婚約破棄の慰謝料が石ころだった件。あなたたぶん破滅するわよ。私は最愛の人がそばにいてくれて幸せだけど。

幌あきら

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第1章 婚約破棄の慰謝料が石ころだった件。

【1.慰謝料が石ころだった件】

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 ワートン公爵家の長男アーゼルが、婚約者のエミリーを自室にてひざに乗っけて、口移しでチョコレートをアーンしてもらっているとき、執事の制止を振り切りながら一人の令嬢が怒った顔で入って来た。
 令嬢の目はり上がり、腰に手を当てている。
「アーゼル様。ちょっとよろしい?」

 アーゼルは顔をしかめた。
「リリエッタ、どこから入り込んだ? もうおまえは気安くここに来ちゃいけないんだよ。俺はもうおまえとの婚約は破棄して、この美しいエミリーと婚約してるんだから」

 エミリーの方は元婚約者の令嬢が何やら憤慨した様子で入って来た気まずさなんか何のその、美しいと言われたことを誇張こちょうするように恥じらった様子を見せた。

 しかし、元婚約者のリリエッタはエミリーの挑発的な仕草しぐさなど意にも介さない。
「ええ。それは分かってるんですけど、アーゼル様。私がわざわざここへきた用件は少し重要なことかもしれなくて。慰謝料の話なんですけど。――ええと、いいですか、彼女エミリーの前で話しても……?」

 リリエッタはエミリーに聞かせるような話でもないと一応アーゼルに確認を取るように聞いたが、アーゼルの方は全く気にする様子はなかった。
「ん? 慰謝料の話ならエミリーが聞いて悪い話ではなかろう、終わった事なのだし。構わん。続けろ」

「そう……。じゃあ、あんまり良くない話ですけど、ここで言いますね。慰謝料、確かにあなたの代理の方が持ってきました。でも、その方から聞いてないですかね。木箱の中身なんですけど、石ころだったんです。どういうことでしょうか? うちもそこそこ古くから続く伯爵家。今回のことはあなた都合の一方的な婚約破棄でしたから、それなりの金額を包んでもらうはずでしたよね?」
 リリエッタは説明口調で冷静に話した。

 しかしアーゼルはあまり深刻なものだとは思わなかったようだ。
「ん? 金の話か。そういうのは執事に言ってくれ。収入や支出、使用人の賃金などは執事が代理で管理しているのだから。俺は払えと命じた。その後のことは担当の者がすべきことだ。俺は知らん」
と、一気にまくし立てた。

 リリエッタはアーゼルの言葉を最後まで聞いてから、困ったように反論した。
「もちろん最初は執事の方でやり取りをさせてもらいました。あまり私自身が表立って騒ぎ立てるのも気が引ける内容でしたので。でも、うちの執事が『石ころしか入ってなかった』と伝えたのに、そちらときたら『払ったことなっております』の一点張り。逆に『本当はちゃんと慰謝料は受け取っているのに、入ってなかった、まだ受け取っていない、と嘘を言っているんじゃないか』とこちらが疑われる始末しまつらちかないのであなたに話に来たんです」

 しかし、アーゼルは聞く耳を持たない。
「わざわざ来てご苦労さんだけど、うちの執事が『払った』って言ってるなら払ったんだろう。俺の知るところじゃない」

「少し不誠実過ぎやしませんか」

「じゃあ逆に、おまえが嘘をついていない証拠は? うちの執事の言う通りだ。実はちゃんともらっているくせに『入ってなかった』ともう一度要求するなんて。そんなの2倍取りだろ」

「浮気による一方的な婚約破棄をしておいて、その上まだ私を嘘つき呼ばわりするつもりですか? それはちょっといただけませんね」
 さすがにリリエッタは腹立たしく思えてきた。

 しかし、あくまでアーゼルは自分の非を認めないようだった。
「そういう金の話は、証拠が出てから対処する。知らん、出ていけ。エミリーとのハッピータイムを邪魔するな」

「……」
 リリエッタはすっかりあきれ果ててしまった。
 じっとアーゼルを見つめ、どうアーゼルに事態の重要さを分かってもらおうかと考えていたとき、
「おつかれー」
とエミリーがバカにするような声を上げた。

 リリエッタはエミリーのそんな調子を聞いて、これはダメだと思った。柔らかい言い方では通じない。

 リリエッタは、きっと鋭い視線をアーゼルに投げかけた。
「アーゼル様、少しお考えになった方がいいですよ。もしうちが嘘をついておらず、そしてあなたが本当に慰謝料を払えとお命じになったというなら、それはどういうことかお分かりになりません? あなたの家の執事、または出納係すいとうがかりが、うちにお金を払ったことにしてこっそりネコババしてるってことになるんですよ。そんな者に今後もお金の管理を任せるんですか? どんどん不明なお金が出てきたり財産が盗まれたりするんじゃないかしら。正しく支払ってもらえなかった相手からは信頼を失うでしょうし……。まずは、ちょっと帳簿を確認して、本当に払ったことになっているのか、見てくださるところからでいいんです」

 リリエッタの話を聞き、少し話の重大さが分かってきた様子のアーゼルは、今度は突っぱねずにリリエッタに聞き返した。
「その、おまえのところには石ころしか届かなかったって話は本当なんだな? おまえのところの執事や事務方がネコババしたわけじゃないんだな?」

「ええ。あなたの家からの慰謝料は、施錠せじょう可能な木箱に入って送られてきました。あなたの代理として来られたのはあなたの親族のジャン・ワートンさんでしたよね。あなたの再従兄弟はとこだと伺いました。私は、さすがにあなたからの手紙の一つでも入ってるんじゃないかと思ったので、その場で――私の父やジャン・ワートンさんの目の前で木箱を開けさせました。そして――木箱には石ころしかはいっていなかったんです」
 リリエッタはそのときの状況を分かりやすく説明した。

「……」

「私も父も、ジャン・ワートンさんも、石ころをめられた木箱をその場で見てるわけです。ジャン・ワートンさんも顔色を変えてました。それでもそちらの執事は払ったの一点張り……」

 リリエッタがふうっとため息をつくと、アーゼルはもういいとばかりに片手を挙げた。
「……言いたいことは分かった。ではこちらも少し調べることにする」

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