39 / 140
74日目(2)
しおりを挟む
何故、この部屋なのだろう?
「今夜はここに泊まれ」と言った爺様の案内してくれた部屋は、あきらかに誰かの私室だった。
客室くらいあるだろうに。何故この部屋?他に布団がないからとか?そうだとして…この部屋の主は、今夜は不在なのだろうか?
ざっと見回す。
机周りに積まれた本は、主に式術関連のもの。錬金、召喚、白黒魔と、すべてのジャンルが入り乱れている。部屋の主は、ずいぶん勉強家のようだ。
他にも気になる置物や、なにに使うのか解らない器具らしきものが乱雑に、棚に机にテーブルに置いてあるのだけど、手にとって見る気にはならなかった。
最後にベッドを見る。
どう見ても、今朝起きてそのままという状態。
ここに寝ろって?
抵抗しかない。嫌だ。でも、休めるところが他にない。椅子に座って一晩明かすのもなあ……ええい!ベッドの隅で丸まってしまおう。
我ながら、細やかさに欠けている。そう思うも僅かの間。他人様のベッドだというのに、すぐに意識はなくなった。呆れた話である。そして次に気付いた時にはーー
深夜の鐘の音が、聞こえた気がした。
カタッ。
側でなにか、物音もした…?ぼんやりと思ったところでーー
「うぐっ」
思わず呻く。
なにかが私の上に、乗ってきた?しかも、ものすごく重い。
なんだ?なにが起こった?って、あれ?いつの間にか寝てた?しかもご丁寧に、頭から布団まで被っている。
冷えたのだろうか?だけど、そのせいでなにも見えない。
寝ぼけながらノロノロと、可能な範囲で必死に頭を働かせる。
更に呻いてもぞもぞしていると、私を押しつぶしていたそのなにかが動いた。その直後ーー
「おい、誰だ!?人のベッドで寝るとは、いい度胸してやがんな」
低く響く怒声が布団の向こうから発せられ、ハッとした。
ようやく、ちゃんと覚醒。
「すっすみません!」
「ああ?」
視界が開ける。掛け布団をずらす手、その先に男の顔があった。あれ?
「おい、ガキ。お前は何故、ここにいる?」
男は私に覆いかぶさった状態のまま、訊いてきた。重い。まず、どけて。
「…フル……ルクスさんに…今夜は泊まっていけ……と」
だから重いんだって。早く私の上から降りてくれ。
「はああ?あのジジイ、なに言ってくれてんだ、ああ?勝手なことしやがって。テメエも、ハイそうですかと、泊まってんじゃねえっ」
人の顔に唾を飛ばしながらそう喚いて、ようやく男は私の上から降りてくれた。
ずいぶん、ガラの悪い男だ。
近衛の男どもが上品に思えてくるほどだ。いや城という場所柄、彼らは本当に品が良い無類に違いない。
「で?ジジイが泊まれと言ったとして、なんで俺の部屋にいやがる?」
ベッド脇に腰掛け、男は私を睨みつける。
主上と同年代といったところか。バンダナ風に頭を覆った布で眉が隠れているところに、三白眼なものだから人相の悪さが際立っている。おまけに口も悪い。
だけどこの人、誰かに似てる…。
「この部屋を使えと、案内されたんです」
「なにぃ?」
だから睨まないで。本当なんです。
刺さるような視線に耐えかねた私は、ままよと経緯を捲し立てた。爺様に連れてこられたこと、夕飯時の会話、すべて余さず。
それを聞いた男の反応は早かった。
「……テメエ、例のホムンクルスか」
あ、勘がいい。というか、この人もやっぱり、私の存在を知っていたか。
「はい。そうです」
「嘘だろ?どえらい美少女と聞いてたってのに、ただのガキじゃねえか」
「はあ、すみません」
本当に、白雪にすまないと思った。しかし、とんでもなく口が悪い男である。
「チッ。あのジジイ…俺に押し付けやがった」
ガリガリと頭を掻きながら舌打ちする男を、改めて見る。やっぱり、誰かに似ている。誰に……
あっ、そうか。
爺様だ。フルルクスの爺様にそっくりなんだこの人。爺様を若くすると、丁度こんな感じになるのでは?と、いうことは。
この男は爺様の身内。息子か、孫ってとこか?
「あの、フルルクスさんの身内の方ですよね?この部屋は貴方の部屋だったんですね。すみません、勝手に使ったりして」
とにかく、人の部屋だと分かっていたのに使ったのだ。侘びておこう。
「前半ハズレ。後半の言葉は受け取っとく。この部屋以外ならどこを使っても構わねえから、とっとと出ていけ」
清々しいほどに、傍若無人な物言いだな。遠慮するのが馬鹿らしくなってきた。
「いろいろ、気になるんですけど?」
「テメエには関係ねえ」
「本当に?フルルクスさんがこの部屋に私を通したのって、貴方に話を聞けってことなのでは?」
「ジジイの意図なんか知るかよ」
「そんなこと言わないでください。困ってるんです。今日のことは、意味が解らなすぎるんです!」
「うるせえ奴だな。……ま、そうなるわな」
「同意するなら、話してください!洗いざらい!なにか知ってるんでしょう?」
「……急に強気になりやがったな」
男がガリガリと、再び頭を掻く。
「話してくださいっ」
ずいっと、前のめりになる。
「……チッ。長えぞ?」
「望むところです」
「上等だ。まず先に名乗っとく。俺の名は、フルルクス・シン」
「え?爺様と同じ名前?ということは…二世?三世?でも身内ではないって、さっき……」
「ああ、違う。本人だ。俺とジジイは同一人物ってヤツだ」
…確かに、長くなりそうだ。
「今夜はここに泊まれ」と言った爺様の案内してくれた部屋は、あきらかに誰かの私室だった。
客室くらいあるだろうに。何故この部屋?他に布団がないからとか?そうだとして…この部屋の主は、今夜は不在なのだろうか?
ざっと見回す。
机周りに積まれた本は、主に式術関連のもの。錬金、召喚、白黒魔と、すべてのジャンルが入り乱れている。部屋の主は、ずいぶん勉強家のようだ。
他にも気になる置物や、なにに使うのか解らない器具らしきものが乱雑に、棚に机にテーブルに置いてあるのだけど、手にとって見る気にはならなかった。
最後にベッドを見る。
どう見ても、今朝起きてそのままという状態。
ここに寝ろって?
抵抗しかない。嫌だ。でも、休めるところが他にない。椅子に座って一晩明かすのもなあ……ええい!ベッドの隅で丸まってしまおう。
我ながら、細やかさに欠けている。そう思うも僅かの間。他人様のベッドだというのに、すぐに意識はなくなった。呆れた話である。そして次に気付いた時にはーー
深夜の鐘の音が、聞こえた気がした。
カタッ。
側でなにか、物音もした…?ぼんやりと思ったところでーー
「うぐっ」
思わず呻く。
なにかが私の上に、乗ってきた?しかも、ものすごく重い。
なんだ?なにが起こった?って、あれ?いつの間にか寝てた?しかもご丁寧に、頭から布団まで被っている。
冷えたのだろうか?だけど、そのせいでなにも見えない。
寝ぼけながらノロノロと、可能な範囲で必死に頭を働かせる。
更に呻いてもぞもぞしていると、私を押しつぶしていたそのなにかが動いた。その直後ーー
「おい、誰だ!?人のベッドで寝るとは、いい度胸してやがんな」
低く響く怒声が布団の向こうから発せられ、ハッとした。
ようやく、ちゃんと覚醒。
「すっすみません!」
「ああ?」
視界が開ける。掛け布団をずらす手、その先に男の顔があった。あれ?
「おい、ガキ。お前は何故、ここにいる?」
男は私に覆いかぶさった状態のまま、訊いてきた。重い。まず、どけて。
「…フル……ルクスさんに…今夜は泊まっていけ……と」
だから重いんだって。早く私の上から降りてくれ。
「はああ?あのジジイ、なに言ってくれてんだ、ああ?勝手なことしやがって。テメエも、ハイそうですかと、泊まってんじゃねえっ」
人の顔に唾を飛ばしながらそう喚いて、ようやく男は私の上から降りてくれた。
ずいぶん、ガラの悪い男だ。
近衛の男どもが上品に思えてくるほどだ。いや城という場所柄、彼らは本当に品が良い無類に違いない。
「で?ジジイが泊まれと言ったとして、なんで俺の部屋にいやがる?」
ベッド脇に腰掛け、男は私を睨みつける。
主上と同年代といったところか。バンダナ風に頭を覆った布で眉が隠れているところに、三白眼なものだから人相の悪さが際立っている。おまけに口も悪い。
だけどこの人、誰かに似てる…。
「この部屋を使えと、案内されたんです」
「なにぃ?」
だから睨まないで。本当なんです。
刺さるような視線に耐えかねた私は、ままよと経緯を捲し立てた。爺様に連れてこられたこと、夕飯時の会話、すべて余さず。
それを聞いた男の反応は早かった。
「……テメエ、例のホムンクルスか」
あ、勘がいい。というか、この人もやっぱり、私の存在を知っていたか。
「はい。そうです」
「嘘だろ?どえらい美少女と聞いてたってのに、ただのガキじゃねえか」
「はあ、すみません」
本当に、白雪にすまないと思った。しかし、とんでもなく口が悪い男である。
「チッ。あのジジイ…俺に押し付けやがった」
ガリガリと頭を掻きながら舌打ちする男を、改めて見る。やっぱり、誰かに似ている。誰に……
あっ、そうか。
爺様だ。フルルクスの爺様にそっくりなんだこの人。爺様を若くすると、丁度こんな感じになるのでは?と、いうことは。
この男は爺様の身内。息子か、孫ってとこか?
「あの、フルルクスさんの身内の方ですよね?この部屋は貴方の部屋だったんですね。すみません、勝手に使ったりして」
とにかく、人の部屋だと分かっていたのに使ったのだ。侘びておこう。
「前半ハズレ。後半の言葉は受け取っとく。この部屋以外ならどこを使っても構わねえから、とっとと出ていけ」
清々しいほどに、傍若無人な物言いだな。遠慮するのが馬鹿らしくなってきた。
「いろいろ、気になるんですけど?」
「テメエには関係ねえ」
「本当に?フルルクスさんがこの部屋に私を通したのって、貴方に話を聞けってことなのでは?」
「ジジイの意図なんか知るかよ」
「そんなこと言わないでください。困ってるんです。今日のことは、意味が解らなすぎるんです!」
「うるせえ奴だな。……ま、そうなるわな」
「同意するなら、話してください!洗いざらい!なにか知ってるんでしょう?」
「……急に強気になりやがったな」
男がガリガリと、再び頭を掻く。
「話してくださいっ」
ずいっと、前のめりになる。
「……チッ。長えぞ?」
「望むところです」
「上等だ。まず先に名乗っとく。俺の名は、フルルクス・シン」
「え?爺様と同じ名前?ということは…二世?三世?でも身内ではないって、さっき……」
「ああ、違う。本人だ。俺とジジイは同一人物ってヤツだ」
…確かに、長くなりそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる