白雪日記

ふたあい

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31日目

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 近衛になって十日目。

 私は相も変わらず、城内に釘付けだった。城下への道は遠い。
 ただ、生活の場が学術塔から親衛塔へ移った。と言っても、寝泊まりは学術塔のままなのだけれど。近衛には私しか女がいないため、そこのところの配慮の結果だ。
 いまだ仕事はさせてもらえず。ひたすら武術ーー主に剣の修練のみ。師団長は即戦力を希望していただろうに、反って仕事を増やしてしまっている。すみません。

「畜生っ!」

 カクカが喚いた。
 本当、うるさいねお前は。嫌いじゃないけど。そういう素直なところ。
 今しがた行った模擬戦で、ついに私はカクカを打ち負かした。それで騒いでいるのだ。

 白雪が、すごすぎる。

 当然だけど、私は剣を握ったことなどなかった。十日前、初めて手にした。
 対するカクカは、一年先輩。負ければ悔しいのは当然である。

 だけど、ね?

 素質というか、造りが違う。
 白雪の身体はスポンジが水分を吸うかのごとく、教わった型すべてを瞬く間に吸収していった。考えたくはないけれど、ノーツは優秀な刺客としてあるよう、この身体を完成させたのだろう。

「なんなんだよ?お前!可愛くねえ!」
「まあ、まあ。実戦では敵わないから…」
「は?なんだって、シロ?同情なんかいらねえぞ!」
「違うって」

 これは本当。実戦では勝てない。何故なら私には覚悟が無いから。自慢じゃないけど平々凡々、幸せに平和ボケしてここまで来たのだ。他人に傷を負わせるなんて、怖すぎる。

 …だけど。

 これからは、そんなことは言っていられない。近衛としてあるならば。

「シロ?」
 急に黙り込んだものだからカクカが前屈みになって、訝しげにこちらを覗き込んできた。彼は近衛の中にあっては小柄な方だけど、白雪はそれより更に小さい。
「…まだまだ、未熟だね。私たちは」
 これ以上なんと言ったものか分からなくなって、とりあえず苦笑いでそう言った。
「おう。あったり前だ!」
 カクカは破顔した。擦れてなくて可愛い。
「主上のようになるには程遠いな。あの人は…本当にすごいね。王様があんなに強いなんて、驚いたよ」
 ふと、刺客を倒した時の主上の姿が浮かび、口をついで出る。するとカクカが目を丸くした。
「は?本気で言ってんのか?それともボケてんのか?それこそ、あったり前だろ。元は近衛の連隊長だぞ?時期師団長と、いわれてたんだぞ!?」
「……誰が?」
「陛下が」
「えええええっ!?」
「ええって?知らなかったのか?……って、そうか。おまけ記憶がないんだっけ」
「う、え?いや、それより、なんで近衛が王様?血筋?」
「は?なに言ってんだ?なんでってそんなもん、占者がそう言ったからに決まってる」
「は?せ、占者?」
 そう声をひっくり返らせた私は、多分すごく間抜けな顔をしていたと思う。
 ごめん、白雪。

   ✢

 困った時のアケイル頼み。夜になって彼の研究室へ、詳しい話を聞きに行った。

 驚愕の事実その二に行き当たった。

 なんとここでは、王を託宣によって決めるらしい。

 それで近衛兵が王様に。
 嘘でしょう?ーーなどと親衛塔内で騒げるわけもなく。その場では質問を飲み込んだのだ。
 だけど、そう考えるとあれこれ合点がいく。主上の王様らしくないところとか。何故、謀反で占者の暗殺となるのかとか。
 どうも『占者』というのは、かなり特別な存在であるようだ。大昔の神子のような、そんな感じなのかな?

 王は占者が選出する。ではその他は?

 執政官は現職が後任指名。ただし、最終決定権は占者。
 軍の人選は王とそれぞれの長で。技術塔、学術塔の人選もこれに同じ。けれどこれらも、しばしば占者の意見有り。

 もう占者の意見が、無い人事が無い。そして肝心の占者だがーー

 これが世襲制。

「もう占者が王でよくありませんか?」
 思わず訴えた。
「それは無理ですよ。占者は吉凶を視る者であり、政を行う者ではありませんから」
 訴えられ、アケイルさんは苦笑する。
「でも、その政を実行する者は占者が選ぶ。影響力は絶大ですよね」
「だから血筋、なんですよ。彼らは私情で人を選出しない。ただ『視えたまま』で決定する。『視える』のは、能力を受け継ぐ者だけ」

 …それで、主上なのか。

 それは、上手い手なのかもしれない。
 人の決定事項というのは、必ずどこからか反対意見というものが生じる。だけど託宣ならば、誰もケチのつけようがない。というより、仕方がないと諦めて受け入れる。それが決まりとなっているならば、大半は。でもなあ…。

「はい。それを良しとしない者、変えようとする者はいつでもいます」
 納得しかねる私の表情に、アケイルさんは更に苦笑した。
「それが、今回の謀反計画?」
「占者制度に疑問を抱く者は少なくありません。急な廃止とまではいかなくても、権限を縮小すべきだという意見が、常に持ち上がっています」
「けれど変わらず、今に至っている?」
「実際、上手くいっていますから。占者の人選に落ち度はない」
「なのに縮小、ひいては廃止?上手くいっているなら、それで良さそうなものだけど。常にですか?」
「占者の決定は、現状では絶対ですから。更なる向上を求める者には、やはり…ね」

 ……ああ、そうか。

 今より上の地位を求めても、それ以上のものにはなれないのだ。託宣でその役目が最良と言われたばかりに。野心家にはたまらんな。
 お告げだから受け入れる。だけどお告げであるがゆえに納得できない。

 占者の決定は努力の、発展の終焉。人の向上心を殺すーー極端な言い方をすれば。

「だからといって、今回の謀反計画が許されるわけではありません」
 アケイルさんの口調が変わった。珍しい。とても怒っている。
「アケイルさん?」
「占者ファンスランスには、もう会いましたか?」
「え?いいえ。まだです」
「そうですか。近衛に、それも陛下の直属班に籍があるのなら、そのうち会えるでしょう」

 主上の直属班?

 初耳だ。まさかフィル班が、そんなところであったとは。
 それにしても、占者ファンスランスね…。

 お偉い人というのは苦手だな。別に会えなくてもいいと思う。
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