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探偵の情景・春夏秋冬『 彼岸花 』
しおりを挟む3、『 彼岸花 』
夏の日差しが西に傾く頃、思い立ったように通り抜けていく風がある。
頬に感じる涼風に、ふと感じる秋の気配・・・ 急ぎ行く夏は、どことなく人の心を寂しくさせるものだ。
そんな初秋の頃、葉山が親しくしていた知人の幼馴染の女性が亡くなった。 享年33歳。 乳ガンだった。 葉山自身、プライベートで何度か会っており、大人しい印象の女性であっと認識している。
離婚し、市内のマンションで1人暮らしをしていた彼女。 子供もおらず、両親も既に他界。 天涯孤独を絵に描いたような生活だったらしい。 小さな印刷会社のオペレーターをしていたが、時折、寂しそうな表情をしていたのを葉山は覚えている。
生前、その知人と一緒に飲んだ席で、彼女はこんな事を言っていた。
「 本当は、あたし・・ 兄がいるの。 お母さんは、あたしが2歳の時に離婚してね。 兄は、父親の方に引き取られて行っちゃったらしいんだけど、小学生の時に一度、会った事があるわ。 自転車で遊んだりして楽しかったな・・・ その後、お母さんが再婚してからは会ってないの。 連絡先を知ってる人は、もういないけど、もう一度会いたいなぁ・・・ 」
故人の手向けになればと思い、葉山は、彼女の兄の所在を捜してみる事にした。
彼女のマンションを管轄していた不動産屋へ行き、親戚を装って入居契約書に記載されてあった保証人の住所を聞き出す。 だが、当然、不動産屋が個人情報を教えてくれるはずは無い。 ここでは、葉山お得意の誘導会話にて、大体の地域を割り出すのだ。
葉山は、とある仮説を立てた。
・・彼女は、再婚した母親と義理の父親が共に他界した後、マンションに入居したと言っていた。 とすれば、保証人は親戚である可能性が高い。 再婚後の親戚なのか、それとも離婚前の親戚なのかは不明だが、交流が薄い再婚後の親戚に、保証人は頼み難いもののはずである。 おそらく、離婚前の親戚筋だ。 兄が引き取られて行った実父の住所も当然、知っていると思われる。
不動産屋の店員からは、保証人の苗字と、その保証人が居住する大体の地域を聞き取る事が出来た。 次に、NTTへ行き、保証人の家があると思わしき地域が掲載されている電話帳から、保証人と同じ名前を片っ端からリストアップする。 調査はいつも、地道な作業の連続だ・・・
( こんな手間の掛かるコトしなくても、データ検索すれば1発なんだがな )
あくまで、ボランティアである。 費用の掛かる事は出来ない。 案件の無い、暇な時期でもあった為、葉山は彼女の兄を探す事に終始した。
何名かリストアップされた名前を基に、その家を訪れて聞き込み調査をするのだが、今回は、複数の同名の家が無かった。 つまり、1軒のみ。 おそらく保証人の家だ。 早速、聞き取り調査を実施し、誘導会話から実父の住所を判明させ、その後、実父を聞き取り調査し、兄の所在を判明させた。
ボランティアとしては少々、手間を掛けたが、ほどなく兄は見つかった・・・
「 私も最近、離婚しましてね。 連絡を取ろうと思っていたんですよ。 まさか、40を前に逝ってしまうなんて・・・! 小さい頃、自転車で遊んだのが最期になってしまいましたね・・・ 」
兄の所へは、まだ彼女の訃報は届いていなかったらしい。 事情を話し、自宅近くの喫茶店で会った兄は、40代とは思えない老け方をしていた。
兄妹揃って、離婚の憂き目・・・
人それぞれ、色んな運命があるのだと思うが、人が良さそうな兄妹だけに、何故、この兄妹だけが・・・ との想いを拭いきれない。
兄は寂しそうに、終始、俯き気味だった。
人の運命など、誰にも分からない。 明日の事など、誰にも予想出来ない・・・
そんな事を、真剣に考えさせられた、彼女の死。
翌月の命日。 知人と、彼女の墓参りに行くと、墓前には、誰か弔問者が手向けていったと思われる献花の束が供えてあった。
( 兄が来たんだな )
そう直感した、葉山。
傍らには、自生している彼岸花が、鮮やかに咲き乱れていた。
『 彼岸花 』 完
< 続きます。 基本的に、週末に更新致します >
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