探偵日記

夏川 俊

文字の大きさ
18 / 18

エピローグ:探偵としての軌跡

しおりを挟む
「 尾行をしてみたい 」・「 張り込みって、面白そう 」・「 調査業務が好きだ 」etc…
 探偵と呼ばれる『 特殊業務 』に、憧れ・興味を持つ人は多いことだろう。 異業種に対する立志の尊重は大切な事柄だとは思うが、悲しいかな、調査業はそれだけでは成り立たない。 営業面での能力が、意外にも多く問われるのだ。 依頼者との折衝・・・ それが全てである、と言っても過言ではないだろう。 基本は、社交的な性格。 そこから探偵という職業が始まる事を、まずもって記させて頂きたい。

 調査業は、裏社会に精通する事となり、必然的に『 そういった業界の人間 』とも関わりを持つ事となる。 当然、彼らと衝突する機会も増える訳だ。 そういった事態に遭遇した時、TVドラマ宜しく反撃していては、未来に大きな問題を残す事となる。 格好など気にせず、『 逃げるが勝ち 』が無難である。 従って、当初から彼らとは、いざとなったら『 姿を晦ませる事が出来るような付き合い方 』をしておかなくてはならない。
 私も随分、危ない目に遭った。 命辛々、路地裏を逃走した経験も何度かあり、『 彼ら 』に拉致され、組事務所に連れて行かれて監禁。 しばらくは音信不通となった事もある。 この時ばかりは、当時、婚約中だった妻には、大変な心配を掛けてしまった。
 同じ、調査業の仲間の内、調査中に事故死した者、未だ行方不明の者、半身不随となってこの業界を去って行った者・・・ 片手では数え切れないのが現実だ。 既婚者には、絶対にお奨め出来ない業種であろう。 実際、家族の存在が、調査に弊害をもたらす事もあるのだ・・・
 だが、色々な人生の機微を垣間見る事が出来た。 事実は、現実の結果であり、下した判断の余殃とも言えよう。 都合良く創作された経緯など、一切ない。 まさにノンフィクションの世界である。

 現実を必死に生きる者の心には、世俗をも凌駕する、不動な信念を見出す事が出来る。 虚像に惑わされない、真実のみが語れる領域・・・ その『 真実 』の姿を、私は調査業務の中で、いつも追い求め続けて来た。 何故ならば、常に依頼者は『 真実 』を欲しているからである。 その純粋とも言える依頼に、どれだけ答えられるか・・・
 見返りなどを期待してはならない。 ある意味、依頼者に、どれだけ親身になれるか、である。

 探偵を主人公とした小説にしてみれば、シリアスあり、コメディーあり、はたまたハードボイルドあり、様々だ。
 創作は、常に自由な世界にある。 探偵小説・ミステリー小説、どのコンテンツも、路線的には拒否される事は無い。 だが、実際に、最前線で奮闘して来た私にとってみれば、全てが邪道である。
 調査の世界に、カッコ良さなど無い。 ・・いや、『 要らない 』。
 主人公が、若く美しい(何故、そんな設定でなければならないのか?)女性だったり、イケメン男性だったり、都合良く調査の道筋が立って来たり、整合性の無い、何を根拠に導き出されたのか分からない『 推理 』・『 推察 』が、そのまま結果となって行ったり・・・
 とにかく、『 解決 』に向かって行くストーリー自体が、ナンセンスだと思う。 現実は、そんな生易しいモノではない。
 ・・・まあ、経験した事が無い者に、現実を知れと言うのは、酷な事かもしれないが・・・
 とかく、こういった読み物には、閉口である。 『 事件解決ありき 』が、最初らお膳立てられているところが、昔から推理小説が、あまり好きでは無かった理由だ。 とにかく、『 都合 』が良過ぎる。 実際、本物の探偵に認められる探偵小説など、あり得ない事だろう。 つまりは、そう言う事なのである。
 ただ、あくまで『 小説 』の中での世界を描いているのだから、作者の自由は尊重されなければならないだろう。 渋いルックスの主人公が好みであれば、それも良し、イケメン良し、都合の良い推理が冴え渡るのも良し、etc…
 しかし、そんな創作モノは、世に捨てるほど存在する。 そのまた『 一部 』を新たに創造する事に、何の価値を見い出すのだろう・・・ まあ、創作は自己満足の世界だ。 マスターベーションの極致と考えれば、まさに作者の勝手である。
 私的には、あまりにもシリアスな世界にいた為、現実以外の状況を容認したくないのがホンネ、と言ったところか・・・

 仕入れの無い業種での、独立・・・ その指針の先に、調査業という業務を見出した私だった。 実は、調査・探偵が好きだった訳では無い。
 だが、結構、調査と言う業務にハマった。 色んな『 手 』を駆使し、あらゆる事柄・真実・事実を調べ上げる達成感・・・! 最高である。 何物にも替え難いものだった。
 ・・しかし、どうしても情に流されてしまう性格が、何度となく業務履行に障害をもたらした。 探偵事務所の経営者としては、不向きだったと解釈している。 本文中にも、何度も出て来た心情だが、対象者・依頼者に同情してしまうのだ・・・
 こればかりは、どうしようもない。 性格・人格までも変えるのは、私的には無理があった。 親身と同情は、全く違うものなのだ・・・
 現在、探偵調査の一線からは退いている私だが、同僚の事務所からの依頼にて、面談などの営業、調査方法の立案・アドバイスなどを時々、プロデュースしている。 やはり、調査に興味を持つ者は、物静かな性格の者が多く、営業や依頼者との折衝は苦手としているらしい。

 想像とは裏腹に、実に過酷な業務である調査業界・・・ しかし、取得した情報以外に得られた『 もの 』は、プライスフリーにて、大変に大きかった。 それは実際の経緯・結果だけに、迷う事なく頼れる選択肢だからだ。 これからの人生の岐路にて、ある意味、指標となり得る事だろう。
 迷う事なく頼れる『 真実 』は、求めなければ、手にする事は絶対に出来ない。 それを取得する為に己の知恵を絞り、一見、不可能と思える現実を孤軍奮闘、何とかではあるが、可能領域へと変換して来た。 苦労・苦悩は多かったが、精一杯、努力出来た時を持てた事は、私の誇りでもある。
 明日の未来、同じ道を追従する後輩たちの奮闘を、願って止まない。


『 真実を追究する者は、真実によって救われる 』


 この作品を、調査業務遂行中に逝った、幾多の仲間たちに捧ぐ

                     夏川 俊


しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

2017.02.26 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。