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二年目
生命月1日(1)
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ちょうど一年前のこと。この日は私がここへ来た、記念すべき日だ。
神様が生命を創ったとされる月の一日目。おそらく偶然ではないだろう。錬金術師ディルモア・ノーツは、この日を選んだのだ。自らが神となったつもりで。
フン。ちゃんちゃら可笑しい。片腹痛い。鼻で笑ってやる。フッフーンだ。
人造人間ーーホムンクルス。
イカれた錬金術師の生み出した、狂気の産物。私の魂は死後、そんな器を得た。イカれた錬金術師の付け焼き刃的な術によって、他の世界より召喚され。
元々そこに宿っていた魂は、誰にもその存在が知れぬほどに儚く、弱く、私に己の身体を託し、消えた。
そして私は、ここに存在する。可憐な少女、白雪の姿で。
一年か。早いなあ…
✢
「よう、シロ。今日で一歳だって?お祓いはしたか?」
朝一番。親衛塔へ足を運ぶ私に、威勢のいい声がかかった。
「おはよう。それはまだ。今日、仕事を終えてから神殿に行こうって、アケイルさんが言ってた。それと…一応、私は十七歳だから。表向き」
「へえ、わざわざわ神殿へ?念の入ったことだ。しかし…フフ、そうだな。そのナリで『一歳になりました』なんて言ったら、神官がひっくり返っちまうもんな」
「そうだね。でも、十七歳っていうのもイマイチ、ピンとこないんだよね。あくまで推定なだけに」
「ん…」
マジマジと目を向けられる。
「え?なに?」
「ま、妥当なんじゃねえか?十七ってのは。ちょ~っとばかりチビで、もう少し幼く言っても、通りそうだけどよ」
「身長と歳は、関係ないでしょ」
「そうだな。わりい、わりい」
アハハと、相手は大口を開けて笑う。
つられて私も笑った。
カリメラと話すといつもこう。なんだか、朗らかな気持ちになる。もう少し立ち話を、していたいところなのだけれどーー
「じゃあね、カリメラ。また工房に顔を出すね」
近衛としての、お勤めが待っている。遅刻は拙い。
「あ、おい。待てよ、シロ。これをーー」
カリメラが、なにかを放り投げてきた。
「え?」
「酸っぱいのがいいって、言ってただろ?」
放られたものを、受け取って確かめる。
「あ、これ!わわ、ありがとう」
「いいってことよ。結構、評判良かった。斬新なアイデア、また頼むな」
破顔一笑。そのままカリメラは、技術塔へ足を向け去って行った。
カリメラ・ハルベラは、白銀城の技術士である。なにを専門にしているかと言うとーーお菓子。
技術士という言い方は若干、変に聞こえるかもしれないけれど、技術塔に勤める職人は『技術士』と、一括りに呼ばれているのでこれでいい。
要はパティシエーーいや、パティシエールだ。
わざわざ訂正した。そう。カリメラは女の子だ。話し言葉だけだと、男にしか思えなくても。一応…というのは失礼か。あんな綺麗な子に対して。
十八歳。表向き十七歳で通すこととなった、私より一つ上。褐色の肌にチョコレート色の髪。吸い込まれそうに大きな、琥珀の瞳が印象的な美人さんだ。
その男言葉に興味を惹かれ、話に注意深く耳を傾けているうちに、気付けば親しくなっていた。
私の行動範囲は、以前より確実に広がっている。今では、技術塔の出入りは自由だ。そこにいる人たちとも、いくらか顔見知りとなった。
そんなカリメラが、去り際に私へ向けて放ったもの。それは赤く透き通る、飴玉の詰められた瓶だった。
神様が生命を創ったとされる月の一日目。おそらく偶然ではないだろう。錬金術師ディルモア・ノーツは、この日を選んだのだ。自らが神となったつもりで。
フン。ちゃんちゃら可笑しい。片腹痛い。鼻で笑ってやる。フッフーンだ。
人造人間ーーホムンクルス。
イカれた錬金術師の生み出した、狂気の産物。私の魂は死後、そんな器を得た。イカれた錬金術師の付け焼き刃的な術によって、他の世界より召喚され。
元々そこに宿っていた魂は、誰にもその存在が知れぬほどに儚く、弱く、私に己の身体を託し、消えた。
そして私は、ここに存在する。可憐な少女、白雪の姿で。
一年か。早いなあ…
✢
「よう、シロ。今日で一歳だって?お祓いはしたか?」
朝一番。親衛塔へ足を運ぶ私に、威勢のいい声がかかった。
「おはよう。それはまだ。今日、仕事を終えてから神殿に行こうって、アケイルさんが言ってた。それと…一応、私は十七歳だから。表向き」
「へえ、わざわざわ神殿へ?念の入ったことだ。しかし…フフ、そうだな。そのナリで『一歳になりました』なんて言ったら、神官がひっくり返っちまうもんな」
「そうだね。でも、十七歳っていうのもイマイチ、ピンとこないんだよね。あくまで推定なだけに」
「ん…」
マジマジと目を向けられる。
「え?なに?」
「ま、妥当なんじゃねえか?十七ってのは。ちょ~っとばかりチビで、もう少し幼く言っても、通りそうだけどよ」
「身長と歳は、関係ないでしょ」
「そうだな。わりい、わりい」
アハハと、相手は大口を開けて笑う。
つられて私も笑った。
カリメラと話すといつもこう。なんだか、朗らかな気持ちになる。もう少し立ち話を、していたいところなのだけれどーー
「じゃあね、カリメラ。また工房に顔を出すね」
近衛としての、お勤めが待っている。遅刻は拙い。
「あ、おい。待てよ、シロ。これをーー」
カリメラが、なにかを放り投げてきた。
「え?」
「酸っぱいのがいいって、言ってただろ?」
放られたものを、受け取って確かめる。
「あ、これ!わわ、ありがとう」
「いいってことよ。結構、評判良かった。斬新なアイデア、また頼むな」
破顔一笑。そのままカリメラは、技術塔へ足を向け去って行った。
カリメラ・ハルベラは、白銀城の技術士である。なにを専門にしているかと言うとーーお菓子。
技術士という言い方は若干、変に聞こえるかもしれないけれど、技術塔に勤める職人は『技術士』と、一括りに呼ばれているのでこれでいい。
要はパティシエーーいや、パティシエールだ。
わざわざ訂正した。そう。カリメラは女の子だ。話し言葉だけだと、男にしか思えなくても。一応…というのは失礼か。あんな綺麗な子に対して。
十八歳。表向き十七歳で通すこととなった、私より一つ上。褐色の肌にチョコレート色の髪。吸い込まれそうに大きな、琥珀の瞳が印象的な美人さんだ。
その男言葉に興味を惹かれ、話に注意深く耳を傾けているうちに、気付けば親しくなっていた。
私の行動範囲は、以前より確実に広がっている。今では、技術塔の出入りは自由だ。そこにいる人たちとも、いくらか顔見知りとなった。
そんなカリメラが、去り際に私へ向けて放ったもの。それは赤く透き通る、飴玉の詰められた瓶だった。
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