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第25話「死闘×奮闘」
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中国のとある郊外
寂れてしまった街の更にその奥
そこは人っ子ひとりいないはずだが異様な空気が充満している。
「いいかお前達!お前達はこのわたしの腕であり脚であり目である!わたしに使われ、一つの目的を速やかに遂行するのだッ!」
一人の魔族が声を張り上げて言った
二階建ての屋根から見下すは人!人!人!
人の群れだ 誰一人として頭から角が生えていない 一人残らず人類だ
この少人数化の進んでいる人間界のどこにこれだけの人数が潜んでいたのかと思うほどの量で並んでいる
精密機械で並べたのかという程にきちんと1mmのズレもなく縦横に並べられている人達はチェスの駒を連想させた。
「敬礼ッ!」
その声が眼下の人間に届くと0.1秒のズレもなく同時に頭の上に手を挙げ、敬礼のポーズを取った
人の顔には意思が見受けられず まるで操り人形
独裁主義下に置かれた人間の表情もそれである。
「行けッ!裏切り者を、そして死神を殺すのだ!」
声に反応すると無言のまま どこかへ走り去り 散って行く
将棋倒しが起こることなくその場から誰一人残らず消えていった。
「・・・さて、レイヴンよこのわたしの駒達から逃れられるかな?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ウチで休憩してく?」
「エッチな意味で?」
「蹴っ飛ばすわよ」
闘いで服も体もボロボロで埃、砂まみれになった3人はリリィの無駄にデカイ家で休息をとることにした
今言った3人は
ご存知レイヴン、盲目の少女リリィ、そしてリリィに負け 改正した魔王家六男シンの3人だ、なんだか全体的に黒い
家に着く、この辺まではゼルクとホークの戦闘の余波は届いてはおらず無傷なようだ
ホッと胸をなでおろすと安心しきった心持ちで玄関の戸を開ける。
「た~だいま~っと」
靴を脱ぎながら帰りを伝える
玄関からして日本のマンションとは比べ物にはならない、広く美しい伝統工芸を思わせる なんなら靴箱に住んでもいいほどだ。
「しゃがんで靴脱ぐなよ スカート破れてんだから 下着が見えそうだぜ」
「あ、忘れてた・・・」
今更思い出して白地の下着を隠すように服を引っ張る
戦闘中破いた裾はマイクロスカートと呼ばれるものと同じほどの丈になっているので少し動くだけで下が見えてしまう
流石にモロで見られたのは恥ずかしかったのか 少し頬を染めて照れ隠しのように「えへへ」と笑っている。
「シンもパンツが見えてるって注意くらいしてやれよ ずっと近くにいたんだろ?」
紳士なのかスケベなのかよくわからないがレイヴンはシンの肩を小突いた
初めて兄弟らしいところを見せたが
今まで殺し合いをしていたとは思えない馴れ馴れしい態度だ。
「フン・・・」
レイヴンに妙な茶化され方をしてムカついたのか少しだけ魔力を使う
『闇』を少女の尻元にモザイクを入れるように出現させ、下着を隠す。
「世界一無駄な魔力の使い方だな・・・」
「私で遊ばないでよ」
笑いながらレイヴンも靴を脱ぎ、玄関を上がる
「シンは、上がらないの?」
「・・・ん」
シンだけは玄関に腰かけたまま靴を脱がず腕を組んで動かない
「そう」
無口だがリリィは心臓の音と声のトーンの聞き分けで相手が何を言わんとするか理解する
廊下を進んでいき居間に入るとリリィは違和を感じた。
「お母さんが・・・いない?」
聞き耳を立てるが家のどこからも人の気配がしない事に気づく。
「どっかに出かけてんじゃないか?」
「いや、私が家にいない時お母さんは家からは出ないわ だってお父さんの世話が・・・」
言いかけて言葉を止めた
「そういえばお父さんの気配もしない」
「そりゃあ妙だな」
リリィの母と父は魔力使いだ
しかし、過去の戦闘で母は戦闘力を父は人間としての機能そのものを大きく損なってしまっている
母のシズクはいいとして 寝たきりになっているはずの父マクシムが外に出られるはずがなかった
急いで寝室に駆け込み、布団をめくる
「お父・・・さん」
そこは もぬけの殻 マクシムの姿も残り気配すらも無かった。
「何があったんだ・・・」
レイヴンはベッドの布に少しだけ付着した黒い何かを見つける 暗くてよく見えないが何か液体のようなものだ
リリィは顔を布地に近づけてその液体の匂いを嗅いだ。
「これ、血・・・だわ・・・」
顔が引きつる
カタカタと体を震わせてどうしたらいいのかと問いかけるようにレイヴンへ視線を向ける
「・・・・・探そう」
少し目には涙が見えたようだ
急いでレイヴン付き添いで外へ飛び出すが
「シン!シンどこ行った!?」
玄関にいたはずのシンの姿までも消えている
不思議な人間の消失は『現象』かはたまた誰かの『意思』によるものなのか。
「とにかく行くぞ!魔族の者の攻撃がもうすでに始まってんのかもしれねえ!」
誰もおらず広く感じる道路を走って行く
リリィは時折立ち止まって耳をすませるが誰の気配もしないようで 首を縦にふることはなかった。
「リリィ、お前の耳・・・どこまで探知できる?」
「これだけ静かな時なら200m先で落ちたコインの音だろうと聞き取れるわ、魔力で強化すればもっと先まで・・・でも今日はどこまでも静かすぎる・・・まるで時間が停まってるみたいに」
停止の世界
2人を残して世界は回る
でも、停まってくれていた方が良かったのかもしれない。
「暮れてきたな」
太陽が傾き、光が黒い雲を通り抜け、目には赤黒く映る
夕刻のこの地に何が起こったのか少しずつ2人は違和感の渦に巻き込まれていく。
「あ・・・」
「なんだ?」
「5人くらい人が近づいてくる」
「魔族か?」
「それはわかんないけど・・・とにかく5人 こっちにくる」
レイヴンも耳を使って探知してみるが何も聞こえない、ただ風が吹き抜ける音だけだ
感覚の鋭さはレイヴンも自信があったがリリィの五感はそれを軽々と超えていた。
「来た・・・」
「ああ、オレにも見えた」
道路の真っ直ぐ50m先、その細い路地裏から5人の男達の姿が覗いた
1人服が裂け、そこから血を流している 怪我人を担いで移動しているようだ。
「あ、た・・・助けてくれ・・・ますか」
近づいて来たその5人のうちの1人がこちらに駆け寄りながら声をかけてくる
必死といった表情で手を差し伸べられるのを待っているようだ。
「どうかしたか?」
レイヴンは返事をして駆け寄っていく
頭には角を見られて警戒されないようにターバンを巻いてある。
「あっちで 何か得体の知れないモノに襲われて・・・」
「魔族か?変質者か?」
「いいえ・・・わかりません」
息を切らせて命からがら逃げて来たといったところか すぐにでも手当てしないと怪我を負っている1人は死んでしまいそうだ。
「とりあえずその怪我してる奴をこっちに寄越せ 治すことはできねえけど 応急処置くらいはできるぜ」
「助けを求めといてなんですけど信用してもいいんでしょうか?」
「任せとけオレもそこの美少女も味方だ」
そう言って手を差し伸べる
目の前の男も背負った男をレイヴンに渡す時他の男達と目を合わせ、軽く頷いた
信頼されたようだ。
「ただし・・・」
その瞬間 怪我人の男の体が木の葉のように吹き飛ぶ
レイヴンの鋭い拳が男を殴り飛ばした。
「正義の味方だ」
「なァッ!」
リリィは突然の事に見えないその大きな目を見開いて驚く
殴り飛ばされた男とはというと ドシャッと音を立てて地面に落下すると動かなくなった。
「あんた・・・何を!」
リリィはレイヴンに掴みかかって問いただすがレイヴンの視線は彼女には向かず 並び立つ男達に向けられていた。
「なぜ・・・気付いた?」
そう聞いてくる男達の顔からは表情が消えていた
鋭く、何も感じさせないナイフのような眼をレイヴンに向けながら何やら構える。
「分かるんだよアーミー、隠しきれてねえオレへの殺意がな!」
「戦士としての勘か」
機械のように何もこもっていない声を発すると男達の手に半透明のエネルギーが集まっていく
固まって形を成していくとそれは『銃』になった。
「だが、お前じゃこの包囲網は抜けられんぞ 正義の味方!」
一斉に魔力製の『銃』の引き金を引き、ブッ放す
その銃はサブマシンガンに似ている。
「オオオッ!『武装壁(ウォール)』!」
魔力を地面に流し込んで形を成形、そして2人を囲えるほどの大きさの壁を作り出す
壁は魔力に守られ、銃弾程度の威力は難なく弾き返す。
「逃げるぞ」
「あ、ちょっ」
リリィを小脇に抱えると地面を蹴って半壊した建物の上へ飛び乗る
「なんなのよあいつら」
「オレの弟【アーミー】の能力だ」
弾丸は建物を貫通し、空を裂いてレイヴンの脳天を狙う
魔力のこもっていない物は魔力での攻撃に一切の抵抗力を持てない なので小さな弾丸でも硬い壁を貫通できる。
「話は後だ後!逃げるぞォッ!」
リリィを抱きかかえたまま屋根と弾幕の隙間を縫ってその場からスタコラと風のように逃げ去る。
「やはり能力は知れていたか・・・仕方がない わたしの能力は大規模だからな だが、知っていたところでどうすることもできないのが 我が軍隊『G.Iジョー』だ この街からはアリ一匹逃げることはできない」
5人は後を追うのを諦めるとどこかにその姿を消していく
一方アーミーの先手から逃れられたレイヴンは狭い路地にリリィとともに身を潜めていた。
「『軍隊』?」
「そうだ、奴はたった1人で『軍隊』を率いている」
自分の知るかがりの情報をリリィに伝える
今回の敵はこれまでと一味違うタイプのようだ。
「奴の能力発動条件は触れること 相手に触れて魔力を脳に流し込むことで自分の操り人形にしてしまうんだ」
「触れるだけ・・・」
「そう、あいつは自分の軍隊を持たない 現地で兵士の調達ができるからな ゆえに『無勢の将軍』と呼ばれている」
「中二病みたいなネーミングセンスね」
「しかもあいつの兵隊にされたやつから攻撃を受けるとこれまた奴の操り人形にされる」
「鼠算式に増えるって訳か」
アーミーの能力『G.Iジョー』は数で攻める能力 その包囲網はこの北京を中心にしてさらに広がりつつある
操るという能力は発動さえしてしまえばもう相手との強さの違いは無意味となり、いくら腕力で優っていても触れられるだけで負けだ。
「その鼠算に私のお母さん、お父さん、ついでにシンのやつも巻き込まれてるかもしれないのね?」
「おそらく」
「そりゃ厄介だわ」
その時背後から金属音が聞こえた
硬いものが跳ねているような耳に心地悪い音だ
音のする方に向き直って見ると
「しっ!手榴弾ッ!」
慌ててレイヴンは能力で壁を作り、奥に逃げ込む。
「ヤバい!足音がしなかった!あいつら無音で歩く方法を熟知しているわ」
背後で爆発音がしてコンクリートの破片が飛び散った
「まずいぞ、見つかっているということはここに人の波が押し寄せる!」
壁に腕を『武装』して体を上に押し上げる
狭い路地裏で銃火器を持った者同士に挟み撃ちされたらひとたまりもない
一旦見晴らしのいい広い屋上へ顔を出す。
「兵士一人一人の感覚や情報はアーミーに繋がってるからな あいつは1人で何千の監視カメラを有しているも同じだ」
「いや、もう来てるみたい」
屋上へ飛び乗ると同時に視界に飛び込んでくるはこちらを囲む人の円
1人残らずこちらに銃口を向けている。
「やるしかねぇッ!殺すなよ!?」
「あんたこそ!」
瞬時に決断を下すと2人は互いに反対方向へ足を踏み切った
無表情のまま兵士達はサブマシンガンを発砲
無数の弾丸が2人に襲いくる
だが、レイヴンは足元の鉄クズを腕に『武装』さらに魔力でその硬さを上げて弾丸を弾きながら操られる市民の懐に飛び込む
リリィは至近距離からの探知能力により相手の動きを空気の波紋で認識
そしてその鋭敏な感覚を魔力により強化すると目の前の12人の兵隊全員の筋肉の動きを掌握した。
「『武装拘束(バインド)』!」
「『生命吸収(エナジードレイン)』!」
魔力を込めた掌で相手に触れると足元の建物の素材が足を伝って全身を鎧のように包んだ
だが、その鎧は動かせないようで銃をも呑み込んでしまう
再び飛んで来た弾丸を躱すと2人目3人目と次々に相手を拘束していく
「こっちは完了!そっちはどうだ?」
リリィの方は足元に滑り込むようにスライディングして飛び込む
地面に手をつき、下半身を上に向けて逆立ちすると脚を広げて風車のように回転、周りの兵士を蹴り飛ばした
そしてまた弾丸の隙間を縫って兵士の元に走りこむ
その蹴りは兵士達からエネルギーを奪い取って その荒ぶりを鎮めていく。
「こっちも終わった」
足元には気を失った男達が倒れ伏している
「またどっか隠れねぇとな」
どこか身を隠すのに最適な場所はないかと辺りを見回すが少し探した程度で見つかるほど隠れ場はないようだ 物陰やらはそれこそ軒並み破壊されている。
「ちょっと待って そっちの拘束してる人達も解放しておきたいんだけど」
「どういうことだ?こいつら解放したらまた襲って来るぞ」
「・・・こういうこと」
リリィは拘束された『G.Iジョー』の兵士の前に歩いて移動すると脚を上げてパンっと軽い蹴りを当てた。
「おお、確かに その使い方があったか」
脚が触れるとみるみるうちに男達の体を操っていた魔力がリリィに吸収されていく
「これなら・・・オレの『武装』とリリィの『吸収』があればここを突破できるんじゃないか?」
彼女の能力『生命吸収』は乾いたスポンジのように瞬間的にエネルギーを吸い取ることができる 相手の能力にぶつけることができれば無効化することができるという 対魔族戦では相当なアドバンテージを持つ能力なのだ。
「フフフフフ・・・」
「なに?」
まだアーミーの術中にある男がここで初めて声を出した。
「それでわたしの『G.Iジョー』を攻略したつもりか?」
顔に邪悪な笑みを浮かべさせて話す
この表情はこの男の意思によるものではない アーミーが操っているのだ 人の声を操作することで人間を通信装置の代わりにもできる。
「オレはな、お前の能力が嫌いなんだよ 相手の意思も尊厳も踏みにじって自分の手下にする そういう理不尽さが大っ嫌いなんだよ」
声を荒げて怒りをあらわにレイヴンはアーミーに激昂した。
「理不尽だと!?そりゃあどうも!魔王を目指すものとしては理不尽的な超越された強さは必要不可なものさ そしてその力の前にレイヴンお前もお前の仲間の死神ゼルクも倒れ伏すことに・・・」
「もういいッ!うっとーしいわ」
痺れを切らせたリリィはその声を断ち切るように『吸収』した
心が荒ぶっているのはレイヴンだけではない彼女も親が行方不明になった事で心に不安感を抱えている
この家族思いな心がリリィを強くもするが同時に弱くする
体には吸い取った魔力の分力がみなぎるが 不安は時が経つごとに膨れ上がるばかり。
「レイヴンあんた空飛べないの?この街全体の人口が操られてるとしたなら一人一人倒すより本体を探して叩いた方が絶対効率的よ」
「ん~、わかってる・・・それはわかってんだが 多分空を飛んじまったらライフルかなんかで蜂の巣にされちまうのがオチだ いくらオレでも街中から撃ち込まれる音速以上の弾丸を躱すのは無理あるぜ」
再び歩みを進める2人だが、勝利の糸口を見つけられず悩んでいた。
「せめて大きく動くのは本体を見つけてからだな」
夕日は傾き、魔族が得意とする時間がやってこようとしている。
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もう一方ゼルクはレイヴンと合流することができず途方に暮れていた
「くっそ・・・頼みの綱だったリリィん家にも誰もいねえ」
シズクくらい残ってるだろうと思ってリリィの家を訪ねたが誰1人としていない
ゼルクはまだこの街を襲う狂気を知らずにいた
「仕方ねえ、自然治癒力に任せるとするか」
許可を得ず人の家でゴロゴロするのは失礼だと知りつつ 重たくなった体を床に下ろすと同時にまぶたまで重く眼球にのしかかる
鉛でできたシャッターのように目にのしかかる睡魔はどうにも抗いがたく いつの間にか寝息を立ててしまう
その時、館に一つのごく小さな足音が響いた
それはゼルクの気配を感じ取ると規則正しい足取りで玄関を上がり、音もなく戸を開く
居間の戸を開け、呑気にいびきをかいて眠るゼルクの姿を認めると両手の上にマシンガンを出現させた。
「角?なぜ人間に角があるのだ」
その姿はアーミーの能力『G.Iジョー』で操られた人間
冷酷に指に力を入れると引き金を引く。
「は?」
しかし、その弾丸を放つはずの銃は縦に真っ二つになっていた。
「やれやれ、強盗か?にしては物騒な物持ってるじゃねえか」
いつの間に目覚めたのかゼルクは男の後ろに回っていた
瞬間的に真っ二つにされた銃は煙になって消えていく
ゼルクの『永命剣』によって清められたのだ。
「なんだ、お前その銃、魔力でできてるのか・・・ってことは魔族か?」
銃を破壊された『G.I』は棒立ちになる
そこにゼルクは鋭く剣を振り下ろして眼前に突きつけた。
「どうなんだ?答えてくれ」
剣は兵士の目の前でギラついている
ゼルクは答えようによっては最低でも失神させておこうと考えている
だが、それに臆さず兵士は掌の上に魔力を集中させた。
「おいおいおいおい・・・俺疲れてんだよ、物騒なことしてくれんな」
そう言い、一歩間隔を開け、体を半身にして片手で剣を構える
飛燕流の剣術独特の流線的立ち方で。
「『飛燕流・・・』」
ゼルクの手元から剣が飛び立つ
『G.I』も手を構えると煙のような魔力が塊になって銃を形取る
「・・・・・いや、ヤメだ・・・わたしではお前には敵わない」
手に持った銃を床に落とす、ガシャンと重たい音を立てるとスッと元の形を持たない魔力に戻った。
「ふぅ・・・なら、お帰り願いたいね」
構えている剣を鞘に収めるとため息を吐いた
しかし、目の前の男はなぜか不気味に笑っている。
「そう、わたしではお前に敵わない だが、【わたしたち】なら・・・どうかな?」
手元に大量の魔力が出力されるとまた何か形取られる
少し先で爆発音が響いた。
「なんだ!?」
爆発音は止まらない、自分に向かって何か破壊の力が向かって来ている
そして、目の前の不気味な 人間でありながら魔力を使う自分と似ていながらも非なる者が更なる銃火器を出現させた。
「ミ、ミニガン・・・」
出現したそれは軸を回転させながらゼルクを狙う
まともにくらえば即バラバラにされる威力を持つ『ミニガン』、知ってはいたがいざ向き合うと流石にたじろいでしまう
壁の向こうから何人もの気配が感じられる
さっきの爆発
壁一枚挟んでいるとはいえこちらの爆弾もくらえば魔力でガードしていても体が耐えられる程の威力ではない
もしも、目の前の男を倒したとしたらそれと同時にこの部屋ごと吹き飛ばされるだろう
(勝っても負けても待つのは死ばかりか)
「せいぜい足掻け、『死神』」
甲高く激しい音を立てながら雨のような弾丸はゼルクにふっかかる。
「『飛燕流』!」
だが、弾速を上回るスピードで剣が弾を叩き落としていく
しかし壁を貫通して大量の弾が飛んでくる
壁の向こう側でも撃っているのだ
貫通して部屋のあっち側からも無数の弾丸が弾幕になってゼルクを押しつぶす。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
全方向からの連射
飛燕流は飛び交う燕のように速く、鋭いが 津波のような弾幕の渦にその嘴と爪は呑み込まれていく。
敵の攻撃を清め、消滅させるが次の瞬間にはまた新たな弾幕が押し寄せる
それを清め、消滅させ、押し寄せ、清め、消滅
体力限界値にとっくに到達しているゼルクはもう『神感覚』はおろか『感覚無双』も使えない
今あるほんのひとつまみの体力だけで全てを片付けるしかない。
(一瞬でも反応が遅れたらひき肉にされちまう 最速で最適の技を出し続けるしかねえ!)
歯を食いしばり、無我夢中で腕を振り続ける
しかし、これではダメだ
これでは敵兵に到達する前に数の暴力に押し負けてしまう
今の自分を超えなくてはならない
閃光斬でも連啄斬でも風燕でも冥鳥閃光斬でも刺突でも零戦燕でも飛燕陣でも魔燕渦でも光一閃でもない
これまでの技のその更に上に行く
「技術は極めると能力へと進化する、ならばその能力を極めると何になる?俺はそこを目指す」
低く姿勢を構えると『永命剣』に魔力を注ぎ込む
「『月下飛燕流・・・輝夜』!」
ゼルクの大ぶりの斬撃が空気中に光の輪を描きだす
一瞬何が起こったのか分からなかったが、次の瞬間には気付いていた。
「銃が消えている!?」
その場にいた操られた全員の装備からミニガンが消失していた
更に壁や床に仕掛けておいたはずの爆弾まで消え失せている。
「はぁはぁハァー・・・ふん」
不意に足元に落ちているガラス片を手にとって口髭を剃るとゼルクは鼻で笑った。
「この『永命剣』を手に入れてから30と5時間、この力に頼りきりで何も考えず振っていたわけじゃないんだぜ」
髭が無くなりスッキリした口元を割れた鏡のカケラで見た後 右腕でクルクルと剣を回しながら口角を上げた。
「この『永命剣』から更なる力を引き出す方法を俺は見つけたのさ」
『永命剣』の浄化の力と相反するはずの魔力を流し込まれたにもかかわらず刀は不思議と一層輝く
「1、2、3、4、5、6・・・・」
剣を向けながら一人一人数を数えていく
「15人か・・・5秒でいけるな」
そうして剣を構えて身を反らしながら腰を低く下げる
敵兵は再び手元に武器を出現させる銃や刀 15人分の武力でゼルクを囲む
「スーー・・・」
荒くなった息を整えると相手を見据えて目を急所にフォーカスさせた。
「『月下飛燕流・・・羽衣』」
そして、魔族と同じレベルまで達した脚力で踏み込む
「うおおおうッ!」
ゼルクが横を通り過ぎると銃を構えていた男がバタンと倒れた
目にも留まらぬ早業で斬ったのだ。
「まず一人」
「ちっ」
サブマシンガンを連射してゼルクを狙うが 絹のように滑らかな動きをした太刀筋に受け流される
「フンッ!」
そして弾幕に隙間を斬り拓き、やすやすとそこに飛び込んでしまう
二人三人四人・・・
そして5人を斬ると6人目をロックオンする
相手も応戦するがもうゼルクは止まらない 達人の太刀筋に入ったが最後 逃れられようはずもなし
12人13人・・・そして
「お前で最後だな」
14人を斬り、最後の一人になった15人目の『G.I』に剣を向けて追い詰める
「ふむ・・・確かに・・・負傷していてこれほどまでに強いのか・・・魔界が警戒するのにも納得がいくな」
「やっぱりか、予想はしていたんだが・・・お前、魔界の兵士か それかレイヴンの弟だな?」
その問いに兵士、いや、アーミーは頷いた
警戒が高まる 特級魔族の恐ろしさは嫌でもわかっているからだ
物を一瞬溶かす炎を操る悪魔に、光速をその身にもたらす装甲を着た鷹、あらゆるものを腐敗させる翼を有した烏、光を操る残酷な処刑人、闇で全てを包み込み隠蔽する罪人
そんな強力なメンツの更に上が現れたのだ、ゼルクもそろそろ呆れてくるほどに。
「今度はどんな者でもロボットみてえに操っちまう操作系の能力か?」
「ご名答、わたしは魔王家五男【アーミー】というものだ」
操られたままの男はアーミーの考えに従って言葉を喋る
「ぜひ君もわたしのコレクションに加えたいのだが 殺傷処分を言い渡されてる 残念なことに これから君を殺さなくてはならないんだ」
そう喋らされながら男は掌から刀を出現させて構えた
銃の扱いもだがアーミーに操られる人間の武器の使い方が上手い、一流の傭兵レベルだ
「ふ~ん、そうですかい だがな、今の奴らみたいに操った人間を差し向けてくるだけがこの能力の限界ならとんだ見かけ倒しだな これなら何百人いようと俺一人でも勝てる」
ゼルクも目の前の動きに呼応して構える
斬り合いの寸前にある凍てついた時間だ
「それは違うぞ」
一言がその静寂を断ち切った
アーミー操る男の斬撃がゼルクの頭上より振り下ろされる
「へぇ、なにが違うってんだい?」
『永命剣』を構えてそれを受ける
魔力で出来ているその剣は触れるだけで蒸発するように消える
はずだった
「こう違うんだよ!」
「なに!?」
ズン!と重い一撃となってのしかかる
「今、『G.Iジョー』兵の生命を50人分集めて強化した さっきの兵士の50倍強いぞ」
後ろに飛びのいて潰されそうになるのを躱す
だが、アーミーはそれを逃さない
刀を消し、その代わりにショットガンをその手に出現させる。
「50人の雑魚よりも50倍強い一人の方が強いとわたしは思う 量より質を重視したいのでね」
バン!と弾が撃ち出された
銃筒から飛び出した それは空中で弾けて無数の散弾がゼルクに向かって飛んでくる。
「そうかよ!確かに一人に纏めて向けてくれた方がありがたいね」
半分を躱しもう半分を剣で叩き落とす
やはり触れても消滅せず床に穴を開けている 実体化しているのだろうか しっかりとした質感があり魔力特有のどこかフワフワとした感じがない。
「よかったら蜂の巣になってみるか?」
「ゴメンだね」
散弾を撃ち落としながら操り兵士に近づいていく
そしてアーミーを太刀筋に捉えると素早く懐に飛び込んだ。
「よかったら刺身になってみるか?」
「ゴメンだな」
ぶつかり合う剣同士の火花とそして衝撃が館にヒビを入れる
総重量10数t双方の筋力とそれを支える魔力はすでに世の常識を置いてけぼりにするほどに圧倒的であった。
「魔力としての硬度も50倍になってんのか・・・浄化の力使ってでも刃こぼれ一つ起こさねえとは」
「ふふふ、恐ろしいか?」
猛烈な50倍パワーはゼルクの体をやすやすと弾き飛ばす
トレーラーとトラックとに挟まれたような馬力にすっ飛んで壁と天井に何度もぶつかる
バウンドしながら壁を突き破って部屋をメチャクチャにしてやっと止まることができた。
「しょうがねえなぁ・・・」
呟くと身を起き上がらせる
コンクリートや木材が崩れた埃で汚れた服を払うと
脆くなった服は払っただけで 炭になった紙のように粉微塵だ。
「人ん家だからないろいろ壊さん為にも 力をセーブしてたが そうはいかなくなってきた、怪我人なりの本気を出させてもらうぜ」
堂々とした佇まいで胸を張ると両腕を広げて光合成をする向日葵のような体制をとると魔力をその身から解き放つ。
「絞り出す・・・最後の一滴までッ!」
ゼルクの角から稲光が走る
細い電気の筋が自らの主人であるゼルクを守るように辺り一面に散った。
「無駄だ・・・」
煙立ち込める中から一つの影が浮かび上がる
「いくらお前が抵抗しようとも」
濃厚な煙を切り裂いてその男はゼルクの前を立ち塞ぐ。
「このわたしの武力の前には全くの無力のものだ」
その体はさっきよりも筋力も魔力も増していた。
「チッ・・・またドーピングしやがったか」
「なに、たった500人ほどの生命エネルギーを集めただけさ」
(ごひゃ・・・いったい何人いるんだ!?やつの兵士は・・・)
50倍で苦戦した相手が更にその10倍の500の力を持った
その情報に戦慄し、冷や汗をかく
「はぁはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ハハハハハ・・・!」
だが、同時に高揚もしていた
心臓がバクバクと今にも口から飛び出そうで
口元も自然と持ち上がってくる
それは 喜びか、恐怖による錯覚か
どちらともつかないが
ゼルクの表情筋を釣り上げたような笑みは牙を見せつける威嚇のようにも見えた
そしてそれは よくレイヴンが勝利を呼び込む展開の前に浮かべる表情にそっくりだ
野蛮で
嗜虐的で
そしてどこか少年のように無邪気
今一度剣を抜き放ちながらゼルクは心の中に思ったことだけを叫んだ。
「ぜってー殺すッ!!」
To Be Continued→
寂れてしまった街の更にその奥
そこは人っ子ひとりいないはずだが異様な空気が充満している。
「いいかお前達!お前達はこのわたしの腕であり脚であり目である!わたしに使われ、一つの目的を速やかに遂行するのだッ!」
一人の魔族が声を張り上げて言った
二階建ての屋根から見下すは人!人!人!
人の群れだ 誰一人として頭から角が生えていない 一人残らず人類だ
この少人数化の進んでいる人間界のどこにこれだけの人数が潜んでいたのかと思うほどの量で並んでいる
精密機械で並べたのかという程にきちんと1mmのズレもなく縦横に並べられている人達はチェスの駒を連想させた。
「敬礼ッ!」
その声が眼下の人間に届くと0.1秒のズレもなく同時に頭の上に手を挙げ、敬礼のポーズを取った
人の顔には意思が見受けられず まるで操り人形
独裁主義下に置かれた人間の表情もそれである。
「行けッ!裏切り者を、そして死神を殺すのだ!」
声に反応すると無言のまま どこかへ走り去り 散って行く
将棋倒しが起こることなくその場から誰一人残らず消えていった。
「・・・さて、レイヴンよこのわたしの駒達から逃れられるかな?」
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「ウチで休憩してく?」
「エッチな意味で?」
「蹴っ飛ばすわよ」
闘いで服も体もボロボロで埃、砂まみれになった3人はリリィの無駄にデカイ家で休息をとることにした
今言った3人は
ご存知レイヴン、盲目の少女リリィ、そしてリリィに負け 改正した魔王家六男シンの3人だ、なんだか全体的に黒い
家に着く、この辺まではゼルクとホークの戦闘の余波は届いてはおらず無傷なようだ
ホッと胸をなでおろすと安心しきった心持ちで玄関の戸を開ける。
「た~だいま~っと」
靴を脱ぎながら帰りを伝える
玄関からして日本のマンションとは比べ物にはならない、広く美しい伝統工芸を思わせる なんなら靴箱に住んでもいいほどだ。
「しゃがんで靴脱ぐなよ スカート破れてんだから 下着が見えそうだぜ」
「あ、忘れてた・・・」
今更思い出して白地の下着を隠すように服を引っ張る
戦闘中破いた裾はマイクロスカートと呼ばれるものと同じほどの丈になっているので少し動くだけで下が見えてしまう
流石にモロで見られたのは恥ずかしかったのか 少し頬を染めて照れ隠しのように「えへへ」と笑っている。
「シンもパンツが見えてるって注意くらいしてやれよ ずっと近くにいたんだろ?」
紳士なのかスケベなのかよくわからないがレイヴンはシンの肩を小突いた
初めて兄弟らしいところを見せたが
今まで殺し合いをしていたとは思えない馴れ馴れしい態度だ。
「フン・・・」
レイヴンに妙な茶化され方をしてムカついたのか少しだけ魔力を使う
『闇』を少女の尻元にモザイクを入れるように出現させ、下着を隠す。
「世界一無駄な魔力の使い方だな・・・」
「私で遊ばないでよ」
笑いながらレイヴンも靴を脱ぎ、玄関を上がる
「シンは、上がらないの?」
「・・・ん」
シンだけは玄関に腰かけたまま靴を脱がず腕を組んで動かない
「そう」
無口だがリリィは心臓の音と声のトーンの聞き分けで相手が何を言わんとするか理解する
廊下を進んでいき居間に入るとリリィは違和を感じた。
「お母さんが・・・いない?」
聞き耳を立てるが家のどこからも人の気配がしない事に気づく。
「どっかに出かけてんじゃないか?」
「いや、私が家にいない時お母さんは家からは出ないわ だってお父さんの世話が・・・」
言いかけて言葉を止めた
「そういえばお父さんの気配もしない」
「そりゃあ妙だな」
リリィの母と父は魔力使いだ
しかし、過去の戦闘で母は戦闘力を父は人間としての機能そのものを大きく損なってしまっている
母のシズクはいいとして 寝たきりになっているはずの父マクシムが外に出られるはずがなかった
急いで寝室に駆け込み、布団をめくる
「お父・・・さん」
そこは もぬけの殻 マクシムの姿も残り気配すらも無かった。
「何があったんだ・・・」
レイヴンはベッドの布に少しだけ付着した黒い何かを見つける 暗くてよく見えないが何か液体のようなものだ
リリィは顔を布地に近づけてその液体の匂いを嗅いだ。
「これ、血・・・だわ・・・」
顔が引きつる
カタカタと体を震わせてどうしたらいいのかと問いかけるようにレイヴンへ視線を向ける
「・・・・・探そう」
少し目には涙が見えたようだ
急いでレイヴン付き添いで外へ飛び出すが
「シン!シンどこ行った!?」
玄関にいたはずのシンの姿までも消えている
不思議な人間の消失は『現象』かはたまた誰かの『意思』によるものなのか。
「とにかく行くぞ!魔族の者の攻撃がもうすでに始まってんのかもしれねえ!」
誰もおらず広く感じる道路を走って行く
リリィは時折立ち止まって耳をすませるが誰の気配もしないようで 首を縦にふることはなかった。
「リリィ、お前の耳・・・どこまで探知できる?」
「これだけ静かな時なら200m先で落ちたコインの音だろうと聞き取れるわ、魔力で強化すればもっと先まで・・・でも今日はどこまでも静かすぎる・・・まるで時間が停まってるみたいに」
停止の世界
2人を残して世界は回る
でも、停まってくれていた方が良かったのかもしれない。
「暮れてきたな」
太陽が傾き、光が黒い雲を通り抜け、目には赤黒く映る
夕刻のこの地に何が起こったのか少しずつ2人は違和感の渦に巻き込まれていく。
「あ・・・」
「なんだ?」
「5人くらい人が近づいてくる」
「魔族か?」
「それはわかんないけど・・・とにかく5人 こっちにくる」
レイヴンも耳を使って探知してみるが何も聞こえない、ただ風が吹き抜ける音だけだ
感覚の鋭さはレイヴンも自信があったがリリィの五感はそれを軽々と超えていた。
「来た・・・」
「ああ、オレにも見えた」
道路の真っ直ぐ50m先、その細い路地裏から5人の男達の姿が覗いた
1人服が裂け、そこから血を流している 怪我人を担いで移動しているようだ。
「あ、た・・・助けてくれ・・・ますか」
近づいて来たその5人のうちの1人がこちらに駆け寄りながら声をかけてくる
必死といった表情で手を差し伸べられるのを待っているようだ。
「どうかしたか?」
レイヴンは返事をして駆け寄っていく
頭には角を見られて警戒されないようにターバンを巻いてある。
「あっちで 何か得体の知れないモノに襲われて・・・」
「魔族か?変質者か?」
「いいえ・・・わかりません」
息を切らせて命からがら逃げて来たといったところか すぐにでも手当てしないと怪我を負っている1人は死んでしまいそうだ。
「とりあえずその怪我してる奴をこっちに寄越せ 治すことはできねえけど 応急処置くらいはできるぜ」
「助けを求めといてなんですけど信用してもいいんでしょうか?」
「任せとけオレもそこの美少女も味方だ」
そう言って手を差し伸べる
目の前の男も背負った男をレイヴンに渡す時他の男達と目を合わせ、軽く頷いた
信頼されたようだ。
「ただし・・・」
その瞬間 怪我人の男の体が木の葉のように吹き飛ぶ
レイヴンの鋭い拳が男を殴り飛ばした。
「正義の味方だ」
「なァッ!」
リリィは突然の事に見えないその大きな目を見開いて驚く
殴り飛ばされた男とはというと ドシャッと音を立てて地面に落下すると動かなくなった。
「あんた・・・何を!」
リリィはレイヴンに掴みかかって問いただすがレイヴンの視線は彼女には向かず 並び立つ男達に向けられていた。
「なぜ・・・気付いた?」
そう聞いてくる男達の顔からは表情が消えていた
鋭く、何も感じさせないナイフのような眼をレイヴンに向けながら何やら構える。
「分かるんだよアーミー、隠しきれてねえオレへの殺意がな!」
「戦士としての勘か」
機械のように何もこもっていない声を発すると男達の手に半透明のエネルギーが集まっていく
固まって形を成していくとそれは『銃』になった。
「だが、お前じゃこの包囲網は抜けられんぞ 正義の味方!」
一斉に魔力製の『銃』の引き金を引き、ブッ放す
その銃はサブマシンガンに似ている。
「オオオッ!『武装壁(ウォール)』!」
魔力を地面に流し込んで形を成形、そして2人を囲えるほどの大きさの壁を作り出す
壁は魔力に守られ、銃弾程度の威力は難なく弾き返す。
「逃げるぞ」
「あ、ちょっ」
リリィを小脇に抱えると地面を蹴って半壊した建物の上へ飛び乗る
「なんなのよあいつら」
「オレの弟【アーミー】の能力だ」
弾丸は建物を貫通し、空を裂いてレイヴンの脳天を狙う
魔力のこもっていない物は魔力での攻撃に一切の抵抗力を持てない なので小さな弾丸でも硬い壁を貫通できる。
「話は後だ後!逃げるぞォッ!」
リリィを抱きかかえたまま屋根と弾幕の隙間を縫ってその場からスタコラと風のように逃げ去る。
「やはり能力は知れていたか・・・仕方がない わたしの能力は大規模だからな だが、知っていたところでどうすることもできないのが 我が軍隊『G.Iジョー』だ この街からはアリ一匹逃げることはできない」
5人は後を追うのを諦めるとどこかにその姿を消していく
一方アーミーの先手から逃れられたレイヴンは狭い路地にリリィとともに身を潜めていた。
「『軍隊』?」
「そうだ、奴はたった1人で『軍隊』を率いている」
自分の知るかがりの情報をリリィに伝える
今回の敵はこれまでと一味違うタイプのようだ。
「奴の能力発動条件は触れること 相手に触れて魔力を脳に流し込むことで自分の操り人形にしてしまうんだ」
「触れるだけ・・・」
「そう、あいつは自分の軍隊を持たない 現地で兵士の調達ができるからな ゆえに『無勢の将軍』と呼ばれている」
「中二病みたいなネーミングセンスね」
「しかもあいつの兵隊にされたやつから攻撃を受けるとこれまた奴の操り人形にされる」
「鼠算式に増えるって訳か」
アーミーの能力『G.Iジョー』は数で攻める能力 その包囲網はこの北京を中心にしてさらに広がりつつある
操るという能力は発動さえしてしまえばもう相手との強さの違いは無意味となり、いくら腕力で優っていても触れられるだけで負けだ。
「その鼠算に私のお母さん、お父さん、ついでにシンのやつも巻き込まれてるかもしれないのね?」
「おそらく」
「そりゃ厄介だわ」
その時背後から金属音が聞こえた
硬いものが跳ねているような耳に心地悪い音だ
音のする方に向き直って見ると
「しっ!手榴弾ッ!」
慌ててレイヴンは能力で壁を作り、奥に逃げ込む。
「ヤバい!足音がしなかった!あいつら無音で歩く方法を熟知しているわ」
背後で爆発音がしてコンクリートの破片が飛び散った
「まずいぞ、見つかっているということはここに人の波が押し寄せる!」
壁に腕を『武装』して体を上に押し上げる
狭い路地裏で銃火器を持った者同士に挟み撃ちされたらひとたまりもない
一旦見晴らしのいい広い屋上へ顔を出す。
「兵士一人一人の感覚や情報はアーミーに繋がってるからな あいつは1人で何千の監視カメラを有しているも同じだ」
「いや、もう来てるみたい」
屋上へ飛び乗ると同時に視界に飛び込んでくるはこちらを囲む人の円
1人残らずこちらに銃口を向けている。
「やるしかねぇッ!殺すなよ!?」
「あんたこそ!」
瞬時に決断を下すと2人は互いに反対方向へ足を踏み切った
無表情のまま兵士達はサブマシンガンを発砲
無数の弾丸が2人に襲いくる
だが、レイヴンは足元の鉄クズを腕に『武装』さらに魔力でその硬さを上げて弾丸を弾きながら操られる市民の懐に飛び込む
リリィは至近距離からの探知能力により相手の動きを空気の波紋で認識
そしてその鋭敏な感覚を魔力により強化すると目の前の12人の兵隊全員の筋肉の動きを掌握した。
「『武装拘束(バインド)』!」
「『生命吸収(エナジードレイン)』!」
魔力を込めた掌で相手に触れると足元の建物の素材が足を伝って全身を鎧のように包んだ
だが、その鎧は動かせないようで銃をも呑み込んでしまう
再び飛んで来た弾丸を躱すと2人目3人目と次々に相手を拘束していく
「こっちは完了!そっちはどうだ?」
リリィの方は足元に滑り込むようにスライディングして飛び込む
地面に手をつき、下半身を上に向けて逆立ちすると脚を広げて風車のように回転、周りの兵士を蹴り飛ばした
そしてまた弾丸の隙間を縫って兵士の元に走りこむ
その蹴りは兵士達からエネルギーを奪い取って その荒ぶりを鎮めていく。
「こっちも終わった」
足元には気を失った男達が倒れ伏している
「またどっか隠れねぇとな」
どこか身を隠すのに最適な場所はないかと辺りを見回すが少し探した程度で見つかるほど隠れ場はないようだ 物陰やらはそれこそ軒並み破壊されている。
「ちょっと待って そっちの拘束してる人達も解放しておきたいんだけど」
「どういうことだ?こいつら解放したらまた襲って来るぞ」
「・・・こういうこと」
リリィは拘束された『G.Iジョー』の兵士の前に歩いて移動すると脚を上げてパンっと軽い蹴りを当てた。
「おお、確かに その使い方があったか」
脚が触れるとみるみるうちに男達の体を操っていた魔力がリリィに吸収されていく
「これなら・・・オレの『武装』とリリィの『吸収』があればここを突破できるんじゃないか?」
彼女の能力『生命吸収』は乾いたスポンジのように瞬間的にエネルギーを吸い取ることができる 相手の能力にぶつけることができれば無効化することができるという 対魔族戦では相当なアドバンテージを持つ能力なのだ。
「フフフフフ・・・」
「なに?」
まだアーミーの術中にある男がここで初めて声を出した。
「それでわたしの『G.Iジョー』を攻略したつもりか?」
顔に邪悪な笑みを浮かべさせて話す
この表情はこの男の意思によるものではない アーミーが操っているのだ 人の声を操作することで人間を通信装置の代わりにもできる。
「オレはな、お前の能力が嫌いなんだよ 相手の意思も尊厳も踏みにじって自分の手下にする そういう理不尽さが大っ嫌いなんだよ」
声を荒げて怒りをあらわにレイヴンはアーミーに激昂した。
「理不尽だと!?そりゃあどうも!魔王を目指すものとしては理不尽的な超越された強さは必要不可なものさ そしてその力の前にレイヴンお前もお前の仲間の死神ゼルクも倒れ伏すことに・・・」
「もういいッ!うっとーしいわ」
痺れを切らせたリリィはその声を断ち切るように『吸収』した
心が荒ぶっているのはレイヴンだけではない彼女も親が行方不明になった事で心に不安感を抱えている
この家族思いな心がリリィを強くもするが同時に弱くする
体には吸い取った魔力の分力がみなぎるが 不安は時が経つごとに膨れ上がるばかり。
「レイヴンあんた空飛べないの?この街全体の人口が操られてるとしたなら一人一人倒すより本体を探して叩いた方が絶対効率的よ」
「ん~、わかってる・・・それはわかってんだが 多分空を飛んじまったらライフルかなんかで蜂の巣にされちまうのがオチだ いくらオレでも街中から撃ち込まれる音速以上の弾丸を躱すのは無理あるぜ」
再び歩みを進める2人だが、勝利の糸口を見つけられず悩んでいた。
「せめて大きく動くのは本体を見つけてからだな」
夕日は傾き、魔族が得意とする時間がやってこようとしている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もう一方ゼルクはレイヴンと合流することができず途方に暮れていた
「くっそ・・・頼みの綱だったリリィん家にも誰もいねえ」
シズクくらい残ってるだろうと思ってリリィの家を訪ねたが誰1人としていない
ゼルクはまだこの街を襲う狂気を知らずにいた
「仕方ねえ、自然治癒力に任せるとするか」
許可を得ず人の家でゴロゴロするのは失礼だと知りつつ 重たくなった体を床に下ろすと同時にまぶたまで重く眼球にのしかかる
鉛でできたシャッターのように目にのしかかる睡魔はどうにも抗いがたく いつの間にか寝息を立ててしまう
その時、館に一つのごく小さな足音が響いた
それはゼルクの気配を感じ取ると規則正しい足取りで玄関を上がり、音もなく戸を開く
居間の戸を開け、呑気にいびきをかいて眠るゼルクの姿を認めると両手の上にマシンガンを出現させた。
「角?なぜ人間に角があるのだ」
その姿はアーミーの能力『G.Iジョー』で操られた人間
冷酷に指に力を入れると引き金を引く。
「は?」
しかし、その弾丸を放つはずの銃は縦に真っ二つになっていた。
「やれやれ、強盗か?にしては物騒な物持ってるじゃねえか」
いつの間に目覚めたのかゼルクは男の後ろに回っていた
瞬間的に真っ二つにされた銃は煙になって消えていく
ゼルクの『永命剣』によって清められたのだ。
「なんだ、お前その銃、魔力でできてるのか・・・ってことは魔族か?」
銃を破壊された『G.I』は棒立ちになる
そこにゼルクは鋭く剣を振り下ろして眼前に突きつけた。
「どうなんだ?答えてくれ」
剣は兵士の目の前でギラついている
ゼルクは答えようによっては最低でも失神させておこうと考えている
だが、それに臆さず兵士は掌の上に魔力を集中させた。
「おいおいおいおい・・・俺疲れてんだよ、物騒なことしてくれんな」
そう言い、一歩間隔を開け、体を半身にして片手で剣を構える
飛燕流の剣術独特の流線的立ち方で。
「『飛燕流・・・』」
ゼルクの手元から剣が飛び立つ
『G.I』も手を構えると煙のような魔力が塊になって銃を形取る
「・・・・・いや、ヤメだ・・・わたしではお前には敵わない」
手に持った銃を床に落とす、ガシャンと重たい音を立てるとスッと元の形を持たない魔力に戻った。
「ふぅ・・・なら、お帰り願いたいね」
構えている剣を鞘に収めるとため息を吐いた
しかし、目の前の男はなぜか不気味に笑っている。
「そう、わたしではお前に敵わない だが、【わたしたち】なら・・・どうかな?」
手元に大量の魔力が出力されるとまた何か形取られる
少し先で爆発音が響いた。
「なんだ!?」
爆発音は止まらない、自分に向かって何か破壊の力が向かって来ている
そして、目の前の不気味な 人間でありながら魔力を使う自分と似ていながらも非なる者が更なる銃火器を出現させた。
「ミ、ミニガン・・・」
出現したそれは軸を回転させながらゼルクを狙う
まともにくらえば即バラバラにされる威力を持つ『ミニガン』、知ってはいたがいざ向き合うと流石にたじろいでしまう
壁の向こうから何人もの気配が感じられる
さっきの爆発
壁一枚挟んでいるとはいえこちらの爆弾もくらえば魔力でガードしていても体が耐えられる程の威力ではない
もしも、目の前の男を倒したとしたらそれと同時にこの部屋ごと吹き飛ばされるだろう
(勝っても負けても待つのは死ばかりか)
「せいぜい足掻け、『死神』」
甲高く激しい音を立てながら雨のような弾丸はゼルクにふっかかる。
「『飛燕流』!」
だが、弾速を上回るスピードで剣が弾を叩き落としていく
しかし壁を貫通して大量の弾が飛んでくる
壁の向こう側でも撃っているのだ
貫通して部屋のあっち側からも無数の弾丸が弾幕になってゼルクを押しつぶす。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
全方向からの連射
飛燕流は飛び交う燕のように速く、鋭いが 津波のような弾幕の渦にその嘴と爪は呑み込まれていく。
敵の攻撃を清め、消滅させるが次の瞬間にはまた新たな弾幕が押し寄せる
それを清め、消滅させ、押し寄せ、清め、消滅
体力限界値にとっくに到達しているゼルクはもう『神感覚』はおろか『感覚無双』も使えない
今あるほんのひとつまみの体力だけで全てを片付けるしかない。
(一瞬でも反応が遅れたらひき肉にされちまう 最速で最適の技を出し続けるしかねえ!)
歯を食いしばり、無我夢中で腕を振り続ける
しかし、これではダメだ
これでは敵兵に到達する前に数の暴力に押し負けてしまう
今の自分を超えなくてはならない
閃光斬でも連啄斬でも風燕でも冥鳥閃光斬でも刺突でも零戦燕でも飛燕陣でも魔燕渦でも光一閃でもない
これまでの技のその更に上に行く
「技術は極めると能力へと進化する、ならばその能力を極めると何になる?俺はそこを目指す」
低く姿勢を構えると『永命剣』に魔力を注ぎ込む
「『月下飛燕流・・・輝夜』!」
ゼルクの大ぶりの斬撃が空気中に光の輪を描きだす
一瞬何が起こったのか分からなかったが、次の瞬間には気付いていた。
「銃が消えている!?」
その場にいた操られた全員の装備からミニガンが消失していた
更に壁や床に仕掛けておいたはずの爆弾まで消え失せている。
「はぁはぁハァー・・・ふん」
不意に足元に落ちているガラス片を手にとって口髭を剃るとゼルクは鼻で笑った。
「この『永命剣』を手に入れてから30と5時間、この力に頼りきりで何も考えず振っていたわけじゃないんだぜ」
髭が無くなりスッキリした口元を割れた鏡のカケラで見た後 右腕でクルクルと剣を回しながら口角を上げた。
「この『永命剣』から更なる力を引き出す方法を俺は見つけたのさ」
『永命剣』の浄化の力と相反するはずの魔力を流し込まれたにもかかわらず刀は不思議と一層輝く
「1、2、3、4、5、6・・・・」
剣を向けながら一人一人数を数えていく
「15人か・・・5秒でいけるな」
そうして剣を構えて身を反らしながら腰を低く下げる
敵兵は再び手元に武器を出現させる銃や刀 15人分の武力でゼルクを囲む
「スーー・・・」
荒くなった息を整えると相手を見据えて目を急所にフォーカスさせた。
「『月下飛燕流・・・羽衣』」
そして、魔族と同じレベルまで達した脚力で踏み込む
「うおおおうッ!」
ゼルクが横を通り過ぎると銃を構えていた男がバタンと倒れた
目にも留まらぬ早業で斬ったのだ。
「まず一人」
「ちっ」
サブマシンガンを連射してゼルクを狙うが 絹のように滑らかな動きをした太刀筋に受け流される
「フンッ!」
そして弾幕に隙間を斬り拓き、やすやすとそこに飛び込んでしまう
二人三人四人・・・
そして5人を斬ると6人目をロックオンする
相手も応戦するがもうゼルクは止まらない 達人の太刀筋に入ったが最後 逃れられようはずもなし
12人13人・・・そして
「お前で最後だな」
14人を斬り、最後の一人になった15人目の『G.I』に剣を向けて追い詰める
「ふむ・・・確かに・・・負傷していてこれほどまでに強いのか・・・魔界が警戒するのにも納得がいくな」
「やっぱりか、予想はしていたんだが・・・お前、魔界の兵士か それかレイヴンの弟だな?」
その問いに兵士、いや、アーミーは頷いた
警戒が高まる 特級魔族の恐ろしさは嫌でもわかっているからだ
物を一瞬溶かす炎を操る悪魔に、光速をその身にもたらす装甲を着た鷹、あらゆるものを腐敗させる翼を有した烏、光を操る残酷な処刑人、闇で全てを包み込み隠蔽する罪人
そんな強力なメンツの更に上が現れたのだ、ゼルクもそろそろ呆れてくるほどに。
「今度はどんな者でもロボットみてえに操っちまう操作系の能力か?」
「ご名答、わたしは魔王家五男【アーミー】というものだ」
操られたままの男はアーミーの考えに従って言葉を喋る
「ぜひ君もわたしのコレクションに加えたいのだが 殺傷処分を言い渡されてる 残念なことに これから君を殺さなくてはならないんだ」
そう喋らされながら男は掌から刀を出現させて構えた
銃の扱いもだがアーミーに操られる人間の武器の使い方が上手い、一流の傭兵レベルだ
「ふ~ん、そうですかい だがな、今の奴らみたいに操った人間を差し向けてくるだけがこの能力の限界ならとんだ見かけ倒しだな これなら何百人いようと俺一人でも勝てる」
ゼルクも目の前の動きに呼応して構える
斬り合いの寸前にある凍てついた時間だ
「それは違うぞ」
一言がその静寂を断ち切った
アーミー操る男の斬撃がゼルクの頭上より振り下ろされる
「へぇ、なにが違うってんだい?」
『永命剣』を構えてそれを受ける
魔力で出来ているその剣は触れるだけで蒸発するように消える
はずだった
「こう違うんだよ!」
「なに!?」
ズン!と重い一撃となってのしかかる
「今、『G.Iジョー』兵の生命を50人分集めて強化した さっきの兵士の50倍強いぞ」
後ろに飛びのいて潰されそうになるのを躱す
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刀を消し、その代わりにショットガンをその手に出現させる。
「50人の雑魚よりも50倍強い一人の方が強いとわたしは思う 量より質を重視したいのでね」
バン!と弾が撃ち出された
銃筒から飛び出した それは空中で弾けて無数の散弾がゼルクに向かって飛んでくる。
「そうかよ!確かに一人に纏めて向けてくれた方がありがたいね」
半分を躱しもう半分を剣で叩き落とす
やはり触れても消滅せず床に穴を開けている 実体化しているのだろうか しっかりとした質感があり魔力特有のどこかフワフワとした感じがない。
「よかったら蜂の巣になってみるか?」
「ゴメンだね」
散弾を撃ち落としながら操り兵士に近づいていく
そしてアーミーを太刀筋に捉えると素早く懐に飛び込んだ。
「よかったら刺身になってみるか?」
「ゴメンだな」
ぶつかり合う剣同士の火花とそして衝撃が館にヒビを入れる
総重量10数t双方の筋力とそれを支える魔力はすでに世の常識を置いてけぼりにするほどに圧倒的であった。
「魔力としての硬度も50倍になってんのか・・・浄化の力使ってでも刃こぼれ一つ起こさねえとは」
「ふふふ、恐ろしいか?」
猛烈な50倍パワーはゼルクの体をやすやすと弾き飛ばす
トレーラーとトラックとに挟まれたような馬力にすっ飛んで壁と天井に何度もぶつかる
バウンドしながら壁を突き破って部屋をメチャクチャにしてやっと止まることができた。
「しょうがねえなぁ・・・」
呟くと身を起き上がらせる
コンクリートや木材が崩れた埃で汚れた服を払うと
脆くなった服は払っただけで 炭になった紙のように粉微塵だ。
「人ん家だからないろいろ壊さん為にも 力をセーブしてたが そうはいかなくなってきた、怪我人なりの本気を出させてもらうぜ」
堂々とした佇まいで胸を張ると両腕を広げて光合成をする向日葵のような体制をとると魔力をその身から解き放つ。
「絞り出す・・・最後の一滴までッ!」
ゼルクの角から稲光が走る
細い電気の筋が自らの主人であるゼルクを守るように辺り一面に散った。
「無駄だ・・・」
煙立ち込める中から一つの影が浮かび上がる
「いくらお前が抵抗しようとも」
濃厚な煙を切り裂いてその男はゼルクの前を立ち塞ぐ。
「このわたしの武力の前には全くの無力のものだ」
その体はさっきよりも筋力も魔力も増していた。
「チッ・・・またドーピングしやがったか」
「なに、たった500人ほどの生命エネルギーを集めただけさ」
(ごひゃ・・・いったい何人いるんだ!?やつの兵士は・・・)
50倍で苦戦した相手が更にその10倍の500の力を持った
その情報に戦慄し、冷や汗をかく
「はぁはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ハハハハハ・・・!」
だが、同時に高揚もしていた
心臓がバクバクと今にも口から飛び出そうで
口元も自然と持ち上がってくる
それは 喜びか、恐怖による錯覚か
どちらともつかないが
ゼルクの表情筋を釣り上げたような笑みは牙を見せつける威嚇のようにも見えた
そしてそれは よくレイヴンが勝利を呼び込む展開の前に浮かべる表情にそっくりだ
野蛮で
嗜虐的で
そしてどこか少年のように無邪気
今一度剣を抜き放ちながらゼルクは心の中に思ったことだけを叫んだ。
「ぜってー殺すッ!!」
To Be Continued→
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