白雪日記

ふたあい

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60日目

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 アランサは可愛い。

 子供の苦手な私でさえ、アランサは可愛いと思う。懐かれたので余計にだ。
 本当に、子供らしい子供。そんな子供を暗殺なんて。あの傲慢錬金術師め、絶対捕まえて身の潔白を晴らしてやる。

 見てろよ!

 決意新たに、ザックリと皿に盛られた肉に、フォークを突き刺した。親衛塔の食堂のご飯は、文句なく美味しい。
 今日のメインは豚肉だ。一度、厨房にズラリとぶら下がる圧巻の光景を目の当たりにしたことがあるのだけれど、ここの豚は揃いも揃ってブチ模様。それも集団で駆けてゆく画が真っ先に思い浮かぶ、あのワンコそっくりの。…こっそり、ダルメ豚と名付けておいた。
 そんなダルメ豚をパクリと一口。美味しい。この香草は私好みで、塩加減もいい感じ。だけど、味噌味で食べたいなあ。

「チッ。イライラするぜ」

 隣でカクカの舌打ちが聞こえた。その向かい側、今日は腰を落ち着けているフィルは、黙々と食べている。返答は私の向かいで、病的に青い付け合せの菜っ葉をフォークに刺したギィがした。
「ノーツの足取りはまったく掴めず、か。これだから召喚術師って奴は嫌なんだよ」
 フルルクスの爺様が聞いたら、厚さ十センチくらいの本を飛ばしてきそうな台詞だ。
「なんだよ?アイツ錬金術師なんだろ?召喚術にまで、手を出してんじゃねえよ」

 カクカがバンッと、テーブルを叩く。瞬間、テーブル上の皿が浮いた。

 もう。行儀悪いな。大体、コイツは食ってる時に喋りすぎ。会話が弾むのは結構だが、食べ物が入った状態で口を開くな。ちゃんと飲み込んでからにしろ。

 だけど、カクカのイライラは理解できる。

 錬金術師ディルモア・ノーツ。二十六年前、学術院在学中に錬金術師の称号取得。現在、四十二歳。自他ともに認める天才。性格、極めて悪し。
 六年前に不法に金を生成、発覚して称号剥奪。以後不明。突如、三年前に王都近辺に研究室を得る。
 以上がノーツの略歴だが、不明の部分が多すぎる。

「あれだけ近隣の住人に怪しまれるような奴、目立つはずなんだけどな?ガッサ班長、諜報班からなにか情報来てないっすか?」
「ないな」
「これまでは確たる証拠もなく、捕まったところで言い逃れもできただろうが、今はシロという証人がいる。いくら奴が高慢ちきの紙一重馬鹿でも、もう軽率には動かんだろうさ」

 信号機トリオの食事会議は、行き詰まりだ。やれやれ、頭が痛い。耳をそばだてている周りの連中も、これといった進展を得られない状況に、どこか苛立ちを見せ始めている。

 親衛塔内の空気は、どんよりだ。

「畜生!やってらんねえ!あ~、暴れてえっ」
 カクカか再び、ひときわ大きくダンッと、テーブルを叩いた。拍子に私のスープカップが倒れる。幸い中身は空だったのだけれど、カクカの叫びに合わせて、「まったくだ」、「俺も」、「クソっ」などと、そこら中でテーブルを蹴ったり叩いたりする音が響いたものだから、いい加減私の我慢も限界を超えた。
 食ってる最中に、テーブルを揺らすんじゃない!大きな音を立てるな!暴れるなら後にしろ!
 この間の喧嘩といい、ここの野郎どもときたら…。

 私だって苛ついているのだ。一言、言ってやらねば気が収まらない。

「カクカ。もう少し、静かに食べて」
 悲しいかな小市民。気持ちとは裏腹に、控えめな注意となってしまった。だというのにーー
「ああ?なんだよシロ。母親みたいなこと言って。お前は俺の、お袋かっての?大体お前は、あれこれババ臭いんだよ」
 カクカは思いっきり噛み付いてきた。むか。

 そうだよ。中身はそれで通る年の差だよ。悪いか?口が裂けても言わないけどね!

 でもやっぱり、腹立つわ。うん。

「……食い方の汚い男は、ここ一番で振られる確率が高い」

 ぼそりと。小さく呟いてやった。するとーー

 ピタリ、という効果音が聴こえてきそうなほど、辺り一面静まり返った。
 目線だけで周囲を確認すると、皆さり気なさを装って居住まいを正している。

 フッ。勝った!
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