白雪日記

ふたあい

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二年目

生命月1日(3)

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 マッド白魔術師は、満面の笑みを浮かべた。
「待ってたよ~、シ~ロ~!」
 思わず後ずさる。この人がこんな顔をする時は、ろくなことを考えていない。時間を割いて、わざわさ白魔術研究室になど、足を運ぶのではなかった。
「なんの用ですか、?呼んでいると聞きましたが、急ぎですか?」
 前に立つ男が近づいた分、更に一歩、後ろへ下がる。
「うん、うん。実はさ…できたんだよ、新しいの」
 活き活きと目を輝かせ、相手は後ろ手に持っていたものを、私の鼻先に突き出した。
「あの…?」
「じゃ~ん!これ!新、白、薬!あ、そっちの今期予算案、陛下に持って行って。色気でもなんでも振りまいて、ゴリ押しして許可を取っといてよ。それでねーー」

「え?ちよっと、ライトリィさんっ」

 放っておいたら脈絡もクソもなく、捲し立てられるだろう言葉を遮った。
「師、匠!」
「……すみません。……

 はあ…。盛大にため息をついた。心の中で。

 『師匠』こと、ライトリィ・イーウィー。白銀城筆頭白魔術師。実験大好き、危ないマッド白魔術師。なんの因果で、私は彼の弟子などしているのだろう?

 明白である。

 すべては、意図せず大量に得てしまった式熱のためだ。
 この世界には、式術と言われるものがある。錬金術、召喚術、白黒魔術の総称で、要は魔法のようなものだ。
 この式術を扱うには、特殊なエネルギーを必要としている。それが式熱であり、うっかりこの身に取り込んでしまったものだった。
 流れ星として落ちてくる、『星の雫』と呼ばれる式熱は、貴重なものである。式術を使えない者が、多量に持つべきではない。だけどすでに手放せなく、式術として消費するしかない。
 ならばと、マッドが私の式術の師匠を買って出たのだ。…それはもう嬉しそうに。その顔には「ホムンクルスで新術の実験が行えるぞ」という、危ない思想がありありと表れていた。以来、いろいろ…
 はあ…。ため息。
 だけど、悪いことばかりではない。なんとかこの一年で、擦り傷程度は自分で治せるようになったし、おそらく私にしか使えないだろうという、奥の手も教わった。ただ、この奥の手と言われるものは…使う機会のないことを祈るばかりなのだが。

「これはね、嘘がつけなくなる薬なんだ」

 手のひらに乗せられた、白い小さな粒。いわゆる錠剤を、己の目線まで持ち上げて、支障ーーではなかった、師匠は新しい白薬の説明を始める。
 白薬ーーそれは白魔術に錬金術を応用した、飲み薬のことだ。決して、美白のための薬などではない。念のため。師匠は半年前から、これの研究に凝っている。
 生命が持つ治癒力を飛躍的に高め、病気、怪我を治療する白魔術を錬金術によって内服薬へと転化させ、体内の内側から術を施そうという試みだ。これがあれば、その場に術者がいなくても術を受けられるというメリットがあり、白魔術研究者のみならず、医療技術者の間でも注目を集めている、とても有意義な研究なのだ、がーー

「ーーで、人の伝達神経に作用して、本当のことを口にする、というわけ」

 私が努めて思考を飛ばしている間も、師匠は滔々と語っていた。
「ああ、つまり自白剤ってことですか」
 それ、治癒は関係ないから。師匠の白魔術は、解ってはいたけれど暴走しまくりである。
「自白剤!そう、それ!ピッタリな呼び方だね。それでさあ、シロ…」
 ニッコリと。

 ギクり。

 悪寒が走った。嫌な予感。
「……なんですか?」
「他の人ではもう試したんだ。でね?是非、君でも試したい。なにせ君ときたらこの白薬実験、必ずと言っていいほど普通とは違う反応を見せてくれるだろ?本当、試し甲斐があるよ。ね、だからコレ、さっそく飲んでみて?」
 いや、もう本当。歯に衣着せぬというか、気遣い皆無というか…私が普通ではないとハッキリ言い切ってしまうこの人のそういうところ、嫌いではないのだけどね…。
 すでに試されたという気の毒な人は誰だろう?と、頭の隅で掠めたが、それどころではない。我が身に危険が迫っている。他の白魔術と違い、白薬は私には非常に危険な代物だ。そう認識している。

 一気に研究室の扉まで退いた。

「師匠、勘弁してください。この間のこと、忘れたんですか?」
「大げさだなあ。命に別条はないよ、それは保証するから、ね?」
 ね、ではない!
 脇目も振らず、一目散にその場から逃げ出した。
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