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100日目(6)
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気が付くと、真っ白な空間にいた。本当に白いだけ。上も下も前も後ろもあったものではない、そんな概念すら存在しない場所。
これはーー
私はついに死んだのか?
両の指先を合わせ、唇に軽く触れる。考えごとをする時、たまにする仕草。ふと、その指先の変化に気付き驚いた。いや、変化というのは間違いだ。
戻ったーーこれが正しい。
私は元に戻っていた。そう!私!白雪ではなく、生前の、いい加減歳をとった、冴えない、目立たない、おまけで見積もって十人並みだろうーー私だ。
黒い髪、黒い目、そして黄色い肌。あ、やだな、親指の爪のトコ逆剥けになってる。こんなところまで、ご丁寧に戻らなくてもいいのに。
不意に目の前が明るくなったーーような気がした。
影すら存在しない白い世界で、明るさを感じ取るなんておかしなものだ。そう思いつつ、自身のつま先を確認していた私は、顔を上げる。
そこにはーー
白雪が立っていた。
「白雪!」
声に出して、初めてその名を呼んだ。
鏡ではない。私は私に戻り、白雪が目の前にいる。なにがどうなっているのか解らないけれど、こうして白雪と向き合っているなんて感慨深い。やっぱり、ここはあの世だろうか?
ニコリと、白雪が微笑んだ。
可愛い!超が付くくらい!私が笑っていた時とは大違い。中身というのは、本当に大切なのだ!
「あの…白雪?」
どぎまぎする。
私の呼びかけになにも答えず、白雪はただ微笑む。それからゆっくりと、自身の胸に両手を当てて、次にまたゆっくりと、右手だけを前に突き出した。
すべての動作がそうだった。ゆっくりと。
白雪は前に出した右手の人差し指を立て、宙に術式を綴り始める。私は身じろぎもせず、それを見守った。何故だが解らないけれど、そうする必要があると思えたのだ。
やがて、術式を綴る指の動きが止まった。
「あ、完成?」
首を傾げて問う。
白雪は笑顔だけで答えてくれた。どうやら術式は完成したらしい。私と白雪の立つ間に、金色の文字の羅列が浮かび上がっている。見慣れた文字の列だった。これは、白雪の胸に刻まれた術式そのもの。
本当に不思議な光景だ。術式とは、どんな仕組みなのだろう?改めて思う。
眺めていると、術式は少しずつ円を描くように形を変え、一つの魔方陣となったかと思うと、スッと白雪の胸の辺りに吸い込まれるように消えていった。
「あ…」
消えてしまった。これは、なにを意味するのだろう?白雪を見る。彼女は変わらず微笑んでいた。だけどーー
「し、白雪?」
呼びかけの語尾が上がる。術式同様、白雪自身も消えかけていた。輪郭がぼやけていく。周囲の白に、白雪の白が同化していく。
「え?ま、待って!白雪…」
消えかける白雪の、唇が動いた。
「……!?駄目!待って、白雪ーー」
後にはなにも残らない。
「行かないで……」
自身の呟きさえ、掻き消えた。
これはーー
私はついに死んだのか?
両の指先を合わせ、唇に軽く触れる。考えごとをする時、たまにする仕草。ふと、その指先の変化に気付き驚いた。いや、変化というのは間違いだ。
戻ったーーこれが正しい。
私は元に戻っていた。そう!私!白雪ではなく、生前の、いい加減歳をとった、冴えない、目立たない、おまけで見積もって十人並みだろうーー私だ。
黒い髪、黒い目、そして黄色い肌。あ、やだな、親指の爪のトコ逆剥けになってる。こんなところまで、ご丁寧に戻らなくてもいいのに。
不意に目の前が明るくなったーーような気がした。
影すら存在しない白い世界で、明るさを感じ取るなんておかしなものだ。そう思いつつ、自身のつま先を確認していた私は、顔を上げる。
そこにはーー
白雪が立っていた。
「白雪!」
声に出して、初めてその名を呼んだ。
鏡ではない。私は私に戻り、白雪が目の前にいる。なにがどうなっているのか解らないけれど、こうして白雪と向き合っているなんて感慨深い。やっぱり、ここはあの世だろうか?
ニコリと、白雪が微笑んだ。
可愛い!超が付くくらい!私が笑っていた時とは大違い。中身というのは、本当に大切なのだ!
「あの…白雪?」
どぎまぎする。
私の呼びかけになにも答えず、白雪はただ微笑む。それからゆっくりと、自身の胸に両手を当てて、次にまたゆっくりと、右手だけを前に突き出した。
すべての動作がそうだった。ゆっくりと。
白雪は前に出した右手の人差し指を立て、宙に術式を綴り始める。私は身じろぎもせず、それを見守った。何故だが解らないけれど、そうする必要があると思えたのだ。
やがて、術式を綴る指の動きが止まった。
「あ、完成?」
首を傾げて問う。
白雪は笑顔だけで答えてくれた。どうやら術式は完成したらしい。私と白雪の立つ間に、金色の文字の羅列が浮かび上がっている。見慣れた文字の列だった。これは、白雪の胸に刻まれた術式そのもの。
本当に不思議な光景だ。術式とは、どんな仕組みなのだろう?改めて思う。
眺めていると、術式は少しずつ円を描くように形を変え、一つの魔方陣となったかと思うと、スッと白雪の胸の辺りに吸い込まれるように消えていった。
「あ…」
消えてしまった。これは、なにを意味するのだろう?白雪を見る。彼女は変わらず微笑んでいた。だけどーー
「し、白雪?」
呼びかけの語尾が上がる。術式同様、白雪自身も消えかけていた。輪郭がぼやけていく。周囲の白に、白雪の白が同化していく。
「え?ま、待って!白雪…」
消えかける白雪の、唇が動いた。
「……!?駄目!待って、白雪ーー」
後にはなにも残らない。
「行かないで……」
自身の呟きさえ、掻き消えた。
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