白雪日記

ふたあい

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34日目(2)

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 王立図書館を出てすぐに、見知った人物の姿をこの目が捉えた。さすが白雪。人ごみの中でも視界良好とは。
 とにかく行こう。早くここから離れたい。まさかカクカと図書館が、あれほど相性が悪いとは。奴が声を出すたびに、周りから睨まれるんだもんな。お陰でじっくり、本を開くことができなかったよ。とほほ。
 お許しが出るようなら、今度は一人で来よう。

「レヴン班長!」

 カクカが叫んだ。私が「通り向こうに、レヴン班長が見える」と言うやいなやだ。
 すると図書館で浮きまくりだったその声は、ずいぶん離れた場所にいたギィ・レヴンに、しっかりと届いた。
 ギィがこちらへ向けてやって来る。
 ……人間拡声器。そんな言葉が思い浮かんだ。失笑。

 それにしても。

 おかしなものだ。こんな、初めて歩いた街中ででも、知人と出くわすのだから。そう呼べる相手なんて、数えるほどしかいないというのに。
 カクカの声で注目を浴びるのもなんのその、私たちの元へ来たギィは朗らかに言った。私を見て。
「実はもう一か所、寄るところがあるんだが、一緒に来ないか?」
 ん?ちょっと意味深長?時間はまだ大丈夫だったので、ついて行くことにする。

 そうして着いた先はーー

 中を窺える大きな窓のある、小さな建物。その窓の向こうに見えるのは…これは!そして、中に入る前から漂ってくる、この甘い匂いは!

 ケーキだ!!

「ここって…」
「つい最近開店したっていう、菓子屋っすね」
 やっぱりついてきたカクカが、目を丸くする。上官であるギィに対し、一応外では敬語であるようだ。
「なかなかに評判でな。ファンスランスがどうしても、ここのが食いたいって言うんだよ。で、まあついでに、シロにも奢ってやろうと思ったわけだ。入隊祝いってことで。好きだろ?女のコは甘いもの」

 なんだって!?

「え?ええ?いいんですか?」
 訊かれるまでもない。甘いもの大好き。私の中で、ギィの評価はアップした。かなり。現金なことよ。
「お、嬉しそうだな。あまり表情の変わらない奴だと思っていたが、そういう顔もちゃんとできるようだな」
 ギィが笑う。
 はい。食べ物には弱いです。否定はしません。我ながら意地汚いというか、単純というか。

 今、すごく緩んだ顔をしているんだろうな私。

 ウキウキと店の扉を開ける。木製の可愛い看板が扉の横に掛かっていて、目に付いた。『砂糖の雫』。店名も甘くて美味しそう。

 中に入ると、そこは楽園?壺中天?

 パイにクッキー、パウンドケーキ。フルーツケーキにマドレーヌ。ああ、久しぶり。こんなところで、こんなお菓子に出会えるなんて、生きてて良かった。

 少し前まで潔く死のうとしていたのに、呆れた台詞である。

「シロ…。幸せそうだな、お前」
 カクカも呆れている。
 なんとでも言ってくれ。今、盆と正月が一度に来た気分なのだから。

 ああ、でも生菓子が無いな。焼き菓子ばかり。

 ざっと店内を見渡して思った。クリームものの作り置きは、無理なのかな?ここには冷蔵庫なんてなさそうだし。どちらかといえば、パン屋の様相に近い。

 キョロキョロする私に、ギィが声をかけてきた。
「シロ、好きなの選んでいいぞ。なに食いたい?」
「本当にいいんですか?」
「遠慮するな。お前より、給料もらってる身だ」
「あ、そんじゃ俺、こっちのフルーツケーキ」
 何故かカクカが返事する。
「カクカ、お前には言ってない。しかも、一番高いモン選びやがって」
 やっぱり上官を上官と思わぬ言動だな。それだけギィとは、気心知れた間柄ってことなんだろうけど。

 だけど私も人のことは言えない。すでに奢ってもらう気満々だ。

 しばらく考えた末、アップルパイに決めた。ギィに声をかける。
「アップルパイか。分かった」
 占者の分の菓子をトレイに山程盛っていたギィが、私の言葉に振り向き言った。

 と、次の瞬間ーー

 ギィは驚いた顔をしたかと思うと、手にしたトレイを手放した。

「ええっ?うわっ」
 思わず声を上げると同時、体が反応した。

 間一髪、間に合った。
 ギィの手から落下しかけたトレイを、受け止めていた。乗っかっていた山盛りの菓子を、一つも落とすことなく。

 さすが白雪。反射神経、バランス、ともに並ではない。

 しかし一体どうしたことだ?
 呆然とするギィの視線の先を追うと、店内に備え付けてあるカウンターの向こうに、やはり驚いた顔の女の人が立ちすくんでいた。

「ギィ・レヴン?」
 女性が呟く。
「アールクレイ…」
 ギィの声は、掠れていた。
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