18 / 140
31日目
しおりを挟む
近衛になって十日目。
私は相も変わらず、城内に釘付けだった。城下への道は遠い。
ただ、生活の場が学術塔から親衛塔へ移った。と言っても、寝泊まりは学術塔のままなのだけれど。近衛には私しか女がいないため、そこのところの配慮の結果だ。
いまだ仕事はさせてもらえず。ひたすら武術ーー主に剣の修練のみ。師団長は即戦力を希望していただろうに、反って仕事を増やしてしまっている。すみません。
「畜生っ!」
カクカが喚いた。
本当、うるさいねお前は。嫌いじゃないけど。そういう素直なところ。
今しがた行った模擬戦で、ついに私はカクカを打ち負かした。それで騒いでいるのだ。
白雪が、すごすぎる。
当然だけど、私は剣を握ったことなどなかった。十日前、初めて手にした。
対するカクカは、一年先輩。負ければ悔しいのは当然である。
だけど、ね?
素質というか、造りが違う。
白雪の身体はスポンジが水分を吸うかのごとく、教わった型すべてを瞬く間に吸収していった。考えたくはないけれど、ノーツは優秀な刺客としてあるよう、この身体を完成させたのだろう。
「なんなんだよ?お前!可愛くねえ!」
「まあ、まあ。実戦では敵わないから…」
「は?なんだって、シロ?同情なんかいらねえぞ!」
「違うって」
これは本当。実戦では勝てない。何故なら私には覚悟が無いから。自慢じゃないけど平々凡々、幸せに平和ボケしてここまで来たのだ。他人に傷を負わせるなんて、怖すぎる。
…だけど。
これからは、そんなことは言っていられない。近衛としてあるならば。
「シロ?」
急に黙り込んだものだからカクカが前屈みになって、訝しげにこちらを覗き込んできた。彼は近衛の中にあっては小柄な方だけど、白雪はそれより更に小さい。
「…まだまだ、未熟だね。私たちは」
これ以上なんと言ったものか分からなくなって、とりあえず苦笑いでそう言った。
「おう。あったり前だ!」
カクカは破顔した。擦れてなくて可愛い。
「主上のようになるには程遠いな。あの人は…本当にすごいね。王様があんなに強いなんて、驚いたよ」
ふと、刺客を倒した時の主上の姿が浮かび、口をついで出る。するとカクカが目を丸くした。
「は?本気で言ってんのか?それともボケてんのか?それこそ、あったり前だろ。元は近衛の連隊長だぞ?時期師団長と、いわれてたんだぞ!?」
「……誰が?」
「陛下が」
「えええええっ!?」
「ええって?知らなかったのか?……って、そうか。おまけ記憶がないんだっけ」
「う、え?いや、それより、なんで近衛が王様?血筋?」
「は?なに言ってんだ?なんでってそんなもん、占者がそう言ったからに決まってる」
「は?せ、占者?」
そう声をひっくり返らせた私は、多分すごく間抜けな顔をしていたと思う。
ごめん、白雪。
✢
困った時のアケイル頼み。夜になって彼の研究室へ、詳しい話を聞きに行った。
驚愕の事実その二に行き当たった。
なんとここでは、王を託宣によって決めるらしい。
それでただの近衛兵が王様に。
嘘でしょう?ーーなどと親衛塔内で騒げるわけもなく。その場では質問を飲み込んだのだ。
だけど、そう考えるとあれこれ合点がいく。主上の王様らしくないところとか。何故、謀反で占者の暗殺となるのかとか。
どうも『占者』というのは、かなり特別な存在であるようだ。大昔の神子のような、そんな感じなのかな?
王は占者が選出する。ではその他は?
執政官は現職が後任指名。ただし、最終決定権は占者。
軍の人選は王とそれぞれの長で。技術塔、学術塔の人選もこれに同じ。けれどこれらも、しばしば占者の意見有り。
もう占者の意見が、無い人事が無い。そして肝心の占者だがーー
これが世襲制。
「もう占者が王でよくありませんか?」
思わず訴えた。
「それは無理ですよ。占者は吉凶を視る者であり、政を行う者ではありませんから」
訴えられ、アケイルさんは苦笑する。
「でも、その政を実行する者は占者が選ぶ。影響力は絶大ですよね」
「だから血筋、なんですよ。彼らは私情で人を選出しない。ただ『視えたまま』で決定する。『視える』のは、能力を受け継ぐ者だけ」
…それで、主上なのか。
それは、上手い手なのかもしれない。
人の決定事項というのは、必ずどこからか反対意見というものが生じる。だけど託宣ならば、誰もケチのつけようがない。というより、仕方がないと諦めて受け入れる。それが決まりとなっているならば、大半は。でもなあ…。
「はい。それを良しとしない者、変えようとする者はいつでもいます」
納得しかねる私の表情に、アケイルさんは更に苦笑した。
「それが、今回の謀反計画?」
「占者制度に疑問を抱く者は少なくありません。急な廃止とまではいかなくても、権限を縮小すべきだという意見が、常に持ち上がっています」
「けれど変わらず、今に至っている?」
「実際、上手くいっていますから。占者の人選に落ち度はない」
「なのに縮小、ひいては廃止?上手くいっているなら、それで良さそうなものだけど。常にですか?」
「占者の決定は、現状では絶対ですから。更なる向上を求める者には、やはり…ね」
……ああ、そうか。
今より上の地位を求めても、それ以上のものにはなれないのだ。託宣でその役目が最良と言われたばかりに。野心家にはたまらんな。
お告げだから受け入れる。だけどお告げであるがゆえに納得できない。
占者の決定は努力の、発展の終焉。人の向上心を殺すーー極端な言い方をすれば。
「だからといって、今回の謀反計画が許されるわけではありません」
アケイルさんの口調が変わった。珍しい。とても怒っている。
「アケイルさん?」
「占者ファンスランスには、もう会いましたか?」
「え?いいえ。まだです」
「そうですか。近衛に、それも陛下の直属班に籍があるのなら、そのうち会えるでしょう」
主上の直属班?
初耳だ。まさかフィル班が、そんなところであったとは。
それにしても、占者ファンスランスね…。
お偉い人というのは苦手だな。別に会えなくてもいいと思う。
私は相も変わらず、城内に釘付けだった。城下への道は遠い。
ただ、生活の場が学術塔から親衛塔へ移った。と言っても、寝泊まりは学術塔のままなのだけれど。近衛には私しか女がいないため、そこのところの配慮の結果だ。
いまだ仕事はさせてもらえず。ひたすら武術ーー主に剣の修練のみ。師団長は即戦力を希望していただろうに、反って仕事を増やしてしまっている。すみません。
「畜生っ!」
カクカが喚いた。
本当、うるさいねお前は。嫌いじゃないけど。そういう素直なところ。
今しがた行った模擬戦で、ついに私はカクカを打ち負かした。それで騒いでいるのだ。
白雪が、すごすぎる。
当然だけど、私は剣を握ったことなどなかった。十日前、初めて手にした。
対するカクカは、一年先輩。負ければ悔しいのは当然である。
だけど、ね?
素質というか、造りが違う。
白雪の身体はスポンジが水分を吸うかのごとく、教わった型すべてを瞬く間に吸収していった。考えたくはないけれど、ノーツは優秀な刺客としてあるよう、この身体を完成させたのだろう。
「なんなんだよ?お前!可愛くねえ!」
「まあ、まあ。実戦では敵わないから…」
「は?なんだって、シロ?同情なんかいらねえぞ!」
「違うって」
これは本当。実戦では勝てない。何故なら私には覚悟が無いから。自慢じゃないけど平々凡々、幸せに平和ボケしてここまで来たのだ。他人に傷を負わせるなんて、怖すぎる。
…だけど。
これからは、そんなことは言っていられない。近衛としてあるならば。
「シロ?」
急に黙り込んだものだからカクカが前屈みになって、訝しげにこちらを覗き込んできた。彼は近衛の中にあっては小柄な方だけど、白雪はそれより更に小さい。
「…まだまだ、未熟だね。私たちは」
これ以上なんと言ったものか分からなくなって、とりあえず苦笑いでそう言った。
「おう。あったり前だ!」
カクカは破顔した。擦れてなくて可愛い。
「主上のようになるには程遠いな。あの人は…本当にすごいね。王様があんなに強いなんて、驚いたよ」
ふと、刺客を倒した時の主上の姿が浮かび、口をついで出る。するとカクカが目を丸くした。
「は?本気で言ってんのか?それともボケてんのか?それこそ、あったり前だろ。元は近衛の連隊長だぞ?時期師団長と、いわれてたんだぞ!?」
「……誰が?」
「陛下が」
「えええええっ!?」
「ええって?知らなかったのか?……って、そうか。おまけ記憶がないんだっけ」
「う、え?いや、それより、なんで近衛が王様?血筋?」
「は?なに言ってんだ?なんでってそんなもん、占者がそう言ったからに決まってる」
「は?せ、占者?」
そう声をひっくり返らせた私は、多分すごく間抜けな顔をしていたと思う。
ごめん、白雪。
✢
困った時のアケイル頼み。夜になって彼の研究室へ、詳しい話を聞きに行った。
驚愕の事実その二に行き当たった。
なんとここでは、王を託宣によって決めるらしい。
それでただの近衛兵が王様に。
嘘でしょう?ーーなどと親衛塔内で騒げるわけもなく。その場では質問を飲み込んだのだ。
だけど、そう考えるとあれこれ合点がいく。主上の王様らしくないところとか。何故、謀反で占者の暗殺となるのかとか。
どうも『占者』というのは、かなり特別な存在であるようだ。大昔の神子のような、そんな感じなのかな?
王は占者が選出する。ではその他は?
執政官は現職が後任指名。ただし、最終決定権は占者。
軍の人選は王とそれぞれの長で。技術塔、学術塔の人選もこれに同じ。けれどこれらも、しばしば占者の意見有り。
もう占者の意見が、無い人事が無い。そして肝心の占者だがーー
これが世襲制。
「もう占者が王でよくありませんか?」
思わず訴えた。
「それは無理ですよ。占者は吉凶を視る者であり、政を行う者ではありませんから」
訴えられ、アケイルさんは苦笑する。
「でも、その政を実行する者は占者が選ぶ。影響力は絶大ですよね」
「だから血筋、なんですよ。彼らは私情で人を選出しない。ただ『視えたまま』で決定する。『視える』のは、能力を受け継ぐ者だけ」
…それで、主上なのか。
それは、上手い手なのかもしれない。
人の決定事項というのは、必ずどこからか反対意見というものが生じる。だけど託宣ならば、誰もケチのつけようがない。というより、仕方がないと諦めて受け入れる。それが決まりとなっているならば、大半は。でもなあ…。
「はい。それを良しとしない者、変えようとする者はいつでもいます」
納得しかねる私の表情に、アケイルさんは更に苦笑した。
「それが、今回の謀反計画?」
「占者制度に疑問を抱く者は少なくありません。急な廃止とまではいかなくても、権限を縮小すべきだという意見が、常に持ち上がっています」
「けれど変わらず、今に至っている?」
「実際、上手くいっていますから。占者の人選に落ち度はない」
「なのに縮小、ひいては廃止?上手くいっているなら、それで良さそうなものだけど。常にですか?」
「占者の決定は、現状では絶対ですから。更なる向上を求める者には、やはり…ね」
……ああ、そうか。
今より上の地位を求めても、それ以上のものにはなれないのだ。託宣でその役目が最良と言われたばかりに。野心家にはたまらんな。
お告げだから受け入れる。だけどお告げであるがゆえに納得できない。
占者の決定は努力の、発展の終焉。人の向上心を殺すーー極端な言い方をすれば。
「だからといって、今回の謀反計画が許されるわけではありません」
アケイルさんの口調が変わった。珍しい。とても怒っている。
「アケイルさん?」
「占者ファンスランスには、もう会いましたか?」
「え?いいえ。まだです」
「そうですか。近衛に、それも陛下の直属班に籍があるのなら、そのうち会えるでしょう」
主上の直属班?
初耳だ。まさかフィル班が、そんなところであったとは。
それにしても、占者ファンスランスね…。
お偉い人というのは苦手だな。別に会えなくてもいいと思う。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる