婚約者は私より親友を選ぶようです。親友の身代わりに精霊王の生贄になった私は幸せになり、国は滅ぶようです。

15

　レイは沸々と怒りを覚えていた。

　私が次期国王と結婚したら……次は精霊王！？
　生贄じゃなかったの！？
　ルビアのくせに、なんで私より幸せになろうとしてるのよ！

　自分よりも劣っているはずのルビア。
　そんな彼女が自分よりも好条件の男と幸せになろうとしていることが許せないレイ。

　ジッと精霊王の顔を見つめる。
　その容姿はラースよりも遥かに優れており、心の中で舌打ちをするレイ。

　あのままだったら精霊王と結婚していたのは私だったはずだ。

　レイは今更ながら、ルビアからラースを奪ったことを後悔する。
　ラースと国王は、イクスに対してへつらうような態度を取っていた。

　こんな低次元の男と私は一緒になったのか。

　この瞬間、ラースに幻滅するレイ。

　自分はルビアよりも可愛くて優れている。
　だから私の方が幸せになるべきなのよ。

　子供の頃から内心ルビアを見下してきたレイ。
　絶対にルビアには負けたくないという気持ちが湯水のように湧いてくる。

「あの、イクス様……」
「なんだい？」
「私……あなたに伝えておかなければいけないことがありますの」

　イクスは穏やかな表情でレイを見る。
　レイは大人しく弱々しい女性を演じ、彼に話す。

「ルビアは昔から私に対して酷い苛めをしてきたのです……だからもし、彼女のことを良く思っているのなら騙されないでください。あれは心に悪魔を飼っている女ですから」
「へえ、そうなのかい？」
「はい……だからきっと、イクス様のような方には、私の方が似合うかと思い――」
「心に悪魔を飼っているのは君のほうだ。私は普通の人間とは違う。どれだけおしとやかな女性を演じようが、君の本性は隠しきれていないんだよ」
「な、なんの話でしょうか？」

　イクスの突然の言葉に、しどろもどろになるレイ。
　ラースはレイが喋った内容に唖然とし、硬直してしまっていた。

「ルビアは素敵な女性だよ。君とは比べ物にならないぐらいね。その証拠に、彼女の前では精霊たちも踊り出す。きっと君の前では、精霊たちは逃げ出すことだろう」
「ル、ルビアは気が強く、可愛らしくないでしょ？」
「ははは。彼女は芯が通った素晴らしい人間だ。そんなルビアが可愛くないわけがない。彼女のことをとやかく言う前に、もっと自分の心と向き合った方がいいと思うよ」
「…………」

　これまで幾度となく男の心を奪ってきた私の誘惑が通用しない！？
　
　涼しいイクスの顔を見て、レイは激しい感情を胸に抱いていた。
　そんなレイの心情を見通して、イクスはクスリと笑い踵を返す。
　そして何も言わないまま、城を後にした。