世界を半分やるから魔王を殺れ

KING

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第23話「極夜の罪人」

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「女...お前は人間か?」
「ええ、そうよ」
この二人のファーストコンタクトはこの一言だった
光を塗りつぶすような暗黒の霧中 彼女は魔力を漲らせ闇と対峙している
心細くも怖くもない
ただ目の前にいる有害因子の除去のみが現在の思考だ。
「人間が魔力を扱えるとは...これまで生きてきて5番目くらいには驚いた」
「そう、私は特級魔族と対峙してるこの状況からして驚きだけどね」
言葉を続けながらリリィは膝を股の高さまで上げ、爪先に魔力を集めた
「正気か?」
「あら、戦闘中スカートがめくれる心配でもしてくれるのかしら?」
「はー...分かった やってやる」
懐からナイフを取り出すと腕を伸ばして指で距離の大体のアタリをとると ばら撒くように投げつける
「シャッ!」
空を切りながらナイフの切っ先はリリィの喉元を狙い飛ぶ
彼女はその風切り音を聞くと脚を鞭のようにしならせた。
「リヤャアアッ!」
リリィの蹴りがナイフを撃ち落とす
脚とナイフとのぶつかり合いで火花が散るが その火も闇に吸い込まれて消えていく。
「な...今の正確な動き...」
表情には出さずシンは地面に転がったナイフに驚く
「危ないわね 私のお肌に傷がついたらどうする気よ」
その声を聞きながらもリリィは自らの身体の心配をしている この感じから余裕を相手に見せつけようとしているのが分かる。
「見えているな?」
「ふっ...見えてはないわ最初から【聞いてる】のそして感じている」
耳をつまみ上げるようにして 自慢するように笑みを見せる
「なるほど」
リリィの鋭い五感は闇の中のナイフの動きを掌握していた
視界をシャットダウンする『アナザー.ロンリー.ナイト』であるが 元々盲目で、さらに他の感覚が鋭いとしたならば
この能力からしてリリィはかなり相性の悪い相手と言える
「心音...速くなってるね、もしかして焦ってる?」
(こいつ、心臓の音までも聞けるのか)
正直シンはリリィに舐めてかかっていた 相手がいくら魔力を使えるとはいえ所詮人間 誉れ高き魔王の血筋である自分の足元にも及ばない存在だろう そう思っていたのだ
だが、それは大きく間違っていた こいつはこの女は強い これまで見てきたどの虫ケラとも違う力 
頭には久しく忘れていた 命のせめぎあいに起こる高揚が蘇る。
「いいや、興奮している 久しぶりの好敵手だ 貴様を女とは思わない 1人の戦士としていざ尋常に...」
「『龍舞脚』!!!」
「うオッ!」
話の途中で問答無用で手加減なしの上段蹴りが飛んできた
それをマトリックスのように背を反らせて躱し そのままバク転と身のひねりで距離をとる
「話が長い!」
「ふふふ、面白い!」
腰に添えた短剣を抜き取りリリィの元に走りこむ
シンはこの闇の中でも視界そのままに行動ができる
迷いのない一走で一気に距離を詰めた。
「ハァアッ!」
シンの斬撃はリリィの頰のすぐ横を通り髪の何本かを散らせた
素早く身をくねらせるとシンの側方に立つ
「髪は女の命よ・・・」
リリィは相手の腕を掴み
そこを支点として勢いを付け、パッと手を離しバレリーナのように回転して脚を撃ち込む
「大事にしなさいよッ!」
ブォン!!!と木刀を降ったような巻かれた音が立つ
「ふん!」
胸の高さに放たれた蹴りに素早く反応すると両腕をクロスさせてクッションのように柔らかく蹴りの衝撃を吸収する
「ぬっ!?」
しかし、シンの体は後ろに滑っていった
パワーを吸収しきれず後ろに流されたのだ
このか弱そうな少女からなぜこれだけの力が出るのか...シンは腕のしびれを感じながら考えていた。
「『龍舞脚...鉤爪』!!」
離れた相手にリリィは高く飛び、両脚を揃えて空中で一回転する。
「猿の如くとはこのこと...」
片腕を頭の上に挙げ大量の魔力で蹴りの威力で圧える
しかし、リリィはシンを下に見据え 不意に笑った。
「いいえ、龍の如くよ」
体が地に埋まるかと思う程の衝撃が叩き落とされた。
「お...お なんだこれは...」
シンの腕にヒビが入る
そして力が抜けていくのを感じた
「『生命吸収(エナジー.ドレイン)』!」
いや、抜けていっているのは力ではなかった命が...生命エネルギーである魔力が吸い取られているのだ
リリィの龍の爪ような蹴りがシンの脳天に腕ごと打ち降ろす
「うりゃぁぁああ!!!」
線の細い女の体からは想像できない程の衝撃がシンの体を伝い地面に亀裂を走らせる
「脳筋か、この女」
なんとか腕を払ってリリィを撥ねとばすが衝撃を地面に逃す着地法を心得てあるようで 物音一つ立てずに地に足を付けた。
「失礼ね 力の効率的な使い方を知ってるだけよ」
トーン、トーン、とリズムをとるように跳ねながらリリィは隙を伺う
何も見えないというのによくここまで動けるものだ と、シンは敵ながら感心してしまうが
すぐにいつもの冷たい感情に切り替える。
「ふぅ~~...」
シンは深く、息を吐き銀色の短剣を構えた
「オレは接近戦が苦手だ」
「はい?」
いきなり何を言いだしたかと思えば突然の苦手宣言だ
リリィはこの言葉の真意を掴めずに困惑する
一つ考えられるとすればただ相手を油断させるためのフェイクか
しかし、プライドの高い魔族がただそれだけのために自分のことを下げて言うだろうか? いまいち腑に落ちない。
「だが、少なくともお前よりは強い」
「言うわね」
なるほど、魔族なりの遠回しな勝利宣言のようだ
ただ、この目つきは明らかに本気で言っている リリィの目が見えていればこの目に怯んでいた事だろう。
「悔い...改めよ」
辺りに散らばらせていた闇を剣に集める
「さすらば救われん」
天の国からの使者のような事を口走ってはいるがどう見てもこの男は悪魔の仲間だ 黒衣に身を包み 腰に据えた短剣で命を狩ろうと伺っているのがそうとしか思わせない
不意にシンは身を揺らす
よそ風に吹かれた草木程のなんともない揺れだったが 逆にリリィの感覚がこの動きを攻撃前の初期微動だと思い込み フライング気味に飛び出してしまった。
「あ、やっちゃった?」
気付くが今更遅い、と、言う事でリリィは更に強く 足が地面にめり込む程の力で蹴り 加速する 思い切りのいいこの作戦は吉と出るか凶とでるか
「来い、闇に沈めてやる」
「うおおおおオオッ!」
蹴りと闇塗りの短剣が交差する
「くっ...」
一つの影が交差したその場から逃げ出す、頰から出血している 切り傷のようだ
回転とステップを駆使して跳ねるようにそこから退く
気配を感じ取る事で攻撃を何よりも素早く感知できるリリィだが今度は不覚にもに攻撃をくらってしまっていた。
「はぁっはぁはぁはぁ...」
「悔い改めよ」
「ああっ」
シンは また懐から投げナイフを取り出す
「天の国は近づいた」
「マズっ...い!」
シンの背後から濃度の高い闇が発生する 黒過ぎて逆に純粋に見える程だ
それがナイフに絡みつき、この世界の光から包み隠した。
(気配が...消えた!?)
飛び跳ねながら違和を感じ、ほんの少し動きが緩んだ
その瞬間脚に激痛走る
「ふ...わぁッ!?」
筋肉繊維が切れたのか力が抜け、着地に失敗し地面をゴロゴロと転がってしまう。
「『闇の中で躍り狂え(ダンサーインザダーク)』」
ククク...と喉に引っかかるような笑いを見せると、服が翻るほどの勢いでしゃがみ込み そこから飛び出た仕込み投げナイフを空中にばら撒いた。
「抵抗するな、死ぬ程殺してやるからな」
宙にばら撒かれたナイフは当然地面に向かって落ちていく
だが、シンは全てが地面に触れる前に手に取り 投げつけた 全てに闇が絡みつき、そこから漏れ出す気配は空気の揺れ一つ無く 一流の殺し屋の足音よりも静かだ。
「とああああ!!『龍舞脚!蜷局』ッ!」
本能的に危険を察知したリリィは地面に手をつき、逆立ちのブレイクダンスのように足をグルグルと旋回させた
向かってくるナイフは旋回する龍の如き力に弾かれて地面に落ちていく。
「う......ぎぁ...」
しかし、全てを弾くことはできず 腹に何本か突き刺さる。
「フフフ...踊れ踊れ」
廻る力が空回りし、糸の切れたマリオネットのような 歪んだ情けない動きをしながら転がり
この後フラフラと土と血にまみれながら立ち上がる。
「...あ~もお!痛い!!ホンット最悪だわ」
致命傷かと思われたが彼女は割と元気していた
リリィは青筋を額に浮かべながら髪をクシャクシャに振り乱す 怒りの意思表示をする余裕があるところを見るとまだ闘えるようだ。
(ん、あの女の傷が消えている?)
必死の表情をしたリリィの頰をじっと見ると先程切ったはずの8cm程の傷が何事も無かったように消えていた。
「い...痛ってててて...」
腹に突き刺さったナイフに手を添えると息を止めて一気に引き抜く
それなのに血は吹き出ず、破れた服の隙間から覗くのは傷一つない少女の肌だけだった。
「なるほど、こちらも貴様に能力の真価を隠してはいるが 貴様も隠し事があるようだな」
「隠してなんかいないわ、あんたの理解力が低いだけじゃない?」
「言ってくれる」
リリィの可愛らしい挑発にニヤリと笑い、牙を見せつける 黒い微笑みだ
するとシンは袖をめくった、そこにあるのはレイヴンの腕にも付けられていたドクロ型の腕時計型端末だった
その腕時計型に指紋を認証させるとキーボードのようなホログラフィーが出現する、何かを打ち込むとドクロの空洞の眼から光線が発された。
「確か...人間の世界にはこの技術は無かったはずだな」
光が何かを形作っていく、その形は
「そ、それ...ナイフ...よね?」
ナイフだった、しかもさっき全て投げつけ終わった投げナイフと瓜二つのナイフが立体となってシンの手のひらの上に出現した。
「そう、我々は【リアルプリンター】と呼んでいる 物の原子、分子など物の核となる構造をデータとしてこの腕時計型の中に インプットできる機械だ そうすればその後は原材料を空間圧縮の技術でこの中に保存、指令を打ち込むだけで指定した物を作ることができる こんなふうな単純な構造のナイフならほぼ無限に作れるぞ」
それは人間の文明とは比べものにならない超技術によって作られた4次元の創造物だ
次々と吐き出すようにドクロはナイフを作り続ける
「ほんとデタラメね人間からは考えつかない技術だわ でもこんな血肉踊るような戦闘にハイテクは不要なんじゃない?」
そう言うと舌を出してイタズラ好きのガキのように笑ってみせた。
「野蛮にいきましょうよ、野蛮にね」
魔力で全身をくまなく強化すると脚の可動域を広げるため 身につけているチャイナドレスの裾をビリビリと破り、ワイルドなミニスカートにしてしまう。
「『ダンサーインザダーク』...」
その呟きと同時にナイフが黒衣を纏う
また闇を張った途端にリリィの感覚からナイフの存在が消えて無くなった
「その能力の攻略法ならもうできてる、何度も同じ手をくうほど私の勘は鈍くないわよ」
空気を蹴り上げるように、脚を天に向けて大きく上げ
そして、強く振り下ろす
「リャアッ!」
衝撃音が走り、辺りに砂埃やコンクリートの小さな破片が舞う。
「やはり人間 考える規模の小さい こんな対策すでに予想済みだ!」
指の股にナイフを挟み込み、腕を振るのと同時に離し 8本を正確そのものの狙いでリリィに放る。
「良し!」
リリィは聞いていた、ナイフの移動音ではなく ナイフが砂の粒子や地面の破片に当たることで響く反響音の方を
パチパチパチと誰にも聞こえないような小さな音だがその天から授かった感覚の鋭さはそれを耳で捉え空気の震えを肌で感じ、正確な位置を記憶し、どのナイフからも傷を受けない場所へステップを踏んだ
ナイフの何本かは頰をかすめて髪を散らせていくが肉体的ダメージはゼロに等しい。
「かかったな」
そこには先回りをしているシンの姿があった
考えてみれば一つだけ綺麗に一本もナイフの当たらない場所が残されていたというのが不自然だ、つまり、このリリィの立つ場所は初めからシンの思想する通りに誘き出された意図的な逃げ道という訳だ
歴史上強い城には一つだけ侵入経路が用意されていたらしい、それはなぜか?
そこに来た敵を一網打尽にするためだ。
「シッ!」
下から上へ突き上げる軌道で振り上げられる
「『龍舞脚、竜突』!」
が、寸での所で魔力を込めた強力な蹴りが短剣を抑え込む
リリィの使う『龍舞脚』とは、体の捻りや踏み込みの力を柔らかな動きによって一点に集中させ、その威力を最大限に高める蹴り専門の武術である その性質上連続攻撃に向かないが代わりに一撃ずつの力は魔族にダメージを与えられる位だ、それに魔力を纒わせれば鬼に金棒
リリィの一流アスリート並みの体幹と長い脚はこの『龍舞脚』を使いこなすのに最適の要素だ。
「ふんっ...んんん...」
「はぁぁぁああ...」
押し合う足と剣、その間では魔力同士のぶつかる紫色の火花、または稲光が散っている
互いの体には血管が浮かび上がり、押し相撲のように押し引きを繰り返す
「ヤァッ!」
リリィがその隙を付いて足を離してシンの側面に飛び込んだ
力を前に突き出し続けていて突然その相手が消えたのでシンの体制はぐらつく
「隙ありよ!『龍舞脚、竜突』!!」
さっきも使った『龍舞脚』での最も基本的な技『竜突』、真っ直ぐな槍のような蹴り方で脚に力を込めるのに最適な動きをする
それが、全くの遠慮無しでシンの顔面に迫った。
「フン!」
その時、シンは首だけリリィの方に向けると額の角でその蹴りを受け止めた
魔族の体の中で一番硬い部位、いくら強力な蹴りとはいえ傷の一つも付かない。
「硬ッッッたいわね!!」
攻撃が失敗した事を悟ると 勢いを殺さずそのままの力で角を蹴り、反作用の力に乗って後ろに飛んでいく
「ふぅ...認めるよ 女、貴様は強い 殺すのが惜しいくらいにな」
リリィは足元の砂をワザと巻き上げながら荒々しいブレーキをかける
魔力で守られているため、靴には傷は付いていない。
「今のは仕留め損なったけど...今度はブチ込んでやるわ そのマヌケヅラに!!!」
ダン!と足を地に打ち付けカンフーとも空手とも とれない独特の舞の動きを始める
すり足かと思いきやリズミカルなタップダンス、音がやんだと思うと辺りを駆け巡りながらバク転宙返りを繰り返し、時間を追うごとにどんどん動きが強く速く激しくなっていく
仰々しくも美しく繊細 一つ一つの動きは天に昇る龍が舞っているような神々しさがあった
その光景をじっと見極めるシンはどんな感情なのだろうか、表情一つ変えず目で追っている。
「まだまだ!!力を溜める!」
一歩ごとにリリィはスピードが上がっていき今はもう人間の目では到底捉えられない速度まで上がっていた
それに伴うのは一撃必死の底知れぬパワー それは一歩を踏むたび地面に大きなクレーターを作っている。
「くるくるくるくると...目が回りそうだ...止めてやろうか...息の根ごと...!」
上がり続けるリリィのスピードの だがしっかりとシンの視線は急所にロックオンされている、隙を見せるか太刀筋に入ればたちまち体が二つか三つくらいに切り分けられてしまうだろう
しかも『暗黒』の魔術『ダンサーインザダーク』は包み込んだものの存在を外界から完全にシャットダウンしてしまう 砂を巻き上げて探知できるとしても聞き落としがないことも無いだろう不安要素は幾らでも湧いて出てくる。
「もう悩むのはヤメにするわ 私の住むこの街を荒らした魔族をぶっ飛ばす ただそれだけ」
力は充分溜まった、後はそれをぶつけるだけ
「来るか?強き女よ」
「ええ、ダンスのお相手、願えるかしら?」
「フッ...受けて立とう...!」
絞られた雑巾のように腰を捻り
そこを基盤として生じたバネのような瞬発力で敵の眼前へ踏み込む
「速いッ」
速いと感じるが見えてないわけではないようだ
精神の加速状態
短剣を振りかざし、リリィめがけて打ち降ろす
「『龍舞脚』!」
だが、天翔ける龍の脚力で地面を蹴り上げ、身を浮かせた
シンの頭上に佇み、脚に溜めた力を標的に向けて解き放つ
「『龍星群』!」
一度 音がやんだ 何も聞こえず頰を撫でる風がピンと張りつめたように鋭く
感覚が目の前の闇に迫って行くような緊迫感 スリルに身を焦がし、攻撃はシンの脳天に投下される。
「くっ・・・間に・・・合わんッ!」
剣で防ごうとしたが あいにくその剣は振り下ろされたばかり 姿勢を戻して剣を構え、今まさに頭上から迫り来る脚にぶつけて防御するなんて暇はない。
「ならば、角だ!」
首に力を入れ 脚に頭突きをくらわせ力を殺す
龍の牙と悪魔の角がぶつかり合う
ゴォンと厚みのある鋼鉄の壁同士がぶつかったような鮮烈な響音が辺りを揺らした。
「折れろォォォ!!!」
「小娘が!この魔族の誇りである角を 折れるというのなら!!やってみろ!」
咆哮するように出した声と共に角でリリィの脚を押し返す
だがとその時、2人の間からピシッというしわがれた音が聞こえてきた
「「う・・・ッ」」
2人ともが同じ声を発する
リリィの最高潮に達した威力の『龍舞脚』は有り余るその力で遂に魔族の角に亀裂を入れた、その亀裂は長く伝っていき、シンの額にまで割れ目を作った
しかし、その力の代償に少女の身体は悲鳴をあげる
脚にヒビが入って そこから血が垂れていた
折れかけの割り箸のように皮膚がささくれ立つ。
「オオオオオオォォォオオオ!!!」
「ワアアアアアアアア!!!!」」
2人の叫びが空気に触れて周りに反響する 力のぶつかり合いの終わり
空中に体の一部がトんだ。
「あ・・・がぐあぁあ!!」
それが落下するとやけに重い音を立ててコンクリートを貫いて突き刺さった
リリィはそれと同時にその「両脚」で着地する。
「勝負は決したわ」
シンの角が生えていた場所から血が噴水のように吹き出す
魔力の管理機関を失った体から闇の波動が辺りに飛び散り全てを暗黒に染め上げる
「ぅおおああ!!だ、ダメだ ここを・・姿を隠してここを離れなくては・・・」
漆黒の粒子がシンの存在をもみ消していく リリィの耳にはザザザとジャミングされているような、TVの砂嵐のような音が響いていた。
「あ・・・なんだ?」
突如シンは膝を折って地に伏した
体を包む闇のオーラも何処へともなく消え失せていく
「『エナジー・ドレイン』さっきの一撃であんたから相当量の魔力を奪わせて貰ったわ」
そういうリリィの体はさっきよりも力にあふれている
魔力を着飾るように発生させると クルクルと身を回し 蝶の舞・・・いや、龍の舞を踊り始めた。
「人間に負ける・・・とはな」
悟ったように目を瞑ると血にまみれながら諦観のセリフを吐く
生への執着はなく今すぐにでも死を受け入れてしまいそうな危なげな表情をしていた。
「以外と素直なのね、もうちょっと粘ると思ったんだけど」
「・・・これまでにオレはいくつもの罪を重ねてきた・・・いつ裁かれても文句は言わない」
「罪?」
不意にリリィは舞を止めて首をかしげる
その問いに今 命を終えようとしている男は静かに口を開いた。
「オレも兄・・・レイヴンと同じで人を殺すのが嫌いだった・・・」
「嘘・・・」
急な告白にリリィは眉間にしわを寄せて思わず相手の台詞を否定してしまう。
「ふふ・・嘘じゃないさ だがな、人間を殺す事を躊躇するような奴は魔界では異端児扱いだ、そんな事をオレ達の親であり絶対の支配者の魔王が許すはずがない・・・あの人の抑圧の力は異常だ オレの否定を跳ね除けて感情を抑え込み いつの間にかオレはただの殺戮マシーンとして生かされていたんだ」
そう語る表情は氷を当てられたように冷え切っている トラウマを思い出す時のような心に食い込む牙の記憶に恐れを抱いていた
「酷い・・・それが親子での在り方なの?」
リリィの心にもその這いずるような不快感が伝染し、表情を曇らせた。
「魔界では親子だろうと目の前の生き物はただの他人だ 愛情やら友情なんかちゃんちゃらおかしい世界でオレ達は生きてきた」
口を動かしている中でシンの瞳から一滴の液体が頰を伝い、地面に落ちた。
「それなのにレイヴンは・・・世界をオレ達魔族の支配から解き放つため 何の臆面も無く魔界を裏切ったんだ、こんなのあるか?それにさらに口惜しかったのはその勇気ある行動に【殺意】が湧いたって事だ、本当にその時は恐ろしかった オレの中で父の意思は強く根付き オレの感情を全て【殺意】に変えるようにいつの間にか【教育】されていたんだ」
それを聞いてリリィもゾッとする、人の心をそこまで容易く変えてしまう魔王のカリスマと底知れなさはとてもじゃないが太刀打ちできるような気がしなかった。
「もう・・・そんな苦しい人生はヤメにしたい、いっそ首を刎ねてくれ 真正面からオレを打ち倒した君になら人間に殺されるからこそこれまでの罪を清算できる、犯した罪は自ら返ってくる、因果応報というわけだ」
「いいのね?」
「ああ、やってくれ オレの魔力が復活すれば また君を襲ってしまう」
リリィは近づいて脚を持ち上げた
シンは目をつむったまま眉をピクリとも動かさない 
肝の座った死刑囚のような達観した佇まいをしている。
「おやすみなさい 哀しき罪人・・・」
脚がシンに触れるのと少し後ろでレイヴンのドームが崩れるタイミングは同時だった。

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