世界を半分やるから魔王を殺れ

KING

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第19話「集結する災厄」

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「ノヴァ...その情報は信用できるのか?」
「ああ、神に...いや、父さんに誓ってもいいぞ」
圧倒的存在感を放つ二人の魔族が卓を挟んで向かい合っていた
一方の魔族はこの薄暗い部屋の中で不自然に映る美しい白髪をしている
その男に話しかけ、情報の真実性を誓う男は宇宙のようにどこまでも暗く強大な雰囲気を身に纏う魔王家次男ノヴァであった。
「今、奴ら二人は休息を取っているところだ クロウとホークとの戦いで魔力、体力ともに酷く消耗している」
「なるほどな、いくら戦闘の天才だろうと
ぼく達魔王候補との連戦には耐えられんだろうな だがな...」
白髪の魔族は指をパチンと鳴らす
するとノヴァの喉元にナイフを構える男が突然現れた
さっきまでこの部屋に居たのはこの二人だけだったはずだ
しかし、闇に溶け込んでいたように気配なく最初からそこにいたような佇まいだ。
「ノヴァ...言動に気をつけろよ」
後ろに回ってナイフを喉に向ける男は本気の目をしていた、少しの異変も見逃さない鋭い目だ 殺意はない、殺す事が当たり前になりすぎて何も思っていないのだろう。
「だがな ぼく達にそれを教えてお前になんの得があるんだ?手柄独り占めのチャンスを棒に振るんだぞ」
不敵に笑うと、この暗闇でも白く輝く牙が浮かんだ その純白さとは裏腹に胸に秘めるのはクロウの翼よりも滅びをもたらす狂異的な思考
しかし、ノヴァはその姿と気配をすぐそばに感じながらも表情一つ変えず口を開いた。
「ただのお前達へのハンデだよ、お前達は手柄を立ててポイントを稼ぐ、ボクは素の実力だけでこの魔王選考レースに挑む こうでもしないと面白くないからな」
喉元にナイフが迫っているにも関わらずノヴァは挑発的な言動をする
漆黒の魔族の目がキラリと光った ずっと無口なのがさらに不気味だ。
「なるほど...ならここで試してみるか?」
純白の魔族がもう一度指を鳴らす
すると後ろに構える漆黒が腕に力を込めた
「やめておけ、光の速さなんかでは宇宙は広すぎる」
その一言と共にノヴァはここで初めて笑みを見せた
まさしくそれは黒い微笑み その口元から邪悪さを醸し出していた。
「わかった あとで吠え面かくなよ ノヴァ」
諦めたような表情で純白の魔族が席を立つと同時に漆黒の魔族が闇の中に溶け込んだ
「この事は他の兄弟たちには教えてはいない 存分に殺ってこい」
その言葉を聞きながら純白の魔族は部屋のドアを開き、外へ出て行くその後ろにはドアの外の光に照らされた漆黒の魔族の姿があった。
「ふ~~~~~...」
深いため息を吐いた後ノヴァはゆっくりと目を閉じ、暗闇に向かって話しかけた
「聞いてたんだろ?お前も早く行ったらどうなんだ?『アーミー』」
その名を口にすると闇の奥から小さな羽音が聞こえて来た。
ハエか、それよりも小さな蚊の羽音のようだ。
「やはりノヴァ、鋭い」
「盗み聞き...とはあまり趣味がよろしくないな、アーミー 実兄として恥ずかしいぞ」
再びノヴァが目を開くと卓の上にちょこんと一匹の蚊が止まっていた なんの変哲も無いただの蚊だ。
しかし、そこから男の声が聞こえてくる。
「正々堂々ってものはわたしの性に合わなくてね ついつい盗み聞きしてしまうのだよ
だが、兄さん あんたも中々に性格が悪い 何が『他の兄弟たちには教えてはいない』だ このわたしがいる事を知っておきながらペラペラと奴の居場所を喋ってくれたではないか」
「最初はあの二人だけに教えようと思ってたんだが...アーミー、お前がその戦いにいた方が面白いだろうと思ってな」
「フフフ...なるほどあんたはこの魔王選考をゲームか何かのように楽しんでるのだな」
「お前も早く行った方がいいんじゃないか?出遅れるぞ、ホラ」
手で蚊を払うとその小さな羽で飛び上がり闇の何処かに消えて行った。
「このわたしの『軍隊』は無敵だ、必ずや反逆者を殺し そして兄さんあんたを倒す」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

中国 喫茶店
「だ~か~ら~、一緒に魔王を殺りに行こうって言ってんの!世界半分やるから!」
「るっさいわね!わたしそんな気ないって言ってんでしょうが!」
喫茶店の中で美男と美女が言い争いをしていた しかも内容は世界を救うか否かだ。
争う内容は大層なものだが二人の口調からそんな壮大な話をしているとは誰も思わないだろう。
「静かにしろ、俺は飲食店で騒ぐ奴が一番頭に来るんだよ...!」
見かねたゼルクが眉間にしわを寄せて叱咤する。
「うっ......悪かったよ...おっさん」
「ご、ごめんなさい...」
レイヴンと出会った酒場で剣を振り回したり酒に火をつけたりなんかしていた お前が言うなという感じだがゼルクの一括で二人の争いは冷静さを取り戻した。
「もう諦めろレイヴン 来ねえって言ってる奴への勧誘は無駄以外のなんでもないぞ」
「そうだそうだ」
リリィはゼルクの席に回ると背に隠れて意見に賛同する。
「チクショ~、おっさんまで反対派かよ」
そう言って悔しがるのを見るとリリィはふと悲しげな顔になって
「わたしだって...わたしみたいなちっぽけな存在でも世の役に立つんならついていきたいわ...でも...」
言う手前で言葉を止めるとスッと立ち上がった。
「......ここで話すのもなんだわ...ついて来て...」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

空を覆う黒い雲を切り裂きながら音速で飛ぶ一つの影があった
その身を魔力に光る分厚い装甲で包み 空から大地を見つめていた マスクの下の表情は読み取れない。
次の瞬間宙でターンをすると高度500mからの急降下で地に降り立った、その姿は威風堂々としてその男を中心に風が吹いているようだ
足が地面についたと同時に装甲が空気に解けるように消えていく。
装甲が消えたそこにはサングラスをかけた金髪で長身の男が現れた、そして その頭部にはまっすぐな三本の角 間違いなくこの男は魔族だ。
周囲に運悪く居合わせた人々はザワつき慌てふためいている
それを横目に全く気にしない様子でその男は悠々と道を歩く 何かを探すようにその鷹のように鋭い目つきを周りに向けながら...
「さぁてと、オレはクロウみたいに計画立てて動くのは苦手だからな いっちょここはシンプルに しらみ潰しでいくか...『ジェット.ラグ』」
腕に魔力を固めると装甲が腕だけに出現した。
その 目つき そして、能力 これを見るにこの男は間違いなく魔王家9男 『光速の翼』【ホーク】その男である
レイヴンを追って中国に渡って来たのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(お前...いつの間に食い逃げの男から財布スったんだ?)
(オレの手際の良さなめてもらっちゃ困るぜ、おっさん)
ゼルクとレイヴンのお尋ね者コンビはヒソヒソと耳打ちをしながらリリィの後ろについて歩いている。
するとリリィはピタリと歩を止めた
「あのお店の支払いあの食い逃げ野郎のだったの?レイヴン...だっけ?あんたホントに手が早いわね」
長い髪を払うように振り返るとリリィはそう口にする。
「!?」
二人は驚く、まだ警戒を解いてくれておらず歩く時距離を開けていたのに話を聞かれていたようだ。
「あら?スカウトに来たくらいだから知ってると思ったんだけど...」
リリィは身をかがめて耳に手を添えるポーズをとった
「わたしの耳の良さ、ここいらじゃ地獄耳のリリィで有名よ、あと嗅覚も味覚も...つまり視覚以外の全ての感覚が常人より鋭いのよ」
自慢するような口ぶりでリリィは自身の体の説明をした。
なるほど、それだけの感覚の鋭さがあるのならば喫茶店での声が聞こえていたのも納得はできる、納得はできるのだが 人間として相当異常なレベルの世界を彼女は見ている この女の子は目を閉じながらもこの世界をまるで見ているかのように聴いているのだ まさに『地獄耳』
同じ人間としてゼルクは驚きを隠せなかった
いや、魔族であるレイヴンもかなり驚いている 
魔力を使える人間の身体は何かを失う代わりに強力な力を得るのだろう
また一つ魔力の不思議なルールが増えた。
「スッゲエなぁ...なんとしてでも仲間にしてぇ....」
思わず願望が漏れた レイヴンの口のチャックは相当緩いらしい
「フン、あんたみたいな魔族信用してないわよ でも、何かしてきたら返り討ちにできる自信があるから今あなた達を案内してるのよ」
再び歩み始めたリリィは また凛とした姿勢に戻り 野良猫のように警戒した態度を取った
しかし、確固たる自信に満ちているその後ろ姿を見ながらレイヴンはニヤリと口元を歪める
また、何か企んでるんだろう 映画の悪役のような悪顔であった。
「着いたわ...ここよ、ここがわたしの家」
リリィがゼルクとレイヴンを誘導するように建物の前に立ち止まった。
彼女が家だと言う建物は割と立派で古城のような外装を持っている。
周りを見渡すとこの家だけが逆に不自然なほどに原型を保っていた
そう言うにはここ以外の店や家などは外装に剥がれた傷や落書きなどがあり確実に一つは荒らされた跡が残っているのだが、リリィの家...しかも狙ってくださいと言わんばかりの大きくて目立つ建物 それなのに壁どころか落書きの一つすらないノーダメージを保っているのだ これはかなり珍しいと言える。
「上がってってもいいけど お茶飲んだらすぐ帰ってよ」
「さぁね、オレ達が帰るかどうかは君の返事次第なんだけどね」
「達を付けるな達を...すまない、こいつが駄々をこねて帰らないようなら俺が責任を持って連れ出すから安心しておいてくれ」
どちらとものセリフにも反応せずリリィは重厚な門の扉を開いた
門を抜けると少し進んだ先に玄関があり それに手をかけると ギ...ギギギ...と錆びついた音を立てて開いた。
「靴脱いでね」
靴を脱いで玄関に上がる、レイヴンは靴をキチンと揃えていた 意外と育ちがいいようだ。
靴棚の上には可愛らしい人形などが置いてあり女の子らしさが垣間見える 魔力使いと言えどもこれまで魔族と関わりを持たず生活していればこのように盲目でも普通の日常を遅れて来ているのだ
そう思ってゼルクの決意はまた揺らいでしまう。
「あらあら、リリィ その方達はお友達かしら?」
廊下の奥から女性の声が聞こえた
ギシギシと廊下を踏んでこちらにやってくる
「お母さん 大丈夫なの?」
「うん、今日は調子がいいから...」
リリィにお母さんと呼ばれた女性はふっと笑うとリリィの頭を撫でた。
出て来た女性は痩せていて押せば折れてしまいそうなほど弱々しい物腰だった 視線をまた2人に移すと 話しかける。
「どうもお越し下さってありがとうございます ウチの娘のお友達ですか?」
微笑む女性の年のくらいはゼルクと同じくらいの40歳か30代後半で、黒く長い髪を後ろで編んでいた。
「いや~どうも 急に押しかけてしまってすみませんね!」
レイヴンが陽気に言葉を返すと 「若いっていいわねー」といった感じでフフフと笑う
しかし、ゼルクはそれを見て眉間にシワを寄せていた
レイヴンを見てではなくリリィの母をみて 何か考えるような表情となる。
「あら?そちらの方はリリィとは結構歳が離れているけど...この黒髪君のお父さん?」
そう言って再度ゼルクを見つめる
すると優しげな表情がハッとして驚愕した 顔に変わった。
「え、もしかして...間違ってたら悪いんですが...あなた...」
つまりながら申し訳なさそうに 自信なさげな声に全員が集中する
「ゼルクくん?」
母がゼルクの名を口にした
それを聞いてゼルクは久々にニヤリと笑った。
「...久しぶりだなシズク」
「アハハッ やっぱり!」
満面の笑みでゼルクの前に掛ける
手をギュッと握るとまた笑う
「お母さん!?」
「おっさんこの奥さんと知り合いだったのか?」
さっきまでの緊張ムードから一転してお花畑な雰囲気がその場の4人を包んだ。
「ほんと懐かしいわね~ さあ上がって!上がって お話でもしましょうよ」
若々しい見た目のリリィの母シズクはゼルクの腕を引っ張って玄関からひきあげる
その姿はまるで二度目の青春のようだ。
「オレが言うのもなんだけど君のお母さんマイペース過ぎない?」
「魔族にまでそれを言われるとはね...」
部屋に上げてもらうと広く豪華な中国的な家具が目に飛び込んできた
煌びやかな世界に飛び込んだような感覚 異国文化は部屋一つ取っても異世界感を感じられる
その中の椅子で広い机を囲むようにして配置
そして、みんなで卓を囲む
机の上には暖かい紅茶とコーヒー
ゼルクはいつもの無表情でシズクはそれを見つめてニコニコしている レイヴンも笑顔でリリィはなんとも言えない微妙な表情だ。
「ホント~...大人になっちゃってね~」
話を切り出したのはやはりシズク
懐かしむ口調でゼルクの過去を語ろうとする
ゼルク本人はそれを他人事のような顔をして聞いている。
「だってあの時はよく笑ったり怒ったり泣いたりなんかはしょっちゅうだったのに今はこんなに落ち着いた雰囲気...」
「俺だって驚いたぞ まさかあのじゃじゃ馬で通っていたシズクがこんなに丸くなって...さらには母親にまでなってるとは」
かつてゼルクは『頂正軍』に所属していたのは皆の知る通り その『頂正軍』にはシズクも女戦士として参加していたのだ
その中でもこの2人は知り合いになっていて今運命的な再会を果たした...という事らしい
「そう言えば二つ聞きたいことがあるんだ」
ゼルクが指を二本立ててシズクに尋ねる
「なぁに?」
笑みを保ったまま耳を傾けるとゼルクは話し出す。
「シズク お前があの戦場から生きて帰っているということは『魔力』...使えるようになっているんだよな?」
ピクッと動きが止まる
「ウフフ ゼルクあなたも生きて帰ってるってことはそういうことなのね」
「あぁ、俺も魔力使いとして生きている」
「そう...」
その言葉を聞くや否やシズクは指を子供がやるような銃の形に構えた
それと同時に指先から半透明な力の集合体が発される
「『雫銃』」
初速1000km スピードを保ったままそのエネルギーはゼルクめがけて飛んだ
大きさの程はBB弾ほどだが明らかに超越的な力を持っている
この人間離れした芸当はまさしく魔力によるものだ
魔力は魔力を纏ったもの以外から干渉を受けないので初速=そのままのスピードとなる
「おっと...」
その高速の弾を前にゼルクは指を折り曲げる
そして、その指でそのエネルギー塊を弾いた
弾は形が崩れグニャリと歪むと床に飛び散った。
「いきなり何すんだ」
「ウフフ これが私の魔術『雫』よ 口で説明するより見せた方が早いと思ってね~ 悪いけど試させてもらったのよ」
そう言うと雫は突き出していた人差し指を握った
「それで、聞きたいことの二つ目は?」
その言葉にゼルクは口ごもるような表情を見せた 口を開くことを躊躇しているように見える
少し考えた後再び口を開く
「お前の夫は...誰なんだ?」
その言葉にシズクだけでなく さっきまでレイヴンの事を気にしていたリリィまでもが弱いところを突かれたように反応した
2人とも顔が強張った
ゼルクもこうなる事を予想できていたので言うのを躊躇ったのだ
「...それが......」
この質問に最初に答えたのはなぜかレイヴンだった。
「...【マクシム】フランス人 18歳の時に『頂正軍』に参加し 班長の階級を持つ実力者 21歳の時に魔王城への攻め込みで魔族の攻撃で戦闘不能状態となる」
「マクシム あの班長か...」
その男の名にゼルクが反応する しかし、シズクとリリィはさらに敏感に反応した。
「え?なんで君がそれを...!?」
シズクが驚きを隠せないという状態になっていた レイヴンの正確な 書かれた文字をただ読み上げているようなセリフはまだ続く
「その後奇跡的に一命を取り止め同じく『頂正軍』に参加し知り合った女班長【シズク】と結ばれる 結婚二年目に産まれた娘【リリィ】と3人で渡り付いた国中国で暮らすこととなった 魔力を使い この荒れた地でも家族を守って比較的幸せな正確を送っていた しかし」
「待って」
レイヴンの話の途中シズクが手で話の制止を促した 怒っているわけではないが声が先ほどまでと比べて低くなっていた
耳が良く共に18年間共に暮らしてきたリリィはもうその声を聞いただけでシズクが何を言わんとするか理解しているようだ。
「なんで黒髪君がその事を知ってるのかわからないけど 今はまあいいわ...ここからは私が話す その方が正確でしょ?」
その提案にレイヴンは「どうぞ」と言って口を閉じた
「そう、こんなしみったれた世の中でも私達なりに楽しく過ごしてきたわ...でも十年前 どこの馬の骨とも知れないような下級魔族がこの近くで暴れたのよ 理由は知らないわ なんとなく暴れたかったみないなクソみたいな理由なんでしょうね」
シズクの眉間にシワが寄り口がへの字に曲がっていく かつての怒りが再点火されたように燃えているのだ。
「その下級魔族には勝ったわ でもねそいつらが死ぬと絶対にシワ寄せが来るのよ つまり、その上の存在 中級魔族の手痛いしっぺ返しをくらってしまった...」
そこまで話すとシズクは席を立って隣の部屋に続く扉を開いた
リリィもその後ろについていきゼルクとレイヴンについて来るように手をこまねいた。
「そこで私は大怪我を負った 半身の骨が砕けてたし気管が切断寸前のところまで傷つけられてた それでもマクシムの傷と比べたらまだマシだった...」
暗い部屋に入った、目を凝らすとそこにはさっきまでいた部屋にあったような家具は無く 部屋の中心に一つ置かれたベッド そしてそこには一人の男が横たわっていた 4人はそこまで歩いて行く
顔は掛け布団に隠れて見えないがゼルクとレイヴンは驚いていた 
こんなにも近寄っているにも関わらず生気を全く感じないのだ まるで死人を目の当たりにしているようなそんな印象を受けた。
「お父さん...」
静かな部屋にリリィの一言
シズクはさらに顔が強張った
「うちの旦那よ...」
最初の溌剌とした元気は形を失い消え入りそうに震える声が喉から吐き出される
「中級魔族との戦いで私達は酷くダメージを受けた しかもマクシムは心臓に深い傷を負ったの...」
そう言いながらシズクは死体のようになった自分の旦那の体を布団越しに撫でた
マクシムは動かない、まるで血の通わない人形だ。
「レイヴン...」
リリィがその光を映さない瞳をレイヴンに向けた
悲しげな表情だ 普段無表情のゼルクか魔族としか関わらないのでレイヴンはそんな顔を見せられると戸惑ってしまう。
「そういうことだから悪いけどあなた達の夢を手伝うことはできない わたしがここを離れてしまったら両親を守る人が居なくなるのよ」
暗い部屋の中でゼルクもレイヴンもその家族想いの心に打ちのめされ言葉を返すことができなくなってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ダメだったな...」
「ああ、オレにあの家族の生活を引き裂く権利はねぇ たとえ世界を救うためでも そのために女を泣かすわけにはいかねぇや」
半ば無言で追い出されるような形でリリィの家を出た二人は途方に暮れていた
繁華街...だった場所今はもう廃れて腐ったような道をゆっくりとあてもなく歩く
もう目的は果たした やる事が無くなり次の目的が見当たらない そんな気だるい気持ちが二人の歩を重くした。
「スカウトは失敗しちまったし...しばらく休んだら今日中にここを離れるぞ」
「分かった だが、レイヴン次はどこに行くんだ?」
「そうだねぇ~...じゃあ次は...」
力の篭っていない声で会話している二人が突然立ち止まった
「......おいおいおい 俺たちに休む暇は無いのか?」
目つきが鋭く戦闘モードに入っている。
「今の静電気に背中を撫でられるような感覚は...感じたか おっさん」
「もう追手が来たか...しょうがねぇ迎え撃つぞ!」
二人は建物の上に飛び乗る 軽く10mはジャンプし 猫のように屋根を走って魔力の気配を強く感じる方向へ向かう。
「この感じ...空港の時に襲って来た兄弟の片割れ...」
「ホークのやつだな あのスピード馬鹿め...兄の仇を取りに来たのか?」
秒速100m程のスピードで走るが まだ敵の姿は見えてこない
しかし、目に映る景色が損壊している建物だらけになってきた 道路は抉り返り建物は骨組みさえ残らない程徹底的に破壊されていた ただの時間の経過による風化ではこうはならないだろう
そして、レイヴンは見つけてしまった 悲惨な光景の中でゴミのように野垂れ死ぬ人の姿を 頭の中身がぶち撒かれそこらに飛び散っている
「クソ野郎...!」
どこまでもそんな光景が続いていく血と崩壊の景色 どこまでも胸糞悪く いつまでも心の中にこびり付く 煙 血 崩壊 死体 どこを見ても何を見ても希望なんて無い 魔族の通った後は消しゴムをかけたように破壊に伴ったカスしか残らない。
「いたぞレイヴン!」
ゼルクがモクモクと黒煙が立ち上る その中心地を指差した
そこに立つのは全身を奇怪な機械に包む人型の何かだ。
「ホークッ!」
レイヴンは視界にそれを捉えると同時に足を踏み切り その空間に飛び込んで行く
「『武装拳』!!!」
叫ぶその声は烈火のごとく
握るその拳は瓦礫を取り込み巨人の腕のごとく
そして、睨む眼光は劔のごとく
一挙手一投足に怒りを込めて!
「オオオオアッ!」
瓦礫との一体化でレイヴンの腕は肥大化していた
身長178cmの体に見合わない10mはあろうかというその腕 それをレイヴンは普段となんら変わりはないとでもいうような速度で拳を振り抜いた。
「何!?」
巨大な拳がホークの体を捉える
煙の影になってその巨大な一撃の到来に気づけずまともにくらった
腕が伸びきると衝撃波が生じ それに乗ってホークの体はいくつもの廃ビルを貫いて飛んで行く
「どうだ!!!ざまあみやがれ!!!」
レイヴンの声がホークに向かって迫っていく
そして、その声が耳に届くと同時にホークは魔力のパワーを解放した。
「不意打ちとは男らしくねえ...『ジェット.ラグ』!」
魔力装甲『ジェットラグ』が魔力に包まれる
火花のようで稲光のようでもあり嵐の破壊力を持った力と言われる魔力
その生物界最強の力は個人によって概要が全く異なる
ホークの魔力はその装甲であり その装甲はホークに光の速度を与える
「地獄の底で寝ぼけてな」
「はッ!?」
レイヴンは後ろから聞こえた声に振り向こうとした
背後には不気味な装甲 それに身を纏った男が命を消し去ろうと拳を振り上げている
いつの間に...そう思う間も無く拳は光の速度で振り下ろされた
「おおっと!そうはさせるか」
一人の人間の声とともにその拳は止められた
その声は誰にも聞こえない 光速世界は停止の世界だ空気の響きでさえも時間のスピードに追いつけない
その程度の速度では二人からすれば遅すぎるのだ
「フフフ...ゼルクやっぱりお前はぶっ飛んでるぜ オレのスピードについてこれるとはな」
「『感覚夢双』!」
二人とも声は聞こえずとも会話するように力同士がぶつかり合う
互いに感じ取る言葉はたった一つだ
「「テメェをぶっ殺すッ!」」

To Be Continued→
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