白雪日記

ふたあい

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100日目(1)

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 私はこの日を、生涯忘れないだろう。

 すでに生涯は一度、終えてしまっているけども。元より、忘れることなどできない身だとしてもーー

 忘れえぬ一日となったその日は、早朝、自室の扉に挟まっていた手紙から始まった。私はそれを、目覚めてすぐに見つけた。淡い、淡い、萌黄色の封筒は、しっかりと差し込まれ、扉から飛び出していた。

 差出人はメルミルだった。

   ✢

 学術塔の裏手は鬱蒼としていて、ちょっとした森と言える。技術塔敷地と違い、畑や倉庫、その他の施設といったたぐいがまったく無いためだ。宛てがわれている敷地面積がほぼ変わらないため、違いが如実に表れていた。

 その森を歩いて行った。

 奥に進むと、枝に赤いリボンの結ばれた木があった。「森の中央付近。目印にリボンを結んでおく」、記述通りだ。そこで会おうと、メルミルの手紙には書かれていた。
 早朝の澄んだ空気を心地良く感じながら、メルミルを待った。今日こそ逃げないで、ちゃんと話を聞かなくては。彼女の悩みをーー何故、私を避けたのかを。
 そして、できることなら力を貸したいと、伝えよう。
 なかなか来ない。少し早すぎただろうか?仕事前の時間に、とのことだったけれど。
 ふと、枝のリボンを見やる。
 僅かに目線を上げたほどの高さに結んであるそれは、よく見ると以前メルミルの髪に結ばれていたものだということが判った。記憶にあった。金色の巻き毛に、とてもよく似合っていた。なんとなく、手を伸ばす。

 視界が歪んだ。

   ✢

 気がつくと、粗末な小屋の中にいた。

 どうなっている?

 一瞬前まで、学術塔裏の森にいたはずなのに?視界が歪んで瞬きをしたら、ここにいた。
 軽いめまいを覚えながら、小屋内を見回す。木製のテーブルに椅子、ベッドがあるだけ。生活用品はなにもない。もちろん、生活している様子も。

 ここはどこだろう?

 一つだけある小さな窓の外を見ると、緑が広がっていた。同じ森の中なのだろうか?
 ふらりと扉へ足を向ける。とにかく外に出よう。そう思い、取っ手に手をかけようとした時だった。
 先にその扉が開いた。

「えっ!?」
「ノーツ!」

 私の声と、扉を開けた人物の怒鳴り声とが重なる。ぽかんと開いた口を塞ぐことも忘れ、その人物を凝視した。
 次から次へと、わけが解らないことが続く。どうなっている?扉を開けて、私の前に立っていたのはーー

「ガッサ班長?」
 フィルだった。何故?
「シロ?」
 フィルの方も私に驚いているよう。いや、それよりも。今、彼はなんと言った?ノーツの名を呼ばなかったか?

 それではやはり、私と主上の予想はーー

 パクパクと口を動かし何度か喘いで、ようやく言葉を紡いだ。
「どうしてガッサ班長がここに?」
「それはこちらの台詞だ。何故、シロがここにいる?」
 フィルは訝しげにこちらを見る。え?どういうこと?そもそも、ここはどこ?この小屋はなに?
「私…は…メルミルから、手紙をもらって…。学術塔の裏で、会うはずだったんですけど…」
 へどもど。どっちが怪しいのか、これでは分からない。
「メルミル?」
 フィルは面食らった顔をする。それからしばらく黙り、考え込んだかと思うと突然、表情を変えた。
 酷くショックな、まるで雷が落ちた衝撃でも受けたかのように。
「あの?ガッサ班長?」
 不安がよぎる。
「出るんだ!シロ!」
 フィルが叫んだ。
「え?」
「いいから!早くこの小屋からーー」
 私の手を引きかけたフィルの手が、急かす声がーー遠くなった。
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