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第17話「100億ドルの夜景」
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「レイヴン...逃げられるか?」
「いや、わからねぇが...大丈夫だ!」
「なんだその謎な自信は...」
「フハハハ!!!今行くぞ!!!」
夜空に悪魔的笑い声が響く中レイヴンは走るそれはもう無我夢中で
単純計算で8秒後レイヴンとゼルクは飛行機に乗り込む
だが、それはクロウが全力を尽くして止めに来るだろう
レイヴンは右腕でゼルクを抱え、左腕は腐り落ちていて両腕が使えない状態
対するクロウは五体満足さらには移動速度が500kmレイヴンの移動速度は444kmとなかなかにレイヴンにとって絶望的な状況となっていた。
「『武装要塞(キャッスル)』!!!」
レイヴンが足元に魔力を流し込むと地面が形を変え、大きくせり上がる その壁はすっかり向こう側の景色を遮ってしまうほどに巨大だ。
「ふ...無駄な事を...!たとえどんなに大きな壁を作ろうとも俺の前では全て穢れる!
『穢す羽触(フェザータッチ)』」
クロウはなんのためらいもなく時速500kmを保ち壁に突進する
瞬間、壁は一滴の墨を垂らした紙のように一点が黒く変色した、そして次にそこを中心に全体が黒の腐敗に汚染されあっけなく崩れたクロウは腐って柔らかくなった壁を突き破って速度そのまま二人を追った。
「これが我が能力『穢れた翼(アシッドスカイ)』!どんな物質でも生命を持たないものでも 腐らせ、汚染し、破壊する!この翼から逃れられるかな?ネズミども...!」
二人との距離がだんだん縮まっていく
レイヴンは壁を一瞬で突破されたのを見ると冷や汗をかいて次の対処法を考え出した。
「なあ、おっさんいい考えあるか?」
「あったら言ってる...」
「だよなぁぁ~」
「ほれ、走れ走れ お前が早く走れればなんの作戦もいらんのだからな さもなくば共倒れだぜ」
「アイアイサー!」
着実に追いつかれてきている二人
空を飛ぶ漆黒の翼を有する狩人はその瞳で獲物を静かに見つめていた。
「30発では防がれるか...ならば1000発放てば それはどう防ぐ?」
ブツブツと呟くと羽ばたく翼に魔力を集中させる 翼は魔力を喰らうように吸収すると夜空を覆い隠す程に大きさが増した 翼幅約15mの巨大な翼だ。
「うおっ!おっさんあれ見ろ 凄えぜ!」
「いや、お前に抱えられてて地面しか視界に入らねぇんだが...どう見ろと?」
クロウが背を反らすと同時に翼も同じように反らし、しばしの溜めの後、風を切り裂きながら振り下ろすと漆黒の羽が無数に発射される。
「くらって腐れ...!『穢れた翼弾(フェザーガン)』!」
闇を固めて羽の形にしたような魔力が二人に牙を剥く
1000発の羽が集団で獲物を捕らえる蟻のように押し寄せる。
「『武装要塞(キャッスル)』!!!」
再びレイヴンは大量の魔力を地面のコンクリートに注いで形を『武装』で壁に変える
壁はそびえ立ち、翼弾の軌道線を塞いだ
だが、翼弾は壁を腐らせドロリと穴を開けたそして、その穴から残りの翼弾が通り抜けてレイヴンとゼルクを追っていく
「くっ...防ぎきれないなら...もう一回!壁を作るだけだ!」
再びレイヴンは壁を出現させる
だが、一つの壁で防げるのは50発くらいまでだ
残った羽はレイヴンに向かって直進を止めない。
壁が崩壊し、あちらの風景が開けるとまたレイヴンが防御のために壁を作る。
これを繰り返すが、じりじりと縮まった距離はもう伸びることはなかった。
「ふ...防ぎ切れねぇ!!」
当たる寸前、身を翻し羽を躱す
だが、数発躱してもまだまだ残りがあるのだ
体の向きを整えて次の翼弾を躱そうとするが足元が突然柔らかくなった。
「なに!?」
地面が腐っていた
さっき躱した翼弾がコンクリートに突き刺さりドロドロに腐らせて液状化させているようだ。
その溶けたコンクリートに足を取られ
この闘いにおいて一瞬の隙は命取り
だが、完全にバランスを崩してしまった。
「レイヴン...!」
「し、しま...っ...!」
「終わりだ・・・」
レイヴンの胸に3枚の羽が刺さる
避け切れなかった、注射針のような、蚊の針ような構造をした羽の付け根から腐敗ウイルスとでも言うような悍ましいエネルギーが発されていく。
「ウアアアア!!!!」
しかし、その腐敗ウイルスが体に達する寸前
普通ならパニックに陥るだろうが、レイヴンの脳は冴えていた。
ゼルクを抱えている手を申し訳なくも思いながら離し、翼弾が刺さっている部分の服を破り捨てる 服と共に抜け落ちた羽はエネルギーを出し尽くしポロポロと崩れるのみであった。
胸部を見ると500円玉サイズの黒い点ができていた、よく見れば膿のようにドロリと皮膚が溶け出していた 瞬時に腐らされたからか痛みは感じなかったが何か体内から喉元にミミズが這い上がって来ているような嫌な感覚をその身に受けた。
「ヌウゥゥゥゥ!!!」
レイヴンはその腐った胸の肉をもぎ取る これはとても痛く、目からは自然と涙が出てきただが、それだけでは終わらなかった
肉を取っ払ったその下の筋肉部分にも腐敗は進行していてグヂュグヂュに腐っていた。
思わず目を覆いたくなるようなグロテスクな様相に変えられていたがレイヴンはそれでさえも自分の手で、爪で抉り取って腐敗の進行を止めた。
「ゥゥゥゥ...オオオアッ!」
筋肉を取ったのはさらに痛かった、胸筋全体を失ったので柱を失った家のように腕はダランとたれている、さらに血が溢れ出し 止まらない、致命傷を自分自身の手で負わせてしまったのだ。
「イデッ!」
ゼルクが顔からコンクリートの上に落下して声を上げた
ゼルクを離して地面に落ちるまで時間
たったこれだけの時間内でこれだけ動いたのは流石と言えるが 戦闘の場で助からないのでは意味がない
「チェックメイト」
全方向から一点集中で押し寄せる翼弾数百発レイヴンの研ぎ澄まされた感覚からは それらがスローモーションに見える が、それを躱す余力もなければ策も尽きていた。
「レイヴン、俺の体を使え」
「な...?」
顔を上げたゼルクがレイヴンの手を握ると無理やり『武装』させるように促した。
「俺の体は今はどうでもいい、俺の肉体を『武装』してここを切りぬけろ!」
凝縮された時の中迷っている暇は1秒も無かった
レイヴンはゼルクの手を掴むと魔力を流し込み その肉を血を取り込み、片腕を再生させた。
「すまねえ、恩にきるぜ」
そして、身を屈め地面に手を当てると魔力を流し込む。
「『武装針山(クレイモア)』!!」
地面の形が無数の針状に変わると一気に伸びた
無数の針が無数の羽とぶつかり互いに相殺して消滅していく。
「ヌウッ!させるか!『穢す羽触(フェザー.タッチ)』!!」
クロウは羽を広げて針山を腐らせて折っていく しかもまだまだ羽は撃墜しきれてはおらずレイヴンを取り巻いて迫り来る。
「もうお前に希望はない...腐り死ね...!」
時速500kmで襲い来る腐敗の瘴気
殺意も相まってエネルギーに重さまで感じられる
「もう大丈夫だ、そこまでお前が近付いて来てくれたならな...!」
レイヴンはとっさに『武装針山(クレイモア)』を足場にして飛び上がる、針の長さ5mそしてレイヴンは5m程の跳躍で舞い上がった
飛び上がった先にいるのはクロウだ、もう目と鼻の先 互いの息がかかりそうなほどの至近距離 ここでレイヴンは再生させたばかりの右拳を握る。
「オレにトドメを刺すために少し高度を下げたのが敗因だな この高さなら...手が届くぞ!」
クロウの顔面に鋭い痛みが捻じ込まれる
骨が砕ける音が頭に響いた
いや、頭骸骨そのものが砕けていた。
レイヴンのその圧倒的腕力は『打撃』などという 言葉では言い表せない...強いて言うなら『射出』であった。
「ゔっ...がァアァアア!!!!」
地上10mからコンクリートの地面に叩きつけられる
しかし、忘れてはいけない、そこにはレイヴンの出現させた『武装針山(クレイモア)』が残っているという事を。
「それは、お前に課す罰だ!」
落下とともにクロウは針山に突き刺さる、胸と喉、そして脚が貫かれ血が針を伝って地面に垂れる。
「か......こ...ぁ...」
喉を貫かれているので声を出すことができなくなっていた
それに、精神状態が混乱を起こしたからなのか宙に舞っていた羽から黒い腐敗エネルギーが抜けてバラバラになって崩れていく。
「次で息の根止めてやるぜ!」
「いや、待て...レイヴン 奴の様子がおかしい」
ゼルクにそう言われ動きを一旦止めてクロウを見ると傷口から相当な量の魔力が噴出されていた。
「なんだ、ありゃ」
傷口から溢れる魔力は加湿器の霧のようにジワジワと足元を這うように広がっていく
魔力の霧はものの5秒ほどで針山を包み込んでしまった
薄黒いその霧は針山に付着すると仄かに発光した
すると、針山は風にさらされた砂のように崩れ去る
「なにぃー!?」
「ウウウ...」
崩れたコンクリートの上で血を流すクロウが唸り声を上げた
見ると傷口がどんどん塞がれていたさらによく見ると傷口が黒く変色していた、そう、腐っているのだ わざと腐らせ 溶かして接合しているのだ。
「『穢れの化身(ブラッディ.クローズ)』...!」
なおも傷口から黒い腐敗エネルギーが這い出してくる 案外早い、逃げなければさっきの針山のようにグズグズに腐らされて死んでしまうんだろう。
「逃げ...」
逃げようとレイヴンがゼルクを抱え、踵を返した瞬間...
「逃すか...!」
目の前に腐敗の霧がカーテンのように立ち込めた
「つれないではないか...ここで本当の闇にふさわしいのは『漆黒(レイヴン)』か『烏(クロウ)』なのかハッキリと決めよう...」
「ケッ!闇だと?そんな気味のわりぃ称号なんぞいくらでもテメェに譲ってやんよ」
そう言ってレイヴンは足元のコンクリートを円柱状に伸ばし、霧を飛び越えるように躱す。
「逃さないと...言ったはずだぞ!!!」
その叫びと共にクロウの体から『穢れの化身(ブラッディ.クローズ)』が流れ出る
そうするやいなや、走るレイヴンを追うようにウイルスは意志を持って飛散していく
「そうか、あいつの能力の正体とは『腐敗ウイルス』の生成か!?」
「どういうことだ?」
必死に走りながらもレイヴンは考察を続ける
「あいつの本来の能力はウイルス生成だったんだろう、だが能力が強くなり生成できるウイルス量が増えて塊にすることができるようになったんだ
つまり、あいつがさっきまで使ってた翼や羽は細胞を媒体とした『ウイルスの塊』!
だとしたら、なんてこった!あいつにとって傷をつけられるって事はただ単にウイルスの噴出口が増えたに過ぎないわけだ!!」
レイヴンは背後に充満しているウイルスを背にして走る
飛行機まであと2秒もあれば到着できる。
だが、特級魔族同士のぶつかり合いとなればその2秒は決着をつけるには十分すぎるほどに長い。
「飲み込まれて土に還れ!レイヴンッ!」
背後からウイルスの波が高く押し寄せる
「ヤダねバ~カ!」
地面に生えた雑草やコンクリートを液状化させる腐敗のエネルギー それを指一つ動かさずクロウはその中心地からウイルスを操る。
「ほんのちょっと...」
クロウの飛行速度のさらに上の速度で腐敗が迫る
「あとちょっと...」
レイヴンの足元が崩れ始めた。
「速く走れ!オレの脚!!!」
足を取られないよう高く跳躍する
「もうお前が生を置ける場所などない!ここに命を置いて逝け!!!」
跳躍、それは完全に行動を見誤ったとしか言えないだろう
地表に充満する腐敗ウイルス、空中では避けるどころか動くことすら不自由だ
レイヴンの眼下には一面、烏の翼のように真っ黒な殺意が蟠っていた。
迫る殺意がレイヴンに感染してしまった
爪先から順に腐っていく なんとも言えない...痛いともかゆいとも言えないが激しい違和感が腕を伝って命を削ってゆく。
「ゼルク!悪いが...もう一個借りるぜ...!」
レイヴンは背負ったゼルクの腰に下げられている『ある物』に手を伸ばす。
「レイヴン...!?お前!正気か!?」
「あぁ、もうこれしかできる事は残ってねぇ!」
レイヴンが、魔族がそれに触れる事 それは【死】を意味する。
それは全てを浄化するこの世の何よりも美しく強い剣
名は『永命剣』
「ウオオアアアアアア!!!!」
レイヴンは剣を掴むと同時に叫び声を上げた。
手から蒸気が上がり 溶けだす
痛みは尋常ではなく 焼けつく
まるで生きたまま死んでいるかのような苦しみが脳に伝わってくる。
その瞬間、足に感染していたウイルスが蒸気を上げながら抜けていった
所有者の体から魔力や病を取り除く力を持った剣だ、穢れを綺麗さっぱり消し去った。
なぜ魔力使いであるゼルクがこの剣を難なく扱えるのかは謎である。
「これで対等だ!」
「気が狂ったか!?魔族がその剣を持つなど滑稽以外の何者でもないんだぞ!」
レイヴンはゼルクを背負ったまま死の霧の中に飛び込んだ。
この行為は一世一代の賭けになるやもしれない 体に吸い込むは死のウイルス それを浄化する聖なる力 この二つの危ういバランスはレイヴンの体内で均衡を保っている
ならばその均衡を崩すのは何か?
それは、レイヴンの体の崩壊だ。今やレイヴンの体は綱引きの綱だ、切れ目が入るだけで弾けてしまう。
それを知っていながらなおもレイヴンは得意げに笑みを浮かべていた。
「実はオレさ~...一度これやってみたかったんだよね...」
痛みに耐えながらレイヴンは身体を低く構える
その時ゼルクは見覚えのある動きを体で感じた、今自分を背負う大きな背中から感じられるその動きは...
「借りっぱなしで悪いがよぉ~、おっさん!技も借りるぜ!」
レイヴンの体は八の字飛行をする『燕』の如き流れを作った。
「烏が...逃げない獲物を捕らえらないと思うか!?」
体内から嵐が吹き荒れるようにウイルスが展開されてゆく
このウイルスは 空気感染 接触感染 水感染なんでもありだ、高密度の腐敗の波が大気を曇らせ 地から生命を奪う
「オレ流のぉッ!『飛燕流』ッ!」
レイヴンは光に燃えるその身に剣を構えるとその技名を口にした。
それに応じるようにクロウの手からは狂気を固めたように赤いウイルスの刀が出現した。
「これが我が最強の爪...それに触れることと腐ることは同義と思え...!!」
二人の魔力が愛舞う瞬間、その場の全ては腐り、聖なる力を受けながら消し飛んで行く。
「『魔燕渦』!」
片足に力を込め、地面から離れると同時に回転する。
フィギュアスケートのような滑らかで速い回転は『永命剣』の光を受けて輝く。
「それでも向かってくるか!」
回転のスピードを加えた一撃を勢いよく振り下ろす
その速度は時速444kmなんて欠伸の出そうな速度ではなくなっていた。
そう、それは魔族の覚醒状態、命の危機に瀕した場合に発動する身体能力の促進はその力に音速をもたらす。
「刀などろくに扱えん貴様がこの土壇場で剣術など!焼け石に水だと気づかんのか!?」
クロウが牙を剥きながら叫び、少し身を反らすだけで攻撃は空を切って外れた。
フォームがしっかりしていない素人が下手に武器を扱うのは逆に攻撃効率を下げる原因ともなる、たとえ音速を超えていても動きがぎこちないと戦闘のプロ相手には見切られてしまう。
「避けたつもりか?でもなぁ...お前は何も分かっちゃいない...この技の性質も、オレとの力の差も...なぁんもわかってねーーんだぜ!!」
攻撃を外して地面に突き刺さろうとした『永命剣』が突如軌道を変えて追撃を加えてくる
「なぁぁに!?」
地面すれすれから放たれた鋭利な一撃はクロウの体の表面をかすめ、体の高い位置にある例えば胸の皮や鼻の頭が削ぎ落とされた。
落とされた肉片は浄化の力により陽に当てられた吸血鬼のように灰になって消えていく。
「痛え!クソがァァァァァ!!!まだだぁぁァァァァ!!!!」
レイヴンの剣を握る右手が形を崩し始めた、溶けて燃えるロウソクのように手の一部が
ボトリ...ボトリと落ちていく。
しかし、レイヴンは追撃を止めようとしない
『飛燕流』の強みは攻撃後の二転三転する軌道変更だ、一撃目を避けられたとしても次かその次かそのまた次か...連続して襲いくる斬撃にいつか切り裂かれることとなる。
「飽くまでもやめないと言うのならばこの爪を使う他あるまい!」
クロウはレイヴンの次の斬撃に応じて ウイルスの塊の爪 その名も『烏合の終』を発現させた。
「このウイルスに感染すればもう助からん、腐敗などという生ぬるい破壊ではない、この力はもはや消滅!浄化する間も無く貴様の細胞は腐り消える!!」
『烏合の終』と『魔燕渦』の速度はほぼ同時ならば、その場合リーチの長い剣の方が先に相手の体に突き刺さる
はずだった
「うぐ...!」
それは...クロウの指先の爪は伸びていた
『伸縮自在』『無数』『腐敗』『粒子サイズ』etc...
この爪にはいくつもの特性が兼ね備えられていた
殺しにおいて魔族の右に出るものはないと言われているがこの能力は更にその中でも群を抜いている。
破壊においてこの能力の右に出るものはない
「油断したな、ここで終わりだ」
クロウは静かにそう告げると突き刺さり、血の滴る爪を引き抜いた
そうして、もう一歩近寄ると再び爪を突き刺した
今度は両手の爪が深々と腹に突き刺さる。
「かっっはっ...」
レイヴンが口を開け、何か言おうとした
だが、そこから出てきたのは声ではなく真っ黒に変色した血だった。
レイヴンが前に倒れこむのを見届けるとクロウは広範囲に展開していたウイルスの霧を収め、倒れているホークの元へと歩き出した。
しかし、その瞬間クロウは気づいた
(...さっきまで背負っていたゼルクとかいう人間はどこに行った...?)
ハッとしてクロウは周りを見渡す、辺りは腐敗ウイルスにより液状化していた。
さらに、暴れた風圧なんかで吹っ飛び雑草一つ残ってなどいなかった。
人がいればすぐに見つかるはずであった。
泡が弾けるような音が足元から聞こえる
今倒れたレイヴンの死体がウイルスで消滅していっているのだ。
「な...んだ?これはッ!」
死体が消滅する瞬間見えた
マスクが剥がれた本当の姿が
「レイヴンじゃあ...ねぇ」
足元から消えた死体は外側はレイヴンの姿を被った全くの別人だった。
頭が急な変化に驚き、混乱する
脳の中で飛び交う言葉が煩い。
本人は何処へ?どうやって逃れたか?いや、しかし、だが、もしや
確信の持てない考えが降って湧いては確証が持てず消えていく。
ならば、絞り込むしかない
襲ってくるのか、逃げているのか?この二択だ
そしてクロウはこの二択どちらでも対応可能な能力をその身に宿している。
「ホークも巻き込んでしまうが...仕方ない!ここから俺の能力射程限界の10kmを滅ぼす!!」
クロウはなんの躊躇もなしにその判断をくだした
滅ぼす、魔王の血筋の者がそう言うのならばそれは虚勢でも脅しでも何でもなくただ避けようのない事実となる。
クロウはカッと目を見開くと角に生命を集中させた
その生命エネルギーは全身に駆け巡り、そのうち生命は腐敗へと力を変える。
「『穢れの翼(アシッド.スカイ)』」
背には負の概念を固めたような黒い翼が生えてくる。
その翼で、太陽をも塗りつぶしそうなほどに真っ暗な空に舞い上がり、雲に触れる少し手前で停止する。
眼下に広がるのは明かりの全くない亡霊と化した街並み
そこには、なんの感情もなくただ時間か過ぎて劣化して崩れるのを待つだけと何とも悲しげな世界が広がっている
「死...そしてその魂はどこへ消えて行く?なぜ俺たちは生きるのか?死んで見なくてはわからないか...」
哲学的な呟きであった 同時にクロウの人生における試練でもあった
人は試練から力を得る
感情を失ったゼルクは『無感覚』
全てと共存し、手を繋いで生こうとするレイヴンは『武装』
そして、滅び 劣化 死...それらについて考え続け、結局は答えが出せないのがクロウの試練でありそこから得た能力『腐敗』なのだ。
「おいおい、物騒な能力発動させてんじゃねーよ」
静寂の空に無骨な一言が響いた
静止した時間をぶち壊す声に反応して振り返るとそこには消えていたレイヴン、そしてその背に掴まるゼルクが見えた。
「レイヴン...手を変え品を変え、何とまぁ...次は飛行機に変身か?」
呆れた口調のクロウの前に飛ぶのは機人と化したレイヴン、その体は背中に大きな機械の羽、そして脚や腕にはターボエンジン
まるで飛行機が魂を持って人になったような姿をしている
上空9000m闇の雲すれすれの場所での再び二人は向き合った。
「いや~本当に危ないところだったぜ、やっぱりその辺の上級魔族とは比べものにならねぇくらいにな」
ふっと口元に笑みを浮かべて 胸の前で拳を握る。
「だが、オレのが一枚上手だ」
クロウは吊り上がった目で血縁の者とも思っていない兄の変化した姿を見つめると口を開いた。
「気になって仕方がないんで聞かせてもらうが...お前、どうやって逃げた?十分追い詰めていたはずだ」
頭に打ち込まれた釘のように蟠った疑問を口にする。
レイヴンはニヤニヤしたままジェットの噴射でホバリングをして空中にとどまっている。
「ヘン!教えてやんねーよーだ!」
次の瞬間にレイヴンはエンジンを全開に吹かし、とんだ
前までのように「跳んだ」のではなく 「飛んだ」のである。
速度は地上を走っていた時とは比べものにならない程に速い。レイヴン本人の筋力とターボとの相乗効果で速度が止まることを知らない。
「やれやれやれやれやれやれ!!本当に気に障る男だな...」
黒い滅びの翼はクロウの怒りに反応して形を変える。
さっきまでは広範囲を破壊するために羽の数を増やしていたために風の抵抗を受けやすくスピードが落ちていたが 今度は空気を切り裂くような薄く軽い翼に変わっていく。
「まあいい、どうせ俺からは逃げられない、生物が死から逃げられないようにな...!」
そして、羽ばたく
空気の流れを断ち切るように
「おっさん、しっかり掴まっとけよ?」
レイヴンはそれを見ると背中のターボにエネルギーを集中させた。
今度は逃げない、真正面から向かって行く。
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レイヴンが何故助かったのか、どうやって逃げたのかをここで説明しよう。
あの時、レイヴンは闘いながら別な場所にも魔力を使っていた
それは、空港ロビーである
そこには数十人の魔族の死体が転がっている。 二人が全力を尽くして狩り尽くしたからだ。
まずレイヴンは形勢不利なことを最初の時点で理解していた。
そこで、隠れることを選択した
レイヴンは地面に『武装』を使ったのだ
『武装』したのは自分の身体へではなく 先ほど述べたロビーの死体だ。
『武装』により死体を地面と一体化させ、死体を地面に埋め込む、ロープを手繰り寄せるようにその死体の肉を地面ごと引き寄せる。
バレないようにしかし、地中を迅速に滑らせ自分の元へ向かわせた。
そして、クロウが『烏合の終』を構え、レイヴンが決死の一撃を放ったその時 レイヴンの足元に死体が到着した。
そこからが速かった
レイヴンが足下の死体を『武装』エネルギーで加工して自分と瓜二つの影武者を作る。
これで足元の地中に身代わりが完成した訳だ
次に自分自身を地面に『武装』する、吸い込まれるように地面に沈んでいくが それを悟られないようにここで使われたのがさっきの影武者の死体人形だ。
地面から飛び出す死体人形とレイヴンが地面に引っ込むのは高速にしてほぼ同時
目の前にいるクロウでさえ気づけないほどにスムーズに入れ替わる。
その次の瞬間にはレイヴンと入れ違いに地上に出た死体人形が『烏合の終』に貫かれていた。
攻撃をまんまと躱したレイヴンは、ゼルクと共に地面を『武装』を使って泳ぐように移動する。
そうして、たどり着いたのがお目当の飛行機だ。
だが、乗るわけではない 操作方法なんて知らないし、魔力で操れたとしてもこんな大きな的となる飛行機すぐに撃墜されてしまう。
ならどうするか?そう、ここでも『武装』を使う
飛行機のエンジンや羽や骨組みを体に移し替えて自らの骨肉とする。
こうして、レイヴンは兼ねてから望んでいた飛行機の奪取に見事成功したのだ
そして、上空に飛んだクロウを見て 決着を付けるため 共に飛び立った。
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時速2000km!
この脅威のスピードが筋力とエンジンとの相乗効果により生み出されたレイヴンの速度である。
「オラッ!」
そのスピードで射出される拳は正確無比にクロウを捉えた。
「速い!だがな、速いただそれだけではこの俺の絶対的優位は揺るがない!」
時速1000km以上もスピードが離されているにも関わらずクロウはパンチの動きを見切っていた
身を曲げて 当たる瞬間の衝撃を最小限に抑えることに成功している
余りにも力が強かったのでダメージを抑えたと言えども内臓に傷が入り、口から血が流れはしたが。
「掴んだ!そして...」
クロウはダメージにひるむことなく横っ腹にめり込むようなレイヴンの拳を掴み取った。
最初からこれを狙っていたかのように、素早く無駄の無い動きで腕を押え込む
そして、忘れてはならないことがある...それは、【クロウ】この男に触れるという事は死を意味するということだ。
「捕まえてしまえば おしまいだろう!『穢れの化身(ブラッディ.クローズ)』!!」
そうして、クロウは超至近距離から死をばらまく。
視界には無数に黒く沈み込んだような漆黒のエネルギー体が広がる。
一つ一つが致死量を優に超えた猛毒であり細菌兵器 触れる事は許されない。
「だったら吹き飛ばしてやるよ、この両腕のパワーでなぁ!」
そういうと両腕のターボエンジンが緑色に光る。
途端に両腕が熱を持ち、腕を掴んでいるクロウは思わず手が緩んでしまう。
「熱ッ!」
手が火傷を負っていた、さらに手の皮はグツグツと溶けている。
頑強な魔族の手に火傷を負わせる程の火力、その正体とは...
「何だろうと溶かしちまう凶悪能力!『硫炎』だぜ!」
この飛行機エンジンは魔力で動くようになっている、それにレイヴンは『硫炎』を流し込んで噴出させているのだ。
『硫炎』の温度は800度、けっして温度が高いわけではないが、熱ともう一つの性質である酸の合わさったこの技はこの宇宙のどんな物質でも燃やし溶かしてしまうだろう。
そういう意味では『硫炎』と『腐敗』の能力はよく似ていた。
「そして、さっき知ったばかりのことなんだがな、この『腐敗ウイルス』...どうやら熱に弱いらしいな」
レイヴンの体はウイルスに触れているにも関わらず崩れる様子はなく、ピンピンしている。
さらに、周りを見渡すと緑色のキラキラした粒のようなものが無数に舞っていた。
「こ、これは...」
クロウは見て触れて理解した そして驚いた。
そう、それはウイルスが燃えているのだ
全てを腐らせ崩壊させられるはずの能力が...空を飛び、能力射程範囲や相性などで上回りさっきまで見下していたはずの相手が今、自分の目の前で不敵な笑みを浮かべで飛んでいる。
「これで対等 いや、オレの方が上を行った」
敵の利点を工夫とアイデアそしてハッタリを駆使して一つ一つが潰していき、遂に相手を上回る立ち回り それがレイヴンの十八番であった。
「もうオレは逃げねえ かかって来いや...!」
レイヴンが緑色に燃え上がる魔力を纏った両拳を握り、前に構える
クロウはワザとらしく目を見開くとニィィ...と口の側を歪めた。
「ふっ......ククク...クハハハハハ......」
クロウは突然に静かに、そして不気味に笑い出した。
緊張感のある静寂の夜空に響く笑い声は溶け込むようにいつの間にか消えていた
ほんの少しの間があった、だが、長かった
嵐の前の静けさは世界一長い3秒を経てして決壊する。
「『烏合の...」
「ウオラァアアア!!!!」
レイヴンはクロウの顔面を撃ち抜いた、恐ろしく速い拳は音を2000kmで追い抜き
800度のエネルギーを纏って骨をカチ割る。
「が...はぁ......」
口から血を吐くと白眼をむいてゆらりと体が崩れるように揺らいだ。
脳の神経が異常に耐えきれなくなり、強制シャットダウンし、ダイヤモンドよりも硬いはずの頭の角までこの衝撃でポッキリと折れてしまう。
背に生えた漆黒の翼『穢れの翼(アシッドスカイ)』もバラバラに分解して崩れていく。
「レ...ィヴゥゥゥゥ...ンン!」
しかし、ほんの少し残った意識を取り戻してクロウはレイヴンに手を伸ばす。
それを見てレイヴンは敬意を払うようにひたいに手を構えて敬礼のポーズをとる。
「つくづくお前の執念には驚くよ...だが、もう楽になれ...弟よ」
そう言ってレイヴンは日本刀のように鋭い手刀を振り払った。
クロウの首は宙を飛んで地上9000mから地面に落ちていく。
「生とは何か?滅びとは何か?...死んで初めてわかる事なんだろうな...」
そう呟くとレイヴンは落下していくクロウの首の無い死体の腕を掴みとると 抱き寄せて体に吸収していく。
「だが、『受け継がれる意志』はいつまでも滅ばない この力はオレの中で永遠に輝き続けることになる...!」
闘いを終えて清々したレイヴンの眼には光一つない闇に沈んだ夜景でさえ100兆ドルの価値があるように映った。
『腐敗』の能力を手に入れたレイヴンは背に背負ったゼルクを見ると安心したように微笑みかける。
「やっと終わったぜ...おっさん」
「よお、お疲れ様...悪いな背負われっぱなしでよ」
「いいってことよ さて、このまま中国へ向かうぜ、大丈夫 安全を考慮して200kmくらいで飛ぶから」
「それでも滅茶苦茶速いと思うが...まあ、いいか...俺は早く地に足つけて休みたい、できるだけ早く頼むぜ」
「了解、よしじゃあ行くぞ!出発進行!!」
レイヴンとゼルクの姿は遠くに消えて行く
時刻はam:3時24分
また一つここで魔王の息子を打ち破った二人はギリギリながらも中国への移動手段を手に入れた。
これで、しばらくは安泰だろう。
だが、忘れてはいないだろうか?二人が去った後の空港にあの男がいる事を。
ゼルクに神経を麻痺させられて動けなくなっていた男が取り残されていた事を...
「次は逃がさねえ、二度もこの鷹の爪から逃れられるなんて思わない事だな反逆者共!」
To Be Continued→
「いや、わからねぇが...大丈夫だ!」
「なんだその謎な自信は...」
「フハハハ!!!今行くぞ!!!」
夜空に悪魔的笑い声が響く中レイヴンは走るそれはもう無我夢中で
単純計算で8秒後レイヴンとゼルクは飛行機に乗り込む
だが、それはクロウが全力を尽くして止めに来るだろう
レイヴンは右腕でゼルクを抱え、左腕は腐り落ちていて両腕が使えない状態
対するクロウは五体満足さらには移動速度が500kmレイヴンの移動速度は444kmとなかなかにレイヴンにとって絶望的な状況となっていた。
「『武装要塞(キャッスル)』!!!」
レイヴンが足元に魔力を流し込むと地面が形を変え、大きくせり上がる その壁はすっかり向こう側の景色を遮ってしまうほどに巨大だ。
「ふ...無駄な事を...!たとえどんなに大きな壁を作ろうとも俺の前では全て穢れる!
『穢す羽触(フェザータッチ)』」
クロウはなんのためらいもなく時速500kmを保ち壁に突進する
瞬間、壁は一滴の墨を垂らした紙のように一点が黒く変色した、そして次にそこを中心に全体が黒の腐敗に汚染されあっけなく崩れたクロウは腐って柔らかくなった壁を突き破って速度そのまま二人を追った。
「これが我が能力『穢れた翼(アシッドスカイ)』!どんな物質でも生命を持たないものでも 腐らせ、汚染し、破壊する!この翼から逃れられるかな?ネズミども...!」
二人との距離がだんだん縮まっていく
レイヴンは壁を一瞬で突破されたのを見ると冷や汗をかいて次の対処法を考え出した。
「なあ、おっさんいい考えあるか?」
「あったら言ってる...」
「だよなぁぁ~」
「ほれ、走れ走れ お前が早く走れればなんの作戦もいらんのだからな さもなくば共倒れだぜ」
「アイアイサー!」
着実に追いつかれてきている二人
空を飛ぶ漆黒の翼を有する狩人はその瞳で獲物を静かに見つめていた。
「30発では防がれるか...ならば1000発放てば それはどう防ぐ?」
ブツブツと呟くと羽ばたく翼に魔力を集中させる 翼は魔力を喰らうように吸収すると夜空を覆い隠す程に大きさが増した 翼幅約15mの巨大な翼だ。
「うおっ!おっさんあれ見ろ 凄えぜ!」
「いや、お前に抱えられてて地面しか視界に入らねぇんだが...どう見ろと?」
クロウが背を反らすと同時に翼も同じように反らし、しばしの溜めの後、風を切り裂きながら振り下ろすと漆黒の羽が無数に発射される。
「くらって腐れ...!『穢れた翼弾(フェザーガン)』!」
闇を固めて羽の形にしたような魔力が二人に牙を剥く
1000発の羽が集団で獲物を捕らえる蟻のように押し寄せる。
「『武装要塞(キャッスル)』!!!」
再びレイヴンは大量の魔力を地面のコンクリートに注いで形を『武装』で壁に変える
壁はそびえ立ち、翼弾の軌道線を塞いだ
だが、翼弾は壁を腐らせドロリと穴を開けたそして、その穴から残りの翼弾が通り抜けてレイヴンとゼルクを追っていく
「くっ...防ぎきれないなら...もう一回!壁を作るだけだ!」
再びレイヴンは壁を出現させる
だが、一つの壁で防げるのは50発くらいまでだ
残った羽はレイヴンに向かって直進を止めない。
壁が崩壊し、あちらの風景が開けるとまたレイヴンが防御のために壁を作る。
これを繰り返すが、じりじりと縮まった距離はもう伸びることはなかった。
「ふ...防ぎ切れねぇ!!」
当たる寸前、身を翻し羽を躱す
だが、数発躱してもまだまだ残りがあるのだ
体の向きを整えて次の翼弾を躱そうとするが足元が突然柔らかくなった。
「なに!?」
地面が腐っていた
さっき躱した翼弾がコンクリートに突き刺さりドロドロに腐らせて液状化させているようだ。
その溶けたコンクリートに足を取られ
この闘いにおいて一瞬の隙は命取り
だが、完全にバランスを崩してしまった。
「レイヴン...!」
「し、しま...っ...!」
「終わりだ・・・」
レイヴンの胸に3枚の羽が刺さる
避け切れなかった、注射針のような、蚊の針ような構造をした羽の付け根から腐敗ウイルスとでも言うような悍ましいエネルギーが発されていく。
「ウアアアア!!!!」
しかし、その腐敗ウイルスが体に達する寸前
普通ならパニックに陥るだろうが、レイヴンの脳は冴えていた。
ゼルクを抱えている手を申し訳なくも思いながら離し、翼弾が刺さっている部分の服を破り捨てる 服と共に抜け落ちた羽はエネルギーを出し尽くしポロポロと崩れるのみであった。
胸部を見ると500円玉サイズの黒い点ができていた、よく見れば膿のようにドロリと皮膚が溶け出していた 瞬時に腐らされたからか痛みは感じなかったが何か体内から喉元にミミズが這い上がって来ているような嫌な感覚をその身に受けた。
「ヌウゥゥゥゥ!!!」
レイヴンはその腐った胸の肉をもぎ取る これはとても痛く、目からは自然と涙が出てきただが、それだけでは終わらなかった
肉を取っ払ったその下の筋肉部分にも腐敗は進行していてグヂュグヂュに腐っていた。
思わず目を覆いたくなるようなグロテスクな様相に変えられていたがレイヴンはそれでさえも自分の手で、爪で抉り取って腐敗の進行を止めた。
「ゥゥゥゥ...オオオアッ!」
筋肉を取ったのはさらに痛かった、胸筋全体を失ったので柱を失った家のように腕はダランとたれている、さらに血が溢れ出し 止まらない、致命傷を自分自身の手で負わせてしまったのだ。
「イデッ!」
ゼルクが顔からコンクリートの上に落下して声を上げた
ゼルクを離して地面に落ちるまで時間
たったこれだけの時間内でこれだけ動いたのは流石と言えるが 戦闘の場で助からないのでは意味がない
「チェックメイト」
全方向から一点集中で押し寄せる翼弾数百発レイヴンの研ぎ澄まされた感覚からは それらがスローモーションに見える が、それを躱す余力もなければ策も尽きていた。
「レイヴン、俺の体を使え」
「な...?」
顔を上げたゼルクがレイヴンの手を握ると無理やり『武装』させるように促した。
「俺の体は今はどうでもいい、俺の肉体を『武装』してここを切りぬけろ!」
凝縮された時の中迷っている暇は1秒も無かった
レイヴンはゼルクの手を掴むと魔力を流し込み その肉を血を取り込み、片腕を再生させた。
「すまねえ、恩にきるぜ」
そして、身を屈め地面に手を当てると魔力を流し込む。
「『武装針山(クレイモア)』!!」
地面の形が無数の針状に変わると一気に伸びた
無数の針が無数の羽とぶつかり互いに相殺して消滅していく。
「ヌウッ!させるか!『穢す羽触(フェザー.タッチ)』!!」
クロウは羽を広げて針山を腐らせて折っていく しかもまだまだ羽は撃墜しきれてはおらずレイヴンを取り巻いて迫り来る。
「もうお前に希望はない...腐り死ね...!」
時速500kmで襲い来る腐敗の瘴気
殺意も相まってエネルギーに重さまで感じられる
「もう大丈夫だ、そこまでお前が近付いて来てくれたならな...!」
レイヴンはとっさに『武装針山(クレイモア)』を足場にして飛び上がる、針の長さ5mそしてレイヴンは5m程の跳躍で舞い上がった
飛び上がった先にいるのはクロウだ、もう目と鼻の先 互いの息がかかりそうなほどの至近距離 ここでレイヴンは再生させたばかりの右拳を握る。
「オレにトドメを刺すために少し高度を下げたのが敗因だな この高さなら...手が届くぞ!」
クロウの顔面に鋭い痛みが捻じ込まれる
骨が砕ける音が頭に響いた
いや、頭骸骨そのものが砕けていた。
レイヴンのその圧倒的腕力は『打撃』などという 言葉では言い表せない...強いて言うなら『射出』であった。
「ゔっ...がァアァアア!!!!」
地上10mからコンクリートの地面に叩きつけられる
しかし、忘れてはいけない、そこにはレイヴンの出現させた『武装針山(クレイモア)』が残っているという事を。
「それは、お前に課す罰だ!」
落下とともにクロウは針山に突き刺さる、胸と喉、そして脚が貫かれ血が針を伝って地面に垂れる。
「か......こ...ぁ...」
喉を貫かれているので声を出すことができなくなっていた
それに、精神状態が混乱を起こしたからなのか宙に舞っていた羽から黒い腐敗エネルギーが抜けてバラバラになって崩れていく。
「次で息の根止めてやるぜ!」
「いや、待て...レイヴン 奴の様子がおかしい」
ゼルクにそう言われ動きを一旦止めてクロウを見ると傷口から相当な量の魔力が噴出されていた。
「なんだ、ありゃ」
傷口から溢れる魔力は加湿器の霧のようにジワジワと足元を這うように広がっていく
魔力の霧はものの5秒ほどで針山を包み込んでしまった
薄黒いその霧は針山に付着すると仄かに発光した
すると、針山は風にさらされた砂のように崩れ去る
「なにぃー!?」
「ウウウ...」
崩れたコンクリートの上で血を流すクロウが唸り声を上げた
見ると傷口がどんどん塞がれていたさらによく見ると傷口が黒く変色していた、そう、腐っているのだ わざと腐らせ 溶かして接合しているのだ。
「『穢れの化身(ブラッディ.クローズ)』...!」
なおも傷口から黒い腐敗エネルギーが這い出してくる 案外早い、逃げなければさっきの針山のようにグズグズに腐らされて死んでしまうんだろう。
「逃げ...」
逃げようとレイヴンがゼルクを抱え、踵を返した瞬間...
「逃すか...!」
目の前に腐敗の霧がカーテンのように立ち込めた
「つれないではないか...ここで本当の闇にふさわしいのは『漆黒(レイヴン)』か『烏(クロウ)』なのかハッキリと決めよう...」
「ケッ!闇だと?そんな気味のわりぃ称号なんぞいくらでもテメェに譲ってやんよ」
そう言ってレイヴンは足元のコンクリートを円柱状に伸ばし、霧を飛び越えるように躱す。
「逃さないと...言ったはずだぞ!!!」
その叫びと共にクロウの体から『穢れの化身(ブラッディ.クローズ)』が流れ出る
そうするやいなや、走るレイヴンを追うようにウイルスは意志を持って飛散していく
「そうか、あいつの能力の正体とは『腐敗ウイルス』の生成か!?」
「どういうことだ?」
必死に走りながらもレイヴンは考察を続ける
「あいつの本来の能力はウイルス生成だったんだろう、だが能力が強くなり生成できるウイルス量が増えて塊にすることができるようになったんだ
つまり、あいつがさっきまで使ってた翼や羽は細胞を媒体とした『ウイルスの塊』!
だとしたら、なんてこった!あいつにとって傷をつけられるって事はただ単にウイルスの噴出口が増えたに過ぎないわけだ!!」
レイヴンは背後に充満しているウイルスを背にして走る
飛行機まであと2秒もあれば到着できる。
だが、特級魔族同士のぶつかり合いとなればその2秒は決着をつけるには十分すぎるほどに長い。
「飲み込まれて土に還れ!レイヴンッ!」
背後からウイルスの波が高く押し寄せる
「ヤダねバ~カ!」
地面に生えた雑草やコンクリートを液状化させる腐敗のエネルギー それを指一つ動かさずクロウはその中心地からウイルスを操る。
「ほんのちょっと...」
クロウの飛行速度のさらに上の速度で腐敗が迫る
「あとちょっと...」
レイヴンの足元が崩れ始めた。
「速く走れ!オレの脚!!!」
足を取られないよう高く跳躍する
「もうお前が生を置ける場所などない!ここに命を置いて逝け!!!」
跳躍、それは完全に行動を見誤ったとしか言えないだろう
地表に充満する腐敗ウイルス、空中では避けるどころか動くことすら不自由だ
レイヴンの眼下には一面、烏の翼のように真っ黒な殺意が蟠っていた。
迫る殺意がレイヴンに感染してしまった
爪先から順に腐っていく なんとも言えない...痛いともかゆいとも言えないが激しい違和感が腕を伝って命を削ってゆく。
「ゼルク!悪いが...もう一個借りるぜ...!」
レイヴンは背負ったゼルクの腰に下げられている『ある物』に手を伸ばす。
「レイヴン...!?お前!正気か!?」
「あぁ、もうこれしかできる事は残ってねぇ!」
レイヴンが、魔族がそれに触れる事 それは【死】を意味する。
それは全てを浄化するこの世の何よりも美しく強い剣
名は『永命剣』
「ウオオアアアアアア!!!!」
レイヴンは剣を掴むと同時に叫び声を上げた。
手から蒸気が上がり 溶けだす
痛みは尋常ではなく 焼けつく
まるで生きたまま死んでいるかのような苦しみが脳に伝わってくる。
その瞬間、足に感染していたウイルスが蒸気を上げながら抜けていった
所有者の体から魔力や病を取り除く力を持った剣だ、穢れを綺麗さっぱり消し去った。
なぜ魔力使いであるゼルクがこの剣を難なく扱えるのかは謎である。
「これで対等だ!」
「気が狂ったか!?魔族がその剣を持つなど滑稽以外の何者でもないんだぞ!」
レイヴンはゼルクを背負ったまま死の霧の中に飛び込んだ。
この行為は一世一代の賭けになるやもしれない 体に吸い込むは死のウイルス それを浄化する聖なる力 この二つの危ういバランスはレイヴンの体内で均衡を保っている
ならばその均衡を崩すのは何か?
それは、レイヴンの体の崩壊だ。今やレイヴンの体は綱引きの綱だ、切れ目が入るだけで弾けてしまう。
それを知っていながらなおもレイヴンは得意げに笑みを浮かべていた。
「実はオレさ~...一度これやってみたかったんだよね...」
痛みに耐えながらレイヴンは身体を低く構える
その時ゼルクは見覚えのある動きを体で感じた、今自分を背負う大きな背中から感じられるその動きは...
「借りっぱなしで悪いがよぉ~、おっさん!技も借りるぜ!」
レイヴンの体は八の字飛行をする『燕』の如き流れを作った。
「烏が...逃げない獲物を捕らえらないと思うか!?」
体内から嵐が吹き荒れるようにウイルスが展開されてゆく
このウイルスは 空気感染 接触感染 水感染なんでもありだ、高密度の腐敗の波が大気を曇らせ 地から生命を奪う
「オレ流のぉッ!『飛燕流』ッ!」
レイヴンは光に燃えるその身に剣を構えるとその技名を口にした。
それに応じるようにクロウの手からは狂気を固めたように赤いウイルスの刀が出現した。
「これが我が最強の爪...それに触れることと腐ることは同義と思え...!!」
二人の魔力が愛舞う瞬間、その場の全ては腐り、聖なる力を受けながら消し飛んで行く。
「『魔燕渦』!」
片足に力を込め、地面から離れると同時に回転する。
フィギュアスケートのような滑らかで速い回転は『永命剣』の光を受けて輝く。
「それでも向かってくるか!」
回転のスピードを加えた一撃を勢いよく振り下ろす
その速度は時速444kmなんて欠伸の出そうな速度ではなくなっていた。
そう、それは魔族の覚醒状態、命の危機に瀕した場合に発動する身体能力の促進はその力に音速をもたらす。
「刀などろくに扱えん貴様がこの土壇場で剣術など!焼け石に水だと気づかんのか!?」
クロウが牙を剥きながら叫び、少し身を反らすだけで攻撃は空を切って外れた。
フォームがしっかりしていない素人が下手に武器を扱うのは逆に攻撃効率を下げる原因ともなる、たとえ音速を超えていても動きがぎこちないと戦闘のプロ相手には見切られてしまう。
「避けたつもりか?でもなぁ...お前は何も分かっちゃいない...この技の性質も、オレとの力の差も...なぁんもわかってねーーんだぜ!!」
攻撃を外して地面に突き刺さろうとした『永命剣』が突如軌道を変えて追撃を加えてくる
「なぁぁに!?」
地面すれすれから放たれた鋭利な一撃はクロウの体の表面をかすめ、体の高い位置にある例えば胸の皮や鼻の頭が削ぎ落とされた。
落とされた肉片は浄化の力により陽に当てられた吸血鬼のように灰になって消えていく。
「痛え!クソがァァァァァ!!!まだだぁぁァァァァ!!!!」
レイヴンの剣を握る右手が形を崩し始めた、溶けて燃えるロウソクのように手の一部が
ボトリ...ボトリと落ちていく。
しかし、レイヴンは追撃を止めようとしない
『飛燕流』の強みは攻撃後の二転三転する軌道変更だ、一撃目を避けられたとしても次かその次かそのまた次か...連続して襲いくる斬撃にいつか切り裂かれることとなる。
「飽くまでもやめないと言うのならばこの爪を使う他あるまい!」
クロウはレイヴンの次の斬撃に応じて ウイルスの塊の爪 その名も『烏合の終』を発現させた。
「このウイルスに感染すればもう助からん、腐敗などという生ぬるい破壊ではない、この力はもはや消滅!浄化する間も無く貴様の細胞は腐り消える!!」
『烏合の終』と『魔燕渦』の速度はほぼ同時ならば、その場合リーチの長い剣の方が先に相手の体に突き刺さる
はずだった
「うぐ...!」
それは...クロウの指先の爪は伸びていた
『伸縮自在』『無数』『腐敗』『粒子サイズ』etc...
この爪にはいくつもの特性が兼ね備えられていた
殺しにおいて魔族の右に出るものはないと言われているがこの能力は更にその中でも群を抜いている。
破壊においてこの能力の右に出るものはない
「油断したな、ここで終わりだ」
クロウは静かにそう告げると突き刺さり、血の滴る爪を引き抜いた
そうして、もう一歩近寄ると再び爪を突き刺した
今度は両手の爪が深々と腹に突き刺さる。
「かっっはっ...」
レイヴンが口を開け、何か言おうとした
だが、そこから出てきたのは声ではなく真っ黒に変色した血だった。
レイヴンが前に倒れこむのを見届けるとクロウは広範囲に展開していたウイルスの霧を収め、倒れているホークの元へと歩き出した。
しかし、その瞬間クロウは気づいた
(...さっきまで背負っていたゼルクとかいう人間はどこに行った...?)
ハッとしてクロウは周りを見渡す、辺りは腐敗ウイルスにより液状化していた。
さらに、暴れた風圧なんかで吹っ飛び雑草一つ残ってなどいなかった。
人がいればすぐに見つかるはずであった。
泡が弾けるような音が足元から聞こえる
今倒れたレイヴンの死体がウイルスで消滅していっているのだ。
「な...んだ?これはッ!」
死体が消滅する瞬間見えた
マスクが剥がれた本当の姿が
「レイヴンじゃあ...ねぇ」
足元から消えた死体は外側はレイヴンの姿を被った全くの別人だった。
頭が急な変化に驚き、混乱する
脳の中で飛び交う言葉が煩い。
本人は何処へ?どうやって逃れたか?いや、しかし、だが、もしや
確信の持てない考えが降って湧いては確証が持てず消えていく。
ならば、絞り込むしかない
襲ってくるのか、逃げているのか?この二択だ
そしてクロウはこの二択どちらでも対応可能な能力をその身に宿している。
「ホークも巻き込んでしまうが...仕方ない!ここから俺の能力射程限界の10kmを滅ぼす!!」
クロウはなんの躊躇もなしにその判断をくだした
滅ぼす、魔王の血筋の者がそう言うのならばそれは虚勢でも脅しでも何でもなくただ避けようのない事実となる。
クロウはカッと目を見開くと角に生命を集中させた
その生命エネルギーは全身に駆け巡り、そのうち生命は腐敗へと力を変える。
「『穢れの翼(アシッド.スカイ)』」
背には負の概念を固めたような黒い翼が生えてくる。
その翼で、太陽をも塗りつぶしそうなほどに真っ暗な空に舞い上がり、雲に触れる少し手前で停止する。
眼下に広がるのは明かりの全くない亡霊と化した街並み
そこには、なんの感情もなくただ時間か過ぎて劣化して崩れるのを待つだけと何とも悲しげな世界が広がっている
「死...そしてその魂はどこへ消えて行く?なぜ俺たちは生きるのか?死んで見なくてはわからないか...」
哲学的な呟きであった 同時にクロウの人生における試練でもあった
人は試練から力を得る
感情を失ったゼルクは『無感覚』
全てと共存し、手を繋いで生こうとするレイヴンは『武装』
そして、滅び 劣化 死...それらについて考え続け、結局は答えが出せないのがクロウの試練でありそこから得た能力『腐敗』なのだ。
「おいおい、物騒な能力発動させてんじゃねーよ」
静寂の空に無骨な一言が響いた
静止した時間をぶち壊す声に反応して振り返るとそこには消えていたレイヴン、そしてその背に掴まるゼルクが見えた。
「レイヴン...手を変え品を変え、何とまぁ...次は飛行機に変身か?」
呆れた口調のクロウの前に飛ぶのは機人と化したレイヴン、その体は背中に大きな機械の羽、そして脚や腕にはターボエンジン
まるで飛行機が魂を持って人になったような姿をしている
上空9000m闇の雲すれすれの場所での再び二人は向き合った。
「いや~本当に危ないところだったぜ、やっぱりその辺の上級魔族とは比べものにならねぇくらいにな」
ふっと口元に笑みを浮かべて 胸の前で拳を握る。
「だが、オレのが一枚上手だ」
クロウは吊り上がった目で血縁の者とも思っていない兄の変化した姿を見つめると口を開いた。
「気になって仕方がないんで聞かせてもらうが...お前、どうやって逃げた?十分追い詰めていたはずだ」
頭に打ち込まれた釘のように蟠った疑問を口にする。
レイヴンはニヤニヤしたままジェットの噴射でホバリングをして空中にとどまっている。
「ヘン!教えてやんねーよーだ!」
次の瞬間にレイヴンはエンジンを全開に吹かし、とんだ
前までのように「跳んだ」のではなく 「飛んだ」のである。
速度は地上を走っていた時とは比べものにならない程に速い。レイヴン本人の筋力とターボとの相乗効果で速度が止まることを知らない。
「やれやれやれやれやれやれ!!本当に気に障る男だな...」
黒い滅びの翼はクロウの怒りに反応して形を変える。
さっきまでは広範囲を破壊するために羽の数を増やしていたために風の抵抗を受けやすくスピードが落ちていたが 今度は空気を切り裂くような薄く軽い翼に変わっていく。
「まあいい、どうせ俺からは逃げられない、生物が死から逃げられないようにな...!」
そして、羽ばたく
空気の流れを断ち切るように
「おっさん、しっかり掴まっとけよ?」
レイヴンはそれを見ると背中のターボにエネルギーを集中させた。
今度は逃げない、真正面から向かって行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レイヴンが何故助かったのか、どうやって逃げたのかをここで説明しよう。
あの時、レイヴンは闘いながら別な場所にも魔力を使っていた
それは、空港ロビーである
そこには数十人の魔族の死体が転がっている。 二人が全力を尽くして狩り尽くしたからだ。
まずレイヴンは形勢不利なことを最初の時点で理解していた。
そこで、隠れることを選択した
レイヴンは地面に『武装』を使ったのだ
『武装』したのは自分の身体へではなく 先ほど述べたロビーの死体だ。
『武装』により死体を地面と一体化させ、死体を地面に埋め込む、ロープを手繰り寄せるようにその死体の肉を地面ごと引き寄せる。
バレないようにしかし、地中を迅速に滑らせ自分の元へ向かわせた。
そして、クロウが『烏合の終』を構え、レイヴンが決死の一撃を放ったその時 レイヴンの足元に死体が到着した。
そこからが速かった
レイヴンが足下の死体を『武装』エネルギーで加工して自分と瓜二つの影武者を作る。
これで足元の地中に身代わりが完成した訳だ
次に自分自身を地面に『武装』する、吸い込まれるように地面に沈んでいくが それを悟られないようにここで使われたのがさっきの影武者の死体人形だ。
地面から飛び出す死体人形とレイヴンが地面に引っ込むのは高速にしてほぼ同時
目の前にいるクロウでさえ気づけないほどにスムーズに入れ替わる。
その次の瞬間にはレイヴンと入れ違いに地上に出た死体人形が『烏合の終』に貫かれていた。
攻撃をまんまと躱したレイヴンは、ゼルクと共に地面を『武装』を使って泳ぐように移動する。
そうして、たどり着いたのがお目当の飛行機だ。
だが、乗るわけではない 操作方法なんて知らないし、魔力で操れたとしてもこんな大きな的となる飛行機すぐに撃墜されてしまう。
ならどうするか?そう、ここでも『武装』を使う
飛行機のエンジンや羽や骨組みを体に移し替えて自らの骨肉とする。
こうして、レイヴンは兼ねてから望んでいた飛行機の奪取に見事成功したのだ
そして、上空に飛んだクロウを見て 決着を付けるため 共に飛び立った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時速2000km!
この脅威のスピードが筋力とエンジンとの相乗効果により生み出されたレイヴンの速度である。
「オラッ!」
そのスピードで射出される拳は正確無比にクロウを捉えた。
「速い!だがな、速いただそれだけではこの俺の絶対的優位は揺るがない!」
時速1000km以上もスピードが離されているにも関わらずクロウはパンチの動きを見切っていた
身を曲げて 当たる瞬間の衝撃を最小限に抑えることに成功している
余りにも力が強かったのでダメージを抑えたと言えども内臓に傷が入り、口から血が流れはしたが。
「掴んだ!そして...」
クロウはダメージにひるむことなく横っ腹にめり込むようなレイヴンの拳を掴み取った。
最初からこれを狙っていたかのように、素早く無駄の無い動きで腕を押え込む
そして、忘れてはならないことがある...それは、【クロウ】この男に触れるという事は死を意味するということだ。
「捕まえてしまえば おしまいだろう!『穢れの化身(ブラッディ.クローズ)』!!」
そうして、クロウは超至近距離から死をばらまく。
視界には無数に黒く沈み込んだような漆黒のエネルギー体が広がる。
一つ一つが致死量を優に超えた猛毒であり細菌兵器 触れる事は許されない。
「だったら吹き飛ばしてやるよ、この両腕のパワーでなぁ!」
そういうと両腕のターボエンジンが緑色に光る。
途端に両腕が熱を持ち、腕を掴んでいるクロウは思わず手が緩んでしまう。
「熱ッ!」
手が火傷を負っていた、さらに手の皮はグツグツと溶けている。
頑強な魔族の手に火傷を負わせる程の火力、その正体とは...
「何だろうと溶かしちまう凶悪能力!『硫炎』だぜ!」
この飛行機エンジンは魔力で動くようになっている、それにレイヴンは『硫炎』を流し込んで噴出させているのだ。
『硫炎』の温度は800度、けっして温度が高いわけではないが、熱ともう一つの性質である酸の合わさったこの技はこの宇宙のどんな物質でも燃やし溶かしてしまうだろう。
そういう意味では『硫炎』と『腐敗』の能力はよく似ていた。
「そして、さっき知ったばかりのことなんだがな、この『腐敗ウイルス』...どうやら熱に弱いらしいな」
レイヴンの体はウイルスに触れているにも関わらず崩れる様子はなく、ピンピンしている。
さらに、周りを見渡すと緑色のキラキラした粒のようなものが無数に舞っていた。
「こ、これは...」
クロウは見て触れて理解した そして驚いた。
そう、それはウイルスが燃えているのだ
全てを腐らせ崩壊させられるはずの能力が...空を飛び、能力射程範囲や相性などで上回りさっきまで見下していたはずの相手が今、自分の目の前で不敵な笑みを浮かべで飛んでいる。
「これで対等 いや、オレの方が上を行った」
敵の利点を工夫とアイデアそしてハッタリを駆使して一つ一つが潰していき、遂に相手を上回る立ち回り それがレイヴンの十八番であった。
「もうオレは逃げねえ かかって来いや...!」
レイヴンが緑色に燃え上がる魔力を纏った両拳を握り、前に構える
クロウはワザとらしく目を見開くとニィィ...と口の側を歪めた。
「ふっ......ククク...クハハハハハ......」
クロウは突然に静かに、そして不気味に笑い出した。
緊張感のある静寂の夜空に響く笑い声は溶け込むようにいつの間にか消えていた
ほんの少しの間があった、だが、長かった
嵐の前の静けさは世界一長い3秒を経てして決壊する。
「『烏合の...」
「ウオラァアアア!!!!」
レイヴンはクロウの顔面を撃ち抜いた、恐ろしく速い拳は音を2000kmで追い抜き
800度のエネルギーを纏って骨をカチ割る。
「が...はぁ......」
口から血を吐くと白眼をむいてゆらりと体が崩れるように揺らいだ。
脳の神経が異常に耐えきれなくなり、強制シャットダウンし、ダイヤモンドよりも硬いはずの頭の角までこの衝撃でポッキリと折れてしまう。
背に生えた漆黒の翼『穢れの翼(アシッドスカイ)』もバラバラに分解して崩れていく。
「レ...ィヴゥゥゥゥ...ンン!」
しかし、ほんの少し残った意識を取り戻してクロウはレイヴンに手を伸ばす。
それを見てレイヴンは敬意を払うようにひたいに手を構えて敬礼のポーズをとる。
「つくづくお前の執念には驚くよ...だが、もう楽になれ...弟よ」
そう言ってレイヴンは日本刀のように鋭い手刀を振り払った。
クロウの首は宙を飛んで地上9000mから地面に落ちていく。
「生とは何か?滅びとは何か?...死んで初めてわかる事なんだろうな...」
そう呟くとレイヴンは落下していくクロウの首の無い死体の腕を掴みとると 抱き寄せて体に吸収していく。
「だが、『受け継がれる意志』はいつまでも滅ばない この力はオレの中で永遠に輝き続けることになる...!」
闘いを終えて清々したレイヴンの眼には光一つない闇に沈んだ夜景でさえ100兆ドルの価値があるように映った。
『腐敗』の能力を手に入れたレイヴンは背に背負ったゼルクを見ると安心したように微笑みかける。
「やっと終わったぜ...おっさん」
「よお、お疲れ様...悪いな背負われっぱなしでよ」
「いいってことよ さて、このまま中国へ向かうぜ、大丈夫 安全を考慮して200kmくらいで飛ぶから」
「それでも滅茶苦茶速いと思うが...まあ、いいか...俺は早く地に足つけて休みたい、できるだけ早く頼むぜ」
「了解、よしじゃあ行くぞ!出発進行!!」
レイヴンとゼルクの姿は遠くに消えて行く
時刻はam:3時24分
また一つここで魔王の息子を打ち破った二人はギリギリながらも中国への移動手段を手に入れた。
これで、しばらくは安泰だろう。
だが、忘れてはいないだろうか?二人が去った後の空港にあの男がいる事を。
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「次は逃がさねえ、二度もこの鷹の爪から逃れられるなんて思わない事だな反逆者共!」
To Be Continued→
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