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No.5 ファーストコンタクト
しおりを挟む餓鬼討伐の2日前、満月の夜だった。博物館からホンドギツネの剥製が無くなった。
内側から展示ガラスは破られ、館外の庭園と面する窓ガラスも破られていた。あたかも剥製が自ら意思を持って動き出したように。
カチッカチッ‥‥‥
静寂に包まれた庭園を四足歩行の動物がコンクリートと爪が擦れる音を立てながら闊歩している。
「上手くいったようですね♪玄次郎♪」
うさ耳男の宇佐美が庭園灯に照らされ、姿を現した。
おれは木常玄次郎。
422年前の合戦から『時越(じえつ)』して来た。
目的は子孫:木常京子の与力の為。
瀕死状態だったせいか、身体は時越するに至らず。
子孫に接触するにも身体が無いと何かと不便だ。うさ耳男の提案により、依代を探し、剥製だったキツネの身体を手に入れた。
初めは犬猫に取り入ろうとしたが、思念波長が合わないと、同化は上手くいかぬようだ。
しかし、剥製は思念が無いので取り入るのは容易だ。
気を抜くと身体が硬直してしまうが、妖術:軟体化を駆使すれば、動くには問題ない。
(上手くいったようだ。して、これからどうする?)
「今日はもう遅いので、明日出直しましょう♪」
(待て。そもそも、おれの子孫への”依頼”とは何なのだ?おぬしの力を使えば、容易く済む話では無いのか?)
「それが出来たらココにいませんよ♪では、依頼の概要だけお伝えしておきましょう♪」
木常京子に言い渡された依頼とは『竹取カグヤ』という人物を月へ帰す事だ。
元々、カグヤは月の王族だが、一族の不始末により地球へ流刑され、日本にいた過去がある。一度は刑期を終え、月へ帰還したが
2012年‥‥再び日本で姿を現した。
カグヤは高い科学力を武器に、日本のみならず世界を‥‥地球を征服しようとしている。
そう睨んだ月の王はカグヤを月へと連れ戻す為、幾度となく使者を地球へ送り、カグヤの説得を試みた。
しかし、その甲斐なく、使者はことごとく撃退され続けた。
事態を重く見た月の王は、カグヤを強制的に月へ帰還させる為の部隊編成を行う。隊に任命された宇佐美は、手始めに『天の羽衣』を探した。
(その『天の羽衣』をおれの子孫が持っていると?)
「羽衣は、都内某所にある木常家に保管されています♪なぜ木常家にあるのかは不明ですが、平安時代中期、カグヤ様と玉藻前との間に何らかの繋がりがあったのでしょう♪」
カグヤと御先祖様が‥‥‥?
(カグヤの齢はいくつだ、不老不死なのか?)
玄次郎は後ろ足で首を掻いた。
「寿命という概念は、科学力で如何様にできます♪」
(カガクリョク‥‥‥一体どんな力なのだ‥‥‥)
「文明の叡智ですよ♪『天の羽衣』が持つ力については、明日実物を確認してからお教えします♪待ち合わせ場所は大丈夫ですね?」
(あぁ‥‥‥おれは暫し、夜回りさせてもらう)
「あまり人目につかないようにして下さいね♪キツネが人里で闊歩しているような時代ではないので♪」
うさ耳男は手を振ると、眩い光を放ちながら消えてしまった。
(彼奴の使う力も、カガクリョクの類なのだろうか)
‥‥‥‥‥
この時代、至る所に村人がいた。
人里は何処も明るく、鋼の箱が車輪を付けて走り回っている。
村人は一枚の鉄板を手に持ち、しきりに指でなぞっては、耳に当てたりして独り言を垂れている。
(うつけ者だらけよのぅ‥‥‥)
玄次郎は辺りを興味深く観察しながら歩いた。文字は読めるものと、そうで無いものが溢れている。
地面は固く、土の香りは一切しない。
(この辺りは大きい屋敷で溢れかえっておるな)
夜だというのに、強い灯りで目が霞む。400年やそこらで、村人の暮らしはこうも変わるものなのであろうか。
「見て見てー!あれキツネじゃなーい!?可愛い!ウケる~~」
「やめとけよ、やばい病気持ってるかもよ?」
派手な服装をした男女が、玄次郎を指を差し、嘲笑った。
(女子も男子も、妙な匂いがする。キツネと同化したせいか、鼻が利くようになったのかもしれぬな)
身体を置いてきて正解だったかもしれぬ、思念体には飲み食いは不要だ。ただ、正直申すと、あの《きつねうどん》という食べ物は気になる‥‥‥
野うさぎや、野鳥を狩ったことはあるが、流石にキツネは食う気になれん。刻を幾つ重ねても尚、人々の残虐性は衰えを知らぬようだ。
玄次郎はふと立ち止まると、頭を垂らした。
助六は無事だろうか、キヨは心配してるであろうな。三郎‥‥我が子を一度で良いから抱いてみたかった。
黒いアスファルトで舗装された歩道は、澱んだ土色に見える。玄次郎は歩みを止め、東の空を見上げると、太陽が登り始めていた。見上げたビルが日の光を吸収し、佇んでいる。
(さて‥‥‥子孫の顔を、拝みに参るとしよう!)
尻尾を翻すと、再び街中へと歩みを進めた。
‥‥‥
‥‥‥‥
ピリリリーッ ピリリリー‥‥ピ‥‥‥
何よ、もう朝‥‥‥?
「ダルい、飲みすぎた‥‥‥」
女はハスキーボイスを唸らせると、スマホのアラームを止めた。
腕を引き伸ばし、大きく欠伸をすると、身支度の為に一階へと降りた。
あたしは木常京子。
22歳、独身彼氏無し。金無し。
職業:古美術商(自称)
昨年亡くなった、お爺ちゃんの自宅兼お店『木常骨董店』に住み着く、最低の無職だ。
何が最低だって?
お店の商品の価値も分からず、ポンポン売りに出しちゃってるから。
お爺ちゃんがこの惨状を見たら何て言うかなぁ。
両親は田舎で仲良く暮らしてるよ。
都会に出てきたのは、お爺ちゃんの家を管理するだけじゃないんだ。
地元じゃ、札付きの悪《ワル》のレッテルを貼られ、物心ついた頃から”悪”の中心にいた。
なんか、”負の力”を引き寄せちゃうって感じ?
『悪』といっても、周りが『正義』という物差しで測った、他愛も無い指標だけどね。
問題は良かれと思っても、悪い方向へ物事が進んでしまう事。高校を卒業して仕事に就いても、不幸が重なってクビになる始末。
親にも友人にも沢山迷惑をかけてきた。
就活の為に上京して、早2年‥‥‥
あっという間だった‥‥‥
だって、ここの暮らし、楽なんだも~~ん!
難癖付ける者もいなければ、叱ってくる者もいない。このままじゃいけない、とは思ってはいるけどね。
「ゴロゴロゴロッ、ベーーっ!あぁ気持ち悪いぃーー‥‥‥」
歯磨きを終えると、簡単に化粧と身だしなみを整えた。接客業を営む上での、最低限のマナーだった。
少し大きめのアッパッパーなワインレッドワンピースに、黒い革ジャンを羽織る。
窮屈な格好は嫌いだった。
「おはようございまーーーす!!」
お客など、そうそう入るものじゃない。
そう思いながらも元気よく声を上げ、お店のシャッターを開けるよ。今は亡き、おじいちゃんのルーティーンだったからね。
(おぬしが京子か)
ん?今誰かに話しかけられた、ような‥‥‥?
京子は辺りを見回した。
「おはようございます♪今日は昨日よりも遅い開店でしたね♪」
宇佐美が持ち前の”うさ耳”をヘコヘコさせながら駆け寄ってきた。
うわぁ~、昨日来た【コスプレ兄ちゃん】だ‥‥‥そういえば”また来る”って言ってたな。
「えぇ、ちょっと立て込んでまして‥‥‥ははは」
「入っても良いですか♪」
うさ耳男は目が無くなるくらいの笑顔を振りまいた。
「もちろんです!!見てって下さい!」
うさ耳男を店内に入れると京子はドアを閉めた。
と思ったが、閉まらない。
何だ?壊れたか?
「‥‥‥おりゃ!‥‥‥せいや!」
何度もドアを開閉した。
(おい!‥‥‥こら!‥‥‥やめぬか!)
え??今、声が聴こえた気が‥‥‥
京子は恐る恐るドアの下部を見ると、1匹のキツネがドアに挟まり、恨めしそうにこちらを睨んでいた。
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