのはお前のパンチの方じゃねえのか?」
そう言いながら腹部をなでおろす
だが、それを見てもグランはニヤリと口元を歪めている
「何がおかしい...?」
「いや、なに...これで貴様ら2人とも私の術中にはまったと思ってな...」
「なんだと...?おぉっ!?」
ズン!
と体が突然重たくなる
「重い...!」
角から滲み出るような魔力はゼルクとレイヴンの体を呪縛し、動きに制限をつける。
2人の怪力をもってしても立ち上がることも叶わない程に魔力の出力に差があった。
「そうか...これは、お前の能力は...『重力』か...」
口を開いたのはゼルクで
地面に脚をめり込ませながらグランを睨みつける
「そうだが...もう能力を理解しても遅いな」
体重に耐えきれず脚がひび割れ、肉に尖った岩が食い込み血が吹き出した
「ヌアアアアアア!!溶かして溶岩と一緒に流してやるぜッ!」
レイヴンは手のひら全体を地面に擦り、火をつける
そして、魔力を水鉄砲の要領で『血濡れの太陽(ブラッディサン)』を撃ち出す。
「魔力とは、属性の相性などではなく出力での勝負だ、ぶつけ合わせた時に出力の大きい方が押し勝てる!」
グランの手はヴーーン...と揺れて空気が重くなる
「知ってるか?大きすぎるものというのは小さいものよりずっと気づかれにくいということを」
すると、レイヴンの放った『硫酸』は手をかざされるだけで直角に起動が曲がり地面を溶かした。
「なんだと?」
驚きながらもう一度重たい腕を持ち上げて炎を放つ
しかし、やはり手をかざされるだけで炎が落ちる、よく見てみると炎には魔力が巻きついて落としていた。
「これは...!」
「そうだ、これが私の能力、『重力』というものだ あらゆるものに作用し様々なものの基準となっている、私の魔力はすでに空気を媒体としてこの空間、半径20kmを支配している!」
勝ち誇るグランの後ろで更に大量の岩が浮かび上がった
レイヴンの目には久々に感じられる死の恐怖が映る
「さあ!虫けらのように、魔王様を裏切った事を後悔しながら死んでいけ!」
グランが手を振り下ろし、岩を飛ばすその瞬間目の前に人影が飛び込んできた
あまりにも早かったので硬いはずの地面が削れ、風が吹き荒れた。
「ったく...しょうがねえなぁ~!」
レイヴンの目の前にはいつもの口癖を呟きながらグランの腕を受け止めている男の後ろ姿が映る。
くすんだ金髪に鍛えた腕、そして、その肉体を覆っているのは正義の心を表しているような黄金の魔力
まごう事なきゼルクその人であった。
「『感覚夢双』は1日に何度も使う技じゃないんだがなぁ...」
「貴様...人間のくせに魔力を使い、更には私の『重力』を跳ね除けたというのか?」
「あーー...もういい、そのリアクション飽きたぜ」
お決まりの驚愕したリアクションには目もくれずゼルクは三歩分跳びのき、独特の構えで追撃の姿勢を見せる。
「後の予定が詰まってんだ、さっさと殺してやるから大人しくしてろよ」
「ほぉお~?大人しくねえ...」
グランは再度体を浮かし始め、そこからゼルクに手を向けた
「大人しくするのはいったいどっちだと思うね?」
ズズンッッ!
手をかざされただけでゼルクはまたしても黒い重力の触手に捕らえられ、膝を折ることになってしまった。
「テメー!男が正面からやろうっつってんだぞ正々堂々勝負しやがれ!」
2人から少し離れた場所からレイヴンが野次を飛ばす
だが、当然だがグランはすっかり冷たい表情だ。
「黙っていろ、この虫けらを叩き潰したら次は貴様なのだからな 涙流して楽しみにしていろよ」
手を天にかざすとまた岩が触れずして持ち上がり...一瞬の溜めがあった後、手を振り下ろし一斉に、一点集中で岩石を落とす。
ドドドドドドドド!!!!!
岩そのものの重さでさえ100kgを超えているのにそれをグランは『重力』の加重により
2倍3倍と重さと落下パワーを増させていた。
普通ならひとたまりもないが...
「反逆者一名死亡...次は裏切り者だな...」
「グググ...この程度のことで...」
グランは空中でクルリと体の向きを変えると頭を上げることすらできなくなっているレイヴンに手を向けた。
しかし、その後ろから...
「誰が、反逆者だって?誰が死んだって?」
という太々しい声が聞こえてきた。
「貴様ぁ...いつのまに...」
振り返るとマグマの垂れる溶岩の近くに立つ傷の男、ゼルクがいる
完全に仕留めたと勘違いしていたグランは深くプライドが傷つき意図せず牙を剥いてしまう。
「なぁ~に、テメェの攻撃がヌルすぎた...
ただそれだけよ...」
その声が耳に届く頃にはグランの体は魔力の黒く輝く光闇で覆われていて、周辺には魔力が充満していた。
「フフフ...私をここまで怒らせた奴は貴様が初めてだよ...反逆者ァ...!」
「それはそれは...光栄なこった」
それを弾き返すように刺々しい動きをみせるゼルクのエネルギー
『感覚夢双』は肉体から限界以上の力を無理やり引き出し、後の後遺症と引き換えに最強の力をもたらす荒技中の荒技だ。
そのパワーが『重力』を追い越しているおかげでゼルクはこうして立てているのだ。
「いいだろう、貴様にはこのグランが直々に引導を渡してくれる」
地面が揺れ始めた。
「御託はいい...速くかかってこい」
硬い岩盤にさえヒビが入り、その辺の石ころは自分の重さに耐えきれなくなりどんどん粉々になっていく。
そして...
「私こそが世界の中心地だ」
意味深なセリフを言ってグランは飛び上がるゼルクは狩猟者の視線で動きを追う
「つまり、私はいくらでも地球のルールに逆らい 好き放題やれるのさ」
グランは立っていた
しかし、空中に立てっているのではなく浮いている岩の裏側に、つまり こちらから見ると逆立ちの状態になっている。
「むちゃくちゃなのは 俺も同じだぜ!」
ゼルクは地面を蹴る
体に重力が絡みつき、元の『感覚夢双』と比べて遅くなってはいるが、それでも軽々と音速を超えていた。
「『飛燕流...啄連斬』!!」
ナイフを目にも止まらぬスピードで連突するグランはそれを見切ると魔力を込めた両手で全撃を受け止める
魔力を纏った手のひらとぶつかり合う度にナイフがすり減っていき、空中にとどまっていられるのも一瞬だけだ、すぐに体が地面に落ちる。
「ハァー...ハァハァ...」
息を切らせるゼルクを見て逆さまの姿勢のままグランはにやける。
「魔族に立ち向かう人間だからどれほど強いのかと思ったら...大したことはない...ただ、魔力が使えるだけではないか」
浮く岩の側面を歩いて岩の上部分に立つと指揮者のように手を構え、鼻歌交じりにゼルクを指差した。
「全弾発射」
グランの側に浮く岩が束になって襲いかかってくる、一つ一つが即死級の破壊力を持っていて近づくのはヤバイ
「だが、俺は違う...」
ゼルクはまず、跳ぶ
そして、高速で向かってくる岩をさらに早い動きで足場にし、岩の弾幕を抜けてグランの元へと再度たどり着いた。
「さぁて!もう一度手合わせ願おうか?」
ナイフを向け、それ以上に鋭い目つきでグランに襲いかかる
「ほう、面白い...盛り上がってきたなぁ!」
足場にしていた岩から体を浮かし、ゼルクの一撃を避ける
後ろに飛び降りたその先には岩の群集でできた壁がそびえ立ち、浮いていた。
その壁に足をかける、壁は切り立った崖のように垂直だがグランは重力を自在に操る能力、物理法則やらなんやらを無視して壁を横向きに走っていく。
「私の足が付く場所は...全てが足場になる」
「逃すかッ!」
攻撃を外したゼルクは壁に飛び移ると足を杭のように壁に打ち込み壁走りを繰り出した。
体に掛かる重力の縛を力技で捩じ伏せ、グランを追う
通常スピードで走るグランよりも肉体強化をしているゼルクの方が早いようで、どんどん追いついていく。
だが、ゼルクはグランの背中に嫌な予感を感じて攻撃を踏みとどまっていた。
「ハァハァハァ...」
度重なる戦いと負傷で体力の限界も近い速やかにトドメを刺さなくてはゼルクの命の方が危険にさらされてしまう。
「よくここまで追ってくるな...」
そう言ってグランはその場に足を止めた
走っているうち高度が上がっており、今は山頂から80m程離れた
突風が吹き荒れ、体を打つ
「ここまで登ってくれば...ここから落ちれば流石に貴様も助かるまい」
「さあ?どうだろうな...案外いけるかも」
そんな口を叩き、さらに一歩間を詰める
ついに互いの距離は目と鼻の先、下に目をやると赤々と光るマグマが見えた
アレに生身で飛び込むとなると...
ゴクリとツバを飲み込む...
「じゃあ、試してみるか?」
パチン!
グランが指を鳴らすと足場がガラガラと音を立てて崩れ落ち、グランの足元の岩だけがフワフワと浮いている。
「これくらいのことは予想済みだぜ...!」
天から遠ざかっていく視界に歯止めをかけるようにゼルクは姿勢を立て直す
服を荒々しく破り捨てるとそこには腰にベルトと一緒にロープが巻かれていた。
そのロープをナイフの柄の部分にグルグル巻きにするとグランの立つ足場目掛けて放り投げる。
ビュッ!っと風切り音を立て、ナイフは飛んでいく
「そんな分かりやすい小細工を見逃すと思うか?」
グランは声を落下中のゼルクに聞こえるように張り上げるとナイフに手をかざし、重力をかける
当然重くなったナイフは目標地に届く前にカクンと曲がって下に落ちる
「そう...それでいいんだ!」
ナイフとくくりつけた縄に引っ張られてゼルクは真下に落ちていくと思ったがそれは違った
「うおおぉ!?」
十数m上でグランが突然体制を崩した、もちろん偶然ではないゼルクの作戦だ。
敵を策に上手くハメたゼルクはしてやったりと得意げに笑う。
「こっ...これはぁぁ!??」
突然のことに一時混乱する
強い力に引っ張られているのだ
ジリジリと足を引っ張られて落とされそうになるグラン その目下には縄にぶら下がって停止しているゼルクの姿が見えた
「お前にこの縄と繋がせてもらったぞ その釣り糸とな!」
ピッ!っと指差した先に見えるものはグランの足に巻き付いた釣り糸だった。
「いつの間に!」
「そのご自慢の能力でなんとかしてみたらどうだ」
この状況は偶然ではなくゼルクが意図的に作り出した罠だ。
ゼルクはグランの後ろを追いかけている間にポケットの中に入れておいた釣り糸を輪っか状にしてグランの進行方向上に投げる、ここで気付かれそうなもんだが光は紫色をした雲に遮断されてほとんど反射しない、つまり元から見えにくい釣り糸はほぼ無可視の罠となる。
そして、輪っかにした釣り糸と腰のロープとを結んで繋げれば簡易な命綱の完成だ
ゼルクが一定の距離離れると自動的に足元の釣り糸が一直線に戻ろうとしてグランの足に巻きつく、そして縄とつながっているのでナイフに巻きつけた縄に重力をかければかける程グランを引っ張る力が強くなっていくという寸法だ。
「はっ...一瞬驚いたが...たかが一本の糸だ、トリックがバレてしまえばどうということはない」
グランは引きずられながらも糸を手繰り寄せそれに手刀をくらわす
細い糸はその一撃にいともたやすくプチンと音を立て、切れる それを命綱にしていたゼルクも当然落ちていき その光景を嘲笑いながら見つめるグラン...そうなるはずだった。
「ううっ!?」
釣り糸が攻撃したグランの手に食い込み血が吹き出た
だが、痛みがない
「糸の硬度を上げるように魔力を流し込んでおいた、そして...かかったな!!」
グランの脚から感覚が消えていく
「なぁ!?」
踏ん張りが効かなくなり、引っ張られる力そのままに足場から身が飛び出した。
それを見て数十m下のゼルクはニヤリとした笑みを見せ、思いっきり縄を引っ張り、手繰り寄せた。
「『無感覚』!釣り糸に仕込んどいた魔力がお前の下半身から感覚を奪い...そして結果的にお前の命さえも奪う!」
「ウワァァアアアア!!!!」
グランが足を離したことにより、より集めの足場はガラガラと崩れていく
関係ないが、ふと ゼルクは昔見た映画《天空の城ラピュタ》のラストシーンを思い浮かべた。あの城が崩れるシーンにムスカがちゃんと写っているというのは本当なのだろうか?それをこの世界で調べるには開いているのかすら怪しいTSUTAYAを見つけない限りないだろう。
「御命頂戴しようか!」
「生意気なぁ...!」
2人は心もとない空中に放り出され、最後の決着をつけるべく魔力を解放する。
マグマ突入まで後8秒
ゼルクからグランまでの距離10m
「ヌゥゥアアッ!」
突然!グランはその鋭い手刀で釣り糸の絡まった足を膝の少し上部分で切り落とす
先ほどの出血とは比べものにならないほど脚から血が溢れる、ダムが決壊したかのようだ。
感覚がなくなっているので痛みはない、ただ虚無感が脚にある
足に絡まっていた釣り糸と文字どうり関係を絶ったわけだ。
「そしてッ!『無重力』(ゼロ.グラビティ)」
重力がグランを中心として歪み、ここは地球にもかかわらず無重力状態を生み出した。
その中心地にいるグランの落下がピタリ!と空中で静止し、逆にふわりと浮く
これではゼルクが1人だけでマグマに突っ込んでいってしまう。
「貴様は人を驚かす天才だな だが、私を倒すにはあと一歩アイディアが足りない そんなイカサマ師には人生最期に私からのありがたいプレゼントだ、涙を流して喜ぶがいい」
見下した視線をとともに口の端を曲げ、ゼルクを指差した。
すると、空からゴマのような黒い物体が...
「て、てんめぇ...!」
その黒い粒のように見えた物はグングン視界に迫って来てはじめてそれが石だとわかった
大きさは直径30cm位だが、個数はピザに振りかけるブラックペッパーのように無数に降りかかってくる、しかも元の数十倍の重力と速度をもってして。
マグマ突入まで後7秒
ゼルクからグランまでの距離15m
「やれるか・・・いや、やるしかない『飛燕流...啄連斬』!!」
早々とナイフを抜き去り、迫る石の数々にゼルクは必死になって斬撃を繰り返すが、13個目の石を叩き斬ったところでナイフに致命的な亀裂が入り、15個目を斬ったときついにガラスのように砕け散ってしまう。
「く、クソ...が......うわぁぁぁぁ!!!!」
残った石はゼルクの体を貫いていくボコンボコンと穴が開いていき、おびただしい出血の量が宙に舞った。
「やっと終わったか...」
ため息を吐くように呟くと無重力空間の中で血を撒き散らしながら落ちていく戦士の姿をロクに見もせずグランも降下し、地に降り立とうとしたが...その油断が命運を分けた。
「ウッッオオオオオオオオオオオオ!!」
ゼルクは地面に響く程の叫びとともに全能力を持ってして、ロープを振り回した
先端には加重により500kgを超えたナイフがぶら下がっているにもかかわらず...
全身傷だらけで血が吹き出しているにもかかわらず...
魔力が...命が尽きようとしているにもかかわらずにその地獄の谷で綱渡りをしている命を削りながら一手を下す。
「刺されェッ!」
「なんだ!と!?」
弧を描いてナイフはグランの胸を貫いた
ロープの長さギリギリ、決死の一撃は成功したのだ。
グランの体はゼルクと重力の重さに引っ張られナイフに貫かれたまま落ちていく
この一撃、ナイフには『無感覚』を使っておらず胸から溢れる血と痛みの嫌な感覚に顔を歪めた。
「ウ...アァァアア!!貴様ぁ!グフッ...さっさとくたばれ!死に損ないがァァッ!」
口汚く罵倒するグラン、そして半径20kgに広げていた範囲内の魔力を全て体に集中させた
次の一撃はこれまでとは比べものにならないほどの一撃がくる。
「本性を現したな?その凶暴な面こそが魔族としてのお前の正体のようだな、余裕ぶってないで殺しにこい...!」
ゼルクが挑発するが、もう挑発をしてもしなくても攻撃は始まる
「『獰猛重力』(バトル.グラビティ)!!!」
空気がズドン!と重くなり耳鳴りがキーンと鳴った
次に空気中に見えない渦が出現し、ゼルクの体に巻きつき締め上げる。そのパワーは何人もの格闘家に押さえつけられているかのようだ。
マグマ突入まで後3秒
ゼルクからグランまでの距離5m
「『感覚夢双』!限界の更にその先を突き抜けるッ!」
体内から、スポンジを絞った時のように魔力が飛び出した、その圧倒される程のエネルギー量は貧弱な人間の肉体を守る
その周りでは、ゼルクを取り囲んで『獰猛重力(バトル.グラビティ)』が暴れ狂う
命を削る代わりに出現させた魔力の厚い防壁が絶え間ない攻撃からゼルクを守りはするがいつ破壊されるかわからない、魔力は保っても疲労によってゼルクが気絶するかも知れない そうなれば元も子も無いのだ。
「むうう!さっさと死ねと言っているだろうがよお!!『獰猛重力』(バトル.グラビティ)最大出力だ!!!!」
マグマ突入まで後2秒程のところでグランが勝負に出る
最大出力で撃ち出された重力波は開かない扉を無理やりたたき壊そうとする怪力男のように崩そうとぶつかってくるのだ。
魔力で守られていたゼルクの強張った身体に切り傷や打撲された痕など様々な傷が出現し始めた。重力を使えばあらゆる苦痛を与えることが可能で...
その影響により腹の中が混ぜられているような嫌な気分だ、こうなりゃいっそ諦めてしまおうかと思ったが、それはゼルクのプライドが引き留め再度グランに立ち向かう勇気を奮い立たせた。
「残念だが...ここで時間切れだ 俺も、お前もな...」
ついに火口下に入る、まだマグマに触れてはいないが近づいただけで背中に焼ける感覚が文字どうり焼きついた。
「決着はこの地獄でつけようか...!!」
ゼルクはググンッ!とロープを引っ張り、お互いの距離を限りなく近づける。
ゼルクからグランへの距離あと30cm...
そして
脚でグランの胴体を逃さないように掴みこんむ。
「わァァァァァ!!!離せぇッ!」
マグマ突入まで後...0.1...0.08...0.02...0.005
ドッポーーン!!
あまりにも長すぎる8秒を経て2人は掴み絡みつ灼熱の海に墜落してしまう。
2人を中心にして溶流の中に魔力の壁が広がった。
「なぁ、お前は我慢比べは得意か?どっちが長く持つかな?先に魔力の尽きた方が死ぬわけだが...」
熱いだのなんだの言ってられない熱量が問答無用で2人を包み込んだ。
魔力を鎧のように纏えばマグマにやられること無く耐え忍ぶことができるが、いかんせん両者とも体力、魔力ともに消耗が激しい、
後少しの間だけこの地獄で闘うことが許されるであろう。
「ここまで、ここまでやるとはな!いいだろう、特別だ 貴様には特別に奥の手を見せてくれる!覚悟しろ!!『無限の重力』(グラビティ.マスター)!」
グランは自分の胸に拳を打ち込んだ
衝撃で肺から漏れた空気はマグマの中を泡として登っていく。
もう手元にはナイフもロープも無い、魔力に包まれているおかげで燃えていない服だけが無事で、手元の武器と呼べるものは全て溶けてしまった。
「ぐ...オオッ!」
自らに攻撃を食らわしたグランは1人で悶えていた、なぜこのような事を行なったのか?
普通は疑問に思うだろう。
しかし、ゼルクは突然の行動に怯みもせず
足場のないこの場を一直線に突っ切ってグランに拳を向けた。
マグマを掻き分け、水圧を上回る圧力!
灼熱をも上回る熱血の闘志と共に・・・
「は!?」
だが、拳は空振り、溶岩を切っただけに終わる。
それだけではない、目の前からグランが消えていた。そう、移動したという気配はなく、忽然と消えたように見えた。
「これが我が奥の手...!」
「な...に?」
後ろで少し波が立ったように感じ、振り返るが
背に衝撃走る。
「うげぁアァ!!!」
背骨にヒビでも入ったか、激痛と共にゼルクは海老反りの体制になって溶岩中を滑るように吹っ飛んだ。
「おっと、離れすぎじゃないか?」
反った視線の端に捉えたのはこちらに手を広げて向けるグランの姿だった。
途端に体はグランの元に引き寄せられる、まるで吸い込まれるように...
「やはり、真性の魔族と魔族のなりそこないでは基本性能が違うようだな...何もかもが貴様は私の格下だ」
不思議な現象に引っ張られたゼルクはグランのそのデカイ手に頭を掴まれる、ミシミシと頭蓋骨が軋む音が頭に響く。
さっきまでこちらに風が吹いていたはずなのに...コレはマズイと思えてきた。
痛みに口を開けると血と一緒に泡が漏れ出ていき、マグマの水面に消えていく。
「て......め...何ィしやがった!」
頭を掴む腕を折るつもりで、必死に握ると
手の中にあった感触が途端に消える。
「は...!?」
確かにゼルクは触れていた、触れていたはずなのにもかかわらず移動する気配を悟らせないままグランはまた後方に移動していた。
「驚いたか?いや、驚いたろう...貴様には想像つかないだろうが、これこそが私の切り札中の切り札、『無限の重力』(グラビティ.マスター)だ その名の通り 重力を自らの手足、足場、道具として扱える『感覚』を奪うだけの貴様の能力では到底太刀打ちできない領域の能力だ...!」
ゼルクはその力に息を飲んだ
手を伸ばしても届かない種族値としての差
これを埋めるためには相当の努力が必要なのはかつて全滅させられた『頂正軍』出身者であるゼルクが一番よく理解していた。
(そうだ...人間がその差を埋めるために...これまでやってきた事はなんだ...?)
「どれ、もう一発いっとくか?」
「グエッ!」
グランの重力ない拳がゼルクの腹に突き刺さった
重力を究極に軽くするということはそれだけスピードを上げられるということ、つまり無制限に速くなり続ける。
(そうだ...人間がやってきたのは単純な努力だけではない!)
「サヨナラを言ってやる、だから戻ってこいよ!」
吹っ飛び、無抵抗になったゼルクに手を向ける、すると手のひらの中で重力が圧縮されて自らの重さに耐えきれなくなり重力崩壊を起こした。
重力崩壊を起こした物はその残りカスとしてブラックホールを残す、その引力は目標を正確に手中へと誘い 世界のルールとも言える重力の暴力がグシャグシャに握りつぶす、まるでアルミ缶を潰すように。
だが、追い詰められているはずのゼルクは顔に笑みを浮かべていた。
「見つけたぜ逆転の女神を...!」
そう言うと手を背後に回して何かを握った。
「なっ...!?」
ゼルクが右腕を振り払うと
グランの右腕がマグマの宙を舞った
マグマの岩をも溶かす温度に負けて蒸発するように溶け出し、消えていく。
「そう、人間が種族間での力の差を埋める為にやってきたことは修行だけではない」
その手には神々しく光る剣が...しっかりと握られていた。
「武器、それがもっとも人類が力を入れてきた技術!」
その黒の柄に黄金色の刀身を有した美しき剣
妖艶な流線的フォルムを有する刀身は刀だというのに、妙な色気が漂っている。
その剣の名は『永命剣』
ゼルクとレイヴンが反撃の始まりとして欲した地球上無敵の剣である
それが遂にゼルクの手に渡った。
「そ、それは...私たちが命がけで守っていた不死の剣...!」
「あぁ、名を言われなくてもわかる『永命剣』これがこいつの名だ、そしてそれを運んできてくれたのは他でもないテメェ自身なんだぜ」
グランの作った小型ブラックホールは本人も知らぬうちにマグマの中を漂う『永命剣』を引き寄せていた。
そして、ゼルクがそれに手を伸ばし手中に収める...
いや、それは違うのかもしれない 偶然ではなく必然、ゼルクが見つけたのではなくゼルクが『永命剣』に選ばれたのかもしれない
それは確かめようがないがその方がなぜか納得できてしまうのだ。
「だがなぁ!だったら!どうだというのだ!?たかが剣一本!直ぐに貴様を殺して再度封印してくれるわッ!」
グランは焦り切った様子で魔力と冷や汗を吹き出ささせた
重力を曲げてゼルクの背後に瞬間移動し、
加速した拳が背に向かって繰り出される。
「『飛燕流...燕返し』...!」
グランの目の前を閃光走る
「は...早い...!」
そう言ったグランの左目は光を失った、目で追えない速度で眼球を破壊されたのだ。
その傷口からは血ではなく代わりに硝煙のようなものが立ち上っていて、傷の周りに破壊痕は無く、破壊と言うより消し去ったと言った方が正しいような傷跡であった。
「なるほど、穢れを清めるとはこういうことか」
何か理解したような様子でうんうんと頭を縦に降るゼルク
さっきまでの死に損ないとはまるで違った魔力を漂わせていた。
「よくも、よくもよくも!よくもッ!オレの顔に傷をつけたな!!!この、魔族のなりぞこないがァァァ!!!!」
グランの喉は大声を出すという肉体の要求に耐えられず張り裂け、血が口から吹き出した
途端に2人の間には異質な重力が発動する
それに巻き込まれているにもかかわらずゼルクは引かず『永命剣』を敵の眼前に突きつけた。
「いいだろう、最強の技で来い...こちらは
最高の一撃を持ってしてそのプライドと生命を沈めてくれよう!」
重力の振動は山を揺らし、国を揺らし、地球奥深くのマントルまで揺らし出した。
「『ヘヴィ...
「『飛燕流...
グランは手のひらをゼルクに向け
ゼルクはグランに切っ先を向けた
殺意と闘気が刹那に合間見える。
ブラスターー』!!!!」
奥義!零戦燕』!!!!」
グランの拳は重力を取り払い、無限の加速と際限なく強大化するパワーを保ちつつ
マグマを突っ切り標的を襲撃する。
ゼルクの一撃は真っ直ぐに見えて しかし、飛び回る燕のように流動的な動きをして急所を狙い斬る
勝負は一瞬、すれ違いざまに勝負はつく。
「フゥ・・・ッ!」
プチンと音を立てて細胞が破壊された音が静寂の赤熱に響く。
すると一方が口からゴボッと大量のあぶくを吹き出した。
「そ......それが...」
灼熱の中から魔力が引いていく
肺から漏れ出たような、掠れた声がすると
その体は燃え始める。
「それが...貴様の...進む道か...?」
一瞬のせめぎ合いに破れたのは防衛隊リーダーグランであった
グランの生命が抜けていく体はマグマの奥底に沈みながら徐々に崩れ、消えていく。
胸にはゼルクの一太刀がしっかりと刻み込まれていた。
やっと、『永命剣』を巡っての闘いは終わったのだ。
「ああ、そうだ...そしてお前はこれからの戦いへの踏み台だ、光栄に思ってもらいたいね」
突き放すようにそう伝えるとグランは楽しそうに笑う
「ククク...そうか...自ら困難の道を選ぶと言うのだな...」
ポロポロとグランの体は身崩れをおこし、魔力が尽きかけているのが一目瞭然だ
しかし、その顔にさっきまでの怒りや焦燥は見受けられない。
「ふふふ...負けるってのは悔しいなぁ...久しぶりの闘いは鈍っていたなりに楽しめた...」
「やれやれ、鈍っていてこれか...自分で選んだとは言え...やんなっちまうぜ」
ボコンとグランの体は分解され始めた
「ああ...そろそろ私の人生も終わってしまうのか...」
「苦しいのか?」
「いいや、痛みはないさ、貴様の能力のおかげでな...」
「死ぬのは怖いか?」
「そうでもないさ、ただな...もうちょっと生きれたはずと思うと...勿体無く思えてきてしまうだけだよ...」
グランの体から魔力が途絶えた
そうなれば魔族といえども生身、マグマをまともに受けて生きていられるはずがない。
「さ...ら......ば...だ...地獄で...貴様がく...るの......を楽しみに...しといて...や...る...」
そう言い残すとグランは熱にさらされた雪のように跡形もなく溶け去った。
「.........安らかに眠れ」
剣を胸に当て目を瞑り、祈った。
ゼルクの手に残るのは彩色憐憫な光を放つ剣『永命剣』一つだった、マグマに数百年沈められていても溶けない頑丈さ
そして、魔族の肉体を溶かすアンチ能力を持った古代兵器といっても過言ではない。
人間界解放のための布石を一つ手にしたのだった。
「オォーーーイ!!!おっさんよぉ~~!」
少しずつ沈んでいくゼルクに聞きなれた声が届いた、オペラ歌手のようによく通る男の声だ。
「迎えが遅せぇじゃねえかレイヴン」
こちらに向かって泳いでくる男に手を向けるとやっと闘いに勝ったのだと安心できた
地球の血液の中、揺られながら上を目指して泳いで行く
たまには迷うかも知れないが
心に未練と勇気がある限り2人の快進撃は止まることはないだろう
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