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54日目(1)
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夕べのあれは、なんだったのだろう?
フンモコ飼育場に落ちた流れ星。まとわりついた、光る綿あめ。所属不明の『雫』なるものを探す人たち。すべてが謎だ。
だけど、ひしひしと嫌な予感だけはする。正体不明の人たちは、流れ星の光を追ってきたよう。そして光は、私が吸収する形で消えた。…これ以上は考えたくない。
「どうした?」
主上が、本を手に黙考する私の顔を覗き込んだ。うわっ!?びっくりした。いきなり驚かさないでください。
手にした錬金術書を、落としそうになる。ヒマに任せて、頁捲りを再開したのだ。
「主上、どうしたんですか?今日は早いですね?」
就業の鐘がついさっき鳴ったばかりの時間だ。この時間に主上が学術塔、それも図書室に姿を見せるのは珍しい。
通常なら、私はこの時間には親衛塔へいなくてはならないのだけれど、カクカの一件以来、待機を命じられここにいる。
「待機命令を取り消しに来た。今日から戻れ。仕事だ」
「え?でも、城から出られないのでは…」
「城内での仕事が発生した。それに、そろそろ帰ってこいとの声も上がっている」
「帰って…?カクカですか?」
「だけではない。アウラや他の連中もだ」
「え?そんな、まさか?皆、私を疑っていたはずなのに?」
どういうことだ?
「それはとっくに片が付いている。カクカは折れず、お前が喧嘩に割って入り蹴散らした。それで終わりだ」
「はい?」
「暗黙の了解ってのか?伝統とかしきたりと言う方が、解りやすいか?」
「え…それは?」
主上がグッと拳を付き出す。
「譲れないことは、拳で決着する。近衛のルールだ」
「は?拳?はああ?それじゃ…あの喧嘩は…」
「まあ、一種のレクリエーションみたいなもんだな」
なんだってー!?
道理でフィルがのほほんと構えていたわけだ。あの時の、私の涙を返せーっ!
そんな、ぽかんと開いた口の塞がらない私に、主上が微笑む。
「よくやったシロ。お前は渦中に迷わず飛び込んだ。しかも見事に一矢報いた。アウラたちに負けを認めさせたのはお前だ」
「そ…そうなんですか?夢中で、あの時はなにがなんだか…。カクカの状態も酷かったし…」
「ああ。少し白熱しすぎたみたいだな。あれでは仕事に差し支える。ま、だからフィルは学術塔に連れて行った。たとえ一対全員の喧嘩だとしても、内輪揉めである限り休ませる気はないからな。それもまた暗黙のルールだ」
……鬼だ。私に野郎の集団は、一生かけても理解できないだろう。
✢
「おっせーぞ」
「何日休む気だ」
「いよっ、元気か?」
「まあ、頑張れ」
「ふん。仕方ねえな」
「さっさと仕事しろ」
以上。親衛塔に来るなり、ぶつけられた言葉たちでした。
前から順に、ササ、レバンタ、オークラック、ベル、アウラ、レストだ。記憶再生。うん。見事にあの喧嘩の際、私が殴り、蹴倒した面々だ。そうか。六人もいたか。
「次は絶対勝つ!」
カクカが顔を合わすなり、大声出しながら指を突きつけた。相変わらずだな。ほっとしたよ。
「いや、私の方が弱いし」
「うわ。お前、とことん可愛くねえ!なんだよ、結局テメエの実力でねじ伏せやがったくせに。どうせ俺はボコられただけだよ」
いや、皆が私を認めた理由の大半は、力でねじ伏せたからではなく、逃げずに突っ込んでカクカを連れ出したことに因ると思うんだけど。
「ソイツは馬鹿だ。気にするな」
アウラが言う。
「なにを!?」
カクカが一段と声を大きくした。もう、うるさいって。
約二週間ぶりの親衛塔は、賑やかだった。
それが以前よりも、居心地良く感じられる。カクカに感謝だ。そんな、こちらの気も知らないで、当の本人はむくれまくっているけれど。
「シロ、来たな。早速だが、城内で厄介事が起こった。お前にも仕事を頼む」
騒いでいると、そう言いながらフィルが来た。久しぶり。まいったなあ。鼓動がどんどん速くなって、息苦しさを感じるほどだ。頼むよ白雪、落ち着いて。深呼吸……あ、本当に落ち着いた。
「厄介事って?またなにか、あったんですか?」
「大ありだ。夕べ技術塔裏付近で確認された『星の雫』が消失した。現在の警備状況から、それが外に持ち出された確率は低い。城内を捜せ、それが任務だ」
「星の……『雫』?」
私が青ざめたのは、言うまでもない。
フンモコ飼育場に落ちた流れ星。まとわりついた、光る綿あめ。所属不明の『雫』なるものを探す人たち。すべてが謎だ。
だけど、ひしひしと嫌な予感だけはする。正体不明の人たちは、流れ星の光を追ってきたよう。そして光は、私が吸収する形で消えた。…これ以上は考えたくない。
「どうした?」
主上が、本を手に黙考する私の顔を覗き込んだ。うわっ!?びっくりした。いきなり驚かさないでください。
手にした錬金術書を、落としそうになる。ヒマに任せて、頁捲りを再開したのだ。
「主上、どうしたんですか?今日は早いですね?」
就業の鐘がついさっき鳴ったばかりの時間だ。この時間に主上が学術塔、それも図書室に姿を見せるのは珍しい。
通常なら、私はこの時間には親衛塔へいなくてはならないのだけれど、カクカの一件以来、待機を命じられここにいる。
「待機命令を取り消しに来た。今日から戻れ。仕事だ」
「え?でも、城から出られないのでは…」
「城内での仕事が発生した。それに、そろそろ帰ってこいとの声も上がっている」
「帰って…?カクカですか?」
「だけではない。アウラや他の連中もだ」
「え?そんな、まさか?皆、私を疑っていたはずなのに?」
どういうことだ?
「それはとっくに片が付いている。カクカは折れず、お前が喧嘩に割って入り蹴散らした。それで終わりだ」
「はい?」
「暗黙の了解ってのか?伝統とかしきたりと言う方が、解りやすいか?」
「え…それは?」
主上がグッと拳を付き出す。
「譲れないことは、拳で決着する。近衛のルールだ」
「は?拳?はああ?それじゃ…あの喧嘩は…」
「まあ、一種のレクリエーションみたいなもんだな」
なんだってー!?
道理でフィルがのほほんと構えていたわけだ。あの時の、私の涙を返せーっ!
そんな、ぽかんと開いた口の塞がらない私に、主上が微笑む。
「よくやったシロ。お前は渦中に迷わず飛び込んだ。しかも見事に一矢報いた。アウラたちに負けを認めさせたのはお前だ」
「そ…そうなんですか?夢中で、あの時はなにがなんだか…。カクカの状態も酷かったし…」
「ああ。少し白熱しすぎたみたいだな。あれでは仕事に差し支える。ま、だからフィルは学術塔に連れて行った。たとえ一対全員の喧嘩だとしても、内輪揉めである限り休ませる気はないからな。それもまた暗黙のルールだ」
……鬼だ。私に野郎の集団は、一生かけても理解できないだろう。
✢
「おっせーぞ」
「何日休む気だ」
「いよっ、元気か?」
「まあ、頑張れ」
「ふん。仕方ねえな」
「さっさと仕事しろ」
以上。親衛塔に来るなり、ぶつけられた言葉たちでした。
前から順に、ササ、レバンタ、オークラック、ベル、アウラ、レストだ。記憶再生。うん。見事にあの喧嘩の際、私が殴り、蹴倒した面々だ。そうか。六人もいたか。
「次は絶対勝つ!」
カクカが顔を合わすなり、大声出しながら指を突きつけた。相変わらずだな。ほっとしたよ。
「いや、私の方が弱いし」
「うわ。お前、とことん可愛くねえ!なんだよ、結局テメエの実力でねじ伏せやがったくせに。どうせ俺はボコられただけだよ」
いや、皆が私を認めた理由の大半は、力でねじ伏せたからではなく、逃げずに突っ込んでカクカを連れ出したことに因ると思うんだけど。
「ソイツは馬鹿だ。気にするな」
アウラが言う。
「なにを!?」
カクカが一段と声を大きくした。もう、うるさいって。
約二週間ぶりの親衛塔は、賑やかだった。
それが以前よりも、居心地良く感じられる。カクカに感謝だ。そんな、こちらの気も知らないで、当の本人はむくれまくっているけれど。
「シロ、来たな。早速だが、城内で厄介事が起こった。お前にも仕事を頼む」
騒いでいると、そう言いながらフィルが来た。久しぶり。まいったなあ。鼓動がどんどん速くなって、息苦しさを感じるほどだ。頼むよ白雪、落ち着いて。深呼吸……あ、本当に落ち着いた。
「厄介事って?またなにか、あったんですか?」
「大ありだ。夕べ技術塔裏付近で確認された『星の雫』が消失した。現在の警備状況から、それが外に持ち出された確率は低い。城内を捜せ、それが任務だ」
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私が青ざめたのは、言うまでもない。
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