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第26話「運命のキックオフ」
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薄暗いビルの社長室
そこの一番大きな机のすぐそばの椅子、つまり社長デスクに設置された 椅子に座る一つの影がある
それはこの沈んだ空間に溶け込むような色をしたエネルギーを放って佇み、腕を組んで座っている
恐ろしさもありながら ただそこにいるだけで絵になる 妖しい色香までもが漂う
他の生物とは違うこの圧倒的存在感、間違いなく魔族、それも超一流のだ
その魔族の男の頭には角を隠すためなのか バンダナが巻かれ、眉間には刻まれたように深い シワを寄せていた
本人は真顔のつもりかもしれないが怒っているようにしか見えない
ふと手のひらを上に向かって広げると手相の生命線端あたりからホログラムが現れた
店の商品を丸ごと買った時のレシートのように長々と常人では理解できないほどのデータ量が羅列されている
暗い中眩しがる様子もなくそれを見る
表情一つ変えずに眺め終えるとその男は目をつむった。
(現在わたしが操る兵士の数 1875名 1分以内にレイヴン、またはリリィを襲撃可能な兵士の数27名・・・これでは少なすぎるか?)
頭の中で一つ計算をする
(いや、十分だな 『死神』へ向けている500人分の数を差し引いて1375名 そこから更に27人引いて27で割る・・・49.9か ・・・予備の分の何十人かの事を考えておくと、現在レイヴンと女へすぐに駆けつけられる兵士のほぼ全員の力を【50倍】にはできるな)
何かを決めるとニヤリと笑った
口の中はズラリと鋭い牙が連なっている
(では出撃だ)
頭の中を整理し終えると 目を閉じたまま意識を外の世界に滑らせていく
視界がパッと広がり幾つもの目を手に入れたように無数の視覚情報が頭の中に飛び込む
息を吸えば梅雨明けのカラッとした空気が鼻を通っていった
しかし、動くのはこの男ではなく この男に操られるただの人間『G.Iジョー』の兵士だ
この男、『将軍』
その名は【アーミー】
ラジコンを動かす程度の手間暇で人の命を操れる
ゆえに彼は自らの軍隊を持たない
魔王家の人間はそれぞれ軍隊を持つのが普通だが、アーミーは孤高を貫くように軍事力を持とうとしなかった
しかし、それは決して他の兄弟と比べて弱いなどということではなく 逆にこの圧倒的力を振るう魔王家の中をただの一人で その地位を保っている
軍を持たないというのは 弱者どころか強者の証明なのだ
敵を味方につけ瞬く間に戦場を掌握する
そして誰も彼の味方を見たことがない 戦いが終わればもう用済みとして処理するからだ
そこでアーミーは魔界でこう呼ばれている『無勢の将軍』と
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
空は暮れかかった日の赤と闇夜のコントラストで美しく濁っている
街中に展開された『G.I』の包囲網は【反逆者】レイヴンと【死神】ゼルクそしてリリィを囲って徐々に縮まり ジリジリと確実に追い込んでいた。
「なぁ、お前のオヤジさんはどんな人なんだ?」
「・・・優しい人・・・だったかな?あんまり覚えてないけど」
隠れていつ来るかもわからない機を待つため
どことも知らない薄暗い高層ビルに隠れている二人は戦闘中に関わらず呑気な会話をしていた
互いの会話に慣れていない二人の言葉はぎこちない。
「いつも笑ってたし 叱られたことなんて一度もないわ 私が良い子してたってこともあるんだけど」
「そうか~、オレもそういう親に恵まれたかったぜ」
そう言って天井を見上げると 表情を殺して窓から身を乗り出し、下に構える者達を仰いだ。
「オレなんかオヤジどころか弟までもこんなだからな」
眼下に広がるはアーミーの操る『G.Iジョー』軍団 砂糖に群がるアリのようにわらわら寄って来る
いつ居場所がバレたのか 偶然なんてことはないだろう 鳥や小さな虫か何かを操って偵察機の代わりに使っているに違いない。
「飛ぶぜー!リリィ!」
表情の死んだ兵士達は一斉に強力無比な兵器をその手に構えて砲撃を開始する
その時にレイヴンもリリィも思い切りよく窓を蹴破って10階から飛び降りていた。
「ウッヒョオオオオオオオ!!!」
「やぁぁぁぁぁあああ!!」
片方はハイテンションに叫び
片方は甲高く悲鳴をあげる
後ろでビル壁に当たった砲弾が爆発し、その破片をまき散らした。
「あっぶねえな、バズーカとかロケットランチャーの類か?あんまり詳しくないけど」
「キャアア!!!」
「『八咫烏』!」
空中でレイヴンはリリィを胸元に抱き寄せる
そして、背に漆黒の翼を出現させて 一気に浮上する
高速移動によりこちらを狙う弾丸はギリギリのところでレイヴンに当たらず起動を逸れていった。
「れ、レイヴン 空を飛ぶのはライフルとかに狙われて危ないんじゃなかったっけ!?」
親に抱きつく小猿のようにしっかりと腰に手を回して涙目になりながら心配していることを述べると 目の前のレイヴンは「大丈夫だ」と口にして急降下を始めた。
「ちょっ!はや、速い速い!!!」
リリィは絶叫系が嫌いだ
目が見えない分発達した他の感覚が余計な恐怖をより一層掻き立ててしまうからだ
情けない声を出しながらもその手はしっかりとレイヴンを掴んで離さない。
「着地するぜ気引き締めな!」
地に足をつけると同時にその落下による衝撃が足元のコンクリートを板チョコでも割るかのように たやすく踏み砕いた
散らかすように着地したレイヴンは腕にリリィを抱え、挑発的に笑う。
「ふふふふ!ヒーロー参上っ!だぜ」
ヒーローそう名乗った反逆者は悪役のようなオーラを身にまとい 悪魔のような牙と角をむき出しに立っている。
「いつまで抱いてんのよ」
腕の中にいたリリィはいつまで経っても離されないので身じろぎしてそこを抜け出す
敵に囲まれているのに服がシワになっていないか そういえばどさくさに紛れて胸とか触られてないかなどと気にする程の余裕があるようで 焦りは見えない さっき飛び降りた時の方がよっぽど恐怖を感じていただろう。
「反逆者がヒーローとは呆れるな」
「自らに正義があるとでも思っているのか?」
「人間のくだらない考えに感化されたか」
「口だけの雑魚め」
「貴様は一族の恥だ」
あたりを取り囲む敵兵の口から馬事雑言が飛び交う
対するレイヴンは手で耳を塞いで聞く耳持たないアピールをする
「オレも一応魔王の血ってもんが流れてるみてえだな さっきからこの考えしか浮かばねえよ」
「なんだ?」
リリィに何か手の動きで合図を送ると勢いよく包囲網の外へ駆け抜けた。
「勝った方が正義だ!!!」
地面を蹴っ飛ばして何十mも上のビル壁にヤモリのように飛びつく
そうするとそれを追って包囲網の形が一気に崩れた
陽動で散解させる狙いか
しかし、バラバラになったはずの陣形は2秒を待たずしてもとの取り囲むような丸型に戻った
何人操る対象がいてもアーミーのコントロールに狂いはない
自分の体を動かすのと同じ感覚で他人の命を操作しているのだ
それを複数人分 たやすくやってのけるアーミーの集中力は並ではない
魔界でもここまでの集中力は稀有な存在と言える。
「なるほど、だがそれで言うならばやはりわたしが正義だな!」
何重もの銃火器攻撃、圧倒的物量がレイヴンの張り付くビルを粉々にしていく
しかも恐ろしく早くて強い、こそげ落とすように 爆発が繰り返された
ロケットランチャーの大玉混じりの弾丸の嵐は粉塵をあげながら全てを葬っていく。
「あんたの相手はレイヴンだけじゃないのよ!」
その時兵士たちの背後から細い脚での一撃が強襲した
回転が加えられたその一発は一人の敵兵の後頭部を切り裂くようにして迫る。
「ああ、知っているさ」
だが、躱された
ブォン!という風切り音が敵兵の髪の毛を撫でつけただけでダメージはない。
「アホみてえに撃ちまくりやがって!当たったら危ねーだろうがよお!!」
そうしているうちにレイヴンは壁を蹴って隣の建物に移る。
「OK!リリィ逃げてくれ こっちは充分『溜まった』からよ!」
爆風の中、レイヴンは隣のビルにしがみつくと指をパチンと鳴らした
「『武装』・・・!」
ビリビリビリビリと大地が揺れる
地震よりも小刻みでそれは鼓動のようだ
次の瞬間兵士たちの足元がカッと赤く光った。
「『解除』ッ!」
ドンッ!
鼓膜が裂けるかと思うほどの衝撃と爆音が走る
兵士たちの体はあまりの衝撃に吹き飛ばされ 壁にめり込む者までいた
リリィは跳びのきつつ耳を塞ぐ どんな小さな音も拾ってしまう耳でこの音をまともに聞けば 耳どころか脳にまで異常をきたしてしまうだろう。
「すごいパワーね・・・」
リリィは爆発のあった方へ向き直る
熱気が邪魔で細かく情報は拾えないが 煙と炎の中で何人かが立ち上がっている気配を感じ取った。
「この作戦は自信あるぜ~」
レイヴンの『武装』によって銃乱射での衝撃を全て相手の足元へ蓄積させ解放する
その作戦は見事決まったがそれでもなお立ち上がる者が残っているようだ。
「ゾンビかよ」
レイヴンは壁に突っ込み壁に体を固定している指を離して地に着する
顔を伏せたまま何かをたぎらせているようだ
顔をあげ、その鋭い目を敵兵のさらにその先にいるアーミーに向けながら一歩ずつゆっくりと歩んでいく
爆破により飛散した瓦礫に足を取られてよろめくが 顔には戦意が讃えられていた
爆音に脳を揺らされたリリィも少しふらつく足取りで寄っていく。
「オレは足を止める 多分一瞬だけだ あとはリリィ・・・頼めるか?」
腕を前に突き出して腰を落とす
魔界流の拳法なのか、いやに流々な揺らめきをその身につけて構える。
「しくじらないでよね、あんたがいないと 私の愛するこの街から人が消えちゃうわ」
リリィも右脚を曲げて胸元まで膝をあげ、構える
一歩踏み出した者から蹴り飛ばされる確かな感覚を視覚的に訴えるような仰々しさがその線の細い少女の身体に現れていた。
「殺れ、『G.Iジョー』!」
だが、命令一つで動く兵士は目の前にある危機にも命を投げ出してかかっていってしまう 確実に死ぬのがわかっていたとしても行くのだ 壁にめり込んで動かない兵士までその一言に反応して復活し、走り出した。
「気をつけろ」
「あんたこそね」
互いに目配せして、また前に向き直る
この『G.Iジョー』はそう一筋縄ではいかなさそうだ
2人を取り囲んでいた兵士の手に新たに兵器が出現した
この2人を殺すのに必要な武器は何か?
アーミーの走馬灯のような脳の回転が新たなる武器を作り出す
拳銃、刀、機関銃、速射砲、散弾銃、火炎放射器、ガトリング砲、グレネード、レーザガン、ミサイル・・・それらとは全く性能を異にし、そのどれよりも「強く」かつ「効率的」に仕留められる
そんな夢のような武器が必要であり
そして望んだ武器は目の前に現れる
その悪魔的武器がその手に具現化して宿る。
「わたしが作れる中で最強の武器だ、名は『アイランド』 まあ、これから死ぬ貴様らには関係のない情報だ・・・せめてその性能を冥土の土産とでもしてくれ」
その『アイランド』と呼ばれる武器は銃のような形でもなければ爆弾でもない
それは言ってみればグローブのようだった ボクシングのではなく野球のグローブに近い形をしている。
「おいおい・・・完成してたのかよ 見積もりではあと10年はできないはずの武器のはずだったのによぉ」
「魔族の能力は進化し続けている 3日前のデータはもう役に立たんと言われるほどにな」
「え?あの手に装着してるゴツゴツしたやつそんな強いの?」
リリィが見えないながらも空気の密度を感じ取って『アイランド』の形を認識した
レイヴンの慌てる様を見て不安になってきた彼女はおでこに冷や汗を垂らしながら その五感をアンテナのようにキョロキョロさせている。
「説明は長くなるからできないが一つ教えといてやる あいつらが撃ってきたら避けようとするな能力で『吸収』しとけ」
「・・・なんだかよくわかんないけど・・・わかった」
小さく言葉を交わすと包囲網の中で互いに距離をあけて再度警戒を強める
それにあまり気を関せずアーミーは兵士に構えさせた。
「まずは邪魔なアンテナから破壊させてもらおうか」
人差し指を立ててそれをリリィに向ける
ヴゥーンとパソコンの起動音のような音がした
指先に青白いエネルギーが溜まっていく その時生じた音はいやに高く耳の奥に響く
そして、兵士の目はライフルの照準を合わせるようにリリィを対象にオートフォーカスする
リリィはそこから桁違いのエネルギーを感じ取って思わず後ずさりした。
「逃げんな!ほんの1秒にも満たない隙があれば あの武器はオレ達の命を軽く吹っ飛ばすぞ」
鬼気迫るような表情でレイヴンがリリィに制止を命令する
顔には珍しく怯えが見えた
未曾有の兵器『アイランド』それはいったいどれほどの強さなのか
「リリィッ!上から来るぞッ!!」
レイヴンにそう言われる前に彼女はその耳で奇襲を感じ取っていた
「なによこれ」
なるほどこの攻撃は避けようとして避けられるものではない
そう感じると間も無く頭上から一つのエネルギーが地に到来し、光が大地を一瞬にして貫いた。
「ビーム光線!!?」
目が眩むばかりの光を放ちながらものすごい勢いでリリィに迫って来る
元から目が見えないので目が眩むことは無い 身を翻して足を振り上げ それに一蹴を叩き込んだ
ビーム到達2秒前にその動きを察知していたが、いざくらってみるとそれは予想していたよりも勢いが強く 逆に攻撃を返したリリィの支えとなっている片脚が地面にめり込んでいった。
「う、グググ・・・『エナジぃ・・・ドレイン』・・・!」
凄まじい力の波がリリィの足から体に吸い込まれていく 攻撃をくらっているにもかかわらずリリィの体力、魔力が回復していく
しかし、完全に『吸収』できるわけではない
一気に飲み物を吸い込むとむせてしまうように リリィの『エナジードレイン』もまた無理なエネルギー量を一気に『吸収』すると一時的な容量オーバーを迎えて能力が閉じてしまう
そうなれば『吸収』しきれていない光線の勢いがその折れてしまいそうに細い体を飲み込んで焼き焦がしてしまう。
「リリィッ!」
だが、いよいよパワー負けしてしまう、足元に亀裂が入り脚から血が吹き出る。
「ぐぁあああ!」
光の柱に潰されて喉から獣のような叫び声が出た
そこに直径3mくらいの穴が空き、それはどこまで続いているのか分からないほどに深い リリィが能力で力を吸い取ってこの威力
ならば本来の威力は?
魔界の兵器は想像の及ばない次元にあるようだ。
「まずは一匹」
どこかの兵士が1人そう呟いた
それと同時に27人全員の兵士がレイヴンをある程度の距離をあけて包囲すると指で差し狙った
ヴゥーン!と また頭に響く重厚な音がこだまし、エネルギーが集中されていく
百発百中、攻撃は外れることを知らず
一撃必死、当たればいとも容易く命を消し去る
『アイランド』はこの二つの性質を持つ
それは魔族の作った戦闘衛星と無尽蔵な魔力の連携により攻撃を放つ鬼跡の兵器だ
「クソッ!このスペック・・・手に負えねえ!」
座標を入力する事でそこにいる生物にロックオン
そのロックオンは衛星からの電波によるもので外すことは不可能であり、ロックオンが完了すると、いつどこでどんな状況だろうと魔力光線を撃てば標的に当たる
その威力はまるで隕石のようで
街を吹き飛ばす程の衝撃と熱を持っているにもかかわらずクレーターを作らない
一点集中されたパワーが当たったものを消滅させてしまうからだ。
「一発でこの威力だ 一斉に撃ったらどうなるかな?」
「やっ・・・てみやがれ・・・!い、いや!やっぱやめろ!危ねえから!」
両手を前に突き出すようにしてやめろという意思表示を送るが当然普通に無視される
空が青白く光ると夕方の闇を切り裂きながら27本にも及ぶ高圧光線が墜落するように大地に降りかかった。
「まったく!お兄ちゃんの言うことを聞けねえとは 出来の悪い弟を持っちまったぜッ!」
逆にレイヴンは闇の稲光を大地に打ち付けるように展開
魔力の影響を受けた地面は蛇がのたうち回るようにグネグネと形を変動させていく。
「『武装超壁(アトランティス)』!」
レイヴンが技の名前を叫ぶと地はドームの形に姿を変え、幾重にも重なると『アイランド』より発される光線を真正面から受ける。
「無駄だ、『アイランド』の光線はいかなるものでも消滅させる力を持つ、物質的な防御ではなんの意味もなさない」
その言葉の通り、光の破壊力は障子の紙を破るかのように地盤で作られた障壁を貫き、地面そのものも深くえぐりとり、消滅させる
そして神の槍と表現されそうに程美しい光線は、また更に天から降り注ぎ 穴を開け、吹き飛ばし、削っていく
大地を串刺しにしてビルも民家も壊されていく内に、もうもうと土煙が立つ、流石のレイヴンだろうとこれを受けては生きてはいられまい
そう思いレイヴンの死に様を想像したその時 その土煙の中で何かが動いた
人影のようだ
それも1人ではない
「確かに 防御にゃなんの役にも立たねえな」
「でも、騙すための目隠しくらいにはなったんじゃない?」
片方は巨大で歪な腕を
もう一方の人影はその脚を
ぶぅんと横に切る動きで動かすと宙に舞う土煙は綺麗さっぱり吹き飛び、そこに見えたのは・・・黒い『反逆者』と美しき『共犯者』その2人であった。
「ケホケホっ・・・それにしても、煙たいわ」
「ははは、潰される瞬間地面動かして助けてやったんだ文句言うなって」
「突然足引っ張っぱって引きずられるからびっくりしたわよ」
「あっ!砂が目に入った」
「そっちから話フったくせに話をそらすな」
目をこすりながら歩いてくるレイヴン その身体には傷一つなく 元気にケラケラと笑っている
しかも、仕留めたと思っていた人間の女まで生き残っているとは アーミーの計算外のことであった。
「気にくわん・・・その態度・・・どうも いけ好かん」
別段驚く様子は見せないが声に怒りが混ざり始めた
「そうか?お兄ちゃんはお前が改心するなら愛してやれるぞ弟よ」
呆れるほど明るい表情でレイヴンは両手を広げて 脳の一部をどこかに忘れてきたように惚けたセリフを言ってのける
「勝ち誇るには早過ぎるぞ 兄よ、お前はまだ我が手中にあるのだからな」
その声に呼応するように兵の表情がメキメキメキと表情筋が音を立てて歪んでいく まるで般若の面のような顔つきになると
「わははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
一斉に大声で笑いだした。
「な・・・んだぁ?」
「ひっ・・・」
27人分の大声が荒野になりかけている都の空に駆け上がっていった
メガホンを使っているような大声が 人の喉から出てくる こんな人間の声は聞いたことがない
兵士達の喉から血が吹き出た
しかし、誰1人として声を出すのをやめない
口からダラダラと血を流しながら しわがれた声でスピナーのように音を立てている。
「うっうう・・・」
リリィはその狂気を孕み、感情を持たない笑い声をまともに聞いてしまい涙目になって肩を震わせていた
どんな機械よりも正確に音を拾えるリリィにこの声はどう聞こえているのだろうか
恐怖は彼女の耳にどう聴こえているのだろうか。
「なんのつもりだ!アーミー!!」
どこかでこの状態を操っているアーミーに声を荒げながら叫び掛ける
だが、どんなに睨みつけても何も答えず
兵士達は沈みゆく夕日に笑う
ドンッ!
その時青白い光の柱が頭上から落ちてくる。
「ハッ!」
レイヴンは意識と眼を頭上に滑らせる
燦々と輝くエネルギーを視認すると両腕を挙げ、レーザーに向かって手のひらを広げた。
「『血濡れの太陽(ブラッディサン)』
&
『黒染する翼(ショットフェザー)』!!」
右手からは緑色の炎が、左手からは吸い込まれそうに黒い烏の羽が飛び出す
それをレーザー光線にぶち当てる。
「なるほどな、そのバカでけえ笑い声で『アイランド』の発射音を誤魔化すつもりだったか!」
緑色の炎と漆黒の羽が閃光を押し返していく
「でもなぁ!何発撃とうが!オレは死なねえええんだよぉ!!!!」
雄々しく叫び声を上げると『溶解』と『腐敗』の力が『アイランド』を上回り、それを逆に消滅させた。
「でも、連射されちゃ堪んねえから逃げるわ」
渾身のキメ顔を作って敬礼しながらレイヴンは勢いよくその場から逃げ出した。
「わははははははははははははははは!!」
大声で周りの笑い声を打ち消すようにレイヴンも笑い声を発して走る。
「ほれ、リリィ!いつまでもうずくまってちゃなんも始まんねーぜ」
脱兎のような脚力で駆け出すと耳を塞いでヘタリ込むリリィを担ぎ上げて包囲網から抜け出していく。
「逃すか!」
一斉にレイヴンに向かって兵士が動き出す
しかし、レイヴンはそれを押しのけ元繁華街を抜けた
兵士達はアーミーの『命の分配』によって身体能力がアップしているが 各自に与えられているのは30人分の生命 つまり元の30倍に強くなっている
それなのに 追いつけない
「今度はしっかりつかまっとけよ、離れたら即『アイランド』の餌食だ」
瓦礫だらけで走りづらい道をものすごい速さで突っ切っていく
だが、忘れてはならない『アイランド』の座標特定によるロックオンは一度作動すると地球上どこにいたとしても外れることはないということを
「まあいい 追いつけずともこちらにはコレがある」
偵察用の『G.Iジョー』で操った虫を飛ばすと
アーミーの27つの殺意がレイヴンを狙い撃つ
天に信号を送ると闇が青白く輝き神の裁きが降るかのような光が降りかかった。
「悪りぃがすでに対策はできてんだぜ!」
グン、と足を踏ん張り大きく跳躍すると同時に『アイランド』の光線がレイヴンを皮一枚かすめて地面に突き刺さっていった。
「オオオーッ!」
次々と襲いかかる光線をレイヴンは蝶のように舞い、かわし続けた。
「なんだ、なにが起こっている!?なぜ当たらない!」
アーミーは混乱した
『アイランド』の命中率はこれまでのデータ上では100%だった 音速で動く標的だろうと捉えてきた
なのに当たらない いくら撃ってもレイヴンは皮一枚のところで躱している
なぜか?なぜなのだ アーミーの神経は一時その事の推理のみに集中される
そしてちょうど100発目を撃ったところで気がついた。
「こいつ・・・ロックオンGPSの情報更新の一瞬のスキを抜けてやがる」
これは盲点だった
いや、誰もやれるだなんて思ってもいなかったのだから、盲点だとしても実行は不可能に近い行為だ
なぜならば 衛星にレイヴンの位置情報が送られ、光線が発射されるまでの0.1秒に満たないタイムラグを狙った回避だったからだ
少しでもタイミングを逃せば消滅だというのにレイヴンはひょいひょい躱して逃げていく
「当たるもんかよ!マヌケッ!」
「この・・・反逆者が・・・!」
一発外すごとにアーミーの心の中の何かが膨らんでいく
真っ黒でドロドロしていてどうしようもなく邪悪な何かが・・・
「ねえ、レイヴン」
「なんだ、今見ての通り忙しいから手短に頼むぞ」
背後に消滅の光線を落とされながら腕に抱える少女を見やると少しだけ耳を傾ける。
「一見あんたが押してるように見せてるけど まだ肝心の本体が見つかってないのよ どうするつもり?」
そう、一番の心配事はそれだった
本元のアーミーを倒さない限り兵士は二人を襲い続けるだろう
当然だがアーミーの居場所は誰も知らない
まず『G.Iジョー』の能力範囲すらわかっていないので絞り込むことすら難しい
ここで一つ画期的な作戦を思いつかなければそのうち数に追い詰められて負けてしまうだろう。
「なんとかなる!」
「どんだけ楽観的なのよあんた」
投げやり気味な発言に眉をひそめて呆れているとリリィは一つのことに気がつく。
「光線の攻撃が止まった?」
さっきまで雨のように落ち続けた攻撃はなんの前触れもなく無くなっていた
このことが逆に二人を不安にさせる。
「諦め・・・るわけがねえよな」
上を見上げても光るものは飛行機一つなかった
空を見てもなにがあるわけでなくとっくに太陽が沈み、いつにも増して真っ黒な夜空になっているだけだった。
「え、なに?なによこの気配・・・まるで」
「どうかしたか?」
驚くと同時にリリィは身じろぎした 下ろせということらしい
レイヴンが心配そうに手を離すとリリィは空気に耳をすませて辺りを探る。
「うっ・・・!なんで・・・」
大げさに見えるような驚き方をすると今度はガタガタと震えだす。
「おい!一体なにがあった!?」
異変を感じて言葉をかけるが、どれほどのショック受けたのか、ある方向を指差しなにも言わず視線を伏せている
首を回してリリィが指をさす方を見てみるとレイヴンも驚いた。
「うっ・・・なるほど・・・こいつはキツイぜ」
そこに立つのはいつからいたのか
片方はリリィに似た長い黒髪の女性
もう片方は背が高くヤモリのように痩せ細っている男とのコンビだった
しかもその顔は二人ともよく知っている
震える声帯と唇でやっとの思いでリリィは声を発した。
「お父さん・・・お母さん・・・」
二人の目と鼻の先に立つのはリリィの両親である【シズク】と【マクシム】の夫婦だ
やはり、家から二人の姿が消えていたのは アーミーの兵士にされてしまったからのようだ。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁっ・・・」
リリィは肩で息をして歯をガタガタいわせて震えだした
誰よりも家族思いな彼女には あまりにも酷すぎる現実に心の許容量がオーバーしてしまったのか。
「くそっ」
しかし、突然何かを決めたような表情に変わると 大きな瞳に涙を溜めて立ち上がると激しく膝をあげて構えた。
「許せない・・・許さないわ!こんなことッ!!」
再び立ち上がる時は地面にヒビを入れる程の力で地を踏み
「絶っっ対に許せないッ!!」
天に届きそうな声で怒鳴りつけた。
「リリィ!」
レイヴンがリリィの暴走を心配して肩に手を置く
「邪魔しないで」
しかし、パッとその手を払われてしまった。
「ここは・・・一人でやりたいの!」
「リリィお前・・・」
まだ20にもならない少女が涙を流しながら、敵を倒すために磨いてきたはずの技を、愛する親に向ける これを残酷というほかはなかった。
「ワガママ言ってんじゃねぇ!」
しかし、レイヴンはそんなかわいそうな リリィの眼前に回り込むとおもいっきりデコピンをくらわせる。
「痛ったぁ!!」
バヂンと鈍い炸裂音がしておでこからシュ~っと煙が立つ
いきなりのことで驚き半分で涙目になりつつリリィはレイヴンに掴みかかった。
「なにすん・・・」
「うだうだ言ってねえで少しは他人を頼れ!」
だが、リリィの掴もうとした手は途中の宙ぶらりんのまま動きを止めてしまった
なぜならその手よりも早くレイヴンがリリィの両肩に手を置いたからだ。
「両親を傷つけるのが怖いんだろ?」
「そうよ このしみったれた世の中でも・・・いや、だからこそ育まれる愛ってもんがある その愛が他人に壊されるくらいなら いっそ私が・・・」
レイヴンの訊ねた事にリリィは答えるが 語尾に近づくほど声が震えてまた泣きそうになっていた。
「けっ、この親孝行娘が お前みたいな あまちゃんがそんな不安定な精神のまま勝てるほどアーミーの『G.Iジョー』は弱くねえよ」
そう言ってレイヴンは敵と化したシズクとマクシムに向き直る。
「オレも手伝う、お前の親の命くらいなら保証できるぜ」
リリィは不機嫌そうに赤くなったおでこを撫でるとため息をついて拳を握った
そして魔力もなにも纏わせず目の前の背中を殴った。
「おりゃっ!」
「痛ってぇ!」
コツンといい音が鳴った
レイヴンが痛がるその横に並び立つとリリィはふと笑った。
「そんなに言うなら手伝わせてやらなくもないわ、死ぬ気で付いてきな!」
「そうこなくっちゃな!」
ポキポキっと指を鳴らしながらレイヴンも構える
出会って1時間も経っていないような間柄でも たとえ利害が一致していなくても自分より弱い者困っていれば守ろうとする
このレイヴンは相当なお兄ちゃん気質の魔族のようだ。
「ふぅぅ~~~・・・」
リリィはその身を舞わせて龍のごとき魔力を着飾るように美しい肢体に纏わせた
受難の道を歩き始めたばかりの彼女は戦意を奮い立て 荒々と運命に背く
ヒーローを気取る訳ではないがリリィは正義に燃える
無垢の命をしもべにして、さらには両親にまで手をだした魔族を・・・
その悪しき存在を目の当たりにしてその炎が強く燃え上がったのだ。
「こんな運命 蹴っ飛ばしてやるわ!!」
街灯も無い暗闇の中でリリィは運命に宣戦布告を申し付けた。
To Be Continued→
そこの一番大きな机のすぐそばの椅子、つまり社長デスクに設置された 椅子に座る一つの影がある
それはこの沈んだ空間に溶け込むような色をしたエネルギーを放って佇み、腕を組んで座っている
恐ろしさもありながら ただそこにいるだけで絵になる 妖しい色香までもが漂う
他の生物とは違うこの圧倒的存在感、間違いなく魔族、それも超一流のだ
その魔族の男の頭には角を隠すためなのか バンダナが巻かれ、眉間には刻まれたように深い シワを寄せていた
本人は真顔のつもりかもしれないが怒っているようにしか見えない
ふと手のひらを上に向かって広げると手相の生命線端あたりからホログラムが現れた
店の商品を丸ごと買った時のレシートのように長々と常人では理解できないほどのデータ量が羅列されている
暗い中眩しがる様子もなくそれを見る
表情一つ変えずに眺め終えるとその男は目をつむった。
(現在わたしが操る兵士の数 1875名 1分以内にレイヴン、またはリリィを襲撃可能な兵士の数27名・・・これでは少なすぎるか?)
頭の中で一つ計算をする
(いや、十分だな 『死神』へ向けている500人分の数を差し引いて1375名 そこから更に27人引いて27で割る・・・49.9か ・・・予備の分の何十人かの事を考えておくと、現在レイヴンと女へすぐに駆けつけられる兵士のほぼ全員の力を【50倍】にはできるな)
何かを決めるとニヤリと笑った
口の中はズラリと鋭い牙が連なっている
(では出撃だ)
頭の中を整理し終えると 目を閉じたまま意識を外の世界に滑らせていく
視界がパッと広がり幾つもの目を手に入れたように無数の視覚情報が頭の中に飛び込む
息を吸えば梅雨明けのカラッとした空気が鼻を通っていった
しかし、動くのはこの男ではなく この男に操られるただの人間『G.Iジョー』の兵士だ
この男、『将軍』
その名は【アーミー】
ラジコンを動かす程度の手間暇で人の命を操れる
ゆえに彼は自らの軍隊を持たない
魔王家の人間はそれぞれ軍隊を持つのが普通だが、アーミーは孤高を貫くように軍事力を持とうとしなかった
しかし、それは決して他の兄弟と比べて弱いなどということではなく 逆にこの圧倒的力を振るう魔王家の中をただの一人で その地位を保っている
軍を持たないというのは 弱者どころか強者の証明なのだ
敵を味方につけ瞬く間に戦場を掌握する
そして誰も彼の味方を見たことがない 戦いが終わればもう用済みとして処理するからだ
そこでアーミーは魔界でこう呼ばれている『無勢の将軍』と
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
空は暮れかかった日の赤と闇夜のコントラストで美しく濁っている
街中に展開された『G.I』の包囲網は【反逆者】レイヴンと【死神】ゼルクそしてリリィを囲って徐々に縮まり ジリジリと確実に追い込んでいた。
「なぁ、お前のオヤジさんはどんな人なんだ?」
「・・・優しい人・・・だったかな?あんまり覚えてないけど」
隠れていつ来るかもわからない機を待つため
どことも知らない薄暗い高層ビルに隠れている二人は戦闘中に関わらず呑気な会話をしていた
互いの会話に慣れていない二人の言葉はぎこちない。
「いつも笑ってたし 叱られたことなんて一度もないわ 私が良い子してたってこともあるんだけど」
「そうか~、オレもそういう親に恵まれたかったぜ」
そう言って天井を見上げると 表情を殺して窓から身を乗り出し、下に構える者達を仰いだ。
「オレなんかオヤジどころか弟までもこんなだからな」
眼下に広がるはアーミーの操る『G.Iジョー』軍団 砂糖に群がるアリのようにわらわら寄って来る
いつ居場所がバレたのか 偶然なんてことはないだろう 鳥や小さな虫か何かを操って偵察機の代わりに使っているに違いない。
「飛ぶぜー!リリィ!」
表情の死んだ兵士達は一斉に強力無比な兵器をその手に構えて砲撃を開始する
その時にレイヴンもリリィも思い切りよく窓を蹴破って10階から飛び降りていた。
「ウッヒョオオオオオオオ!!!」
「やぁぁぁぁぁあああ!!」
片方はハイテンションに叫び
片方は甲高く悲鳴をあげる
後ろでビル壁に当たった砲弾が爆発し、その破片をまき散らした。
「あっぶねえな、バズーカとかロケットランチャーの類か?あんまり詳しくないけど」
「キャアア!!!」
「『八咫烏』!」
空中でレイヴンはリリィを胸元に抱き寄せる
そして、背に漆黒の翼を出現させて 一気に浮上する
高速移動によりこちらを狙う弾丸はギリギリのところでレイヴンに当たらず起動を逸れていった。
「れ、レイヴン 空を飛ぶのはライフルとかに狙われて危ないんじゃなかったっけ!?」
親に抱きつく小猿のようにしっかりと腰に手を回して涙目になりながら心配していることを述べると 目の前のレイヴンは「大丈夫だ」と口にして急降下を始めた。
「ちょっ!はや、速い速い!!!」
リリィは絶叫系が嫌いだ
目が見えない分発達した他の感覚が余計な恐怖をより一層掻き立ててしまうからだ
情けない声を出しながらもその手はしっかりとレイヴンを掴んで離さない。
「着地するぜ気引き締めな!」
地に足をつけると同時にその落下による衝撃が足元のコンクリートを板チョコでも割るかのように たやすく踏み砕いた
散らかすように着地したレイヴンは腕にリリィを抱え、挑発的に笑う。
「ふふふふ!ヒーロー参上っ!だぜ」
ヒーローそう名乗った反逆者は悪役のようなオーラを身にまとい 悪魔のような牙と角をむき出しに立っている。
「いつまで抱いてんのよ」
腕の中にいたリリィはいつまで経っても離されないので身じろぎしてそこを抜け出す
敵に囲まれているのに服がシワになっていないか そういえばどさくさに紛れて胸とか触られてないかなどと気にする程の余裕があるようで 焦りは見えない さっき飛び降りた時の方がよっぽど恐怖を感じていただろう。
「反逆者がヒーローとは呆れるな」
「自らに正義があるとでも思っているのか?」
「人間のくだらない考えに感化されたか」
「口だけの雑魚め」
「貴様は一族の恥だ」
あたりを取り囲む敵兵の口から馬事雑言が飛び交う
対するレイヴンは手で耳を塞いで聞く耳持たないアピールをする
「オレも一応魔王の血ってもんが流れてるみてえだな さっきからこの考えしか浮かばねえよ」
「なんだ?」
リリィに何か手の動きで合図を送ると勢いよく包囲網の外へ駆け抜けた。
「勝った方が正義だ!!!」
地面を蹴っ飛ばして何十mも上のビル壁にヤモリのように飛びつく
そうするとそれを追って包囲網の形が一気に崩れた
陽動で散解させる狙いか
しかし、バラバラになったはずの陣形は2秒を待たずしてもとの取り囲むような丸型に戻った
何人操る対象がいてもアーミーのコントロールに狂いはない
自分の体を動かすのと同じ感覚で他人の命を操作しているのだ
それを複数人分 たやすくやってのけるアーミーの集中力は並ではない
魔界でもここまでの集中力は稀有な存在と言える。
「なるほど、だがそれで言うならばやはりわたしが正義だな!」
何重もの銃火器攻撃、圧倒的物量がレイヴンの張り付くビルを粉々にしていく
しかも恐ろしく早くて強い、こそげ落とすように 爆発が繰り返された
ロケットランチャーの大玉混じりの弾丸の嵐は粉塵をあげながら全てを葬っていく。
「あんたの相手はレイヴンだけじゃないのよ!」
その時兵士たちの背後から細い脚での一撃が強襲した
回転が加えられたその一発は一人の敵兵の後頭部を切り裂くようにして迫る。
「ああ、知っているさ」
だが、躱された
ブォン!という風切り音が敵兵の髪の毛を撫でつけただけでダメージはない。
「アホみてえに撃ちまくりやがって!当たったら危ねーだろうがよお!!」
そうしているうちにレイヴンは壁を蹴って隣の建物に移る。
「OK!リリィ逃げてくれ こっちは充分『溜まった』からよ!」
爆風の中、レイヴンは隣のビルにしがみつくと指をパチンと鳴らした
「『武装』・・・!」
ビリビリビリビリと大地が揺れる
地震よりも小刻みでそれは鼓動のようだ
次の瞬間兵士たちの足元がカッと赤く光った。
「『解除』ッ!」
ドンッ!
鼓膜が裂けるかと思うほどの衝撃と爆音が走る
兵士たちの体はあまりの衝撃に吹き飛ばされ 壁にめり込む者までいた
リリィは跳びのきつつ耳を塞ぐ どんな小さな音も拾ってしまう耳でこの音をまともに聞けば 耳どころか脳にまで異常をきたしてしまうだろう。
「すごいパワーね・・・」
リリィは爆発のあった方へ向き直る
熱気が邪魔で細かく情報は拾えないが 煙と炎の中で何人かが立ち上がっている気配を感じ取った。
「この作戦は自信あるぜ~」
レイヴンの『武装』によって銃乱射での衝撃を全て相手の足元へ蓄積させ解放する
その作戦は見事決まったがそれでもなお立ち上がる者が残っているようだ。
「ゾンビかよ」
レイヴンは壁に突っ込み壁に体を固定している指を離して地に着する
顔を伏せたまま何かをたぎらせているようだ
顔をあげ、その鋭い目を敵兵のさらにその先にいるアーミーに向けながら一歩ずつゆっくりと歩んでいく
爆破により飛散した瓦礫に足を取られてよろめくが 顔には戦意が讃えられていた
爆音に脳を揺らされたリリィも少しふらつく足取りで寄っていく。
「オレは足を止める 多分一瞬だけだ あとはリリィ・・・頼めるか?」
腕を前に突き出して腰を落とす
魔界流の拳法なのか、いやに流々な揺らめきをその身につけて構える。
「しくじらないでよね、あんたがいないと 私の愛するこの街から人が消えちゃうわ」
リリィも右脚を曲げて胸元まで膝をあげ、構える
一歩踏み出した者から蹴り飛ばされる確かな感覚を視覚的に訴えるような仰々しさがその線の細い少女の身体に現れていた。
「殺れ、『G.Iジョー』!」
だが、命令一つで動く兵士は目の前にある危機にも命を投げ出してかかっていってしまう 確実に死ぬのがわかっていたとしても行くのだ 壁にめり込んで動かない兵士までその一言に反応して復活し、走り出した。
「気をつけろ」
「あんたこそね」
互いに目配せして、また前に向き直る
この『G.Iジョー』はそう一筋縄ではいかなさそうだ
2人を取り囲んでいた兵士の手に新たに兵器が出現した
この2人を殺すのに必要な武器は何か?
アーミーの走馬灯のような脳の回転が新たなる武器を作り出す
拳銃、刀、機関銃、速射砲、散弾銃、火炎放射器、ガトリング砲、グレネード、レーザガン、ミサイル・・・それらとは全く性能を異にし、そのどれよりも「強く」かつ「効率的」に仕留められる
そんな夢のような武器が必要であり
そして望んだ武器は目の前に現れる
その悪魔的武器がその手に具現化して宿る。
「わたしが作れる中で最強の武器だ、名は『アイランド』 まあ、これから死ぬ貴様らには関係のない情報だ・・・せめてその性能を冥土の土産とでもしてくれ」
その『アイランド』と呼ばれる武器は銃のような形でもなければ爆弾でもない
それは言ってみればグローブのようだった ボクシングのではなく野球のグローブに近い形をしている。
「おいおい・・・完成してたのかよ 見積もりではあと10年はできないはずの武器のはずだったのによぉ」
「魔族の能力は進化し続けている 3日前のデータはもう役に立たんと言われるほどにな」
「え?あの手に装着してるゴツゴツしたやつそんな強いの?」
リリィが見えないながらも空気の密度を感じ取って『アイランド』の形を認識した
レイヴンの慌てる様を見て不安になってきた彼女はおでこに冷や汗を垂らしながら その五感をアンテナのようにキョロキョロさせている。
「説明は長くなるからできないが一つ教えといてやる あいつらが撃ってきたら避けようとするな能力で『吸収』しとけ」
「・・・なんだかよくわかんないけど・・・わかった」
小さく言葉を交わすと包囲網の中で互いに距離をあけて再度警戒を強める
それにあまり気を関せずアーミーは兵士に構えさせた。
「まずは邪魔なアンテナから破壊させてもらおうか」
人差し指を立ててそれをリリィに向ける
ヴゥーンとパソコンの起動音のような音がした
指先に青白いエネルギーが溜まっていく その時生じた音はいやに高く耳の奥に響く
そして、兵士の目はライフルの照準を合わせるようにリリィを対象にオートフォーカスする
リリィはそこから桁違いのエネルギーを感じ取って思わず後ずさりした。
「逃げんな!ほんの1秒にも満たない隙があれば あの武器はオレ達の命を軽く吹っ飛ばすぞ」
鬼気迫るような表情でレイヴンがリリィに制止を命令する
顔には珍しく怯えが見えた
未曾有の兵器『アイランド』それはいったいどれほどの強さなのか
「リリィッ!上から来るぞッ!!」
レイヴンにそう言われる前に彼女はその耳で奇襲を感じ取っていた
「なによこれ」
なるほどこの攻撃は避けようとして避けられるものではない
そう感じると間も無く頭上から一つのエネルギーが地に到来し、光が大地を一瞬にして貫いた。
「ビーム光線!!?」
目が眩むばかりの光を放ちながらものすごい勢いでリリィに迫って来る
元から目が見えないので目が眩むことは無い 身を翻して足を振り上げ それに一蹴を叩き込んだ
ビーム到達2秒前にその動きを察知していたが、いざくらってみるとそれは予想していたよりも勢いが強く 逆に攻撃を返したリリィの支えとなっている片脚が地面にめり込んでいった。
「う、グググ・・・『エナジぃ・・・ドレイン』・・・!」
凄まじい力の波がリリィの足から体に吸い込まれていく 攻撃をくらっているにもかかわらずリリィの体力、魔力が回復していく
しかし、完全に『吸収』できるわけではない
一気に飲み物を吸い込むとむせてしまうように リリィの『エナジードレイン』もまた無理なエネルギー量を一気に『吸収』すると一時的な容量オーバーを迎えて能力が閉じてしまう
そうなれば『吸収』しきれていない光線の勢いがその折れてしまいそうに細い体を飲み込んで焼き焦がしてしまう。
「リリィッ!」
だが、いよいよパワー負けしてしまう、足元に亀裂が入り脚から血が吹き出る。
「ぐぁあああ!」
光の柱に潰されて喉から獣のような叫び声が出た
そこに直径3mくらいの穴が空き、それはどこまで続いているのか分からないほどに深い リリィが能力で力を吸い取ってこの威力
ならば本来の威力は?
魔界の兵器は想像の及ばない次元にあるようだ。
「まずは一匹」
どこかの兵士が1人そう呟いた
それと同時に27人全員の兵士がレイヴンをある程度の距離をあけて包囲すると指で差し狙った
ヴゥーン!と また頭に響く重厚な音がこだまし、エネルギーが集中されていく
百発百中、攻撃は外れることを知らず
一撃必死、当たればいとも容易く命を消し去る
『アイランド』はこの二つの性質を持つ
それは魔族の作った戦闘衛星と無尽蔵な魔力の連携により攻撃を放つ鬼跡の兵器だ
「クソッ!このスペック・・・手に負えねえ!」
座標を入力する事でそこにいる生物にロックオン
そのロックオンは衛星からの電波によるもので外すことは不可能であり、ロックオンが完了すると、いつどこでどんな状況だろうと魔力光線を撃てば標的に当たる
その威力はまるで隕石のようで
街を吹き飛ばす程の衝撃と熱を持っているにもかかわらずクレーターを作らない
一点集中されたパワーが当たったものを消滅させてしまうからだ。
「一発でこの威力だ 一斉に撃ったらどうなるかな?」
「やっ・・・てみやがれ・・・!い、いや!やっぱやめろ!危ねえから!」
両手を前に突き出すようにしてやめろという意思表示を送るが当然普通に無視される
空が青白く光ると夕方の闇を切り裂きながら27本にも及ぶ高圧光線が墜落するように大地に降りかかった。
「まったく!お兄ちゃんの言うことを聞けねえとは 出来の悪い弟を持っちまったぜッ!」
逆にレイヴンは闇の稲光を大地に打ち付けるように展開
魔力の影響を受けた地面は蛇がのたうち回るようにグネグネと形を変動させていく。
「『武装超壁(アトランティス)』!」
レイヴンが技の名前を叫ぶと地はドームの形に姿を変え、幾重にも重なると『アイランド』より発される光線を真正面から受ける。
「無駄だ、『アイランド』の光線はいかなるものでも消滅させる力を持つ、物質的な防御ではなんの意味もなさない」
その言葉の通り、光の破壊力は障子の紙を破るかのように地盤で作られた障壁を貫き、地面そのものも深くえぐりとり、消滅させる
そして神の槍と表現されそうに程美しい光線は、また更に天から降り注ぎ 穴を開け、吹き飛ばし、削っていく
大地を串刺しにしてビルも民家も壊されていく内に、もうもうと土煙が立つ、流石のレイヴンだろうとこれを受けては生きてはいられまい
そう思いレイヴンの死に様を想像したその時 その土煙の中で何かが動いた
人影のようだ
それも1人ではない
「確かに 防御にゃなんの役にも立たねえな」
「でも、騙すための目隠しくらいにはなったんじゃない?」
片方は巨大で歪な腕を
もう一方の人影はその脚を
ぶぅんと横に切る動きで動かすと宙に舞う土煙は綺麗さっぱり吹き飛び、そこに見えたのは・・・黒い『反逆者』と美しき『共犯者』その2人であった。
「ケホケホっ・・・それにしても、煙たいわ」
「ははは、潰される瞬間地面動かして助けてやったんだ文句言うなって」
「突然足引っ張っぱって引きずられるからびっくりしたわよ」
「あっ!砂が目に入った」
「そっちから話フったくせに話をそらすな」
目をこすりながら歩いてくるレイヴン その身体には傷一つなく 元気にケラケラと笑っている
しかも、仕留めたと思っていた人間の女まで生き残っているとは アーミーの計算外のことであった。
「気にくわん・・・その態度・・・どうも いけ好かん」
別段驚く様子は見せないが声に怒りが混ざり始めた
「そうか?お兄ちゃんはお前が改心するなら愛してやれるぞ弟よ」
呆れるほど明るい表情でレイヴンは両手を広げて 脳の一部をどこかに忘れてきたように惚けたセリフを言ってのける
「勝ち誇るには早過ぎるぞ 兄よ、お前はまだ我が手中にあるのだからな」
その声に呼応するように兵の表情がメキメキメキと表情筋が音を立てて歪んでいく まるで般若の面のような顔つきになると
「わははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
一斉に大声で笑いだした。
「な・・・んだぁ?」
「ひっ・・・」
27人分の大声が荒野になりかけている都の空に駆け上がっていった
メガホンを使っているような大声が 人の喉から出てくる こんな人間の声は聞いたことがない
兵士達の喉から血が吹き出た
しかし、誰1人として声を出すのをやめない
口からダラダラと血を流しながら しわがれた声でスピナーのように音を立てている。
「うっうう・・・」
リリィはその狂気を孕み、感情を持たない笑い声をまともに聞いてしまい涙目になって肩を震わせていた
どんな機械よりも正確に音を拾えるリリィにこの声はどう聞こえているのだろうか
恐怖は彼女の耳にどう聴こえているのだろうか。
「なんのつもりだ!アーミー!!」
どこかでこの状態を操っているアーミーに声を荒げながら叫び掛ける
だが、どんなに睨みつけても何も答えず
兵士達は沈みゆく夕日に笑う
ドンッ!
その時青白い光の柱が頭上から落ちてくる。
「ハッ!」
レイヴンは意識と眼を頭上に滑らせる
燦々と輝くエネルギーを視認すると両腕を挙げ、レーザーに向かって手のひらを広げた。
「『血濡れの太陽(ブラッディサン)』
&
『黒染する翼(ショットフェザー)』!!」
右手からは緑色の炎が、左手からは吸い込まれそうに黒い烏の羽が飛び出す
それをレーザー光線にぶち当てる。
「なるほどな、そのバカでけえ笑い声で『アイランド』の発射音を誤魔化すつもりだったか!」
緑色の炎と漆黒の羽が閃光を押し返していく
「でもなぁ!何発撃とうが!オレは死なねえええんだよぉ!!!!」
雄々しく叫び声を上げると『溶解』と『腐敗』の力が『アイランド』を上回り、それを逆に消滅させた。
「でも、連射されちゃ堪んねえから逃げるわ」
渾身のキメ顔を作って敬礼しながらレイヴンは勢いよくその場から逃げ出した。
「わははははははははははははははは!!」
大声で周りの笑い声を打ち消すようにレイヴンも笑い声を発して走る。
「ほれ、リリィ!いつまでもうずくまってちゃなんも始まんねーぜ」
脱兎のような脚力で駆け出すと耳を塞いでヘタリ込むリリィを担ぎ上げて包囲網から抜け出していく。
「逃すか!」
一斉にレイヴンに向かって兵士が動き出す
しかし、レイヴンはそれを押しのけ元繁華街を抜けた
兵士達はアーミーの『命の分配』によって身体能力がアップしているが 各自に与えられているのは30人分の生命 つまり元の30倍に強くなっている
それなのに 追いつけない
「今度はしっかりつかまっとけよ、離れたら即『アイランド』の餌食だ」
瓦礫だらけで走りづらい道をものすごい速さで突っ切っていく
だが、忘れてはならない『アイランド』の座標特定によるロックオンは一度作動すると地球上どこにいたとしても外れることはないということを
「まあいい 追いつけずともこちらにはコレがある」
偵察用の『G.Iジョー』で操った虫を飛ばすと
アーミーの27つの殺意がレイヴンを狙い撃つ
天に信号を送ると闇が青白く輝き神の裁きが降るかのような光が降りかかった。
「悪りぃがすでに対策はできてんだぜ!」
グン、と足を踏ん張り大きく跳躍すると同時に『アイランド』の光線がレイヴンを皮一枚かすめて地面に突き刺さっていった。
「オオオーッ!」
次々と襲いかかる光線をレイヴンは蝶のように舞い、かわし続けた。
「なんだ、なにが起こっている!?なぜ当たらない!」
アーミーは混乱した
『アイランド』の命中率はこれまでのデータ上では100%だった 音速で動く標的だろうと捉えてきた
なのに当たらない いくら撃ってもレイヴンは皮一枚のところで躱している
なぜか?なぜなのだ アーミーの神経は一時その事の推理のみに集中される
そしてちょうど100発目を撃ったところで気がついた。
「こいつ・・・ロックオンGPSの情報更新の一瞬のスキを抜けてやがる」
これは盲点だった
いや、誰もやれるだなんて思ってもいなかったのだから、盲点だとしても実行は不可能に近い行為だ
なぜならば 衛星にレイヴンの位置情報が送られ、光線が発射されるまでの0.1秒に満たないタイムラグを狙った回避だったからだ
少しでもタイミングを逃せば消滅だというのにレイヴンはひょいひょい躱して逃げていく
「当たるもんかよ!マヌケッ!」
「この・・・反逆者が・・・!」
一発外すごとにアーミーの心の中の何かが膨らんでいく
真っ黒でドロドロしていてどうしようもなく邪悪な何かが・・・
「ねえ、レイヴン」
「なんだ、今見ての通り忙しいから手短に頼むぞ」
背後に消滅の光線を落とされながら腕に抱える少女を見やると少しだけ耳を傾ける。
「一見あんたが押してるように見せてるけど まだ肝心の本体が見つかってないのよ どうするつもり?」
そう、一番の心配事はそれだった
本元のアーミーを倒さない限り兵士は二人を襲い続けるだろう
当然だがアーミーの居場所は誰も知らない
まず『G.Iジョー』の能力範囲すらわかっていないので絞り込むことすら難しい
ここで一つ画期的な作戦を思いつかなければそのうち数に追い詰められて負けてしまうだろう。
「なんとかなる!」
「どんだけ楽観的なのよあんた」
投げやり気味な発言に眉をひそめて呆れているとリリィは一つのことに気がつく。
「光線の攻撃が止まった?」
さっきまで雨のように落ち続けた攻撃はなんの前触れもなく無くなっていた
このことが逆に二人を不安にさせる。
「諦め・・・るわけがねえよな」
上を見上げても光るものは飛行機一つなかった
空を見てもなにがあるわけでなくとっくに太陽が沈み、いつにも増して真っ黒な夜空になっているだけだった。
「え、なに?なによこの気配・・・まるで」
「どうかしたか?」
驚くと同時にリリィは身じろぎした 下ろせということらしい
レイヴンが心配そうに手を離すとリリィは空気に耳をすませて辺りを探る。
「うっ・・・!なんで・・・」
大げさに見えるような驚き方をすると今度はガタガタと震えだす。
「おい!一体なにがあった!?」
異変を感じて言葉をかけるが、どれほどのショック受けたのか、ある方向を指差しなにも言わず視線を伏せている
首を回してリリィが指をさす方を見てみるとレイヴンも驚いた。
「うっ・・・なるほど・・・こいつはキツイぜ」
そこに立つのはいつからいたのか
片方はリリィに似た長い黒髪の女性
もう片方は背が高くヤモリのように痩せ細っている男とのコンビだった
しかもその顔は二人ともよく知っている
震える声帯と唇でやっとの思いでリリィは声を発した。
「お父さん・・・お母さん・・・」
二人の目と鼻の先に立つのはリリィの両親である【シズク】と【マクシム】の夫婦だ
やはり、家から二人の姿が消えていたのは アーミーの兵士にされてしまったからのようだ。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁっ・・・」
リリィは肩で息をして歯をガタガタいわせて震えだした
誰よりも家族思いな彼女には あまりにも酷すぎる現実に心の許容量がオーバーしてしまったのか。
「くそっ」
しかし、突然何かを決めたような表情に変わると 大きな瞳に涙を溜めて立ち上がると激しく膝をあげて構えた。
「許せない・・・許さないわ!こんなことッ!!」
再び立ち上がる時は地面にヒビを入れる程の力で地を踏み
「絶っっ対に許せないッ!!」
天に届きそうな声で怒鳴りつけた。
「リリィ!」
レイヴンがリリィの暴走を心配して肩に手を置く
「邪魔しないで」
しかし、パッとその手を払われてしまった。
「ここは・・・一人でやりたいの!」
「リリィお前・・・」
まだ20にもならない少女が涙を流しながら、敵を倒すために磨いてきたはずの技を、愛する親に向ける これを残酷というほかはなかった。
「ワガママ言ってんじゃねぇ!」
しかし、レイヴンはそんなかわいそうな リリィの眼前に回り込むとおもいっきりデコピンをくらわせる。
「痛ったぁ!!」
バヂンと鈍い炸裂音がしておでこからシュ~っと煙が立つ
いきなりのことで驚き半分で涙目になりつつリリィはレイヴンに掴みかかった。
「なにすん・・・」
「うだうだ言ってねえで少しは他人を頼れ!」
だが、リリィの掴もうとした手は途中の宙ぶらりんのまま動きを止めてしまった
なぜならその手よりも早くレイヴンがリリィの両肩に手を置いたからだ。
「両親を傷つけるのが怖いんだろ?」
「そうよ このしみったれた世の中でも・・・いや、だからこそ育まれる愛ってもんがある その愛が他人に壊されるくらいなら いっそ私が・・・」
レイヴンの訊ねた事にリリィは答えるが 語尾に近づくほど声が震えてまた泣きそうになっていた。
「けっ、この親孝行娘が お前みたいな あまちゃんがそんな不安定な精神のまま勝てるほどアーミーの『G.Iジョー』は弱くねえよ」
そう言ってレイヴンは敵と化したシズクとマクシムに向き直る。
「オレも手伝う、お前の親の命くらいなら保証できるぜ」
リリィは不機嫌そうに赤くなったおでこを撫でるとため息をついて拳を握った
そして魔力もなにも纏わせず目の前の背中を殴った。
「おりゃっ!」
「痛ってぇ!」
コツンといい音が鳴った
レイヴンが痛がるその横に並び立つとリリィはふと笑った。
「そんなに言うなら手伝わせてやらなくもないわ、死ぬ気で付いてきな!」
「そうこなくっちゃな!」
ポキポキっと指を鳴らしながらレイヴンも構える
出会って1時間も経っていないような間柄でも たとえ利害が一致していなくても自分より弱い者困っていれば守ろうとする
このレイヴンは相当なお兄ちゃん気質の魔族のようだ。
「ふぅぅ~~~・・・」
リリィはその身を舞わせて龍のごとき魔力を着飾るように美しい肢体に纏わせた
受難の道を歩き始めたばかりの彼女は戦意を奮い立て 荒々と運命に背く
ヒーローを気取る訳ではないがリリィは正義に燃える
無垢の命をしもべにして、さらには両親にまで手をだした魔族を・・・
その悪しき存在を目の当たりにしてその炎が強く燃え上がったのだ。
「こんな運命 蹴っ飛ばしてやるわ!!」
街灯も無い暗闇の中でリリィは運命に宣戦布告を申し付けた。
To Be Continued→
0
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