花は流れ、恋に惑う

イチニ

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1話

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 シェラは十二歳の時。
 初めてその男と会った。

 父王が亡くなり、父王の弟が王位を継いだ。
 それによりシェラは、母ととも生まれ育った後宮から、王都の南にある離宮へと移ることとなった。
 
 王妃であった母にとっては、父が亡くなったことよりも、身分を失い、後宮を追いやられる方がつらかったのだろう。
 眉をつり上げて、口を忙しげに動かしながら、下働きの者を怒鳴りつけていた。
 そんな母にうんざりしながら、迎えの馬車を待っていると、背が高く、逞しい体つきの銀髪の武人が、部下を背後に数人引き連れて現れた。

 男達は皆、銀灰色の甲冑を纏っていた。
 どうやら、彼らがシェラ達を離宮へと送り届けてくれるらしい。

 銀髪の男が、母の前に跪き、礼を取る。
 少し酷薄げな薄い唇が、名を名乗った。
 由緒ある貴族の名であったのだろう。母の態度が一変し、色めき立った。

 母は本来なら、王に嫁ぐような身分ではない。
 父という後ろ盾を失った母は、有力貴族との『つながり』を欲しがっていた。

 シェラは母とは違い、男の身分には何ら興味もなかった。
 興味を持ったのは――男の麗しい見かけだった。

 まず初めに目を惹いたのは、艷やかな銀色の髪。
 この国では、黒髪、茶色い髪が多く、金色の髪は珍しい。それより、さらに珍しいのは銀色の髪だった。
 そして、夏の空を切り取ったかのごとく、鮮やかな紺碧の瞳。

 端正な顔立ちを彩るその色に、シェラは見惚れた。
 
 一度だけの護衛かと思っていたが、男はそれからも度々、離宮に姿を見せた。
 どうやら、男の父親がシェラ母子の後見人になったらしい。

 そして、離宮へ越して、ひと月後。
 男の叔父と母が再婚することになったことを、教えられた。
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