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第15話「踊る戦場」
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ある雨の日の廃屋、ゼルクとレイヴンはしばらくの間体力回復のため富士山から脱出し、隣の県へ移動していた。
「うひゃあー、雨に降られちまったぜい やっぱ梅雨入りしてるせいかな」
黒い髪についた雨粒をタオルで拭きながら男の魔族が歩いている
「そんな物お前なら『武装』すれば乾かさなくても吸収できるだろ?人間スポンジ...」
そう言うのはゼルクだ
廃屋の硬いコンクリートの上に背を向け、寝転がり 小さなテレビを見ていた。
「あんな汚染されまくってる雲から絞り出された汚水なんぞ『武装』したら体壊しちまうよ、あと最後の一言が余計」
タオルを首にかけると、どかっとテレビの前に座り込み、ゼルクと一緒にテレビを見る
レイヴンの手にはレジ袋が握られていた
「にしても、最寄りのコンビニまで5kmあるんだな...あそこまで行ったらもう最寄りじゃねーと思うんだが...」
ぶつくさと文句をいいながら手に下げたレジ袋を床に置く
「魔族だってばれなかったか?ばれて騒がれるのが今一番厄介だからな」
テレビから目を外し、レイヴンの頭を見つめる そこには立派な角があった。
魔族には魔力放出機関のために角が生えていていて、それを見れば魔族だということが丸わかりになるのだ。
「大丈夫、頭に布巻いて誤魔化しといたから...店員には変な目では見られたけどな」
この廃屋には電気や水道などのライフラインが残された状態で手放されたようで体力回復の為にとどまるには最適な場所だ。
満身創痍で見つけた時に二人はここがオアシスだと思えたそうだ。
「おっさん体の調子はどうだ?」
何気ない感じでレイヴンはゼルクの体を撫でるように触った。
筋肉質でゴツゴツしていてそこらじゅう傷だらけでザラザラしており、触っただけなのに強者であることがすぐにわかる
「前よりだいぶ良くなった、お前の『武装』でくっつけた肉も馴染んできたし...戦闘も問題なくできるはずだ」
ゼルクは視線を動かさず指を動かし部屋の隅を指した
「ああ、なるほどね...」
そこには気を失っている何人かの男が束になって横たわっていた
さすがライフラインの残された廃屋、ホームレスや浮浪者がいない方がおかしいだろう。
そして、いるならば余所者を追い出そうともするはず、当然の結果だ。
しかし、大人数のホームレスではゼルクに、かなわないのも当然の結果だ。
「次...どうする気なんだ?」
ゼルクがたずねる
次とはこれからの予定のことだ。
どこかに逃げるのか
それともどこかに向かうのか?
「あんたの体の調子が戻り次第中国に渡るぜ前に話した魔力使いの女の子いただろ?その子を勧誘しに行こうと思ってる」
聞かれたことだけを淡々と答えながらレイヴンはレジ袋の中の弁当を取り出す。
「そうかい...中国か、近いのは知ってるが...異国に一気に移動するのは少しリスクが高いんじゃないか?」
そんな心配をよそにレイヴンは弁当を食べ始める。
「大丈夫だって...と、言うよりこのまま日本にとどまる方が危険だとオレは判断するね」
レイヴンが事を言い終えると同時に突然テレビが煩くがなり立てた。
「ん?なんだ?」
二人がテレビに振り向くと目を疑う速報が流れていた。
『緊急速報です、先ほど信じられない事に...静岡県の富士山周辺の町が消滅したとの情報が入ってきました』
ニュースを見て、聞いてゼルクとレイヴンの顔つきが変わる
「魔族達か...」
胸の奥に熱い感情が湧いてきて胸焼けを起こしそうになるほど嫌な気分になった
ゼルクは寝転んだ体勢から身を起き上がらせるとコンクリートの床を殴った。
「あいつら...やる気みたいだな...!」
その言葉の意味をレイヴンは理解していた。
自分たちが先日まで居た場所を破壊し尽くすと言うことはこれからレイヴンを倒せるまでしらみつぶしに地球を破壊していくつもりだろう。
この行動から予測するに単純極まりない作戦だということが見て取れたからだ。
そして、先日まで居た場所がバレていたということは相手に情報が渡っているということ10秒も経たないうちに二人は自分たちの身に迫る危機を理解していた。
「言ったろ...?留まってた方が危険だってよ..ここまでやるとは流石のオレでも思わなかったがな」
テレビアナウンサーは速報の内容を明日の天気でもお伝えする時のように落ち着いた表情で内容を話す。
『魔族によるここまでの破壊行為が起こるのは約20年ぶりで、【頂正軍】を壊滅させた後日以来となります、現場では人が住んではいなかったので死傷者はいないと思われますが......一体何があったのか、謎が残る事件となりました...そして、危険ですので静岡県在住の方 その周辺の県に住んでいる人は即刻逃げてください未だに魔族による破壊範囲は拡大中、町は地獄絵図と化しています、繰り返しますが、命の危険がありますので即刻逃げてください』
テレビに映る映像は黒い煙を吹き出しながら原型を留めぬ建物に 決壊し、富士山から流れ出したマグマが襲いかかり町全体を血の海のように真っ赤に赤く紅く、染め上げて行った。
この黒と紅の地獄を見るとゼルクは立ち上がった。
「これは...奴らやってはいけない一線をこえたな...!」
つい感じてしまう責任感と怒りにゼルクはしびれを切らす
悪の暴挙を止めてやろう、正義の心と共に全ての闇を斬り祓う聖剣である『永命剣』を手に取った。
「そうだな、オレも責任と怒りを感じるぜ
だが、こちらから闘いを挑むのは無謀だ、
サメに勝負を挑む小魚のように一瞬で飲み込まれてしまう」
レイヴンも手に持った弁当を一気に平らげ
飲み下すとフラリと立ち上がった。
「じゃあ、どうするってん言うんだ、このまま隠れてほとぼりが冷めるのを待つのか?俺はそんなのごめんだがな」
「オレもそのつもりだ、だが立ち向かう訳じゃない その逆だ」
「なに?どういうことだ」
ゼルクが顔を傾け、しかめるとそれに対比するようにレイヴンはニッと牙を見せつけるように笑みを浮かべる。
「『逃げながら』戦う」
「いや、それじゃ分からん...」
「まっ!要するにだなぁ~...」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雨が小降りになりだした頃、雲の切れ間から月が顔を覗かせてやっと今が夜なのだと認識することができた。
厚い雲に覆われて星明かりでさえも遮ってしまう、魔族の開拓と進行は地球から太陽と月まで奪い去ってしまった。
その、奪われた空を取り返すための革命児が二人、月明かりに照らされてある場所に立っていた。
そう、ここは羽田国際空港!!
日本の世界へ飛び立つ大拠点だ。
「おい?そこにたってる二人もしかして?」
一人の魔族が二人の存在に気づくと携帯端末を取り出し、そこに映る写真と眼前に立つ二人とを見比べた。
黒髪でカメラに向かってバカみたいに口を開いて笑うピースサインの男
金色がかってはいるがくすんでいて光の無い髪色
特徴的なのはひたいに抉られたような傷
カメラに向けるのは無表情の男
その二つの写真の下には《DANGER》(お尋ね者)と赤文字で綴られていた
そして、目の前に視線を戻すと写真と同じ顔が二人
決まりだ、こいつらが自分たちの敵であり自分たちのボスの【クロウ】と【ホーク】に抹殺命令が出された対象なのだ 殺すべき命であるのだ。
出された警戒レベルは最大であるレベル10
生死は問わない、見つけ次第全勢力を持ってして叩き潰すことが許可されている。
「なぜわざわざ来たかは知らんが...見つけたぞ、お前たちはもう助からない」
懐に忍ばせたエマージェンシーボタンを力一杯押す
その場にいる魔族兵士全員の携帯端末が信号を受け取り、戦闘開始の合図となるサイレンを鳴り響かせた。
ビーーッ!ビーーッ!ビーーッ!
ビーーッ!ビーーッ!ビーーッ!
「さて、逃げるなよ?てめえら これから我ら【猛禽軍】全勢力を持ってして叩き潰してやるからなぁ!」
ファイティングポーズをとる兵士、それを見てレイヴンはふっと笑った。
「お前、上級魔族か?他には何人いる?警戒レベルは...まあ、レベル10ってところかな」
レイヴンのセリフは問い掛けているようではあるが声が小さく独り言に変わりなかった。
敵は問答無用に飛びかかってくる
「ほら、ボーッとすんなよ」
二人の間にゼルクが割って入ると剣を構える
敵の拳とゼルクの振った剣が交差すると同時に空に腕が舞った
腕は蒸気を上げながら地に落下すると突然発火し、青い炎に包まれながら消滅していった。
「『飛燕流...音越』!」
「う...おおぉお!!」
燃える腕を...さっきまで自分の右肩に付いていた腕が燃えるのを叫びを上げながら見ていた。
「て...めえッ!」
敵が少し遅れて怒りを叫ぶとそれを無視してゼルクは肩を透かし、先へと歩いて行った。
「急ぐぞ、レイヴン」
兵士は何故?と思いながらもチャンスだという思いに駆られ、残った左拳を握りしめ振り返りざまに一撃を放った。
「ふん」
しかし、それよりも先にゼルクがその体を突き飛ばした 力は大したことなく少し体が揺らいだだけだ。
このまま一撃を頭部に!
そう思ったが視界が自分の意思とは無関係に下に向いた。
また自分の意思とは無関係に転がるように視線が動くと信じられない物が目に飛び込んで来た。
それは、頭の無い自分の肉体だった
頭部を失い首なしになった喉元からは寂しい隙間を埋めるように血が恐ろしいほど吹き出ている
しばらくするとその体の支えとなる脚から力が抜け、崩れるように地面に倒れこんだ。
その敵は自分になにが起こったのか そんな簡単な事も理解できないまま、余りにも唐突にその命に幕が引かれた。
「これが『無感覚』...俺に斬られた者は死んだことにさえ気づけない」
小降りの雨が未だ未練がましく空港に降り注いでいた
水溜りを踏んで水を散らせる音が無数に聞こえてくる。
規則性はなく、その集団の規律は軽く各々の個性で戦う脳筋タイプなのだということは
足音を聞くだけで理解できた。
「おーおーおー!!命知らずな事だなぁ!」
「一斉に行くぞやろーども!!」
「向かってくるか!?それとも逃げ出すか!?死にたいか?」
空港の入り口から少し行くと空港屋内へと着く 大きなガラス張りでそこからは滑走路と飛行機を一望できる場所だった
しかし、今はもうガラスがバキバキに割れて見る影もないが...
そこで、ゼルクとレイヴン達は大人数に囲まれていた。
「当然だが...囲まれたな...」
「フン...弱気は良くないな、おっさん あんたはオレほどじゃねえが運命に愛されてるんだぜその右手に握られてるモンを見なよ」
ゼルクは視界を敵から右手にシフトする
握られているのは暗闇にもかかわらず黄金に輝く不死の剣『永命剣』だ。
マグマの中でゼルクに引き寄せられるように
はたまたゼルクを選び、寄り添うように手中に収められた聖剣である。
それを見てレイヴンが続ける。
「負ける要素なんてどこにもない!」
自信満々に何の疑いも無しにそう言うレイヴンは輝いていた
この魔族包囲網の中心地で存在感を放つ
「ああ、その通りだ 俺はさっきから負ける気なんぞしてない」
無数の魔族の喧騒の中、揺らぐことのない信念を胸に秘め しっかりと進むべき道を見据えていた。
「いくぜ!てめえらぁッ!!!!」
どこからともなく一つの声が上がる
「「オオオオオオオオオオオオ!!!」」
それに呼応して兵士たちは各々の場所から離れ、獲物に群がる肉食獣のように二人に襲いかかった。
声を上げ、魔力を吐き出し、笑いながら掛かってくる者もいた。
その不気味な勢いに対するゼルクそしてレイヴンは互いの力を自慢し合うように細胞の一つ一つから力を振り絞った。
「始めようか!革命を!」
再び始まった無謀な戦い
懲りもせず毎度毎度大怪我をしながら前に進む二人は 今度も力を駆使して切り抜けられるのか、それとも今度こそ負けてしまうのか
雨空の空港にて運命が再始動した。
To Be Continued→
「うひゃあー、雨に降られちまったぜい やっぱ梅雨入りしてるせいかな」
黒い髪についた雨粒をタオルで拭きながら男の魔族が歩いている
「そんな物お前なら『武装』すれば乾かさなくても吸収できるだろ?人間スポンジ...」
そう言うのはゼルクだ
廃屋の硬いコンクリートの上に背を向け、寝転がり 小さなテレビを見ていた。
「あんな汚染されまくってる雲から絞り出された汚水なんぞ『武装』したら体壊しちまうよ、あと最後の一言が余計」
タオルを首にかけると、どかっとテレビの前に座り込み、ゼルクと一緒にテレビを見る
レイヴンの手にはレジ袋が握られていた
「にしても、最寄りのコンビニまで5kmあるんだな...あそこまで行ったらもう最寄りじゃねーと思うんだが...」
ぶつくさと文句をいいながら手に下げたレジ袋を床に置く
「魔族だってばれなかったか?ばれて騒がれるのが今一番厄介だからな」
テレビから目を外し、レイヴンの頭を見つめる そこには立派な角があった。
魔族には魔力放出機関のために角が生えていていて、それを見れば魔族だということが丸わかりになるのだ。
「大丈夫、頭に布巻いて誤魔化しといたから...店員には変な目では見られたけどな」
この廃屋には電気や水道などのライフラインが残された状態で手放されたようで体力回復の為にとどまるには最適な場所だ。
満身創痍で見つけた時に二人はここがオアシスだと思えたそうだ。
「おっさん体の調子はどうだ?」
何気ない感じでレイヴンはゼルクの体を撫でるように触った。
筋肉質でゴツゴツしていてそこらじゅう傷だらけでザラザラしており、触っただけなのに強者であることがすぐにわかる
「前よりだいぶ良くなった、お前の『武装』でくっつけた肉も馴染んできたし...戦闘も問題なくできるはずだ」
ゼルクは視線を動かさず指を動かし部屋の隅を指した
「ああ、なるほどね...」
そこには気を失っている何人かの男が束になって横たわっていた
さすがライフラインの残された廃屋、ホームレスや浮浪者がいない方がおかしいだろう。
そして、いるならば余所者を追い出そうともするはず、当然の結果だ。
しかし、大人数のホームレスではゼルクに、かなわないのも当然の結果だ。
「次...どうする気なんだ?」
ゼルクがたずねる
次とはこれからの予定のことだ。
どこかに逃げるのか
それともどこかに向かうのか?
「あんたの体の調子が戻り次第中国に渡るぜ前に話した魔力使いの女の子いただろ?その子を勧誘しに行こうと思ってる」
聞かれたことだけを淡々と答えながらレイヴンはレジ袋の中の弁当を取り出す。
「そうかい...中国か、近いのは知ってるが...異国に一気に移動するのは少しリスクが高いんじゃないか?」
そんな心配をよそにレイヴンは弁当を食べ始める。
「大丈夫だって...と、言うよりこのまま日本にとどまる方が危険だとオレは判断するね」
レイヴンが事を言い終えると同時に突然テレビが煩くがなり立てた。
「ん?なんだ?」
二人がテレビに振り向くと目を疑う速報が流れていた。
『緊急速報です、先ほど信じられない事に...静岡県の富士山周辺の町が消滅したとの情報が入ってきました』
ニュースを見て、聞いてゼルクとレイヴンの顔つきが変わる
「魔族達か...」
胸の奥に熱い感情が湧いてきて胸焼けを起こしそうになるほど嫌な気分になった
ゼルクは寝転んだ体勢から身を起き上がらせるとコンクリートの床を殴った。
「あいつら...やる気みたいだな...!」
その言葉の意味をレイヴンは理解していた。
自分たちが先日まで居た場所を破壊し尽くすと言うことはこれからレイヴンを倒せるまでしらみつぶしに地球を破壊していくつもりだろう。
この行動から予測するに単純極まりない作戦だということが見て取れたからだ。
そして、先日まで居た場所がバレていたということは相手に情報が渡っているということ10秒も経たないうちに二人は自分たちの身に迫る危機を理解していた。
「言ったろ...?留まってた方が危険だってよ..ここまでやるとは流石のオレでも思わなかったがな」
テレビアナウンサーは速報の内容を明日の天気でもお伝えする時のように落ち着いた表情で内容を話す。
『魔族によるここまでの破壊行為が起こるのは約20年ぶりで、【頂正軍】を壊滅させた後日以来となります、現場では人が住んではいなかったので死傷者はいないと思われますが......一体何があったのか、謎が残る事件となりました...そして、危険ですので静岡県在住の方 その周辺の県に住んでいる人は即刻逃げてください未だに魔族による破壊範囲は拡大中、町は地獄絵図と化しています、繰り返しますが、命の危険がありますので即刻逃げてください』
テレビに映る映像は黒い煙を吹き出しながら原型を留めぬ建物に 決壊し、富士山から流れ出したマグマが襲いかかり町全体を血の海のように真っ赤に赤く紅く、染め上げて行った。
この黒と紅の地獄を見るとゼルクは立ち上がった。
「これは...奴らやってはいけない一線をこえたな...!」
つい感じてしまう責任感と怒りにゼルクはしびれを切らす
悪の暴挙を止めてやろう、正義の心と共に全ての闇を斬り祓う聖剣である『永命剣』を手に取った。
「そうだな、オレも責任と怒りを感じるぜ
だが、こちらから闘いを挑むのは無謀だ、
サメに勝負を挑む小魚のように一瞬で飲み込まれてしまう」
レイヴンも手に持った弁当を一気に平らげ
飲み下すとフラリと立ち上がった。
「じゃあ、どうするってん言うんだ、このまま隠れてほとぼりが冷めるのを待つのか?俺はそんなのごめんだがな」
「オレもそのつもりだ、だが立ち向かう訳じゃない その逆だ」
「なに?どういうことだ」
ゼルクが顔を傾け、しかめるとそれに対比するようにレイヴンはニッと牙を見せつけるように笑みを浮かべる。
「『逃げながら』戦う」
「いや、それじゃ分からん...」
「まっ!要するにだなぁ~...」
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雨が小降りになりだした頃、雲の切れ間から月が顔を覗かせてやっと今が夜なのだと認識することができた。
厚い雲に覆われて星明かりでさえも遮ってしまう、魔族の開拓と進行は地球から太陽と月まで奪い去ってしまった。
その、奪われた空を取り返すための革命児が二人、月明かりに照らされてある場所に立っていた。
そう、ここは羽田国際空港!!
日本の世界へ飛び立つ大拠点だ。
「おい?そこにたってる二人もしかして?」
一人の魔族が二人の存在に気づくと携帯端末を取り出し、そこに映る写真と眼前に立つ二人とを見比べた。
黒髪でカメラに向かってバカみたいに口を開いて笑うピースサインの男
金色がかってはいるがくすんでいて光の無い髪色
特徴的なのはひたいに抉られたような傷
カメラに向けるのは無表情の男
その二つの写真の下には《DANGER》(お尋ね者)と赤文字で綴られていた
そして、目の前に視線を戻すと写真と同じ顔が二人
決まりだ、こいつらが自分たちの敵であり自分たちのボスの【クロウ】と【ホーク】に抹殺命令が出された対象なのだ 殺すべき命であるのだ。
出された警戒レベルは最大であるレベル10
生死は問わない、見つけ次第全勢力を持ってして叩き潰すことが許可されている。
「なぜわざわざ来たかは知らんが...見つけたぞ、お前たちはもう助からない」
懐に忍ばせたエマージェンシーボタンを力一杯押す
その場にいる魔族兵士全員の携帯端末が信号を受け取り、戦闘開始の合図となるサイレンを鳴り響かせた。
ビーーッ!ビーーッ!ビーーッ!
ビーーッ!ビーーッ!ビーーッ!
「さて、逃げるなよ?てめえら これから我ら【猛禽軍】全勢力を持ってして叩き潰してやるからなぁ!」
ファイティングポーズをとる兵士、それを見てレイヴンはふっと笑った。
「お前、上級魔族か?他には何人いる?警戒レベルは...まあ、レベル10ってところかな」
レイヴンのセリフは問い掛けているようではあるが声が小さく独り言に変わりなかった。
敵は問答無用に飛びかかってくる
「ほら、ボーッとすんなよ」
二人の間にゼルクが割って入ると剣を構える
敵の拳とゼルクの振った剣が交差すると同時に空に腕が舞った
腕は蒸気を上げながら地に落下すると突然発火し、青い炎に包まれながら消滅していった。
「『飛燕流...音越』!」
「う...おおぉお!!」
燃える腕を...さっきまで自分の右肩に付いていた腕が燃えるのを叫びを上げながら見ていた。
「て...めえッ!」
敵が少し遅れて怒りを叫ぶとそれを無視してゼルクは肩を透かし、先へと歩いて行った。
「急ぐぞ、レイヴン」
兵士は何故?と思いながらもチャンスだという思いに駆られ、残った左拳を握りしめ振り返りざまに一撃を放った。
「ふん」
しかし、それよりも先にゼルクがその体を突き飛ばした 力は大したことなく少し体が揺らいだだけだ。
このまま一撃を頭部に!
そう思ったが視界が自分の意思とは無関係に下に向いた。
また自分の意思とは無関係に転がるように視線が動くと信じられない物が目に飛び込んで来た。
それは、頭の無い自分の肉体だった
頭部を失い首なしになった喉元からは寂しい隙間を埋めるように血が恐ろしいほど吹き出ている
しばらくするとその体の支えとなる脚から力が抜け、崩れるように地面に倒れこんだ。
その敵は自分になにが起こったのか そんな簡単な事も理解できないまま、余りにも唐突にその命に幕が引かれた。
「これが『無感覚』...俺に斬られた者は死んだことにさえ気づけない」
小降りの雨が未だ未練がましく空港に降り注いでいた
水溜りを踏んで水を散らせる音が無数に聞こえてくる。
規則性はなく、その集団の規律は軽く各々の個性で戦う脳筋タイプなのだということは
足音を聞くだけで理解できた。
「おーおーおー!!命知らずな事だなぁ!」
「一斉に行くぞやろーども!!」
「向かってくるか!?それとも逃げ出すか!?死にたいか?」
空港の入り口から少し行くと空港屋内へと着く 大きなガラス張りでそこからは滑走路と飛行機を一望できる場所だった
しかし、今はもうガラスがバキバキに割れて見る影もないが...
そこで、ゼルクとレイヴン達は大人数に囲まれていた。
「当然だが...囲まれたな...」
「フン...弱気は良くないな、おっさん あんたはオレほどじゃねえが運命に愛されてるんだぜその右手に握られてるモンを見なよ」
ゼルクは視界を敵から右手にシフトする
握られているのは暗闇にもかかわらず黄金に輝く不死の剣『永命剣』だ。
マグマの中でゼルクに引き寄せられるように
はたまたゼルクを選び、寄り添うように手中に収められた聖剣である。
それを見てレイヴンが続ける。
「負ける要素なんてどこにもない!」
自信満々に何の疑いも無しにそう言うレイヴンは輝いていた
この魔族包囲網の中心地で存在感を放つ
「ああ、その通りだ 俺はさっきから負ける気なんぞしてない」
無数の魔族の喧騒の中、揺らぐことのない信念を胸に秘め しっかりと進むべき道を見据えていた。
「いくぜ!てめえらぁッ!!!!」
どこからともなく一つの声が上がる
「「オオオオオオオオオオオオ!!!」」
それに呼応して兵士たちは各々の場所から離れ、獲物に群がる肉食獣のように二人に襲いかかった。
声を上げ、魔力を吐き出し、笑いながら掛かってくる者もいた。
その不気味な勢いに対するゼルクそしてレイヴンは互いの力を自慢し合うように細胞の一つ一つから力を振り絞った。
「始めようか!革命を!」
再び始まった無謀な戦い
懲りもせず毎度毎度大怪我をしながら前に進む二人は 今度も力を駆使して切り抜けられるのか、それとも今度こそ負けてしまうのか
雨空の空港にて運命が再始動した。
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