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21.取引
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クラウスにもう一度会い、父の件を公表することに納得してもらわねば、と思いつつも、やり方を間違えれば彼の名を傷つける危険性があるのも事実で、何をどうすればよいのか判断出来ずにいた。
あのときの言葉の意味も、何だかはぐらかされたみたいで、納得がいなかい。
彼が帰国する前に、会いに行くつもりではあったが、何をどう知りたいのか、彼に何と言えばいいのかわからず、迷っているうちに二日経ってしまった。
そんな時、アレクシがミシェルの元を訪ねて来た。
「今日の午後、ロレーヌとクラウスがダトル皇国に帰るそうだ」
「……待って。聞いていないわ。帰国日はもう少し後だって」
「予定を早めたらしい」
やけにあっさりとした様子のアレクシをミシェルは睨む。
「あなた、あの未亡人とよりを戻したって言っていたじゃない。どうして止めないのよ」
恋人になったというのに、帰国日を延ばすどころか、予定より早く帰国するとは。
一度帰国して、身辺を整理してもう一度再会する……そんな予定があるにしては、アレクシの表情は冷めていた。
身分は釣り合うとはいえ、未亡人で、再婚である。結婚は最初からつもりはなく、以前と同じく一時だけのお遊びの恋愛だったのだろうか。
アレクシがロレーヌをどのように扱おうともミシェルには関係のない話であったが、傍から見ていて気分のよい話ではない。
「よりを戻したと思っていたんだけどね……どうやら彼女の認識は違ったようだ」
「認識?」
「僕とのことをふっきりたかったんじゃないのかな。過去のことを清算するために寝たっていうか……。再会したら、彼女も僕も変わるだろうって思っていたけど、結局、昔のままだった」
アレクシは自嘲の笑みを浮かべていた。
ミシェルはふと、このひと月のことで気に掛かっていたことを思い出し、訊ねた。
「あなた、私をダシにして、彼女との仲を進展させようとしてたでしょう」
夜会の時、アレクシはいつもとは違いベタベタとミシェルに触れてきた。
その時はなぜいつもと違う態度なのか、深く考えていなかったが、今から思うと、ミシェルと親しい姿を見せ付けることで、ロレーヌの気持ちを測ろうとしていたのだろう。
「それもいけなかったんだろうな……。君の方が僕に相応しいって、そう言われたよ」
「……自業自得ね……。というか、その時に、きちんと本当の気持ちを伝えれば良かったじゃない」
「身を引こうとしているのに?それって僕を、その程度にしか想ってくれていないってことだろう」
大の男が拗ねたような物言いをする。
ミシェルは呆れた。
「想いの深さがそれほど重要?駆け引きして、優位に立つ恋愛しかしないつもりなの?ずるい男ね」
「そうは言うけれど、素直になれないのは、君だって同じだろう?君はクラウスに好きと伝えたの?」
好きではないと、否定しかけるが、やめる。今更、アレクシに嘘を吐いたところで意味はない。
「……私は、あなたとは……事情が違うわ」
「事情って?」
彼の言葉の意味がわからないから。
自身の、このひと月の愚かな行為を恥じているから。
父のことがあるから……。
事情はあった。しかし、改めて聞かれると、それらのことは、自身の恋心を彼に打ち明けない理由にはならない気がした。
「クラウスに会って、好きだ、一緒にいたいって告白して、帰国を止めてきたら?うじうじ悩んでいるよりも、その方が君らしいよ」
ミシェルが答えられず黙っていると、にっこりと笑ってアレクシが言った。
自分らしいと言うが、本来のミシェルは臆病な弱虫だ。弱い自分を守るために強がっているだけで……。と、思い、はたりと気づく。
「……アレクシ……そうやって人を焚き付けて……何が狙い?」
「クラウスが帰国しなければ、ロレーヌも当然、しばらくは帰れなくなるだろう?その間に、何とかする」
アレクシの言葉にミシェルは溜め息を吐く。
「呆れた……情けない男ね」
飄々としてはいても、いざというときには頼りがいのある男だと思っていた。
それがまさか、大事な恋愛ごとに関しては、こんな人任せな、甲斐性なしだったとは。
「四年前は、自覚がなかったけれど……再会して、あれが初恋だったんだって気づいたんだ。初めての恋なのだから、臆病にもなるさ。……一応、言っておくとね、告白はしたよ。好きだ、とも言った。けれど、自分なんて……って卑屈になられて、信じてもらえない」
「軽薄なその態度のせいではないの?」
「とにかく、時間が必要なんだよ、ミシェル。説得するにしても今日帰ってしまわれたら何も出来ない」
「あなたが引き止めればいいだけでしょ」
「断られたら?引き止めても、ごめんなさいって、帰るって言われたら?どうしようもないじゃないか」
「どうしようもないって……」
好きだと言って抱きしめたり、軽率なその行動を改めて謝罪をしたり、いろいろやりようはあるだろう。
「ミシェルも、このままクラウスを黙って見送るなんて出来ないだろう?君はまだ誤解しているのかもしれないが、ロレーヌと彼は、恋人でないよ。一度もそういった関係になったことはないって言ってた。彼が好意を向けているのは君だ」
「だから、どうして、今になって……、恋人でないって知っていたのなら、早く言いなさいよっ!」
ミシェルが声を荒げ睨みつけると、アレクシは、ごめん、と殊勝な態度で謝罪をした。
しかし口先だけで、誠意はひとかけらも感じられなかった。
「ミシェル、僕もさっき帰国するって話を聞いたばかりで、時間がないかもしれない。早く行った方がいい」
「アレクシ……」
「まあまあ。そんな怖い顔をしないで。こんな風に言い争う時間がもったいない。怒るならあとでいくらでも怒ればいいから。……クラウスに会えなくなってもいいの?」
「よくないわよっ!」
ミシェルはアレクシを一喝したあと、溜め息とともに肩を落とす。
確かに、いくらアレクシに腹を立てたところで、時間の無駄だ。
アレクシが甲斐性なしの情けない男だろうが、ミシェルにはどうだってよい。
大切なのはクラウスが今日、帰ってしまうということと、ミシェルの気持ちだ。
そして……ミシェルは、アレクシのように情けなくもないし、人任せな甲斐性なしではない。
「アレクシ、これは貸しよ。後で倍にして返してもらうから」
弱い自身を守るために強がってばかりいる臆病者だけれども、うじうじと、いつまでも迷っているの性に合わないのだ。
※
ミシェルはアレクシが乗ってきた公爵家の馬車を借り、二人がいる別邸へ向かった。
門の前で馬車から降り、玄関へと向かう。
玄関のそばには、ダトルへ向かうための馬車が停まっていて、ちょうどクラウスが乗り込もうとしていた。
「……ミシェル?」
訝しげに眉を顰めたクラウスの姿を見た途端、ここに来るまでの間、どう言うべきか考えていたことが、全部吹っ飛んでしまった。
「二度も黙って……私を置いて行くつもり?」
彼の傍に寄り、見上げながら訊ねると、クラウスは苦笑した。
「見送りに来てくれたのか?」
「違うわ」
ミシェルは馬車の中で、こちらを不安げに見つめるロレーヌに視線を向けた。
「ロレーヌさん。先日は失礼な真似をしてしまって、ごめんなさい。理由があれば赦されるとは思っていないけれど……私、あなたに嫉妬していたの」
「いえ……あの、気にしてませんから……」
気にしていない、と言いながらも、ミシェルが謝るとロレーヌの不安げだった顔は、暗く沈んだ。
アレクシとの仲を誤解しているせいだろう。
「私、ずっと、あなたとクラウスが愛人……恋人だと思っていたのよ」
「……え」
「私が好きなのはクラウスよ。アレクシじゃない。アレクシも私に惚れてなんていないわ……ここに来る前、アレクシに会ったわ。甲斐性なしの彼は、あなたにふられるのが怖くて、引き止めに来られなかったのですって」
「……でも、あの……」
ロレーヌは驚いたあと、頬を紅潮させた。
しかし、まだ迷いがあるのか、小さな声で反論する。
「……アレクシには、あなたのような方のほうが……」
「私はアレクシに恋をしていないし、アレクシはあなたの方がいいって言ってるのよ」
「でも……私なんて……」
先日の件のことは、申し訳なかったと思っている。
けれど……自己評価の低さと、うじうじさ加減を見ていると、もどかしくなる。
ミシェルは、しっかりしなさい、と声を荒げてしまいそうになるのを堪えた。
彼女のような人は大きな声を出すと萎縮してしまうだろう。
ミシェルは息を吐き、心を落ち着かせてから、にっこりと彼女に笑んでみせた。
「なら、ロレーヌさん。私と取引しましょう。アレクシはあげるわ。だからクラウスを頂戴」
「……クラウスを……?」
「あなたアレクシが好きなのでしょ?それともクラウスに乗り換えるつもりなの?」
「……クラウスは友人だから」
ロレーヌは首を振った。
「なら交渉は成立よ。彼は私が貰うから。アレクシはあなたが貰っちゃいなさい」
「……ミシェル」
強引に話を進めていると、それまで黙っていたクラウスがミシェルの腕を掴んだ。
「何よ。何か異論があるの?」
睨みあげると、彼はうろたえたように視線を逸らした。
「私の処女を奪っておいて……まさかやり逃げするつもりだったの!」
ロレーヌや御者に聞こえるように、わざと大きな声で言ってやる。
「ミシェル」
「あなたは私に触れたかったって、寝たかっただけだって言っていたでしょう。私も同じよ。やけになっていたし、八つ当たりや、いろんな感情はあったわ。けれど……たんに、あなたに触れて欲しくて、触れたくて、だから、誘ったの……あなたのことを愛してるの」
クラウスの黒い瞳が僅かに見開かれ、そして、口元が緩んだ。
「……君には敵わないな……」
クラウスは肩を落とし、呟くように言った。
「クラウス……帰国は延期しましょう」
ロレーヌが馬車の中から言う。
「……そうだな」
「ロレーヌさん。あなたのことが初恋で、初恋の相手だから臆病になっている、甲斐性なしのアレクシは、うちの屋敷にいるわ」
「……ミシェルさん、ありがとう」
夜会のとき酷い真似をしたというのに、ロレーヌはミシェルに微笑んで、礼を言った。
人が良すぎて心配になる。
こういったところもアレクシの庇護欲をくすぐるのであろう。
ロレーヌはミシェルが乗ってきた公爵家の馬車で、アレクシの元へ行った。
あのときの言葉の意味も、何だかはぐらかされたみたいで、納得がいなかい。
彼が帰国する前に、会いに行くつもりではあったが、何をどう知りたいのか、彼に何と言えばいいのかわからず、迷っているうちに二日経ってしまった。
そんな時、アレクシがミシェルの元を訪ねて来た。
「今日の午後、ロレーヌとクラウスがダトル皇国に帰るそうだ」
「……待って。聞いていないわ。帰国日はもう少し後だって」
「予定を早めたらしい」
やけにあっさりとした様子のアレクシをミシェルは睨む。
「あなた、あの未亡人とよりを戻したって言っていたじゃない。どうして止めないのよ」
恋人になったというのに、帰国日を延ばすどころか、予定より早く帰国するとは。
一度帰国して、身辺を整理してもう一度再会する……そんな予定があるにしては、アレクシの表情は冷めていた。
身分は釣り合うとはいえ、未亡人で、再婚である。結婚は最初からつもりはなく、以前と同じく一時だけのお遊びの恋愛だったのだろうか。
アレクシがロレーヌをどのように扱おうともミシェルには関係のない話であったが、傍から見ていて気分のよい話ではない。
「よりを戻したと思っていたんだけどね……どうやら彼女の認識は違ったようだ」
「認識?」
「僕とのことをふっきりたかったんじゃないのかな。過去のことを清算するために寝たっていうか……。再会したら、彼女も僕も変わるだろうって思っていたけど、結局、昔のままだった」
アレクシは自嘲の笑みを浮かべていた。
ミシェルはふと、このひと月のことで気に掛かっていたことを思い出し、訊ねた。
「あなた、私をダシにして、彼女との仲を進展させようとしてたでしょう」
夜会の時、アレクシはいつもとは違いベタベタとミシェルに触れてきた。
その時はなぜいつもと違う態度なのか、深く考えていなかったが、今から思うと、ミシェルと親しい姿を見せ付けることで、ロレーヌの気持ちを測ろうとしていたのだろう。
「それもいけなかったんだろうな……。君の方が僕に相応しいって、そう言われたよ」
「……自業自得ね……。というか、その時に、きちんと本当の気持ちを伝えれば良かったじゃない」
「身を引こうとしているのに?それって僕を、その程度にしか想ってくれていないってことだろう」
大の男が拗ねたような物言いをする。
ミシェルは呆れた。
「想いの深さがそれほど重要?駆け引きして、優位に立つ恋愛しかしないつもりなの?ずるい男ね」
「そうは言うけれど、素直になれないのは、君だって同じだろう?君はクラウスに好きと伝えたの?」
好きではないと、否定しかけるが、やめる。今更、アレクシに嘘を吐いたところで意味はない。
「……私は、あなたとは……事情が違うわ」
「事情って?」
彼の言葉の意味がわからないから。
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「クラウスに会って、好きだ、一緒にいたいって告白して、帰国を止めてきたら?うじうじ悩んでいるよりも、その方が君らしいよ」
ミシェルが答えられず黙っていると、にっこりと笑ってアレクシが言った。
自分らしいと言うが、本来のミシェルは臆病な弱虫だ。弱い自分を守るために強がっているだけで……。と、思い、はたりと気づく。
「……アレクシ……そうやって人を焚き付けて……何が狙い?」
「クラウスが帰国しなければ、ロレーヌも当然、しばらくは帰れなくなるだろう?その間に、何とかする」
アレクシの言葉にミシェルは溜め息を吐く。
「呆れた……情けない男ね」
飄々としてはいても、いざというときには頼りがいのある男だと思っていた。
それがまさか、大事な恋愛ごとに関しては、こんな人任せな、甲斐性なしだったとは。
「四年前は、自覚がなかったけれど……再会して、あれが初恋だったんだって気づいたんだ。初めての恋なのだから、臆病にもなるさ。……一応、言っておくとね、告白はしたよ。好きだ、とも言った。けれど、自分なんて……って卑屈になられて、信じてもらえない」
「軽薄なその態度のせいではないの?」
「とにかく、時間が必要なんだよ、ミシェル。説得するにしても今日帰ってしまわれたら何も出来ない」
「あなたが引き止めればいいだけでしょ」
「断られたら?引き止めても、ごめんなさいって、帰るって言われたら?どうしようもないじゃないか」
「どうしようもないって……」
好きだと言って抱きしめたり、軽率なその行動を改めて謝罪をしたり、いろいろやりようはあるだろう。
「ミシェルも、このままクラウスを黙って見送るなんて出来ないだろう?君はまだ誤解しているのかもしれないが、ロレーヌと彼は、恋人でないよ。一度もそういった関係になったことはないって言ってた。彼が好意を向けているのは君だ」
「だから、どうして、今になって……、恋人でないって知っていたのなら、早く言いなさいよっ!」
ミシェルが声を荒げ睨みつけると、アレクシは、ごめん、と殊勝な態度で謝罪をした。
しかし口先だけで、誠意はひとかけらも感じられなかった。
「ミシェル、僕もさっき帰国するって話を聞いたばかりで、時間がないかもしれない。早く行った方がいい」
「アレクシ……」
「まあまあ。そんな怖い顔をしないで。こんな風に言い争う時間がもったいない。怒るならあとでいくらでも怒ればいいから。……クラウスに会えなくなってもいいの?」
「よくないわよっ!」
ミシェルはアレクシを一喝したあと、溜め息とともに肩を落とす。
確かに、いくらアレクシに腹を立てたところで、時間の無駄だ。
アレクシが甲斐性なしの情けない男だろうが、ミシェルにはどうだってよい。
大切なのはクラウスが今日、帰ってしまうということと、ミシェルの気持ちだ。
そして……ミシェルは、アレクシのように情けなくもないし、人任せな甲斐性なしではない。
「アレクシ、これは貸しよ。後で倍にして返してもらうから」
弱い自身を守るために強がってばかりいる臆病者だけれども、うじうじと、いつまでも迷っているの性に合わないのだ。
※
ミシェルはアレクシが乗ってきた公爵家の馬車を借り、二人がいる別邸へ向かった。
門の前で馬車から降り、玄関へと向かう。
玄関のそばには、ダトルへ向かうための馬車が停まっていて、ちょうどクラウスが乗り込もうとしていた。
「……ミシェル?」
訝しげに眉を顰めたクラウスの姿を見た途端、ここに来るまでの間、どう言うべきか考えていたことが、全部吹っ飛んでしまった。
「二度も黙って……私を置いて行くつもり?」
彼の傍に寄り、見上げながら訊ねると、クラウスは苦笑した。
「見送りに来てくれたのか?」
「違うわ」
ミシェルは馬車の中で、こちらを不安げに見つめるロレーヌに視線を向けた。
「ロレーヌさん。先日は失礼な真似をしてしまって、ごめんなさい。理由があれば赦されるとは思っていないけれど……私、あなたに嫉妬していたの」
「いえ……あの、気にしてませんから……」
気にしていない、と言いながらも、ミシェルが謝るとロレーヌの不安げだった顔は、暗く沈んだ。
アレクシとの仲を誤解しているせいだろう。
「私、ずっと、あなたとクラウスが愛人……恋人だと思っていたのよ」
「……え」
「私が好きなのはクラウスよ。アレクシじゃない。アレクシも私に惚れてなんていないわ……ここに来る前、アレクシに会ったわ。甲斐性なしの彼は、あなたにふられるのが怖くて、引き止めに来られなかったのですって」
「……でも、あの……」
ロレーヌは驚いたあと、頬を紅潮させた。
しかし、まだ迷いがあるのか、小さな声で反論する。
「……アレクシには、あなたのような方のほうが……」
「私はアレクシに恋をしていないし、アレクシはあなたの方がいいって言ってるのよ」
「でも……私なんて……」
先日の件のことは、申し訳なかったと思っている。
けれど……自己評価の低さと、うじうじさ加減を見ていると、もどかしくなる。
ミシェルは、しっかりしなさい、と声を荒げてしまいそうになるのを堪えた。
彼女のような人は大きな声を出すと萎縮してしまうだろう。
ミシェルは息を吐き、心を落ち着かせてから、にっこりと彼女に笑んでみせた。
「なら、ロレーヌさん。私と取引しましょう。アレクシはあげるわ。だからクラウスを頂戴」
「……クラウスを……?」
「あなたアレクシが好きなのでしょ?それともクラウスに乗り換えるつもりなの?」
「……クラウスは友人だから」
ロレーヌは首を振った。
「なら交渉は成立よ。彼は私が貰うから。アレクシはあなたが貰っちゃいなさい」
「……ミシェル」
強引に話を進めていると、それまで黙っていたクラウスがミシェルの腕を掴んだ。
「何よ。何か異論があるの?」
睨みあげると、彼はうろたえたように視線を逸らした。
「私の処女を奪っておいて……まさかやり逃げするつもりだったの!」
ロレーヌや御者に聞こえるように、わざと大きな声で言ってやる。
「ミシェル」
「あなたは私に触れたかったって、寝たかっただけだって言っていたでしょう。私も同じよ。やけになっていたし、八つ当たりや、いろんな感情はあったわ。けれど……たんに、あなたに触れて欲しくて、触れたくて、だから、誘ったの……あなたのことを愛してるの」
クラウスの黒い瞳が僅かに見開かれ、そして、口元が緩んだ。
「……君には敵わないな……」
クラウスは肩を落とし、呟くように言った。
「クラウス……帰国は延期しましょう」
ロレーヌが馬車の中から言う。
「……そうだな」
「ロレーヌさん。あなたのことが初恋で、初恋の相手だから臆病になっている、甲斐性なしのアレクシは、うちの屋敷にいるわ」
「……ミシェルさん、ありがとう」
夜会のとき酷い真似をしたというのに、ロレーヌはミシェルに微笑んで、礼を言った。
人が良すぎて心配になる。
こういったところもアレクシの庇護欲をくすぐるのであろう。
ロレーヌはミシェルが乗ってきた公爵家の馬車で、アレクシの元へ行った。
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