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第21話「白極の兄弟」
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レイヴンは戸惑っていた
突然消えたホークとゼルク、そして消えた次の瞬間に吹っ飛ぶ街並み
レイヴンは干渉できない超越された世界での出来事を見ることができずに一人取り残されていた。
「あいつら...無茶苦茶してやがるな」
吹き荒れる風の中、周りを見渡すが二人の姿は見ることはできなかった
「よお、レイヴン暇そうだな?」
「あん?」
唐突に、頭上から聞き覚えのある声で名を呼ばれ見上げた
真っ黒な空の下で不自然に映える白髪を有した男が一人
浮いている。
「パニッシュか?お前」
その男を指さしながらレイヴンは目を細めるそのパニッシュという男の体は光輝いていてまともに見れば目が眩んでしまう。
「何しにきた...って質問は野暮かな」
「ああ、ぼくは裏切り者を処刑しにきたのさ 罪人は裁かれなくてはならんからな、反逆の罪は重いぞ」
そう聞こえるとレイヴンはその男をグッと睨み そして、跳び上がった。
「お手柔らかに頼むぜ」
空中で一回転しながら天空に突き出すように脚を振り上げる
そして、その振り上げた脚を罪人を裁くギロチンのように振り下ろした。
「くらえ...『武装剣(スラッシャー)』!」
コンクリートを脚に『武装』している極薄く その薄さが生み出す切れ味はどんなナイフよりも鋭い。
「『フラッシュパニッシャー』」
レイヴンの脚がパニッシュに届こうとしたその時 パニッシュは発光し その場から消え失せた。
「うおっ!?」
空を切ったレイヴンの脚は勢い余って空回りする
「遅いんだよ...そんなスローな攻撃がぼくに当たるとでも?」
後方から目を瞑っていても眩しい程の光が瞬いている
レイヴンはここまで醜く歪んだ光を見たことがないと思った いくら『光』でも魔力は魔力漆黒の名を持つレイヴンからでも...いや、レイヴンだからこそはっきりとその心中のドス黒さが伺えた。
「うおお!『武装鎧(プロテクター)』」
「処刑執行だ!!」
レイヴンが瞬時に硬質化させた背部に鋭いナイフでの一線が当てられる
細身にも関わらずパニッシュのパワーは凄まじく、まるで巨人に叩きつけられたようなダメージに襲われた。
「むぅ...うああ」
硬めた背中に大きな切り傷を作りながら地面に落下する
その手に持たれたナイフの切れ味もさることながら その能力が恐ろしい
もしも、『閃光』そのものの速度で移動できるのであるならばパワーと技能が上回るレイヴンでもスピードで手も足も出ない
「我、魔王家第七王子『白夜の処刑人』パニッシュ 今ここに反逆者を裁くために力を振るおう」
レイヴンの頭上で、そう宣言するように叫ぶとパニッシュはその輝く魔力を手に持つ短剣に込める。
「『フラッシュパニッシャー』!」
短剣を振り払うとそこから光が一線飛び出した
視界に飛び込んでくる光はレイヴンの体を切り刻む
「チクショッ!やめやがれ!!」
血を流しながら空に浮く男の元に跳ぼうと身を躱す
そして、脚を踏ん張り 高く跳んだ
「『アナザー.ロンリー.ナイト』」
だがその時、視界が一瞬にして闇に包まれた
「光の次は闇かよ!?」
閉ざされた視界の中レイヴンは上へ上へと上がっていくが一向に闇が晴れずそのうち上昇が止まる
「『八咫烏』!」
体が重力によって落下しようとしたそのとき レイヴンの背から漆黒の翼が生え出してきた
それはここに来るまでの空港で撃破し、自らの体としたクロウの能力である。
レイヴンは闇の中でそれと同じくらいに黒い翼を羽ばたかせながら敵の動きをその五感を使って感じ取ろうとする。
「厄介だな、今オレがどの程度の高さにいるのかすらわからねぇ 地面がどこにあるのか知ってなくちゃどんなに動きの素早い鳥だろうと着地はできない」
同じ位置に居続けるのは危険なので少しずつ高度を下げていく、しかし、さっきは思いっきり跳んだのでそのスピードでは下につくまでには結構時間がかかってしまうだろう。
「『フラッシュパニッシャー』!」
闇の外から聞こえるその声は、その攻撃より遅れて耳に届いた。
「なに...!こいつは?」
光の一閃がレイヴンを切り裂く
しかし、体にそれが当たるまで魔力の気配も光すらも感じる事ができなかった それはこの不自然に現れた闇の霧の効果なのか
「痛っ......てえ!」
腕や脚に深めの傷を受けながら地面にフラフラと落下していく
落下の最中も閃光に身を斬られ傷が続々と増えていく、そこまでしても自分の体から出る血の色さえも認識できないほどに闇は深かった。
「クソッ!クソッ!クソッ!」
攻撃を受けて最終的に行き着いた場所は地面だった 地面に足が着く頃には攻撃が止んでいたが、今度はこの闇を発生させた者がここで待ち構えているはずだ レイヴンは神経を鉛筆の先のように尖らせる。
「おい!シン!お前だろう?この闇を発生させたやつは!」
レイヴンは闇に向かってどこにいるとも知らない敵へ叫び掛ける。
「『極夜の罪人』お前はそう呼ばれてたよなあ!?お前は弟のパニッシュと行動を共にしていた この闇を発生させたのはお前なんだろう!?シンよ!」
言葉での返答はなかった
しかし、目の前に突然人の存在が現れる
「そうだ」
その手にはパニッシュと同じ型の短剣が握られていて それをレイヴンに向けている
この男こそがパニッシュの一つ兄の男 魔王家第六王子『極夜の罪人』シンであった。
「また、突然!」
レイヴンはその出現に慌てて跳び退く
だが、少し離れただけでまたシンは闇の霧に姿を眩ませた。
「ハァ...ハァ...チクショウ」
目が見えないというこの状況はまるで 猛獣の檻の中に閉じ込められているようだ
どこから襲って来るとも分からない恐怖に神経が高ぶっている。
いきなり、脇腹に鈍い音と鋭い痛みが突き刺さった
「ぐえ...ッ!?」
触れて確かめるまでその痛みの正体がわからなかった
それはナイフだ、長めの投げナイフが横っ腹に刺さっている
その投げナイフには魔力が込められていてレイヴンの『武装』で吸収する事ができない
内臓まで達しているわけではないが引き抜くと血が止まらなかった。
「血は『武装』で止めるとするが...今の正確な攻撃...あっちからはこちらの位置が分かっているみたいだな そして、こっちから反撃する手がないとすれば...」
鋭い5つ程の痛みが全身を駆け巡る
歯を食いしばり、腹に手を当てた。
「一気に投げて来やがる...」
腹にダーツの針のように五本のナイフが突き刺さっていた。
「動き回らねえと いい的になっちまう!」
そう思って走ろうと地面から足を浮かせた瞬間
「いギッ!?」
アキレスにナイフが刺さる
バランスが崩された。
「嘘...だろぉ!?」
倒れこみながらそんな言葉を漏らす
恐ろしいほど攻撃が正確だ
まるで目の前で投げているかのように当たる
いや、実際そうしているのかもしれない
しかし、この闇の中ではそれを確かめるすべは無い
「『硫炎』!!!」
いや、確かめるすべが一つあった
レイヴンは両腕を地面で擦ると緑色の炎を発火させた
火のついたその手を合わせると 掌と掌との間で魔力同士がぶつかり融合しあいその力を増幅していく。
「そして!『穢れた翼(アシッドスカイ)』」
背中に再び漆黒の翼が出現した
緑色の炎と漆黒の羽がレイヴンの肉体で交差する。
「合成魔術!『武装炎翼』!!!」
三人分の魔力が背中に集中する、黒い翼は緑色に燃え上がりレイヴンを妖しく包み込む
「この闇ごと周辺を吹き飛ばせばお前がどこにいようと関係ねえよなぁ!?」
目が本気だった
レイヴンの奥底に潜む残虐性がその表情に浮かび上がる
戦闘生物としての本能が爆発する。
「くらえ!」
暗闇を照らすように
さらに闇を深めるように
その闇を自らの体に取り込むように
レイヴンが解き放った力は 溶かし、腐らせ、呑み込んでいく
辺りを燃やし、その炎は物質にまで感染しながら溶かす
その効果は最小限のエネルギーで最大限の破壊を見せた。
「ハァ...ハァ...ハァ...」
魔力を一気に放出し、レイヴンはその疲労に息を切らせる
「おいおい...ここらを焼き腐らせるつもりで撃ったぞ?オレ...」
だが、そこまでやったのに、それほどまでのパワーを使ってもこの闇は晴れなかった
眼前にはどこまでも続くような闇が広がるばかり
軽く絶望していると
またもや鋭利な痛みが突き刺さる
「ぎぃぃっ...ああっ!」
今度刺さった場所は眼球だった
当たるその瞬間までそこに存在することすら感じる事ができない
「うう...え、煙幕を貼るだけの地味な能力だと思ってたら...意外とやるじゃねえか...この闇の中では魔力やら気配まで遮断されるのか...」
ナイフを引き抜きながらレイヴンは独り言のように喋る
息を整えるためか 地面の振動を感じとって敵の居場所を知るためかレイヴンはその場に手を突きへたり込んだ。
「諦めの境地か?レイヴン」
その時背後から声がした、高くはないがよく通る男の声だ
反射的にレイヴンはそれに向かって腕を突き出すが、それは するりと躱された。
「この暗闇『アナザーロンリーナイト』の中では俺が支配者だ 逆らうことは許されない」
そう言ってレイヴンの目の高さまで腰を屈めるとゆっくりと味わうように短剣を胸に差し込んできた。
「...分かるか?今 俺の剣はお前の心臓に触れている...あとちょいと力を込めるだけで心臓に穴が空き いとも簡単に命を奪い去れる」
「やってみろよ ただしお前があとほんの少しでも動いたらそのマヌケな顔面に拳ぶち込んでもっとブサイクにしてやるからな オレは0.1秒に10発は殴れるぜ...!」
「試してみるか?」
「やってみろっつってんだろ」
一触即発の空気をレイヴンは自ら破っていく
拳を握りこみそして 殴りつける
「こいつ...なぜ地面を...?」
レイヴンはなぜか、その拳を足元に叩き込んでいた
ズグリ...と胸に短剣が差し込まれていく
「いくぜ、後悔はもう遅え」
今まさに心臓が突き刺されているにも関わらずレイヴンは口の側を歪めながら笑う
服の胸元はジワジワと血のシミが広がっていく
「...こ...れはッ!」
地面がボゴン!と鉄の板を曲げたような音が出ると 盛り上がった
「さっき撃った『武装炎翼』...全てではないがオレ達の足元に『武装』して仕込んどいた さぁ、吹っ飛ぶぜ」
空海が岩を突き破るとそこから懇々と温泉が湧き出た と、いう逸話がある
この攻撃はまるでそれであった
地面の亀裂から破壊的な波動が湧き出る
それは殺意であり敵意であり そして、絶望でもある。
「...お前、どうなるかわかって...グアアァッ!」
台風に巻き込まれた木のようにシンの体が根こそぎといった感じで吹き飛ばされていく
『硫炎』に飲み込まれ『腐敗』させられ溶かされる そして、その痛みは『武装』によって体に深く刻まれる
「熱ッッッ!!!!」
自分の足元で爆発を起こしたのでレイヴン自身の体も焼ける
「熱いけど...お前をぶっ倒す為ならこんくらいどうってこと...ねぇぜッ!!」
この熱気に押されて闇の霧は消え失せていく
火だるまになった人影が暴れるように転げ回っていた。
「その炎...消す事はできねぇぜ お前の体そのものに炎を『武装』させといたからな炎が体の一部となっている」
「うぐう...あぐああ!!」
「そして、こいつで終いだ!」
苦しむ弟にトドメを刺すためレイヴンは魔力を拳に込める。
「『フラッシュパニッシャー』!!」
しかし、背後に閃光が迫っていた。
「チィッ!」
レイヴンは慌ててその光を飛び避ける
地面に当たった閃光はコンクリに深い傷を刻んでいた。
「やれやれ、シン 魔王の息子としてお前は弱すぎる ぼくの兄として恥ずかしくないのか?」
声を荒げながらパニッシュは兄であるシンに近づいていく
そして手をかざすと掌から出る光が燃えるその体を囲んでいく
その光はシンの体を包む炎を取り除いていく
水を吸い取るスポンジのように炎が光に吸収されていった。
「う...ううう...」
「立て、レイヴンを殺るぞ」
「う...分かったよ」
体の中から燃やされ溶かされたシンは血を吐きながらゆっくりと立ち上がる
「...すまん...もうヘマは踏まない...」
「フン、当然だ」
それをじっと見ながらレイヴンは考えを巡らせていた
シンを仕留めてパニッシュとの1対1に持ち込もうとしていたが 思った以上にパニッシュの対応が早く仕留め損なってしまった
これではまた2対1の不利な戦いに戻ってしまう。
「こんな時におっさんがいてくれたらなぁ~」
「「処刑執行だ!!」」
悩むレイヴンに二人の狂気が迫る
その時、レイヴンの頭上を一つの人影が飛び越えた。
「『龍舞脚』!!」
虚を突かれた二人の魔族は咄嗟に身を翻す
外れたその人影は蹴りを地面にくらわせ地面を破壊し 砂埃を巻き上げた。
「大きな音がしたから来てみれば...またあんたと出会うなんてね...」
「リリィ!!」
「さっきぶりね レイヴン」
黒髪をなびかせてリリィは大きくへこんだ地面の上に立っている
それを見てパニッシュは目を潜めた。
「そいつは...仲間か?『死神』ゼルクしか仲間にいないと聞いていたが...」
あちらではゼルクは『死神』と呼ばれているらしい
「ただの通りすがりよ、でも、私達の街でこれ以上暴れるっていうのなら私は龍になるわよ」
目が見えていないはずのリリィだが その大きな両目はしっかりと敵を見つめている
「仕方がない、シン...こいつを片付けておいてくれ ただの人間だからといえ油断はするな レイヴンはぼく一人でも充分殺れる」
「了解だ」
そうしてシンとパニッシュは二手に分かれ それぞれにゆっくりと近づいていく。
「『フラッシュパニッシャー』」
「『アナザー.ロンリー.ナイト』」
閃光がレイヴンに襲いかかり
暗黒がリリィを包み込む
白夜と極夜の兄弟はその力で光を蹂躙した。
To Be Continued→
突然消えたホークとゼルク、そして消えた次の瞬間に吹っ飛ぶ街並み
レイヴンは干渉できない超越された世界での出来事を見ることができずに一人取り残されていた。
「あいつら...無茶苦茶してやがるな」
吹き荒れる風の中、周りを見渡すが二人の姿は見ることはできなかった
「よお、レイヴン暇そうだな?」
「あん?」
唐突に、頭上から聞き覚えのある声で名を呼ばれ見上げた
真っ黒な空の下で不自然に映える白髪を有した男が一人
浮いている。
「パニッシュか?お前」
その男を指さしながらレイヴンは目を細めるそのパニッシュという男の体は光輝いていてまともに見れば目が眩んでしまう。
「何しにきた...って質問は野暮かな」
「ああ、ぼくは裏切り者を処刑しにきたのさ 罪人は裁かれなくてはならんからな、反逆の罪は重いぞ」
そう聞こえるとレイヴンはその男をグッと睨み そして、跳び上がった。
「お手柔らかに頼むぜ」
空中で一回転しながら天空に突き出すように脚を振り上げる
そして、その振り上げた脚を罪人を裁くギロチンのように振り下ろした。
「くらえ...『武装剣(スラッシャー)』!」
コンクリートを脚に『武装』している極薄く その薄さが生み出す切れ味はどんなナイフよりも鋭い。
「『フラッシュパニッシャー』」
レイヴンの脚がパニッシュに届こうとしたその時 パニッシュは発光し その場から消え失せた。
「うおっ!?」
空を切ったレイヴンの脚は勢い余って空回りする
「遅いんだよ...そんなスローな攻撃がぼくに当たるとでも?」
後方から目を瞑っていても眩しい程の光が瞬いている
レイヴンはここまで醜く歪んだ光を見たことがないと思った いくら『光』でも魔力は魔力漆黒の名を持つレイヴンからでも...いや、レイヴンだからこそはっきりとその心中のドス黒さが伺えた。
「うおお!『武装鎧(プロテクター)』」
「処刑執行だ!!」
レイヴンが瞬時に硬質化させた背部に鋭いナイフでの一線が当てられる
細身にも関わらずパニッシュのパワーは凄まじく、まるで巨人に叩きつけられたようなダメージに襲われた。
「むぅ...うああ」
硬めた背中に大きな切り傷を作りながら地面に落下する
その手に持たれたナイフの切れ味もさることながら その能力が恐ろしい
もしも、『閃光』そのものの速度で移動できるのであるならばパワーと技能が上回るレイヴンでもスピードで手も足も出ない
「我、魔王家第七王子『白夜の処刑人』パニッシュ 今ここに反逆者を裁くために力を振るおう」
レイヴンの頭上で、そう宣言するように叫ぶとパニッシュはその輝く魔力を手に持つ短剣に込める。
「『フラッシュパニッシャー』!」
短剣を振り払うとそこから光が一線飛び出した
視界に飛び込んでくる光はレイヴンの体を切り刻む
「チクショッ!やめやがれ!!」
血を流しながら空に浮く男の元に跳ぼうと身を躱す
そして、脚を踏ん張り 高く跳んだ
「『アナザー.ロンリー.ナイト』」
だがその時、視界が一瞬にして闇に包まれた
「光の次は闇かよ!?」
閉ざされた視界の中レイヴンは上へ上へと上がっていくが一向に闇が晴れずそのうち上昇が止まる
「『八咫烏』!」
体が重力によって落下しようとしたそのとき レイヴンの背から漆黒の翼が生え出してきた
それはここに来るまでの空港で撃破し、自らの体としたクロウの能力である。
レイヴンは闇の中でそれと同じくらいに黒い翼を羽ばたかせながら敵の動きをその五感を使って感じ取ろうとする。
「厄介だな、今オレがどの程度の高さにいるのかすらわからねぇ 地面がどこにあるのか知ってなくちゃどんなに動きの素早い鳥だろうと着地はできない」
同じ位置に居続けるのは危険なので少しずつ高度を下げていく、しかし、さっきは思いっきり跳んだのでそのスピードでは下につくまでには結構時間がかかってしまうだろう。
「『フラッシュパニッシャー』!」
闇の外から聞こえるその声は、その攻撃より遅れて耳に届いた。
「なに...!こいつは?」
光の一閃がレイヴンを切り裂く
しかし、体にそれが当たるまで魔力の気配も光すらも感じる事ができなかった それはこの不自然に現れた闇の霧の効果なのか
「痛っ......てえ!」
腕や脚に深めの傷を受けながら地面にフラフラと落下していく
落下の最中も閃光に身を斬られ傷が続々と増えていく、そこまでしても自分の体から出る血の色さえも認識できないほどに闇は深かった。
「クソッ!クソッ!クソッ!」
攻撃を受けて最終的に行き着いた場所は地面だった 地面に足が着く頃には攻撃が止んでいたが、今度はこの闇を発生させた者がここで待ち構えているはずだ レイヴンは神経を鉛筆の先のように尖らせる。
「おい!シン!お前だろう?この闇を発生させたやつは!」
レイヴンは闇に向かってどこにいるとも知らない敵へ叫び掛ける。
「『極夜の罪人』お前はそう呼ばれてたよなあ!?お前は弟のパニッシュと行動を共にしていた この闇を発生させたのはお前なんだろう!?シンよ!」
言葉での返答はなかった
しかし、目の前に突然人の存在が現れる
「そうだ」
その手にはパニッシュと同じ型の短剣が握られていて それをレイヴンに向けている
この男こそがパニッシュの一つ兄の男 魔王家第六王子『極夜の罪人』シンであった。
「また、突然!」
レイヴンはその出現に慌てて跳び退く
だが、少し離れただけでまたシンは闇の霧に姿を眩ませた。
「ハァ...ハァ...チクショウ」
目が見えないというこの状況はまるで 猛獣の檻の中に閉じ込められているようだ
どこから襲って来るとも分からない恐怖に神経が高ぶっている。
いきなり、脇腹に鈍い音と鋭い痛みが突き刺さった
「ぐえ...ッ!?」
触れて確かめるまでその痛みの正体がわからなかった
それはナイフだ、長めの投げナイフが横っ腹に刺さっている
その投げナイフには魔力が込められていてレイヴンの『武装』で吸収する事ができない
内臓まで達しているわけではないが引き抜くと血が止まらなかった。
「血は『武装』で止めるとするが...今の正確な攻撃...あっちからはこちらの位置が分かっているみたいだな そして、こっちから反撃する手がないとすれば...」
鋭い5つ程の痛みが全身を駆け巡る
歯を食いしばり、腹に手を当てた。
「一気に投げて来やがる...」
腹にダーツの針のように五本のナイフが突き刺さっていた。
「動き回らねえと いい的になっちまう!」
そう思って走ろうと地面から足を浮かせた瞬間
「いギッ!?」
アキレスにナイフが刺さる
バランスが崩された。
「嘘...だろぉ!?」
倒れこみながらそんな言葉を漏らす
恐ろしいほど攻撃が正確だ
まるで目の前で投げているかのように当たる
いや、実際そうしているのかもしれない
しかし、この闇の中ではそれを確かめるすべは無い
「『硫炎』!!!」
いや、確かめるすべが一つあった
レイヴンは両腕を地面で擦ると緑色の炎を発火させた
火のついたその手を合わせると 掌と掌との間で魔力同士がぶつかり融合しあいその力を増幅していく。
「そして!『穢れた翼(アシッドスカイ)』」
背中に再び漆黒の翼が出現した
緑色の炎と漆黒の羽がレイヴンの肉体で交差する。
「合成魔術!『武装炎翼』!!!」
三人分の魔力が背中に集中する、黒い翼は緑色に燃え上がりレイヴンを妖しく包み込む
「この闇ごと周辺を吹き飛ばせばお前がどこにいようと関係ねえよなぁ!?」
目が本気だった
レイヴンの奥底に潜む残虐性がその表情に浮かび上がる
戦闘生物としての本能が爆発する。
「くらえ!」
暗闇を照らすように
さらに闇を深めるように
その闇を自らの体に取り込むように
レイヴンが解き放った力は 溶かし、腐らせ、呑み込んでいく
辺りを燃やし、その炎は物質にまで感染しながら溶かす
その効果は最小限のエネルギーで最大限の破壊を見せた。
「ハァ...ハァ...ハァ...」
魔力を一気に放出し、レイヴンはその疲労に息を切らせる
「おいおい...ここらを焼き腐らせるつもりで撃ったぞ?オレ...」
だが、そこまでやったのに、それほどまでのパワーを使ってもこの闇は晴れなかった
眼前にはどこまでも続くような闇が広がるばかり
軽く絶望していると
またもや鋭利な痛みが突き刺さる
「ぎぃぃっ...ああっ!」
今度刺さった場所は眼球だった
当たるその瞬間までそこに存在することすら感じる事ができない
「うう...え、煙幕を貼るだけの地味な能力だと思ってたら...意外とやるじゃねえか...この闇の中では魔力やら気配まで遮断されるのか...」
ナイフを引き抜きながらレイヴンは独り言のように喋る
息を整えるためか 地面の振動を感じとって敵の居場所を知るためかレイヴンはその場に手を突きへたり込んだ。
「諦めの境地か?レイヴン」
その時背後から声がした、高くはないがよく通る男の声だ
反射的にレイヴンはそれに向かって腕を突き出すが、それは するりと躱された。
「この暗闇『アナザーロンリーナイト』の中では俺が支配者だ 逆らうことは許されない」
そう言ってレイヴンの目の高さまで腰を屈めるとゆっくりと味わうように短剣を胸に差し込んできた。
「...分かるか?今 俺の剣はお前の心臓に触れている...あとちょいと力を込めるだけで心臓に穴が空き いとも簡単に命を奪い去れる」
「やってみろよ ただしお前があとほんの少しでも動いたらそのマヌケな顔面に拳ぶち込んでもっとブサイクにしてやるからな オレは0.1秒に10発は殴れるぜ...!」
「試してみるか?」
「やってみろっつってんだろ」
一触即発の空気をレイヴンは自ら破っていく
拳を握りこみそして 殴りつける
「こいつ...なぜ地面を...?」
レイヴンはなぜか、その拳を足元に叩き込んでいた
ズグリ...と胸に短剣が差し込まれていく
「いくぜ、後悔はもう遅え」
今まさに心臓が突き刺されているにも関わらずレイヴンは口の側を歪めながら笑う
服の胸元はジワジワと血のシミが広がっていく
「...こ...れはッ!」
地面がボゴン!と鉄の板を曲げたような音が出ると 盛り上がった
「さっき撃った『武装炎翼』...全てではないがオレ達の足元に『武装』して仕込んどいた さぁ、吹っ飛ぶぜ」
空海が岩を突き破るとそこから懇々と温泉が湧き出た と、いう逸話がある
この攻撃はまるでそれであった
地面の亀裂から破壊的な波動が湧き出る
それは殺意であり敵意であり そして、絶望でもある。
「...お前、どうなるかわかって...グアアァッ!」
台風に巻き込まれた木のようにシンの体が根こそぎといった感じで吹き飛ばされていく
『硫炎』に飲み込まれ『腐敗』させられ溶かされる そして、その痛みは『武装』によって体に深く刻まれる
「熱ッッッ!!!!」
自分の足元で爆発を起こしたのでレイヴン自身の体も焼ける
「熱いけど...お前をぶっ倒す為ならこんくらいどうってこと...ねぇぜッ!!」
この熱気に押されて闇の霧は消え失せていく
火だるまになった人影が暴れるように転げ回っていた。
「その炎...消す事はできねぇぜ お前の体そのものに炎を『武装』させといたからな炎が体の一部となっている」
「うぐう...あぐああ!!」
「そして、こいつで終いだ!」
苦しむ弟にトドメを刺すためレイヴンは魔力を拳に込める。
「『フラッシュパニッシャー』!!」
しかし、背後に閃光が迫っていた。
「チィッ!」
レイヴンは慌ててその光を飛び避ける
地面に当たった閃光はコンクリに深い傷を刻んでいた。
「やれやれ、シン 魔王の息子としてお前は弱すぎる ぼくの兄として恥ずかしくないのか?」
声を荒げながらパニッシュは兄であるシンに近づいていく
そして手をかざすと掌から出る光が燃えるその体を囲んでいく
その光はシンの体を包む炎を取り除いていく
水を吸い取るスポンジのように炎が光に吸収されていった。
「う...ううう...」
「立て、レイヴンを殺るぞ」
「う...分かったよ」
体の中から燃やされ溶かされたシンは血を吐きながらゆっくりと立ち上がる
「...すまん...もうヘマは踏まない...」
「フン、当然だ」
それをじっと見ながらレイヴンは考えを巡らせていた
シンを仕留めてパニッシュとの1対1に持ち込もうとしていたが 思った以上にパニッシュの対応が早く仕留め損なってしまった
これではまた2対1の不利な戦いに戻ってしまう。
「こんな時におっさんがいてくれたらなぁ~」
「「処刑執行だ!!」」
悩むレイヴンに二人の狂気が迫る
その時、レイヴンの頭上を一つの人影が飛び越えた。
「『龍舞脚』!!」
虚を突かれた二人の魔族は咄嗟に身を翻す
外れたその人影は蹴りを地面にくらわせ地面を破壊し 砂埃を巻き上げた。
「大きな音がしたから来てみれば...またあんたと出会うなんてね...」
「リリィ!!」
「さっきぶりね レイヴン」
黒髪をなびかせてリリィは大きくへこんだ地面の上に立っている
それを見てパニッシュは目を潜めた。
「そいつは...仲間か?『死神』ゼルクしか仲間にいないと聞いていたが...」
あちらではゼルクは『死神』と呼ばれているらしい
「ただの通りすがりよ、でも、私達の街でこれ以上暴れるっていうのなら私は龍になるわよ」
目が見えていないはずのリリィだが その大きな両目はしっかりと敵を見つめている
「仕方がない、シン...こいつを片付けておいてくれ ただの人間だからといえ油断はするな レイヴンはぼく一人でも充分殺れる」
「了解だ」
そうしてシンとパニッシュは二手に分かれ それぞれにゆっくりと近づいていく。
「『フラッシュパニッシャー』」
「『アナザー.ロンリー.ナイト』」
閃光がレイヴンに襲いかかり
暗黒がリリィを包み込む
白夜と極夜の兄弟はその力で光を蹂躙した。
To Be Continued→
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女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
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