婚約破棄の慰謝料が石ころだった件。あなたたぶん破滅するわよ。私は最愛の人がそばにいてくれて幸せだけど。

幌あきら

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第3章 身勝手な理由で「やり直そう」という元婚約者。

【4.急なプロポーズ】

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 アーゼルとマリアが退出し、ヘルベルトと二人っきりになったリリエッタは、勇気を出し、緊張した声で言った。
「あ、あのさ、ヘルベルト。まずはありがとうなんだけど。えっと、あの、それでさ……」

「んー? どうした? リリエッタ」
「わ、わたし……」

 しかし、いざちゃんと言おうと思うと恥ずかしくなって、リリエッタは下を向いてしまった。
 おかしいな……。いつもは何でももう少しはちゃんと言えるのに。

 すると、リリエッタをフォローするようにヘルベルトが口を開いた。
「いや、でもさ。リリエッタが来るとは思わなかったなー。アーゼル殿の顔見たら、若ハゲで笑っちゃうんじゃないの?」

「あ」
 そういえば若ハゲなんだっけ。
 今日のアーゼルはピシッとしてたけど、あんなうるわしい容姿なのに実は若ハゲだと思うと笑えてくる。

 ヘルベルトは悪戯いたずらっぽくリリエッタを見た。
「失礼だからさ、笑っちゃダメって言ったじゃん。でもアーゼル殿も残念だね。イケメンなのにね」

「もう、そんな言い方するから笑っちゃうんでしょう?」
「なんで?」

 ヘルベルトが優しく微笑むので、リリエッタはドキっとした。
 この笑顔が好き。もしヘルベルトがアーゼルのことで心配してるなら、私はやっぱりちゃんと誤解を解かないといけないと思う。
「あ、あのさ……」
 とはいえ、口を開けば、また言葉が途切とぎれる。

 ヘルベルトは一生懸命聞いてくれようとするが、リリエッタが話し出してはぷつりぷつりと黙るので困った顔をした。
 それから、優しく、
「言いにくいことは言わなくていいよ」
と言った。

 珍しく、茶化ちゃかすことなく言うので、そのいつもと違う感じに、リリエッタは少しハラハラした。
 もう、言わなければ!
「あ、あのさ、私と結婚してくれない?」

 突然の重大な提案に、ヘルベルトはぽかんとした。
「は?」

 ところが、言ってしまったリリエッタの方が、なんだか大慌てで取り乱している。
「あ」と言いながらぶんぶんと手を振って、まるで言葉を取り消そうとしているようなしぐさだ。
 ちゃんと「今はヘルベルトが好き」ということを言わなきゃと思いながら、何か言葉が詰まって、とてつもないことを口走ってしまった!
「あ、いや、えーっと、これは違くて!! け、結婚とかじゃなくって!! わたし、全然アーゼルなんか好きじゃなくて、好きだったのは昔で、今は違くて!! えっと、今は――」
 落ち着きなく体を揺すって、心配そうにヘルベルトを見ながら、脈絡みゃくらくのないことを早口でまくしたてる。

 ヘルベルトは驚いていたが、やがて心をしずめて、頭をかきかき困った顔で下を向いた。

 それから、意を決したように顔を上げた。
「リリエッタ。俺と結婚してください」

 リリエッタの方がびっくりする。
「え……私、結婚……?」

 ヘルベルトは「そう」と照れながら腕組みした。

 リリエッタは急に気づいたように、
「あれ、私も今結婚って言ったっけ?」
と聞き返す。

「言ったっけ?」
「言ったわよ、たぶん!」
「そ、で?」
「で?はこっちのセリフよ!」

 リリエッタは『結婚』の話題で真っ赤になりながらも、まったく今の会話の意味が解らず、ヘルベルトの方をじっと見ている。

 しかしヘルベルトは無言のまま、包み込むような笑顔でそっとリリエッタの頭をでた。
 リリエッタはドキっとしたが、暖かくて大きな手になんだか緊張していたものがほぐれていくような気がした。
 一瞬世界が二人だけになった感覚。

 リリエッタは答えなければと思った。
「喜んで結婚します」
 言った瞬間、ぶわっと感情が溢れる。たった一言答えただけなのに! なんなの、この湧き上がる気持ちは。
 そうか、嬉しいんだ。大好きなヘルベルトとの結婚だもの。
 歓喜のあまりリリエッタは泣きそうになった。

 しかし、リリエッタの『いい返事』にも関わらず、ヘルベルトは困った顔をした。
 照れたように頭をいてから、「はーっ」と長い溜息ためいきをついて、ヘルベルトは言った。
「もー。まいったな……」

「え?」
 リリエッタは急に不安になった。
 あれ? もしかして、本当は私と結婚したくなかった? 私が『結婚』言わせちゃった? 私がテンパったから……。

 するとヘルベルトが慌てて首を横に振って答えた。
「あ、いや、まいったなって結婚のことじゃなくて。リリエッタから言わせちゃったのがもう――。はー……まいったな……」

「なんでそんなにへこむの?」
 結婚のことじゃないと否定してもらって少し安心したリリエッタだったが、ヘルベルトがどういう気持ちなのかを知りたくてそっと聞く。

 ヘルベルトは鼻の頭を人差し指でこすりながら、言いにくそうに答えた。
「アーゼル殿がリリエッタにやり直そうって言い出して。昔の手紙持ち出してさ。俺あせったよ。リリエッタのこと信じてたけど、どこか落ち着かなくて。すぐにでもプロポーズしたくなったけど、でもそれも違うと思って。アーゼル殿に張り合ってプロポーズするとか、なんか違うよね。で、ひとまずアーゼル殿の件を片づけて、フラットな状態に戻ってから、そしたら仕切り直してプロポーズするんだーと思ってたら、まさかの……。リリエッタから言うもんだから……。」

「ヘルベルトなんか今凄く本音でしゃべってる」

「え、嘘。俺本音しゃべってる? あ? もー、よっぽど動揺してんな、俺。落ち着け落ち着け。俺はヘルベルト、ふざけた男……」

「ふざけなくていいってば!」

 リリエッタは思わず笑ってしまった。

 ヘルベルトはそっとリリエッタの手を包むと、ぎゅっと握った。リリエッタはドキッとした。体温が伝わる。ヘルベルトの顔を見ると、優しい目をしていた。その真面目な眼差まなざしに、リリエッタはまたドキっとした。すきだなー……。

「俺はふざけなきゃ死ぬ」
「は? え、その顔で今それ言う?」
「うん」

 ヘルベルトもにっこりして、リリエッタの左手をそっと引いた。

 そして、もう片方の手でふところから何かごそごそと取り出すと、何ももったいつけずにさっと指輪をリリエッタの左薬指にはめた。
 ヘルベルトのベズリー家の紋章の入った指輪だった。リリエッタにぴったりだった。

「今夜、婚約の書類をマクファー伯爵家リリエッタの実家に届けるから」
「指輪準備してくれてたんだ……」
「うちの弟が、そういうのは一流の男のたしなみだからって言うからさ」
「まだ10歳だよね、弟」
「10歳なのにダンディーなんだよなー」

 リリエッタはくすっと笑ってからヘルベルトに抱きついた。
「好き!」

 ヘルベルトはぎゅっとリリエッタの肩を抱き、もう片方の手で背をそっとでた。

 あーあ、私からプロポーズしちゃった。
 ヘルベルトも言ってくれたけど。いーんだ、これは私からで。
 だってこの気持ちは隠しようがないもの!



(第3章 終わり)
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