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第16話「夜戦飛行」
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「いいか?作戦はこうだ」
たしか、突入前の会話ではレイヴンはこう言ったはずだ。
「これから向かうのは羽田国際空港 飛行機に乗って中国に渡る」
そう言われたので俺は違和感を感じた
空港は魔族達が封鎖していて近づけば自分たちの居場所がばれてしまうからだ。
バレずに飛行機を手にするなんて無理だろ
そんな感じの事をあいつに言ったら
「それでいいんだよ、オレたちは『逃げながら』闘うんだから」
と、返された
これはやっぱり意味がわからなかった
逃げるんだったらなおさらバレちゃダメだろう
疑問が口から出てしまったら ニヤリといつもの顔を見せやがる
それを見たらなぜか安心する
何でだろうなこいつが笑うときはいつも闘いの流れが有利に働くときだ、その安心感の条件反射みたいなものなのかもしれん
まあ、こんな話は置いといてだ
今思えばあいつはいつも突発的に無茶苦茶なアイデアを言い出すのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「叩き潰せぇぇッ!」
一人の魔族が先陣切って掛かってくる
しかし...
「遅いッ!」
ゼルクの神がかり的な一振りがその魔族から命を奪った。
目にも止まらない速度で首が落とされる、その光景を見て一瞬敵たちの足の動きが止まった。
「次......!」
ゼルクが冷たい目でそう告げ、刀を向けるとハッと闘志が湧いたように敵が群体で向かってくる
ワァァァァアアァァアアア!!!!
波のように塊で押し寄せる、東京の通勤ラッシュなんかとは比べ物にならない人の波
一瞬でも触れれば押しつぶされて死ぬことになる 個人の力と技術で躱し、圧倒するしかない。
「おっさん!しゃがめ!」
後ろから背を任せた男の張り上げた声が耳に響いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「だからよ、バレてもいいのよ 逆転の発想っつーの?わざと見つかって奴らのボス
つまり、オレの兄弟をおびき出す」
そうは言うが見つかってもすぐにボスが現れるわけではないだろう
なんなら無尽蔵に兵士を送り込むか兵器を使ってその場を吹っ飛ばすことだろう、俺だってそうする。
しかし、バカに見えても案外先のことまで考えているのだこの男は、そんな性格が突発的な考えを生み出すんだと思う。
「手順としては そこに張っている兵隊どもを突破した後すぐに飛行機に乗り込んで飛び立つ」
そう言うとレイヴンは床のコンクリを指で削りながら地図を描き始めた。
「ボスには連絡が入るだろうが本人が来るまでにしばらく時間がかかるはずだ その間に出発する」
自信満々のその顔は
穴だらけで付け入るすきがあるはずの作戦が完璧だと思わせるような強さがあった。
俺は知らぬ間に、この力強い笑顔とビッグスケールな思想に惚れていたのかもしれない
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「うおおおおおおオオオオオオ!!!」」
押し寄せる波、正面の敵に立ち向かえば残りの敵に潰される 後ろを気にしても横に集中しても残りの3方向から攻撃されるのに変わりはないならばどうするか?
「おっさん!しゃがめ!全方向を一気に攻撃する!!『武装針山』(クレイモア)!!!」
レイヴンが床に手を付き、そこに魔力を流し込むと地面が流動的な動きを見せた
そして、太さ10cm程の針形に変形すると勢いよく突き出された
「グワァーーー!!」
レイヴンを中心として伸びた針は向かって来る敵の体を串刺しにするが これで一網打尽にできるほど敵も甘くは無いのだ
大半の敵は攻撃が当たる前に跳躍して上から襲って来る
レイヴンの能力は体内に吸収した物を体内で原子レベルで加工して細胞と同化させ、『武装』するのが基本だが、修行によりこの能力はさらなる応用を見せるようになったのだ。
それが、自分の魔力を触れた者に『武装』させ、中から動きや形を操るというものだった
「オラァァァァァァ!!!!」
誰の叫びともわからない 叫びは降って来るような怒号に混じり、二人に襲い来る脅威を伝える
恐怖の勢いを向けられるレイヴン
マッチを擦るように手を勢いよくすり合わせると両腕に緑色の炎が発火した。
「燃やしやすいように固まってくれて嬉しいぜテメェら!」
笑みを浮かべ、体を捻り、上に向かって両手を合わせる
手の中で反射し合い炎のパワーが増幅される
「『緑色核』(アトミック.グリーン)!!」
手を広げると手の中で増幅されたパワーが解放される
空気がパンパンに詰まった風船が割れたときのように魔力が爆発し、頭上から向かって来る敵に強力な反撃を食らわせることとなった。
「ギャァァアアア!!!」
「溶け......るぅ!!?」
『アトミック.グリーン』の緑の炎は無慈悲な程に強力で敵兵たちを包み込み、溶かしていく 温度は500度 酸性度数はトップクラスである。
生きたまま焼かれ、溶かされる痛みは耐え難く緑色の炎の中に自ら飛び込む形となった敵兵たちは断末魔の声を上げながら無残にも溶けて地面に飛び散った。
「次だ次ぃ!」
魔王としての片鱗のような表情を浮かべながらレイヴンは燃え盛る手で敵を拱いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
だが、しかし やはり勝算が薄い限りどんなに自信があろうとも作戦に乗るわけにはいかない
俺が苦言を呈するとレイヴンはチョンと俺の鼻の先を弾いた。
何をする と、口に出そうと思ったがやめた
それはレイヴンの表情が真剣そのものだったからだ
「仮にもオレはあんたのパートナーだぜ?大丈夫だ信じてくれ......なんて、安いセリフじゃ信用は買えないか?」
ふと、悲しい顔をするレイヴン
やはり100何年生きていても所詮ガキなのか
寂しがり屋で信じることが相手から信用される秘訣だと思い込んでやがる
何より、こいつは優しい そのために魔界を追われたわけだが
「このオレには夢がある、それは全生物の共存だ この劣悪な環境を作り出している親父に嫌気がさして家出したわけだが その夢のためには仲間がいるし、時間も足りない できるだけ速く強く上に行きてぇんだ 再度問うよ、オレを信じてくれるか?」
やれやれ、そんな顔でこんなこと言われて無理ですなんて酷いこと言えるかよ
いいだろう覚悟決めてやるよ、自分で選んだ道 今更後悔は無いしこいつのこともサポートしてやりたい だったらこいつがこう言うならついて行くし、戦うならいつでもいくらでも戦う。
そんなことを俺はいつも考えるがいつもどう言葉にするのかが見つからない、そんなとき便利なセリフがある もう俺の口癖になっちまってるんだがな。
「しょうがねぇなぁ...」
と、だけ言っておけば後はこいつ次第だ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「接近戦では勝ち目はないぞ!」
「撃て!撃て!撃ち殺せ!」
空港エントランスの二階吹き抜け階段から
兵士達は銃を構える
切り刻まれた死体や、溶けて人の形が残っていない死体を足元に二人はその銃を構える敵の綺麗な隊列を見た
ズラリとチェスの駒のように並んだ敵は各々の武器または魔力を構えて 隊のどこかにいるリーダーの指示を待った。
二人もそれを待つ、発射と同時に何かが起こるのだ。
「撃てぇー!!」
放たれた殺意は音をマッハ3で追い越して歴戦の強者二人に撃ちこまれる
「ちょっと前、失礼するぜおっさん」
レイヴンはゼルクの前に躍り出ると弾丸を体で受け止める
服に無数の穴が空いたが弾丸そのものは『武装』により衝撃とダメージを吸収することにより無力化した。
「『飛燕陣』!!」
その後ろから円をえがく斬撃フォームが振られる
高速の一線は虹色に輝き、飛んでくる魔力射撃を撃ち落とした。
『永命剣』これに触れた敵意や殺意は打ち消され、浄化される つまり無効化だ
「やるじゃん!おっさん、オレの体を避けつつ魔力を切り裂くなんて芸術レベルの一撃だよ」
お調子者のレイヴンはすぐに口を開いて視線を敵から離すが、その際警戒は怠らない 細胞一つ一つが敏感なレーダーを有しているように勘が鋭いのだ。
「さて、二階のやつらどうする?」
そう聞くとレイヴンは「当然...」と前置きをして 一瞬の隙を抜い、素早い跳躍で二階に飛び込んだ。
「蹴散らしてやるぜ!」
「「ウワァァァァォォォォォォ!!!!」」
人の塊の中に飛び込んだレイヴン
左右上下...全方向から向けられる攻撃を見切りこちらから攻撃を加える
「グェッ!」
「ぶふぉあっ」
「ギャアア!!」
岩をやすやす砕くパワーで的確に急所を狙い撃つ拳は目を見張るスピードで敵兵を倒して行く。
時には反撃をくらって血を流したりするがそうした場合さらに倍のパワーで殴り返す、負けず嫌いなのだ。
「ヌアアアァァァ!!!」
吹っ飛ばされ手すりの柵を超えて一階に落とされる敵もいた。
そいつらはというと、
「よお、ご機嫌いかが?」
「ひっ...貴様はァァッ...ブゲッ!」
下でアリジゴクのように待ち構えているゼルクに斬られた。
「まだオレは死なんぞ!もっと強いやつ連れてきやがれ 雑魚どもがッ!」
全生物の共存だのなんだの言ってた男とは思えない強烈なセリフだ、ゼルクはそんなセリフを聞くともなく聞きながら二階から落とされる敵の後処理を続けていた。
「よし、レイヴン降りてこい 出口の警備が薄くなった!」
みると、出口の扉の場所にはもう誰もいなくなっていた こちらの応戦に気をとられすぎて守りが薄くなっているようだ。
「オラオラ、てめーら邪魔すんな どけ!!」
両手に大柄の魔族を掴みながらそう叫んでいた、レイヴンの出発はまだ少し遅れそうだ。
ゼルクはその姿を横目に一足先に出口に向かう、非常口の緑のライトの下をくぐり、滑走路のある広い芝生の上を全速力で駆ける。
そして、しばらく走った後黒い影が二つ空を横切った。
「いたぞ、たぶんあいつだ」
走るさなか頭上からそう聞こえた
走りはそのまま、足を止めずに見上げてみるとそこには カラスのように真っ黒な翼を広げて羽ばたく男と
全身を近未来的な装甲で武装し、ジェット噴射で飛行しているマシンスーツの男
この妙な二人が飛んでいた。
「こいつがゼルクってのであってるかな?クロウ」
「ああ、俺の情報と記憶が確かならそうだ」
「じゃあ、殺っていいな?」
「存分にやれ」
クロウと呼ばれた男がそう言うとマシンスーツの魔族はこちらに突っ込んで来た。
「あぶねっ!」
すんでのところで躱すと一瞬遅れて強い風が巻き起こる、ジェット気流のような風は人間程度の体重なら簡単に吹っ飛ばしていまう。
ゼルクも例外ではなく吹っ飛んでしまい、ゴロゴロとコンクリートと芝生が入り混じる地面を転がる。
「初めまして、ゼルク オレの名はホーク 君が人生で最後に聞く名前だ」
地面から起き上がる微妙な姿勢のところで一方的な言葉をかけられた
声には若干の高揚が見え隠れしているようで 闘いに喜びを感じるタイプなのだなと予想ができた。
「さっきの突進は挨拶の代わりだ、次はもっとぶっ飛んだやつをおみまいしてやるぜ!」
さっきからペラペラと喋るのはホークの方ばかりだ、ゼルクの方は静かに剣を腰の鞘から引き抜いて構える
明鏡止水、一滴の水に反応して作られる波紋のようにゼルクの動きは伸びやかで流れるように美しい。
「御託はいい、来いよ」
他の魔族とは雰囲気が違う、ゼルクはもうこいつと向きあった時点でこの二人が特級魔族だということに気づいていた
ホークは陸上選手のクラウチングスタートのように身をかがめる、装甲のラインが光ると内側から篭った機械音が闇夜に響く
足元の草がザワザワと揺れ立ち、そこを中心として風が吹き始めた。
「『ジェット.ラグ』!」
ゼルクの耳にはそう聞こえた、ホークの能力名なんだろう
しかし、今のゼルクにはどうでもいいことだ
「う......そ...だろ...?」
ホークの声が聞こえた頃にはその体が宙に舞っていた
いつの間に、ホークの足が1mm、地面から離れた瞬間ゼルクの体はぶっ飛ばされたのだ。
少し遅れて全身に痛みが走る、さながら光った後に音が聞こえる雷のように、痛みも遅れてやって来た。
宙で回り、二転三転する世界の中、自分の体のコントロールを失いながらもゼルクは敵の姿を視界に入れた。
黒く 硬質に黒光りする装甲は角の先から爪先まで覆っていてそこには無数に噴射口が付いている、そこから魔力が煙のように立ち上っていた。
「グェッ」
ドチャっと地面に落ちた
目の前には妙にカッコつけた立ち方をするホークが見える、マスクで顔は伺えないがもう勝利を確信したような顔になっているのだろう。
「こんなもんだよな...たかが人間だ、期待したオレが悪かったよ...フフフ」
(うるせぇ黙れ、と言いたいところだが確かにこいつはヤベエ、一発でこれか...ポテンシャルの違いってのはつくづく残酷だな...)
血を流しながら立ち上がろうとする姿 なんて惨めなのだろうか、だが、魔族に同情するような心は毛頭ないのは皆の知る通りだ。
怪我を負っていても少しの手加減もしてくれない。
「お前がどれだけ強いのか気にはなるが、こちらも死活問題なんでな死んでもらうぜ」
「う...うぅ...」
今にも崩れて風に飛ばされそうな枯れ葉のようにボロボロにされたゼルクは歩いて向かってくるホークを前にして立ち上がる。
「ハァー...ハァー...ハァー...」
「なんだ?まだやる気なのか?」
ゼルクの現状はこの上なく悪い
骨折してまともな動きができなくなった
その体で挑むのはレイヴンクラスの特級魔族二人だ、普通に考えて勝ち目などないのだ。
「ホーク早くトドメを刺せ レイヴンがこっちに気づいたぞ」
クロウが顔色ひとつ変えず空港出口付近を指差した
そこには怒り心頭な表情をしたレイヴンがぽつんと立っていた
全身血まみれ、返り血なのか自分の血なのかわからない程に真っ赤になっていた。
「兄ちゃん、あんた行ってくれる?すぐに応援に駆けつけるから」
「分かった躊躇わずに殺れよ」
クロウはそう言い残すと黒い翼を羽ばたかせレイヴンの方へ飛んで行ってしまった。
(やっぱり見積もりが甘かったんだ、想像以上にこいつらの到着が早かった...)
若干弱気になりながらも右腕右脚を前に出し剣を突き出す、一度剣を握れば気持ちはスイッチを入れたように切り替わる。
「『感...覚...夢双...』!」
体内で生成された魔力が細胞に染み込んでいく、体から痛みが消えていき 代わりに力が溢れてくる。
「応急処置もいいところだがこれでしばらくは...」
「『ジェット.ラグ』」
ゼルクが体の調子を確かめている最中にホークがクラウチングスタートの体勢に入った。
発車数秒前のロケットのように肩と脚の噴射口から魔力の黒い煙が噴き出され、強烈な風を巻き起こす。
「よ~い...」
ホークは小さな声でそう言うと身を縮こませ...
「ドン!」
地面を蹴り出す!
地面にヒビが割れ、最高速に達するまでの時間は0秒、最初から最後までフルスロットルで走れるのがこの能力で、その肝心の最高速はマッハ88万 つまり、光速である。
ホークの能力は魔力装甲と呼ばれる類で身につけるタイプの能力だ 各関節各部位に配置された噴射口から魔力を圧縮噴射し、元の強力な脚力を梶にして敵に突っ込むそのスピードは生物界、いや、概念界最速だ。
「グッバァァァァイィ!!カス野郎!!!」
腕からもジェットを噴射し、光の速度の手刀を繰り出す。
動きの止まった相手を壊すのは赤子の手をひねるより簡単だ
そのはずだった...
「傲慢は身を滅ぼすんだぜ」
光の速さの世界、それは相対性理論に則って考えると停止の世界 光の速さに達すると時間が止まるのだ
しかし、ゼルクは動いた、動いてその剣で手刀を受け止めた。
「うおぉ!!?」
圧倒的なパワーでぶつかったので瞬間的に聞いたこともないような異音が響く。
「...人間がこの世界に入ってこれるのかよ...ぶっ飛んでやがる...!」
そう呟くがその言葉は誰の耳にも届かない
なぜなら音より速く動いているのだから
このマッハ88万の駆け引きではマッハ1の音速などクソの役にも立たない速さになっているのだろう。
「時は動き出す...なんちゃって」
二人が脚を止めると時間は動き出した、それと同時に地面は抉れて風に飛ばされ、さっきのセリフが遅れて聞こえてくる。
これが『ジェット.ラグ』時間差の崩壊である
「誰がカス野郎だと...!?」
「傲慢...ねぇ...」
二人は互いの攻撃射程距離ギリギリまで飛び退き、息を整える。
遅れて聞こえてきた言葉に反応する二人、音速で伝わる言葉は留守番電話のように後で聞こえる。
「驚いたぜ...オレの速さに、オレの世界についてこれる奴は魔界にもなかなかいないからなぁ!」
やや興奮気味になったホークを対照的にゼルクは冷たい目線を送った。
「なあ、もっと見せてくれよお前の実力を!まだなんか隠してるだろ?奥の手をよぉ~」
やけに鬱陶しく、暑苦しい態度に眉間にシワを寄せる ゼルクはうるさい奴が苦手だ。
だが、勝つためには仕方ない
奥の手だろうが切り札だろうが全部使って倒さなければならない程にこのホークという男は強い 出会って1分ただ一つ確信して言えることであった。
「こないならオレから行くぞ...」
3度目の突進だ、ホークが姿勢を低くして噴射口に魔力を溜める
しかしだ、最初無敵かと思われたこの能力案外付け入る隙があるのかもしれない。
例えばこの溜めの時間、一度動けば恐ろしく速いが溜めるためには動きを止める必要があるようだ 必要がないなら動きながら溜めた方が効率的だし隙も少ない。
「『ジェット.ラグ』!!」
そして、この一撃だ 速すぎる動きの代償としてかこの能力の発動時は直線的な動きしかできないようだ
「いくら速かろうが来る方向とタイミングが分かってるならば...」
相対性理論によりあらゆるものの動きが止まると同時にゼルクは剣を抜く
予想どおりホークの奴は真っ直ぐに飛んでいる。
一直線に向かって来るホーク相手に『永命剣』を右手にしっかり握りしめ、力よりも速さ優先で振り払った。
「この俺と剣に斬れぬものなどありはしない!!」
視界に血が写り込む自分のか?いや違う。
「クアァアア...痛え...!?」
横には腹を押さえて中腰になっているホークがいた 装甲は『永命剣』の力で破壊されそこから傷口が見えている
手応えはあった、上気味になぎ払ったので横腹から入って肋骨を砕いているはずだ、もしかすれば内臓にまで届いているかもしれない。
「や...やるなぁ...おっさんよぉ~...」
そして、発見した最後の隙
それは攻撃後のクールタイムとも呼べる一瞬の停止だその時 体を覆う魔力は極端に少なくなっていて、攻撃するには絶好のチャンスとも言えるが...
「......ムゥゥ...あと...一歩...いや、一瞬が足りなかったか...」
ゼルクは突然膝を折る
体からは情けなく薄い煙が上がっていた、魔力の残りカスのようなものだ。
「これは...?...そうか」
ニヤリ 状況を理解したホークは装甲マスクの下で笑みを浮かべた。
「この現象は...魔力切れだな?」
ゼルクは答えない地面に膝をついたまま一歩も動こうともしない、ただ右手には剣が握られていた。
「惜しかったなあと一瞬、まばたきするにも満たないくらいの時間があればオレを倒せたかもしれなかったのになぁ!」
ホークの『ジェット.ラグ』の破壊された箇所が修復されていく、2秒もすると元どおりだ
「待ってろ、今殺してやる」
ホークは魔力を全身に込め、ゼルクにトドメを刺そうと一歩踏み出す
だが...
「な...んだ?...う、動かねぇ...?足が、いや、指まで動かせねぇ!」
体の感覚があるにも関わらず指一本動かせない
しかし、足は固定されたように棒立ちのままだ この状態異常はいったい...?
「悪いが一時的に副交換神経...ってやつの感覚を麻痺させた、俺が気を失うまでおめーは動くことができねえぜ」
膝立ちのままのゼルクは得意げな顔を見せた
口から垂れてきた血を袖で拭うと言葉を続ける。
「副交換神経ってのは体を動かす神経系統でな、金縛りなどの現象もこの神経の麻痺によるものらしい そして俺はお前からその神経を奪っておいた」
体から痛みを消していた『感覚夢双』も消え全身が痛みに苛まれるが 顔色一つ変えず不敵に笑って見せた。
「う...あぁ...」
『無感覚』の影響が全身に出始め ホークはまともに喋ることもできない ただ、ゼルクが気を失うのを待つだけとなった。
(こいつ...あの状況から相打ちまでに持って来るとは、かなりの手練れだってのは認めざるを得ないな だが、フフフ...クロウが戻って来ればもうおしまいだ 今頃レイヴンを倒しているはずだ、クロウとレイヴンでは相性がいいからな、レイヴンのやつは防戦一方になっているはずだ)
そう考え緊張が揺らいだ瞬間、横から黒い塊がぶつかってきた。
勢いよくぶつかったために地面から足が浮き身動きがとれないために受け身をとれず顔面をコンクリートに打ち付けた。
ツンと鼻が痺れて鉄の匂いが鼻に満ちたが鼻血は出ていない
「くッ!レイヴンンンン...!!」
黒い塊は起き上がると威嚇するような低い声を出し、立ち上がった
その声はホークには聞き覚えのある声であった。
「怒りてえのはこっちだぜ!オレの左腕を腐らせやがってよぉ~!!」
後から聞こえてきた声はゼルクにも聞き覚えのある声だった。
重たい頭を横に回して見ると、片腕が黒く変色してボロボロに崩れているレイヴンの姿があった。
「おっさん!悪いな待たせてよぉ~!予定は割と崩れたが大体計画通りだ飛ぶぜ!」
レイヴンは走ると、へたり込んだままのゼルクを小脇に抱えて停車している飛行機の元に駆けていく。
「逃がすかよ...『穢れた翼(アシッドスカイ)』」
クロウは静かに魔力を展開するそれによって発動したのは翼だ、黒い翼が背中に生えた
翼を広げるとザワザワと羽の一枚一枚が一つの生命体のように蠢く
そして、勢いよく一度だけ翼を羽ばたかせると30枚程の羽が弾丸のように鋭く二人を追って飛んで行った。
「また腐らせる気か?」
さっきまで闘っていたレイヴンはこの能力の効果と恐ろしさを知っている なんせさっき腕を破壊されたばかりなのだから。
「もうくらわんぞ『武装壁(ザ.ウォール)』」
レイヴンの角から放出された魔力は体を伝わり足の裏から地面に流されると地面が形を変え、レイヴンへの道を通せんぼする壁になった。
その壁に勢いよく羽が当たる
羽の付け根が硬いコンクリート製の壁に突き刺さると 羽から魔力が注入される、この世の何よりも黒いその魔力 それを受けた壁は みるみるうちに黒く変色し、崩れた
崩れた先に見えたのは随分遠くまで逃げているレイヴンだった。
「ふん、とっさの判断としては的確だな
だが...この翼は500kmで飛行可能!人間を抱えたまま我が『穢れた翼(アシッドスカイ)』から逃げられるか?」
クロウは羽ばたき、地面から足を離す、倒れたままのホークはそのままにしてまずはあの二人の始末を最優先事項とする
翼の広さは優に5mを超える、その翼で空気を掻き それを推進力として前に進む
レイヴンとゼルクへの距離は500m
時速500kmあれば余裕で追いつける
「やべえな、これだと追いつかれちまう」
ゼルクを抱えて走るレイヴン、魔族の腕力があれば人一人抱えているだけではスピードは落ちないが レイヴンは今片腕を失っている
ゼルクを抱えてしまうともうなにもできないのだ
空港に一台だけ残されたボロっちい飛行機は800m先に停めてある、秒速123mのレイヴンなら8秒あれば飛行機に到着するが
秒速123mとはすなわち時速444kmということクロウの時速500kmの翼から8秒の間
逃れられるのか...
「フハハハ!!!今行くぞ!!!」
クロウの悪魔的笑い声が夜空に響いた
To Be Continued→
たしか、突入前の会話ではレイヴンはこう言ったはずだ。
「これから向かうのは羽田国際空港 飛行機に乗って中国に渡る」
そう言われたので俺は違和感を感じた
空港は魔族達が封鎖していて近づけば自分たちの居場所がばれてしまうからだ。
バレずに飛行機を手にするなんて無理だろ
そんな感じの事をあいつに言ったら
「それでいいんだよ、オレたちは『逃げながら』闘うんだから」
と、返された
これはやっぱり意味がわからなかった
逃げるんだったらなおさらバレちゃダメだろう
疑問が口から出てしまったら ニヤリといつもの顔を見せやがる
それを見たらなぜか安心する
何でだろうなこいつが笑うときはいつも闘いの流れが有利に働くときだ、その安心感の条件反射みたいなものなのかもしれん
まあ、こんな話は置いといてだ
今思えばあいつはいつも突発的に無茶苦茶なアイデアを言い出すのだ。
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「叩き潰せぇぇッ!」
一人の魔族が先陣切って掛かってくる
しかし...
「遅いッ!」
ゼルクの神がかり的な一振りがその魔族から命を奪った。
目にも止まらない速度で首が落とされる、その光景を見て一瞬敵たちの足の動きが止まった。
「次......!」
ゼルクが冷たい目でそう告げ、刀を向けるとハッと闘志が湧いたように敵が群体で向かってくる
ワァァァァアアァァアアア!!!!
波のように塊で押し寄せる、東京の通勤ラッシュなんかとは比べ物にならない人の波
一瞬でも触れれば押しつぶされて死ぬことになる 個人の力と技術で躱し、圧倒するしかない。
「おっさん!しゃがめ!」
後ろから背を任せた男の張り上げた声が耳に響いた。
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「だからよ、バレてもいいのよ 逆転の発想っつーの?わざと見つかって奴らのボス
つまり、オレの兄弟をおびき出す」
そうは言うが見つかってもすぐにボスが現れるわけではないだろう
なんなら無尽蔵に兵士を送り込むか兵器を使ってその場を吹っ飛ばすことだろう、俺だってそうする。
しかし、バカに見えても案外先のことまで考えているのだこの男は、そんな性格が突発的な考えを生み出すんだと思う。
「手順としては そこに張っている兵隊どもを突破した後すぐに飛行機に乗り込んで飛び立つ」
そう言うとレイヴンは床のコンクリを指で削りながら地図を描き始めた。
「ボスには連絡が入るだろうが本人が来るまでにしばらく時間がかかるはずだ その間に出発する」
自信満々のその顔は
穴だらけで付け入るすきがあるはずの作戦が完璧だと思わせるような強さがあった。
俺は知らぬ間に、この力強い笑顔とビッグスケールな思想に惚れていたのかもしれない
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「「うおおおおおおオオオオオオ!!!」」
押し寄せる波、正面の敵に立ち向かえば残りの敵に潰される 後ろを気にしても横に集中しても残りの3方向から攻撃されるのに変わりはないならばどうするか?
「おっさん!しゃがめ!全方向を一気に攻撃する!!『武装針山』(クレイモア)!!!」
レイヴンが床に手を付き、そこに魔力を流し込むと地面が流動的な動きを見せた
そして、太さ10cm程の針形に変形すると勢いよく突き出された
「グワァーーー!!」
レイヴンを中心として伸びた針は向かって来る敵の体を串刺しにするが これで一網打尽にできるほど敵も甘くは無いのだ
大半の敵は攻撃が当たる前に跳躍して上から襲って来る
レイヴンの能力は体内に吸収した物を体内で原子レベルで加工して細胞と同化させ、『武装』するのが基本だが、修行によりこの能力はさらなる応用を見せるようになったのだ。
それが、自分の魔力を触れた者に『武装』させ、中から動きや形を操るというものだった
「オラァァァァァァ!!!!」
誰の叫びともわからない 叫びは降って来るような怒号に混じり、二人に襲い来る脅威を伝える
恐怖の勢いを向けられるレイヴン
マッチを擦るように手を勢いよくすり合わせると両腕に緑色の炎が発火した。
「燃やしやすいように固まってくれて嬉しいぜテメェら!」
笑みを浮かべ、体を捻り、上に向かって両手を合わせる
手の中で反射し合い炎のパワーが増幅される
「『緑色核』(アトミック.グリーン)!!」
手を広げると手の中で増幅されたパワーが解放される
空気がパンパンに詰まった風船が割れたときのように魔力が爆発し、頭上から向かって来る敵に強力な反撃を食らわせることとなった。
「ギャァァアアア!!!」
「溶け......るぅ!!?」
『アトミック.グリーン』の緑の炎は無慈悲な程に強力で敵兵たちを包み込み、溶かしていく 温度は500度 酸性度数はトップクラスである。
生きたまま焼かれ、溶かされる痛みは耐え難く緑色の炎の中に自ら飛び込む形となった敵兵たちは断末魔の声を上げながら無残にも溶けて地面に飛び散った。
「次だ次ぃ!」
魔王としての片鱗のような表情を浮かべながらレイヴンは燃え盛る手で敵を拱いた。
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だが、しかし やはり勝算が薄い限りどんなに自信があろうとも作戦に乗るわけにはいかない
俺が苦言を呈するとレイヴンはチョンと俺の鼻の先を弾いた。
何をする と、口に出そうと思ったがやめた
それはレイヴンの表情が真剣そのものだったからだ
「仮にもオレはあんたのパートナーだぜ?大丈夫だ信じてくれ......なんて、安いセリフじゃ信用は買えないか?」
ふと、悲しい顔をするレイヴン
やはり100何年生きていても所詮ガキなのか
寂しがり屋で信じることが相手から信用される秘訣だと思い込んでやがる
何より、こいつは優しい そのために魔界を追われたわけだが
「このオレには夢がある、それは全生物の共存だ この劣悪な環境を作り出している親父に嫌気がさして家出したわけだが その夢のためには仲間がいるし、時間も足りない できるだけ速く強く上に行きてぇんだ 再度問うよ、オレを信じてくれるか?」
やれやれ、そんな顔でこんなこと言われて無理ですなんて酷いこと言えるかよ
いいだろう覚悟決めてやるよ、自分で選んだ道 今更後悔は無いしこいつのこともサポートしてやりたい だったらこいつがこう言うならついて行くし、戦うならいつでもいくらでも戦う。
そんなことを俺はいつも考えるがいつもどう言葉にするのかが見つからない、そんなとき便利なセリフがある もう俺の口癖になっちまってるんだがな。
「しょうがねぇなぁ...」
と、だけ言っておけば後はこいつ次第だ
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「接近戦では勝ち目はないぞ!」
「撃て!撃て!撃ち殺せ!」
空港エントランスの二階吹き抜け階段から
兵士達は銃を構える
切り刻まれた死体や、溶けて人の形が残っていない死体を足元に二人はその銃を構える敵の綺麗な隊列を見た
ズラリとチェスの駒のように並んだ敵は各々の武器または魔力を構えて 隊のどこかにいるリーダーの指示を待った。
二人もそれを待つ、発射と同時に何かが起こるのだ。
「撃てぇー!!」
放たれた殺意は音をマッハ3で追い越して歴戦の強者二人に撃ちこまれる
「ちょっと前、失礼するぜおっさん」
レイヴンはゼルクの前に躍り出ると弾丸を体で受け止める
服に無数の穴が空いたが弾丸そのものは『武装』により衝撃とダメージを吸収することにより無力化した。
「『飛燕陣』!!」
その後ろから円をえがく斬撃フォームが振られる
高速の一線は虹色に輝き、飛んでくる魔力射撃を撃ち落とした。
『永命剣』これに触れた敵意や殺意は打ち消され、浄化される つまり無効化だ
「やるじゃん!おっさん、オレの体を避けつつ魔力を切り裂くなんて芸術レベルの一撃だよ」
お調子者のレイヴンはすぐに口を開いて視線を敵から離すが、その際警戒は怠らない 細胞一つ一つが敏感なレーダーを有しているように勘が鋭いのだ。
「さて、二階のやつらどうする?」
そう聞くとレイヴンは「当然...」と前置きをして 一瞬の隙を抜い、素早い跳躍で二階に飛び込んだ。
「蹴散らしてやるぜ!」
「「ウワァァァァォォォォォォ!!!!」」
人の塊の中に飛び込んだレイヴン
左右上下...全方向から向けられる攻撃を見切りこちらから攻撃を加える
「グェッ!」
「ぶふぉあっ」
「ギャアア!!」
岩をやすやす砕くパワーで的確に急所を狙い撃つ拳は目を見張るスピードで敵兵を倒して行く。
時には反撃をくらって血を流したりするがそうした場合さらに倍のパワーで殴り返す、負けず嫌いなのだ。
「ヌアアアァァァ!!!」
吹っ飛ばされ手すりの柵を超えて一階に落とされる敵もいた。
そいつらはというと、
「よお、ご機嫌いかが?」
「ひっ...貴様はァァッ...ブゲッ!」
下でアリジゴクのように待ち構えているゼルクに斬られた。
「まだオレは死なんぞ!もっと強いやつ連れてきやがれ 雑魚どもがッ!」
全生物の共存だのなんだの言ってた男とは思えない強烈なセリフだ、ゼルクはそんなセリフを聞くともなく聞きながら二階から落とされる敵の後処理を続けていた。
「よし、レイヴン降りてこい 出口の警備が薄くなった!」
みると、出口の扉の場所にはもう誰もいなくなっていた こちらの応戦に気をとられすぎて守りが薄くなっているようだ。
「オラオラ、てめーら邪魔すんな どけ!!」
両手に大柄の魔族を掴みながらそう叫んでいた、レイヴンの出発はまだ少し遅れそうだ。
ゼルクはその姿を横目に一足先に出口に向かう、非常口の緑のライトの下をくぐり、滑走路のある広い芝生の上を全速力で駆ける。
そして、しばらく走った後黒い影が二つ空を横切った。
「いたぞ、たぶんあいつだ」
走るさなか頭上からそう聞こえた
走りはそのまま、足を止めずに見上げてみるとそこには カラスのように真っ黒な翼を広げて羽ばたく男と
全身を近未来的な装甲で武装し、ジェット噴射で飛行しているマシンスーツの男
この妙な二人が飛んでいた。
「こいつがゼルクってのであってるかな?クロウ」
「ああ、俺の情報と記憶が確かならそうだ」
「じゃあ、殺っていいな?」
「存分にやれ」
クロウと呼ばれた男がそう言うとマシンスーツの魔族はこちらに突っ込んで来た。
「あぶねっ!」
すんでのところで躱すと一瞬遅れて強い風が巻き起こる、ジェット気流のような風は人間程度の体重なら簡単に吹っ飛ばしていまう。
ゼルクも例外ではなく吹っ飛んでしまい、ゴロゴロとコンクリートと芝生が入り混じる地面を転がる。
「初めまして、ゼルク オレの名はホーク 君が人生で最後に聞く名前だ」
地面から起き上がる微妙な姿勢のところで一方的な言葉をかけられた
声には若干の高揚が見え隠れしているようで 闘いに喜びを感じるタイプなのだなと予想ができた。
「さっきの突進は挨拶の代わりだ、次はもっとぶっ飛んだやつをおみまいしてやるぜ!」
さっきからペラペラと喋るのはホークの方ばかりだ、ゼルクの方は静かに剣を腰の鞘から引き抜いて構える
明鏡止水、一滴の水に反応して作られる波紋のようにゼルクの動きは伸びやかで流れるように美しい。
「御託はいい、来いよ」
他の魔族とは雰囲気が違う、ゼルクはもうこいつと向きあった時点でこの二人が特級魔族だということに気づいていた
ホークは陸上選手のクラウチングスタートのように身をかがめる、装甲のラインが光ると内側から篭った機械音が闇夜に響く
足元の草がザワザワと揺れ立ち、そこを中心として風が吹き始めた。
「『ジェット.ラグ』!」
ゼルクの耳にはそう聞こえた、ホークの能力名なんだろう
しかし、今のゼルクにはどうでもいいことだ
「う......そ...だろ...?」
ホークの声が聞こえた頃にはその体が宙に舞っていた
いつの間に、ホークの足が1mm、地面から離れた瞬間ゼルクの体はぶっ飛ばされたのだ。
少し遅れて全身に痛みが走る、さながら光った後に音が聞こえる雷のように、痛みも遅れてやって来た。
宙で回り、二転三転する世界の中、自分の体のコントロールを失いながらもゼルクは敵の姿を視界に入れた。
黒く 硬質に黒光りする装甲は角の先から爪先まで覆っていてそこには無数に噴射口が付いている、そこから魔力が煙のように立ち上っていた。
「グェッ」
ドチャっと地面に落ちた
目の前には妙にカッコつけた立ち方をするホークが見える、マスクで顔は伺えないがもう勝利を確信したような顔になっているのだろう。
「こんなもんだよな...たかが人間だ、期待したオレが悪かったよ...フフフ」
(うるせぇ黙れ、と言いたいところだが確かにこいつはヤベエ、一発でこれか...ポテンシャルの違いってのはつくづく残酷だな...)
血を流しながら立ち上がろうとする姿 なんて惨めなのだろうか、だが、魔族に同情するような心は毛頭ないのは皆の知る通りだ。
怪我を負っていても少しの手加減もしてくれない。
「お前がどれだけ強いのか気にはなるが、こちらも死活問題なんでな死んでもらうぜ」
「う...うぅ...」
今にも崩れて風に飛ばされそうな枯れ葉のようにボロボロにされたゼルクは歩いて向かってくるホークを前にして立ち上がる。
「ハァー...ハァー...ハァー...」
「なんだ?まだやる気なのか?」
ゼルクの現状はこの上なく悪い
骨折してまともな動きができなくなった
その体で挑むのはレイヴンクラスの特級魔族二人だ、普通に考えて勝ち目などないのだ。
「ホーク早くトドメを刺せ レイヴンがこっちに気づいたぞ」
クロウが顔色ひとつ変えず空港出口付近を指差した
そこには怒り心頭な表情をしたレイヴンがぽつんと立っていた
全身血まみれ、返り血なのか自分の血なのかわからない程に真っ赤になっていた。
「兄ちゃん、あんた行ってくれる?すぐに応援に駆けつけるから」
「分かった躊躇わずに殺れよ」
クロウはそう言い残すと黒い翼を羽ばたかせレイヴンの方へ飛んで行ってしまった。
(やっぱり見積もりが甘かったんだ、想像以上にこいつらの到着が早かった...)
若干弱気になりながらも右腕右脚を前に出し剣を突き出す、一度剣を握れば気持ちはスイッチを入れたように切り替わる。
「『感...覚...夢双...』!」
体内で生成された魔力が細胞に染み込んでいく、体から痛みが消えていき 代わりに力が溢れてくる。
「応急処置もいいところだがこれでしばらくは...」
「『ジェット.ラグ』」
ゼルクが体の調子を確かめている最中にホークがクラウチングスタートの体勢に入った。
発車数秒前のロケットのように肩と脚の噴射口から魔力の黒い煙が噴き出され、強烈な風を巻き起こす。
「よ~い...」
ホークは小さな声でそう言うと身を縮こませ...
「ドン!」
地面を蹴り出す!
地面にヒビが割れ、最高速に達するまでの時間は0秒、最初から最後までフルスロットルで走れるのがこの能力で、その肝心の最高速はマッハ88万 つまり、光速である。
ホークの能力は魔力装甲と呼ばれる類で身につけるタイプの能力だ 各関節各部位に配置された噴射口から魔力を圧縮噴射し、元の強力な脚力を梶にして敵に突っ込むそのスピードは生物界、いや、概念界最速だ。
「グッバァァァァイィ!!カス野郎!!!」
腕からもジェットを噴射し、光の速度の手刀を繰り出す。
動きの止まった相手を壊すのは赤子の手をひねるより簡単だ
そのはずだった...
「傲慢は身を滅ぼすんだぜ」
光の速さの世界、それは相対性理論に則って考えると停止の世界 光の速さに達すると時間が止まるのだ
しかし、ゼルクは動いた、動いてその剣で手刀を受け止めた。
「うおぉ!!?」
圧倒的なパワーでぶつかったので瞬間的に聞いたこともないような異音が響く。
「...人間がこの世界に入ってこれるのかよ...ぶっ飛んでやがる...!」
そう呟くがその言葉は誰の耳にも届かない
なぜなら音より速く動いているのだから
このマッハ88万の駆け引きではマッハ1の音速などクソの役にも立たない速さになっているのだろう。
「時は動き出す...なんちゃって」
二人が脚を止めると時間は動き出した、それと同時に地面は抉れて風に飛ばされ、さっきのセリフが遅れて聞こえてくる。
これが『ジェット.ラグ』時間差の崩壊である
「誰がカス野郎だと...!?」
「傲慢...ねぇ...」
二人は互いの攻撃射程距離ギリギリまで飛び退き、息を整える。
遅れて聞こえてきた言葉に反応する二人、音速で伝わる言葉は留守番電話のように後で聞こえる。
「驚いたぜ...オレの速さに、オレの世界についてこれる奴は魔界にもなかなかいないからなぁ!」
やや興奮気味になったホークを対照的にゼルクは冷たい目線を送った。
「なあ、もっと見せてくれよお前の実力を!まだなんか隠してるだろ?奥の手をよぉ~」
やけに鬱陶しく、暑苦しい態度に眉間にシワを寄せる ゼルクはうるさい奴が苦手だ。
だが、勝つためには仕方ない
奥の手だろうが切り札だろうが全部使って倒さなければならない程にこのホークという男は強い 出会って1分ただ一つ確信して言えることであった。
「こないならオレから行くぞ...」
3度目の突進だ、ホークが姿勢を低くして噴射口に魔力を溜める
しかしだ、最初無敵かと思われたこの能力案外付け入る隙があるのかもしれない。
例えばこの溜めの時間、一度動けば恐ろしく速いが溜めるためには動きを止める必要があるようだ 必要がないなら動きながら溜めた方が効率的だし隙も少ない。
「『ジェット.ラグ』!!」
そして、この一撃だ 速すぎる動きの代償としてかこの能力の発動時は直線的な動きしかできないようだ
「いくら速かろうが来る方向とタイミングが分かってるならば...」
相対性理論によりあらゆるものの動きが止まると同時にゼルクは剣を抜く
予想どおりホークの奴は真っ直ぐに飛んでいる。
一直線に向かって来るホーク相手に『永命剣』を右手にしっかり握りしめ、力よりも速さ優先で振り払った。
「この俺と剣に斬れぬものなどありはしない!!」
視界に血が写り込む自分のか?いや違う。
「クアァアア...痛え...!?」
横には腹を押さえて中腰になっているホークがいた 装甲は『永命剣』の力で破壊されそこから傷口が見えている
手応えはあった、上気味になぎ払ったので横腹から入って肋骨を砕いているはずだ、もしかすれば内臓にまで届いているかもしれない。
「や...やるなぁ...おっさんよぉ~...」
そして、発見した最後の隙
それは攻撃後のクールタイムとも呼べる一瞬の停止だその時 体を覆う魔力は極端に少なくなっていて、攻撃するには絶好のチャンスとも言えるが...
「......ムゥゥ...あと...一歩...いや、一瞬が足りなかったか...」
ゼルクは突然膝を折る
体からは情けなく薄い煙が上がっていた、魔力の残りカスのようなものだ。
「これは...?...そうか」
ニヤリ 状況を理解したホークは装甲マスクの下で笑みを浮かべた。
「この現象は...魔力切れだな?」
ゼルクは答えない地面に膝をついたまま一歩も動こうともしない、ただ右手には剣が握られていた。
「惜しかったなあと一瞬、まばたきするにも満たないくらいの時間があればオレを倒せたかもしれなかったのになぁ!」
ホークの『ジェット.ラグ』の破壊された箇所が修復されていく、2秒もすると元どおりだ
「待ってろ、今殺してやる」
ホークは魔力を全身に込め、ゼルクにトドメを刺そうと一歩踏み出す
だが...
「な...んだ?...う、動かねぇ...?足が、いや、指まで動かせねぇ!」
体の感覚があるにも関わらず指一本動かせない
しかし、足は固定されたように棒立ちのままだ この状態異常はいったい...?
「悪いが一時的に副交換神経...ってやつの感覚を麻痺させた、俺が気を失うまでおめーは動くことができねえぜ」
膝立ちのままのゼルクは得意げな顔を見せた
口から垂れてきた血を袖で拭うと言葉を続ける。
「副交換神経ってのは体を動かす神経系統でな、金縛りなどの現象もこの神経の麻痺によるものらしい そして俺はお前からその神経を奪っておいた」
体から痛みを消していた『感覚夢双』も消え全身が痛みに苛まれるが 顔色一つ変えず不敵に笑って見せた。
「う...あぁ...」
『無感覚』の影響が全身に出始め ホークはまともに喋ることもできない ただ、ゼルクが気を失うのを待つだけとなった。
(こいつ...あの状況から相打ちまでに持って来るとは、かなりの手練れだってのは認めざるを得ないな だが、フフフ...クロウが戻って来ればもうおしまいだ 今頃レイヴンを倒しているはずだ、クロウとレイヴンでは相性がいいからな、レイヴンのやつは防戦一方になっているはずだ)
そう考え緊張が揺らいだ瞬間、横から黒い塊がぶつかってきた。
勢いよくぶつかったために地面から足が浮き身動きがとれないために受け身をとれず顔面をコンクリートに打ち付けた。
ツンと鼻が痺れて鉄の匂いが鼻に満ちたが鼻血は出ていない
「くッ!レイヴンンンン...!!」
黒い塊は起き上がると威嚇するような低い声を出し、立ち上がった
その声はホークには聞き覚えのある声であった。
「怒りてえのはこっちだぜ!オレの左腕を腐らせやがってよぉ~!!」
後から聞こえてきた声はゼルクにも聞き覚えのある声だった。
重たい頭を横に回して見ると、片腕が黒く変色してボロボロに崩れているレイヴンの姿があった。
「おっさん!悪いな待たせてよぉ~!予定は割と崩れたが大体計画通りだ飛ぶぜ!」
レイヴンは走ると、へたり込んだままのゼルクを小脇に抱えて停車している飛行機の元に駆けていく。
「逃がすかよ...『穢れた翼(アシッドスカイ)』」
クロウは静かに魔力を展開するそれによって発動したのは翼だ、黒い翼が背中に生えた
翼を広げるとザワザワと羽の一枚一枚が一つの生命体のように蠢く
そして、勢いよく一度だけ翼を羽ばたかせると30枚程の羽が弾丸のように鋭く二人を追って飛んで行った。
「また腐らせる気か?」
さっきまで闘っていたレイヴンはこの能力の効果と恐ろしさを知っている なんせさっき腕を破壊されたばかりなのだから。
「もうくらわんぞ『武装壁(ザ.ウォール)』」
レイヴンの角から放出された魔力は体を伝わり足の裏から地面に流されると地面が形を変え、レイヴンへの道を通せんぼする壁になった。
その壁に勢いよく羽が当たる
羽の付け根が硬いコンクリート製の壁に突き刺さると 羽から魔力が注入される、この世の何よりも黒いその魔力 それを受けた壁は みるみるうちに黒く変色し、崩れた
崩れた先に見えたのは随分遠くまで逃げているレイヴンだった。
「ふん、とっさの判断としては的確だな
だが...この翼は500kmで飛行可能!人間を抱えたまま我が『穢れた翼(アシッドスカイ)』から逃げられるか?」
クロウは羽ばたき、地面から足を離す、倒れたままのホークはそのままにしてまずはあの二人の始末を最優先事項とする
翼の広さは優に5mを超える、その翼で空気を掻き それを推進力として前に進む
レイヴンとゼルクへの距離は500m
時速500kmあれば余裕で追いつける
「やべえな、これだと追いつかれちまう」
ゼルクを抱えて走るレイヴン、魔族の腕力があれば人一人抱えているだけではスピードは落ちないが レイヴンは今片腕を失っている
ゼルクを抱えてしまうともうなにもできないのだ
空港に一台だけ残されたボロっちい飛行機は800m先に停めてある、秒速123mのレイヴンなら8秒あれば飛行機に到着するが
秒速123mとはすなわち時速444kmということクロウの時速500kmの翼から8秒の間
逃れられるのか...
「フハハハ!!!今行くぞ!!!」
クロウの悪魔的笑い声が夜空に響いた
To Be Continued→
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