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第30話「魔王に最も近い男」
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「『G.Iジョー』」
一匹のゴキブリを捕まえて、レイヴンはそれに魔力を流し込んだ
魔力を纏わないゴキブリの体にはなんの抵抗もなく魔力が染み込んでいく
その侵食がゴキブリの脳にまで達した時
そいつは動くのを止め、人形のようにぐったりとした。
「よし!成功!」
そう笑って手に持ったゴキブリを地面に置くと 眉間に指を当て、目を瞑る。
「・・・見えて来た見えて来た」
閉じた視界に外の光景が写り込んで来る
視線がとても地面に近い、這いつくばって物を見ているようだ。
「よっしゃ、発進!」
レイヴンがそう命じるとゴキブリの両目が怪しく光り、カサカサと走り出した
小さい体なのでどんな隙間にも入り込み、羽もあるので滑空することも可能だ
崩れた瓦礫の隙間を通り、壊れたパイプの中を通って遠くまで探索する
そうして動きを確認すると また、動きを止めてその場に立ち止まった。
「実験終了」
目を開けるとゴキブリとの接続が切れる
そうして、開いた視界の 直ぐ目の前に真っ黒な男が立っていた。
「うぉ!びっくらこいた!!」
突然の登場に驚いて後ずさる
「気がつかなかったのか?」
その男はシン、レイヴンの弟だ
不機嫌でもないのにいつもしかめっ面で、右側の顔が長い前髪で隠れる鬱陶しい髪型をしている。
「兄さん、アーミーから奪った『G.Iジョー』の調子はどうだ?」
しかめっ面のまま訪ねてくる。
「ああ、使える だけど慣れてない内は戦闘で使い物にはならんな、操れるのは良くて小鳥くらいまでだしアーミーみたいに何千人もの人間はとても操れねえ、しかも今みたいに能力発動中は自分の感覚が一切使えない、もし忍び寄られでもしたらオレは無抵抗で殺されることになる」
指を立てながら能力限界を説明していく
数時間前までは敵同士だったのだが、気を許しているのか それとも裏切られても返り討ちにできる自信があるからなのか淡々と弱点の説明を済ませていく。
「・・・と、いうわけで今から『G.Iジョー』の能力でゼルクのおっさんの捜索をしようと思う、能力発動中はお前がオレを守ってくれ」
説明が終わるとレイヴンの周りにワラワラと小さな虫が湧いて出た。
「生きているといいな」
「生きてるさ、『死神』は殺せねえんだからな」
ニヤリと笑って目を瞑り、『G.Iジョー』発動状態に入った
蚊柱のような小さな羽虫が宙を飛び、または地を這って一斉に捜索に出る
その全てのコントロール権と視界を得るのは100人のサッカーチームの監督をこなすよりも難しい
そのはずだが、戦闘においては天才的であるレイヴンは1回の試運転だけでコツを掴んでおり、総勢623匹の虫を支配下に置くことに成功している。
「やはり、センスの塊のような男だ・・・これならマジに世界を救えるぞ」
気難しい顔をしながらシンが感心していると・・・
「むおぉ!?」
素っ頓狂な声を出して目をつむったままレイヴンが慌てふためきだした
何が見えたのか・・・
「兄さん?どうした!」
胸倉を掴んで体を揺らす
そうすると目を開けて逆にシンの肩を掴んで叫ぶように話し始める。
「やべえ!ノヴァだ!!」
「な・・・!冗談だろ?」
ノヴァ・・・その名を聞いてシンの表情がここで初めて吹っ飛ぶように驚愕へと変わった。
「あいつ・・・レイヴンに興味はないとか言ってたはずだ」
「目立ちすぎたか!!いや、今そんなの関係ねえッ!」
これまでにない程タジタジになるレイヴンとシン
表情に余裕がない
それ程なのか、ノヴァの存在は。
「あいつオレの操る虫に向かって手を振って笑ったんだ!」
サァっと血の気が引いていく
ノヴァと闘う想定をしていなかったシンの背筋に怖気が走った。
「見つかった!!オレの魔力を辿って こっちにくるぞ!!!!」
絶叫が更地に響くと同時に大地が謎の爆音を轟かせながら大きく揺れる
「き・・・来た!!」
突如目の前に大穴が開く
そして、その底の見えない穴の中心から一人、人影が登って顔をのぞかせた。
「やあ、反逆者ども」
ノヴァだ
彼が現れたと同時に大地が穴に引きずり込まれていく、まるでブラックホールのように その底無しの虚空に転げ落ちる
レイヴン達が立つ地面も引きずられ始めた。
「うおお!?逃げろ!逃げろ」
燃え上がっていた闘志は何処へやら二人は踵を返し、崩壊を引き起こすその穴から逃れるため逃走に全身全霊を注いだ。
「・・・なんであいつ追ってこないんだ」
「分かんねえ、オレも奴の能力の詳細を知らねえんでな」
後方を振り返るとノヴァは穴の中心でフワフワと浮きながら、ただ真っ直ぐにこちらを睨みつけていた。
「不ッ気味だな」
「兄さん、そろそろ前を向け・・・逃げるのに集中しよう」
優に100kmを越える速度で走る
1秒過ぎるごとにノヴァの姿は遠のいていき、豆粒ほどの大きさになり、遂には2人の視界からその姿が消えてしまった。
「見えなくなったが、まだ逃げるか?」
足を止め、シンが兄に訊ねる
「いや、もういいだろ 様子見をするにはちょうどいい距離だ」
そう言い、レイヴンは背に魔力を発生させた。
「『八咫烏』」
逃げているうちに闘いに巻き込まれて崩壊してたエリアから抜け出していたようで、辺りには無人の建物が多く点在していた。
「あれくらいでいいかな」
周りを見て良い感じの高さの建物を見つけると、羽ばたいてその屋根に飛び乗った
20mくらいの高さから遠くに見える大穴を眺める。
「およ?」
そこにはノヴァの姿がない
居たはずの場所にはポッカリと穴が残されているだけだ。
「どうした」
不穏に気づきシンは壁に足をかける
そうして次にはその壁を垂直に駆け上がっていた。
「どうしたんだと聞いている」
「・・・まずいぜ ノヴァがどっか行った」
360°どこにもいない
プライドが高い上にレイヴンに因縁を付けてくるノヴァが敵前逃亡するとは考え難い
何があったか、考えを巡らせる。
「あいつの能力が、どんなもんなのか詳しくは知らんが・・・確かあいつ・・・」
そして、ひとつの悪い予感に辿り着く
「しゅ・・・」
何か言おうとした瞬間、2人が立つ建物が、謎の地震と共にガクンと沈み込んだ。
「おおおお!?」
またもや地面に大穴が空いた
それは物凄い勢いで拡がっていき、大きいはずの建物が瞬時に飲み込まれていく
「しゅ、瞬間移動ができるんだ!」
崩れた体制から床を蹴って 飲み込まれる寸前に宙へ飛び立った、その小脇にはシンが抱き抱えられている。
「裏切り者2名」
建物の飲み込まれる大地の隙間から漆黒の瞳が覗いた
絶望の塊が穴から這い出てくる。
「逃がさんぞ」
星光の覗くその穴に建物が放り出されるのと入れ替わるように男が一人、そこに立っていた。
「そう言われても、オレは逃げるからな!」
いつもなら向かって行くところだが、今回ばかりは逃げに徹した
漆黒の翼を羽ばたかせ、時速500kmでその場を後に飛んで行く。
「とてもじゃねえが今のオレらじゃ あいつには勝てねえ」
飛ぶ最中思わず弱音を吐いてしまう
更にシンがその弱音に付け足しをする。
「例え俺達が全快で、絶好調の状態だとしてもノヴァには敵わない」
「嫌な事言うなよ 戦意が萎える」
「事実を言ったまでだ」
今度は振り返らない
全速力の翼は再びノヴァを置いてけぼりにして飛んだ
また姿が小さくなっていく
高度40mを垂直に飛び、その姿が豆粒ほどになった時、ノヴァのシルエットが少しだけ大きくなった。
「兄さん・・・もう少し速度を上げられるか?」
「いや、500km・・・これが限界だ」
「そうか、なら 高度を上げるか戦闘態勢に入った方がいい」
「どうしてだ」
その問いに親指を後ろに向けて指す。
「ノヴァが追いついてくるぞ」
驚きのセリフにレイヴンは思わず振り返ってしまう
「冗談きついぜ・・・走行でオレの飛行についてこられるとは」
振り返ったその先に見える人影はグングン近づいてくる、音速かそれ以上の速度、豆粒だったはずの影はすでに人型と認識できる程に接近してきていた。
「現在時速1280km・・・」
一歩進むごとに踏み込んだ場所にクレーターが発生する
ノヴァの一歩には殺傷力があった
膨大な魔力による身体能力の強化は歩行に衝撃波を生じさせ、漆黒のスピードを追い抜いた
そして今もみるみるうちに速度を上げていく
「逃がさんと言っているんだ 僕にそう言われたなら抵抗をやめないか」
高度を上げて雲に突入しようとするレイヴンに向けて声を張り上げる。
「うるせえ!集中させろ!今 お前をぶっ倒す算段をつけてんだから」
「そんなものは何処にもない」
「あるわバーカ!」
「なら見せてみろ」
「今から見せんだよ、おとなしく待ってろ!」
詰り合う両者は見た目だけを見れば龍虎の争う様だが、龍が虎にぶつけるセリフが幼稚すぎる ほとんど喧嘩慣れしていないガキだ
だが、子供の喧嘩の規模を魔族レベルに置き換えてみれば、それはもう小規模な戦争、そしてそこに理性の作戦と野性の暴力が加わってしまえば 立派に戦争だ
己の肉体を武器にして 相手の身が滅ぶまで 世界が壊れるまで戦い続けてしまうだろう。
「今に見てろよ、吠え面かかせてやるからな!」
レイヴンはノヴァを見下ろしつつ高度1000mの黒雲に突っ込む
その黒雲は毒を持っているので、できれば吸い込まない方が良い
息を止めたまま その分厚い雲層を抜けていった。
「ここまで来れば気休めくらいには・・・」
そう言うが言い切らないうちに表情が凍りついた。
「ならないな・・・」
突き抜けた雲はトンネルのように穴が空いていた、その洞穴は思ったよりも深く 暗く まるで底なし沼
その暗闇には星が瞬いていた
そう、そこは『宇宙』ノヴァが司る世界だ
「我が能力は『宇宙』をも支配下に置ける」
その突如出現した穴から腕が飛び出し、レイヴンの首をがっしりと掴んだ。
「無機物しか支配できない貴様とは格が違う」
「ぐ・・・げ・・・」
指が喉に食い込み、血が吹き出る
レイヴンはそれを引き剥がそうとするが、筋力で勝っていても魔力が桁違いに負けていた
抵抗虚しくその腕力で宇宙へ引きずりこまれていく。
「兄さん!手を離せ!俺が援護する」
その声を聞いて血が回らなくなってきた頭でなんとか反応し、小脇に抱えていたシンを離す。
「ノヴァ、その手を離せ」
空中で離された体は緩やかに落下していく
だが、それよりも早く腰から短剣を抜き、ノヴァめがけて振り払った。
「いいだろう」
だが、それを上回る素早さでノヴァはレイヴンをシンに向かって投げつけた。
「グエっ!」
2人の体がぶつかり合い、動きが止まり 大きな隙が生じる
ノヴァにとってそれは絶好のチャンス
逃すはずがない。
「お前ら、空間ごと真っ二つだ」
右腕が宇宙の色に染まりだす
それはノヴァの魔力の色だった。
「消えろ 反逆者ども」
見開かれたレイヴンの視界が迫ってくる拳に覆われて暗転する
世界が妙にスローモーションで、ノヴァの動きも自分が落下する速度もコマ送りのように感じられた
その感覚はこれまでの闘いの中で幾度となく体験してきている
エビルに体を焼かれた時も
クロウに腐らされた時も
パニッシュにバラバラにされた時も
アーミーに半身を吹っ飛ばされた時も
死を覚悟した その瞬間感覚は脳を支配し、これから訪れるであろう死を嫌でも目に焼き付けさせられた その都度危機を乗り越えてきた
だが、今回は違う
これまでは相手が全力を出し切り、それに押されたからこそのピンチだったし、こちらもちゃんと打開策を考えてあった
それだが今回はノヴァが全力を出していないにもかかわらず情けなくも追い詰められている
その上、打開策の一つも思い浮かばない ノヴァという巨大な城壁に付け入る隙が見当たらない
そして、拳が首に突き刺さろうとした
「うおおおおおお!!」
寸前、シンが叫び声を上げた
レイヴンの背に蹴りが入れられ、高く跳ね上がった。
「なんっだッ!?」
慣性に従って体が押し上げられる
その途中で背後、つまりシンのいるところから炸裂音が響き 血と思われる赤いものが全方位に飛び散って殺風景な空景色をグロテスクに彩った。
「レイ・・・ヴン・・・」
シンの声だ
「後は・・・任せた・・・ぞ」
悲痛の色に歪んだ苦しみの声はシンが無事でない事を物語っているようでもあった。
「シン!」
片翼だけを勢いよく羽ばたいて体を回転させ、ノヴァの方へ向き直る。
「無能が有能者の盾になり、それを生かす・・・それは正しい選択だ」
だが、空中で振り返った先にシンはおらず ただ1人拳を血に染めたノヴァが雲上に立っているだけだった。
「まあ、生かされたところでお前が僕に殺される運命に変わりは無いが」
べったりと血のついた拳を銀色のコートで拭うと、冷たい目をしたまま雲の穴から覗く宇宙空間へ脱ぎ捨てた
それはどこまでも漂って消えていく。
「テメェ、ノヴァ・・・シンに何をした」
低くドスを効かせた声で、レイヴンは頭上から ノヴァを見下ろすように睨みつけた
頭には見た目から分かるほど太い血管が浮かび上がり
角から発される魔力の雷は怒り狂った蛇のように全身をのたうちまわる。
「シンはもうこの地球上にはいない この世にも、な」
あっけなくそれを口にした
まるで殺して当然という風に いや、実際に思っているだろう。
「・・・クッ!」
その太々しい態度に歪むような怒りの表情を向けたが、グッとその感情を噛み殺した
悔しいが、怒りに任せて殴りかかったところで勝てる相手ではない
せっかくシンが身代わりになってくれたのに一時的感情でその命を失うわけにはいかないのだ。
「だが、安心しろ すぐ会える」
仲間になるはずだったシンの喪失感に浸る間も無くノヴァがみたび動き出した
空間に見えない足場があるかのように空中を走ってレイヴンに向かっていく。
「『八咫烏』」
翼を羽ばたかせ、追ってくる敵に背を向け 逃げる
「クソォッ!」
今は逃げることしかできなかった。
「情けねえ・・・弟が目の前で殺されたってのに やり返しもせず逃げるなんて・・・オレはなんて情けねえんだ・・・!」
奴は強い、果てしなく これまで戦った誰よりも手に負えない
殺られたシンだって能力面を見れば弱いが、そのぶん殺しのテクニックには光るものがあった
その 才能に感けることなく腕も磨いていた
だが、勝てなかった
傷を負わせることもなく 闘いは1秒と持たずに決してしまったのだ
ノヴァから見れば才能も努力も些末なモノなのか
果たしてこの圧倒的力の差を埋める戦略が思い浮かぶのか
はたまた宇宙のチリと化すのか
レイヴンの命運が試されようとしていた。
「また、ノヴァが・・・消えた!」
一瞬目を離した隙に後方から追ってきていたはずの姿が消えていた
あたかも最初からレイヴンしかいなかったかのように上空1000mの空は静かだ。
「チッ、また瞬間移動か」
ノヴァの瞬間移動はこれまでで4回体験してきている。
「だが、もう狼狽えねえ テメェの瞬間移動のタネは大体分かった 物に穴を開け、そこを別の場所へ繋げられる能力だ 違うか?」
眩しき月下にその声だけが響き渡った
返事はない。
「つまり今お前は空間と空間の隙間を繋ぐ宇宙に身を潜めているわけだろ?次は何処から出てくる、前か、後ろか、横か、下からか?お前が瞬間移動できるのは穴を開けられる場所のみだ さあ、どこの雲から出てくる!」
レイヴンは能力の仕掛けが解っても尚退かない
「シンに永らえさせてもらったこの命、てめえをぶちのめすための天命と受け取った!」
全身に力を漲らせ、いつ攻撃が来ても対応できる程 感覚が鋭くなっていた
体が空間に溶け込み、空気と一体化したと錯覚するほど集中が高まっていく。
「いつでも 来い・・・!」
ノヴァが消えたと認識して5秒キッカリ
後方の雲に亀裂が入った。
「そこか!!」
安定しない空中でも見事な翼の動かし方で高速の身のこなしを見せる
そして硬く握られた拳に捻りを入れて打ち出した。
「なっ!?」
だが、振り返った瞬間動きを止める
雲に開いた穴の中にノヴァの姿が無かったのだ。
「しまった・・・こいつはフェイントか!」
そう、この穴はレイヴンを欺くためのダミー
しかもそれに見事 はめられてしまっていた
してやられた
その考えに脳が至るよりも先に背後に絶大な存在感が出現した。
「見事に引っかかったな」
背後に現れた気配はそう言って拳を振り上げる
敵に隙を見せたままの完全無防備の状態
魔力は拳に集めてしまっていて防御に回せる程も残っていない
考えるよりも先に ゾッと怖気が走った。
「まず・・・い」
やっと やられたという思いが脳裏によぎる
「魔界を敵に回したことを後悔しながら死んでいけ」
拳が振り下ろされ、空間を斬ってゆく
ノヴァの拳は空間ごと破壊しながら打ち出され、音がしない
それゆえ空気抵抗も受けず、最高速度に達するまでの時間はほぼ0だ。
「フッ・・・」
勝利を確信し、その鉄仮面のような顔に笑みを見せた瞬間
「オォオオ!」
レイヴンが打ち出した拳よりも早く振り返った。
「なんだと!僕より早い!?」
早いのは振り返る速度だけではない
その捻りの勢いに乗せられた拳速は超速でノヴァの顔面に叩き込まれた
そして、肘に『硫炎』で爆破を起こし さらなる加速で拳を振り抜く。
「小癪な!」
「うぎっ!」
しかし、ノヴァのパンチも顔面にキマっていた
お互いがお互いの拳圧に吹き飛ばされ、立て直す間も無く1000mの空から落下していく。
「ぐっ・・・へへ、見たかこの野郎!後出しなのにテメェの攻撃速度に追いついたぜ!瞬発力ならオレの方が断然上だ!」
落下しながら指をさし牙を剥く
口から夥しい血を吹き出しながらも闘志に燃えていた。
「奴め、実力を隠していたのか?いや、あいつの性格を考えれば味方を犠牲にしてまで真の実力を隠したりはしないか・・・」
自由落下運動に身を任せたままゆっくりと分析と理解を始める
「ならば、覚醒か?シンを殺された事による感情の爆発 ならばあり得る、精神は魔力に深く関わっているからな、あいつの才能を考えれば納得できる」
レイヴンに追い越されたにも関わらず大して焦りを見せない
不気味な程太々しい態度で逆さまに落下している
「フン、まあいい どうせこれから嬲り殺されるのだ 今のうちに調子にでも乗っておけ」
ノヴァの口からも一筋の血が垂れている
しかし、ダメージが見受けられない
指で血を拭うと すでに傷口は閉じていた。
「いいのか?調子に乗っちまっても」
ノヴァにダメージがほぼ入っていないことを確認しても気落ちしていない、なんなら予想どうりだとでも言うかのように落ち着き払って 調子に乗っている。
「オレを調子に乗らせると」
眼光が輝く
背に展開した翼で 直線的に空へ舞い上がった
ただ本当にまっすぐ飛んだ後 静止する。
「誰にも止められなくなるぞ!」
そして、突撃する
空気抵抗を抑え 姿勢をまっすぐに
ジェットエンジンのような翼圧に乗り、獲物を狙う鳥の眼光のまま
弾丸の如き勢いで空を突っ切っていった。
「ああ、よく知ってるよ」
ノヴァの方も魔力を展開する
「だが、お前が一番よくわかっているはずだ」
全身を魔力が包むと落下途中にも関わらず固定されたかのように 空中でピタリ と止まった。
「万が一にも僕には勝てないということを」
何もない空間に足を掛け
拳を前に突き出して、レイヴンを迎撃する構えをとる。
「『月面散歩(ムーン・ウォーク)』」
ノヴァの方もレイヴンに向かって走り出す
あっという間に2人の距離は縮まり、目線が合う。
「いくぜ」
「無駄だ」
目線は鋭く殺気に変わり、両雄の猛る魔力に火をつける
燃ゆる感情のパワーはレイヴンの拳に炎の力をもたらし、燃え上がった。
「『豪炎硫』!」
太陽のように眩い拳が放たれる
超スピードの拳から発される炎が尾を引いてまるでノヴァに襲いかかる一体の龍のようだ
しかし、その標的となっている相手は動かない
抵抗を見せる代わりに
その迫る拳を目で追って膨大な魔力を発生させた。
「『拒絶空間(リジェクション・スペース)』」
「オオォッ!」
ノヴァの能力発動と同時に拳が振るわれた
スピード パワー共に申し分なし、ここで初めてクリーンヒットが決まった そう思われた
だが、しかし・・・
「・・・なに、拳が 届かねえ!?」
振り抜いたはずの拳が相手の顔面スレスレで停止していた
あり得ない現象を前にして思わず後退する
「攻撃の間合いを数cm計り間違えたか?」
こんな肝心の場面でそんなミスを犯すだろうか、困惑が脳を侵食していく
そんな様子を見てノヴァはニヤニヤと嫌な顔つきで笑っていた。
「どうした、止まらないんだろ?打ってこい 僕は一向に構わない」
両腕を広げ、無防備の意思表示を示して挑発してくる
「余裕ぶりやがって・・・」
自信満々といったその顔は挑発と相まってレイヴンの怒りに拍車をかける。
「ヌオオ!」
空が漆黒の稲光に照らされた
美しいその黒い光は触れたものの性質を増幅する力を持つ
その力を両腕に纏わせて宙に佇むノヴァに突進していく。
「オアッ!」
ブゥン!と風切り音を立てて拳が叩き込まれる。
「フフフ・・・」
だが、またしても攻撃は届かない
残り数cmのところで何かに阻まれてしまう
寸前で止まっている拳を前にして ノヴァは また不敵に笑った。
「リャリャリャリャリャリャ!!!ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
御構い無しにレイヴンの拳が連続で、高速で打ち出される
前のめりになりながら嵐のようなパンチは止まらない
しかし、いくら打とうとも 一撃たりとも届くことがなかった まるで見えない壁に阻まれているかのようだ。
「オオオオ!!!」
悔し紛れにも見える連打が止む
だが、諦めたわけではない なんなら発散されない戦意が暴発しだしている
肩が外れるんではないかというほどレイヴンは大きく振りかぶり、背骨が折れそうなほど肢体を逸らした。
「ラアアアアアアアッ!!」
そして、筋肉をバネのように伸縮させ 拳をライフル弾のように回転させた
全ての運動エネルギーがタイミングよく拳に乗り、更にそれを魔力で強化してこれまでにないほどの力になっていた
その打ち出された拳は 振り切られると同時に大型台風クラスの風圧を生み、周辺の黒雲を吹き飛ばす。
「これでも・・・かよ!」
だが、手応えはなかった
歯をくいしばって悔しがる
最速の攻撃も連打も渾身の一撃も全て通じない 謎の能力『拒絶空間(リジェクション・スペース)』
外からの攻撃をことごとく拒絶していくその力は目の前にいるはずのノヴァを遥か遠くに見せた。
「全然ダメだな まあ、この能力を攻略できる者なんて限られている そう悔しがるものでもない」
「なっ・・・!」
ノヴァの言葉が聞こえた瞬間 隕石か何かと錯覚するほど強力なエネルギー塊がレイヴンに打ち込まれた
その強大なエネルギーは拳だった
ノヴァの一撃は風圧を伴って顔面を捉え、チリの如くぶっ飛ばしてしまう。
「ブッはぁ!」
「チッ、寸でのところで身を引いてダメージを抑えたか」
ここで勝負とレイヴンの命を終わらせようとした一撃は 刹那の起点によって抑えられた
咄嗟のことだったのでダメージ半減とまではいかず ほぼマトモにくらってしまっている
しかし、逆に言えばそのほんの少しの起点が無ければ即死の威力だったということだ。
(やべえ!今ので顎が砕けた・・・『武装』でなんとかできるっちゃできるが・・・クソ!どうすりゃ倒せんだよあいつは!)
吹き飛ばされる途中、思考の海の中で力の差を思い知り 軽く絶望していた
攻撃は通じず、あちらの攻撃をくらえば一撃必死 一言で言えば「理不尽」だった。
「ぐ・・・」
翼を広げて空気抵抗を真正面から受け止め、やっと停止する
砕けた骨格は『武装』によって整形し直した。
「反撃をもらっちゃダメだ、レートが違いすぎて相打ちでもこっちだけがごっそり削られる、理想としてはスピードで翻弄してヒットアンドアウェイなんだが そう上手くいくはずもねえ」
脳内で作戦を構築していく
しかし、思い浮かぶものは状況を打開できるようなものではなく死路ばかり 寿命をほんの少し長らえるだけのイカサマのみだ。
「だからといって安全策をとるオレじゃない!一か八かの勝負に命を全賭けしてなんぼだ!」
逃げても瞬間移動で追いつかれ
攻撃しても当たらず
防御は不可能
魔王に最も近い男の理不尽さを前にして 逆にレイヴンの腹は決まった。
「我が名魔王家長男、【レイヴン】!『反逆者』の名の下に・・・不埒な輩に裁きを下す!!うおおおおおお!!!」
両腕に覚悟の念を込める
エネルギーは性質を作り出し・・・
「『硫炎』&・・・」
右手が燃えだした
「『腐敗ウイルス』」
左手は猛毒を撒き散らし始める。
「いくぞッ!」
風を突き抜け、ノヴァに向かって両手のひらを向ける。
「『滅却砲』!」
両掌から発された光線は螺旋を描きながら対象に向かって飛んで行く
燃え盛る炎と暴れ狂うウイルスが混じり合い、最強の破壊エネルギーを生んだ。
「無駄だ・・・」
しかし、当たる寸前それは例のごとくノヴァの前で止まってしまう。
「まだまだぁ!」
攻撃が当たらなかったことは毛ほども気にせず
今度は回転しながら上へ上へと上昇していく
両手に魔力を集中させると それを一気に解き放つ
「『滅却弾』!」
その光弾は花火のようにこの漆黒の夜空を彩る。
「無駄だと言っているだろう」
空全体に散らばった光弾は360°からノヴァに襲いかかり、破壊の爆発を起こした。
「ぬおおおおおおお!!!!」
不気味な色の爆煙が上がる中へ次から次へと『滅却砲』を撃ち込み続ける、爆音が響き 煙がもうもうと立ち込めた
バスケットボール大のエネルギー弾が一つの対象に向かって無数にぶつかっていく様はまさに圧巻である
並みの魔族ならバラバラに吹き飛んでいるところだが・・・
「チッ・・・」
撃ち込む手を止め、レイヴンは舌を打つ
煙が晴れていくとそこには傷ひとつないノヴァが余裕の表情のまま立っていた
ギリッと歯ぎしりの音を立て、そのまま急降下していく。
「なんだ、まだ諦めないか」
「愚問だぜ」
高速でノヴァに向かって迫っていく それはもう 落下とも言える速度である
そして急降下の加速に乗り、腕を振り上げた。
「くたばれ!『滅却掌』!」
握った拳の中に閉じ込めた超エネルギーを解放しながら殴りつける
解放された力はドーム状の爆炎を起こし
空気中の酸素を燃やし尽くし
空気中の微生物を腐らせ殺していく
放った本人の鼓膜が張り裂けるかと思うほど強烈な音と衝撃が拡がり、天と地を焼き焦がした。
「やるじゃないか」
だが、それを受けたノヴァは目の前で笑うのみ
微動だにしない
「ウアアアアアアアア!!!!!」
歯を食いしばり、拳を打ち込み続け 爆撃を繰り返す
全開にした魔力の生み出す衝撃は高度300mの場所からでも地面にクレーターを刻んでいく
「その程度の力で『宇宙』を超えることはできない」
その拳の嵐の中から流れに刃向かうようにノヴァの拳が放たれ、レイヴンの両腕を弾き飛ばした。
「う・・・!」
軽く払うようなモーションだったがその力は凄まじく、体制ごと持っていかれてしまった
両腕が上がり、背も伸びきっている
完全無防備なその状態
「そうだな・・・手本を見せてやろう」
立て直すよりも早く、ノヴァが目の前で拳を握っていた。
「こうやるんだ!」
打ち抜かれる
打撃よりも貫通 と言った方が正しい激痛が身体を駆け抜けた。
「え゛あ゛あ゛・・・!」
痛みに声をあげると同時に口から泡と濃い血が流れ出した
それは流血という表現では生易しいほどに止め処なく、痛みに薄れた意識の中でもハッキリと命が消えていくのを感じた。
「そら、もう一度いくぞ」
めり込んだ拳を引き抜く
引き抜いた拳には血がこびり付き、まるで真っ赤な手袋をつけているように見える
ノヴァの突きはレイヴンの魔力でのガードを容易く破り、腹に突き刺さっていたのだ
レイヴンの100を超える拳も200を超える魔弾も1000を超える爆撃も全てを合わせても太刀打ちできないそのパワー
たしかに、魔王に最も近い男の名は伊達でない事がよく分かる。
「こいつでッ!」
そして、トドメと言わんばかりの一打が打たれた。
「うあああああああああああ!!!!」
その瞬間叫び声をあげ、致命傷をものともしない動きでその一打を躱し、地上へと羽ばたいていく。
「フン、逃げたか・・・だが もう少し愉しませてもらわなくては困るな」
外れた拳は空を切り裂いただけに終わった
ノヴァは回避行をとったレイヴンを見下ろす
その目は勝利を確信している者の目だ
実兄であるレイヴンをいたぶって殺す
そんなことが易々とできる残虐性と戦闘能力がノヴァを最強たらしめているのだ。
「ケッ、オレに逃げるという選択肢を選ばせた事は評価してやるぜ」
一方レイヴンは空気に逆らわず強がりを言いながら重力のおもむくままに落下していた
大きな傷口から巻き上がる血が大気中に舞って綺麗だな、など おおよそ普通の精神状態では考えないようなことを考えながらその胸の痛みを我慢している。
「『武装』」
胸を押さえ、その穴を魔力で修復する
足りない部分は他の細胞を寄せてごまかす
つまりレイヴンは傷を『直す』たびに削れていっているというわけだ。
「ちくしょう、あいつ追ってこねえな できれば空中戦で決着つけたかったが 翼を出しっぱなしにしてちゃ、こっちも全力を出せねえ 仕方ねえが地上でやってやるぜ」
そうこう言っている間に地面に激突した
遥か上空から落下した人型の落下物は無抵抗のまま背中から突き刺さり、大きく砂埃を巻き上げた。
「さぁてと、お次はどこから来んのかね ノヴァの野郎は」
不動のまま落ちてきたレイヴンは『武装』で落下の衝撃を吸収し、ノーダメージで地上へ降り立つ
落下した場所にできたクレーターの中心で立ち上がると五感に集中して、次に来るノヴァからの奇襲に備えていた。
「そう気を張るな レイヴン」
「む・・・」
だが、レイヴンの警戒に反してその登場は至極シンプルなものだった。
「今度は単純に僕の戦闘能力のみで押し切ってやる、要するに レイヴン お前がお待ちかねにしていた喧嘩だよ」
レイヴンの目の前の地面に亀裂が現れ、卵の殻が剥けるように穴が開いていく
そこからスー・・・っと音もなくノヴァは上がって来ると一方的に喧嘩の宣言を始める
単純な戦闘能力のみ・・・
それはレイヴンにとって思ってもみなかったチャンスである。
「言うねえ このオレが魔界きっての喧嘩好きって事知ってて言ってんのかい?」
左掌に拳を打ち付けると強気な表情を浮かべ、ノヴァを睨みつける
しかし、当のノヴァは目を瞑り両肩をすくませて見せた。
「お前こそ、この僕が魔界最強の男『超新星』のノヴァ だと知ってて言っているのか?」
おどけるようなポージング
そこには確かな強者の余裕が感じられた。
「知るかよ!」
いきなりだ
レイヴンのパンチがノヴァの顔面を襲う
「なら・・・」
当たった、そう思ったが拳がミートする寸前 それは掴み取られ 防御されていた
万力に抑えられているように固く握られていて引き剥がせない。
「思い知らせてやろう」
そのまま逆に顔面を殴られる
あまりの拳力で握られた右腕が肩から もげる
全魔力を防御に回したおかげで頭がもげることはなかったが、血を吹き出しながらレイヴンは転がっていった。
「ぐおおお!」
転がる中 左手を地面に突き立てる
突き立てたそばから 火花が散る程の勢いだが
なんとか勢いを殺し、停止した。
「ハァ!『武装』!」
魔力がもげた右腕を形どり、実体として形を成していく 足元の石ころを集めて形成したのか 新しい右腕が生えてくる
しかし、そのシルエットは腕の形をしていない
「その形は・・・」
それは長い棒のようで、先に向かうほど細くなっていく 長モノの武器
「槍か」
それは槍だった
レイヴンは立ち上がると変形した右腕を振り払い、先に見えるノヴァに矛先を向ける
「腕くらい何本でもくれてやる、次いくぜ」
そしてそのまま再度走り込んで行く
ノヴァはズボンのポケットに手を入れたまま動く気配がない
レイヴンは走りながらそれを見て槍を構える。
「そのまま動くな・・・よッ!!」
レイヴンの突きがノヴァの頬をかすめた
いや、正確には当たる寸前で首を曲げて躱されたのだ
「チッ、余裕ぶってんな」
続いて連続で突きをかます
しかし、その攻撃は流水のごとく滑らかに躱されてしまう。
「実際余裕だからな」
槍を引くと同時に後ろに飛び退くと グルンと身長の半分以上はある槍を回す
そして、低く構えると再び間合いを詰めた。
「何度やっても同じこと」
だが、今度の攻撃は槍での突きではなく 左拳での突きだった
槍に負けず劣らずの鋭い一撃だが・・・
「慣れればお前の速さも大したことはない」
ポケットから出した手に、また受け止められ 掴まれる
まるで焼き直したように同じ光景だ
違うのは右腕が左腕になっただけ
それも次の瞬間にはもがれるのだろう
しかし、レイヴンは腕をもがれると分かっていて同じ行動を取るほど阿保ではない
ノヴァが殴り飛ばそうともう一方の手をポケットから出すと同時にレイヴンは口を開いた。
「チェーーーーンジ!!!」
一瞬ノヴァはそれが何を言っているのか分からなかった
しかし、次の瞬間には思い知ることになる
しかも人生史上最大の痛みを伴って。
「うあ゛あ!!?」
ここで初めてノヴァは叫声を上げた
痛みで頭が真っ白になる
しかし、顔に向かって何かが高速で伸びてきているのを感じ取り 訳も分からぬまま後ろに飛び退いた。
「こ、これは・・・」
激痛の走った部位をみる
そこは左手 さっきまでレイヴンの拳を握っていた左手である
ノヴァは目を疑った、なんとその左手の真ん中にポッカリと穴が開いているのだ
だくだくと血が流れ出る傷穴から向こう側にレイヴンの得意げな表情が覗いた。
「お前も慣れれば大したことねえよ、今度はオレが偉そうに踏ん反り返ってお前をぶん殴れる」
「な、なるほど 考えたな・・・」
腕を押さえ、脂汗を垂らしながらも レイヴンの姿を見てダメージの正体をやっと理解する
「『再武装』したのか!」
見ると、レイヴンの槍だった右腕が普通の腕となり
逆に普通の腕だったノヴァに掴まれていた左腕が槍に形を変えていた
そう、レイヴンは『武装』により肉体の配置を変えることもできる
つまり、ノヴァが掴んでいたレイヴンの左腕が瞬時に槍と化した為にその掌を貫いたのだ。
「こいつはテメェの油断が招いた結果だ」
「・・・!」
「その掌に空いたでっけえ風穴は戒めだぜ 毎夜その傷が痛むたびにテメェはこの屈辱を思い出すんだろう そう、これから数百年ずっとだ!いや、今夜オレにぶっ殺されんだからその心配はねぇな!」
「ぬううう!!」
レイヴンが高圧的な態度で言葉を発した
それはどれも怒りを煽るような台詞ばかりで ノヴァは貫かれた左手を押さえながら歯を食い締めた。
「どうした、怒るか?怒るか?」
「うおおおおおお!!!」
ついに叫び出した
冷静を失った、この時こそチャンス レイヴンはそう思った
しかし
「え・・・っ?」
今まさに攻め込もうと、姿勢を低くした時だった
「クククククククククク・・・!」
ノヴァが不気味に笑う
左腕の細胞が音を立てて形を変えていた。
「なん・・・だよ、それ」
再生
それは おおよそノヴァの能力ではできないような行為だ
しかし、それなのに目の前でノヴァの傷が塞がっていく
「ふふふふふふふ この僕に一杯食わせた事は褒めてやろう、本当に痛かったぞ これまでの人生で一番にな」
喋っているうちに掌の傷は跡形もなく塞がって消えた
まるで新品のように綺麗になった左手を開いて閉じてを繰り返し、治り具合を確かめると牙を向いて笑った。
「だが この程度の傷、魔力で自然治癒力を高めればすぐに治せる、まあ 僕ほどの魔力量が無ければできない芸当ではあるがね」
完全に治った左手をヒラヒラさせて見せる
皮膚から吹っ飛ばされた骨も筋繊維も完全に再生されていた
それに、再生される前より綺麗な手になっている 新陳代謝まで強化されているのか。
「なら!一発でテメェの息の根を止めてやればいいんだろうがッ!」
槍を振りかぶり、地面を蹴る
「オオッ!」
ノヴァの真正面まで間合いを詰めた瞬間 サイドステップを踏み、高速の身のこなしで横へ回り込む。
「サービス時間は終わりだ・・・」
そんなノヴァのセリフを聞きながら、足を蹴り出し
槍を突き出す
しかし、ノヴァはその突きを見ずに片手で掴み取った。
「少し、本気を出そうか」
掴んだまま体に力を貯める
空間に干渉するその力は溜まっていくほどに空気を大きく揺らす
「『拒絶空間(リジェクション・スペース)』」
そしてノヴァを中心に衝撃が走った
「うあっ!」
まるでその圧倒的力を讃える拍手のように空気はパチパチと音を立てている
かまいたちが巻き起こり、皮膚を切り裂く
レイヴンは思わず顔を右手で覆った。
「ってなんだ・・・!」
突然掴まれていたはずの左腕が解放された
だが、二、三歩後ろに下がるとただ解放されたという訳でないことに気付く。
「砕かれている!?」
左腕の槍が肘から先、なくなっていた
その断面は破壊というよりも かなり鋭利な刃物で断たれたようにささくれ一つとしてない 芸術的断面であった。
「空間にお前の槍を拒絶させた」
そして、『拒絶空間(リジェクション・スペース)』という絶対領域に身を守らせるノヴァの手には 断たれた槍が掴まれていた
そちらの断面も また綺麗に切断されている。
「クソ、さっきからなんなんだその『拒絶空間(リジェクション・スペース)』とやらは」
その問いにノヴァは一呼吸置くと、槍を握り砕き、口を開いた。
「そうだな、どうせこの場で殺すのだ 教えてやってもいいだろう 時間を無駄にするのも また一興だ」
そう言って展開した魔力を閉じて体に納める。
「僕の能力『空間支配』、それは魔力で空間を操り 時には盾に または足場に、時には矛として扱う力だ、そして・・・」
天高くへ、指を突き出す
それと同時にさっきまで黒雲に覆われていたはずの空が嘘のように綺麗サッパリ晴れ渡った
目を奪われるほど美しい星空が視界いっぱいに広がる。
「その能力射程距離はこの遥か宇宙の果てまで、余りに大きすぎてな、自分でも限界を見たことがない」
嫌味げに言うと フッと力の抜けた息を吐き出して肩をすくませた。
「そしてこれまで何度もお目にかけた宇宙空間・・・」
唐突に地面を踏みつけ、大穴を空けた
その穴に吸い込まれるようにノヴァは滑り込んでいく
地上から存在が消える
「このように 穴を開けるという行為を引き金として・・・」
「ウッ・・・」
だが すぐに背後に穴が開き、現れた
驚きつつも飛び退いて距離を保つ
「空間を縮めて穴を宇宙に繋げる、力を調整すればこの地球含めて全ての星に行くことも可能だ」
そう言いきると同時に、再び絶大な魔力がノヴァの周りを固めた。
「そしてこれが我が最強の盾『拒絶空間(リジェクション・スペース)』!」
張り詰めた魔力塊にビリビリと空気が揺れているようだ
「魔力で空間を歪め、宇宙にある無尽蔵の空間を圧縮して周りを囲ませている・・・つまりッ!」
ノヴァを包む空間が漆黒に染まる
「今、目の前に見えているこの僕とレイヴン、お前との距離は何光年も離れているというわけだ」
言葉遣いに熱が入る
レイヴンに向かって指を差し、高圧的にセリフを畳み掛けた。
「生半可な攻撃・・・いや、どんな攻撃だろうと『拒絶空間(リジェクション・スペース)』を破ることなどできない!」
そのセリフを聞いてレイヴンは顔をしかめた。
「さて、冥土の土産は以上だ 次の瞬間からはもう手加減なし・・・お前はどうしたって助かりはしない」
「はははははは!!!」
だが、すぐに笑った。
「あまりの格の差におかしくなったか?」
必ず勝てるという自信を持ち続けているためかノヴァの語勢はゆっくりになっていく
その問いにレイヴンは笑い止んでノヴァを挑発するように指差した。
「なに、まだオレを殺してもないのに安心しきっているお前の態度が余りにも滑稽だったもんでね」
少しでも怒らせれば直ぐにでも殺しに来るような相手を前にしてもレイヴンの歯に絹着せぬ物言いは鋭く冴えていた。
「オレは内臓を吹っ飛ばされようとも闘志は萎えねえし、首をはねられても頭だけで食らいつく、例え殺されたって化けて出て呪い殺してやる覚悟なんだ そのオレが生きているうちから油断とは・・・」
一瞬言葉を貯める
角に小さな稲妻が走った。
「『超新星』が聞いて呆れる」
その言葉がノヴァの耳に届き
そして殴りかかろうとしたその直後
激しい音と共にレイヴンが眼前から消えた。
「な!?」
少しの魔力の残り香と砂埃が舞っているだけで他は何も痕跡がない
「そのスピード、目で追えてすらないな」
背後から男の声
「こいつッ!」
振り返るもすでに遅し
もうそこにレイヴンの姿はなかった。
「どこ見てる!後ろだ!」
またもや背後からの声
しかも今度は近い、レイヴンの一撃が風をきって迫り来る
「なんなんだこのスピードは」
振り返らず ノヴァは呟いた
空間が歪む
「オォリャッ!!」
一方レイヴンはなんの遠慮もなしに
騎士道精神に反するなどという考えを一切見せない背後からのだまし討ち、全力で拳を振り抜いた。
「お前に宇宙は広すぎる」
ふり抜かれた拳は歪む空間に優しく包み込まれ、中途半端な距離で停止してしまう。
「そうだ、もう一つ・・・言っていなかったことがあった」
「・・・腕が、動かねえ?」
突き出した腕が空間に飲み込まれたまま、千の腕に掴まれているかのように動かない
引き抜こうと何もない場所でやきもきするが 肩から下全てが何か得体の知れない力にしっかり固定されている。
「僕の『空間』は全てを拒絶する さっきお前の槍を折ってやったようにな」
パチン!と指を鳴らす
すると・・・
「うお!?」
レイヴンの固定された腕が付け根からスッパリと切断された
しかもまたその断面は綺麗で、細胞が潰れておらず
肉体が切断されたことに気づいていないのか血が出ていない
当のレイヴンも見ているにも関わらず痛みより驚きの感情の方が優っている。
「なるほどね、生身で受けてみてやっと分かった」
これで両腕を失ってしまったにも関わらず妙に落ち着いた表示で分析を始めた
果たして余裕の現れなのか強がりなのか。
「能力発動時、空間が歪むのを利用して破壊してるってわけか」
「言葉足らずだが だいたい正解だ」
冷静にそう言うと地面に転がる腕を拾い上げ
地面に穴を開け、宇宙に捨てた
なんとも壮大なポイ捨てだ。
「『拒絶空間(リジェクション・スペース)』は無限の空間で僕の周りを囲む力、そこに手を突っ込めば その軋轢によって引き裂かれる」
ゆっくりと、そして、スムーズにレイヴンへ歩み寄り
無防備にその距離を縮めながら得意げな表情を見せる。
「つまり、この『拒絶空間(リジェクション・スペース)』は無敵の盾であり最強の矛でもあるのだ」
両腕を大きく広げ、胴も心臓もさらけ出す
無敵の防御壁に身を囲い 無防備のポーズを取り 無尽蔵の力で叩きのめす
その理不尽さ・・・
「無敵、最強、ねぇ・・・」
逆にレイヴンは燃えていた
『硫炎』の炎に身を包み、心情的にも物理的にも燃えている。
「いいじゃないの、お前をぶっ倒して『武装』すれば一気に革命への道が開きそうだぜ」
瞬間的に体制を沈み込ませると同時に地面を『武装』し、無くなった腕を作り直す
その両腕は緑色に燃え盛り、回転を加えられながら突き出された。
「ムンッ!」
その炎は爆発を起こして 煙と蒸気でノヴァの視界を外界からシャットダウンした。
「まだ、そんなことを言う元気が残っているか」
突然 爆炎の中から腕が飛び出し、煙を裂いて突っ込んでくる
「ひひひひ!」
それを猿のように四足を使って体をねじりながら躱す。
「さっきから10分以上闘っている・・・この僕としてこれだけの・・・」
何か言おうとしたその刹那
「はい、ドーーン!!!」
ノヴァの眼前に燃え盛る魔弾が撃ち込まれ、爆煙が巻き起こった。
「時計見てんじゃねえ、どんどんいくからな」
「チッ、癪に触る」
ダメージも衝撃も遮断され、何も影響はなかったが
目の前で何度も何度も爆発を起こされてはウザったくてたまったもんではない
流石にノヴァも苛立ちだす。
「今度は僕が殴る番だな」
そう言って拳を握る
レイヴンはハッと真剣な表情に戻り、臨機応変に対応する姿勢を見せた。
「せぇえィッ!!」
拳がレイヴンの頰肉を抉る
直撃は避けたが血が飛び散り、切れ目から口内の牙が覗く程 傷が深い。
(やっべえー!殺意に反応して一瞬早く避けたつもりだったんだが・・・)
ザザザザ・・・と足で地面を削るようなすり足ステップで後ろに下がり、体制を立て直そうとしたが・・・
「距離を取らせてくれるほど 甘くねぇか」
ノヴァは半歩で追いついてくる
正確に測っているのかと思う程正確に60cmの距離を保ち、ぴったりと間合いを詰めて離れない。
「逃げ腰か?」
「誰がだ!」
挑発する弟
そして、それに乗る兄
2人が全く同時に拳に魔力を送った。
「フゥウッ!」
「『G.Iジョー』」
魔力と言ってもレイヴンの握った拳は また、異色の魔力を孕んでいた。
「むっ」
違和を察知し、打ち出した拳を止め、姿勢を倒す
自分の重力を0にしてからの回避は直立の姿勢のまま空中に45°の角度で止まることを可能にした
そして、その判断は正しかった。
「うおッラァ!」
ひたいの角先をかすめて拳は頭上を通過していく
しかも、ノヴァの拳速を超えたスピードで。
「さっきの謎の加速はそれか!」
ノヴァの動体視力を上回った秘密が判明したところで
「タネが分かればどうって事なかったな、僕に敵うわけもなし」
今度こそ必殺の拳を放つ
「おおおっ!」
妙な体制から放たれた拳は通常のパンチよりも軌道が読みづらく、躱しきれずにまた顔に掠らせる
アクロバットに飛び退き、着地した時には両頬が耳まで裂けて 本物の悪魔のような風貌になってしまっていた。
(直撃は貰うな・・・丁寧に、今はカスっててもいい 次かその次には、躱せオレの体!)
頭の中でパンチを躱すイメージを繰り返す
「避けて、瞬時に殴る・・・避けて瞬時に殴る!」
ブツブツと繰り返し呟き
体から『武装』とも『硫炎』とも『腐敗』とも違う魔力が出力される
「力を貸せ『G.Iジョー』」
落ち着いた声色で技の名を呼ぶ
そしてそれは音もなくその肉体に魔力が染み込んでいき、細胞一つ一つに取り憑いていく
「オレの肉体に・・・」
声を荒げ
細胞その一つずつが心臓のように鼓動する
「命令するッ!」
地が揺れるほどの気迫
裂けた口から流れる血が沸騰し始めた
熱気が体を包み、命が燃える蒸気が立ち昇る。
「奴を倒せる衝動をオレに与えろ!!」
気迫の衝撃波が周囲を駆け巡り、地面の石くれを刎ねあげる
「フシュウウウウ~・・・」
口から蒸気を吐き出し
目つきが、目の色が変わっていく
黒かった目が 次第に毒々しい紫色へと染まる
その警戒色は、レイヴンの身体に武力がもたらされたことをノヴァへの警告として示しているようだった。
「自身を操ることで潜在能力を引き出すわけだな」
『G.Iジョー』の能力を知っていたノヴァはすぐ勘付いていた
しかし、それを見ていないかのように悠然と
レイヴンが最も得意とする中距離まで足を踏み入れていく
「『軍隊』だろうと宇宙は攻略できない」
自らの能力に過信とも言える程の自信を持つノヴァは防備などしない
だが、これまでの攻撃と槍で怪我を負わされたことにより彼に警戒心が生まれた
この警戒と絶対的な力が合わさってノヴァの精神状態はまさに絶対領域
なぜなら、慢心のない王者に付け入る隙など無いのだから
「そうかもしれねえけど、そうじゃないかもしれない やってみなくちゃ分かんねえだろ?」
絶対領域に踏み込むは、無謀な『反逆者』
自分の意思で自分自身を操り人形にする『G.Iジョー』の応用を用いて
脚にその魔力を集中させる。
「おい、奴の視線を追い越せ」
ポンと脚を叩き、自分の身体に命令を下す
角から脚に開けて電気のような感覚が走ると レイヴンの肉体は一瞬にしてノヴァの背後に回っていた
そして、『硫酸』の魔力の込められた平手で空気を煽り、地獄の嵐を巻き起こした。
「『炎渦(フレア・サイクロン)』!」
巨大な渦はノヴァの体を容易く呑み込み 溶かし尽くさんと渦巻く
強力な熱気と酸が周りを溶かし、その溶解液が連鎖的に地面の穴を大きくしていった。
「ハアァッ!」
だが、ノヴァの一喝と共に渦は掻き消され 小さな火の粉となって空気中消えていってしまった。
「やはり、攻略できなかったな」
グン、とノヴァとの距離が縮まった
レイヴンが近づいたのではない ノヴァが一歩踏み出したのだ。
「『G.Iジョー』!!奴の攻撃を避けろ!」
間一髪 能力を発動させ、飛び上がる
拳が空を切った。
「アブねーアブねー」
ノヴァの一撃はレイヴンの動体視力を完全に超えていたが『G.Iジョー』による肉体の動きはそれを追い越す
だが、一見強力に見えるこの能力だが
所詮は発展途上
『G.Iジョー』は命令した事以外が制御不能
苦肉の策なのだ
いつこの付け焼き刃の技が崩されても不思議ではない
「つああああああ!!!」
飛び上がった瞬間に今度はノヴァが嵐のような連打を放つ
「躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!」
その命令は自身の限界を超えて体を動かした
空中で身をよじりながら向かってくる攻撃に対応していく
一撃目がひたいを削り
二撃目は頬を通り過ぎ、右耳を削いだ
「ぎ・・・いいィィ!!!」
研ぎ澄まされた時間との闘いの中では 痛みを感じている暇すらない
瞬時に着地し、体制を戻すと
三撃目には自ら飛び込んだ、拳圧が皮膚をめくれ返させる
四撃目の拳は鼻の頭を掠らせるところをバックスリップで避けた
「よし、躱せる!」
やはり『G.Iジョー』の機動力はノヴァの攻撃力を上回っていた
笑みを浮かべ勝利に大きな一歩を踏み出す
しかし、
「もう見切った、無駄だ」
攻撃を最善最速の動きで避ける『G.Iジョー』だが、その動きは実に機械的だった
そこを狙われる
「えっ?」
足を払われた
そう、ノヴァにはこれがあったのだ
一度見た技にはすぐ適応してしまう
スピードでもパワーでも負けていたはずの『G.Iジョー』これを天性のテクニックで破った。
「倒れ伏すがいい」
ワザとバランスを崩す事で攻撃を躱していたのを更に 上からの力で押さえつけられ、崩された
支点となる足が自重と体の動きを支えきれずガクンと膝を折ってしまう。
「うぅっ!」
ゆっくりと崩れていく視界の中でノヴァが五発目の拳を握りしめていた。
「宇宙の塵となれ!レイヴン」
全力を出したノヴァの攻撃は真空を作り出す
打撃を超えた貫通の力
更にその上をゆくその拳は切断の域に達している
「へッ、チャンスなのはお前だけじゃないぜ」
高速で死が押し迫る中、レイヴンは いつもの笑みを浮かべた
不利を有利に逆転させる起死回生のあの笑みだ。
「『武装拘束(バインド)』ッ!」
突如ノヴァとレイヴンとの間に壁が出現する
なんの仕掛けもない『武装』により作られた障壁だ
すでに打ち出されていた拳がそれを貫くと木っ端微塵に吹っ飛んだ
「まったく、くだらない小細工を・・・む?消えた?」
障害物ごとレイヴンを貫こうと思っていたノヴァだったが
打ち抜いた壁の向こうにいたはずのレイヴンが消えていた
拳が当たってから壁が木っ端微塵になるまでコンマ1秒も無かったのだが
気配ごと、まさに闇に隠れるようにその漆黒は消え失せた。
「移動したにしては『G.Iジョー』を計算に入れても早すぎる、しかもなんの音も立てていない」
考え込むポーズをとるノヴァだが
隙を見せない為にすぐに答えをまとめる
「自らを地に『武装』して潜ったのか」
そう予想立てたノヴァはその強靭な脚力で飛び上がり、地面を見下ろした
そして、全身に あの深黒の魔力を充填させる
「ハァッ!!」
魔力の塊は凄まじい威力と速度で向かって行き
一叫と共に放たれた力はまるで隕石のように大地に破壊をもたらす
強烈な衝撃が大地を揺らし
地面が地盤から抉れ返る
破壊によって巻き上がった大岩が周辺の建物にぶつかり、ジェンカのように崩壊させていく 爆音が治まることがない
破壊によって生まれたクレーターは『宇宙空間』につながり、周りのものを無差別に呑み込んでいった
破壊の波は止まることを知らず、連鎖的にどこまでも広がっていく
この能力は放っておけば世界をも呑み込んで破壊し尽くすほどのエネルギーが感じられた
これがノヴァの魔王としての片鱗なのだ
「このぐらいだな」
パチンッと指を鳴らすと穴の拡大による崩壊が停止し、鼓膜の裂けそうな爆音もしなくなる
一転して静寂の世界となった。
「フン、流石にあの生命力のレイヴンでも死んだだろう」
安心したようなそんな顔をしてため息をつくと
何km先にも渡って空いている、底すら見えない大穴に降りていく
一応、レイヴンの生存確認のためだろう
「生体反応は感じられないな、まあ 死んだのは間違いないんだ 当然か」
薄ら笑いを浮かべて目を瞑ると因縁の相手が居なくなってスッキリ爽快といった表情になる
そして、ふと遠い場所を見るような目つきになると
「さて、まだ余力はあるこの街から感じられる他の魔力反応も消しておくか」
別の者にノヴァの照準が向く
きっとリリィのことだ
自分の命を顧みず挑んだレイヴンでさえ歯が立たなかったこの男に狙われては彼女はひとたまりもないだろう
きっと両親であるシズクとマクシムが手助けしたとしてもなんの抵抗もできず殺される
それを確信できるほどにノヴァの存在は別格なのだ
少なくとも能力を扱いきれていない人間が挑んでいい相手ではない
「行くか・・・」
全身にはち切れそうな魔力を蓄え
獣のような凶牙を剥いて空間を歪める
その時だった
「おっと、させねえぜ?」
どこからか聞き覚えのある軽口を叩く男の声が聞こえてきた
「なんだと!?」
その声は近いようで遠いようであり 距離感が全く掴めない
いや、それよりもノヴァは自身の体に起きた変化の方に気を取られていた。
「僕の・・・手が、いや 腕がッ!?」
見るとノヴァの肘上から下が全て鼠色に変色して
形もゴツゴツした岩のように歪なものとなり、動かせなくなっていた
そう、まるでレイヴンが岩を『武装』して作った腕の様な・・・
考えがそこまでに至った時、ノヴァの頭の中にある恐ろしい想像が浮かび上がってきた。
「まさか・・・さっきの壁は・・・防御のためでも目隠しのためでもなく!」
そこまで言ったところで変化した腕が目にも留まらぬ速さで、形状を無数の針に変え、地面に突き刺さり
ノヴァの動きを固定した。
「そう、さっきの壁はお前から逃げる為に作ったんじゃねえ!」
ノヴァの背中にヒビが入る
そこからあふれんばかりの光が飛び出すと
ひび割れから腕が伸びてきて亀裂を押し広げ、サナギから生まれくる蝶の様に漆黒色の戦士が飛び出した。
「お前に潜行し、拘束する為に放った布石だったんだぜ!」
その姿にノヴァは目を見開き、身を震わせる
恐怖ではなく憤りからの震えだった。
「貴様!僕に何をしたぁぁぁぁ!!!」
爆発するかの様な魔力は体全体を包み込み
力を昇華させる
時を巻き戻しているのではないかと思う程のスピードで背中の傷が塞がっていく。
「あの壁に今持てる全力の『G.Iジョー』を注ぎ込んだのさ」
得意げに語る声が背後から聞こえる
不思議なことにノヴァの腕から伸びる無数の針は地面と体を繋ぎ合わせて全く動かせなくしていた
なので、背後を取られているにも関わらず振り返ることすら叶わない レイヴンの言う通り、完全に拘束されているのだ。
「お前に『G.Iジョー』をアーミーのように扱う事などできるはずが・・・」
「そう、オレはこの力にまだ慣れてなくてね不完全だった だから能力を限定したのさ」
「限定だと?」
ノヴァの頭上に影が差し、何かが通り過ぎた
と、思った途端に目の前へレイヴンが着地する
その顔は得意げで、例え敵でなくても一発ぶん殴ってやりたいと思える腹立たしいほどのドヤ顔だ
「腕だけだ、オレは能力有効範囲をお前の腕だけに絞り、『武装壁』に染み込ませたんだ」
そして、ノヴァの 変質して動かせなくなった腕を指差す
「お前が壁を打ち抜けば一点集中の『G.Iジョー』がお前の腕にとり憑き、一部主導権がこのオレに移権する、お前は攻撃する瞬間、『拒絶空間(リジェクション・スペース)』を解除する オレにとってその瞬間だけが絶好のチャンスだからな そこを狙わせてもらった」
そして、動かない いや、動けないノヴァの眼前に寄って行き 固まった腕をコンコンと指で叩く
「一部だけ体を奪えれば、もうこっちのもんだ お前の拳を伝って両腕 そしてその中間にある背中を『武装』オレの支配下に置いた」
レイヴンの能力『武装』は基本 無機物にのみ作用する能力だ
生物に力を使おうとするのなら相手の許可が必要なので 基本戦闘中生物に対して使う機会は無い
しかし、今回は違った『G.Iジョー』とのコンボで相手の細胞を強制的に『武装許可』状態に変え、その体に潜り込んだのだった。
「人の体に細胞密度上げて潜り込むってのはなかなか窮屈なもんだったぜ」
息がかかりそうな距離から一歩離れる
「そして、そこからお前の両腕の血管、筋肉、神経 諸々の細胞にその辺の石ころを『武装』してコンクリート加工みてぇに固めて拘束したんだ」
「クッ・・・」
さっきからこの拘束から逃れようと何度も身悶えするノヴァだがやはり動かない、体内から弄られて魔力の出力まで抑えられているようだ。
「なかなかの固定力だろ?お前の細胞と一体化してるからな 魔力が強ければ強い程その拘束も強力になり 絶対に引きちぎれない」
「そんなにもペラペラと種明かしをして、どういうつもりだ?」
ノヴァの声には困惑が含まれていた ここにきてやっとネガティブな感情を表に出す
それにレイヴンはニンマリと嫌味な感情を浮かべ腰を低く落とし、拳を握った。
「お前の真似」
右ストレートがノヴァの顔面に打ち込まれる
魔力のスパークを伴って放たれた一撃は
本物の稲妻のように、拳が当たり一瞬を経てから炸裂音が響いた。
「があァッ!」
拘束中は魔力に大きく制限をかける事が可能で、宇宙空間に逃げ込まれる事も、最脅威の『拒絶空間(リジェクション・スペース)』での防御でさえも封じ込めることに成功している
つまり無抵抗
こうなって仕舞えば例え『超新星』だろうと赤子同然だ。
「倍にして返すぜ!ノヴァッ!!」
鋭い二発目、そして三発目がその両腕を打ち抜いた
最も『武装』による侵食の酷い両腕は もうノヴァの細胞より石の成分が多く
強烈な攻撃を受けてガラス細工が砕けるように木っ端微塵となる。
「ぐ・・・ッ!があアアあ!!」
「抵抗できないよう壊させてもらった もうこれでテメェはただの足付きサンドバッグだ」
ここまできたら無抵抗の相手にどうのこうの、という戦闘者の倫理や暗黙のルールすら気にしなくなり
なんのためらいもなく次の攻撃体制へ移った。
「オラッ!」
丸太のような足でジェットエンジンのようなエネルギー噴出、ノヴァを天高く蹴り上げた
そして、レイヴンも蹴り上げると同時に飛び上がる
その跳躍は吹っ飛ばされたノヴァに追いつき、更に上へと追い越した。
「『滅却拳』・・・」
前もって展開されていた魔力がウイルスに変わり、それが拳を包み込んで
緑色の炎に触れ、燃えだした
紫と深緑の魔力が混ざり合い、いかにも【危険】というような色を醸し出す。
「オレの怒りと、シンの分も入れて 200発は殴らせてもらうぜ」
そう言ったが早いか土手っ腹に重い重い拳が叩き込まれる
「・・・ッギ」
「まだ気を失うなよ?あと最低でも199発は殴るんだからな」
雨霰!
表現するとすればそれが一番しっくりくる
今のレイヴンのパンチはそれだ
殴るたびに爆発する拳を惜しげもなく振るい
怒り心頭に繰り出される暴力の雨は 体を、心を打ち砕いていく
爆発の煙でノヴァの姿は見えなくなっているが、手に当たるもの全てを爆破していっている
「どリャあああアアアアアア!!!」
かなりの高さまで飛んでいたはずなのに ほんの一瞬で地面が目の前まで近づいていた
そのまさしく爆発的な推進力は信じられない速度で落下を加速させているのだ
音速が当たり前の特級魔族同士の闘いの中でも レイヴンの爆発力は特に凄まじい
その片鱗を、たった一人にぶつける
「ンナロォオ!!」
そして今 ノヴァが地面に叩きつけられた
地面に転がる石ころから砂つぶに至るまで全て跳ね上がる程の衝撃
普通この衝撃だけで全身の骨が砕け散るだろう
しかし、レイヴンに容赦はない
翼で空気抵抗を目一杯受け止め、地面との衝突を避けると
叩きつけられたあとゴムボールのように跳ねたノヴァを追跡し、追撃する
「1秒でも安寧の時間はやらんぞ!」
矢のような一蹴が脇腹に入った
「そんなものはいらんッ!」
ノヴァがそう一喝すると同時に砕け散っていたはずの両腕が物凄い勢いで再生した。
「何!?」
ノヴァが・・・本来ならば気絶、いや とっくに死んでいてもおかしくない程の負傷のはずだが、そのノヴァが空中で体を捻り レイヴンの蹴りを
今まさに生え変わった腕で掴み 受け止めた。
「代わりにお前の命を貰うぞ!!」
腹の奥から血反吐を吐き出しながら
ズタボロの体に鞭打ってレイヴンを地に打ち付けるモーションに入った。
「拘束が解け始めたな、いやそれより驚くべきはこいつの根性か、なんつー執念・・・」
今まさに投げ飛ばされているのに 抱いた感情と吐いたセリフは賞賛の念であった
そして、背負い投げで地面に打ち付けられる寸前 両手の指をいち早く地面につけ、『武装』固定した。
「オレ、お前の事大ッ嫌いだけど・・・」
指に全体重を支えさせ、腕を捻って体ごと回転させる
回転は掴むノヴァの両手を弾き、手を開かせた。
「そういうトコは尊敬するぜ」
そして、その勢いのままスピンで相手の顎に蹴りを入れる
「がはっ」
それを受けてノヴァは体制を崩した
そして、逆さまの状態から跳ね戻り
その懐へ飛び込む。
「ダァアリャアァァッ!!」
ノヴァの腹に拳がめり込んだ
骨の折れる音
生々しく響いて 折れたどこかの骨は近くの内臓に突き刺さった事だろう
しかも、レイヴンは更に追撃を加える
めり込んだ拳へエネルギーが集まっていく
その拳は煌々と光を放ち
そして・・・
「ハァッ!」
それは内側から爆発を起こす
滅亡の炎は傷口から入って血液を蒸発させる
爆風の破壊力はノヴァの体をズタズタに吹き飛ばした。
「フゥ・・・フゥ、フゥ、流石に死んだかよ?」
地面が溶けて一本の道ができていた
その先にはもうもうと立ち込める紫色の煙
あの一撃をくらって立ち上がることは、もうないだろう
そう、思っていた
「なっ・・・!」
煙の中に映るシルエットがゆらりと現れると
「クアァッ!!」
「うわっ!」
剣のように鋭い魔力で周りを包む粉塵を吹き飛ばした
その気圧に空気共々レイヴンの体も押される。
「ハァ・・・ハァ・・・思い上がるなよその程度ではこの僕を死に至らしめる事はできない」
全身から血を吹き出しながら
その血以上の魔力量を展開させ ノヴァが立ち上がった
その傷口は魔力の回復強化によりみるみるうちに塞がっていく。
「ここまでやられてまだ平静を保ってやがるとはな、しかも拘束がもうほとんど効果を残していねぇ 完全復活までもう時間がない!」
もうノヴァに掛かった拘束は能力を抑えるだけで魔力量を抑える事はできなくなっていた
あの空間を埋め尽くすような威圧感が戻ってきてしまっている。
「ノヴァよぉ、オレの感覚から言わせて貰えばな その拘束が解けるまで後15秒くらいしかねぇんだ」
遠くから指差しながら詰め寄っていく
「ああ、そうだな 僕にも何となく分かる」
ノヴァの方もだ互いの距離が縮んでいく
「逃げてもいいんだぜ?逃さねぇけどな」
「ふっ、誰がだ・・・」
時間が押し迫っている内、歩を詰める
そして、互いが足を止めた
つまり、二人ともが相手を射程距離内に捉えたという事だ
いや、それにしては近すぎる
距離にしてなんと50cm
踏み込まずとも腕を伸ばせば相手に触れられる距離だ
両者が極端な至近距離でヤンキーがやるようにメンチを切る
「殺るか・・・」
そして、拘束限界時間まで後5秒を切った瞬間 拳を握った。
「シャアラァアッ!!」
レイヴンが拳を放つ
しかし、ノヴァも同時に殴っていた
その軌道は同じ、途中でパンチ同士がぶつかり合い、爆裂音が響いた。
「『武装針山(クレイモア)』!」
引かず、足元に魔力を流し込む
その魔力は大地を駆け巡り二人の近くを回り込んだ
「別事に気を向けている場合か?」
ノヴァは更に間を詰めてくる
ほぼゼロ距離、一気に威圧感が増す
「速ッ!?」
ギリギリのところで両腕をクロスさせ、打ち出された拳を受け止めるも
助走距離が短く遠心力も付いていないはずの拳は重く、レイヴンを押し返した。
「『G.Iジョー』ッ!あいつをぶっとばせッ!!」
肉体操作で、理想の動きを再現させる、コマのような回転する動きで攻撃を受けた衝撃を最小限に受け流し、瞬時に攻撃体制へと転じた。
「させんぞ!」
「がへっ」
しかし、切り返しが早い
予備動作の時点で顔に拳を打ち込まれ動きを止められてしまった
だが、
「こなクソォ!!」
鼻血を吹き出しながらも気合いで蹴りを放つ
それは放物線を描き、ノヴァの下っ腹に叩き込まれた
相手も血を吐き出す。
「かはっ・・・」
綺麗に、とはいかなかったがカウンターが決まり、やっとノヴァがよろめいた。
「貫け、衝撃よ!」
そして、倒れこみながらのレイヴンの命令で先ほど放っておいた魔力が帰ってくる
ノヴァの後ろの地面が稲光を散らして、力が発動する
地面を大量の針の形に変えてノヴァの肉体に襲いかかった。
「うおあああああ!!」
貫通こそしなかったものの、見事に体を突き刺し
『武装拘束(バインド)』程ではないが体を固定させられる
このチャンスにレイヴンは防御を捨て、全魔力を両腕に注いだ
ここで決めるつもりで
大きく振りかぶった両腕は様々な色が混じり合い、溶け合いおどろおどろしい漆黒の色へと変貌を遂げる
「『武装・硫炎・腐敗・軍隊』!四種の贅沢サービスだ!くらえッ!!」
限界のさらにその上、そしてそれをも超えて混ぜ合わされた魔力は
爆発的な化学反応を起こし、そして・・・解き放たれる
「ダァァアッ!!」
「うおお!やめろォッ!」
ノヴァが発狂するのを無視して魔力はそれを圧倒する。
「『四王砲』!」
『硫炎』が滾り
『腐敗』で壊し
『G.Iジョー』でそれを最大限に引き出し
そして、『武装』で一点に纏める
一瞬にして視界に映る景色が爆発と共に消し飛んだ。
「ウォォルアアアアアアア!!!!」
魔力の光が一面を照らす
温度の高すぎる炎はプラズマに変わり
その光は熱を孕み時速10億kmで辺りに広がり 焦がし、腐らせ、破壊する
「骨カスも残さねーようにッ!消し飛ばす!!」
蒸気が更に気温を急上昇させ、酸素量が激減
流れ出る汗がその場ですぐ蒸発するような超高温の環境でも構わず魔力を発し続ける
このままではすぐに魔力が空っぽになり体を守る為のエネルギーでさえも使い切り、自らの熱に焼かれて死んでしまうだろう
だが、レイヴンはそれでもいい と思っていた
いや 正しくはもう、そうする他ないと感じていたからだ
間違いなく過去最強の敵であるノヴァに、生半可な攻撃で・・・例え本気の攻撃であろうが通用する保証はない
だから、限界さえも越えて・・・
「潮時か」
男の声
突如、切り裂かれたように割れる魔力の波
球状の魔力の壁が一人の男を包んで浮いていた。
「は・・・あ・・・ああ、ちくしょ・・・お」
レイヴンはそれを目の当たりにして、始めて自分から膝を折った
それを見下しながら彼は落ち着いた表情で口を開く
「時間切れだ、お前が攻撃を放つ瞬間僕の拘束は完全に解けた 間一髪だったよ・・・」
熱に腐敗に支配に破壊に、歪まされた地表は射出をやめた今も紫色の炎に包まれている
「ふん!」
しかし、ノヴァが少し腕を振るだけでそれは消えてしまった
「別にお前が魔力を使い切り自滅するのを待っていてもよかったんだが・・・」
灰になったその地面を歩み、ゆっくりと近づいていく
「少しばかりお前に敬意を払いたくなった」
意外な言葉だった
敬意、その意表をつく態度にレイヴンは脂汗を垂らし ノヴァを見上げる
だが、目の前には視界を覆うように手のひらが広がっていた。
「この僕と一時とはいえ対等に殴りあえるとはな 柄にもなく熱くなってしまった・・・」
頭の上に手を乗せられ、次の動きを封じられてしまっている
いや、そうでなくとも激しい魔力の消耗による疲労で瞬発力が格段に落ちてしまった
もうノヴァの目を欺くことは不可能だろう
その事を知っているはずのノヴァ
だが、警戒は薄れさせず逆に まるで自分よりも格上の相手を見るような鋭い視線を向けていた。
「戦闘のスリルを思い出させてくれたお前にキチンと敬意を払い、誠意を持って殺したいそう思ったのだ」
手のひらに魔力が渦巻いてレイヴンに近づけられる
もうこうなってしまえばノヴァに心身ともに隙はない
悪意と殺意を孕んだ敬意と誠意は慢心を心の奥底に沈み込ませ・・・
「さようなら・・・だ!」
意思は拳となり 確実なる一撃となって振り下ろされた。
「『風切』!!」
だが、その瞬間 空気を切り裂いて何かが回転しながら飛んでくる
それが刀だと認識する頃にはすでに手遅れだった。
「な、いつの間に!?お前は・・・」
金色に輝く刀がノヴァの振り下ろした腕を切断して地面に突き刺さった
刀身についた血が蒸発して消えていく
この 魔族を徹底的に破壊する劔
そして、星明かりもない暗闇の中でも辺りを煌々と照らす刀
こんな刀を持つ者はこの世に二人としていない。
「『死神』ゼルクッ!」
腕の痛みが脳に達するのと『死神』の存在に気づいたのは同時だった
「へへへ、遅いぜおっさん」
「すまんな、戦火に巻き込まれないよう且つ気付かれないように近づくのに手間取った」
痛みよりもゼルクの接近に気づけなかったノヴァは戸惑っていた
レイヴンを今すぐに殺すか
ゼルクを返り討ちにするか
それとも今投げつけられた『永命剣』を処理するか
長きに渡る闘いでの思考疲労のため、選択肢に迷いが生じ 動きが一瞬フリーズしてしまう
「ハアァッ!」
さらにその考えを乱すように背後から大音量の地鳴りが響く。
「『龍舞脚』」
「なんだ この女は・・・報告にはいなかった」
足音もなく近づいて来たゼルクとは対照的に
地面を打楽器のように打ち鳴らし、ノヴァに向かって加速していく少女
その速度をそのままに頭の高さまで飛び上がる。
「ダァッ!」
そして、推進力を全て脚に集中させ強烈な蹴りとして放たれた。
「くおおお!『拒絶空間(リジェクション・スペース)』」
空間が壁を作る
「うわっ、何!?壁?」
壁に阻まれ、少女の蹴りはあえなく外れてしまう
だが、その攻撃にはもう一つ目的があった
「でも、いいわ・・・ゼルクさん!」
着地する寸前 そう声がけする
「おう」
それに応えてゼルクは右手を頭の上まで上げて構えた。
「パス!」
足を後ろに振り上げ 地面に突き刺さった刀の、柄部分をフリーキックのように蹴り上げると
ゆっくりしたカーブを描いて 正確にゼルク手の中へと収まった。
「か・ら・のぉ~!」
蹴り上げの体制から素早く元に戻ると近くにヘタリ込むレイヴンの襟元を掴んで
「逃走ッ!」
ぴょんと後ろに飛び退いた。
「よお、リリィお前も来てくれたか」
「このままやらせてたら国どころか大陸ごと沈められそうだったからね 仕方なくよ」
凛とした表情のままレイヴンを地面に下ろすと構えを取って再び弾み始めた
それを認めるとレイヴンも目を瞑り
フッと息を吐いて立ち上がる
薄く目を開け、おもむろにノヴァを指差す
「さて、これで3対1だ どうする!ノヴァッ!!」
レイヴン、ゼルク、リリィの3人がノヴァを囲む
右では拳を握りしめ、漆黒のプラズマを散らし
左では脚に力が込められ ひび割れが起こる
正面からは月光を放つ刀を向ける
たった一人の為に向けられる戦闘力が圧倒的だ 誰一人として達人で特級魔族をも下す実力者・・・
だが、それだけの力が集まってしてでも何故だろうか
ノヴァは笑っていた
「ふふふふふふふふふ・・・!」
切断された右腕を再生させていく
それを見るに体の中の莫大な魔力はまだまだ限度まで余裕があるという事が分かる
と、なるとやはり・・・
「どうするもこうするも・・・3人まとめて来られて殺りやすい、ただそれだけだ」
この破壊され尽くした荒野に再び無尽蔵な力が溢れかえった
底の知れないノヴァのエネルギー
いったいどこまでレイヴン、ゼルク、リリィの力が通用するのか・・・
心強い味方が駆けつけたにも関わらず 戦いの流れがこちらに傾いた感じがしない 絶望感が払拭されない
ノヴァの深い恐怖が
リリィの弱気な心臓を
ゼルクの傷を抱えた脳を
レイヴンの浮かれた脊髄を 掴んで離さない
この闇に塗りつぶされた空の下で
静かに死闘の第2ラウンドが幕を上げた。
To Be Continued→
一匹のゴキブリを捕まえて、レイヴンはそれに魔力を流し込んだ
魔力を纏わないゴキブリの体にはなんの抵抗もなく魔力が染み込んでいく
その侵食がゴキブリの脳にまで達した時
そいつは動くのを止め、人形のようにぐったりとした。
「よし!成功!」
そう笑って手に持ったゴキブリを地面に置くと 眉間に指を当て、目を瞑る。
「・・・見えて来た見えて来た」
閉じた視界に外の光景が写り込んで来る
視線がとても地面に近い、這いつくばって物を見ているようだ。
「よっしゃ、発進!」
レイヴンがそう命じるとゴキブリの両目が怪しく光り、カサカサと走り出した
小さい体なのでどんな隙間にも入り込み、羽もあるので滑空することも可能だ
崩れた瓦礫の隙間を通り、壊れたパイプの中を通って遠くまで探索する
そうして動きを確認すると また、動きを止めてその場に立ち止まった。
「実験終了」
目を開けるとゴキブリとの接続が切れる
そうして、開いた視界の 直ぐ目の前に真っ黒な男が立っていた。
「うぉ!びっくらこいた!!」
突然の登場に驚いて後ずさる
「気がつかなかったのか?」
その男はシン、レイヴンの弟だ
不機嫌でもないのにいつもしかめっ面で、右側の顔が長い前髪で隠れる鬱陶しい髪型をしている。
「兄さん、アーミーから奪った『G.Iジョー』の調子はどうだ?」
しかめっ面のまま訪ねてくる。
「ああ、使える だけど慣れてない内は戦闘で使い物にはならんな、操れるのは良くて小鳥くらいまでだしアーミーみたいに何千人もの人間はとても操れねえ、しかも今みたいに能力発動中は自分の感覚が一切使えない、もし忍び寄られでもしたらオレは無抵抗で殺されることになる」
指を立てながら能力限界を説明していく
数時間前までは敵同士だったのだが、気を許しているのか それとも裏切られても返り討ちにできる自信があるからなのか淡々と弱点の説明を済ませていく。
「・・・と、いうわけで今から『G.Iジョー』の能力でゼルクのおっさんの捜索をしようと思う、能力発動中はお前がオレを守ってくれ」
説明が終わるとレイヴンの周りにワラワラと小さな虫が湧いて出た。
「生きているといいな」
「生きてるさ、『死神』は殺せねえんだからな」
ニヤリと笑って目を瞑り、『G.Iジョー』発動状態に入った
蚊柱のような小さな羽虫が宙を飛び、または地を這って一斉に捜索に出る
その全てのコントロール権と視界を得るのは100人のサッカーチームの監督をこなすよりも難しい
そのはずだが、戦闘においては天才的であるレイヴンは1回の試運転だけでコツを掴んでおり、総勢623匹の虫を支配下に置くことに成功している。
「やはり、センスの塊のような男だ・・・これならマジに世界を救えるぞ」
気難しい顔をしながらシンが感心していると・・・
「むおぉ!?」
素っ頓狂な声を出して目をつむったままレイヴンが慌てふためきだした
何が見えたのか・・・
「兄さん?どうした!」
胸倉を掴んで体を揺らす
そうすると目を開けて逆にシンの肩を掴んで叫ぶように話し始める。
「やべえ!ノヴァだ!!」
「な・・・!冗談だろ?」
ノヴァ・・・その名を聞いてシンの表情がここで初めて吹っ飛ぶように驚愕へと変わった。
「あいつ・・・レイヴンに興味はないとか言ってたはずだ」
「目立ちすぎたか!!いや、今そんなの関係ねえッ!」
これまでにない程タジタジになるレイヴンとシン
表情に余裕がない
それ程なのか、ノヴァの存在は。
「あいつオレの操る虫に向かって手を振って笑ったんだ!」
サァっと血の気が引いていく
ノヴァと闘う想定をしていなかったシンの背筋に怖気が走った。
「見つかった!!オレの魔力を辿って こっちにくるぞ!!!!」
絶叫が更地に響くと同時に大地が謎の爆音を轟かせながら大きく揺れる
「き・・・来た!!」
突如目の前に大穴が開く
そして、その底の見えない穴の中心から一人、人影が登って顔をのぞかせた。
「やあ、反逆者ども」
ノヴァだ
彼が現れたと同時に大地が穴に引きずり込まれていく、まるでブラックホールのように その底無しの虚空に転げ落ちる
レイヴン達が立つ地面も引きずられ始めた。
「うおお!?逃げろ!逃げろ」
燃え上がっていた闘志は何処へやら二人は踵を返し、崩壊を引き起こすその穴から逃れるため逃走に全身全霊を注いだ。
「・・・なんであいつ追ってこないんだ」
「分かんねえ、オレも奴の能力の詳細を知らねえんでな」
後方を振り返るとノヴァは穴の中心でフワフワと浮きながら、ただ真っ直ぐにこちらを睨みつけていた。
「不ッ気味だな」
「兄さん、そろそろ前を向け・・・逃げるのに集中しよう」
優に100kmを越える速度で走る
1秒過ぎるごとにノヴァの姿は遠のいていき、豆粒ほどの大きさになり、遂には2人の視界からその姿が消えてしまった。
「見えなくなったが、まだ逃げるか?」
足を止め、シンが兄に訊ねる
「いや、もういいだろ 様子見をするにはちょうどいい距離だ」
そう言い、レイヴンは背に魔力を発生させた。
「『八咫烏』」
逃げているうちに闘いに巻き込まれて崩壊してたエリアから抜け出していたようで、辺りには無人の建物が多く点在していた。
「あれくらいでいいかな」
周りを見て良い感じの高さの建物を見つけると、羽ばたいてその屋根に飛び乗った
20mくらいの高さから遠くに見える大穴を眺める。
「およ?」
そこにはノヴァの姿がない
居たはずの場所にはポッカリと穴が残されているだけだ。
「どうした」
不穏に気づきシンは壁に足をかける
そうして次にはその壁を垂直に駆け上がっていた。
「どうしたんだと聞いている」
「・・・まずいぜ ノヴァがどっか行った」
360°どこにもいない
プライドが高い上にレイヴンに因縁を付けてくるノヴァが敵前逃亡するとは考え難い
何があったか、考えを巡らせる。
「あいつの能力が、どんなもんなのか詳しくは知らんが・・・確かあいつ・・・」
そして、ひとつの悪い予感に辿り着く
「しゅ・・・」
何か言おうとした瞬間、2人が立つ建物が、謎の地震と共にガクンと沈み込んだ。
「おおおお!?」
またもや地面に大穴が空いた
それは物凄い勢いで拡がっていき、大きいはずの建物が瞬時に飲み込まれていく
「しゅ、瞬間移動ができるんだ!」
崩れた体制から床を蹴って 飲み込まれる寸前に宙へ飛び立った、その小脇にはシンが抱き抱えられている。
「裏切り者2名」
建物の飲み込まれる大地の隙間から漆黒の瞳が覗いた
絶望の塊が穴から這い出てくる。
「逃がさんぞ」
星光の覗くその穴に建物が放り出されるのと入れ替わるように男が一人、そこに立っていた。
「そう言われても、オレは逃げるからな!」
いつもなら向かって行くところだが、今回ばかりは逃げに徹した
漆黒の翼を羽ばたかせ、時速500kmでその場を後に飛んで行く。
「とてもじゃねえが今のオレらじゃ あいつには勝てねえ」
飛ぶ最中思わず弱音を吐いてしまう
更にシンがその弱音に付け足しをする。
「例え俺達が全快で、絶好調の状態だとしてもノヴァには敵わない」
「嫌な事言うなよ 戦意が萎える」
「事実を言ったまでだ」
今度は振り返らない
全速力の翼は再びノヴァを置いてけぼりにして飛んだ
また姿が小さくなっていく
高度40mを垂直に飛び、その姿が豆粒ほどになった時、ノヴァのシルエットが少しだけ大きくなった。
「兄さん・・・もう少し速度を上げられるか?」
「いや、500km・・・これが限界だ」
「そうか、なら 高度を上げるか戦闘態勢に入った方がいい」
「どうしてだ」
その問いに親指を後ろに向けて指す。
「ノヴァが追いついてくるぞ」
驚きのセリフにレイヴンは思わず振り返ってしまう
「冗談きついぜ・・・走行でオレの飛行についてこられるとは」
振り返ったその先に見える人影はグングン近づいてくる、音速かそれ以上の速度、豆粒だったはずの影はすでに人型と認識できる程に接近してきていた。
「現在時速1280km・・・」
一歩進むごとに踏み込んだ場所にクレーターが発生する
ノヴァの一歩には殺傷力があった
膨大な魔力による身体能力の強化は歩行に衝撃波を生じさせ、漆黒のスピードを追い抜いた
そして今もみるみるうちに速度を上げていく
「逃がさんと言っているんだ 僕にそう言われたなら抵抗をやめないか」
高度を上げて雲に突入しようとするレイヴンに向けて声を張り上げる。
「うるせえ!集中させろ!今 お前をぶっ倒す算段をつけてんだから」
「そんなものは何処にもない」
「あるわバーカ!」
「なら見せてみろ」
「今から見せんだよ、おとなしく待ってろ!」
詰り合う両者は見た目だけを見れば龍虎の争う様だが、龍が虎にぶつけるセリフが幼稚すぎる ほとんど喧嘩慣れしていないガキだ
だが、子供の喧嘩の規模を魔族レベルに置き換えてみれば、それはもう小規模な戦争、そしてそこに理性の作戦と野性の暴力が加わってしまえば 立派に戦争だ
己の肉体を武器にして 相手の身が滅ぶまで 世界が壊れるまで戦い続けてしまうだろう。
「今に見てろよ、吠え面かかせてやるからな!」
レイヴンはノヴァを見下ろしつつ高度1000mの黒雲に突っ込む
その黒雲は毒を持っているので、できれば吸い込まない方が良い
息を止めたまま その分厚い雲層を抜けていった。
「ここまで来れば気休めくらいには・・・」
そう言うが言い切らないうちに表情が凍りついた。
「ならないな・・・」
突き抜けた雲はトンネルのように穴が空いていた、その洞穴は思ったよりも深く 暗く まるで底なし沼
その暗闇には星が瞬いていた
そう、そこは『宇宙』ノヴァが司る世界だ
「我が能力は『宇宙』をも支配下に置ける」
その突如出現した穴から腕が飛び出し、レイヴンの首をがっしりと掴んだ。
「無機物しか支配できない貴様とは格が違う」
「ぐ・・・げ・・・」
指が喉に食い込み、血が吹き出る
レイヴンはそれを引き剥がそうとするが、筋力で勝っていても魔力が桁違いに負けていた
抵抗虚しくその腕力で宇宙へ引きずりこまれていく。
「兄さん!手を離せ!俺が援護する」
その声を聞いて血が回らなくなってきた頭でなんとか反応し、小脇に抱えていたシンを離す。
「ノヴァ、その手を離せ」
空中で離された体は緩やかに落下していく
だが、それよりも早く腰から短剣を抜き、ノヴァめがけて振り払った。
「いいだろう」
だが、それを上回る素早さでノヴァはレイヴンをシンに向かって投げつけた。
「グエっ!」
2人の体がぶつかり合い、動きが止まり 大きな隙が生じる
ノヴァにとってそれは絶好のチャンス
逃すはずがない。
「お前ら、空間ごと真っ二つだ」
右腕が宇宙の色に染まりだす
それはノヴァの魔力の色だった。
「消えろ 反逆者ども」
見開かれたレイヴンの視界が迫ってくる拳に覆われて暗転する
世界が妙にスローモーションで、ノヴァの動きも自分が落下する速度もコマ送りのように感じられた
その感覚はこれまでの闘いの中で幾度となく体験してきている
エビルに体を焼かれた時も
クロウに腐らされた時も
パニッシュにバラバラにされた時も
アーミーに半身を吹っ飛ばされた時も
死を覚悟した その瞬間感覚は脳を支配し、これから訪れるであろう死を嫌でも目に焼き付けさせられた その都度危機を乗り越えてきた
だが、今回は違う
これまでは相手が全力を出し切り、それに押されたからこそのピンチだったし、こちらもちゃんと打開策を考えてあった
それだが今回はノヴァが全力を出していないにもかかわらず情けなくも追い詰められている
その上、打開策の一つも思い浮かばない ノヴァという巨大な城壁に付け入る隙が見当たらない
そして、拳が首に突き刺さろうとした
「うおおおおおお!!」
寸前、シンが叫び声を上げた
レイヴンの背に蹴りが入れられ、高く跳ね上がった。
「なんっだッ!?」
慣性に従って体が押し上げられる
その途中で背後、つまりシンのいるところから炸裂音が響き 血と思われる赤いものが全方位に飛び散って殺風景な空景色をグロテスクに彩った。
「レイ・・・ヴン・・・」
シンの声だ
「後は・・・任せた・・・ぞ」
悲痛の色に歪んだ苦しみの声はシンが無事でない事を物語っているようでもあった。
「シン!」
片翼だけを勢いよく羽ばたいて体を回転させ、ノヴァの方へ向き直る。
「無能が有能者の盾になり、それを生かす・・・それは正しい選択だ」
だが、空中で振り返った先にシンはおらず ただ1人拳を血に染めたノヴァが雲上に立っているだけだった。
「まあ、生かされたところでお前が僕に殺される運命に変わりは無いが」
べったりと血のついた拳を銀色のコートで拭うと、冷たい目をしたまま雲の穴から覗く宇宙空間へ脱ぎ捨てた
それはどこまでも漂って消えていく。
「テメェ、ノヴァ・・・シンに何をした」
低くドスを効かせた声で、レイヴンは頭上から ノヴァを見下ろすように睨みつけた
頭には見た目から分かるほど太い血管が浮かび上がり
角から発される魔力の雷は怒り狂った蛇のように全身をのたうちまわる。
「シンはもうこの地球上にはいない この世にも、な」
あっけなくそれを口にした
まるで殺して当然という風に いや、実際に思っているだろう。
「・・・クッ!」
その太々しい態度に歪むような怒りの表情を向けたが、グッとその感情を噛み殺した
悔しいが、怒りに任せて殴りかかったところで勝てる相手ではない
せっかくシンが身代わりになってくれたのに一時的感情でその命を失うわけにはいかないのだ。
「だが、安心しろ すぐ会える」
仲間になるはずだったシンの喪失感に浸る間も無くノヴァがみたび動き出した
空間に見えない足場があるかのように空中を走ってレイヴンに向かっていく。
「『八咫烏』」
翼を羽ばたかせ、追ってくる敵に背を向け 逃げる
「クソォッ!」
今は逃げることしかできなかった。
「情けねえ・・・弟が目の前で殺されたってのに やり返しもせず逃げるなんて・・・オレはなんて情けねえんだ・・・!」
奴は強い、果てしなく これまで戦った誰よりも手に負えない
殺られたシンだって能力面を見れば弱いが、そのぶん殺しのテクニックには光るものがあった
その 才能に感けることなく腕も磨いていた
だが、勝てなかった
傷を負わせることもなく 闘いは1秒と持たずに決してしまったのだ
ノヴァから見れば才能も努力も些末なモノなのか
果たしてこの圧倒的力の差を埋める戦略が思い浮かぶのか
はたまた宇宙のチリと化すのか
レイヴンの命運が試されようとしていた。
「また、ノヴァが・・・消えた!」
一瞬目を離した隙に後方から追ってきていたはずの姿が消えていた
あたかも最初からレイヴンしかいなかったかのように上空1000mの空は静かだ。
「チッ、また瞬間移動か」
ノヴァの瞬間移動はこれまでで4回体験してきている。
「だが、もう狼狽えねえ テメェの瞬間移動のタネは大体分かった 物に穴を開け、そこを別の場所へ繋げられる能力だ 違うか?」
眩しき月下にその声だけが響き渡った
返事はない。
「つまり今お前は空間と空間の隙間を繋ぐ宇宙に身を潜めているわけだろ?次は何処から出てくる、前か、後ろか、横か、下からか?お前が瞬間移動できるのは穴を開けられる場所のみだ さあ、どこの雲から出てくる!」
レイヴンは能力の仕掛けが解っても尚退かない
「シンに永らえさせてもらったこの命、てめえをぶちのめすための天命と受け取った!」
全身に力を漲らせ、いつ攻撃が来ても対応できる程 感覚が鋭くなっていた
体が空間に溶け込み、空気と一体化したと錯覚するほど集中が高まっていく。
「いつでも 来い・・・!」
ノヴァが消えたと認識して5秒キッカリ
後方の雲に亀裂が入った。
「そこか!!」
安定しない空中でも見事な翼の動かし方で高速の身のこなしを見せる
そして硬く握られた拳に捻りを入れて打ち出した。
「なっ!?」
だが、振り返った瞬間動きを止める
雲に開いた穴の中にノヴァの姿が無かったのだ。
「しまった・・・こいつはフェイントか!」
そう、この穴はレイヴンを欺くためのダミー
しかもそれに見事 はめられてしまっていた
してやられた
その考えに脳が至るよりも先に背後に絶大な存在感が出現した。
「見事に引っかかったな」
背後に現れた気配はそう言って拳を振り上げる
敵に隙を見せたままの完全無防備の状態
魔力は拳に集めてしまっていて防御に回せる程も残っていない
考えるよりも先に ゾッと怖気が走った。
「まず・・・い」
やっと やられたという思いが脳裏によぎる
「魔界を敵に回したことを後悔しながら死んでいけ」
拳が振り下ろされ、空間を斬ってゆく
ノヴァの拳は空間ごと破壊しながら打ち出され、音がしない
それゆえ空気抵抗も受けず、最高速度に達するまでの時間はほぼ0だ。
「フッ・・・」
勝利を確信し、その鉄仮面のような顔に笑みを見せた瞬間
「オォオオ!」
レイヴンが打ち出した拳よりも早く振り返った。
「なんだと!僕より早い!?」
早いのは振り返る速度だけではない
その捻りの勢いに乗せられた拳速は超速でノヴァの顔面に叩き込まれた
そして、肘に『硫炎』で爆破を起こし さらなる加速で拳を振り抜く。
「小癪な!」
「うぎっ!」
しかし、ノヴァのパンチも顔面にキマっていた
お互いがお互いの拳圧に吹き飛ばされ、立て直す間も無く1000mの空から落下していく。
「ぐっ・・・へへ、見たかこの野郎!後出しなのにテメェの攻撃速度に追いついたぜ!瞬発力ならオレの方が断然上だ!」
落下しながら指をさし牙を剥く
口から夥しい血を吹き出しながらも闘志に燃えていた。
「奴め、実力を隠していたのか?いや、あいつの性格を考えれば味方を犠牲にしてまで真の実力を隠したりはしないか・・・」
自由落下運動に身を任せたままゆっくりと分析と理解を始める
「ならば、覚醒か?シンを殺された事による感情の爆発 ならばあり得る、精神は魔力に深く関わっているからな、あいつの才能を考えれば納得できる」
レイヴンに追い越されたにも関わらず大して焦りを見せない
不気味な程太々しい態度で逆さまに落下している
「フン、まあいい どうせこれから嬲り殺されるのだ 今のうちに調子にでも乗っておけ」
ノヴァの口からも一筋の血が垂れている
しかし、ダメージが見受けられない
指で血を拭うと すでに傷口は閉じていた。
「いいのか?調子に乗っちまっても」
ノヴァにダメージがほぼ入っていないことを確認しても気落ちしていない、なんなら予想どうりだとでも言うかのように落ち着き払って 調子に乗っている。
「オレを調子に乗らせると」
眼光が輝く
背に展開した翼で 直線的に空へ舞い上がった
ただ本当にまっすぐ飛んだ後 静止する。
「誰にも止められなくなるぞ!」
そして、突撃する
空気抵抗を抑え 姿勢をまっすぐに
ジェットエンジンのような翼圧に乗り、獲物を狙う鳥の眼光のまま
弾丸の如き勢いで空を突っ切っていった。
「ああ、よく知ってるよ」
ノヴァの方も魔力を展開する
「だが、お前が一番よくわかっているはずだ」
全身を魔力が包むと落下途中にも関わらず固定されたかのように 空中でピタリ と止まった。
「万が一にも僕には勝てないということを」
何もない空間に足を掛け
拳を前に突き出して、レイヴンを迎撃する構えをとる。
「『月面散歩(ムーン・ウォーク)』」
ノヴァの方もレイヴンに向かって走り出す
あっという間に2人の距離は縮まり、目線が合う。
「いくぜ」
「無駄だ」
目線は鋭く殺気に変わり、両雄の猛る魔力に火をつける
燃ゆる感情のパワーはレイヴンの拳に炎の力をもたらし、燃え上がった。
「『豪炎硫』!」
太陽のように眩い拳が放たれる
超スピードの拳から発される炎が尾を引いてまるでノヴァに襲いかかる一体の龍のようだ
しかし、その標的となっている相手は動かない
抵抗を見せる代わりに
その迫る拳を目で追って膨大な魔力を発生させた。
「『拒絶空間(リジェクション・スペース)』」
「オオォッ!」
ノヴァの能力発動と同時に拳が振るわれた
スピード パワー共に申し分なし、ここで初めてクリーンヒットが決まった そう思われた
だが、しかし・・・
「・・・なに、拳が 届かねえ!?」
振り抜いたはずの拳が相手の顔面スレスレで停止していた
あり得ない現象を前にして思わず後退する
「攻撃の間合いを数cm計り間違えたか?」
こんな肝心の場面でそんなミスを犯すだろうか、困惑が脳を侵食していく
そんな様子を見てノヴァはニヤニヤと嫌な顔つきで笑っていた。
「どうした、止まらないんだろ?打ってこい 僕は一向に構わない」
両腕を広げ、無防備の意思表示を示して挑発してくる
「余裕ぶりやがって・・・」
自信満々といったその顔は挑発と相まってレイヴンの怒りに拍車をかける。
「ヌオオ!」
空が漆黒の稲光に照らされた
美しいその黒い光は触れたものの性質を増幅する力を持つ
その力を両腕に纏わせて宙に佇むノヴァに突進していく。
「オアッ!」
ブゥン!と風切り音を立てて拳が叩き込まれる。
「フフフ・・・」
だが、またしても攻撃は届かない
残り数cmのところで何かに阻まれてしまう
寸前で止まっている拳を前にして ノヴァは また不敵に笑った。
「リャリャリャリャリャリャ!!!ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
御構い無しにレイヴンの拳が連続で、高速で打ち出される
前のめりになりながら嵐のようなパンチは止まらない
しかし、いくら打とうとも 一撃たりとも届くことがなかった まるで見えない壁に阻まれているかのようだ。
「オオオオ!!!」
悔し紛れにも見える連打が止む
だが、諦めたわけではない なんなら発散されない戦意が暴発しだしている
肩が外れるんではないかというほどレイヴンは大きく振りかぶり、背骨が折れそうなほど肢体を逸らした。
「ラアアアアアアアッ!!」
そして、筋肉をバネのように伸縮させ 拳をライフル弾のように回転させた
全ての運動エネルギーがタイミングよく拳に乗り、更にそれを魔力で強化してこれまでにないほどの力になっていた
その打ち出された拳は 振り切られると同時に大型台風クラスの風圧を生み、周辺の黒雲を吹き飛ばす。
「これでも・・・かよ!」
だが、手応えはなかった
歯をくいしばって悔しがる
最速の攻撃も連打も渾身の一撃も全て通じない 謎の能力『拒絶空間(リジェクション・スペース)』
外からの攻撃をことごとく拒絶していくその力は目の前にいるはずのノヴァを遥か遠くに見せた。
「全然ダメだな まあ、この能力を攻略できる者なんて限られている そう悔しがるものでもない」
「なっ・・・!」
ノヴァの言葉が聞こえた瞬間 隕石か何かと錯覚するほど強力なエネルギー塊がレイヴンに打ち込まれた
その強大なエネルギーは拳だった
ノヴァの一撃は風圧を伴って顔面を捉え、チリの如くぶっ飛ばしてしまう。
「ブッはぁ!」
「チッ、寸でのところで身を引いてダメージを抑えたか」
ここで勝負とレイヴンの命を終わらせようとした一撃は 刹那の起点によって抑えられた
咄嗟のことだったのでダメージ半減とまではいかず ほぼマトモにくらってしまっている
しかし、逆に言えばそのほんの少しの起点が無ければ即死の威力だったということだ。
(やべえ!今ので顎が砕けた・・・『武装』でなんとかできるっちゃできるが・・・クソ!どうすりゃ倒せんだよあいつは!)
吹き飛ばされる途中、思考の海の中で力の差を思い知り 軽く絶望していた
攻撃は通じず、あちらの攻撃をくらえば一撃必死 一言で言えば「理不尽」だった。
「ぐ・・・」
翼を広げて空気抵抗を真正面から受け止め、やっと停止する
砕けた骨格は『武装』によって整形し直した。
「反撃をもらっちゃダメだ、レートが違いすぎて相打ちでもこっちだけがごっそり削られる、理想としてはスピードで翻弄してヒットアンドアウェイなんだが そう上手くいくはずもねえ」
脳内で作戦を構築していく
しかし、思い浮かぶものは状況を打開できるようなものではなく死路ばかり 寿命をほんの少し長らえるだけのイカサマのみだ。
「だからといって安全策をとるオレじゃない!一か八かの勝負に命を全賭けしてなんぼだ!」
逃げても瞬間移動で追いつかれ
攻撃しても当たらず
防御は不可能
魔王に最も近い男の理不尽さを前にして 逆にレイヴンの腹は決まった。
「我が名魔王家長男、【レイヴン】!『反逆者』の名の下に・・・不埒な輩に裁きを下す!!うおおおおおお!!!」
両腕に覚悟の念を込める
エネルギーは性質を作り出し・・・
「『硫炎』&・・・」
右手が燃えだした
「『腐敗ウイルス』」
左手は猛毒を撒き散らし始める。
「いくぞッ!」
風を突き抜け、ノヴァに向かって両手のひらを向ける。
「『滅却砲』!」
両掌から発された光線は螺旋を描きながら対象に向かって飛んで行く
燃え盛る炎と暴れ狂うウイルスが混じり合い、最強の破壊エネルギーを生んだ。
「無駄だ・・・」
しかし、当たる寸前それは例のごとくノヴァの前で止まってしまう。
「まだまだぁ!」
攻撃が当たらなかったことは毛ほども気にせず
今度は回転しながら上へ上へと上昇していく
両手に魔力を集中させると それを一気に解き放つ
「『滅却弾』!」
その光弾は花火のようにこの漆黒の夜空を彩る。
「無駄だと言っているだろう」
空全体に散らばった光弾は360°からノヴァに襲いかかり、破壊の爆発を起こした。
「ぬおおおおおおお!!!!」
不気味な色の爆煙が上がる中へ次から次へと『滅却砲』を撃ち込み続ける、爆音が響き 煙がもうもうと立ち込めた
バスケットボール大のエネルギー弾が一つの対象に向かって無数にぶつかっていく様はまさに圧巻である
並みの魔族ならバラバラに吹き飛んでいるところだが・・・
「チッ・・・」
撃ち込む手を止め、レイヴンは舌を打つ
煙が晴れていくとそこには傷ひとつないノヴァが余裕の表情のまま立っていた
ギリッと歯ぎしりの音を立て、そのまま急降下していく。
「なんだ、まだ諦めないか」
「愚問だぜ」
高速でノヴァに向かって迫っていく それはもう 落下とも言える速度である
そして急降下の加速に乗り、腕を振り上げた。
「くたばれ!『滅却掌』!」
握った拳の中に閉じ込めた超エネルギーを解放しながら殴りつける
解放された力はドーム状の爆炎を起こし
空気中の酸素を燃やし尽くし
空気中の微生物を腐らせ殺していく
放った本人の鼓膜が張り裂けるかと思うほど強烈な音と衝撃が拡がり、天と地を焼き焦がした。
「やるじゃないか」
だが、それを受けたノヴァは目の前で笑うのみ
微動だにしない
「ウアアアアアアアア!!!!!」
歯を食いしばり、拳を打ち込み続け 爆撃を繰り返す
全開にした魔力の生み出す衝撃は高度300mの場所からでも地面にクレーターを刻んでいく
「その程度の力で『宇宙』を超えることはできない」
その拳の嵐の中から流れに刃向かうようにノヴァの拳が放たれ、レイヴンの両腕を弾き飛ばした。
「う・・・!」
軽く払うようなモーションだったがその力は凄まじく、体制ごと持っていかれてしまった
両腕が上がり、背も伸びきっている
完全無防備なその状態
「そうだな・・・手本を見せてやろう」
立て直すよりも早く、ノヴァが目の前で拳を握っていた。
「こうやるんだ!」
打ち抜かれる
打撃よりも貫通 と言った方が正しい激痛が身体を駆け抜けた。
「え゛あ゛あ゛・・・!」
痛みに声をあげると同時に口から泡と濃い血が流れ出した
それは流血という表現では生易しいほどに止め処なく、痛みに薄れた意識の中でもハッキリと命が消えていくのを感じた。
「そら、もう一度いくぞ」
めり込んだ拳を引き抜く
引き抜いた拳には血がこびり付き、まるで真っ赤な手袋をつけているように見える
ノヴァの突きはレイヴンの魔力でのガードを容易く破り、腹に突き刺さっていたのだ
レイヴンの100を超える拳も200を超える魔弾も1000を超える爆撃も全てを合わせても太刀打ちできないそのパワー
たしかに、魔王に最も近い男の名は伊達でない事がよく分かる。
「こいつでッ!」
そして、トドメと言わんばかりの一打が打たれた。
「うあああああああああああ!!!!」
その瞬間叫び声をあげ、致命傷をものともしない動きでその一打を躱し、地上へと羽ばたいていく。
「フン、逃げたか・・・だが もう少し愉しませてもらわなくては困るな」
外れた拳は空を切り裂いただけに終わった
ノヴァは回避行をとったレイヴンを見下ろす
その目は勝利を確信している者の目だ
実兄であるレイヴンをいたぶって殺す
そんなことが易々とできる残虐性と戦闘能力がノヴァを最強たらしめているのだ。
「ケッ、オレに逃げるという選択肢を選ばせた事は評価してやるぜ」
一方レイヴンは空気に逆らわず強がりを言いながら重力のおもむくままに落下していた
大きな傷口から巻き上がる血が大気中に舞って綺麗だな、など おおよそ普通の精神状態では考えないようなことを考えながらその胸の痛みを我慢している。
「『武装』」
胸を押さえ、その穴を魔力で修復する
足りない部分は他の細胞を寄せてごまかす
つまりレイヴンは傷を『直す』たびに削れていっているというわけだ。
「ちくしょう、あいつ追ってこねえな できれば空中戦で決着つけたかったが 翼を出しっぱなしにしてちゃ、こっちも全力を出せねえ 仕方ねえが地上でやってやるぜ」
そうこう言っている間に地面に激突した
遥か上空から落下した人型の落下物は無抵抗のまま背中から突き刺さり、大きく砂埃を巻き上げた。
「さぁてと、お次はどこから来んのかね ノヴァの野郎は」
不動のまま落ちてきたレイヴンは『武装』で落下の衝撃を吸収し、ノーダメージで地上へ降り立つ
落下した場所にできたクレーターの中心で立ち上がると五感に集中して、次に来るノヴァからの奇襲に備えていた。
「そう気を張るな レイヴン」
「む・・・」
だが、レイヴンの警戒に反してその登場は至極シンプルなものだった。
「今度は単純に僕の戦闘能力のみで押し切ってやる、要するに レイヴン お前がお待ちかねにしていた喧嘩だよ」
レイヴンの目の前の地面に亀裂が現れ、卵の殻が剥けるように穴が開いていく
そこからスー・・・っと音もなくノヴァは上がって来ると一方的に喧嘩の宣言を始める
単純な戦闘能力のみ・・・
それはレイヴンにとって思ってもみなかったチャンスである。
「言うねえ このオレが魔界きっての喧嘩好きって事知ってて言ってんのかい?」
左掌に拳を打ち付けると強気な表情を浮かべ、ノヴァを睨みつける
しかし、当のノヴァは目を瞑り両肩をすくませて見せた。
「お前こそ、この僕が魔界最強の男『超新星』のノヴァ だと知ってて言っているのか?」
おどけるようなポージング
そこには確かな強者の余裕が感じられた。
「知るかよ!」
いきなりだ
レイヴンのパンチがノヴァの顔面を襲う
「なら・・・」
当たった、そう思ったが拳がミートする寸前 それは掴み取られ 防御されていた
万力に抑えられているように固く握られていて引き剥がせない。
「思い知らせてやろう」
そのまま逆に顔面を殴られる
あまりの拳力で握られた右腕が肩から もげる
全魔力を防御に回したおかげで頭がもげることはなかったが、血を吹き出しながらレイヴンは転がっていった。
「ぐおおお!」
転がる中 左手を地面に突き立てる
突き立てたそばから 火花が散る程の勢いだが
なんとか勢いを殺し、停止した。
「ハァ!『武装』!」
魔力がもげた右腕を形どり、実体として形を成していく 足元の石ころを集めて形成したのか 新しい右腕が生えてくる
しかし、そのシルエットは腕の形をしていない
「その形は・・・」
それは長い棒のようで、先に向かうほど細くなっていく 長モノの武器
「槍か」
それは槍だった
レイヴンは立ち上がると変形した右腕を振り払い、先に見えるノヴァに矛先を向ける
「腕くらい何本でもくれてやる、次いくぜ」
そしてそのまま再度走り込んで行く
ノヴァはズボンのポケットに手を入れたまま動く気配がない
レイヴンは走りながらそれを見て槍を構える。
「そのまま動くな・・・よッ!!」
レイヴンの突きがノヴァの頬をかすめた
いや、正確には当たる寸前で首を曲げて躱されたのだ
「チッ、余裕ぶってんな」
続いて連続で突きをかます
しかし、その攻撃は流水のごとく滑らかに躱されてしまう。
「実際余裕だからな」
槍を引くと同時に後ろに飛び退くと グルンと身長の半分以上はある槍を回す
そして、低く構えると再び間合いを詰めた。
「何度やっても同じこと」
だが、今度の攻撃は槍での突きではなく 左拳での突きだった
槍に負けず劣らずの鋭い一撃だが・・・
「慣れればお前の速さも大したことはない」
ポケットから出した手に、また受け止められ 掴まれる
まるで焼き直したように同じ光景だ
違うのは右腕が左腕になっただけ
それも次の瞬間にはもがれるのだろう
しかし、レイヴンは腕をもがれると分かっていて同じ行動を取るほど阿保ではない
ノヴァが殴り飛ばそうともう一方の手をポケットから出すと同時にレイヴンは口を開いた。
「チェーーーーンジ!!!」
一瞬ノヴァはそれが何を言っているのか分からなかった
しかし、次の瞬間には思い知ることになる
しかも人生史上最大の痛みを伴って。
「うあ゛あ!!?」
ここで初めてノヴァは叫声を上げた
痛みで頭が真っ白になる
しかし、顔に向かって何かが高速で伸びてきているのを感じ取り 訳も分からぬまま後ろに飛び退いた。
「こ、これは・・・」
激痛の走った部位をみる
そこは左手 さっきまでレイヴンの拳を握っていた左手である
ノヴァは目を疑った、なんとその左手の真ん中にポッカリと穴が開いているのだ
だくだくと血が流れ出る傷穴から向こう側にレイヴンの得意げな表情が覗いた。
「お前も慣れれば大したことねえよ、今度はオレが偉そうに踏ん反り返ってお前をぶん殴れる」
「な、なるほど 考えたな・・・」
腕を押さえ、脂汗を垂らしながらも レイヴンの姿を見てダメージの正体をやっと理解する
「『再武装』したのか!」
見ると、レイヴンの槍だった右腕が普通の腕となり
逆に普通の腕だったノヴァに掴まれていた左腕が槍に形を変えていた
そう、レイヴンは『武装』により肉体の配置を変えることもできる
つまり、ノヴァが掴んでいたレイヴンの左腕が瞬時に槍と化した為にその掌を貫いたのだ。
「こいつはテメェの油断が招いた結果だ」
「・・・!」
「その掌に空いたでっけえ風穴は戒めだぜ 毎夜その傷が痛むたびにテメェはこの屈辱を思い出すんだろう そう、これから数百年ずっとだ!いや、今夜オレにぶっ殺されんだからその心配はねぇな!」
「ぬううう!!」
レイヴンが高圧的な態度で言葉を発した
それはどれも怒りを煽るような台詞ばかりで ノヴァは貫かれた左手を押さえながら歯を食い締めた。
「どうした、怒るか?怒るか?」
「うおおおおおお!!!」
ついに叫び出した
冷静を失った、この時こそチャンス レイヴンはそう思った
しかし
「え・・・っ?」
今まさに攻め込もうと、姿勢を低くした時だった
「クククククククククク・・・!」
ノヴァが不気味に笑う
左腕の細胞が音を立てて形を変えていた。
「なん・・・だよ、それ」
再生
それは おおよそノヴァの能力ではできないような行為だ
しかし、それなのに目の前でノヴァの傷が塞がっていく
「ふふふふふふふ この僕に一杯食わせた事は褒めてやろう、本当に痛かったぞ これまでの人生で一番にな」
喋っているうちに掌の傷は跡形もなく塞がって消えた
まるで新品のように綺麗になった左手を開いて閉じてを繰り返し、治り具合を確かめると牙を向いて笑った。
「だが この程度の傷、魔力で自然治癒力を高めればすぐに治せる、まあ 僕ほどの魔力量が無ければできない芸当ではあるがね」
完全に治った左手をヒラヒラさせて見せる
皮膚から吹っ飛ばされた骨も筋繊維も完全に再生されていた
それに、再生される前より綺麗な手になっている 新陳代謝まで強化されているのか。
「なら!一発でテメェの息の根を止めてやればいいんだろうがッ!」
槍を振りかぶり、地面を蹴る
「オオッ!」
ノヴァの真正面まで間合いを詰めた瞬間 サイドステップを踏み、高速の身のこなしで横へ回り込む。
「サービス時間は終わりだ・・・」
そんなノヴァのセリフを聞きながら、足を蹴り出し
槍を突き出す
しかし、ノヴァはその突きを見ずに片手で掴み取った。
「少し、本気を出そうか」
掴んだまま体に力を貯める
空間に干渉するその力は溜まっていくほどに空気を大きく揺らす
「『拒絶空間(リジェクション・スペース)』」
そしてノヴァを中心に衝撃が走った
「うあっ!」
まるでその圧倒的力を讃える拍手のように空気はパチパチと音を立てている
かまいたちが巻き起こり、皮膚を切り裂く
レイヴンは思わず顔を右手で覆った。
「ってなんだ・・・!」
突然掴まれていたはずの左腕が解放された
だが、二、三歩後ろに下がるとただ解放されたという訳でないことに気付く。
「砕かれている!?」
左腕の槍が肘から先、なくなっていた
その断面は破壊というよりも かなり鋭利な刃物で断たれたようにささくれ一つとしてない 芸術的断面であった。
「空間にお前の槍を拒絶させた」
そして、『拒絶空間(リジェクション・スペース)』という絶対領域に身を守らせるノヴァの手には 断たれた槍が掴まれていた
そちらの断面も また綺麗に切断されている。
「クソ、さっきからなんなんだその『拒絶空間(リジェクション・スペース)』とやらは」
その問いにノヴァは一呼吸置くと、槍を握り砕き、口を開いた。
「そうだな、どうせこの場で殺すのだ 教えてやってもいいだろう 時間を無駄にするのも また一興だ」
そう言って展開した魔力を閉じて体に納める。
「僕の能力『空間支配』、それは魔力で空間を操り 時には盾に または足場に、時には矛として扱う力だ、そして・・・」
天高くへ、指を突き出す
それと同時にさっきまで黒雲に覆われていたはずの空が嘘のように綺麗サッパリ晴れ渡った
目を奪われるほど美しい星空が視界いっぱいに広がる。
「その能力射程距離はこの遥か宇宙の果てまで、余りに大きすぎてな、自分でも限界を見たことがない」
嫌味げに言うと フッと力の抜けた息を吐き出して肩をすくませた。
「そしてこれまで何度もお目にかけた宇宙空間・・・」
唐突に地面を踏みつけ、大穴を空けた
その穴に吸い込まれるようにノヴァは滑り込んでいく
地上から存在が消える
「このように 穴を開けるという行為を引き金として・・・」
「ウッ・・・」
だが すぐに背後に穴が開き、現れた
驚きつつも飛び退いて距離を保つ
「空間を縮めて穴を宇宙に繋げる、力を調整すればこの地球含めて全ての星に行くことも可能だ」
そう言いきると同時に、再び絶大な魔力がノヴァの周りを固めた。
「そしてこれが我が最強の盾『拒絶空間(リジェクション・スペース)』!」
張り詰めた魔力塊にビリビリと空気が揺れているようだ
「魔力で空間を歪め、宇宙にある無尽蔵の空間を圧縮して周りを囲ませている・・・つまりッ!」
ノヴァを包む空間が漆黒に染まる
「今、目の前に見えているこの僕とレイヴン、お前との距離は何光年も離れているというわけだ」
言葉遣いに熱が入る
レイヴンに向かって指を差し、高圧的にセリフを畳み掛けた。
「生半可な攻撃・・・いや、どんな攻撃だろうと『拒絶空間(リジェクション・スペース)』を破ることなどできない!」
そのセリフを聞いてレイヴンは顔をしかめた。
「さて、冥土の土産は以上だ 次の瞬間からはもう手加減なし・・・お前はどうしたって助かりはしない」
「はははははは!!!」
だが、すぐに笑った。
「あまりの格の差におかしくなったか?」
必ず勝てるという自信を持ち続けているためかノヴァの語勢はゆっくりになっていく
その問いにレイヴンは笑い止んでノヴァを挑発するように指差した。
「なに、まだオレを殺してもないのに安心しきっているお前の態度が余りにも滑稽だったもんでね」
少しでも怒らせれば直ぐにでも殺しに来るような相手を前にしてもレイヴンの歯に絹着せぬ物言いは鋭く冴えていた。
「オレは内臓を吹っ飛ばされようとも闘志は萎えねえし、首をはねられても頭だけで食らいつく、例え殺されたって化けて出て呪い殺してやる覚悟なんだ そのオレが生きているうちから油断とは・・・」
一瞬言葉を貯める
角に小さな稲妻が走った。
「『超新星』が聞いて呆れる」
その言葉がノヴァの耳に届き
そして殴りかかろうとしたその直後
激しい音と共にレイヴンが眼前から消えた。
「な!?」
少しの魔力の残り香と砂埃が舞っているだけで他は何も痕跡がない
「そのスピード、目で追えてすらないな」
背後から男の声
「こいつッ!」
振り返るもすでに遅し
もうそこにレイヴンの姿はなかった。
「どこ見てる!後ろだ!」
またもや背後からの声
しかも今度は近い、レイヴンの一撃が風をきって迫り来る
「なんなんだこのスピードは」
振り返らず ノヴァは呟いた
空間が歪む
「オォリャッ!!」
一方レイヴンはなんの遠慮もなしに
騎士道精神に反するなどという考えを一切見せない背後からのだまし討ち、全力で拳を振り抜いた。
「お前に宇宙は広すぎる」
ふり抜かれた拳は歪む空間に優しく包み込まれ、中途半端な距離で停止してしまう。
「そうだ、もう一つ・・・言っていなかったことがあった」
「・・・腕が、動かねえ?」
突き出した腕が空間に飲み込まれたまま、千の腕に掴まれているかのように動かない
引き抜こうと何もない場所でやきもきするが 肩から下全てが何か得体の知れない力にしっかり固定されている。
「僕の『空間』は全てを拒絶する さっきお前の槍を折ってやったようにな」
パチン!と指を鳴らす
すると・・・
「うお!?」
レイヴンの固定された腕が付け根からスッパリと切断された
しかもまたその断面は綺麗で、細胞が潰れておらず
肉体が切断されたことに気づいていないのか血が出ていない
当のレイヴンも見ているにも関わらず痛みより驚きの感情の方が優っている。
「なるほどね、生身で受けてみてやっと分かった」
これで両腕を失ってしまったにも関わらず妙に落ち着いた表示で分析を始めた
果たして余裕の現れなのか強がりなのか。
「能力発動時、空間が歪むのを利用して破壊してるってわけか」
「言葉足らずだが だいたい正解だ」
冷静にそう言うと地面に転がる腕を拾い上げ
地面に穴を開け、宇宙に捨てた
なんとも壮大なポイ捨てだ。
「『拒絶空間(リジェクション・スペース)』は無限の空間で僕の周りを囲む力、そこに手を突っ込めば その軋轢によって引き裂かれる」
ゆっくりと、そして、スムーズにレイヴンへ歩み寄り
無防備にその距離を縮めながら得意げな表情を見せる。
「つまり、この『拒絶空間(リジェクション・スペース)』は無敵の盾であり最強の矛でもあるのだ」
両腕を大きく広げ、胴も心臓もさらけ出す
無敵の防御壁に身を囲い 無防備のポーズを取り 無尽蔵の力で叩きのめす
その理不尽さ・・・
「無敵、最強、ねぇ・・・」
逆にレイヴンは燃えていた
『硫炎』の炎に身を包み、心情的にも物理的にも燃えている。
「いいじゃないの、お前をぶっ倒して『武装』すれば一気に革命への道が開きそうだぜ」
瞬間的に体制を沈み込ませると同時に地面を『武装』し、無くなった腕を作り直す
その両腕は緑色に燃え盛り、回転を加えられながら突き出された。
「ムンッ!」
その炎は爆発を起こして 煙と蒸気でノヴァの視界を外界からシャットダウンした。
「まだ、そんなことを言う元気が残っているか」
突然 爆炎の中から腕が飛び出し、煙を裂いて突っ込んでくる
「ひひひひ!」
それを猿のように四足を使って体をねじりながら躱す。
「さっきから10分以上闘っている・・・この僕としてこれだけの・・・」
何か言おうとしたその刹那
「はい、ドーーン!!!」
ノヴァの眼前に燃え盛る魔弾が撃ち込まれ、爆煙が巻き起こった。
「時計見てんじゃねえ、どんどんいくからな」
「チッ、癪に触る」
ダメージも衝撃も遮断され、何も影響はなかったが
目の前で何度も何度も爆発を起こされてはウザったくてたまったもんではない
流石にノヴァも苛立ちだす。
「今度は僕が殴る番だな」
そう言って拳を握る
レイヴンはハッと真剣な表情に戻り、臨機応変に対応する姿勢を見せた。
「せぇえィッ!!」
拳がレイヴンの頰肉を抉る
直撃は避けたが血が飛び散り、切れ目から口内の牙が覗く程 傷が深い。
(やっべえー!殺意に反応して一瞬早く避けたつもりだったんだが・・・)
ザザザザ・・・と足で地面を削るようなすり足ステップで後ろに下がり、体制を立て直そうとしたが・・・
「距離を取らせてくれるほど 甘くねぇか」
ノヴァは半歩で追いついてくる
正確に測っているのかと思う程正確に60cmの距離を保ち、ぴったりと間合いを詰めて離れない。
「逃げ腰か?」
「誰がだ!」
挑発する弟
そして、それに乗る兄
2人が全く同時に拳に魔力を送った。
「フゥウッ!」
「『G.Iジョー』」
魔力と言ってもレイヴンの握った拳は また、異色の魔力を孕んでいた。
「むっ」
違和を察知し、打ち出した拳を止め、姿勢を倒す
自分の重力を0にしてからの回避は直立の姿勢のまま空中に45°の角度で止まることを可能にした
そして、その判断は正しかった。
「うおッラァ!」
ひたいの角先をかすめて拳は頭上を通過していく
しかも、ノヴァの拳速を超えたスピードで。
「さっきの謎の加速はそれか!」
ノヴァの動体視力を上回った秘密が判明したところで
「タネが分かればどうって事なかったな、僕に敵うわけもなし」
今度こそ必殺の拳を放つ
「おおおっ!」
妙な体制から放たれた拳は通常のパンチよりも軌道が読みづらく、躱しきれずにまた顔に掠らせる
アクロバットに飛び退き、着地した時には両頬が耳まで裂けて 本物の悪魔のような風貌になってしまっていた。
(直撃は貰うな・・・丁寧に、今はカスっててもいい 次かその次には、躱せオレの体!)
頭の中でパンチを躱すイメージを繰り返す
「避けて、瞬時に殴る・・・避けて瞬時に殴る!」
ブツブツと繰り返し呟き
体から『武装』とも『硫炎』とも『腐敗』とも違う魔力が出力される
「力を貸せ『G.Iジョー』」
落ち着いた声色で技の名を呼ぶ
そしてそれは音もなくその肉体に魔力が染み込んでいき、細胞一つ一つに取り憑いていく
「オレの肉体に・・・」
声を荒げ
細胞その一つずつが心臓のように鼓動する
「命令するッ!」
地が揺れるほどの気迫
裂けた口から流れる血が沸騰し始めた
熱気が体を包み、命が燃える蒸気が立ち昇る。
「奴を倒せる衝動をオレに与えろ!!」
気迫の衝撃波が周囲を駆け巡り、地面の石くれを刎ねあげる
「フシュウウウウ~・・・」
口から蒸気を吐き出し
目つきが、目の色が変わっていく
黒かった目が 次第に毒々しい紫色へと染まる
その警戒色は、レイヴンの身体に武力がもたらされたことをノヴァへの警告として示しているようだった。
「自身を操ることで潜在能力を引き出すわけだな」
『G.Iジョー』の能力を知っていたノヴァはすぐ勘付いていた
しかし、それを見ていないかのように悠然と
レイヴンが最も得意とする中距離まで足を踏み入れていく
「『軍隊』だろうと宇宙は攻略できない」
自らの能力に過信とも言える程の自信を持つノヴァは防備などしない
だが、これまでの攻撃と槍で怪我を負わされたことにより彼に警戒心が生まれた
この警戒と絶対的な力が合わさってノヴァの精神状態はまさに絶対領域
なぜなら、慢心のない王者に付け入る隙など無いのだから
「そうかもしれねえけど、そうじゃないかもしれない やってみなくちゃ分かんねえだろ?」
絶対領域に踏み込むは、無謀な『反逆者』
自分の意思で自分自身を操り人形にする『G.Iジョー』の応用を用いて
脚にその魔力を集中させる。
「おい、奴の視線を追い越せ」
ポンと脚を叩き、自分の身体に命令を下す
角から脚に開けて電気のような感覚が走ると レイヴンの肉体は一瞬にしてノヴァの背後に回っていた
そして、『硫酸』の魔力の込められた平手で空気を煽り、地獄の嵐を巻き起こした。
「『炎渦(フレア・サイクロン)』!」
巨大な渦はノヴァの体を容易く呑み込み 溶かし尽くさんと渦巻く
強力な熱気と酸が周りを溶かし、その溶解液が連鎖的に地面の穴を大きくしていった。
「ハアァッ!」
だが、ノヴァの一喝と共に渦は掻き消され 小さな火の粉となって空気中消えていってしまった。
「やはり、攻略できなかったな」
グン、とノヴァとの距離が縮まった
レイヴンが近づいたのではない ノヴァが一歩踏み出したのだ。
「『G.Iジョー』!!奴の攻撃を避けろ!」
間一髪 能力を発動させ、飛び上がる
拳が空を切った。
「アブねーアブねー」
ノヴァの一撃はレイヴンの動体視力を完全に超えていたが『G.Iジョー』による肉体の動きはそれを追い越す
だが、一見強力に見えるこの能力だが
所詮は発展途上
『G.Iジョー』は命令した事以外が制御不能
苦肉の策なのだ
いつこの付け焼き刃の技が崩されても不思議ではない
「つああああああ!!!」
飛び上がった瞬間に今度はノヴァが嵐のような連打を放つ
「躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!躱せ!」
その命令は自身の限界を超えて体を動かした
空中で身をよじりながら向かってくる攻撃に対応していく
一撃目がひたいを削り
二撃目は頬を通り過ぎ、右耳を削いだ
「ぎ・・・いいィィ!!!」
研ぎ澄まされた時間との闘いの中では 痛みを感じている暇すらない
瞬時に着地し、体制を戻すと
三撃目には自ら飛び込んだ、拳圧が皮膚をめくれ返させる
四撃目の拳は鼻の頭を掠らせるところをバックスリップで避けた
「よし、躱せる!」
やはり『G.Iジョー』の機動力はノヴァの攻撃力を上回っていた
笑みを浮かべ勝利に大きな一歩を踏み出す
しかし、
「もう見切った、無駄だ」
攻撃を最善最速の動きで避ける『G.Iジョー』だが、その動きは実に機械的だった
そこを狙われる
「えっ?」
足を払われた
そう、ノヴァにはこれがあったのだ
一度見た技にはすぐ適応してしまう
スピードでもパワーでも負けていたはずの『G.Iジョー』これを天性のテクニックで破った。
「倒れ伏すがいい」
ワザとバランスを崩す事で攻撃を躱していたのを更に 上からの力で押さえつけられ、崩された
支点となる足が自重と体の動きを支えきれずガクンと膝を折ってしまう。
「うぅっ!」
ゆっくりと崩れていく視界の中でノヴァが五発目の拳を握りしめていた。
「宇宙の塵となれ!レイヴン」
全力を出したノヴァの攻撃は真空を作り出す
打撃を超えた貫通の力
更にその上をゆくその拳は切断の域に達している
「へッ、チャンスなのはお前だけじゃないぜ」
高速で死が押し迫る中、レイヴンは いつもの笑みを浮かべた
不利を有利に逆転させる起死回生のあの笑みだ。
「『武装拘束(バインド)』ッ!」
突如ノヴァとレイヴンとの間に壁が出現する
なんの仕掛けもない『武装』により作られた障壁だ
すでに打ち出されていた拳がそれを貫くと木っ端微塵に吹っ飛んだ
「まったく、くだらない小細工を・・・む?消えた?」
障害物ごとレイヴンを貫こうと思っていたノヴァだったが
打ち抜いた壁の向こうにいたはずのレイヴンが消えていた
拳が当たってから壁が木っ端微塵になるまでコンマ1秒も無かったのだが
気配ごと、まさに闇に隠れるようにその漆黒は消え失せた。
「移動したにしては『G.Iジョー』を計算に入れても早すぎる、しかもなんの音も立てていない」
考え込むポーズをとるノヴァだが
隙を見せない為にすぐに答えをまとめる
「自らを地に『武装』して潜ったのか」
そう予想立てたノヴァはその強靭な脚力で飛び上がり、地面を見下ろした
そして、全身に あの深黒の魔力を充填させる
「ハァッ!!」
魔力の塊は凄まじい威力と速度で向かって行き
一叫と共に放たれた力はまるで隕石のように大地に破壊をもたらす
強烈な衝撃が大地を揺らし
地面が地盤から抉れ返る
破壊によって巻き上がった大岩が周辺の建物にぶつかり、ジェンカのように崩壊させていく 爆音が治まることがない
破壊によって生まれたクレーターは『宇宙空間』につながり、周りのものを無差別に呑み込んでいった
破壊の波は止まることを知らず、連鎖的にどこまでも広がっていく
この能力は放っておけば世界をも呑み込んで破壊し尽くすほどのエネルギーが感じられた
これがノヴァの魔王としての片鱗なのだ
「このぐらいだな」
パチンッと指を鳴らすと穴の拡大による崩壊が停止し、鼓膜の裂けそうな爆音もしなくなる
一転して静寂の世界となった。
「フン、流石にあの生命力のレイヴンでも死んだだろう」
安心したようなそんな顔をしてため息をつくと
何km先にも渡って空いている、底すら見えない大穴に降りていく
一応、レイヴンの生存確認のためだろう
「生体反応は感じられないな、まあ 死んだのは間違いないんだ 当然か」
薄ら笑いを浮かべて目を瞑ると因縁の相手が居なくなってスッキリ爽快といった表情になる
そして、ふと遠い場所を見るような目つきになると
「さて、まだ余力はあるこの街から感じられる他の魔力反応も消しておくか」
別の者にノヴァの照準が向く
きっとリリィのことだ
自分の命を顧みず挑んだレイヴンでさえ歯が立たなかったこの男に狙われては彼女はひとたまりもないだろう
きっと両親であるシズクとマクシムが手助けしたとしてもなんの抵抗もできず殺される
それを確信できるほどにノヴァの存在は別格なのだ
少なくとも能力を扱いきれていない人間が挑んでいい相手ではない
「行くか・・・」
全身にはち切れそうな魔力を蓄え
獣のような凶牙を剥いて空間を歪める
その時だった
「おっと、させねえぜ?」
どこからか聞き覚えのある軽口を叩く男の声が聞こえてきた
「なんだと!?」
その声は近いようで遠いようであり 距離感が全く掴めない
いや、それよりもノヴァは自身の体に起きた変化の方に気を取られていた。
「僕の・・・手が、いや 腕がッ!?」
見るとノヴァの肘上から下が全て鼠色に変色して
形もゴツゴツした岩のように歪なものとなり、動かせなくなっていた
そう、まるでレイヴンが岩を『武装』して作った腕の様な・・・
考えがそこまでに至った時、ノヴァの頭の中にある恐ろしい想像が浮かび上がってきた。
「まさか・・・さっきの壁は・・・防御のためでも目隠しのためでもなく!」
そこまで言ったところで変化した腕が目にも留まらぬ速さで、形状を無数の針に変え、地面に突き刺さり
ノヴァの動きを固定した。
「そう、さっきの壁はお前から逃げる為に作ったんじゃねえ!」
ノヴァの背中にヒビが入る
そこからあふれんばかりの光が飛び出すと
ひび割れから腕が伸びてきて亀裂を押し広げ、サナギから生まれくる蝶の様に漆黒色の戦士が飛び出した。
「お前に潜行し、拘束する為に放った布石だったんだぜ!」
その姿にノヴァは目を見開き、身を震わせる
恐怖ではなく憤りからの震えだった。
「貴様!僕に何をしたぁぁぁぁ!!!」
爆発するかの様な魔力は体全体を包み込み
力を昇華させる
時を巻き戻しているのではないかと思う程のスピードで背中の傷が塞がっていく。
「あの壁に今持てる全力の『G.Iジョー』を注ぎ込んだのさ」
得意げに語る声が背後から聞こえる
不思議なことにノヴァの腕から伸びる無数の針は地面と体を繋ぎ合わせて全く動かせなくしていた
なので、背後を取られているにも関わらず振り返ることすら叶わない レイヴンの言う通り、完全に拘束されているのだ。
「お前に『G.Iジョー』をアーミーのように扱う事などできるはずが・・・」
「そう、オレはこの力にまだ慣れてなくてね不完全だった だから能力を限定したのさ」
「限定だと?」
ノヴァの頭上に影が差し、何かが通り過ぎた
と、思った途端に目の前へレイヴンが着地する
その顔は得意げで、例え敵でなくても一発ぶん殴ってやりたいと思える腹立たしいほどのドヤ顔だ
「腕だけだ、オレは能力有効範囲をお前の腕だけに絞り、『武装壁』に染み込ませたんだ」
そして、ノヴァの 変質して動かせなくなった腕を指差す
「お前が壁を打ち抜けば一点集中の『G.Iジョー』がお前の腕にとり憑き、一部主導権がこのオレに移権する、お前は攻撃する瞬間、『拒絶空間(リジェクション・スペース)』を解除する オレにとってその瞬間だけが絶好のチャンスだからな そこを狙わせてもらった」
そして、動かない いや、動けないノヴァの眼前に寄って行き 固まった腕をコンコンと指で叩く
「一部だけ体を奪えれば、もうこっちのもんだ お前の拳を伝って両腕 そしてその中間にある背中を『武装』オレの支配下に置いた」
レイヴンの能力『武装』は基本 無機物にのみ作用する能力だ
生物に力を使おうとするのなら相手の許可が必要なので 基本戦闘中生物に対して使う機会は無い
しかし、今回は違った『G.Iジョー』とのコンボで相手の細胞を強制的に『武装許可』状態に変え、その体に潜り込んだのだった。
「人の体に細胞密度上げて潜り込むってのはなかなか窮屈なもんだったぜ」
息がかかりそうな距離から一歩離れる
「そして、そこからお前の両腕の血管、筋肉、神経 諸々の細胞にその辺の石ころを『武装』してコンクリート加工みてぇに固めて拘束したんだ」
「クッ・・・」
さっきからこの拘束から逃れようと何度も身悶えするノヴァだがやはり動かない、体内から弄られて魔力の出力まで抑えられているようだ。
「なかなかの固定力だろ?お前の細胞と一体化してるからな 魔力が強ければ強い程その拘束も強力になり 絶対に引きちぎれない」
「そんなにもペラペラと種明かしをして、どういうつもりだ?」
ノヴァの声には困惑が含まれていた ここにきてやっとネガティブな感情を表に出す
それにレイヴンはニンマリと嫌味な感情を浮かべ腰を低く落とし、拳を握った。
「お前の真似」
右ストレートがノヴァの顔面に打ち込まれる
魔力のスパークを伴って放たれた一撃は
本物の稲妻のように、拳が当たり一瞬を経てから炸裂音が響いた。
「があァッ!」
拘束中は魔力に大きく制限をかける事が可能で、宇宙空間に逃げ込まれる事も、最脅威の『拒絶空間(リジェクション・スペース)』での防御でさえも封じ込めることに成功している
つまり無抵抗
こうなって仕舞えば例え『超新星』だろうと赤子同然だ。
「倍にして返すぜ!ノヴァッ!!」
鋭い二発目、そして三発目がその両腕を打ち抜いた
最も『武装』による侵食の酷い両腕は もうノヴァの細胞より石の成分が多く
強烈な攻撃を受けてガラス細工が砕けるように木っ端微塵となる。
「ぐ・・・ッ!があアアあ!!」
「抵抗できないよう壊させてもらった もうこれでテメェはただの足付きサンドバッグだ」
ここまできたら無抵抗の相手にどうのこうの、という戦闘者の倫理や暗黙のルールすら気にしなくなり
なんのためらいもなく次の攻撃体制へ移った。
「オラッ!」
丸太のような足でジェットエンジンのようなエネルギー噴出、ノヴァを天高く蹴り上げた
そして、レイヴンも蹴り上げると同時に飛び上がる
その跳躍は吹っ飛ばされたノヴァに追いつき、更に上へと追い越した。
「『滅却拳』・・・」
前もって展開されていた魔力がウイルスに変わり、それが拳を包み込んで
緑色の炎に触れ、燃えだした
紫と深緑の魔力が混ざり合い、いかにも【危険】というような色を醸し出す。
「オレの怒りと、シンの分も入れて 200発は殴らせてもらうぜ」
そう言ったが早いか土手っ腹に重い重い拳が叩き込まれる
「・・・ッギ」
「まだ気を失うなよ?あと最低でも199発は殴るんだからな」
雨霰!
表現するとすればそれが一番しっくりくる
今のレイヴンのパンチはそれだ
殴るたびに爆発する拳を惜しげもなく振るい
怒り心頭に繰り出される暴力の雨は 体を、心を打ち砕いていく
爆発の煙でノヴァの姿は見えなくなっているが、手に当たるもの全てを爆破していっている
「どリャあああアアアアアア!!!」
かなりの高さまで飛んでいたはずなのに ほんの一瞬で地面が目の前まで近づいていた
そのまさしく爆発的な推進力は信じられない速度で落下を加速させているのだ
音速が当たり前の特級魔族同士の闘いの中でも レイヴンの爆発力は特に凄まじい
その片鱗を、たった一人にぶつける
「ンナロォオ!!」
そして今 ノヴァが地面に叩きつけられた
地面に転がる石ころから砂つぶに至るまで全て跳ね上がる程の衝撃
普通この衝撃だけで全身の骨が砕け散るだろう
しかし、レイヴンに容赦はない
翼で空気抵抗を目一杯受け止め、地面との衝突を避けると
叩きつけられたあとゴムボールのように跳ねたノヴァを追跡し、追撃する
「1秒でも安寧の時間はやらんぞ!」
矢のような一蹴が脇腹に入った
「そんなものはいらんッ!」
ノヴァがそう一喝すると同時に砕け散っていたはずの両腕が物凄い勢いで再生した。
「何!?」
ノヴァが・・・本来ならば気絶、いや とっくに死んでいてもおかしくない程の負傷のはずだが、そのノヴァが空中で体を捻り レイヴンの蹴りを
今まさに生え変わった腕で掴み 受け止めた。
「代わりにお前の命を貰うぞ!!」
腹の奥から血反吐を吐き出しながら
ズタボロの体に鞭打ってレイヴンを地に打ち付けるモーションに入った。
「拘束が解け始めたな、いやそれより驚くべきはこいつの根性か、なんつー執念・・・」
今まさに投げ飛ばされているのに 抱いた感情と吐いたセリフは賞賛の念であった
そして、背負い投げで地面に打ち付けられる寸前 両手の指をいち早く地面につけ、『武装』固定した。
「オレ、お前の事大ッ嫌いだけど・・・」
指に全体重を支えさせ、腕を捻って体ごと回転させる
回転は掴むノヴァの両手を弾き、手を開かせた。
「そういうトコは尊敬するぜ」
そして、その勢いのままスピンで相手の顎に蹴りを入れる
「がはっ」
それを受けてノヴァは体制を崩した
そして、逆さまの状態から跳ね戻り
その懐へ飛び込む。
「ダァアリャアァァッ!!」
ノヴァの腹に拳がめり込んだ
骨の折れる音
生々しく響いて 折れたどこかの骨は近くの内臓に突き刺さった事だろう
しかも、レイヴンは更に追撃を加える
めり込んだ拳へエネルギーが集まっていく
その拳は煌々と光を放ち
そして・・・
「ハァッ!」
それは内側から爆発を起こす
滅亡の炎は傷口から入って血液を蒸発させる
爆風の破壊力はノヴァの体をズタズタに吹き飛ばした。
「フゥ・・・フゥ、フゥ、流石に死んだかよ?」
地面が溶けて一本の道ができていた
その先にはもうもうと立ち込める紫色の煙
あの一撃をくらって立ち上がることは、もうないだろう
そう、思っていた
「なっ・・・!」
煙の中に映るシルエットがゆらりと現れると
「クアァッ!!」
「うわっ!」
剣のように鋭い魔力で周りを包む粉塵を吹き飛ばした
その気圧に空気共々レイヴンの体も押される。
「ハァ・・・ハァ・・・思い上がるなよその程度ではこの僕を死に至らしめる事はできない」
全身から血を吹き出しながら
その血以上の魔力量を展開させ ノヴァが立ち上がった
その傷口は魔力の回復強化によりみるみるうちに塞がっていく。
「ここまでやられてまだ平静を保ってやがるとはな、しかも拘束がもうほとんど効果を残していねぇ 完全復活までもう時間がない!」
もうノヴァに掛かった拘束は能力を抑えるだけで魔力量を抑える事はできなくなっていた
あの空間を埋め尽くすような威圧感が戻ってきてしまっている。
「ノヴァよぉ、オレの感覚から言わせて貰えばな その拘束が解けるまで後15秒くらいしかねぇんだ」
遠くから指差しながら詰め寄っていく
「ああ、そうだな 僕にも何となく分かる」
ノヴァの方もだ互いの距離が縮んでいく
「逃げてもいいんだぜ?逃さねぇけどな」
「ふっ、誰がだ・・・」
時間が押し迫っている内、歩を詰める
そして、互いが足を止めた
つまり、二人ともが相手を射程距離内に捉えたという事だ
いや、それにしては近すぎる
距離にしてなんと50cm
踏み込まずとも腕を伸ばせば相手に触れられる距離だ
両者が極端な至近距離でヤンキーがやるようにメンチを切る
「殺るか・・・」
そして、拘束限界時間まで後5秒を切った瞬間 拳を握った。
「シャアラァアッ!!」
レイヴンが拳を放つ
しかし、ノヴァも同時に殴っていた
その軌道は同じ、途中でパンチ同士がぶつかり合い、爆裂音が響いた。
「『武装針山(クレイモア)』!」
引かず、足元に魔力を流し込む
その魔力は大地を駆け巡り二人の近くを回り込んだ
「別事に気を向けている場合か?」
ノヴァは更に間を詰めてくる
ほぼゼロ距離、一気に威圧感が増す
「速ッ!?」
ギリギリのところで両腕をクロスさせ、打ち出された拳を受け止めるも
助走距離が短く遠心力も付いていないはずの拳は重く、レイヴンを押し返した。
「『G.Iジョー』ッ!あいつをぶっとばせッ!!」
肉体操作で、理想の動きを再現させる、コマのような回転する動きで攻撃を受けた衝撃を最小限に受け流し、瞬時に攻撃体制へと転じた。
「させんぞ!」
「がへっ」
しかし、切り返しが早い
予備動作の時点で顔に拳を打ち込まれ動きを止められてしまった
だが、
「こなクソォ!!」
鼻血を吹き出しながらも気合いで蹴りを放つ
それは放物線を描き、ノヴァの下っ腹に叩き込まれた
相手も血を吐き出す。
「かはっ・・・」
綺麗に、とはいかなかったがカウンターが決まり、やっとノヴァがよろめいた。
「貫け、衝撃よ!」
そして、倒れこみながらのレイヴンの命令で先ほど放っておいた魔力が帰ってくる
ノヴァの後ろの地面が稲光を散らして、力が発動する
地面を大量の針の形に変えてノヴァの肉体に襲いかかった。
「うおあああああ!!」
貫通こそしなかったものの、見事に体を突き刺し
『武装拘束(バインド)』程ではないが体を固定させられる
このチャンスにレイヴンは防御を捨て、全魔力を両腕に注いだ
ここで決めるつもりで
大きく振りかぶった両腕は様々な色が混じり合い、溶け合いおどろおどろしい漆黒の色へと変貌を遂げる
「『武装・硫炎・腐敗・軍隊』!四種の贅沢サービスだ!くらえッ!!」
限界のさらにその上、そしてそれをも超えて混ぜ合わされた魔力は
爆発的な化学反応を起こし、そして・・・解き放たれる
「ダァァアッ!!」
「うおお!やめろォッ!」
ノヴァが発狂するのを無視して魔力はそれを圧倒する。
「『四王砲』!」
『硫炎』が滾り
『腐敗』で壊し
『G.Iジョー』でそれを最大限に引き出し
そして、『武装』で一点に纏める
一瞬にして視界に映る景色が爆発と共に消し飛んだ。
「ウォォルアアアアアアア!!!!」
魔力の光が一面を照らす
温度の高すぎる炎はプラズマに変わり
その光は熱を孕み時速10億kmで辺りに広がり 焦がし、腐らせ、破壊する
「骨カスも残さねーようにッ!消し飛ばす!!」
蒸気が更に気温を急上昇させ、酸素量が激減
流れ出る汗がその場ですぐ蒸発するような超高温の環境でも構わず魔力を発し続ける
このままではすぐに魔力が空っぽになり体を守る為のエネルギーでさえも使い切り、自らの熱に焼かれて死んでしまうだろう
だが、レイヴンはそれでもいい と思っていた
いや 正しくはもう、そうする他ないと感じていたからだ
間違いなく過去最強の敵であるノヴァに、生半可な攻撃で・・・例え本気の攻撃であろうが通用する保証はない
だから、限界さえも越えて・・・
「潮時か」
男の声
突如、切り裂かれたように割れる魔力の波
球状の魔力の壁が一人の男を包んで浮いていた。
「は・・・あ・・・ああ、ちくしょ・・・お」
レイヴンはそれを目の当たりにして、始めて自分から膝を折った
それを見下しながら彼は落ち着いた表情で口を開く
「時間切れだ、お前が攻撃を放つ瞬間僕の拘束は完全に解けた 間一髪だったよ・・・」
熱に腐敗に支配に破壊に、歪まされた地表は射出をやめた今も紫色の炎に包まれている
「ふん!」
しかし、ノヴァが少し腕を振るだけでそれは消えてしまった
「別にお前が魔力を使い切り自滅するのを待っていてもよかったんだが・・・」
灰になったその地面を歩み、ゆっくりと近づいていく
「少しばかりお前に敬意を払いたくなった」
意外な言葉だった
敬意、その意表をつく態度にレイヴンは脂汗を垂らし ノヴァを見上げる
だが、目の前には視界を覆うように手のひらが広がっていた。
「この僕と一時とはいえ対等に殴りあえるとはな 柄にもなく熱くなってしまった・・・」
頭の上に手を乗せられ、次の動きを封じられてしまっている
いや、そうでなくとも激しい魔力の消耗による疲労で瞬発力が格段に落ちてしまった
もうノヴァの目を欺くことは不可能だろう
その事を知っているはずのノヴァ
だが、警戒は薄れさせず逆に まるで自分よりも格上の相手を見るような鋭い視線を向けていた。
「戦闘のスリルを思い出させてくれたお前にキチンと敬意を払い、誠意を持って殺したいそう思ったのだ」
手のひらに魔力が渦巻いてレイヴンに近づけられる
もうこうなってしまえばノヴァに心身ともに隙はない
悪意と殺意を孕んだ敬意と誠意は慢心を心の奥底に沈み込ませ・・・
「さようなら・・・だ!」
意思は拳となり 確実なる一撃となって振り下ろされた。
「『風切』!!」
だが、その瞬間 空気を切り裂いて何かが回転しながら飛んでくる
それが刀だと認識する頃にはすでに手遅れだった。
「な、いつの間に!?お前は・・・」
金色に輝く刀がノヴァの振り下ろした腕を切断して地面に突き刺さった
刀身についた血が蒸発して消えていく
この 魔族を徹底的に破壊する劔
そして、星明かりもない暗闇の中でも辺りを煌々と照らす刀
こんな刀を持つ者はこの世に二人としていない。
「『死神』ゼルクッ!」
腕の痛みが脳に達するのと『死神』の存在に気づいたのは同時だった
「へへへ、遅いぜおっさん」
「すまんな、戦火に巻き込まれないよう且つ気付かれないように近づくのに手間取った」
痛みよりもゼルクの接近に気づけなかったノヴァは戸惑っていた
レイヴンを今すぐに殺すか
ゼルクを返り討ちにするか
それとも今投げつけられた『永命剣』を処理するか
長きに渡る闘いでの思考疲労のため、選択肢に迷いが生じ 動きが一瞬フリーズしてしまう
「ハアァッ!」
さらにその考えを乱すように背後から大音量の地鳴りが響く。
「『龍舞脚』」
「なんだ この女は・・・報告にはいなかった」
足音もなく近づいて来たゼルクとは対照的に
地面を打楽器のように打ち鳴らし、ノヴァに向かって加速していく少女
その速度をそのままに頭の高さまで飛び上がる。
「ダァッ!」
そして、推進力を全て脚に集中させ強烈な蹴りとして放たれた。
「くおおお!『拒絶空間(リジェクション・スペース)』」
空間が壁を作る
「うわっ、何!?壁?」
壁に阻まれ、少女の蹴りはあえなく外れてしまう
だが、その攻撃にはもう一つ目的があった
「でも、いいわ・・・ゼルクさん!」
着地する寸前 そう声がけする
「おう」
それに応えてゼルクは右手を頭の上まで上げて構えた。
「パス!」
足を後ろに振り上げ 地面に突き刺さった刀の、柄部分をフリーキックのように蹴り上げると
ゆっくりしたカーブを描いて 正確にゼルク手の中へと収まった。
「か・ら・のぉ~!」
蹴り上げの体制から素早く元に戻ると近くにヘタリ込むレイヴンの襟元を掴んで
「逃走ッ!」
ぴょんと後ろに飛び退いた。
「よお、リリィお前も来てくれたか」
「このままやらせてたら国どころか大陸ごと沈められそうだったからね 仕方なくよ」
凛とした表情のままレイヴンを地面に下ろすと構えを取って再び弾み始めた
それを認めるとレイヴンも目を瞑り
フッと息を吐いて立ち上がる
薄く目を開け、おもむろにノヴァを指差す
「さて、これで3対1だ どうする!ノヴァッ!!」
レイヴン、ゼルク、リリィの3人がノヴァを囲む
右では拳を握りしめ、漆黒のプラズマを散らし
左では脚に力が込められ ひび割れが起こる
正面からは月光を放つ刀を向ける
たった一人の為に向けられる戦闘力が圧倒的だ 誰一人として達人で特級魔族をも下す実力者・・・
だが、それだけの力が集まってしてでも何故だろうか
ノヴァは笑っていた
「ふふふふふふふふふ・・・!」
切断された右腕を再生させていく
それを見るに体の中の莫大な魔力はまだまだ限度まで余裕があるという事が分かる
と、なるとやはり・・・
「どうするもこうするも・・・3人まとめて来られて殺りやすい、ただそれだけだ」
この破壊され尽くした荒野に再び無尽蔵な力が溢れかえった
底の知れないノヴァのエネルギー
いったいどこまでレイヴン、ゼルク、リリィの力が通用するのか・・・
心強い味方が駆けつけたにも関わらず 戦いの流れがこちらに傾いた感じがしない 絶望感が払拭されない
ノヴァの深い恐怖が
リリィの弱気な心臓を
ゼルクの傷を抱えた脳を
レイヴンの浮かれた脊髄を 掴んで離さない
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To Be Continued→
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