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No.4 木常京子
しおりを挟む何だここは?
妙な格好をした村人で溢れておる。むむ?
玄次郎は不思議と清々しい気分だった。さっきまで瀕死状態だったのに、身体の痛みも消えていたのだ。
「玄次郎ぉー♪どこにいますかー♪」
うさ耳男が辺りを見回している。
此奴め、おれに気づいておらぬのか?
(おい、うさ耳!)
頭上のうさ耳が反応すると、宇佐美が振り返った。
「えーっと‥‥‥玄次郎、ですよね♪」
(何をとぼけておる。ここは未来なのか?)
「2022年の日本です♪【時越(じえつ)】は成功しました♪‥‥ただ、一つ忘れ物をしたようです♪」
(二度もおぬしの”腕回し”に付き合う気にはなれん!また眠ってしまうぞ)
「”時越”は心体を【時空跳躍する技術】です♪どうやら、あなたは身体を戦場に置いて来てしまったみたいですね♪」
身体‥‥‥おれの身体はどこだ‥‥‥?
玄次郎は自分の身体が存在しない事に気づいた。自分の手を探したが、目に入ったのは硬そうな建造物や見た事の無い乗り物。見慣れない服装をした人々しか見当たらなかった。
(おれは死んだのか。あの状況だ‥‥‥是非もない)
「必ずしもそうとは言えません♪時越の最中に気を失ってしまった為、かもしませんね♪ただ、魂だけが時越するのは非常に稀なケースです♪」
(さすれば、おれは霊体となってしまったわけか)
「少し違うかもしれません♪私は霊感などないですが、あなたを”感じる”事ができます♪《思念体》と言う方が正しいと思います♪」
《思念体とは‥‥‥》
肉体を持たないが、他者として、何らかの方法でコミュニケーションが取れる存在の事を言うらしい。
確かに身体は存在せぬが、五感はあるようだ。
煙たい空気、耳障りな音、硬い地面。
先の日の本とは、こんなにも煩わしいものなのか。
(‥‥‥して、これからどうするのだ?おれの子孫に会いに行くというのか?)
「そうしたい所ですが‥‥‥私もこれ以上、人々の視線に耐えられません♪まずは、あなたの【依代】となる”モノ”を探しに行きましょう♪」
商店街を行き交う人々は、大声で独り言を話す宇佐美を指差し、顔を背け嘲笑っていた。
‥‥‥‥‥
その夜、とある博物館で動物の剥製が一体消えた。
翌朝、異変に気がついた学芸員が警察に連絡し、現場検証が行われる事になる。
博物館の防犯カメラが、ある動物の剥製が息を吹き返したように動き出した様子を捉えていた。展示ガラスは内側から破られていたのだ。警察は混乱を防ぐ為、メディア等への発信は控えるよう、博物館側と話をつけた。
‥‥‥
‥‥‥‥
博物館の怪奇事件から2日後の夕暮れ時。
足取り重く、歩みを進める少年がいた。
私利私欲がうごめく大都会。
ビル群のお膝元には、歓楽街が密着している。
そんな風景には似合わない少年が、予備校を目指して歩いていた。
「はぁ~‥‥‥」面倒臭いなぁ~。
僕は小野マサル、中学三年生。
受験勉強に勤しむ、ごく普通の学生だ。
パパは医学博士、ママは弁護士、はたから見れば
エリートだけど、僕はごく普通の学生だ。
頭が良いわけでも、運動ができるわけでも
絵が上手い訳でも無い。
日々、親戚からの期待で押しつぶされそうになる。
将来は医者?弁護士?
興味なんてあるわけない。ただ僕は‥‥
普通に楽して人生を終える事が出来れば良いんだ。
《木常、木常はどこだ‥‥‥探せ‥‥‥》
んだよ、また変な声が聞こえる。
「キツネって何だよ、知らないよ!」
マサルは耳を塞ぎ、下を向いて歩いていると、硬い”何か”とぶつかってしまった。
次の瞬間、建物に囲まれた青空を見上げていた。
「ってーな!どこ見てんだガキ!」
高圧的な男がマサルの顔を覗き込んだ。
「おい、よせよ可哀想だろ。ボク?ちょっとこっち来てくれるかい?」
冷徹な男が、倒れているマサルの手を取った。
男2人に言われるがまま、マサルは路地裏へと連れて行かれてしまった。
‥‥‥‥
3人は入り組んだ路地裏を進んで行くと、やがて寂しい袋小路に行き着いた。
こんな世の中、どうにでもなってしまえばいい。
「これで、許してください」
マサルはポケットから財布を出した。
こいつら、先生が言ってた”学生狩り”の連中なんだろうな‥‥‥どうせ、金が目当てだろ?
じゃなければ、こんな目下の中学生に因縁をつける訳が無い。それを見越して、サブの財布をいつも持ち歩いているんだ。
「おーおー!良い根性してるねー!」
「ねぇ、もっと持ってるよね?」
高圧的な男と、冷徹な男はマサルに詰め寄った。
こいつらは、僕から根こそぎ金を奪いたいらしい。
「すみません、それしか、無いです」
「嘘つくんじゃねーーー!」
高圧的な男が声を張り上げると、僕の頭を叩いた。
「まぁまぁ、可哀想だろ?‥‥‥もっとあるよね?」
冷徹な男は僕の腕をつねった。
痛い、何でこんな事するんだよ‥‥‥
「下手に出てりゃ良い気になりやがって、それしかねぇ~よ!弱い者イジメして楽しい?みっともない事してんじゃねーよ!」
こんな世の中、どうにでもなってしまえばいい。
視野が反転した。殴られたんだな。痛い‥‥‥
おっと、今度は腹を蹴られたか?
今にも吐きそうだ。もっとやれ‥‥
僕をその気にさせろ。
「このガキ‥‥効いてないのか!?」
「笑ってやがる‥‥‥」
『何だ、もう終わりか?次は僕の番だな!』
マサルの頭から細長いツノが生えていた。
黒い瘴気を纏った手を伸ばすと、高圧的な男の首を掴んだ。その腕は中学生の物と思えない程、太く隆起した腕だ。
体が地上から浮き上がると、口から泡を吹き、高圧的な男は気を失ってしまった。
「ば、ばっ、化け物ーーーー!!」
冷徹な男が逃げ出すと、マサルは舌をゴムのように伸ばし、足を掴んで転がした。
『ひょっひょ、ほっひひてふれるかい?』
舌に引きづられるうちに、冷徹な男は気を失った。
『なんだ、つまんないのー。‥‥‥じゃあこんなゴミ共殺しちゃおっと♪』
弧を描くように、太い腕を振り上げた時。しゃがれた女声が耳に入った。
「ちょっと坊っちゃん、やり過ぎじゃない?」
マサルは腕を下ろすと、後方を振り向いた。
「確かにそいつらはクズだけど、そいつらの御先祖様は、誰かを救ったかも知れないでしょ?」
『この妖気‥‥その風貌‥‥お前、木常だなーー!?』
マサルは袋小路の狭いビル間を、配管ダクトを伝って駆け登ると、女に襲いかかろうと距離を取った。
「アッハッハーー!!クソ餓鬼がーーッ!!」
女が高笑いをすると、変わり映えしなかった指から鋭利な爪が飛び出した。
二人が交錯した瞬間、マサルの細長いツノが折れた。長い舌は切り刻まれると、身体は木の実が落ちるように、地面へと叩きつけられた。
『き、木常‥‥‥』
「期待はプレッシャーだよね。だけど、あんたの両親、悪い人じゃないと思うよ」
そう言うと、女はマサルの喉を切り裂いた。
『が、ぐぎぎ、ぐ~‥‥カグヤさ‥‥ま』
中学三年生の頭から小鬼が姿を現すと、不快なノイズと共に消えていった。
気を失っている少年の傷は消えている。
(これで二体目。順調だな、京子)
女の背後から一匹のキツネが歩み寄ってきた。
「幽鬼:餓鬼。確か、天の邪鬼の類。この子の邪念と同化していたようね」
女は落ちていた親指サイズの小さな勾玉を、革ジャンの内ポケットにしまった。餓鬼が消える際、落とした物のようだ。
(まだ先は長い、覚悟しておけ)
キツネはマサルの匂いを嗅いでいた。
「わかってるよ。この木常京子に任せな、玄次郎!」
京子の目が妖魔の如く、赤く変色した。
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