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34日目(1)
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三日ぶりに主上が、親衛塔に顔を見せた。
私のことで無理を押し切ったため、方々収めるのが大変だったようだ。申し訳ないとは思うが、私にはどうすることもできないので黙っておいた。
その代わりと言ってはなんだけれど。ノーツの研究記録のことで意見してみよう。言いそびれたままなのも、気持ち悪い。
そして、言ってみたらばーー
「ノーツの研究記録は、無い?」
顔をしかめられてしまった。あの主上?あくまで私の思い付きですからね?
「私見ですがーー」
「馬鹿な!術師が研究記録を残さないなど、あり得ない。式術はそんな単純なものではない」
何故そう思ったかを話そうとすると、主上の隣で聞いていたフィルが話に割って入ってきた。
フィルらしくないと思った。
変にムキになるのも、こんな形で話の途中に割り込むのも。
まあ確かに、何日も捜し回っているものが、端からないなんて信じ難いか。
「何故そう思う?」
主上の方はいたって冷静。フィルの声を片手を上げて制し、確認してきた。
「主上はノーツを天才だと言っていましたし、カクカはメモ書き一つ見つからないと。ならば、すべてを記憶することが可能で、記録など取っていないのでは?」
生前ならこんなこと、絶対思いつかない。でも今は白雪の中に在って、実際に私自身覚え書きというものを一切必要としない。その気になれば、いつでも思い出せるから。
アケイルさんは白雪を、普通の十代の女の子と変わらないと言った。違うのは潜在能力の引き出し量だと。
特殊能力ではないのだ。完全記憶は白雪以外にも、十分当てはまる能力だ。そういう人は稀にいたと思う。
「飛躍し過ぎではないか?」
「ですからあくまで私見、と。でも…」
「お前の勘は、存在しないと言っている。そうだな?」
「はい」
「そんなはず…」
フィルは納得しかねている。そうだな。これは「私」というより、「白雪」の勘にすぎない。根拠と言い切れるほどのものは、なにもない。
「…………。さて、どうする?フィル?」
主上がフィルを見て問うた。
なに?前半の妙な間は?引っかかるものを感じるのですが?
「どう……ですか?そうですね。勘で動くわけにはいきません。引き続き捜索します」
訊かれたフィルも戸惑っている?確かに。こんな訊き方、あまり主上はしない気がする。
今日は二人とも、なんか変。
「うむ、そうだな。しかし…本当にないとなると厄介だな。フルルクスになんと言われるか…」
主上が再び渋い顔になる。
フルルクス?なに?ノーツの研究記録は、爺様ご所望なの?
なんとはなしに、主上を見上げた。するとーー
「ん?こちらの事情だ。お前は気にしなくていい。今はまだ、な」
なんとはなしに、返された。私、なにも口に出して訊いてませんよ?
勘の良い王様だなあ。
✢
午後になって、ついに念願の城下へ出た。
ノーツの交友関係を洗い直すため、城下にある学術院へ出向くという名目で。
しかし。
ノーツには、洗い直すほどの交友関係が存在しなかった。彼は自身の持つ高慢で不遜な態度をフル活用して、人を全く寄せ付けない学生時代を送っていたのだ。
要するに、嫌われ者だった、と。だろうな。容易に想像がつくというもの。
そのため時間が余った。いや、始めからそのつもりで送り出されていた。学院へは、一度は足を運んでいるらしいから。初めて街に出る私への、フィルの計らいである。
「行こうぜ、シロ。案内してやる」
一緒に来ていたカクカが、張り切って言った。
「お願いします」
苦笑する。せっかく一日で乗馬をマスターしたというのに。今日は馬が不要な近場ばかり。だけど、そんなことは気にならない。
ようやくのーー街見物だ。
城の様子からある程度、予想はしていた。古き良き時代の、西洋の街。
まるでエキストラ込みの、映画のセットのようだ。綺麗な石畳に煉瓦造りの建物、行き交う馬車、市場に街灯。どこを切り取っても、絵葉書になりそう。もちろん、それだけだはないのだろうけど。そこは、追々でいい。
沢山の人が目に映る。
全体的に、色素の薄い西洋系が多そうに見える。だけど、一概にそうであるとは言い難い。どちらかといえば多種多様?多民族国なのだろうか?
あれはなんだろう?
お上りさん状態で大通りを歩いていると、通る先々の建物に銀のプレートが貼り付けられているのが目に付いた。三、四十センチ四方くらいで、それほど大きくはない。大体、一階と二階の間の高さで壁の隅、目立たないところに貼られている。
最初は看板か表札かなと思って眺めていたのだけれど、どうも違う。よく見ると、プレートには術式が書かれていた。それも私の記憶に、かからない類の。
つまり、錬金、召喚術ではないということだ。なんだろう?非常に気になる。
気になるなら訊けばいい。幸い、気安い相手が案内だ。
「カクカ、あのプレートはなに?」
指差しながら、聞いてみた。
「なにって…。街灯に決まってんだろ?お前、早く記憶を取り戻した方がいいぞ?」
うわ。目を見開いた後、思い切り気の毒そうに見られてしまった。そんなに変なことを訊いた?
でも街灯って?あのプレートが?では、あそこの道端に立っている、街灯のような形状のあの柱はなんだ?
これは…。解ってはいたけれど、知らないというのは結構難ありである。
この先面倒を起こさないためにも、もう少しここでの知識は必要だろう。そう思い図書館が在るか確認して、案内してほしいと希望してみた。
「図書館?」
「そう。図書館」
「ああ、そういや。塔で本読みふけってるって、陛下が言ってたな。本、好きなのか?仕様がねえな。苦手な場所だけど、案内してやるよ。あそこ行くと、何故か周りの奴に睨まれるんだよな」
案内役を仰せつかっていた同僚は、ぶつくさとこぼしながら了承する。
…だろうな。こんな地声の大きな奴、図書館で歓迎されるはずがない。
私のことで無理を押し切ったため、方々収めるのが大変だったようだ。申し訳ないとは思うが、私にはどうすることもできないので黙っておいた。
その代わりと言ってはなんだけれど。ノーツの研究記録のことで意見してみよう。言いそびれたままなのも、気持ち悪い。
そして、言ってみたらばーー
「ノーツの研究記録は、無い?」
顔をしかめられてしまった。あの主上?あくまで私の思い付きですからね?
「私見ですがーー」
「馬鹿な!術師が研究記録を残さないなど、あり得ない。式術はそんな単純なものではない」
何故そう思ったかを話そうとすると、主上の隣で聞いていたフィルが話に割って入ってきた。
フィルらしくないと思った。
変にムキになるのも、こんな形で話の途中に割り込むのも。
まあ確かに、何日も捜し回っているものが、端からないなんて信じ難いか。
「何故そう思う?」
主上の方はいたって冷静。フィルの声を片手を上げて制し、確認してきた。
「主上はノーツを天才だと言っていましたし、カクカはメモ書き一つ見つからないと。ならば、すべてを記憶することが可能で、記録など取っていないのでは?」
生前ならこんなこと、絶対思いつかない。でも今は白雪の中に在って、実際に私自身覚え書きというものを一切必要としない。その気になれば、いつでも思い出せるから。
アケイルさんは白雪を、普通の十代の女の子と変わらないと言った。違うのは潜在能力の引き出し量だと。
特殊能力ではないのだ。完全記憶は白雪以外にも、十分当てはまる能力だ。そういう人は稀にいたと思う。
「飛躍し過ぎではないか?」
「ですからあくまで私見、と。でも…」
「お前の勘は、存在しないと言っている。そうだな?」
「はい」
「そんなはず…」
フィルは納得しかねている。そうだな。これは「私」というより、「白雪」の勘にすぎない。根拠と言い切れるほどのものは、なにもない。
「…………。さて、どうする?フィル?」
主上がフィルを見て問うた。
なに?前半の妙な間は?引っかかるものを感じるのですが?
「どう……ですか?そうですね。勘で動くわけにはいきません。引き続き捜索します」
訊かれたフィルも戸惑っている?確かに。こんな訊き方、あまり主上はしない気がする。
今日は二人とも、なんか変。
「うむ、そうだな。しかし…本当にないとなると厄介だな。フルルクスになんと言われるか…」
主上が再び渋い顔になる。
フルルクス?なに?ノーツの研究記録は、爺様ご所望なの?
なんとはなしに、主上を見上げた。するとーー
「ん?こちらの事情だ。お前は気にしなくていい。今はまだ、な」
なんとはなしに、返された。私、なにも口に出して訊いてませんよ?
勘の良い王様だなあ。
✢
午後になって、ついに念願の城下へ出た。
ノーツの交友関係を洗い直すため、城下にある学術院へ出向くという名目で。
しかし。
ノーツには、洗い直すほどの交友関係が存在しなかった。彼は自身の持つ高慢で不遜な態度をフル活用して、人を全く寄せ付けない学生時代を送っていたのだ。
要するに、嫌われ者だった、と。だろうな。容易に想像がつくというもの。
そのため時間が余った。いや、始めからそのつもりで送り出されていた。学院へは、一度は足を運んでいるらしいから。初めて街に出る私への、フィルの計らいである。
「行こうぜ、シロ。案内してやる」
一緒に来ていたカクカが、張り切って言った。
「お願いします」
苦笑する。せっかく一日で乗馬をマスターしたというのに。今日は馬が不要な近場ばかり。だけど、そんなことは気にならない。
ようやくのーー街見物だ。
城の様子からある程度、予想はしていた。古き良き時代の、西洋の街。
まるでエキストラ込みの、映画のセットのようだ。綺麗な石畳に煉瓦造りの建物、行き交う馬車、市場に街灯。どこを切り取っても、絵葉書になりそう。もちろん、それだけだはないのだろうけど。そこは、追々でいい。
沢山の人が目に映る。
全体的に、色素の薄い西洋系が多そうに見える。だけど、一概にそうであるとは言い難い。どちらかといえば多種多様?多民族国なのだろうか?
あれはなんだろう?
お上りさん状態で大通りを歩いていると、通る先々の建物に銀のプレートが貼り付けられているのが目に付いた。三、四十センチ四方くらいで、それほど大きくはない。大体、一階と二階の間の高さで壁の隅、目立たないところに貼られている。
最初は看板か表札かなと思って眺めていたのだけれど、どうも違う。よく見ると、プレートには術式が書かれていた。それも私の記憶に、かからない類の。
つまり、錬金、召喚術ではないということだ。なんだろう?非常に気になる。
気になるなら訊けばいい。幸い、気安い相手が案内だ。
「カクカ、あのプレートはなに?」
指差しながら、聞いてみた。
「なにって…。街灯に決まってんだろ?お前、早く記憶を取り戻した方がいいぞ?」
うわ。目を見開いた後、思い切り気の毒そうに見られてしまった。そんなに変なことを訊いた?
でも街灯って?あのプレートが?では、あそこの道端に立っている、街灯のような形状のあの柱はなんだ?
これは…。解ってはいたけれど、知らないというのは結構難ありである。
この先面倒を起こさないためにも、もう少しここでの知識は必要だろう。そう思い図書館が在るか確認して、案内してほしいと希望してみた。
「図書館?」
「そう。図書館」
「ああ、そういや。塔で本読みふけってるって、陛下が言ってたな。本、好きなのか?仕様がねえな。苦手な場所だけど、案内してやるよ。あそこ行くと、何故か周りの奴に睨まれるんだよな」
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