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賢者がひきこもりというのは嘘だと思う。
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判断が鈍らないうちにトシマ区に戻りたかった。
WEB会議で全島民に言えばいいことだが、ラージャから言うのは誠意がない気がしたのだ。
しかし、例によってルボミールに止められた。
島に帰るには島の住人である人たちの送迎であっても、自分でしたいそうだ。
そうして決まったのは、3日後である。
その為、島の民にはWEB会議でラージャに戻ったことや、アストリア帝国で得た新しい情報を共有した。
観光地化に向けて、Ωのヒートによる危険性を訴える動画を公開し、ネックガードを開発中で完成したら全国民につけることを推奨することを告知した。
そこで重要になってくるのは、ネックガードの取り外しだ。
付けるのも外すにも高い魔力が必要であるが、それに利用したのは、・・・AMである。
アストリア帝国には、不特定多数の人から魔力を抽出し植え付ける行為は違法に当たるが、魔力を結晶化し販売するとという商売があるらしい。
アストリア帝国の城の中にあった宝石もそういうものが多く、明かりをつけるものや空調やらがあるそうだ。
滞在期間中、城と図書館と研究所にしかいられなか交渉にったから、夜会でそういう話を知ることができたのは良かった。
京にはアストリアの知り合いはいないが、心強い味方がいた。スミオラ兄弟だ。
本家であるスミオリル家とは決裂状態だという事だったが、リコとニコに交渉に向かってもらった。
交渉にルボミールの名前は出さなかったため難航するかもしれないと思っていたのだが、ニコが居たことが大きかったらしい。本家には今でもΩを大切にする祖先の教えが長く息づいていたそうだ。
事情を知った本家の人々は全力をサポートしてくれるそうで、そこにリコもあたることになり、今はアステリア帝国に残り、本家の者達と共に開発中である。
ネックガードの作成は道筋があったったが、その魔法道具の行使場所が問題である。
ヒートのΩの意思など薄氷よりも薄くもろいから、本人に持たせても無意味。
病院などで外せるようにしたらよいだろうが・・・ここはまだ検討中である。
本当は・・・ネックガードを考えたハカセに作ってもらいたかったが、そんな彼はまだ目を覚まさず仕方がないことだ。
3日後の帰島に合わせて対面での会談を設定したりなど忙しく仕事をこなし、オフラインにしてイヤフォンを置いたところだった。
「もう終わりました?」
唐突に聞こえた声に心臓が止まるかと思った。
如月が異変に気付き瞬時に取り押さえようとし、ダミアンも腰に携えている剣を構えようとしたが、声の主を見てはっとした。
そこには三賢者であるコンラッドが立っていたのである。
☆☆☆
知らせたらすぐに駆け付けようとするのは分かりつつも、知らせなかったときの損害(?)を考え、京はすぐにルボミールに知らせるが、案の定こちらの部屋に来ようとするのを全力っで止めた。
そう思うのは余りのだろうか・・・?
だが、一応に頷いてくれたので今日はコンラッドへ視線を向ける。
悠然とソファーに腰を掛け、さきほどニコが出したミルクティを舌つづみを打って飲んでいる。
コンラッドは先日の司書の格好ではなく、どこかわからない国の服を着ていた。
見た目はモイスと同じく青の民だが、白銀の髪は短く切りそろえられており、その瞳は青く輝いていた。
「コンラッド様。・・・先日ぶりですね」
「えぇ。・・・これ美味しいですね」
「そうですか?・・・もう製造できないものなのですが」
その言葉に眉を顰めるコンラッド。
そんなにこの茶葉を使ったものが良いのだろうか。
「トシマ区で作っていたわけじゃないのです。
あくまでも他の地で生産されたものをトシマ区で売っており、今はトシマ区にあるだけです」
「なるほど。・・・」
「・・・ところで、賢者様は余り民の前に現れないと伺ったのですが」
三賢者の話を聞いたときはこの世界の人間と関係を持たないという人達に、会う事なんて一生無いと思っていたのだが。
「まぁそうですね。
当初は青の国の専属な様なところはありましたけど、特定の国に肩入れするのは良くないですね。
シリルやモイスに私も全員生まれが違うのはそういう理由です。
賢者の出生の国は自分の国も守護をしろというのです。
かつてのアストリアのようにね」
「・・・?」
「あぁ。私は変身して姿を変えているのです。
元々赤の大陸の人間です」
それは聞いたこともない話だった。
博識なクルトに視線を向ければ首を横に振った。
余り知られていない情報であるようだ。
「厚かましいことに自分の国もとたくさん申し出があるのでね。
・・・なので、今久しぶりに大変な勢いで通信が来ていて、シリルがぶちキレていますよ。
まぁ彼は真面目なので、賢者の仕事に1人で集中していますが」
その仕事をコンラッドもモイスもしないことに疑問を持ったが口に出せるわけがない。
・・・彼は3人の中で苦労性の様な気がしてきた。
「あ。守護すると言ったのはモイスだって思いました?」
にっこりと笑みを浮かべる男は、相変わらず目が笑っていない。
「彼に守護してもらってあの島が守られるならありがたい。
・・・彼には今度お詫びする」
好きなものは何だろうか。
失礼だがあの見た目は甘いものが好きそうであるから、今度両方準備して・・・と、思ったがそう言えば連絡手段がなかったのを思い出す。
確か今日はトシマ区のオーガニック(というか添加物が今殆どつくれていないのだが)のスイーツでシフォンケーキがあったはずだ。
「彼は甘いものはお好きだろうか」
そう言いながら如月に視線を送ると、手を付けていないケーキの箱を準備し始めた。
「モイスは甘いものすきですよ」
「いえ、シリル様です。・・・いや、勿論モイスのも準備しますが」
「ふーん。モイスは貴方のために色々しているのに報われないな」
「え?」
「あ。・・・このことは言っては駄目だった」
その声のトーンはとても台詞めいていた。
「・・・、・・・お気遣いは嬉しいのですが」
「そういうのは自分で言ってください。・・・それは預かりますが」
そういってケーキを指さすコンラッド。
すでに2口ほど食べた彼はその味の虜になったようである。
「手土産の方はワンホールあるので3人で召し上がってください。
・・・とは言え、私はモイスと連絡手段がないのです」
ケーキをひとすくいし、口に入れる姿は少年の様だが、年齢は京よりも・・・というか、人類としては考えられないくらい生きている
ここに来るまでは大人の男性の様だったのだが。
「?・・・モイス連絡手段を知らせてないのですか?」
「特には。・・・私に魔力が無いからなのかもしれませんが」
「もしくは小細工をしこむのに忙しいのかもしれませんねぇ」
それは隠し事ではないのだろうか・・・。
京は苦笑を浮かべる。
「ありがとうございます。・・・心得て置きます」
「私はなんのことかわからないですねぇ」
ぱくぱくとフォークの手を進めるコンラッドは、この部屋に来た時の威圧感はすっかり消えていた。
今度からケーキを準備しておこうと思いつつ、京は来訪の理由を尋ねた。
「今日は、・・・なぜ?」
「モイスもシリルも何故貴方を特別視するのか気になったんですよ」
それは京が知りたいところである。
シリルが言っていた通り『運命』でケーシーを連想をさせたのかもしれない。
それを教えてくれたのは嬉しくあるが、三賢者のうちの1人がわざわざ現れたことは驚いた。
「『運命』というのがケーシー様を連想させるのでは?」
「君の前だって何人かいました。
ケーシーが死んでもその後もね」
そういってサファイアの瞳がこちらを見てくる。
まるで京をサーチするようにじっと見てくる。
「なのに何故君にだけはモイスが反応したのか。
・・・復活直後の『運命』だったとか?
夢見が悪かったのか・・・?
でも君は黒毛に黒目で違うと思うんだけど」
「・・・ケーシー様と重ねられても困ります。
私は国民に崇められるような貴族ではないすし、・・・早めに違うと証明したいですね」
だから、京に還れと言うのだろうか。
いくら考えてもわからなくて京は小さくため息をついた。
「・・・。コンラッド様はモイスの指示で動いていたのですか?」
「いいや。面白そうだったから」
京はハカセを救いに行くために動いていたわけで、少しカチンと来てしまったが表面には出さない。
だが、・・・。
「媚びてモイスに媚びるようなゴミだったら排除しようと思ったんだけどね」
その言葉に京は唖然とする。
会話として少しずれを感じていた。
それはモイスやシリルにも感じていた。
だが、このコンラッドだけはまた別の物を感じていたのだが、・・・それは敵意のようだ。
「・・・となると、私は排除されますね」
そういうと、コンラッドの視線が鋭くなる。
「これからトシマ区を守っていくために彼にはケーキ何ホール贈ればいいだろうか」
「ケーキ・・・?そんなものじゃ足りませんよ」
「・・・」
「この世界からαを亡くすのにケーキ一つなんてありえない!」
個数の問題ではないのだが、体の周りがもやもやしている気がする。
その正体が良くわからないまま京は言葉を続ける。
「そんな極端なことは望んでいません。・・・・けど大それたことかもしれません」
「はっきり言ってくれないですかねぇ」
びりびりとするような気配。
直ぐ近くにルボミールが来ている気配も感じている。
普通の思考の持ち主だったら同じに考えるだろう。
「トシマ区の皆が安全に。
そして幸せに暮らせるように。
・・・なんていう願いは大それた願いですよ」
そういうと、コンラッドはじっとこちらを見てくる。
「俺はルルの伴侶になる。だからαを撲滅なんてそんなこと考えない。
けど、島のみんなは守りたいんだ」
この世界でΩは生きづらいから。
せめて自分に助けを求めてきたΩは助けたい。
「・・・。
・・・。
・・・そんな些細なこと、もったいぶって言ってくれないでくれないですかねぇ。
君はこの世界のΩとは違う思考の持ち主だ。
だからこの世界のΩには無理でも君なら出来る。
それこそ、我らがあがいても変えられなかった理を変えられる可能性がある」
「可能性・・・ではなく、変えたいんです」
「なかなか傲慢じゃないか」
「謙虚なんて一言も言ってませんが?」
そういうと、コンラッドはおかしそうに吹き出した。
京は自分のことを1mmも謙虚だなんて思ってない。
謙虚で良識ある人間が王太子であるルボミールの善意に甘えたりしないだろう。
本当に謙虚な人間だったら拒否するはずだ。
だが、京は『良いのか?』と言いつつも喜んで受けていたからである。
「確かにそうだった。・・・モイスに害がなければそれでいい」
「害があることをしないとは限らないです」
「そこはしないって言っておけばいいんじゃないんですか?」
京の訴えにあきれたようにするコンラッド。
「手を上げる気はないです。ただ彼の気にそわず気分を害す可能性は0じゃない」
「・・・。なるほど馬鹿正直なのか。・・・嫌いじゃないですけど?」
そう言うとクスリと笑みを浮かべる男はスクリと立ち上がった。
帰ると言った男は、思い立ったように踵を返し京の前に立つと手のひらに赤い球を置いた。
「それ、とっても大事なもので大切に扱ってくださいね」
「は?・・・ぁ、いえ、・・・あの、」
「フフフ。・・・返却不可です。良い点はいつでも私を呼ぶことが出来るものです」
「一生使うことはなさそうなのでお返しします」
頭の中で『賢者を好きに話しかけることが出来るΩ』が瞬時に浮かび、余計返却したくなる内容で返そうとしたが受け取ってくれなかった。
賢者を好きに扱えるだなんて外部に知られたくはない。
この赤い球がこの世界でどういった意味を持つかはしらないが。
「まぁその球が壊れたら・・・そうですね。ルボミール殿下の所為となりますね」
「はい・・・?」
「貴方は皆に愛される。
貴方を手に入れようとする者がたくさん現れるでしょう。
正直それはどうでもよかったですが、・・・事情が変わりました。
精々彼に守ってもらい、その球を大事にするんです。
賢者殺しにならないようにね」
賢者と言うのは身勝手極まり無い者なのだろうか。
勝手に来てなにか爆弾を置いていく。
京が名前を呼んでもコンラッドはほほ笑むだけで、結局その場を去ってしまった。
☆☆☆
呆然と先ほどまでいた場所を見ていると、ガチャリと扉を開いた音がしてルボミールが専用の通路を使い入室してきた。
京は困惑していると、京の手のひらの上の赤い球を見て苦い顔をした後、後ろのダンを見る。
「本物でしょう」
「・・・はぁ」
その2人の会話が余計に不安になった。
けど、捨てろとは言わなかったから、京はその球を大切に身近に置いた。
次の日朝。
枕元には緑の玉と青い球が増えていて絶句した。
「る・・・ルルっ」
昨晩のうちに教えてくれなかったからあきらめていたのだが、こうなっては話は別だ。
いつもは起こしたりはしないのだが、咄嗟に隣で寝ているルボミールを起こす。
眠気眼でハッとしているルボミールに悪いと思いつつ言葉をつづけた。
「球が・・・!青いのと緑のが増えてる・・・!」
「!?」
その言葉に覚醒したルボミールはハッとして体を起こす。
そして京の手のひらにある球を暫く凝視しして、盛大にため息をついた。
「っ・・・あの、」
「!・・・違う。キョウの所為じゃないから安心してほしい」
「でも」
「悪いのは賢者様方だ。・・・話した限り想いは違うようだが、・・・どちらかというと俺を困らせたいのだろう」
「どういう意味だ・・・?」
京が持ってルボミールを困るというのが良くわからない。
そう尋ねたが苦笑を浮かべるだけだった。
「・・・どうせなら俺のを持たせたかったが、そこまで魔力はないなからな」
「魔力が無いと、・・・この球は作れないのか」
「あぁ。・・・でも、キョウにはこれを意識しないでほしい」
京の声が残念そうに潜まれたことに苦笑をして頬を撫でながら球の方を指さす。
本当は持たせたくはないのだろうが、三賢者のものとなれば別なのだろう。
だが、欲しがっている自分にハッとした。
いつも与えてもらってばかりだ・・・
そう思うと、言葉を飲んだ。
自分の出来る範囲で・・・と、思っていたがルボミールに対してそれしかできていないのだ。
「賢者様方には申し訳ないが、・・・俺が一番に考えているのはルルだけだ」
勿論、モイスがトシマ区の後ろ盾になってくれのは助かる。
けれどそういう事ではないのだ。
俺ができなかったこと、・・・か。
それは一つしかない。
京はガーネットに輝く瞳を見つめる。
そして、喉まで出かけたが・・・京はそれ以上を言う事は無かった。
この流れで言いたいことではなかったからなのだが・・・。
あれ?・・・俺、・・・そう言えば・・・・
これまでの自分を思い直して唖然とする京だった。
┬┬┬
甘さ少な目。。。
WEB会議で全島民に言えばいいことだが、ラージャから言うのは誠意がない気がしたのだ。
しかし、例によってルボミールに止められた。
島に帰るには島の住人である人たちの送迎であっても、自分でしたいそうだ。
そうして決まったのは、3日後である。
その為、島の民にはWEB会議でラージャに戻ったことや、アストリア帝国で得た新しい情報を共有した。
観光地化に向けて、Ωのヒートによる危険性を訴える動画を公開し、ネックガードを開発中で完成したら全国民につけることを推奨することを告知した。
そこで重要になってくるのは、ネックガードの取り外しだ。
付けるのも外すにも高い魔力が必要であるが、それに利用したのは、・・・AMである。
アストリア帝国には、不特定多数の人から魔力を抽出し植え付ける行為は違法に当たるが、魔力を結晶化し販売するとという商売があるらしい。
アストリア帝国の城の中にあった宝石もそういうものが多く、明かりをつけるものや空調やらがあるそうだ。
滞在期間中、城と図書館と研究所にしかいられなか交渉にったから、夜会でそういう話を知ることができたのは良かった。
京にはアストリアの知り合いはいないが、心強い味方がいた。スミオラ兄弟だ。
本家であるスミオリル家とは決裂状態だという事だったが、リコとニコに交渉に向かってもらった。
交渉にルボミールの名前は出さなかったため難航するかもしれないと思っていたのだが、ニコが居たことが大きかったらしい。本家には今でもΩを大切にする祖先の教えが長く息づいていたそうだ。
事情を知った本家の人々は全力をサポートしてくれるそうで、そこにリコもあたることになり、今はアステリア帝国に残り、本家の者達と共に開発中である。
ネックガードの作成は道筋があったったが、その魔法道具の行使場所が問題である。
ヒートのΩの意思など薄氷よりも薄くもろいから、本人に持たせても無意味。
病院などで外せるようにしたらよいだろうが・・・ここはまだ検討中である。
本当は・・・ネックガードを考えたハカセに作ってもらいたかったが、そんな彼はまだ目を覚まさず仕方がないことだ。
3日後の帰島に合わせて対面での会談を設定したりなど忙しく仕事をこなし、オフラインにしてイヤフォンを置いたところだった。
「もう終わりました?」
唐突に聞こえた声に心臓が止まるかと思った。
如月が異変に気付き瞬時に取り押さえようとし、ダミアンも腰に携えている剣を構えようとしたが、声の主を見てはっとした。
そこには三賢者であるコンラッドが立っていたのである。
☆☆☆
知らせたらすぐに駆け付けようとするのは分かりつつも、知らせなかったときの損害(?)を考え、京はすぐにルボミールに知らせるが、案の定こちらの部屋に来ようとするのを全力っで止めた。
そう思うのは余りのだろうか・・・?
だが、一応に頷いてくれたので今日はコンラッドへ視線を向ける。
悠然とソファーに腰を掛け、さきほどニコが出したミルクティを舌つづみを打って飲んでいる。
コンラッドは先日の司書の格好ではなく、どこかわからない国の服を着ていた。
見た目はモイスと同じく青の民だが、白銀の髪は短く切りそろえられており、その瞳は青く輝いていた。
「コンラッド様。・・・先日ぶりですね」
「えぇ。・・・これ美味しいですね」
「そうですか?・・・もう製造できないものなのですが」
その言葉に眉を顰めるコンラッド。
そんなにこの茶葉を使ったものが良いのだろうか。
「トシマ区で作っていたわけじゃないのです。
あくまでも他の地で生産されたものをトシマ区で売っており、今はトシマ区にあるだけです」
「なるほど。・・・」
「・・・ところで、賢者様は余り民の前に現れないと伺ったのですが」
三賢者の話を聞いたときはこの世界の人間と関係を持たないという人達に、会う事なんて一生無いと思っていたのだが。
「まぁそうですね。
当初は青の国の専属な様なところはありましたけど、特定の国に肩入れするのは良くないですね。
シリルやモイスに私も全員生まれが違うのはそういう理由です。
賢者の出生の国は自分の国も守護をしろというのです。
かつてのアストリアのようにね」
「・・・?」
「あぁ。私は変身して姿を変えているのです。
元々赤の大陸の人間です」
それは聞いたこともない話だった。
博識なクルトに視線を向ければ首を横に振った。
余り知られていない情報であるようだ。
「厚かましいことに自分の国もとたくさん申し出があるのでね。
・・・なので、今久しぶりに大変な勢いで通信が来ていて、シリルがぶちキレていますよ。
まぁ彼は真面目なので、賢者の仕事に1人で集中していますが」
その仕事をコンラッドもモイスもしないことに疑問を持ったが口に出せるわけがない。
・・・彼は3人の中で苦労性の様な気がしてきた。
「あ。守護すると言ったのはモイスだって思いました?」
にっこりと笑みを浮かべる男は、相変わらず目が笑っていない。
「彼に守護してもらってあの島が守られるならありがたい。
・・・彼には今度お詫びする」
好きなものは何だろうか。
失礼だがあの見た目は甘いものが好きそうであるから、今度両方準備して・・・と、思ったがそう言えば連絡手段がなかったのを思い出す。
確か今日はトシマ区のオーガニック(というか添加物が今殆どつくれていないのだが)のスイーツでシフォンケーキがあったはずだ。
「彼は甘いものはお好きだろうか」
そう言いながら如月に視線を送ると、手を付けていないケーキの箱を準備し始めた。
「モイスは甘いものすきですよ」
「いえ、シリル様です。・・・いや、勿論モイスのも準備しますが」
「ふーん。モイスは貴方のために色々しているのに報われないな」
「え?」
「あ。・・・このことは言っては駄目だった」
その声のトーンはとても台詞めいていた。
「・・・、・・・お気遣いは嬉しいのですが」
「そういうのは自分で言ってください。・・・それは預かりますが」
そういってケーキを指さすコンラッド。
すでに2口ほど食べた彼はその味の虜になったようである。
「手土産の方はワンホールあるので3人で召し上がってください。
・・・とは言え、私はモイスと連絡手段がないのです」
ケーキをひとすくいし、口に入れる姿は少年の様だが、年齢は京よりも・・・というか、人類としては考えられないくらい生きている
ここに来るまでは大人の男性の様だったのだが。
「?・・・モイス連絡手段を知らせてないのですか?」
「特には。・・・私に魔力が無いからなのかもしれませんが」
「もしくは小細工をしこむのに忙しいのかもしれませんねぇ」
それは隠し事ではないのだろうか・・・。
京は苦笑を浮かべる。
「ありがとうございます。・・・心得て置きます」
「私はなんのことかわからないですねぇ」
ぱくぱくとフォークの手を進めるコンラッドは、この部屋に来た時の威圧感はすっかり消えていた。
今度からケーキを準備しておこうと思いつつ、京は来訪の理由を尋ねた。
「今日は、・・・なぜ?」
「モイスもシリルも何故貴方を特別視するのか気になったんですよ」
それは京が知りたいところである。
シリルが言っていた通り『運命』でケーシーを連想をさせたのかもしれない。
それを教えてくれたのは嬉しくあるが、三賢者のうちの1人がわざわざ現れたことは驚いた。
「『運命』というのがケーシー様を連想させるのでは?」
「君の前だって何人かいました。
ケーシーが死んでもその後もね」
そういってサファイアの瞳がこちらを見てくる。
まるで京をサーチするようにじっと見てくる。
「なのに何故君にだけはモイスが反応したのか。
・・・復活直後の『運命』だったとか?
夢見が悪かったのか・・・?
でも君は黒毛に黒目で違うと思うんだけど」
「・・・ケーシー様と重ねられても困ります。
私は国民に崇められるような貴族ではないすし、・・・早めに違うと証明したいですね」
だから、京に還れと言うのだろうか。
いくら考えてもわからなくて京は小さくため息をついた。
「・・・。コンラッド様はモイスの指示で動いていたのですか?」
「いいや。面白そうだったから」
京はハカセを救いに行くために動いていたわけで、少しカチンと来てしまったが表面には出さない。
だが、・・・。
「媚びてモイスに媚びるようなゴミだったら排除しようと思ったんだけどね」
その言葉に京は唖然とする。
会話として少しずれを感じていた。
それはモイスやシリルにも感じていた。
だが、このコンラッドだけはまた別の物を感じていたのだが、・・・それは敵意のようだ。
「・・・となると、私は排除されますね」
そういうと、コンラッドの視線が鋭くなる。
「これからトシマ区を守っていくために彼にはケーキ何ホール贈ればいいだろうか」
「ケーキ・・・?そんなものじゃ足りませんよ」
「・・・」
「この世界からαを亡くすのにケーキ一つなんてありえない!」
個数の問題ではないのだが、体の周りがもやもやしている気がする。
その正体が良くわからないまま京は言葉を続ける。
「そんな極端なことは望んでいません。・・・・けど大それたことかもしれません」
「はっきり言ってくれないですかねぇ」
びりびりとするような気配。
直ぐ近くにルボミールが来ている気配も感じている。
普通の思考の持ち主だったら同じに考えるだろう。
「トシマ区の皆が安全に。
そして幸せに暮らせるように。
・・・なんていう願いは大それた願いですよ」
そういうと、コンラッドはじっとこちらを見てくる。
「俺はルルの伴侶になる。だからαを撲滅なんてそんなこと考えない。
けど、島のみんなは守りたいんだ」
この世界でΩは生きづらいから。
せめて自分に助けを求めてきたΩは助けたい。
「・・・。
・・・。
・・・そんな些細なこと、もったいぶって言ってくれないでくれないですかねぇ。
君はこの世界のΩとは違う思考の持ち主だ。
だからこの世界のΩには無理でも君なら出来る。
それこそ、我らがあがいても変えられなかった理を変えられる可能性がある」
「可能性・・・ではなく、変えたいんです」
「なかなか傲慢じゃないか」
「謙虚なんて一言も言ってませんが?」
そういうと、コンラッドはおかしそうに吹き出した。
京は自分のことを1mmも謙虚だなんて思ってない。
謙虚で良識ある人間が王太子であるルボミールの善意に甘えたりしないだろう。
本当に謙虚な人間だったら拒否するはずだ。
だが、京は『良いのか?』と言いつつも喜んで受けていたからである。
「確かにそうだった。・・・モイスに害がなければそれでいい」
「害があることをしないとは限らないです」
「そこはしないって言っておけばいいんじゃないんですか?」
京の訴えにあきれたようにするコンラッド。
「手を上げる気はないです。ただ彼の気にそわず気分を害す可能性は0じゃない」
「・・・。なるほど馬鹿正直なのか。・・・嫌いじゃないですけど?」
そう言うとクスリと笑みを浮かべる男はスクリと立ち上がった。
帰ると言った男は、思い立ったように踵を返し京の前に立つと手のひらに赤い球を置いた。
「それ、とっても大事なもので大切に扱ってくださいね」
「は?・・・ぁ、いえ、・・・あの、」
「フフフ。・・・返却不可です。良い点はいつでも私を呼ぶことが出来るものです」
「一生使うことはなさそうなのでお返しします」
頭の中で『賢者を好きに話しかけることが出来るΩ』が瞬時に浮かび、余計返却したくなる内容で返そうとしたが受け取ってくれなかった。
賢者を好きに扱えるだなんて外部に知られたくはない。
この赤い球がこの世界でどういった意味を持つかはしらないが。
「まぁその球が壊れたら・・・そうですね。ルボミール殿下の所為となりますね」
「はい・・・?」
「貴方は皆に愛される。
貴方を手に入れようとする者がたくさん現れるでしょう。
正直それはどうでもよかったですが、・・・事情が変わりました。
精々彼に守ってもらい、その球を大事にするんです。
賢者殺しにならないようにね」
賢者と言うのは身勝手極まり無い者なのだろうか。
勝手に来てなにか爆弾を置いていく。
京が名前を呼んでもコンラッドはほほ笑むだけで、結局その場を去ってしまった。
☆☆☆
呆然と先ほどまでいた場所を見ていると、ガチャリと扉を開いた音がしてルボミールが専用の通路を使い入室してきた。
京は困惑していると、京の手のひらの上の赤い球を見て苦い顔をした後、後ろのダンを見る。
「本物でしょう」
「・・・はぁ」
その2人の会話が余計に不安になった。
けど、捨てろとは言わなかったから、京はその球を大切に身近に置いた。
次の日朝。
枕元には緑の玉と青い球が増えていて絶句した。
「る・・・ルルっ」
昨晩のうちに教えてくれなかったからあきらめていたのだが、こうなっては話は別だ。
いつもは起こしたりはしないのだが、咄嗟に隣で寝ているルボミールを起こす。
眠気眼でハッとしているルボミールに悪いと思いつつ言葉をつづけた。
「球が・・・!青いのと緑のが増えてる・・・!」
「!?」
その言葉に覚醒したルボミールはハッとして体を起こす。
そして京の手のひらにある球を暫く凝視しして、盛大にため息をついた。
「っ・・・あの、」
「!・・・違う。キョウの所為じゃないから安心してほしい」
「でも」
「悪いのは賢者様方だ。・・・話した限り想いは違うようだが、・・・どちらかというと俺を困らせたいのだろう」
「どういう意味だ・・・?」
京が持ってルボミールを困るというのが良くわからない。
そう尋ねたが苦笑を浮かべるだけだった。
「・・・どうせなら俺のを持たせたかったが、そこまで魔力はないなからな」
「魔力が無いと、・・・この球は作れないのか」
「あぁ。・・・でも、キョウにはこれを意識しないでほしい」
京の声が残念そうに潜まれたことに苦笑をして頬を撫でながら球の方を指さす。
本当は持たせたくはないのだろうが、三賢者のものとなれば別なのだろう。
だが、欲しがっている自分にハッとした。
いつも与えてもらってばかりだ・・・
そう思うと、言葉を飲んだ。
自分の出来る範囲で・・・と、思っていたがルボミールに対してそれしかできていないのだ。
「賢者様方には申し訳ないが、・・・俺が一番に考えているのはルルだけだ」
勿論、モイスがトシマ区の後ろ盾になってくれのは助かる。
けれどそういう事ではないのだ。
俺ができなかったこと、・・・か。
それは一つしかない。
京はガーネットに輝く瞳を見つめる。
そして、喉まで出かけたが・・・京はそれ以上を言う事は無かった。
この流れで言いたいことではなかったからなのだが・・・。
あれ?・・・俺、・・・そう言えば・・・・
これまでの自分を思い直して唖然とする京だった。
┬┬┬
甘さ少な目。。。
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行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
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