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第29話「喧嘩腰戦争」
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レイヴンは走っていた
韋駄天のように、はたまた友情と己の正義を貫くため命を削って走ったメロスのように
崩れた都会の街並みが時速444kmで視界の横を通り過ぎて行く
隣に仲間の姿はない
ゼルクは暫く前から姿を見ない
リリィは置いてきた
たった一つの目的のため、孤独に直走る。
「おとなしく待ってろよ~、アーミー!」
その目的とは【アーミー】へトドメを刺すことだ
アーミーはどうやらリリィの一撃では倒しきれなかったようで ただ気を失っていただけ
今、目を覚まし レイヴン達へ殺意を漲らせ、待ち構えているはずだ
それに勘付いたレイヴンはリリィの両親【シズク】と【マクシム】から魔力を少しだけ貰って走り出したのだ
アーミーが生きている・・・なぜ、それが分かるのかはレイヴンにも解らない
しかし、理屈じゃないのだ
「考えるな感じろ」とはよく言ったもので、血が繋がった兄弟だからなのか よっぽどアーミーの思念が強いのか
どうなのかは解らないが、レイヴンは感じるままの方向へ走っている
きっと、そこにアーミーはいる
確証も証拠もないが心の中にはそう確信できる確かな自信がなぜか満ち溢れていた
そして、廃ビルの密林を抜けると急に開けた場所が顔を覗かせた。
「ほらな、やっぱり居やがったか」
いや、元は開けた場所ではなかったのだろう・・・
その開所の中心に魔王家五男、【無勢の将軍】の名を冠する【アーミー】が立っていた
こちらに背を向けていてどのような表情をしているのかは窺い知れないが、体から垂れ流される血よりも紅い魔力の色から精神状態は大体察せる
両手には人間界の銃を模した武器が握られており、形的にはハンドガンに酷似している
その銃口からは今撃ったばかりだと言わんばかりに硝煙が上っている。
「これ、お前がやったのか?」
周りを見渡しながらアーミーに問いかける
「・・・・」
背を向けたまま返答はない、しかし銃口から昇る煙が、アーミーの立つその場所が 物語る
・・・そう、ここは広場なんかではない
元は都会の建造物の密集地だったはずの場所をアーミーがただ二丁の銃を持ってして更地に変えたのだ
ちょっとした八つ当たりの結果なのだ
たった一人でこの武力、『G.Iジョー』の兵士とは到底比べものにはならない。
「このままよぉ~・・・アーミー、てめえが魔界に帰るってんなら生かして置いてやる、だがな・・・」
返答のない弟に近づき、兄は魔力を全身に展開しながら 両腕を広げて目を見開いた。
「向かってくるって言うんならオレはお前を殺す、それでいいなら撃ってこい 受けて立つ」
その言葉がアーミーの耳に届く、ピクッとそれに反応を見せると、錆びついた回転ドアのように不気味なほどゆっくりと体を回してレイヴンに対し正面を向く。
「オイオイ、なんつ~目付きしてやがる」
ここで初めて目を合わせたレイヴンは一歩引いた
最初は立派だったであろうボロボロのロングコートに身を包み
頭には額から前に向いて生える角
そして、顔の左半分が焼けただれ、黒く変色している
その目つき、いや、顔つきは【将軍】というより鬼を彷彿とさせた
一応戦わないという選択肢は用意してはいるが、きっと交渉の余地はない
殺意を人型に固めてできたような轟々とした雰囲気はレイヴンの合金の如き精神を気圧す程で
こんな雰囲気を醸している奴がおとなしく引き下がるわけがないのだ。
「死ね」
突如銃が構えられ弾丸が放たれる
「うォオ!!」
瞬時に反応し、横に躱す
弾はまっすぐに飛んでいき
一発の弾丸は背後にあった重厚な壁を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「やっぱりな、殺る気だよな!」
ゴロゴロと転がりながらも足元のコンクリートを体に『武装』する
汲み取り式のポンプのように、足元から全身に機械のようなメタリックカラーが拡がっていく
レイヴンも殺る気だ。
「始めるか、命がけの兄弟喧嘩を!!!」
ダンッ!と大きく音を立てながら地面を蹴って高く飛び上がる
それと同時に先ほど吸収しておいたコンクリートを劔に変えて右腕に『武装』した
劔を魔力でコーティングして硬度を上げる。
「一人でここに来た時点で・・・」
両手に持つ拳銃が空気に溶けるように消える
「貴様に勝ち目はない!」
そして、その魔力が混ざり合い、再び形取られる時にはマシンガンへと姿を変えていた
そいつを空中にいるレイヴンにぶっ放す
「そんならお前は!」
レイヴンは怯まずそのままアーミーに向かって落下する
「オレに勝負を挑んだ時点で運の尽きだぜ!!」
迫って来る弾丸を次々と腕の刃で叩き落としていく
グングン地面とアーミーが近づいて来る
地面との距離が5mを切った時、刃を振り上げた。
「真っ二つだぜ!!」
「チッ・・・」
舌打ちをするとアーミーはその場から跳びのき
レイヴンは刃を振り下ろす
攻撃は空を切り、地面に勢いよく突き刺さった。
「惜しい」
ニヤリと笑うと同時に衝撃が走る、地面に大きく亀裂が入り、空気圧が砂礫と砂埃を舞い上がらせた
その衝撃は容易に地面を叩き割ってしまう。
「惜しくねえよ」
荒々しく呟かれた一言と共にそれ以上に荒々しい弾丸の連射を砂煙の中心に向かって撃ち込む
姿は見えないがそこにレイヴンがいるから撃ち込む、アーミーは今、ただの殺人マシーンと化していた。
「い~や 惜しいね・・・これで仕留める!」
ハッキリとした意思を持った声が、銃弾舞い踊る先から聞こえる
その声が耳に届くその瞬間、ミラーボールのように強烈な光と熱気が粉塵の中から漏れ出した。
「なんだと!?」
身の危険を感じたアーミーは大きく横にステップを踏んで、嫌な予感から身を回避させる
その判断は正しかった
飛び退いたその直後に砂塵を掻き分け、一発の魔力弾が地面を抉って直線上にあるものを焼き尽くしていった
それは緑色に燃える炎
そう、魔王家十男【エビル】から奪った能力『硫炎』だ
その一発が全てを溶かし燃やす。
「なあ!接近戦は得意か?」
こんどは粉塵の中から声が聞こえた
それと同時に物凄い勢いで黒い影が飛び出した。
「生きてたか・・・」
目の前を炎の塊が通り過ぎる最中 その影は笑みを浮かべながら変形した右腕の刃を突きつけて襲いくる。
「ぬおぉ!!」
正確に頭部を狙ってくる一閃をなんとか見切り、頭を引いて皮一枚のところで刃を流す
頬の薄皮をかすめていった刃に思わず情けない叫び声を上げてしまうが、足は一歩も後ろに引くことはなかった。
「・・・驚かせてくれるじゃないか」
手に持つマシンガンが蒸発するように宙へと消える
代わりに手元には一本の長い剣が出現した。
「【戦】と付くものならば、負けはしない・・・」
レイヴンの振り払った一撃の下に潜り込み、身の丈はありそうな程の刀剣に手を掛けた。
「俺は、【将軍】だ!!」
レイヴンは突き出した腕を防御のために引き返そうとしたが
それよりもアーミーの居合い抜きが速度を上回った
抜き身の刀身がレイヴンの腹を横に掻っ捌く。
「痛え!」
だが、その刃はレイヴンの体を切り裂くことができなかった
刀身が胴に触れた瞬間、鉄同士がぶつかり合うような鋭い音を響かせて刀が弾かれたのだ。
「痛ててて・・・奇襲失敗・・・」
「チッ、胴体も『武装』してたか」
レイヴンは今、全身をコンクリートで『武装』している
魔力でできた刀を生身で弾き返すほどに全身がカチコチに変質している。
「じゃあ、今度こそ・・・こっちの番だぜ」
低い声で威圧するようにそう言うと
姿勢を低く構えて右腕の刃に魔力を集中させた。
「『硫炎』!」
発火した
レイヴンの右腕の刃が突如緑色に燃え盛る。
「この一撃、当たりゃ その身を焼き切るぜ」
猪突猛進
一直線になんの考えもなく直線的な突進を繰り出した。
「気ィつけなッ!」
アーミーが太刀筋に入る
レイヴンは刃を構えているが、全く躱す仕草を見せない
避けるどころか剣を握り、腰を落として構えた
このまま迎撃する気だ。
「いい度胸じゃねえか」
そして、互いがお互いの攻撃射程距離に入る。
「ウォラァァァッ!」
燃え盛る刃を頭上から振り下ろす
「喧しい!」
それに対して剣を垂直に振り払う
紫電一閃
ガキン!と金属音が鳴り、ぶつかり合った刃同士は火花を散らした
そのまま互いは刃を引かず、鍔迫り合う
押しつ押されつ、崩れそうで崩れない力合わせには勝負が付きそうにない。
「くっ・・・」
だが、アーミーが先にその場から飛び退いた
力の均衡は互角かと思われたが、どうやらそれは間違いだったらしい
剣の切っ先が溶け落ちていた。
「力は互角だったが、オレの能力が上回ったようだな」
そう自慢げな態度でニヤニヤしながら切っ先を【無勢の将軍】へと向ける
しかし、腕を振り下ろした途端
刃が欠けた。
「ありっ?」
カラーン、と硬い音を立ててレイヴンの切っ先が割れ落ちた。
「力は互角だったが、わたしの硬度が上回ったようだな」
再び闘いは振り出しに戻る
単純な殴り合いになればレイヴンにとってそれは得意分野、魔界では喧嘩でレイヴンに勝てる者はないとまで言われている
トップクラスのポテンシャルに王族のくせに喧嘩で鍛えたファイトセンス、そしていくらやられても相手に食らいつく不死身のスタミナ、しかも『武装』で手に入れた『硫炎』と『腐敗』の能力をも併せ持つ、しかも両能力共に防御を無視するタイプだ
喧嘩で敵に回したくない相手の特徴を詰め込んだ戦士である
しかし、それに対しているアーミーも負けてはいない
その強力無比な能力『G.Iジョー』は生物を操るだけではない、兵士がいるだけではただの『群体』だ、そこに武器と統率があって初めて『軍隊』となる
つまり、アーミーの能力の真価は魔力を固めて作り出す武器にある
武器の構造を詳細に渡って記憶していられる卓越した知能を持ち、複雑な機械をも出現させられ、既存の武器の性能を大きく上回る物を想像によって創造することもできる
無勢にして無敵、【無勢の将軍】の名に相応しい戦闘スペックを誇る
この魔王候補二人は基礎能力も特殊能力も負けず劣らず高く、そして応用が利く
なんでもできる者同士の闘いほどめんどくさく、長引くものはないだろう
現に二人とも隙がなく、お互いが攻めあぐねている。
「待っててもしょうがねえ」
だが、レイヴンがその沈黙を破った
待つのが嫌いなため、沈黙に陥ると大して作戦も立てず、すぐに魔力を全身に展開する
戦略はその場その場の行き当たりばったりで立てて闘うのがレイヴンの常套手段
よくそれでここまで生き残ったなと思う
戦闘能力が高く、頭の回転が早くなければできない戦法だ
しかし、キッチリと作戦を立ててから動き出すタイプのアーミーにとって、このスタイルは天敵と言っても過言ではない。
「『G.Iジョー』・・・」
まだ、作戦が固まりきっていないアーミーは内心焦りながらも その手に拳銃とナイフを出現させた。
「これだから・・・バカと闘るのは疲れるんだ・・・」
臨戦態勢に入った二人の間で魔の圧力がぶつかり、その空気は竜巻のように荒巻いて周りにあるもの全てを震わせる。
「見せてみろ、お前の全力」
体を沈み込ませ コンクリートの地面に足跡が付くほどのパワーで一歩を踏み出した。
「追いつけるかッ?」
一歩でアーミーの目の前へ
高速の踏み込みで生じた突風がアーミーの前髪を後ろになで付ける。
「なんだそのスピードは!イヤミか!?」
鬼の形相をしている顔面にキツイやつを一発たたき込んでやろうと拳を撃ち出す
だが、惜しいところで反応され、ナイフを向けられた
このままでは拳が串刺しになる、そう考えて咄嗟に右腕全体を『武装』で固めた。
「スピード自慢だよ!!」
ダイヤモンド並みの硬度になった拳をナイフと正面衝突させ、酷く耳に残る音を響かせる。
「チッ・・・バカのくせに機転がきくやつだ」
「お前も貧弱なくせして魔力だけは強えのな」
アーミーの持つナイフがレイヴンのフルスイングの衝撃に耐えた
拳と刃の間で小さく火花が散り、押しつ押されつ、また押し合いの力比べが始まる。
「どけろよ、こんなオレのポコチンよりも小せぇナイフ!」
「断る、それに 貴様はそんな小さなナイフをどかす事も出来ないのか?」
その煽りが頭にカチンときた
折り紙つきの負けず嫌いなだけあり、目と鼻の先で挑発されて乗らないわけがない。
「オレ、短気なこの性格を直そうと思った事ないんだよね」
ふとそんな事を言うと
左拳を握った。
「片っ端から喧嘩買って全部勝ってきたからなァァアア!!!」
そして、右腕で抑えるナイフに左拳を撃ち出す。
「そうか、光栄だよ 貴様に敗戦の悔しさを教えた一人目になれるとはな」
だが、レイヴンの左ストレートよりも早くアーミーが左手に持つ拳銃を発砲した。
「うぁ!?」
寸分の狂いもなく 弾丸はレイヴンの左拳に命中し、弾く
『武装』で左腕も固めていたので傷を負わずに済んだが、ビリビリと痺れる感覚が腕全体に伝わって神経を鈍らせた。
「いや、確か貴様は父さんにも負けていたな・・・」
左腕の衝撃に全身が引っ張られ、体制を崩しているところにすかさず二発目を撃ち込む。
「ぐッ・・・ギィ!」
「と、なるとわたしは二人目というわけか」
攻撃に集中していたため魔力が腕に集中し、胴体の防御が手薄になっていた そこを狙われる
弾丸が腹にめり込む激痛に変な声が出た。
「二人目というのはなんとも歯切れが悪くてならんな・・・」
バン!バン!バン!バン!
三発目、四発目、五発目、六発目・・・と、一定のリズムを刻んで規則正しく鉄砲玉がレイヴンに撃ち込まれてゆく。
「ぐぁぁぁ・・・」
弾丸を撃ち込まれるたび体が一歩ずつ後ろに押されていく
「バンバンバンバンと・・・豆鉄砲でも痛えもんは痛えんだぜ」
たまらずレイヴンは腕を交差させて攻めを止め、守りに徹する態勢に入る
しかし、防御の上からも御構い無しに弾は撃ち込まれ続けた。
「『G.Iジョー』・・・こいつはどうだ?」
アーミーが撃つのを止める
拳銃とナイフが両掌の間で魔力に戻り、混ざり合い、一丁のマシンガンに形を変えた。
「げっ・・・!」
銃口がこちらを向く
銃を構える鬼の形相が随分と楽しそうに歪んでいた。
「喧嘩に銃は・・・なしだろ・・・?」
「今更だな」
逆にレイヴンの表情からは余裕の色が消え、冷や汗が垂れる
あの銃がただの銃ならば、弾丸が当たった瞬間『武装』で 体に取り込めるのだが、あいにくアレは魔力製の武器だ、『武装』で取り込むことはできない。
「・・・オレはこっから逃げるわけにはいかねえんでな」
腰を据える
通常とは比べ物にならない射速、威力を持つマシンガン相手に肉体がどれだけ持つか分からないが
両腕をクロスさせ、衝撃に備えて膝を曲げた。
「避ける気があろうがなかろうが結果は同じ・・・」
引き金に指をかける
だが、撃つ瞬間 また銃が変貌を遂げる
「挽肉だ!」
細身の銃砲が大筒に変わり、注ぎ込まれる魔力の総量も甚大なものとなっていく
素早い身のこなしでその大筒を肩に担ぎ、今度こそ引き金を引いた
その武力の名は、『バズーカ砲』
爆音と共に熱の塊が筒から飛び出し、マッハの世界で砲撃対象へとぶつかりに行った
「野郎ッ!」
発射直前の形態変化に焦った
兵器クラスの一発
まともにくらえば即死、よくても四肢を失う威力だ
なのに、レイヴンは向かってくる弾へ逆に向かって行った。
「なんのつもりだ貴様!?」
拳を握りしめ、熱で前髪が焼け焦げながらも 躊躇なしに右腕のストレートを放つ。
「知らんのか?攻撃はッ!最大のぼうぎゃァァァアア!!」
弾に攻撃が当たると同時に爆発が起こる
衝撃と共に火の粉と砂埃が辺りに舞った。
「・・・あいつ、どうせ助からんと思ってのヤケクソか?」
既存の武器とは比べ物にならない威力を持つ『G.Iジョー』製の兵器
たった一発の砲撃が辺り一面を吹っ飛ばし、
火の粉と粉塵の捲き上る前で、その砲撃者がニヤリと笑った。
「ふ・・・はははははははは・・・!」
肩を震わせ、目を細め、口元を歪ませ笑う
その歪み笑いの声は静寂に沈んでいく。
「死んだなぁ~これは!!ははははははははははははははははは!!!!」
巨大な砲を片手に持ち、天を仰ぐようにゲラゲラと笑い続けた。
「・・・と」
が、波が引くようにその悪魔の表情が無表情へ帰した。
「思わせておいて、隙を狙うつもりだったか?レイヴン」
砂埃の幕が少し晴れだした
そこにはぼんやりベールに包まれたような人影が浮かび上がる。
「お、大当たりぃ~~・・・」
弱々しい声がそこから聞こえた
そして、砂の霧が晴れ、その姿が露わになる。
「お前、あんなに笑うんだな」
レイヴンだ
しかし、そこにいつもの元気さがない
余裕を思わせるセリフもいつものキレがない まるでとってつけたように勢いが死んでいた。
「貴様こそ笑ってみろ・・・いつものふざけた態度はどうした?」
「ワッハッハッ・・・これで満足かしら?」
虚勢を張るが、右半身が焼け焦げ、傷口から向こう側の景色が見えそうだ
しかも、真正面から砲撃とぶつけ合わせた右腕は付け根から無くなっており、全身から流れ出る大量の血が命の危機を物語っていた。
「・・・それが人生最期の言葉でいいか?」
重い音を立てて軽々とバズーカ砲を肩に担ぎ直した
その威圧的な火口がこちらに向く
指をかけた引き金を少し引くだけでその消えかかっている命を軽々と葬ることができるのだ
いやでもビビってしまう。
「・・・・・・」
今度こそレイヴンは動けない
立っているのも奇跡・・・いや、生きているのが奇跡な程の傷を負っているのだ、これ以上何かアクションを起こせるはずがない。
「・・・テメェこそ・・・」
ボソッと何か呟いた
声が小さすぎてアーミーから見れば唇が少し動いたようにしか見えない
だが、顔を上げて今度はハッキリ言葉を発した。
「テメェこそ、それが人生最期の言葉でいいのか?」
意外なセリフの切り返しにアーミーは眉をひそめて怪訝な顔をした。
「なんだと?」
せっかく勝利のいい気分だったが、水を差されて少し嫌な気分になりながらの疑問。
「シン!やれ!」
その質問を完全に無視してレイヴンが何もない虚空に叫びつけた
そのセリフの頭にあった名前にアーミーは聞き覚えがある。
「シン・・・」
次の瞬間、アーミーの右腕が血を吹き出し、付け根から地面へ落ちた。
「な・・・・・なんだとォォ!?」
今度は驚愕しながらの疑問を叫ぶ
ボトッと重たい肉が落ち、そこに血だまりができていく。
「なんだと・・・まさか!!?」
そして、また次の瞬間・・・
今度は胸が張り裂けた
透明な刃が胸から腹までを掻っ捌き、血が噴水のように吹き出す。
「あ・・・あぁあ・・・ァァァアア!!!」
大量の出血により足元が血だまりになっていく
体から生気が抜けていく中、振り返る。
「キ・・・さまぁあ!!」
そこには血だまりに足の形が浮かんでいた。
「悪いなアーミー兄さん・・・俺はレイヴンについて行くことにしたんだ」
何もないはずの空間から声が聞こえる
パチパチ・・・と静電気のようなエネルギーが散るとそこから真っ黒な服に身を包んだ男が一人、短剣片手に立っていた。
「ハァ・・・ハァ・・・生きていたのか、それになぜ反逆者の味方をする?」
そこで、頭の中の疑問に全て合点がいった
レイヴンに居場所が見つかった事・・・
シンが別行動でアーミーの潜むビルをしらみつぶしに探し当て、レイヴンへ腕時計の通信機能でその居場所を知らせたのだ。
「あんたには関係ない、そのまま死んでくれ」
シンの能力『極夜』
闇を操り、その濃度を濃くする事で姿を闇に溶かし隠す、日が暮れ、月もない闇夜の中ではさらに強い効果を発揮する
『極夜』で作り出した闇の黒衣を身に纏い、短剣をアーミーの鼻の先に突きつけた。
「いいや・・・」
今度は追い詰められたアーミーが蚊の鳴くような声で言葉を発した
完全なるチェックメイト、まさに王手を取られた、そんな状況下で最後の抵抗を見せる。
「死ぬのは貴様らだァァァアアッ!!」
「なっ!?」
アーミーはシンの短剣に頭突きをかます
ダイヤモンドを凌ぐ硬度を持つ魔族の角はガラス細工を割るかのように短剣を砕いた。
「ハハハハハハハハハハハハ!!!!お前に魔力がもうない事はバレバレなんだよ!!シン!その角、折られたようだな、角のない魔族が長時間連続して魔力を使う事など出来んからな!!!!」
そして手ぶらになったシンを蹴り飛ばした。
「グッ!」
「この国ごと!消えて無くなれ!!」
叫び声と共に、アーミーを中心として辺り一帯が紅く光り輝いた
「な・・・お前!自分ごと殺る気か!?」
その問いは魔力の爆音に掻き消され、アーミーには届かない。
「やってみろよ!てめえのその大掛かりな能力が発動すんのと、オレの拳がお前の顔面をぶっ飛ばすのとどっちが早えか!試してみやがれ!!」
後ろからレイヴンの檄が飛んだ
地に膝を付いたまま残った左腕を使ってアーミーを指差し、その気迫を飛ばす。
「フッ、一歩も動けんくせにいきがるな!」
複雑骨折、粉砕骨折、失血、四肢欠損、火傷・・・これだけのダメージを受けたレイヴンの体はすでに半分、生物として機能していない。
「クソッ!魔力の圧が強すぎてまるで嵐のようだ!近づけん!」
吹き荒れる魔力はいかなる者をも近寄せない
大地震のように揺れる中国の街
「『G.Iッ!ジョオオオオ』!」
叫びを上げ、拳を突き上げる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「きゃっ!」
ある場所で身を休めるリリィが突然の衝撃に身を縮こませた。
「闘いが激化してるようね・・・」
隣に座るシズクが怯えるリリィを抱き寄せて空を見上げた
魔力の稲光が環境に影響を及ぼし始め、空を真っ赤に染め上げている
漆黒の雲から真紅の稲光が落ちる
それは世界の終わりを告げているかのようだ。
「彼の勝利を信じて待つしかない・・・俺たちでどうにかなる次元ではなくなっている、やつらマジに化け物だ」
その光景を見るマクシムの眼には恐怖の色が伺えた
それも当然だろう、『頂正軍』に所属していた者であれば、例え あの強固な精神を持つゼルクであろうと魔族との圧倒的力の差に深いトラウマを植え付けられる
シズクもその顔を引きつらせていた。
「ううん・・・」
だが、その娘のリリィだけは違う表情を浮かべる
両親の袖を引いて言った。
「化け物なんかじゃない、レイヴンは、ヒーローよ」
少し頬を朱に染めて小さくそう言った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「化け物め・・・」
魔力に吹き飛ばされないよう地面の突っかかりに掴まり、シンはアーミーを睨みつけた
いや、正確に言えば睨みつけたのはその後ろにある『G.Iジョー』製の兵器である。
「『核ミサイル』を作り出すとは・・・」
そう、それは人類史上最強の武力
全てを無に還し、世界をチリにすることも可能な破壊兵器だ
元の数百倍の威力で武器を作り出せる『G.Iジョー』、それでこの兵器を作ったということは・・・もうこの破壊は誰にも止められない
「ふふふふふふ・・・さよならだ、忌々しき世界よ!!」
壊れかけの人形のように崩れそうな姿で紅く稲光りを散らす空を指差す
そのアーミーの指令通り、核弾頭ミサイルは火を吹きながら発射台を駆け登って空へと発射された。
「うわぁアアアアア!!!もうダメだ!終わった!!!」
柄にもなくシンが悲鳴を上げる
特級魔族が悲鳴を上げる、それほどの絶望が今、舞い上がったのだ。
「後、3秒・・・!」
ミサイルが雷に打たれれば爆発を起こす
そうなれば世界が・・・少なくともこの中国は終わりだ
それまでになんとかできるのか
魔力圧に貼り付けにされながらシンは地面で悶え動く
爪が剥がれるまで地面を引っ掻いても、折れた短剣を支えにして立ち上がろうとしても、無駄だった
角を折られ、魔力を上手く制御できないシンではこの圧力の空間を動くことは許されない。
「クソッタレ!!ォォォォォォオオオオ・・・!!!」
その不条理な力の差に涙を流し、次の瞬間必ず来る破滅への恐怖に雄叫びを上げた。
「後・・・2秒!」
救いはない
ミサイルの頭が雷雲に突っ込もうとしていた
だが、シンが抵抗する体力すら無くなったその時、横を漆黒の風が時速444kmで横切った。
「兄・・・さん!」
その漆黒には見覚えがあった。
「ウオオオオオオオオォオオォオオオオオオオオォオオォォォォオオオオオオオオオオオオォオオォォォォォォォオオオオオオオオォオオォ!!!」
爆発音かと思う程の絶叫がミサイルのように突っ込んで来る
その声に思わずアーミーは振り向いた。
「なぜだ!?」
レイヴンは走っていた
韋駄天のように、はたまた友情と己の正義を貫くため命を削って走ったメロスのように
崩れた都会の街並みが時速444kmで視界の横を通り過ぎて行く
隣に仲間の姿はない
ゼルクは暫く前から姿を見ない
リリィは置いてきた
たった一つの目的のため、『孤独なヒーロー』となって直走る。
「なぜ生も根も尽きた貴様が動けるのだ!?」
残り1秒
答えは返らない
ただ、絶叫しながら拳を握り、アーミーの懐へ飛び込んだ。
「ハァァァ!!ッッラァッ!!!」
残り0秒
そのカウントを口にするよりも早く拳が鼻先から突っ込んで頭蓋骨を砕き、頚椎から頭蓋を吹き飛ばした。
「がぁ・・・あ・・・あぁあ・・・」
力無く断末魔の声を上げながらアーミーは膝をついて、頭から崩れ落ちた。
「オレの気合い舐めんな!」
今まさに雷雲に突っ込もうとしている核ミサイルが空中で静止した
それを見上げてレイヴンは満足げに笑い、指でピストルの真似をして止まったミサイルにそれを向ける。
「バーン!」
核弾頭にヒビが入った
バギバギバギと鋭い音を立ててその亀裂は広がっていく
亀裂から紅い光が漏れ出すその瞬間、ミサイルが崩壊を起こし、各部品ごとバラバラに空間へ消えていった
そして、空からも赤みが消えて、元の暗く静かな夜の世界に戻っていく。
「ハ・・・はははは、無茶苦茶だ・・・本当に勝った・・・!」
シンが緊張から解き放たれた表情を浮かべて倒れた姿勢のままレイヴンの姿を見上げた。
「ふっ・・・シンよ、真の救世主というものは勝った時・・・そうはしゃぐもんじゃないぜ、これからオレ達と共に魔王を倒す救世主となるなら・・・ば・・・」
今にも倒れそうな その救世主はニヤリと笑うとサムズアップして
そのまま白目を剥いてぶっ倒れた。
「・・・まったく・・・かっこつかない兄貴だ」
呆れたような、笑っているのか微妙な顔をして崩壊した街の中心でシンも地面に倒れ伏した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
魔界・・・そこは力を中心として回る世界
弱い者は虐げられ、強い者が甘い汁をすする
だが、世界の中心に陣取る魔王の存在が その弱肉強食の世界に秩序と統制を与えた
それにより魔族は人類よりも上の技術力と人類よりも強かな力を得ることとなる
野生と理性が同居する世界
それが魔界だ
そして、その世界の中心、魔王城
この世のどんな建物よりも高く、大きい
まるで現代に蘇ったバベルの塔のようだ
そこには、魔王とその子供達が暮らしている
魔王の息子の数は10名
だが、レイヴンの反逆によりその人数は半減していた
その日、アーミーが敗北を喫したという情報が魔王家次男【ノヴァ】の耳に届く
情報を耳にしても彼は落ち着き払って自室に戻って考え事をしていた。
「クロウ、ホーク、パニッシュ、シン、アーミー・・・この1日で5人も倒されたか」
誰に言うでもなくそう呟くと 自室のドアの前に立ち、ノブを握った。
「おもしろい・・・少し興味が湧いた」
ドアノブを捻り、押し戸を開く
「この僕が直々に手を下してやる」
戸が開いたその先には、満面の星、そして無限の闇が広がっていた
吸い込まれるようにその宇宙に足を踏み入れると同時に戸が閉まり、何事もなかったかのようにノヴァの存在が消えて無くなった
これがノヴァの能力・・・
魔王に最も近い存在
『超新星』の魔力がレイヴンに牙を剥こうとしていた。
To Be Continued→
韋駄天のように、はたまた友情と己の正義を貫くため命を削って走ったメロスのように
崩れた都会の街並みが時速444kmで視界の横を通り過ぎて行く
隣に仲間の姿はない
ゼルクは暫く前から姿を見ない
リリィは置いてきた
たった一つの目的のため、孤独に直走る。
「おとなしく待ってろよ~、アーミー!」
その目的とは【アーミー】へトドメを刺すことだ
アーミーはどうやらリリィの一撃では倒しきれなかったようで ただ気を失っていただけ
今、目を覚まし レイヴン達へ殺意を漲らせ、待ち構えているはずだ
それに勘付いたレイヴンはリリィの両親【シズク】と【マクシム】から魔力を少しだけ貰って走り出したのだ
アーミーが生きている・・・なぜ、それが分かるのかはレイヴンにも解らない
しかし、理屈じゃないのだ
「考えるな感じろ」とはよく言ったもので、血が繋がった兄弟だからなのか よっぽどアーミーの思念が強いのか
どうなのかは解らないが、レイヴンは感じるままの方向へ走っている
きっと、そこにアーミーはいる
確証も証拠もないが心の中にはそう確信できる確かな自信がなぜか満ち溢れていた
そして、廃ビルの密林を抜けると急に開けた場所が顔を覗かせた。
「ほらな、やっぱり居やがったか」
いや、元は開けた場所ではなかったのだろう・・・
その開所の中心に魔王家五男、【無勢の将軍】の名を冠する【アーミー】が立っていた
こちらに背を向けていてどのような表情をしているのかは窺い知れないが、体から垂れ流される血よりも紅い魔力の色から精神状態は大体察せる
両手には人間界の銃を模した武器が握られており、形的にはハンドガンに酷似している
その銃口からは今撃ったばかりだと言わんばかりに硝煙が上っている。
「これ、お前がやったのか?」
周りを見渡しながらアーミーに問いかける
「・・・・」
背を向けたまま返答はない、しかし銃口から昇る煙が、アーミーの立つその場所が 物語る
・・・そう、ここは広場なんかではない
元は都会の建造物の密集地だったはずの場所をアーミーがただ二丁の銃を持ってして更地に変えたのだ
ちょっとした八つ当たりの結果なのだ
たった一人でこの武力、『G.Iジョー』の兵士とは到底比べものにはならない。
「このままよぉ~・・・アーミー、てめえが魔界に帰るってんなら生かして置いてやる、だがな・・・」
返答のない弟に近づき、兄は魔力を全身に展開しながら 両腕を広げて目を見開いた。
「向かってくるって言うんならオレはお前を殺す、それでいいなら撃ってこい 受けて立つ」
その言葉がアーミーの耳に届く、ピクッとそれに反応を見せると、錆びついた回転ドアのように不気味なほどゆっくりと体を回してレイヴンに対し正面を向く。
「オイオイ、なんつ~目付きしてやがる」
ここで初めて目を合わせたレイヴンは一歩引いた
最初は立派だったであろうボロボロのロングコートに身を包み
頭には額から前に向いて生える角
そして、顔の左半分が焼けただれ、黒く変色している
その目つき、いや、顔つきは【将軍】というより鬼を彷彿とさせた
一応戦わないという選択肢は用意してはいるが、きっと交渉の余地はない
殺意を人型に固めてできたような轟々とした雰囲気はレイヴンの合金の如き精神を気圧す程で
こんな雰囲気を醸している奴がおとなしく引き下がるわけがないのだ。
「死ね」
突如銃が構えられ弾丸が放たれる
「うォオ!!」
瞬時に反応し、横に躱す
弾はまっすぐに飛んでいき
一発の弾丸は背後にあった重厚な壁を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「やっぱりな、殺る気だよな!」
ゴロゴロと転がりながらも足元のコンクリートを体に『武装』する
汲み取り式のポンプのように、足元から全身に機械のようなメタリックカラーが拡がっていく
レイヴンも殺る気だ。
「始めるか、命がけの兄弟喧嘩を!!!」
ダンッ!と大きく音を立てながら地面を蹴って高く飛び上がる
それと同時に先ほど吸収しておいたコンクリートを劔に変えて右腕に『武装』した
劔を魔力でコーティングして硬度を上げる。
「一人でここに来た時点で・・・」
両手に持つ拳銃が空気に溶けるように消える
「貴様に勝ち目はない!」
そして、その魔力が混ざり合い、再び形取られる時にはマシンガンへと姿を変えていた
そいつを空中にいるレイヴンにぶっ放す
「そんならお前は!」
レイヴンは怯まずそのままアーミーに向かって落下する
「オレに勝負を挑んだ時点で運の尽きだぜ!!」
迫って来る弾丸を次々と腕の刃で叩き落としていく
グングン地面とアーミーが近づいて来る
地面との距離が5mを切った時、刃を振り上げた。
「真っ二つだぜ!!」
「チッ・・・」
舌打ちをするとアーミーはその場から跳びのき
レイヴンは刃を振り下ろす
攻撃は空を切り、地面に勢いよく突き刺さった。
「惜しい」
ニヤリと笑うと同時に衝撃が走る、地面に大きく亀裂が入り、空気圧が砂礫と砂埃を舞い上がらせた
その衝撃は容易に地面を叩き割ってしまう。
「惜しくねえよ」
荒々しく呟かれた一言と共にそれ以上に荒々しい弾丸の連射を砂煙の中心に向かって撃ち込む
姿は見えないがそこにレイヴンがいるから撃ち込む、アーミーは今、ただの殺人マシーンと化していた。
「い~や 惜しいね・・・これで仕留める!」
ハッキリとした意思を持った声が、銃弾舞い踊る先から聞こえる
その声が耳に届くその瞬間、ミラーボールのように強烈な光と熱気が粉塵の中から漏れ出した。
「なんだと!?」
身の危険を感じたアーミーは大きく横にステップを踏んで、嫌な予感から身を回避させる
その判断は正しかった
飛び退いたその直後に砂塵を掻き分け、一発の魔力弾が地面を抉って直線上にあるものを焼き尽くしていった
それは緑色に燃える炎
そう、魔王家十男【エビル】から奪った能力『硫炎』だ
その一発が全てを溶かし燃やす。
「なあ!接近戦は得意か?」
こんどは粉塵の中から声が聞こえた
それと同時に物凄い勢いで黒い影が飛び出した。
「生きてたか・・・」
目の前を炎の塊が通り過ぎる最中 その影は笑みを浮かべながら変形した右腕の刃を突きつけて襲いくる。
「ぬおぉ!!」
正確に頭部を狙ってくる一閃をなんとか見切り、頭を引いて皮一枚のところで刃を流す
頬の薄皮をかすめていった刃に思わず情けない叫び声を上げてしまうが、足は一歩も後ろに引くことはなかった。
「・・・驚かせてくれるじゃないか」
手に持つマシンガンが蒸発するように宙へと消える
代わりに手元には一本の長い剣が出現した。
「【戦】と付くものならば、負けはしない・・・」
レイヴンの振り払った一撃の下に潜り込み、身の丈はありそうな程の刀剣に手を掛けた。
「俺は、【将軍】だ!!」
レイヴンは突き出した腕を防御のために引き返そうとしたが
それよりもアーミーの居合い抜きが速度を上回った
抜き身の刀身がレイヴンの腹を横に掻っ捌く。
「痛え!」
だが、その刃はレイヴンの体を切り裂くことができなかった
刀身が胴に触れた瞬間、鉄同士がぶつかり合うような鋭い音を響かせて刀が弾かれたのだ。
「痛ててて・・・奇襲失敗・・・」
「チッ、胴体も『武装』してたか」
レイヴンは今、全身をコンクリートで『武装』している
魔力でできた刀を生身で弾き返すほどに全身がカチコチに変質している。
「じゃあ、今度こそ・・・こっちの番だぜ」
低い声で威圧するようにそう言うと
姿勢を低く構えて右腕の刃に魔力を集中させた。
「『硫炎』!」
発火した
レイヴンの右腕の刃が突如緑色に燃え盛る。
「この一撃、当たりゃ その身を焼き切るぜ」
猪突猛進
一直線になんの考えもなく直線的な突進を繰り出した。
「気ィつけなッ!」
アーミーが太刀筋に入る
レイヴンは刃を構えているが、全く躱す仕草を見せない
避けるどころか剣を握り、腰を落として構えた
このまま迎撃する気だ。
「いい度胸じゃねえか」
そして、互いがお互いの攻撃射程距離に入る。
「ウォラァァァッ!」
燃え盛る刃を頭上から振り下ろす
「喧しい!」
それに対して剣を垂直に振り払う
紫電一閃
ガキン!と金属音が鳴り、ぶつかり合った刃同士は火花を散らした
そのまま互いは刃を引かず、鍔迫り合う
押しつ押されつ、崩れそうで崩れない力合わせには勝負が付きそうにない。
「くっ・・・」
だが、アーミーが先にその場から飛び退いた
力の均衡は互角かと思われたが、どうやらそれは間違いだったらしい
剣の切っ先が溶け落ちていた。
「力は互角だったが、オレの能力が上回ったようだな」
そう自慢げな態度でニヤニヤしながら切っ先を【無勢の将軍】へと向ける
しかし、腕を振り下ろした途端
刃が欠けた。
「ありっ?」
カラーン、と硬い音を立ててレイヴンの切っ先が割れ落ちた。
「力は互角だったが、わたしの硬度が上回ったようだな」
再び闘いは振り出しに戻る
単純な殴り合いになればレイヴンにとってそれは得意分野、魔界では喧嘩でレイヴンに勝てる者はないとまで言われている
トップクラスのポテンシャルに王族のくせに喧嘩で鍛えたファイトセンス、そしていくらやられても相手に食らいつく不死身のスタミナ、しかも『武装』で手に入れた『硫炎』と『腐敗』の能力をも併せ持つ、しかも両能力共に防御を無視するタイプだ
喧嘩で敵に回したくない相手の特徴を詰め込んだ戦士である
しかし、それに対しているアーミーも負けてはいない
その強力無比な能力『G.Iジョー』は生物を操るだけではない、兵士がいるだけではただの『群体』だ、そこに武器と統率があって初めて『軍隊』となる
つまり、アーミーの能力の真価は魔力を固めて作り出す武器にある
武器の構造を詳細に渡って記憶していられる卓越した知能を持ち、複雑な機械をも出現させられ、既存の武器の性能を大きく上回る物を想像によって創造することもできる
無勢にして無敵、【無勢の将軍】の名に相応しい戦闘スペックを誇る
この魔王候補二人は基礎能力も特殊能力も負けず劣らず高く、そして応用が利く
なんでもできる者同士の闘いほどめんどくさく、長引くものはないだろう
現に二人とも隙がなく、お互いが攻めあぐねている。
「待っててもしょうがねえ」
だが、レイヴンがその沈黙を破った
待つのが嫌いなため、沈黙に陥ると大して作戦も立てず、すぐに魔力を全身に展開する
戦略はその場その場の行き当たりばったりで立てて闘うのがレイヴンの常套手段
よくそれでここまで生き残ったなと思う
戦闘能力が高く、頭の回転が早くなければできない戦法だ
しかし、キッチリと作戦を立ててから動き出すタイプのアーミーにとって、このスタイルは天敵と言っても過言ではない。
「『G.Iジョー』・・・」
まだ、作戦が固まりきっていないアーミーは内心焦りながらも その手に拳銃とナイフを出現させた。
「これだから・・・バカと闘るのは疲れるんだ・・・」
臨戦態勢に入った二人の間で魔の圧力がぶつかり、その空気は竜巻のように荒巻いて周りにあるもの全てを震わせる。
「見せてみろ、お前の全力」
体を沈み込ませ コンクリートの地面に足跡が付くほどのパワーで一歩を踏み出した。
「追いつけるかッ?」
一歩でアーミーの目の前へ
高速の踏み込みで生じた突風がアーミーの前髪を後ろになで付ける。
「なんだそのスピードは!イヤミか!?」
鬼の形相をしている顔面にキツイやつを一発たたき込んでやろうと拳を撃ち出す
だが、惜しいところで反応され、ナイフを向けられた
このままでは拳が串刺しになる、そう考えて咄嗟に右腕全体を『武装』で固めた。
「スピード自慢だよ!!」
ダイヤモンド並みの硬度になった拳をナイフと正面衝突させ、酷く耳に残る音を響かせる。
「チッ・・・バカのくせに機転がきくやつだ」
「お前も貧弱なくせして魔力だけは強えのな」
アーミーの持つナイフがレイヴンのフルスイングの衝撃に耐えた
拳と刃の間で小さく火花が散り、押しつ押されつ、また押し合いの力比べが始まる。
「どけろよ、こんなオレのポコチンよりも小せぇナイフ!」
「断る、それに 貴様はそんな小さなナイフをどかす事も出来ないのか?」
その煽りが頭にカチンときた
折り紙つきの負けず嫌いなだけあり、目と鼻の先で挑発されて乗らないわけがない。
「オレ、短気なこの性格を直そうと思った事ないんだよね」
ふとそんな事を言うと
左拳を握った。
「片っ端から喧嘩買って全部勝ってきたからなァァアア!!!」
そして、右腕で抑えるナイフに左拳を撃ち出す。
「そうか、光栄だよ 貴様に敗戦の悔しさを教えた一人目になれるとはな」
だが、レイヴンの左ストレートよりも早くアーミーが左手に持つ拳銃を発砲した。
「うぁ!?」
寸分の狂いもなく 弾丸はレイヴンの左拳に命中し、弾く
『武装』で左腕も固めていたので傷を負わずに済んだが、ビリビリと痺れる感覚が腕全体に伝わって神経を鈍らせた。
「いや、確か貴様は父さんにも負けていたな・・・」
左腕の衝撃に全身が引っ張られ、体制を崩しているところにすかさず二発目を撃ち込む。
「ぐッ・・・ギィ!」
「と、なるとわたしは二人目というわけか」
攻撃に集中していたため魔力が腕に集中し、胴体の防御が手薄になっていた そこを狙われる
弾丸が腹にめり込む激痛に変な声が出た。
「二人目というのはなんとも歯切れが悪くてならんな・・・」
バン!バン!バン!バン!
三発目、四発目、五発目、六発目・・・と、一定のリズムを刻んで規則正しく鉄砲玉がレイヴンに撃ち込まれてゆく。
「ぐぁぁぁ・・・」
弾丸を撃ち込まれるたび体が一歩ずつ後ろに押されていく
「バンバンバンバンと・・・豆鉄砲でも痛えもんは痛えんだぜ」
たまらずレイヴンは腕を交差させて攻めを止め、守りに徹する態勢に入る
しかし、防御の上からも御構い無しに弾は撃ち込まれ続けた。
「『G.Iジョー』・・・こいつはどうだ?」
アーミーが撃つのを止める
拳銃とナイフが両掌の間で魔力に戻り、混ざり合い、一丁のマシンガンに形を変えた。
「げっ・・・!」
銃口がこちらを向く
銃を構える鬼の形相が随分と楽しそうに歪んでいた。
「喧嘩に銃は・・・なしだろ・・・?」
「今更だな」
逆にレイヴンの表情からは余裕の色が消え、冷や汗が垂れる
あの銃がただの銃ならば、弾丸が当たった瞬間『武装』で 体に取り込めるのだが、あいにくアレは魔力製の武器だ、『武装』で取り込むことはできない。
「・・・オレはこっから逃げるわけにはいかねえんでな」
腰を据える
通常とは比べ物にならない射速、威力を持つマシンガン相手に肉体がどれだけ持つか分からないが
両腕をクロスさせ、衝撃に備えて膝を曲げた。
「避ける気があろうがなかろうが結果は同じ・・・」
引き金に指をかける
だが、撃つ瞬間 また銃が変貌を遂げる
「挽肉だ!」
細身の銃砲が大筒に変わり、注ぎ込まれる魔力の総量も甚大なものとなっていく
素早い身のこなしでその大筒を肩に担ぎ、今度こそ引き金を引いた
その武力の名は、『バズーカ砲』
爆音と共に熱の塊が筒から飛び出し、マッハの世界で砲撃対象へとぶつかりに行った
「野郎ッ!」
発射直前の形態変化に焦った
兵器クラスの一発
まともにくらえば即死、よくても四肢を失う威力だ
なのに、レイヴンは向かってくる弾へ逆に向かって行った。
「なんのつもりだ貴様!?」
拳を握りしめ、熱で前髪が焼け焦げながらも 躊躇なしに右腕のストレートを放つ。
「知らんのか?攻撃はッ!最大のぼうぎゃァァァアア!!」
弾に攻撃が当たると同時に爆発が起こる
衝撃と共に火の粉と砂埃が辺りに舞った。
「・・・あいつ、どうせ助からんと思ってのヤケクソか?」
既存の武器とは比べ物にならない威力を持つ『G.Iジョー』製の兵器
たった一発の砲撃が辺り一面を吹っ飛ばし、
火の粉と粉塵の捲き上る前で、その砲撃者がニヤリと笑った。
「ふ・・・はははははははは・・・!」
肩を震わせ、目を細め、口元を歪ませ笑う
その歪み笑いの声は静寂に沈んでいく。
「死んだなぁ~これは!!ははははははははははははははははは!!!!」
巨大な砲を片手に持ち、天を仰ぐようにゲラゲラと笑い続けた。
「・・・と」
が、波が引くようにその悪魔の表情が無表情へ帰した。
「思わせておいて、隙を狙うつもりだったか?レイヴン」
砂埃の幕が少し晴れだした
そこにはぼんやりベールに包まれたような人影が浮かび上がる。
「お、大当たりぃ~~・・・」
弱々しい声がそこから聞こえた
そして、砂の霧が晴れ、その姿が露わになる。
「お前、あんなに笑うんだな」
レイヴンだ
しかし、そこにいつもの元気さがない
余裕を思わせるセリフもいつものキレがない まるでとってつけたように勢いが死んでいた。
「貴様こそ笑ってみろ・・・いつものふざけた態度はどうした?」
「ワッハッハッ・・・これで満足かしら?」
虚勢を張るが、右半身が焼け焦げ、傷口から向こう側の景色が見えそうだ
しかも、真正面から砲撃とぶつけ合わせた右腕は付け根から無くなっており、全身から流れ出る大量の血が命の危機を物語っていた。
「・・・それが人生最期の言葉でいいか?」
重い音を立てて軽々とバズーカ砲を肩に担ぎ直した
その威圧的な火口がこちらに向く
指をかけた引き金を少し引くだけでその消えかかっている命を軽々と葬ることができるのだ
いやでもビビってしまう。
「・・・・・・」
今度こそレイヴンは動けない
立っているのも奇跡・・・いや、生きているのが奇跡な程の傷を負っているのだ、これ以上何かアクションを起こせるはずがない。
「・・・テメェこそ・・・」
ボソッと何か呟いた
声が小さすぎてアーミーから見れば唇が少し動いたようにしか見えない
だが、顔を上げて今度はハッキリ言葉を発した。
「テメェこそ、それが人生最期の言葉でいいのか?」
意外なセリフの切り返しにアーミーは眉をひそめて怪訝な顔をした。
「なんだと?」
せっかく勝利のいい気分だったが、水を差されて少し嫌な気分になりながらの疑問。
「シン!やれ!」
その質問を完全に無視してレイヴンが何もない虚空に叫びつけた
そのセリフの頭にあった名前にアーミーは聞き覚えがある。
「シン・・・」
次の瞬間、アーミーの右腕が血を吹き出し、付け根から地面へ落ちた。
「な・・・・・なんだとォォ!?」
今度は驚愕しながらの疑問を叫ぶ
ボトッと重たい肉が落ち、そこに血だまりができていく。
「なんだと・・・まさか!!?」
そして、また次の瞬間・・・
今度は胸が張り裂けた
透明な刃が胸から腹までを掻っ捌き、血が噴水のように吹き出す。
「あ・・・あぁあ・・・ァァァアア!!!」
大量の出血により足元が血だまりになっていく
体から生気が抜けていく中、振り返る。
「キ・・・さまぁあ!!」
そこには血だまりに足の形が浮かんでいた。
「悪いなアーミー兄さん・・・俺はレイヴンについて行くことにしたんだ」
何もないはずの空間から声が聞こえる
パチパチ・・・と静電気のようなエネルギーが散るとそこから真っ黒な服に身を包んだ男が一人、短剣片手に立っていた。
「ハァ・・・ハァ・・・生きていたのか、それになぜ反逆者の味方をする?」
そこで、頭の中の疑問に全て合点がいった
レイヴンに居場所が見つかった事・・・
シンが別行動でアーミーの潜むビルをしらみつぶしに探し当て、レイヴンへ腕時計の通信機能でその居場所を知らせたのだ。
「あんたには関係ない、そのまま死んでくれ」
シンの能力『極夜』
闇を操り、その濃度を濃くする事で姿を闇に溶かし隠す、日が暮れ、月もない闇夜の中ではさらに強い効果を発揮する
『極夜』で作り出した闇の黒衣を身に纏い、短剣をアーミーの鼻の先に突きつけた。
「いいや・・・」
今度は追い詰められたアーミーが蚊の鳴くような声で言葉を発した
完全なるチェックメイト、まさに王手を取られた、そんな状況下で最後の抵抗を見せる。
「死ぬのは貴様らだァァァアアッ!!」
「なっ!?」
アーミーはシンの短剣に頭突きをかます
ダイヤモンドを凌ぐ硬度を持つ魔族の角はガラス細工を割るかのように短剣を砕いた。
「ハハハハハハハハハハハハ!!!!お前に魔力がもうない事はバレバレなんだよ!!シン!その角、折られたようだな、角のない魔族が長時間連続して魔力を使う事など出来んからな!!!!」
そして手ぶらになったシンを蹴り飛ばした。
「グッ!」
「この国ごと!消えて無くなれ!!」
叫び声と共に、アーミーを中心として辺り一帯が紅く光り輝いた
「な・・・お前!自分ごと殺る気か!?」
その問いは魔力の爆音に掻き消され、アーミーには届かない。
「やってみろよ!てめえのその大掛かりな能力が発動すんのと、オレの拳がお前の顔面をぶっ飛ばすのとどっちが早えか!試してみやがれ!!」
後ろからレイヴンの檄が飛んだ
地に膝を付いたまま残った左腕を使ってアーミーを指差し、その気迫を飛ばす。
「フッ、一歩も動けんくせにいきがるな!」
複雑骨折、粉砕骨折、失血、四肢欠損、火傷・・・これだけのダメージを受けたレイヴンの体はすでに半分、生物として機能していない。
「クソッ!魔力の圧が強すぎてまるで嵐のようだ!近づけん!」
吹き荒れる魔力はいかなる者をも近寄せない
大地震のように揺れる中国の街
「『G.Iッ!ジョオオオオ』!」
叫びを上げ、拳を突き上げる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「きゃっ!」
ある場所で身を休めるリリィが突然の衝撃に身を縮こませた。
「闘いが激化してるようね・・・」
隣に座るシズクが怯えるリリィを抱き寄せて空を見上げた
魔力の稲光が環境に影響を及ぼし始め、空を真っ赤に染め上げている
漆黒の雲から真紅の稲光が落ちる
それは世界の終わりを告げているかのようだ。
「彼の勝利を信じて待つしかない・・・俺たちでどうにかなる次元ではなくなっている、やつらマジに化け物だ」
その光景を見るマクシムの眼には恐怖の色が伺えた
それも当然だろう、『頂正軍』に所属していた者であれば、例え あの強固な精神を持つゼルクであろうと魔族との圧倒的力の差に深いトラウマを植え付けられる
シズクもその顔を引きつらせていた。
「ううん・・・」
だが、その娘のリリィだけは違う表情を浮かべる
両親の袖を引いて言った。
「化け物なんかじゃない、レイヴンは、ヒーローよ」
少し頬を朱に染めて小さくそう言った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「化け物め・・・」
魔力に吹き飛ばされないよう地面の突っかかりに掴まり、シンはアーミーを睨みつけた
いや、正確に言えば睨みつけたのはその後ろにある『G.Iジョー』製の兵器である。
「『核ミサイル』を作り出すとは・・・」
そう、それは人類史上最強の武力
全てを無に還し、世界をチリにすることも可能な破壊兵器だ
元の数百倍の威力で武器を作り出せる『G.Iジョー』、それでこの兵器を作ったということは・・・もうこの破壊は誰にも止められない
「ふふふふふふ・・・さよならだ、忌々しき世界よ!!」
壊れかけの人形のように崩れそうな姿で紅く稲光りを散らす空を指差す
そのアーミーの指令通り、核弾頭ミサイルは火を吹きながら発射台を駆け登って空へと発射された。
「うわぁアアアアア!!!もうダメだ!終わった!!!」
柄にもなくシンが悲鳴を上げる
特級魔族が悲鳴を上げる、それほどの絶望が今、舞い上がったのだ。
「後、3秒・・・!」
ミサイルが雷に打たれれば爆発を起こす
そうなれば世界が・・・少なくともこの中国は終わりだ
それまでになんとかできるのか
魔力圧に貼り付けにされながらシンは地面で悶え動く
爪が剥がれるまで地面を引っ掻いても、折れた短剣を支えにして立ち上がろうとしても、無駄だった
角を折られ、魔力を上手く制御できないシンではこの圧力の空間を動くことは許されない。
「クソッタレ!!ォォォォォォオオオオ・・・!!!」
その不条理な力の差に涙を流し、次の瞬間必ず来る破滅への恐怖に雄叫びを上げた。
「後・・・2秒!」
救いはない
ミサイルの頭が雷雲に突っ込もうとしていた
だが、シンが抵抗する体力すら無くなったその時、横を漆黒の風が時速444kmで横切った。
「兄・・・さん!」
その漆黒には見覚えがあった。
「ウオオオオオオオオォオオォオオオオオオオオォオオォォォォオオオオオオオオオオオオォオオォォォォォォォオオオオオオオオォオオォ!!!」
爆発音かと思う程の絶叫がミサイルのように突っ込んで来る
その声に思わずアーミーは振り向いた。
「なぜだ!?」
レイヴンは走っていた
韋駄天のように、はたまた友情と己の正義を貫くため命を削って走ったメロスのように
崩れた都会の街並みが時速444kmで視界の横を通り過ぎて行く
隣に仲間の姿はない
ゼルクは暫く前から姿を見ない
リリィは置いてきた
たった一つの目的のため、『孤独なヒーロー』となって直走る。
「なぜ生も根も尽きた貴様が動けるのだ!?」
残り1秒
答えは返らない
ただ、絶叫しながら拳を握り、アーミーの懐へ飛び込んだ。
「ハァァァ!!ッッラァッ!!!」
残り0秒
そのカウントを口にするよりも早く拳が鼻先から突っ込んで頭蓋骨を砕き、頚椎から頭蓋を吹き飛ばした。
「がぁ・・・あ・・・あぁあ・・・」
力無く断末魔の声を上げながらアーミーは膝をついて、頭から崩れ落ちた。
「オレの気合い舐めんな!」
今まさに雷雲に突っ込もうとしている核ミサイルが空中で静止した
それを見上げてレイヴンは満足げに笑い、指でピストルの真似をして止まったミサイルにそれを向ける。
「バーン!」
核弾頭にヒビが入った
バギバギバギと鋭い音を立ててその亀裂は広がっていく
亀裂から紅い光が漏れ出すその瞬間、ミサイルが崩壊を起こし、各部品ごとバラバラに空間へ消えていった
そして、空からも赤みが消えて、元の暗く静かな夜の世界に戻っていく。
「ハ・・・はははは、無茶苦茶だ・・・本当に勝った・・・!」
シンが緊張から解き放たれた表情を浮かべて倒れた姿勢のままレイヴンの姿を見上げた。
「ふっ・・・シンよ、真の救世主というものは勝った時・・・そうはしゃぐもんじゃないぜ、これからオレ達と共に魔王を倒す救世主となるなら・・・ば・・・」
今にも倒れそうな その救世主はニヤリと笑うとサムズアップして
そのまま白目を剥いてぶっ倒れた。
「・・・まったく・・・かっこつかない兄貴だ」
呆れたような、笑っているのか微妙な顔をして崩壊した街の中心でシンも地面に倒れ伏した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
魔界・・・そこは力を中心として回る世界
弱い者は虐げられ、強い者が甘い汁をすする
だが、世界の中心に陣取る魔王の存在が その弱肉強食の世界に秩序と統制を与えた
それにより魔族は人類よりも上の技術力と人類よりも強かな力を得ることとなる
野生と理性が同居する世界
それが魔界だ
そして、その世界の中心、魔王城
この世のどんな建物よりも高く、大きい
まるで現代に蘇ったバベルの塔のようだ
そこには、魔王とその子供達が暮らしている
魔王の息子の数は10名
だが、レイヴンの反逆によりその人数は半減していた
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情報を耳にしても彼は落ち着き払って自室に戻って考え事をしていた。
「クロウ、ホーク、パニッシュ、シン、アーミー・・・この1日で5人も倒されたか」
誰に言うでもなくそう呟くと 自室のドアの前に立ち、ノブを握った。
「おもしろい・・・少し興味が湧いた」
ドアノブを捻り、押し戸を開く
「この僕が直々に手を下してやる」
戸が開いたその先には、満面の星、そして無限の闇が広がっていた
吸い込まれるようにその宇宙に足を踏み入れると同時に戸が閉まり、何事もなかったかのようにノヴァの存在が消えて無くなった
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見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
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女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
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なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
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