13 / 20
第2章 改心しない小悪女には予定以上の制裁がお似合い!
【5.修道院にて 中編】
しおりを挟む
あの男の人。名まえはケイン・ハートネット。毎週金曜日にお祈りに来るわ。まあまあかわいい顔立ちなのよね。年は20歳そこそこかしら。背は低めだけど、肌艶は悪くないし、清潔感はある。
いつも一人で来るからまだ伴侶はいないとみた。
よし、今度、偶然を装って手を重ねてみようっ!
でもダメよ、絶対に他の修道女たちに見つからないようにやるのよ。
あの女たちはそういうのを見咎めると鬼の首を取ったかのように大騒ぎするんだから! 本当モテない女ってうるさいのよ。バレたら院長に追い出されちゃう!
でも、あたしならうまくできるわ……。男の人の手に触れるなんて楽しみね。
次の金曜日、エミリーはケイン・ハートネットが神殿へ来るのをワクワクしながら待った。
ケインはいつものように現れると、帽子を脱ぎ、祭壇の前に何列も並べられた長椅子の一つに腰かけた。
そして前の長椅子の背もたれの上で両手を組み、その組んだ両手の上に頭を垂れた。
これが彼の祈りのスタイルなのだった。
エミリーは心の中でニヤッと笑った。
あの手の上にあたしの手を重ねてみよう。ちょうどいい感じで長椅子の背もたれの上に置いてくれてるじゃないの。
ゴツゴツとした男の人の手。生温かい体温。ちょっと湿っているかもしれないわね。それが余計に男女を感じさせるのよ。ふふっ。
とはいえ、今日の神殿への奉仕活動には修道女が10人は来ている。
変な動きをしたり、触られたケインが驚いた声を上げようものなら、一気にお縄だわ。
エミリーは平静を装い、明後日の方向を見ながら、ゆっくりとした動作でケインに近寄って行った。
そして通り過ぎるかといった瞬間に、さっとケインの手に目を落とし、さも自然な動きかのように手を差し伸べると、両手で、ケインの両手を包み込んだのだった。
祈りのために組まれたケインの手。
それに覆いかぶさるエミリーの両手。
頭を垂れて一心に祈っていたケインは、異変を感じてパッと目を上げ、エミリーが自分の手を包み込んでいるので「ぎゃっ」と思わず短い悲鳴を上げた。
周囲の修道女たちは驚いてケイン・ハートネットの方を向いた。
そして、ケインの組まれた両手の上に、エミリーが両手を重ねているのをはっきりと見た。
「何をしているのっ!」
修道女の一人が叫んだ。
ケインは訳が分からず、包まれた両手を眺めながら放心している。
「エミリー様! なぜ手を握っているのです?」
修道女たちが駆け寄ってきた。
エミリーはここが演技の正念場だと思った。そして平然と言ってのけた。
「クモが歩いていたのですわ。この方の手にのぼったので捕まえようと。だって神殿で殺すわけにはいかないでしょう?」
「クモ!?」
ケインが慌ててもぞっと手を動かしたので、ようやくエミリーは包んでいた両手を離した。
「クモなんかいないが……」
ケインが両手をくるくる表裏させながら戸惑ったように言うと、エミリーは悠然と微笑んだ。
「あら、逃げてしまいましたのね。あたしったら運動音痴なんだからぁ」
他の修道女たちは何となく変だなと思いながらも、エミリーの言うことを否定する根拠もなく、腑に落ちない顔をしながらまた自分の雑用に戻っていった。
ケインはしばらく自分の手とエミリーの顔を見比べている。
エミリーはにっこりと笑い返した。そして、心の中で呟く。
「ごちそうさま」
エミリーはこの悪戯にすっかり満足していた。
ああ、男の人の少し大きな手。伝わって来た体温! 彼の手があたしの掌の下でもぞっと動いたのよ。触れるだけでこんなに楽しいなんて……。
エミリーはうっとりとした。背徳感も堪らない!
次は?
すぐさまエミリーは次のターゲットを物色し始めた。
次はあの男にしよう。名まえはコーネル・リーヴェンス。
手に触ったケイン・ハートネットよりは貧しそうだけど、真っ黒で長めの前髪がミステリアスな雰囲気なの! 背も高いし鼻筋がきれいなのよね。いつも一人で来るし。
彼にはそうね――お尻でもつねってみようかしら。
そしてエミリーはコーネル・リーヴェンスが神殿にやってくるのを今か今かと待った。
コーネルは決まった曜日に来るわけではない。来たときが勝負!
ある日、コーネルは汚れた作業着を着たまま神殿にやって来た。
神殿の祈りの場の入口で、長い前髪をかき上げながら、敬虔な瞳で祭壇の向こうの神の像を仰ぎ見る。
ちょうど入口付近の長椅子の掃除をしていたエミリーは「来たっ!」と思った。
そして、お尻をつねるにはコーネルが長椅子に座るまでが勝負だと思った。
とはいえ、今日もそこそこの数の修道女たちが一緒に奉仕に来ているのだ。一般客だってそこそこいる。
冷静に、堂々と、事を遂行しなければ。
修道女たちに不信感を与えてはいけない。
エミリーはさささっと足早にコーネルの背後に近づいた。
そしてコーネルが前の方の長椅子に座ろうと歩き出したところ、いきなり後ろからきゅっとお尻をつねった。
「うわっ!?」
コーネルが驚いて小さく叫び声をあげる。
そして脊髄反射のようにパッと動くと、左手でパシッとエミリーの右手首を掴んだ。
その声に、近くにいた修道女たちが振り返る。
見れば、エミリーの手が男性のお尻付近にあるではないかっ!
しかもその手首を男性ががっしり掴んでいる!?
「何をしているんです、エミリー様!?」
修道女たちは声をあげた。
「またあなたなの、エミリー様」
という声も聞こえる。
院長が近寄って来た。エミリーの手がコーネルのお尻の付近にあるのを汚らわしいものを見る目つきでちらりと見た。そして、
「これはどういう状況ですか?」
とコーネルとエミリーに説明を求める。
「あ、この修道女が俺の尻を触ったので……。思わず掴んでしまいました」
コーネルはそう説明してから、パっとエミリーの手首を放した。
「お尻を、触った……?」
院長が信じられないといった顔をする。
いつも一人で来るからまだ伴侶はいないとみた。
よし、今度、偶然を装って手を重ねてみようっ!
でもダメよ、絶対に他の修道女たちに見つからないようにやるのよ。
あの女たちはそういうのを見咎めると鬼の首を取ったかのように大騒ぎするんだから! 本当モテない女ってうるさいのよ。バレたら院長に追い出されちゃう!
でも、あたしならうまくできるわ……。男の人の手に触れるなんて楽しみね。
次の金曜日、エミリーはケイン・ハートネットが神殿へ来るのをワクワクしながら待った。
ケインはいつものように現れると、帽子を脱ぎ、祭壇の前に何列も並べられた長椅子の一つに腰かけた。
そして前の長椅子の背もたれの上で両手を組み、その組んだ両手の上に頭を垂れた。
これが彼の祈りのスタイルなのだった。
エミリーは心の中でニヤッと笑った。
あの手の上にあたしの手を重ねてみよう。ちょうどいい感じで長椅子の背もたれの上に置いてくれてるじゃないの。
ゴツゴツとした男の人の手。生温かい体温。ちょっと湿っているかもしれないわね。それが余計に男女を感じさせるのよ。ふふっ。
とはいえ、今日の神殿への奉仕活動には修道女が10人は来ている。
変な動きをしたり、触られたケインが驚いた声を上げようものなら、一気にお縄だわ。
エミリーは平静を装い、明後日の方向を見ながら、ゆっくりとした動作でケインに近寄って行った。
そして通り過ぎるかといった瞬間に、さっとケインの手に目を落とし、さも自然な動きかのように手を差し伸べると、両手で、ケインの両手を包み込んだのだった。
祈りのために組まれたケインの手。
それに覆いかぶさるエミリーの両手。
頭を垂れて一心に祈っていたケインは、異変を感じてパッと目を上げ、エミリーが自分の手を包み込んでいるので「ぎゃっ」と思わず短い悲鳴を上げた。
周囲の修道女たちは驚いてケイン・ハートネットの方を向いた。
そして、ケインの組まれた両手の上に、エミリーが両手を重ねているのをはっきりと見た。
「何をしているのっ!」
修道女の一人が叫んだ。
ケインは訳が分からず、包まれた両手を眺めながら放心している。
「エミリー様! なぜ手を握っているのです?」
修道女たちが駆け寄ってきた。
エミリーはここが演技の正念場だと思った。そして平然と言ってのけた。
「クモが歩いていたのですわ。この方の手にのぼったので捕まえようと。だって神殿で殺すわけにはいかないでしょう?」
「クモ!?」
ケインが慌ててもぞっと手を動かしたので、ようやくエミリーは包んでいた両手を離した。
「クモなんかいないが……」
ケインが両手をくるくる表裏させながら戸惑ったように言うと、エミリーは悠然と微笑んだ。
「あら、逃げてしまいましたのね。あたしったら運動音痴なんだからぁ」
他の修道女たちは何となく変だなと思いながらも、エミリーの言うことを否定する根拠もなく、腑に落ちない顔をしながらまた自分の雑用に戻っていった。
ケインはしばらく自分の手とエミリーの顔を見比べている。
エミリーはにっこりと笑い返した。そして、心の中で呟く。
「ごちそうさま」
エミリーはこの悪戯にすっかり満足していた。
ああ、男の人の少し大きな手。伝わって来た体温! 彼の手があたしの掌の下でもぞっと動いたのよ。触れるだけでこんなに楽しいなんて……。
エミリーはうっとりとした。背徳感も堪らない!
次は?
すぐさまエミリーは次のターゲットを物色し始めた。
次はあの男にしよう。名まえはコーネル・リーヴェンス。
手に触ったケイン・ハートネットよりは貧しそうだけど、真っ黒で長めの前髪がミステリアスな雰囲気なの! 背も高いし鼻筋がきれいなのよね。いつも一人で来るし。
彼にはそうね――お尻でもつねってみようかしら。
そしてエミリーはコーネル・リーヴェンスが神殿にやってくるのを今か今かと待った。
コーネルは決まった曜日に来るわけではない。来たときが勝負!
ある日、コーネルは汚れた作業着を着たまま神殿にやって来た。
神殿の祈りの場の入口で、長い前髪をかき上げながら、敬虔な瞳で祭壇の向こうの神の像を仰ぎ見る。
ちょうど入口付近の長椅子の掃除をしていたエミリーは「来たっ!」と思った。
そして、お尻をつねるにはコーネルが長椅子に座るまでが勝負だと思った。
とはいえ、今日もそこそこの数の修道女たちが一緒に奉仕に来ているのだ。一般客だってそこそこいる。
冷静に、堂々と、事を遂行しなければ。
修道女たちに不信感を与えてはいけない。
エミリーはさささっと足早にコーネルの背後に近づいた。
そしてコーネルが前の方の長椅子に座ろうと歩き出したところ、いきなり後ろからきゅっとお尻をつねった。
「うわっ!?」
コーネルが驚いて小さく叫び声をあげる。
そして脊髄反射のようにパッと動くと、左手でパシッとエミリーの右手首を掴んだ。
その声に、近くにいた修道女たちが振り返る。
見れば、エミリーの手が男性のお尻付近にあるではないかっ!
しかもその手首を男性ががっしり掴んでいる!?
「何をしているんです、エミリー様!?」
修道女たちは声をあげた。
「またあなたなの、エミリー様」
という声も聞こえる。
院長が近寄って来た。エミリーの手がコーネルのお尻の付近にあるのを汚らわしいものを見る目つきでちらりと見た。そして、
「これはどういう状況ですか?」
とコーネルとエミリーに説明を求める。
「あ、この修道女が俺の尻を触ったので……。思わず掴んでしまいました」
コーネルはそう説明してから、パっとエミリーの手首を放した。
「お尻を、触った……?」
院長が信じられないといった顔をする。
2
あなたにおすすめの小説
「『お前の取り柄は計算だけだ』と笑った公爵家が、私を追い出した翌月に財政破綻した件」
歩人
ファンタジー
公爵家に嫁いだ伯爵令嬢フリーダは、10年間「帳簿係」として蔑まれ続けた。
夫は愛人に夢中、義母は「地味な嫁」と見下す。しかし前世で公認会計士だった
フリーダは、密かに公爵家の財政を立て直し、資産を3倍にしていた。離縁を
突きつけられたフリーダは、一言も抗わず去る。——翌月、公爵家は財政破綻した。
「戻ってきてくれ」と跪く元夫に、王家財務顧問となったフリーダは微笑む。
「申し訳ございません。もう私は、公爵家の帳簿係ではありませんので」
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。
「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。
私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」
「……フフフ」
王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!
しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?
ルカリファスは楽しそうに笑う。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
砂の揺籠
哀川アルマ
ファンタジー
ハーブロート公爵家の愛人の子、レイラ・ハーブロート公爵令嬢は、典型的な我儘令嬢でどうしようもないと噂される。
義母も相当な放蕩な女で、苦労している姉のシローヌ・ハーブロート公爵令嬢に同情の声が寄せられ、ハーブロート公爵の名声は地に落ちつつあった。
王太子妃の開いたお茶会でも暴れるレイラだが…?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
初の投稿です。
楽しんでいただければ幸いです。
婚約破棄からの復讐~私を捨てたことを後悔してください
satomi
恋愛
私、公爵令嬢のフィオナ=バークレイはアールディクス王国の第2王子、ルード様と婚約をしていましたが、かなりの大規模な夜会で婚約破棄を宣言されました。ルード様の母君(ご実家?)が切望しての婚約だったはずですが?その夜会で、私はキョウディッシュ王国の王太子殿下から婚約を打診されました。
私としては、婚約を破棄された時点でキズモノとなったわけで、隣国王太子殿下からの婚約話は魅力的です。さらに、王太子殿下は私がルード殿下に復讐する手助けをしてくれるようで…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる